説明

新規SpoxazomicinA物質及びその製造法

【課題】トリパノソーマ原虫の増殖を阻害する物質の探索及びその製造法を提供する。
【解決手段】下記式(I)で表される化合物の新規Spoxazomicin A物質は、トリパノソーマ原虫の増殖を阻害する。放線菌に属する下記式Iで表されるSpoxazomicin A物質を生産する能力を有する微生物を培地で培養し、培養物中にSpoxazomicin A物質を蓄積せしめ、該培養物からSpoxazomicin A物質を採取する。
【化5】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリパノソーマ原虫の増殖阻害活性を有するため動物薬、医薬品に有効な新規Spoxazomicin A物質およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリパノソーマ症にはアフリカ地域で流行しているアフリカ睡眠病と南米地域で流行しているシャーガス病とがある。アフリカ睡眠病またはヒトアフリカトリパノソーマ症と呼ばれるトリパノソーマ症は、再興原虫感染症であり、年間推定感染者が1830万人以上で年間死亡者が約5万人に及ぶとされている。特にヒトに寄生するトリパノソーマ原虫類は、ガンビアトリパノソーマ原虫(Trypanosoma brucei gambiense)とローデシアトリパノソーマ原虫(T.b.rhodesiens)との2種類に分類され、前者は慢性睡眠病、後者は急性睡眠病を引き起こす。これらの感染症は、感染末期には中枢神経系に原虫が移行し、トリパノソーマ原虫感染者の80%以上が昏睡状態に陥り、死に至るという死亡率の高い感染症である。これらのトリパノソーマ原虫はアフリカにのみ生息するツェツェバエによって媒介される。
【0003】
さらに、ガンビアトリパノソーマ原虫及びローデシアトリパノソーマ原虫は人畜共通寄生種でもあり、ウシ、ウマ、ヒツジ等の家畜及びガゼルやヌー等の野生動物にも寄生する。これらの動物は保有宿主となるが発症しない。また、ヒトに寄生せず、家畜動物に寄生するその他のトリパノソーマ原虫も存在する。Trypanosoma亜属の原虫であるT.brucei brucei(ナガナ病)、Duttonella亜属の原虫であるT. vivax vivax(ズーマ病)等があり、これらの原虫が感染すると動物種により致死的な感染経過をたどる。これらもツェツェバエによって媒介される。
【0004】
ツェツェバエが生息する地域は、アフリカ大陸のサハラ砂漠以南の東海岸から西海岸の36カ国1,000万平方kmに及ぶ地域であり、1億5,000万頭以上の家畜動物がこれらのトリパノソーマ症の脅威に曝されている現状である。さらに、アブ、サシバエ等の吸血昆虫の機械的伝搬等により動物に感染するツェツェバエ非媒介性トリパノソーマ原虫類として、Trypanosoma亜属の原虫であるT.evansi(スーラ病)、T.equiperdum(媾疫病)等がある。特にスーラ病はアフリカ、中南米、東南アジア、中国、中近東、インド等世界的流行がみられる。スーラ病は、近年さらに流行が拡大傾向にあり、日本への侵入を最も警戒する必要がある動物トリパノソーマ症である。
【0005】
これらのトリパノソーマ原虫類に対する既存のヒトの抗トリパノソーマ原虫剤としては、過去半世紀の間、スラミン(1923年開発)、ペンタミジン(1939年開発)、メラルソプロール(1953年開発)等の古典的薬剤及びエフロニチン(1978年開発)等の化学合成医薬品が長く用いられていた。
【0006】
スラミンは、ガンビアトリパノソーマ原虫及びローデシアトリパノソーマ原虫の感染初期に有効であるが腎毒性がある。
【0007】
ペンタミジンは、ガンビアトリパノソーマ原虫の感染初期に有効であるがローデシアトリパノソーマ原虫には無効であり、血圧低下や血糖減少の副作用がある。
【0008】
砒素剤のメラルソプロールは血液脳関門を通過することにより、ガンビアトリパノソーマ原虫及びローデシアトリパノソーマ原虫の感染末期(中枢神経症)に有効であるが、中枢神経系への副作用が強いために脳症を起こす。また、メラルソプロールに対する耐性原虫株も出現している。
【0009】
エフロニチンは血液脳関門を通過することにより、メラルソプロールが効かない耐性のガンビアトリパノソーマ原虫の感染末期に有効であるが、ローデシアトリパノソーマ原虫には無効である。これらの薬剤は古く、有効性は徐々に低下している。また、動物のトリパノソーマ症の治療にはジミナゼン、スラミン、イソメタジウム、変異原性物質のホミジウム等が使用されてきた。特にこれらの薬剤が長期間大量に使用されてきたために、現在、薬剤耐性原虫が各地で出現し、これらの抗トリパノソーマ原虫剤としての有用性は著しく低下しており、大きな問題となっている。
【0010】
アフリカ睡眠病では新規な薬剤の開発の遅れから、古典的な副作用の強い既存薬剤が治療に用いられているのが現状であり、いずれも世界規模で有効な新規な薬剤等の開発が求められている。このように、既存のヒトの抗トリパノソーマ原虫剤は原虫の種類及び感染のステージによって有効性が異なるものや薬剤耐性原虫株の出現がみられるものがある。抗トリパノソーマ原虫剤として、原虫の種類及び感染のステージを問わず有効な薬剤、ローデシアトリパノソーマ原虫や感染末期(中枢神経症)に特異性のある薬剤で、しかも副作用の少ない新規な骨格を持った抗トリパノソーマ原虫剤の開発が、地球規模で望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
トリパノソーマ症はトリパノソーマ原虫が宿主細胞内で増殖することによって引き起こされる。トリパノソーマ原虫の増殖を阻害する物質はトリパノソーマ症の発症を抑えるもしくは症状を緩和する抗トリパノソーマ薬として期待される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで本発明者らは、微生物培養物中からトリパノソーマ原虫の増殖を阻害する物質の探索を続けた結果、放線菌K07−0460株の生産する新規Spoxazomicin A物質がその阻害活性を有することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明はかかる知見に基づいて完成されたものであって、下記式(I)で表される新規Spoxazomicin A物質および放線菌に属するSpoxazomicin A物質を生産する能力を有する微生物を培地で培養し、培養物中にSpoxazomicin A物質を蓄積せしめ、該培養物からSpoxazomicin A物質を採取することを特徴とするSpoxazomicin A物質の製造法である。
【0014】
【化1】

【0015】
本発明はまた、微生物がストレプトスポランギウム・エスピー(Streptosporangium sp.)K07−0460(NITE P−864)株である。本発明は更に、請求項1記載のSpoxazomicin A物質を有効成分とする抗トリパノソーマ原虫薬である。
【0016】
本発明の前記式Iで表される新規Spoxazomicin A物質を生産するために使用される菌株としては、一例として、本発明者等によってラン科植物より新たに分離されたストレプトスポランギウム・エスピー(Streptosporangium sp.)K07−0460(NITE P−864)が挙げられる。
【0017】
Streptosporangium sp.K07−0460の菌学的性状は以下の通りである。
【0018】
(I)形態的性質
本菌株は、オートミール寒天、シュークロース・硝酸塩寒天、スターチ無機塩類寒天などで良好に生育し、オートミール寒天およびシュークロース・硝酸塩寒天で胞子の着生がみられた。気菌糸の先端もしくは側生した胞子嚢柄上に直径約5μmの胞子嚢が認められ、その形態は球状である。
【0019】
(II)各種培地上での性状
イー・ビー・シャーリング(E.B.Shirling)とデー・ゴットリーブ(D.Gottlieb)の方法(インターナショナル・ジャーナル・オブ・システィマティック・バクテリオロジー、16巻、313頁、1966年)によって調べた本生産菌の培養性状を表1に示す。色調は標準色として、カラー・ハーモニー・マニュアル第4版(コンテナー・コーポレーション・オブ・アメリカ・シカゴ、1958年)を用いて決定し、色票名とともに括弧内にそのコードを併せて記した。以下は特記しない限り、27℃、2週間目の各培地における肉眼での観察の結果である。
【0020】
【表1】

【0021】
(III)生理学的諸性質
(1)メラニン色素の生成
(イ)チロシン寒天 陰性
(ロ)ペプトン・イースト・鉄寒天 陰性
(ハ)トリプトン・イースト液 陰性
(ニ)グルコース・ペプトン・ゼラチン培地(21〜23℃) 陰性
(2)硝酸塩の還元 陰性
(3)ゼラチンの液化(21〜23℃) 擬陽性
(グルコース・ペプトン・ゼラチン培地)
(4)スターチの加水分解 陽性
(5)脱脂乳の凝固(32℃) 陰性
(6)脱脂乳のペプトン化(32℃) 擬陽性
(7)生育温度範囲 13〜36℃
(8)炭素源の利用性(プリドハム・ゴトリーブ寒天培地)
利用する :D−グルコース、D−キシロース、D−マンニトール、
D−フルクトース
利用しない:L−アラビノース、ラフィノース、メリビオース、
L−ラムノース、myo−イノシトール、スクロース
(9)セルロースの分解 陰性
【0022】
(IV)細胞の化学組成
細胞壁中にメソ型のジアミノピメリン酸を含む。全菌体糖としてマジュロースを含む。主要メナキノンはMK−9(H)とMK−9(H)である。細胞壁ムラミン酸はアセチル型である。ミコール酸は含まれない。
【0023】
(V)16S rRNA遺伝子解析
16S rRNA遺伝子のうち約1400塩基の配列を決定し、DNAデータベースに登録され公開されているストレプトスポランギウム属に属する菌株およびその他の放線菌のデータを用い近隣結合法による系統解析の結果、本菌株はストレプトスポランギウム属に分類することが妥当である。
【0024】
(VI)結論
以上、本菌の菌学的性状を要約すると次のとおりである。細胞壁中のジアミノピメリン酸はメソ型、全菌体糖にはマジュロースを含む。細胞壁ムラミン酸はアセチル型で、主要メナキノンはMK−9(H)とMK−9(H)である。ミコール酸を含有しない。直径約5μmの球状の胞子嚢を形成する。コロニーは赤色の色調を呈し、メラニン色素は産生しないが、赤色の可溶性色素を産生する。
【0025】
これらの結果および16S rRNA遺伝子の解析結果から、本菌株はバージーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー、4巻、1989年に基づくストレプトスポランギウム属に属する1菌種であると判断された。なお、本菌株はストレプトスポランギウム・エスピー(Streptosporangium sp.)K07−0460として、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センターに寄託されている。寄託日は2010年1月18日であり、寄託番号は、NITE P−864である。
【0026】
Spoxazomicin A物質の理化学的性状は以下の通りである。
(1)性状:白色粉末
(2)分子量:336
(3)分子式:C1621
高速原子衝突イオン化による[M+H] 理論値(m/z)336.1445、実測値(m/z)336.1375
(4)比旋光度:[α]31=−34.3°(c=0.1、メタノール)
(5)紫外部吸収極大λmax(メタノール中):304.0nm(1.16),260.5nm(1.14),251.0nm(1.36),243.5nm(1.43),208.0nm(1.98)に極大吸収を有する。なお、括弧内はlogεである。
(6)赤外部吸収極大νmax(KBr錠):3440,2921,1637,1367,1076cm−1に極大吸収を有する。
(7)プロトン核磁気共鳴スペクトル:重メタノール中の化学シフト(ppm)およびスピン結合定数(Hz)を表2に示す。
(8)カーボン核磁気共鳴スペクトル:重メタノール中の化学シフト(ppm)を表2に示す。
(9)溶剤に対する溶解性:クロロホルム、アセトン、メタノール、酢酸エチルに易溶。ノルマルヘキサン、水に難溶。
(10)呈色反応:ドラーゲンドルフ試液に陽性。
【0027】
【表2】

【0028】
表2の中で、sは一重線、dは二重線、mは多重線、Hはプロトンの数、Jはスピン結合定数(Hz)を示す。
【0029】
Spoxazomicin A物質の各種理化学的性状やスペクトルデータを検討した結果、Spoxazomicin A物質は前述の式(I)で表される構造であることが決定された。
【0030】
以上のとおり、Spoxazomicin A物質の各種理化学的性状について詳述したが、このような性質に一致する化合物はこれまで報告されておらず、Spoxazomicin A物質は新規物質であると決定した。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように本発明は新規なSpoxazomicin A物質ならびに放線菌Spoxazomicin A株からの該物質の製造法を提供する。これにより、トリパノソーマ原虫の増殖を阻害する物質及びその製造法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
本発明のSpoxazomicin A物質を製造するに当たっては、先ず放線菌に属するSpoxazomicin A物質を生産する能力を有する微生物を培養し、その培養物から分離・精製すればよい。本発明に用いることのできる菌株としては上記菌株、その変異株をはじめ、放線菌に属するSpoxazomicin A物質生産菌のすべてを使用することができる。
【0034】
上記Spoxazomicin A物質生産に適した栄養源としては、放線菌の栄養源として使用し得るものであればよい。例えば、市販のペプトン、肉エキス、コーン・スティープ・リカー、綿実粉、落花生粉、大豆粉、酵母エキス、NZ−アミン、カゼインの水和物、硝酸ソーダ、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等の窒素源、グリセリン、スターチ、グルコース、ガラクトース、マンノース等の炭水化物、あるいは脂肪等の炭素源、及び食塩、リン酸塩、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム等の無機塩を単独あるいは組み合わせて使用することができる。
【0035】
その他必要に応じて微量の金属塩、消泡剤として動・植・鉱物油等を添加することもできる。これらのものは生産菌を利用しSpoxazomicin A物質の生産の役だつものであればよく、公知の放線菌の培養材料はすべて用いることができる。またSpoxazomicin A物質の培養温度は、生産菌が発育しSpoxazomicin A物質を生産可能な範囲で適用することができる。培養は、以上に述べた条件を使用するSpoxazomicin A物質生産菌の性質に応じて適宜選択して行なうことができる。
【0036】
Spoxazomicin A物質は、培養液より酢酸エチル等の水不混和性の有機溶媒で抽出することができる。上述の抽出法に加え、脂溶性物質の採取に用いられる公知の方法、例えば吸着クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーよりのかき取り、遠心向流分配クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等を適宜組み合わせあるいは繰り返すことによって純粋に採取することができる。
【実施例1】
【0037】
液体培地で培養したストレプトスポランギウム・エスピー(Streptosporangium sp.)K07−0460(NITE P−864)より、スターチ2.4%、グルコース0.1%、ペプトン[極東製薬工業(株)製]0.3%、カツオエキス[極東製薬工業(株)製]0.3%、酵母エキス[オリエンタル酵母工業(株)製]0.5%、炭酸水素カルシウム0.4%からなる液体培地(pH 7.0)が100ml入った500ml容三角フラスコに1ml植菌し、27℃で5日間振盪培養した。得られた種培養液をスターチ2.4%、グルコース0.1%、ペプトン[極東製薬工業(株)製]0.3%、カツオエキス[極東製薬工業(株)製]0.3%、酵母エキス[オリエンタル酵母工業(株)製]0.5%、炭酸水素カルシウム0.4%からなる液体培地(pH 7.0)が100ml入った500ml容三角フラスコ60本に各1mlずつ植菌し、27℃で5日間振盪培養した。
【0038】
培養の終了した500ml容三角フラスコ60本に、それぞれ100mlのエタノールを加えて1時間激しく撹拌した。次に、その抽出液中のエタノールを減圧留去し、得られた水溶液のpHをアンモニア水で10に調整した後、3000mlの酢酸ブチル、15000mlの0.1M塩酸の順で転溶させた。転溶物のpHをアンモニア水で10に調製した後に等量の酢酸エチルで抽出し、濃縮乾固して116.9mgの粗物質1を得た。粗物質1をクロロホルムで充填したシリカゲルカラム(φ17×50mm)にのせ、クロロホルム−メタノール(100:2)で溶出し、減圧濃縮により16.6mgの粗物質2を得た。粗物質2をメタノールに溶解し、高速液体クロマトグラフィーにてオクタデシルシリルカラム(φ20×250mm)に注入し、アセトニトリル−水(45:55)で溶出した。保持時間25.1分のピークを分取し、減圧濃縮により3.9mgの下記式Iで表すSpoxazomicin A物質を白色粉末として得た。
【0039】
【化2】

【実施例2】
【0040】
本発明のSpoxazomicin A物質のin vitroでのトリパノソーマ原虫の増殖を阻害する活性について以下に述べる。
【0041】
試験原虫として、トリパノソーマ原虫のナガナ病の起因原虫Trypanosoma brucei brucei GUTat 3.1株(名古屋市立大学医学部藪義貞講師より分与可能)を用いた。原虫の維持継代は藪らの方法[Yabu Y,Koide T,Ohota N,Nose M,Ogihara Y.Continuous growth of bloodstream forms of Trypanosoma brucei brucei in axenic culture system containing a low concentration of serum. Southeast Asian J.Trop.Med.Public Health,29:591−595(1998)]を若干改変して行った。すなわち、24 well plateの各well内で、10%非動化牛胎児血清(FBS)、抗生物質及び種々の補給剤添加IMDM培地を用い、37℃にて5%CO−95%air下で培養を行い、1〜3日毎に培地交換して連続培養を行った。
【0042】
In vitroでの本化合物の抗トリパノソーマ原虫活性の測定は、乙黒らの方法[Otoguro K,Ishiyama A,Namatame M,Nishihara A,Furusawa T,Masuma R,Takahashi Y,Shiomi K,Yamada H,Omura S.Selective and Potent in vitro antitrypanosomal activities of ten microbial metabolites.J.Antibiotics,61:372−378(2008)]に従って行った。すなわち、96 well plateの各wellに前培養された原虫浮遊液(原虫数2.0×10〜2.5×10個/mlに調整)95μlと化合物溶液(50% エタノール水溶液)5μlを添加し、混和後、37℃にて5%CO−95%air下で72時間培養を行った。
【0043】
培養終了後、原虫増殖の測定は96 well plateの各wellにAlamar Blue試薬(Sigma−Aldorich社製、米国)10μlを添加、混和し、37℃にて5%CO−95%air下で3〜6時間培養後、原虫の酸化還元電位を蛍光マイクロプレートリーダー(Bio−Tek社製、米国)にて励起波長528/20nm、蛍光波長590/35nmでの蛍光強度を測定することにより、原虫の増殖の有無を比色定量した。本化合物の50%原虫増殖阻止濃度(IC50値)は蛍光マイクロプレートリーダー付属softwareのKC−4(Bio−Tek社製、米国)の化合物濃度作用曲線より求めた。本化合物と既知の抗トリパノソーマ原虫剤の培養トリパノソーマ原虫に対する抗トリパノソーマ原虫活性は下記表3に示す通りであった。
【0044】
培養トリパノソーマ原虫に対する既知の抗トリパノソーマ原虫剤としては、スラミン及びエフロニチン[(Prof. R. Brun,Swiss Tropical Institute,Basel,スイス国)より分与]がそれぞれ用いられた。
【0045】
【表3】

【0046】
本発明のSpoxazomicin A物質はT.b.b.GUTat 3.1株に対する抗トリパノソーマ原虫活性(IC50値)は0.11μg/mlであり、その活性は既存の抗トリパノソーマ原虫剤と比較すると、スラミン及びエフロニチンの14〜21倍の優れた抗トリパノソーマ原虫活性を示した。
【0047】
本発明のSpoxazomicin A物質の細胞毒性試験は、乙黒らの方法[Otoguro K,Kohana A,Manabe C,Ishiyama A,Ui H,Shiomi K,Yamada H,Omura S.Potent antimalarial activities of polyether antibiotic,X−206.J.Antibiotics,54:658−663,(2001)]に準じて行った。すなわち、宿主細胞のモデルとしてヒト胎児肺由来正常繊維芽細胞MRC−5細胞[Dr.L.Maes(Tibotec NV,Mechelen,ベルギー国)より分与可能]を10%牛胎児血清(FCS)及び抗生物質添加MEM培地にて維持、継代培養を行ったものを用いた。
【0048】
ヒト胎児肺由来正常繊維芽細胞MRC−5細胞を10%FCS−MEMにて1×10cell/mlになるように浮遊液を調整し、96 well plateに100μlを添加し混和後、37℃にて5%CO−95%air下で24時間培養を行った後、各wellに10%FCS−MEM90μlと本化合物の溶液(50% エタノール水溶液)10μlを添加し、混和後、前述のガス下で7日間培養を行った。MRC−5細胞の増殖の有無はMTT法にて比色定量した。本化合物の50%細胞増殖阻止濃度(IC50値)は化合物濃度作用曲線より求めた。その結果は下記表4の通りであった。
【0049】
【表4】

【0050】
本発明のSpoxazomicin A物質のヒト胎児肺由来正常繊維芽細胞MRC−5細胞に対する細胞毒性(IC50値)は27.84μg/mlであり、抗トリパノソーマ原虫活性との選択毒性比(細胞毒性のIC50値/抗トリパノソーマ原虫活性のIC50値)は253であり、高い選択毒性を示した。
【実施例3】
【0051】
本発明のSpoxazomicin A物質の抗菌活性は以下のとおりである。濾紙円板(アドバンテック社製、直径6mm)にSpoxazomicin A物質の1mg/mlのメタノール溶液をそれぞれ10μl浸漬し、一定時間風乾して溶媒を除去後、表5の試験菌含菌寒天平板に張り付け、35℃で24時間培養後、濾紙円板の周りにできた生育阻止円の直径を表5に示した。
【0052】
【表5】

【0053】
本発明のSpoxazomicin A物質は、表5の微生物に対してほとんど抗菌活性を示さなかった。したがって、本発明のSpoxazomicin A物質はトリパノソーマ原虫の増殖を阻害する物質あるいは抗トリパノソーマ原虫剤などの薬剤として使用し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式Iで表される化合物であることを特徴とするSpoxazomicin A物質。
【化3】

【請求項2】
放線菌に属する下記式Iで表されるSpoxazomicin A物質を生産する能力を有する微生物を培地で培養し、培養物中にSpoxazomicin A物質を蓄積せしめ、該培養物からSpoxazomicin A物質を採取することを特徴とするSpoxazomicin A物質の製造法。
【化4】

【請求項3】
放線菌に属し、Spoxazomicin A物質を生産する能力を有する微生物が、ストレプトスポランギウム・エスピー(Streptosporangium sp.)K07−0460(NITE P−864)である請求項2に記載の製造法。
【請求項4】
ストレプトスポランギウム・エスピー(Streptosporangium sp.)K07−0460(NITE P−864)株。
【請求項5】
Spoxazomicin A物質を有効成分とするトリパノソーマ原虫の増殖阻害活性物質。
【請求項6】
Spoxazomicin A物質を有効成分とする抗トリパノソーマ原虫薬。

【公開番号】特開2011−178738(P2011−178738A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46159(P2010−46159)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】