方位センサ
【課題】2軸の磁気センサは傾斜した場合、精度良く傾斜補正することができず、その結果、精度良い方位を算出できないという課題があった。
【解決手段】地磁気を検出する検出する磁気センサ1と、傾斜角を検出する傾斜センサ2と、基準となる傾斜における磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する基準中心座標算出手段3と、現在の磁気センサの出力と、現在の傾斜センサの出力と、基準中心座標算出手段の出力である中心座標とを用いて傾斜補正を行った上で、方位を算出する傾斜補正手段4とを有する構成とした。
【解決手段】地磁気を検出する検出する磁気センサ1と、傾斜角を検出する傾斜センサ2と、基準となる傾斜における磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する基準中心座標算出手段3と、現在の磁気センサの出力と、現在の傾斜センサの出力と、基準中心座標算出手段の出力である中心座標とを用いて傾斜補正を行った上で、方位を算出する傾斜補正手段4とを有する構成とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地磁気を検出し方位を算出する方位センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の走行ナビゲーションシステムや、携帯電話を用いた歩行者用ナビゲーションシステムの実用化が急速化している。このようなシステムでは、地磁気を検出し方位を求める方位センサの搭載が必須である。そして、このシステムの進行方向を検出する方位センサの誤差が、直接ナビゲーションシステムの性能に関わってくるので、このような方位センサには高い精度が要求される。
【0003】
ところで、携帯電話など、水平であることが保証されない機器に方位センサが搭載された場合、磁気センサの出力のみから方位を算出すると、傾斜による影響で大きな方位誤差が現れてしまう。このような誤差を補正するため、互いに直行するX軸、Y軸、Z軸にそれぞれ磁気センサを配した3軸の磁気センサと傾斜センサとを設けて、3軸の磁気センサからの出力値を、傾斜センサからの出力値である機器の傾斜の度合いに応じて傾斜補正することが、一般に行われている。
【0004】
しかし、上述した3軸の磁気センサと傾斜センサという構成には、それを搭載した機器の小型化に限界がある。つまり、一般に磁気センサは、検出軸方向に長い形状となることが必須であるため、垂直方向のZ軸の磁気センサが低背化の大きな妨げとなり、特に携帯電話などのように薄型化が強く要求される機器において問題となっていた。この問題を解決するため、Z軸の磁気センサを持たない、つまりX軸とY軸のみにそれぞれ磁気センサを配した2軸の磁気センサと傾斜センサとにより、2軸の磁気センサからの出力の補正を実現する方位センサが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
この方位センサは、方位センサが搭載された機器が水平状態から傾斜していくに従って、2軸の磁気センサの2次元出力軌跡が円から楕円に変化する原理を利用し、磁気センサからの出力値を補正する様に構成されている。
【0006】
図5は、2軸の磁気センサと傾斜センサを含む従来の方位センサの構成を示した図面である。
図5に示す従来の方位センサは、磁気センサ72、傾斜センサ71、CPU70、メモリ73により構成されている。そして、磁気センサ72は、直行するX軸、Y軸にそれぞれ磁気センサを配して構成することで2軸の磁気を検出する機能を、また傾斜センサ71は機器の傾斜を検出する機能を有している。そして、CPU70は、傾斜センサ71から出力される現在の機器の傾斜角により決定された、メモリ73に格納された補正情報により、現在の2軸の磁気センサの出力値を補正して、方位を演算できるようになっている。
【0007】
ここで、先に示した2軸の磁気センサの2次元出力軌跡が円から楕円に変化する原理について更に詳細に説明をする。図6は、傾き角と磁気センサの特性との関係を示した図である。なお、本図面に示すデータは、磁気センサ72(図5参照)の傾きを一定にした状態で周回した際(東西南北と向きを一回転した際の)の磁気センサからの出力値(X,Y)をプロットして結んだものである。
一般に、磁気センサ72(図5参照)の傾きに対する2次元出力軌跡は、傾きが大きくなるに従って崩れる傾向にある。つまり、同図から分かるように、0度の場合はほぼ真円の2次元出力特性になっているが、傾きが大きくなるにつれて出力値(X,Y)が真円から崩れて楕円率が1から小さくなっていることが判る。
【0008】
次に、従来の方位センサにおけるメモリ73(図5参照)に格納される補正情報について説明する。図7は、傾き角に対する補正テーブルの例を示している。
メモリ73に格納されている補正テーブルは、X値のテーブル60及びY値のテーブル61から構成されており、各傾き角に対して各方位の補正値をX値及びY値についてそれぞれ予め求めておいてテーブル化して格納されている。
【0009】
次に、上記構成を備えた方位センサの具体的な2軸の磁気センサの出力値の補正手段について説明する。図8は、従来の方位センサにおける方位の補正手段の処理を示したフローチャートである。
本フローチャートに示す様に、まず、図5で示したCPU70は、磁気センサ72からの出力A(X)、A(Y)を取り込む(S41)とともに、傾斜センサ71からの出力を取り込んで(S42)、傾斜センサ71からの傾き角度αに基づいて、図7に示した補正テーブル60、61から補正値B(X)、補正値B(Y)を求める(S43)。
【0010】
次に、上述した情報を得た後に、CPU70は次の補正計算をして(S44)、
C(X)=A(X)−B(X)
C(Y)=A(Y)−B(Y)
下記式に基づいて目的の方位角θ計算をする(S45)。
θ=tan−1(C(Y)/C(X))
【0011】
上記構成および方位演算手段によれば、Z軸の磁気センサを不要とし、2軸の磁気センサと傾斜センサを用いながらにして、機器を低背とすることができるとともに、方位センサを搭載した機器が傾斜したとしても、方位を得ることができる様になる。
【0012】
【特許文献1】特開2003−223095号公報(第7−8頁、図1、10−12)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に示した従来の方位センサは、予めテーブルに用意された補正データを基に補正しているので、現在の磁気センサからの出力値を正確に補正することができない、つまり正確な方位を得ることができないという欠点があった。
【0014】
その理由を図を用いて説明する。図9は方位センサを搭載した機器が傾斜した様子を示す図である。水平座標系であるXYZ座標に対し、機器が傾斜した場合、方位センサが検出する観測座標系はX’Y’Z ’座標となる。
【0015】
このように機器が傾斜した状態で地磁気を観測するということは、XYZ座標の地磁気ベクトルを、X’Y’Z ’座標に座標変換するこということに相当する。この図9に示すようなX軸を中心にα回転する座標変換は、
【0016】
【数1】
で表すことができる。
また、Z軸を中心にθ回転する座標変換は、
【0017】
【数2】
で表すことができる。
したがって、一定傾斜αの状態で機器を周回させて磁気センサの2次元出力軌跡は、上記式1と式2を組み合わせることにより、
【0018】
【数3】
により得ることができる。
【0019】
ここで、水平座標系すなわちXYZ座標における地磁気ベクトルを(mx,my,mz)とし、これを上記式3に代入し、X’Y’成分だけを抜き出すと、
X’= mxcosθ + my sinθ
Y’= −mx cosα sinθ + my cosα cosθ +mzsinα
となり、この2つの式を1つにまとめると、
【0020】
【数4】
となる。
式4は、一般に知られる、長軸/短軸の比がcosα、中心Y座標Oyの楕円の式である。図10はこの様子を図で表したものであり、傾斜角αを0度、45度、60度、80度と変えたときの2軸磁気センサの2次元出力軌跡を表したものである。同図に先に示した長軸a、短軸b、中心Y座標Oyを示した。
【0021】
ここで重要なことは、楕円の長軸/短軸の比は傾斜角αのみに依存しているのに対し、楕円の中心Y座標Oyは上記式4から分かるように、傾斜角αのみならず地磁気の垂直成分mzにも依存することである。すなわち、一般に地磁気は場所によって変化するものであり、機器が移動すれば式4に示したmzも変化し、それに伴って楕円の中心Y座標Oyも変化する。
【0022】
それにも関わらず、特許文献1に示した従来の方位センサは、補正テーブルに予め用意された、傾斜角のみから一義的に導かれる補正データのみを参照して、磁気センサからの出力値の補正を行っているため、正確な方位を得ることができないことは明白である。
【0023】
本発明の目的は、上記課題を解決しようとするもので、小型でありながら、なおかつ、
傾斜した場合であっても精度良く傾斜を補正し真の方位を得ることができる方位センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するため、本発明の方位センサは、基本的に下記に示す構造を採用するものである。
【0025】
本発明の方位センサは、地磁気を検出し方位を算出する方位センサであって、地磁気を検出する、直行する2軸のそれぞれに配置した磁気センサと、傾斜角を検出する傾斜センサと、基準となる傾斜における磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する基準中心座標算出手段と、現在の磁気センサの出力と、現在の傾斜センサの出力と、基準中心座標算出手段の出力である中心座標とを用いて傾斜補正を行った上で、方位を算出する傾斜補正手段と、を有することを特徴とするものである。
【0026】
また、本発明の方位センサは、前述した基準となる傾斜は、第1の傾斜と、第1の傾斜とは異なる第2の傾斜からなり、また、基準中心座標算出手段が、第1の傾斜における磁気センサの出力を記憶する第1の記憶手段と、第1の傾斜における磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する第1の中心座標算出手段と、第2の傾斜における磁気センサの出力を記憶する第2の記憶手段と、第2の傾斜における磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する第2の中心座標算出手段と、を有することを特徴とするものである。
【0027】
また、本発明の方位センサは、前述した基準中心座標算出手段が、傾斜角が第1の傾斜または第2の傾斜以外の傾斜のときには、そのまま処理を終了することを特徴とするものである。
【0028】
また、本発明の方位センサは、前述した第1の傾斜が、0度であることを特徴とするものである。
【0029】
また、本発明の方位センサは、前述した第1の記憶手段に格納した、第1の傾斜における磁気センサの出力が所定のデータ数に達した場合のみ、2次元出力軌跡の中心座標を算出することを特徴とするものである。
【0030】
また、本発明の方位センサは、前述した第2の記憶手段に格納した、第2の傾斜における複数個の磁気センサの出力(X,Y)のそれぞれが、同一X値であり、かつ非同一Y値を持つ2点が有るか否かを判断し、有ると判断した場合にのみ、2次元出力軌跡の中心座標を算出することを特徴とするものである。
【0031】
また、本発明の方位センサは、前述した傾斜補正手段が、現在の傾斜における磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する第3の中心座標算出手段と、第3の中心座標算出手段の出力により方位を算出する方位算出手段と、を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明の方位センサは、基準中心座標算出手段と傾斜補正手段を設けたことにより、精度の高い傾斜補正を行うことができ、その結果、精度の高い方位を算出できる。また、機器の低背化の大きな妨げとなっていたZ軸の磁気センサを省くことができるため、薄型機器への搭載が実現できる。さらに、Z軸の磁気センサを省くことができるため、方位センサのコストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下図面により本発明の実施の形態を詳述する。
図1は、本発明の方位センサの構成を示す図面である。図2は、図1に示した基準中心座標算出手段が行う処理を示すフローチャートである。図3は、図1に示した傾斜補正手段が行う処理を示すフローチャートである。図4は、機器の傾斜角αを0度、45度、60度、80度と変えたときの、本発明の方位センサに備える2軸の磁気センサの2次元出力軌跡を表したものである。
【0034】
[構造説明:図1]
まず、本発明の方位センサの構成について図1を用いて説明する。図1は、本発明の方位センサの構成を示す図面である。
本発明の方位センサの構成は、図1に示す様に、X軸、Y軸の2軸の磁気を検出する磁気センサ1と、機器の傾斜を検出する傾斜センサ2を有する。
【0035】
また、この方位センサは、基準となる傾斜時の磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する基準中心座標算出手段3を有する。この基準中心座標算出手段3は、第1の基準の傾斜(以下、第1の傾斜とする。)における磁気センサの出力を記憶する第1の記憶手段5と、第1の傾斜における磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する第1の中心座標算出手段6とを有する。また、第1の傾斜とは異なり、第2の基準の傾斜(以下、第2の傾斜とする。)における磁気センサの出力を記憶する第2の記憶手段7と、第2の傾斜における磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する第2の中心座標算出手段8とを有して構成される。
【0036】
また、本発明の方位センサは、現在の機器の傾斜を補正して方位を算出する傾斜補正手段4を有する。この、傾斜補正手段4は、現在の機器の傾斜における磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する第3の中心座標算出手段9と、方位を算出する方位算出手段10とを有する。
【0037】
なお、本図面における符号11は、第1の中心座標算出手段により出力される第1の基準中心座標を示し、符号12は、第2の中心座標算出手段により出力される第2の基準中心座標を示している。また、符号13は、第3の中心座標算出手段により出力される現在の傾斜中心座標を示している。また、符号14は、方位算出手段により出力される方位を示している。
【0038】
また、磁気センサ1には、一般的に知られているフラックスゲート型の磁気センサや磁気インピーダンス型の磁気センサを用いることができる。傾斜センサ2には、これも一般的に知られているピエゾ抵抗型の加速度センサや静電容量型の加速度センサを用いることができる。
【0039】
[動作説明:図1]
次に、本発明の方位センサを構成する各構成要件が果たす機能について図1を用いて説明する。
図1に示す様に、磁気センサ1は、X軸、Y軸にそれぞれ磁気センサを配して構成されて、2軸の地磁気を検出して、基準中心座標算出手段3と傾斜補正手段4とにそれぞれ出力する。
【0040】
傾斜センサ2は機器の傾斜を検出して、基準中心座標算出手段3と傾斜補正手段4とにそれぞれ出力する。基準中心座標算出手段3は、第1の記憶手段5、第2の記憶手段7、および第1の中心座標算出手段6、第2の中心座標算出手段8とにより構成されて、磁気センサ1と傾斜センサ2の出力から、基準となる傾斜(第1の傾斜または第2の傾斜)時の磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する機能を有する。
【0041】
また、傾斜補正手段4は、第3の中心座標算出手段9と方位算出手段10とから構成されて、磁気センサ1と傾斜センサ2の出力と、基準中心座標算出手段3の出力とから現在の傾斜を補正して方位14を算出する機能を有する。
【0042】
[動作説明:図2、図4]
次に、本発明の方位センサにおける基準中心座標算出手段の動作について図2、図4を用いて説明する。図2は、図1に示した基準中心座標算出手段3が行う処理を示すフローチャートである。図4は、機器の傾斜角αを0度、45度、60度、80度と変えたときの、本発明の方位センサに備える2軸の磁気センサ1の2次元出力軌跡を表したものである。
先に示したように、基準中心座標算出手段3は、2つの基準の傾斜である第1、第2の傾斜における、図1に示した磁気センサ1の2次元出力軌跡の中心座標を算出する。ここでは、第1の傾斜を0度、第2の傾斜を45度として説明するが、これに限定されるものではない。
【0043】
まず、図2に示すように、傾斜センサ2(図1参照)の出力から傾斜角を判断し(ステップS1)、もし、傾斜角が第1の傾斜である0度ならば、磁気センサ1のX、Y出力値を第1の記憶手段5に格納する(ステップS2)。
【0044】
そして、第1の記憶手段5の中のデータ数が一定数(N)に達したか判断する(ステップS3)。ここで一定数Nに達しなかった場合は、基準中心座標算出の処理を終了し、一定数Nに達した場合は、第1の記憶手段5内から3点のデータ(3点の磁気センサ1のX、Y出力値)を選択する(ステップS4)。
【0045】
そして、選択された3点を円周上に持つ円の中心座標を計算する(ステップS5)。なお、3点から円の中心座標の計算は、一般に良く知られた線形2次元連立方程式により計算できる。
【0046】
このようにして、ステップS5で求めた円の中心座標を第1の基準中心座標11(図1参照)とする。なお、ステップS4では、互いにX、Y出力値ができるだけ離れた異なる値の3点を選択するのが望ましい。これは、ステップS5で中心座標を正確に求めるためである。
【0047】
また、ステップS1で傾斜角が第2の傾斜である45度であったならば、磁気センサ1のX、Y出力値を第2の記憶手段7(図1参照)に格納する(ステップS6)。そして、第2の記憶手段7の中に、X値が同一であり、かつY値が異なる2点が存在するかを判断する(ステップS7)。上記条件を満たさなかった場合は、基準中心座標算出の処理を終了し、上記条件を満たした場合は、2点のY値の中心値を楕円中心Y座標とする。その場合は、図4に示すように、機器の傾斜角αが変化したとしても楕円中心X座標は変化しないので、ステップS5で求めた円中心X座標を採用する(ステップS8)。このようにして、ステップS8求めた楕円中心座標を第2の基準中心座標12(図1参照)を得ることができる。
なお、図2に示すステップS1で傾斜角αが第1、第2の傾斜である0度、45度以外の角度であった場合は、そのまま基準中心座標算出の処理を終了する。
【0048】
ここで示した中心座標の求め方が傾斜角0度と45度の場合とで異なるのは、0度の場合は、磁気センサ1のX、Y出力値の軌跡が正円を描くのに対し、45度の場合は楕円となるためである。それは、正円の中心座標を求める線形2次元連立方程式の計算は容易であるからである。したがって、第1の傾斜を0度とすることが望ましい。
【0049】
それに対して、演算に若干負荷が掛かることとなるが、予め設定する第1、第2の傾斜を共に0度以外とした場合でも、中心座標算出手段におけるステップS1で、第1、第2の傾斜の条件分岐を行った後は、それぞれステップS6〜S8の同じ処理を行うことで、第1の基準中心座標11と第2の基準中心座標12をそれぞれ求めることもできる。このフロー詳細は、先の説明の繰り返しとなるので、ここでの説明は割愛する。また、中心座標の求め方は、ここで示した方法に限定するものではなく、一般的に知られたニュートン法などの数値計算法を用いても良い。
【0050】
上述した機能を有する基準中心座標算出手段3によれば、本発明の方位センサは、図1に示すように、磁気センサ1と傾斜センサ2の出力が直接基準中心座標算出手段3に接続されているので、磁気センサ1と傾斜センサ2の出力を得る度に、図2で示した処理を実行することができる。従って、第1の基準中心座標11と第2の基準中心座標12は自動的に更新されて、機器を使用するユーザが場所を移動し、地磁気の垂直成分が変化した場合であっても、常に正しい基準中心座標を自動的に更新することができる。
【0051】
[動作説明:図3、図4]
次に、上記第1の基準中心座標11、第2の基準中心座標12を用いて目的の方位を得る、本発明の方位センサにおける傾斜補正手段の動作について図3、図4を用いて説明する。図3は、本発明の方位センサにおける傾斜補正手段で行う処理を示すフローチャートである。
図3に示す様に、まず、図1に示した第3の中心座標算出手段9で、現在の傾斜センサ2の出力と第1の基準中心座標11と第2の基準中心座標12とから、現在の傾斜中心座標13を算出する(ステップS9)。具体的には、図4のP0点が第1の基準中心座標11であり、P1点が第2の基準中心座標12であるから、P1点のY座標を、
P1点のY座標=mzsin(π/4) (式5)
と表す。
【0052】
ここで、現在の傾斜角をβとすると、現在の機器の傾斜の楕円中心Y座標は、
現在の機器の傾斜の楕円中心Y座標=mzsin(β) (式6)
となる。
【0053】
この式5を式6に代入することより、現在の傾斜の楕円中心Y座標は、
現在の傾斜の楕円中心Y座標=P1点のY座標/(π/4)xsin(β)(式7)
により求めることができる。
【0054】
先にも示したように、楕円中心X座標は、図4に示す様に全ての傾斜において変化しないので、各傾斜におけるX座標の値には、P1点のX座標を採用すればよい。このようにして、第3の中心座標算出手段9で、現在の傾斜中心座標13を算出することができる。
【0055】
次に、方位算出手段10において、磁気センサ1の出力であるX値、Y値から現在の傾斜中心座標13を差し引き、これを新たにX値、Y値とする(ステップS10)。そして、楕円を円変換し、磁気センサの出力であるY値を傾斜角分だけ修正する(ステップS11)。具体的には、図4から分かるように、楕円の長軸/短軸(a/b)の比は傾斜角のみに依存するので、現在の傾斜角をβとすると、Y値を1/cosβするだけで、楕円を円変換することができる。
【0056】
最後に、楕円を円変換することによって修正されたY値とX値の比から、目的の方位角θを
θ=tan−1(Y/X) (式8)
と計算することで、傾斜補正された正確な方位を求めることができる(ステップS12)。
【0057】
これまでの説明では、傾斜は一方向、すなわちX軸は傾斜しないものとして説明してきたが、もし、X軸も同時に傾斜した場合には、その2次元出力軌跡は、図4に示した楕円が原点中心に回転したものとなる。したがって、前もってX軸の検知をしたら、その傾斜の分だけ2次元の回転座標変換を行うことで、先の説明と同様な処理を行うことができる。
【0058】
このように、本発明の方位センサでは、基準中心座標算出手段と傾斜補正手段を設けているので、精度の高い傾斜補正を行うことができ、その結果、精度の高い方位を算出できる。また、低背化の大きな妨げとなっていたZ軸の磁気センサを省くことができるため、薄型機器への搭載が実現できる。さらに、Z軸の磁気センサを省くことができるため、方位センサのコストを低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の方位センサは、高精度な方位を求められる機器に適用することができる。特に、携帯型の機器に本発明の方位センサを搭載するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の方位センサの構成を示す図面である。
【図2】本発明の方位センサの基準中心座標算出手段のフローチャートである。
【図3】本発明の方位センサの傾斜補正手段のフローチャートである。
【図4】本発明の方位センサを備えた機器の傾斜によるX軸、Y軸の2軸の磁気センサの2次元出力軌跡図である。
【図5】従来の方位センサの構成を示す図面である。
【図6】傾き角と磁気センサの2次元出力軌跡を示した図である。
【図7】従来の方位センサのメモリに格納されている補正テーブルを示した図である。
【図8】従来の方位センサの補正方法の処理を示したフローチャートである。
【図9】機器が傾斜した様子を示す概念図である。
【図10】機器の傾斜によるX軸、Y軸の2軸の磁気センサの2次元出力軌跡図である。
【符号の説明】
【0061】
1 磁気センサ
2 傾斜センサ
3 基準中心座標算出手段
4 傾斜補正手段
5 第1の記憶手段
6 第1の中心座標算出手段
7 第2の記憶手段
8 第2の中心座標算出手段
9 第3の中心座標算出手段
10 方位算出手段
11 第1の基準中心座標
12 第2の基準中心座標
13 現在の傾斜中心座標
14 方位
【技術分野】
【0001】
本発明は、地磁気を検出し方位を算出する方位センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の走行ナビゲーションシステムや、携帯電話を用いた歩行者用ナビゲーションシステムの実用化が急速化している。このようなシステムでは、地磁気を検出し方位を求める方位センサの搭載が必須である。そして、このシステムの進行方向を検出する方位センサの誤差が、直接ナビゲーションシステムの性能に関わってくるので、このような方位センサには高い精度が要求される。
【0003】
ところで、携帯電話など、水平であることが保証されない機器に方位センサが搭載された場合、磁気センサの出力のみから方位を算出すると、傾斜による影響で大きな方位誤差が現れてしまう。このような誤差を補正するため、互いに直行するX軸、Y軸、Z軸にそれぞれ磁気センサを配した3軸の磁気センサと傾斜センサとを設けて、3軸の磁気センサからの出力値を、傾斜センサからの出力値である機器の傾斜の度合いに応じて傾斜補正することが、一般に行われている。
【0004】
しかし、上述した3軸の磁気センサと傾斜センサという構成には、それを搭載した機器の小型化に限界がある。つまり、一般に磁気センサは、検出軸方向に長い形状となることが必須であるため、垂直方向のZ軸の磁気センサが低背化の大きな妨げとなり、特に携帯電話などのように薄型化が強く要求される機器において問題となっていた。この問題を解決するため、Z軸の磁気センサを持たない、つまりX軸とY軸のみにそれぞれ磁気センサを配した2軸の磁気センサと傾斜センサとにより、2軸の磁気センサからの出力の補正を実現する方位センサが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
この方位センサは、方位センサが搭載された機器が水平状態から傾斜していくに従って、2軸の磁気センサの2次元出力軌跡が円から楕円に変化する原理を利用し、磁気センサからの出力値を補正する様に構成されている。
【0006】
図5は、2軸の磁気センサと傾斜センサを含む従来の方位センサの構成を示した図面である。
図5に示す従来の方位センサは、磁気センサ72、傾斜センサ71、CPU70、メモリ73により構成されている。そして、磁気センサ72は、直行するX軸、Y軸にそれぞれ磁気センサを配して構成することで2軸の磁気を検出する機能を、また傾斜センサ71は機器の傾斜を検出する機能を有している。そして、CPU70は、傾斜センサ71から出力される現在の機器の傾斜角により決定された、メモリ73に格納された補正情報により、現在の2軸の磁気センサの出力値を補正して、方位を演算できるようになっている。
【0007】
ここで、先に示した2軸の磁気センサの2次元出力軌跡が円から楕円に変化する原理について更に詳細に説明をする。図6は、傾き角と磁気センサの特性との関係を示した図である。なお、本図面に示すデータは、磁気センサ72(図5参照)の傾きを一定にした状態で周回した際(東西南北と向きを一回転した際の)の磁気センサからの出力値(X,Y)をプロットして結んだものである。
一般に、磁気センサ72(図5参照)の傾きに対する2次元出力軌跡は、傾きが大きくなるに従って崩れる傾向にある。つまり、同図から分かるように、0度の場合はほぼ真円の2次元出力特性になっているが、傾きが大きくなるにつれて出力値(X,Y)が真円から崩れて楕円率が1から小さくなっていることが判る。
【0008】
次に、従来の方位センサにおけるメモリ73(図5参照)に格納される補正情報について説明する。図7は、傾き角に対する補正テーブルの例を示している。
メモリ73に格納されている補正テーブルは、X値のテーブル60及びY値のテーブル61から構成されており、各傾き角に対して各方位の補正値をX値及びY値についてそれぞれ予め求めておいてテーブル化して格納されている。
【0009】
次に、上記構成を備えた方位センサの具体的な2軸の磁気センサの出力値の補正手段について説明する。図8は、従来の方位センサにおける方位の補正手段の処理を示したフローチャートである。
本フローチャートに示す様に、まず、図5で示したCPU70は、磁気センサ72からの出力A(X)、A(Y)を取り込む(S41)とともに、傾斜センサ71からの出力を取り込んで(S42)、傾斜センサ71からの傾き角度αに基づいて、図7に示した補正テーブル60、61から補正値B(X)、補正値B(Y)を求める(S43)。
【0010】
次に、上述した情報を得た後に、CPU70は次の補正計算をして(S44)、
C(X)=A(X)−B(X)
C(Y)=A(Y)−B(Y)
下記式に基づいて目的の方位角θ計算をする(S45)。
θ=tan−1(C(Y)/C(X))
【0011】
上記構成および方位演算手段によれば、Z軸の磁気センサを不要とし、2軸の磁気センサと傾斜センサを用いながらにして、機器を低背とすることができるとともに、方位センサを搭載した機器が傾斜したとしても、方位を得ることができる様になる。
【0012】
【特許文献1】特開2003−223095号公報(第7−8頁、図1、10−12)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に示した従来の方位センサは、予めテーブルに用意された補正データを基に補正しているので、現在の磁気センサからの出力値を正確に補正することができない、つまり正確な方位を得ることができないという欠点があった。
【0014】
その理由を図を用いて説明する。図9は方位センサを搭載した機器が傾斜した様子を示す図である。水平座標系であるXYZ座標に対し、機器が傾斜した場合、方位センサが検出する観測座標系はX’Y’Z ’座標となる。
【0015】
このように機器が傾斜した状態で地磁気を観測するということは、XYZ座標の地磁気ベクトルを、X’Y’Z ’座標に座標変換するこということに相当する。この図9に示すようなX軸を中心にα回転する座標変換は、
【0016】
【数1】
で表すことができる。
また、Z軸を中心にθ回転する座標変換は、
【0017】
【数2】
で表すことができる。
したがって、一定傾斜αの状態で機器を周回させて磁気センサの2次元出力軌跡は、上記式1と式2を組み合わせることにより、
【0018】
【数3】
により得ることができる。
【0019】
ここで、水平座標系すなわちXYZ座標における地磁気ベクトルを(mx,my,mz)とし、これを上記式3に代入し、X’Y’成分だけを抜き出すと、
X’= mxcosθ + my sinθ
Y’= −mx cosα sinθ + my cosα cosθ +mzsinα
となり、この2つの式を1つにまとめると、
【0020】
【数4】
となる。
式4は、一般に知られる、長軸/短軸の比がcosα、中心Y座標Oyの楕円の式である。図10はこの様子を図で表したものであり、傾斜角αを0度、45度、60度、80度と変えたときの2軸磁気センサの2次元出力軌跡を表したものである。同図に先に示した長軸a、短軸b、中心Y座標Oyを示した。
【0021】
ここで重要なことは、楕円の長軸/短軸の比は傾斜角αのみに依存しているのに対し、楕円の中心Y座標Oyは上記式4から分かるように、傾斜角αのみならず地磁気の垂直成分mzにも依存することである。すなわち、一般に地磁気は場所によって変化するものであり、機器が移動すれば式4に示したmzも変化し、それに伴って楕円の中心Y座標Oyも変化する。
【0022】
それにも関わらず、特許文献1に示した従来の方位センサは、補正テーブルに予め用意された、傾斜角のみから一義的に導かれる補正データのみを参照して、磁気センサからの出力値の補正を行っているため、正確な方位を得ることができないことは明白である。
【0023】
本発明の目的は、上記課題を解決しようとするもので、小型でありながら、なおかつ、
傾斜した場合であっても精度良く傾斜を補正し真の方位を得ることができる方位センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するため、本発明の方位センサは、基本的に下記に示す構造を採用するものである。
【0025】
本発明の方位センサは、地磁気を検出し方位を算出する方位センサであって、地磁気を検出する、直行する2軸のそれぞれに配置した磁気センサと、傾斜角を検出する傾斜センサと、基準となる傾斜における磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する基準中心座標算出手段と、現在の磁気センサの出力と、現在の傾斜センサの出力と、基準中心座標算出手段の出力である中心座標とを用いて傾斜補正を行った上で、方位を算出する傾斜補正手段と、を有することを特徴とするものである。
【0026】
また、本発明の方位センサは、前述した基準となる傾斜は、第1の傾斜と、第1の傾斜とは異なる第2の傾斜からなり、また、基準中心座標算出手段が、第1の傾斜における磁気センサの出力を記憶する第1の記憶手段と、第1の傾斜における磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する第1の中心座標算出手段と、第2の傾斜における磁気センサの出力を記憶する第2の記憶手段と、第2の傾斜における磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する第2の中心座標算出手段と、を有することを特徴とするものである。
【0027】
また、本発明の方位センサは、前述した基準中心座標算出手段が、傾斜角が第1の傾斜または第2の傾斜以外の傾斜のときには、そのまま処理を終了することを特徴とするものである。
【0028】
また、本発明の方位センサは、前述した第1の傾斜が、0度であることを特徴とするものである。
【0029】
また、本発明の方位センサは、前述した第1の記憶手段に格納した、第1の傾斜における磁気センサの出力が所定のデータ数に達した場合のみ、2次元出力軌跡の中心座標を算出することを特徴とするものである。
【0030】
また、本発明の方位センサは、前述した第2の記憶手段に格納した、第2の傾斜における複数個の磁気センサの出力(X,Y)のそれぞれが、同一X値であり、かつ非同一Y値を持つ2点が有るか否かを判断し、有ると判断した場合にのみ、2次元出力軌跡の中心座標を算出することを特徴とするものである。
【0031】
また、本発明の方位センサは、前述した傾斜補正手段が、現在の傾斜における磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する第3の中心座標算出手段と、第3の中心座標算出手段の出力により方位を算出する方位算出手段と、を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明の方位センサは、基準中心座標算出手段と傾斜補正手段を設けたことにより、精度の高い傾斜補正を行うことができ、その結果、精度の高い方位を算出できる。また、機器の低背化の大きな妨げとなっていたZ軸の磁気センサを省くことができるため、薄型機器への搭載が実現できる。さらに、Z軸の磁気センサを省くことができるため、方位センサのコストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下図面により本発明の実施の形態を詳述する。
図1は、本発明の方位センサの構成を示す図面である。図2は、図1に示した基準中心座標算出手段が行う処理を示すフローチャートである。図3は、図1に示した傾斜補正手段が行う処理を示すフローチャートである。図4は、機器の傾斜角αを0度、45度、60度、80度と変えたときの、本発明の方位センサに備える2軸の磁気センサの2次元出力軌跡を表したものである。
【0034】
[構造説明:図1]
まず、本発明の方位センサの構成について図1を用いて説明する。図1は、本発明の方位センサの構成を示す図面である。
本発明の方位センサの構成は、図1に示す様に、X軸、Y軸の2軸の磁気を検出する磁気センサ1と、機器の傾斜を検出する傾斜センサ2を有する。
【0035】
また、この方位センサは、基準となる傾斜時の磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する基準中心座標算出手段3を有する。この基準中心座標算出手段3は、第1の基準の傾斜(以下、第1の傾斜とする。)における磁気センサの出力を記憶する第1の記憶手段5と、第1の傾斜における磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する第1の中心座標算出手段6とを有する。また、第1の傾斜とは異なり、第2の基準の傾斜(以下、第2の傾斜とする。)における磁気センサの出力を記憶する第2の記憶手段7と、第2の傾斜における磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する第2の中心座標算出手段8とを有して構成される。
【0036】
また、本発明の方位センサは、現在の機器の傾斜を補正して方位を算出する傾斜補正手段4を有する。この、傾斜補正手段4は、現在の機器の傾斜における磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する第3の中心座標算出手段9と、方位を算出する方位算出手段10とを有する。
【0037】
なお、本図面における符号11は、第1の中心座標算出手段により出力される第1の基準中心座標を示し、符号12は、第2の中心座標算出手段により出力される第2の基準中心座標を示している。また、符号13は、第3の中心座標算出手段により出力される現在の傾斜中心座標を示している。また、符号14は、方位算出手段により出力される方位を示している。
【0038】
また、磁気センサ1には、一般的に知られているフラックスゲート型の磁気センサや磁気インピーダンス型の磁気センサを用いることができる。傾斜センサ2には、これも一般的に知られているピエゾ抵抗型の加速度センサや静電容量型の加速度センサを用いることができる。
【0039】
[動作説明:図1]
次に、本発明の方位センサを構成する各構成要件が果たす機能について図1を用いて説明する。
図1に示す様に、磁気センサ1は、X軸、Y軸にそれぞれ磁気センサを配して構成されて、2軸の地磁気を検出して、基準中心座標算出手段3と傾斜補正手段4とにそれぞれ出力する。
【0040】
傾斜センサ2は機器の傾斜を検出して、基準中心座標算出手段3と傾斜補正手段4とにそれぞれ出力する。基準中心座標算出手段3は、第1の記憶手段5、第2の記憶手段7、および第1の中心座標算出手段6、第2の中心座標算出手段8とにより構成されて、磁気センサ1と傾斜センサ2の出力から、基準となる傾斜(第1の傾斜または第2の傾斜)時の磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する機能を有する。
【0041】
また、傾斜補正手段4は、第3の中心座標算出手段9と方位算出手段10とから構成されて、磁気センサ1と傾斜センサ2の出力と、基準中心座標算出手段3の出力とから現在の傾斜を補正して方位14を算出する機能を有する。
【0042】
[動作説明:図2、図4]
次に、本発明の方位センサにおける基準中心座標算出手段の動作について図2、図4を用いて説明する。図2は、図1に示した基準中心座標算出手段3が行う処理を示すフローチャートである。図4は、機器の傾斜角αを0度、45度、60度、80度と変えたときの、本発明の方位センサに備える2軸の磁気センサ1の2次元出力軌跡を表したものである。
先に示したように、基準中心座標算出手段3は、2つの基準の傾斜である第1、第2の傾斜における、図1に示した磁気センサ1の2次元出力軌跡の中心座標を算出する。ここでは、第1の傾斜を0度、第2の傾斜を45度として説明するが、これに限定されるものではない。
【0043】
まず、図2に示すように、傾斜センサ2(図1参照)の出力から傾斜角を判断し(ステップS1)、もし、傾斜角が第1の傾斜である0度ならば、磁気センサ1のX、Y出力値を第1の記憶手段5に格納する(ステップS2)。
【0044】
そして、第1の記憶手段5の中のデータ数が一定数(N)に達したか判断する(ステップS3)。ここで一定数Nに達しなかった場合は、基準中心座標算出の処理を終了し、一定数Nに達した場合は、第1の記憶手段5内から3点のデータ(3点の磁気センサ1のX、Y出力値)を選択する(ステップS4)。
【0045】
そして、選択された3点を円周上に持つ円の中心座標を計算する(ステップS5)。なお、3点から円の中心座標の計算は、一般に良く知られた線形2次元連立方程式により計算できる。
【0046】
このようにして、ステップS5で求めた円の中心座標を第1の基準中心座標11(図1参照)とする。なお、ステップS4では、互いにX、Y出力値ができるだけ離れた異なる値の3点を選択するのが望ましい。これは、ステップS5で中心座標を正確に求めるためである。
【0047】
また、ステップS1で傾斜角が第2の傾斜である45度であったならば、磁気センサ1のX、Y出力値を第2の記憶手段7(図1参照)に格納する(ステップS6)。そして、第2の記憶手段7の中に、X値が同一であり、かつY値が異なる2点が存在するかを判断する(ステップS7)。上記条件を満たさなかった場合は、基準中心座標算出の処理を終了し、上記条件を満たした場合は、2点のY値の中心値を楕円中心Y座標とする。その場合は、図4に示すように、機器の傾斜角αが変化したとしても楕円中心X座標は変化しないので、ステップS5で求めた円中心X座標を採用する(ステップS8)。このようにして、ステップS8求めた楕円中心座標を第2の基準中心座標12(図1参照)を得ることができる。
なお、図2に示すステップS1で傾斜角αが第1、第2の傾斜である0度、45度以外の角度であった場合は、そのまま基準中心座標算出の処理を終了する。
【0048】
ここで示した中心座標の求め方が傾斜角0度と45度の場合とで異なるのは、0度の場合は、磁気センサ1のX、Y出力値の軌跡が正円を描くのに対し、45度の場合は楕円となるためである。それは、正円の中心座標を求める線形2次元連立方程式の計算は容易であるからである。したがって、第1の傾斜を0度とすることが望ましい。
【0049】
それに対して、演算に若干負荷が掛かることとなるが、予め設定する第1、第2の傾斜を共に0度以外とした場合でも、中心座標算出手段におけるステップS1で、第1、第2の傾斜の条件分岐を行った後は、それぞれステップS6〜S8の同じ処理を行うことで、第1の基準中心座標11と第2の基準中心座標12をそれぞれ求めることもできる。このフロー詳細は、先の説明の繰り返しとなるので、ここでの説明は割愛する。また、中心座標の求め方は、ここで示した方法に限定するものではなく、一般的に知られたニュートン法などの数値計算法を用いても良い。
【0050】
上述した機能を有する基準中心座標算出手段3によれば、本発明の方位センサは、図1に示すように、磁気センサ1と傾斜センサ2の出力が直接基準中心座標算出手段3に接続されているので、磁気センサ1と傾斜センサ2の出力を得る度に、図2で示した処理を実行することができる。従って、第1の基準中心座標11と第2の基準中心座標12は自動的に更新されて、機器を使用するユーザが場所を移動し、地磁気の垂直成分が変化した場合であっても、常に正しい基準中心座標を自動的に更新することができる。
【0051】
[動作説明:図3、図4]
次に、上記第1の基準中心座標11、第2の基準中心座標12を用いて目的の方位を得る、本発明の方位センサにおける傾斜補正手段の動作について図3、図4を用いて説明する。図3は、本発明の方位センサにおける傾斜補正手段で行う処理を示すフローチャートである。
図3に示す様に、まず、図1に示した第3の中心座標算出手段9で、現在の傾斜センサ2の出力と第1の基準中心座標11と第2の基準中心座標12とから、現在の傾斜中心座標13を算出する(ステップS9)。具体的には、図4のP0点が第1の基準中心座標11であり、P1点が第2の基準中心座標12であるから、P1点のY座標を、
P1点のY座標=mzsin(π/4) (式5)
と表す。
【0052】
ここで、現在の傾斜角をβとすると、現在の機器の傾斜の楕円中心Y座標は、
現在の機器の傾斜の楕円中心Y座標=mzsin(β) (式6)
となる。
【0053】
この式5を式6に代入することより、現在の傾斜の楕円中心Y座標は、
現在の傾斜の楕円中心Y座標=P1点のY座標/(π/4)xsin(β)(式7)
により求めることができる。
【0054】
先にも示したように、楕円中心X座標は、図4に示す様に全ての傾斜において変化しないので、各傾斜におけるX座標の値には、P1点のX座標を採用すればよい。このようにして、第3の中心座標算出手段9で、現在の傾斜中心座標13を算出することができる。
【0055】
次に、方位算出手段10において、磁気センサ1の出力であるX値、Y値から現在の傾斜中心座標13を差し引き、これを新たにX値、Y値とする(ステップS10)。そして、楕円を円変換し、磁気センサの出力であるY値を傾斜角分だけ修正する(ステップS11)。具体的には、図4から分かるように、楕円の長軸/短軸(a/b)の比は傾斜角のみに依存するので、現在の傾斜角をβとすると、Y値を1/cosβするだけで、楕円を円変換することができる。
【0056】
最後に、楕円を円変換することによって修正されたY値とX値の比から、目的の方位角θを
θ=tan−1(Y/X) (式8)
と計算することで、傾斜補正された正確な方位を求めることができる(ステップS12)。
【0057】
これまでの説明では、傾斜は一方向、すなわちX軸は傾斜しないものとして説明してきたが、もし、X軸も同時に傾斜した場合には、その2次元出力軌跡は、図4に示した楕円が原点中心に回転したものとなる。したがって、前もってX軸の検知をしたら、その傾斜の分だけ2次元の回転座標変換を行うことで、先の説明と同様な処理を行うことができる。
【0058】
このように、本発明の方位センサでは、基準中心座標算出手段と傾斜補正手段を設けているので、精度の高い傾斜補正を行うことができ、その結果、精度の高い方位を算出できる。また、低背化の大きな妨げとなっていたZ軸の磁気センサを省くことができるため、薄型機器への搭載が実現できる。さらに、Z軸の磁気センサを省くことができるため、方位センサのコストを低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の方位センサは、高精度な方位を求められる機器に適用することができる。特に、携帯型の機器に本発明の方位センサを搭載するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の方位センサの構成を示す図面である。
【図2】本発明の方位センサの基準中心座標算出手段のフローチャートである。
【図3】本発明の方位センサの傾斜補正手段のフローチャートである。
【図4】本発明の方位センサを備えた機器の傾斜によるX軸、Y軸の2軸の磁気センサの2次元出力軌跡図である。
【図5】従来の方位センサの構成を示す図面である。
【図6】傾き角と磁気センサの2次元出力軌跡を示した図である。
【図7】従来の方位センサのメモリに格納されている補正テーブルを示した図である。
【図8】従来の方位センサの補正方法の処理を示したフローチャートである。
【図9】機器が傾斜した様子を示す概念図である。
【図10】機器の傾斜によるX軸、Y軸の2軸の磁気センサの2次元出力軌跡図である。
【符号の説明】
【0061】
1 磁気センサ
2 傾斜センサ
3 基準中心座標算出手段
4 傾斜補正手段
5 第1の記憶手段
6 第1の中心座標算出手段
7 第2の記憶手段
8 第2の中心座標算出手段
9 第3の中心座標算出手段
10 方位算出手段
11 第1の基準中心座標
12 第2の基準中心座標
13 現在の傾斜中心座標
14 方位
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地磁気を検出し方位を算出する方位センサであって、
地磁気を検出する、直行する2軸のそれぞれに配置した磁気センサと、
傾斜角を検出する傾斜センサと、
基準となる傾斜における磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する基準中心座標算出手段と、
現在の磁気センサの出力と、現在の傾斜センサの出力と、基準中心座標算出手段の出力である前記中心座標とを用いて傾斜補正を行った上で、方位を算出する傾斜補正手段と、
を有することを特徴とする方位センサ。
【請求項2】
前記基準となる傾斜は、
第1の傾斜と、当該第1の傾斜とは異なる第2の傾斜からなり、
前記基準中心座標算出手段は、
前記第1の傾斜における磁気センサの出力を記憶する第1の記憶手段と、
前記第1の傾斜における前記磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する第1の中心座標算出手段と、
前記第2の傾斜における前記磁気センサの出力を記憶する第2の記憶手段と、
前記第2の傾斜における前記磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する第2の中心座標算出手段と、を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の方位センサ。
【請求項3】
前記基準中心座標算出手段は、前記傾斜角が前記第1の傾斜または第2の傾斜以外の傾斜のときには、そのまま処理を終了する
ことを特徴とする請求項2に記載の方位センサ。
【請求項4】
前記第1の傾斜は、0度である
ことを特徴とする請求項2または3に記載の方位センサ。
【請求項5】
前記第1の記憶手段に格納した、前記第1の傾斜における磁気センサの出力が、所定のデータ数に達した場合のみ、前記2次元出力軌跡の中心座標を算出する
ことを特徴とする請求項4に記載の方位センサ。
【請求項6】
前記第2の記憶手段に格納した、前記第2の傾斜における複数個の磁気センサの出力(X,Y)のそれぞれが、同一X値であり、かつ非同一Y値を持つ2点が有るか否かを判断し、有ると判断した場合にのみ、前記2次元出力軌跡の中心座標を算出する
ことを特徴とする請求項4または5に記載の方位センサ。
【請求項7】
前記傾斜補正手段は、
現在の傾斜における前記磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する第3の中心座標算出手段と、
前記第3の中心座標算出手段の出力により方位を算出する方位算出手段と、を有する
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の方位センサ。
【請求項1】
地磁気を検出し方位を算出する方位センサであって、
地磁気を検出する、直行する2軸のそれぞれに配置した磁気センサと、
傾斜角を検出する傾斜センサと、
基準となる傾斜における磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する基準中心座標算出手段と、
現在の磁気センサの出力と、現在の傾斜センサの出力と、基準中心座標算出手段の出力である前記中心座標とを用いて傾斜補正を行った上で、方位を算出する傾斜補正手段と、
を有することを特徴とする方位センサ。
【請求項2】
前記基準となる傾斜は、
第1の傾斜と、当該第1の傾斜とは異なる第2の傾斜からなり、
前記基準中心座標算出手段は、
前記第1の傾斜における磁気センサの出力を記憶する第1の記憶手段と、
前記第1の傾斜における前記磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する第1の中心座標算出手段と、
前記第2の傾斜における前記磁気センサの出力を記憶する第2の記憶手段と、
前記第2の傾斜における前記磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する第2の中心座標算出手段と、を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の方位センサ。
【請求項3】
前記基準中心座標算出手段は、前記傾斜角が前記第1の傾斜または第2の傾斜以外の傾斜のときには、そのまま処理を終了する
ことを特徴とする請求項2に記載の方位センサ。
【請求項4】
前記第1の傾斜は、0度である
ことを特徴とする請求項2または3に記載の方位センサ。
【請求項5】
前記第1の記憶手段に格納した、前記第1の傾斜における磁気センサの出力が、所定のデータ数に達した場合のみ、前記2次元出力軌跡の中心座標を算出する
ことを特徴とする請求項4に記載の方位センサ。
【請求項6】
前記第2の記憶手段に格納した、前記第2の傾斜における複数個の磁気センサの出力(X,Y)のそれぞれが、同一X値であり、かつ非同一Y値を持つ2点が有るか否かを判断し、有ると判断した場合にのみ、前記2次元出力軌跡の中心座標を算出する
ことを特徴とする請求項4または5に記載の方位センサ。
【請求項7】
前記傾斜補正手段は、
現在の傾斜における前記磁気センサの2次元出力軌跡の中心座標を算出する第3の中心座標算出手段と、
前記第3の中心座標算出手段の出力により方位を算出する方位算出手段と、を有する
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の方位センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2008−20296(P2008−20296A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191782(P2006−191782)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]