説明

方向シフト管理型の機械制御システム

パワー系統(16)を動作させるための方法が提供される。この方法は、推進方向変更のための操作者要求を受信することを含む。この方法はまた、推進方向変更要求に応答して出力増大マップを選択することを含む。出力増大マップは、パワー系統の動力源(34)の出力定格を増大させる。加えて、この方法は、動力源に動力を向けることを含む。この方法はさらに、動力をこれ以上動力源に向けない場合に、出力増大マップに従ってパワー系統を制御しかつ動力源の速度を加速させることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、機械制御システム、より詳しくは、方向シフト管理型の機械制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
機械の操作中、機械の推進方向(すなわち、前進または後退)を変更することが望ましいであろう。そのような方向変更が必要な場合、機械制御システムは最初にパワートレインを制御して現在の方向の動きを遅延させる。一般に、遅延事象は、変速機を調整(例えばシフトダウン)してエンジンに動力をもたらし、それにより、寄生損失を使用して機械を減速させることによって開始される。エンジンに動力をもたらすことは一般にエンジン回転数を増加させる原因となる。遅延フェーズ中エンジンに燃料が供給される場合、エンジンは、消散されている動力とは相反し得る動力を発生させる。これは、エンジンの遅延能力を低減させ得る。それゆえ、遅延事象中、エンジンへの燃料の供給を減少させるかまたは遮断する。
【0003】
機械が反対方向に走行し始めると推進方向変更事象の遅延フェーズは終了し、加速フェーズが開始される。加速フェーズ中、変速機はもはや動力をエンジンに向かわせず、寄生損失によりエンジンの減速がもたらされる。加えて、制御システムはエンジンに加速負荷をかけ、それによりエンジンは、遅延フェーズ中に吸収された全動力を変速機に伝達させることとなる。これはさらにエンジン回転数の低下に寄与する。エンジン回転数の低下に対抗しかつ加速要求に適合する十分なトルクを発生させるために、制御システムはエンジンへの燃料の供給を再開するかまたは増やす。しかしながら、燃料の再開または増加と、加速要求に適合する適度な量のトルクの発生との間には遅れがある。この遅れの間、エンジン回転数は減少し続け、望ましい最低回転数を下回る可能性もある。望ましい最低回転数を下回って動作している間、エンジンの性能は満足のいくものではなくなる可能性がある。
【0004】
推進方向変更事象中にエンジンが望ましい最低回転数を下回る速度で動作する時間を最小限にするために用いられてきた1つの方法が、1988年9月6日にNaritaらに発行された(特許文献1)で説明されている。推進方向変更事象中、(特許文献1)で説明されているシステムは、エンジン回転数が加速しているときを判断して給油を打ち切る。推進方向変更事象が実行されるとき、システムは車両速度およびエンジン回転数を継続的に監視する。車両の対地速度がゼロに達するとき、またはエンジン回転数が、エンジンを失速させ得る速度に達するとき、システムは給油を再開してパワートレインを作動させる。これにより制御システムは、車両が反対方向に推進する前に給油を再開できる。
【0005】
(特許文献1)に記載のシステムは、推進の変更事象の早期に給油を再開できるものの、エンジンの性能は依然として満足のいくものではない可能性がある。特に、推進方向変更モード中、車両が推進方向変更事象を実行していないときに使用されるマップによってパワートレインは動作し続ける。非推進方向変更事象中の動作の主眼は、推進方向変更事象中の動作の主眼とは異なり得る。例えば、非推進方向変更事象中、主眼は燃料節約である可能性があり、車両は燃料節約マップに従って動作し得る。しかしながら、燃料節約マップに従って動作しているときにはエンジン出力が犠牲にされる。そのようなエンジン出力は、推進方向変更事象の加速フェーズにおける車両の加速に必要なものである。以前に選択されたマップに従って動作を継続することによって、パワートレインは、それに課せられた要求を満たすことができない可能性があり、その性能が不満足なものとなり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,769,774号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
開示のシステムは、上記の問題の1つ以上を解決することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、本明細書は、パワー系統を動作させるための方法に関する。この方法は、推進方向変更のための操作者要求を受信することを含む。この方法はまた、推進方向変更要求に応答して出力増大マップを選択することを含む。出力増大マップは、パワー系統の動力源の出力定格を増大させる。加えて、この方法は、動力源に動力を向けることを含む。この方法はさらに、動力をこれ以上動力源に向けない場合に、出力増大マップに従ってパワー系統を制御しかつ動力源の速度を加速させることを含む。
【0009】
本明細書の別の態様と一致して、パワー系統が提供される。パワー系統は、変速機に動作可能に結合された動力源を含む。パワー系統はまた、操作者要求を生成するように構成された少なくとも1つの操作者インターフェース機器を含む。パワー系統はさらに制御装置を含む。制御装置は、推進方向変更のための操作者要求に応答して出力増大マップを選択し、それにより動力源の出力定格を増大させるように構成される。制御装置はまた、推進方向変更のための操作者要求に応答して、変速機が動力を動力源に向けるようにさせるように構成される。制御装置はさらに、推進方向変更のための操作者要求に応答して、動力源にこれ以上動力を向けない場合、出力増大マップに従ってパワー系統を制御し、かつ動力源の速度を加速させるように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】例示的な機械の図である。
【図2】図1の機械と共に使用するための例示的な開示のオペレータステーションの図である。
【図3】図1の機械の例示的な開示のパワー系統の図である。
【図4】図3のパワー系統を動作させる例示的な方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、任務を達成するために協働する複数のシステムおよび構成部品を有する例示的な機械10を示す。機械10によって実行される任務は、鉱業、建設、農業、運輸、発電などの特定の産業、または当分野で知られている他のいずれかの産業と関連し得る。例えば、機械10を、図1に示すホイールローダ、バス、ハイウェイ輸送トラックなどの可動機械、または当分野で知られている他のいずれかのタイプの可動機械として供し得る。機械10はオペレータステーション12、1つ以上の牽引装置14、および牽引装置14の少なくとも1つを駆動するためのパワー系統16を含み得る。
【0012】
図2に示すように、オペレータステーション12は、機械の操作者からの、所望の機械走行操作を示す入力を受信する装置を含み得る。具体的には、オペレータステーション12は、操作者席20の近傍に配置された1つ以上の操作者インターフェース機器18を含み得る。操作者インターフェース機器18は、所望の機械操作を示す変位信号を生成することによって、機械10の運動を開始し得る。一実施形態では、操作者インターフェース機器18は左フットペダル22、右フットペダル24、および前進−ニュートラル−後退(FNR)セレクタ26を含み得る。操作者が左フットペダル22および/または右フットペダル24を操作すると(すなわち、左フットペダル22および/または右フットペダル24をニュートラル位置から離すと)、操作者は、対応する機械の走行運動を予期し、かつそれに対して影響を及ぼし得る。さらに、操作者がFNRセレクタ26を前進、後退、またはニュートラルの位置に動かすと、操作者は、例えば、前進、後退、またはアイドリングなどの対応する変速機の動作モードに影響を及ぼし得る。フットペダル以外の操作者インターフェース機器、例えば、ジョイスティック、レバー、スイッチ、ノブ、ホイール、および当分野で知られている他の装置を、所望であれば機械10の走行制御用に追加的にまたは代替的にオペレータステーション12内に設け得ることが考慮される。さらに、FNRセレクタ26を省略してもよく、かつ他の操作者入力装置が変速機の動作モードに影響を及ぼしてもよい。
【0013】
牽引装置14(図1を参照)は、機械10の各側(片側のみを示す)に配置された車輪として供し得る。代わりに、牽引装置14はキャタピラ、ベルトまたは他の公知の牽引装置を含み得る。機械10の車輪のいずれかの組み合わせが駆動および/または操舵され得ることが考慮される。
【0014】
図3に示すように、パワー系統16は、種々の操作者入力および環境入力に応答して牽引装置14(図1を参照)を駆動し得る。パワー系統16はパワートレイン28、燃料システム30、および1つ以上の入力に応答してパワー系統16の動作を制御するための制御システム32を含み得る。
【0015】
パワートレイン28を、動力を発生しかつそれを牽引装置14に伝達するように構成された一体式のパッケージとし得る。特に、パワートレイン28は、パワー出力を生成するように動作可能な動力源34と、パワー出力を有用な方法で牽引装置14(図1を参照)に伝達するように接続された変速機36とを含み得る。
【0016】
動力源34は、機械的または電気的パワー出力を生成するために協働する複数のサブシステムを有する内燃機関を含み得る。本明細書の目的のために、動力源34を4行程のディーゼル機関として示し、かつ説明する。しかしながら、当業者は、動力源34を、例えば、ガソリンまたはガス燃料を動力源とするエンジンなどの他のいずれかのタイプの内燃機関とし得ることを理解されたい。動力源34内に含まれるサブシステムは、例えば、空気誘導システム、排気システム、潤滑システム、冷却システム、または他のいずれかの適切なシステムを含み得る。
【0017】
変速機36は、例えば、無段変速機(CVT)として供し得る。変速機36を、例えば、液圧式CVT、ハイドロメカニカルCVT、電気的CVT、または当業者に明白な他の形態のいずれかのタイプの無段変速機とし得る。さらに、変速機36は駆動要素38および被駆動要素40を含み得る。
【0018】
図3の例示的な電気的CVTでは、駆動要素38を交番電界タイプの発電機などの発電機とし、および被駆動要素40を、駆動要素38からの動力を受けるように構成された交番電界タイプのモータなどの電気モータとし得る。駆動要素38の発電機を、被駆動要素40に向けられたトルク指令に応答して、パワーエレクトロニクス42を介して電流によって被駆動要素40のモータを駆動するために被駆動要素40に接続する。一部の状況では、被駆動要素40のモータは代わりにパワーエレクトロニクス42を介して駆動要素38の発電機を駆動し得る。液圧式無段変速機を用いる実施形態では、駆動要素38を可変容量形ポンプなどのポンプとし、および被駆動要素40を、可変容量形モータなどのモータとし得ることが考慮される。被駆動要素40を、駆動要素38および被駆動要素40に対して流体を供給したり戻したりする導管によって駆動要素38に流体連結し、駆動要素38が流圧によって被駆動要素40を効率的に駆動できるようにし得る。
【0019】
パワーエレクトロニクス42は、発電機関連の構成部品と、モータ関連の構成部品とを含み得る。例えば、パワーエレクトロニクス42は、三相交流電力を直相電力に反転させかつその逆反転を行うように構成された1つ以上の駆動用インバータ(図示せず)を含み得る。駆動用インバータは、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)、マイクロプロセッサ、コンデンサ、メモリ記憶装置を含む種々の電気素子、および駆動要素38および被駆動要素40を動作させるために使用される他のいずれかの同様の素子を有し得る。駆動用インバータと関連し得る他の構成部品は、とりわけ電源回路、信号調整回路、およびソレノイドドライバ回路を含む。加えて、パワーエレクトロニクス42は、それぞれ駆動要素38および被駆動要素40と連絡する発電機用ヒートシンク(図示せず)、およびモータ用ヒートシンク(図示せず)を含み得る。各ヒートシンクは、パワーエレクトロニクス42のそれらの個々の構成部品からの熱を吸収し、かつこの熱を冷却システム(図示せず)に伝達し得る。
【0020】
変速機36を左フットペダル22および右フットペダル24によって少なくとも部分的に制御し得る。すなわち、左フットペダル22および右フットペダル24を操作者が操作するとき、フットペダルは、例えば、所望のトルク出力および/または所望の速度制限などの所望の被駆動要素出力を示す電気信号をもたらし得る。例えば、左フットペダル22および右フットペダル24は最小位置を有し、かつ最大位置までの様々な範囲の位置で可動とし得る。左フットペダル22および右フットペダル24のそれぞれに関連させたセンサ44および46が設けられて、それらの変位位置を感知し、かつ変位された位置に応答して対応する信号を生成する。センサ44および46を、フットペダル22および24の変位を感知できるいずれかのセンサ、例えば、スイッチまたは電位差計とし得る。センサ44および46の各々からの変位信号を、制御システム32を通して変速機36に向けて、被駆動要素40のトルク出力を制御し得る。
【0021】
燃料システム30は、加圧燃料を動力源34の各燃焼室(図示せず)に噴射するために協働する構成部品を含み得る。具体的には、燃料システム30は、燃料の供給を保持するように構成されたタンク48と、燃料を加圧して、共通のレール52によって加圧燃料を複数の燃料噴射装置(図示せず)に向けるように構成された燃料ポンプ構成部50とを含み得る。
【0022】
燃料ポンプ構成部50は、燃料の圧力を増大させて、燃料の1つ以上の加圧流を共通のレール52に向けるように機能する1つ以上のポンプ装置を含み得る。一例では、燃料ポンプ構成部50は、直列に配置されかつ燃料経路58によって流体連結される低圧力源54および高圧力源56を含み得る。低圧力源54を、高圧力源56に低圧供給をするように構成された移送ポンプとし得る。高圧力源56を、低圧供給を受け、かつ燃料の圧力を増大させるように構成し得る。高圧力源56を燃料経路60によって共通のレール52に接続し得る。チェック弁(図示せず)を燃料経路60内に配置して、燃料ポンプ構成部50から共通のレール52への燃料の一方向の流れをもたらす。
【0023】
低圧力源54および高圧力源56の一方または双方を、動力源34に動作可能に接続し、かつ動力源34に関連したクランクシャフト62によって駆動し得る。低圧力源54および/または高圧力源56を、当業者には容易にわかる方法でクランクシャフト62と接続し得る。ここで、クランクシャフト62の回転によって、ポンプのドライブシャフトを対応して回転させ得る。例えば、高圧力源56のポンプのドライブシャフト64を、ギヤトレイン66を介してクランクシャフト62に接続し得る。しかしながら、低圧力源54および高圧力源56の一方または双方を代わりに電気的に、液圧的に、空気圧的に、または他のいずれかの適切な方法で駆動し得ることが考慮される。
【0024】
制御システム32は、パワー系統16の動作を制御し、かつそれぞれエンジン回転数、変速機出力、および給油速度を示す種々のパラメータを感知するためのセンサ68、70、および72を含み得る。制御システムはまた、操作者の要求、環境入力、およびセンサ68、70、および72から受信した信号に応答してパワー系統16の動作を制御するための制御装置74を含み得る。制御システム32は、パワー系統16の動作に有用とし得る他のパラメータを感知するための追加的なセンサを含み得ることが考慮される。
【0025】
センサ68は、動力源34と関連させてその出力速度を感知し、かつ通信回線76を介して制御装置74と通信し得る。一例では、センサ68を、パワートレイン28の回転部品、例えばクランクシャフト62またはフライホイールに埋め込まれた磁石と関連させた磁気ピックアップタイプのセンサとして供し得る。動力源34の動作中、センサ68は、磁石によって生成され回転する磁界を感知し、かつ動力源34の回転速度に対応する信号を生成し得る。
【0026】
センサ70は、変速機36および/または牽引装置14(図1を参照)に関連させて変速機36の出力および/または機械10の走行速度を感知し、かつ通信回線78を介して制御装置74と通信し得る。一例では、センサ70は、パワートレイン28の回転部品、例えば変速機出力軸80内に埋め込まれた磁石と関連させた磁気ピックアップタイプのセンサとして供し得る。機械10の動作中、センサ70は、磁石によって生成された回転する磁界を感知し、かつ変速機36の回転速度および/または機械10の対応する走行速度に対応する信号を生成し得る。
【0027】
センサ72は燃料システム30と関連させて、動力源34に供給される燃料の流量を感知し、かつ通信回線82を介して制御装置74と通信し得る。一実施形態では、センサ72を、動力源34の燃焼室(図示せず)に噴霧される燃料の流量を監視するための燃料システム30にまたはその近傍に配置された燃料流量センサとし得る。センサ72を、動力源34に入る燃料速度を示すパラメータを感知できる他のいずれかのタイプのセンサとし得ることが考慮される。
【0028】
制御装置74は、操作者要求、環境入力、およびセンサ68、70、および72から受信した信号に応答してパワー系統16の動作を制御し得る。操作者要求は、推進の大きさ、推進方向(すなわち、前進または後退)、車両速度、出力トルク、またはパワートレイン28の動作に影響を及ぼし得る他のいずれかの要求を含み得る。複数のマップ、アルゴリズム、チャート、グラフなどを、操作者の要求を示す種々の信号を解釈するために制御装置74のメモリに記憶し得る。そのような信号を、FNRセレクタ26、センサ44、46、および/または他のいずれかの操作者インターフェース機器18から受信し得る。操作者要求を判断したら、制御装置74は、パワー系統16を動作させるための一連の行動を決定するために、センサ68、70、および72から追加的な入力を受信し得るおよび/または環境データを受信し得る。
【0029】
例示的な操作者要求を機械10の推進方向変更とし得る。操作者は、種々の操作者インターフェース機器18を作動させることによってそのような要求を開始し得る。制御装置74は、作動されたインターフェース機器18から信号を受信し、かつその信号を上述のマップ、アルゴリズム、チャート、およびグラフと比較し得る。比較によって、制御装置74に、操作者が推進方向変更を要求している可能性があることを判断させ得る。そのような判断によって、制御装置74は現在の動作モードから推進方向変更モードに切り替え得る。
【0030】
推進方向変更モードで動作している間、制御装置74は、変速機36に動力源34へ動力を向けさせ得る。そのような動力は動力源34のクランクシャフト(図示せず)の回転運動によって消散され得る。それゆえ、動力源34によって動力が消散され得るとき、動力源の速度は増大し得る。推進方向変更事象の遅延フェーズ中に動力源34に燃料を供給した場合には、動力源34が動力を発生させる原因となり、クランクシャフトの回転速度をさらに増加させ得る。これは、動力源34にとって有害となり得るレベルまで動力源の速度を増加させ得る。加えて、発生した動力は、機械10の現在の推進を遅らせるために消散される動力とは相反し、それにより、動力源34の遅延能力を低下させ得る。それゆえ、推進方向変更事象の遅延フェーズ中、動力源34への燃料の供給を減少させるかまたは遮断することが望ましい。
【0031】
前進推進を遅延させることに加えて、制御装置74は出力増大マップに従い、それにより、動力源34をより高い出力定格で動作させ得る。例えば、出力増大マップに従って動作する場合、操作者インターフェース機器18の特定の操作(例えば、左フットペダル22または右フットペダル24を押す)によって、通常の出力マップに従って動作している間に発生するよりも大きなトルク出力をもたらし得る。
【0032】
変速機36は、機械10が約ゼロの対地速度に達し得るまで動力源34による動力の消散を継続し、および推進の変更事象の遅延フェーズが終了し得る。機械10が約ゼロの対地速度に達すると、出力増大マップによって給油が再開され、機械10は反対方向に推進され得る。出力増大マップによって給油が再開されるか、または通常の出力マップ下で発生し得るよりも大きな割合で増大し得ることを理解されたい。そのような給油の増加は、所望の速度に達するまで継続され得る。
【0033】
制御装置74は、種々の受信信号に応答してパワー系統16の動作を制御するために単一のマイクロプロセッサまたは複数のマイクロプロセッサとして供され得る。多くの市販のマイクロプロセッサを、制御装置74の機能を実行するように構成することができる。当然のことながら、制御装置74は、多くの機械の機能を制御できる汎用機械マイクロプロセッサとして容易に供し得る。制御装置74はメモリ、二次記憶装置、プロセッサ、およびアプリケーションを実行する他のいずれかの構成部品を含み得る。種々の他の回路、例えば電源回路、信号調整回路、ソレノイドドライバ回路、および他のタイプの回路を制御装置74と関連させ得る。
【0034】
図4に、パワー系統16を制御するための例示的な方法を示す。特に、図4は、推進方向変更モードに従事し、かつそれで動作する例示的な方法を示すフローチャートである。開示のシステムおよびその動作をより良好に示すために、図4を以下のセクションでさらに説明する。
【産業上の利用可能性】
【0035】
開示のパワー系統は、推進方向変更事象中、動力源の性能を改善することができる。特に、開示のシステムは、そのような推進方向変更事象中、出力増大マップに従い得る。出力増大マップによる動作は動力源の出力定格を増大させ、それにより、動力源の性能を改善し、かつ方向変更事象の実施に必要な時間の長さを短縮し得る。推進方向を変更するための方法を以下で説明する。
【0036】
図4に示すように、この方法は、制御装置74が、推進方向を変更したいことを示す操作者からの入力を受信すると開始され得る(ステップ200)。例えば、機械10が前進方向に推進している場合、操作者は推進方向を変更して後退方向に機械10を推進させ始めることを望むことがある。そのような信号は、操作者が1つ以上の操作者インターフェース機器18を操作するときに生成され得る。例えば、操作者は、左ペダル22、右ペダル24、および/またはFNRセレクタ26を操作することによってそれらの信号を生成させ得る。
【0037】
推進方向の変更を示す信号を受信すると、制御装置74は、現在の動作モードから推進方向変更モードに切り替え得る(ステップ202)。推進方向変更モードでの動作中、制御装置74は出力増大マップを選択して、変速機36の動作および動力源34の給油を制御するときにその出力増大マップに従い得る(ステップ204)。出力増大マップは、動力源34の出力定格を増大させ得る。例えば、変速機36および動力源34の給油が出力増大マップに従って制御されている場合、操作者インターフェース機器18の特定の操作(例えば、左フットペダル22または右フットペダル24を押す)によって、制御装置74が推進方向変更モードにないときに用いられ得る通常の出力マップに従って変速機36および動力源34の給油を制御する間に発生するものよりも大きなトルク出力が生じ得る。
【0038】
推進方向変更モードへ切り替えた後、制御装置74によって、変速機36は、機械10が走行している現在の方向での推進を遅延させることとなり得る(ステップ206)。これは、動力源34へ動力を向けることによって実行され、それにより、寄生損失を使用して推進を遅延させ得る。動力源34への給油を継続することによって、動力源34に動力を発生させ得ることを理解されたい。この発生した動力は、動力源34にもたらされた動力とは相反し、それにより、機械10の現在の推進を遅延させるために使用されている寄生損失をオフセットまたは減少させ得る。それゆえ、推進方向変更事象の遅延フェーズ中、制御装置74は動力源34の給油を減らすかまたは終了させ得る。
【0039】
上述のように、推進方向変更事象の遅延フェーズでの給油の再開は、機械10の遅延に悪影響を及ぼし得る。それゆえ、遅延フェーズが完了したかどうかを判断することが望ましい(ステップ208)。この判断は、あらゆる方法を使用してなされ得る。例えば、制御装置74は機械10の対地速度を監視し得る。対地速度が約ゼロに達すると、前進推進の遅延が完了し得る。制御装置74は、機械10の現在の対地速度を示すセンサ70から受信した信号を介して現在の対地速度を監視し得る。制御装置74が、機械10の対地速度がゼロの対地速度に達していないと判断する場合(ステップ208:No)、制御装置74はステップ206を繰り返す(すなわち、機械10が走行している現在の方向の遅延推進を継続する)。
【0040】
制御装置74が、機械10の対地速度が約ゼロに達したと判断する場合(ステップ208:Yes)、制御装置74は、操作者インターフェース機器18からの入力に従って出力増大事象を実行し得る(ステップ210)。例えば、出力増大事象を、左ペダル22および右ペダル24からの入力に従って実行し得る。出力増大事象を実行するとき、動力源34のトルク出力は出力増大マップに従って増大し得る。出力増大事象中、動力源34のトルク出力は大きくなり得る、および/または非出力増大事象中に発生するものよりも所与の操作者入力に対して大きな割合で増大し得ることを理解されたい。これは、出力増大事象中、制御装置74が出力増大マップに従い、それにより、動力源34の出力定格を増大させるためである。反対に、非出力増大事象は通常の出力マップに従い、それは、動力源34に対して通常の出力定格を維持し得る。
【0041】
推進方向変更事象中、制御装置74とFNRセレクタ26との間の通信が中断されるかまたは失われる可能性がある。通信が中断されるかまたは失われる場合、制御装置74は、操作者が推進方向変更事象の継続またはキャンセルのどちらを望んでいるかを判断することができない。これは、制御装置74が出力増大事象を実施しているときには特に問題となり得る。操作者がもはや推進方向変更事象の実施を望んでいないときに制御装置74が出力増大事象を継続する場合、望ましい量よりも多くの燃料が消費され得る。しかしながら、制御装置74が時期尚早に出力増大事象を終了する場合、パワー系統16は不適切に機能し得る。このジレンマに対処する1つの方法は、制御装置74とFNRセレクタ26との間の通信が中断されるかまたは失われる場合には、出力増大事象の実施を、予め定められた時間継続することであろう。それゆえ、制御装置74が出力増大事象を開始する場合、タイマーを作動させ得る(ステップ212)。タイマーを、機械10が方向変更事象を完了させることができる任意の時間の長さ、例えば5秒に設定し得ることが考慮される。
【0042】
タイマーを作動させた後、制御装置74はFNRセレクタ26およびセンサ68からデータを受信し、FNRセレクタ26の位置および動力源34の加速度を監視し得る(ステップ214)。受信データに基づいて、制御装置74は、出力増大事象を終了させるか否かを判断し得る(ステップ216)。制御装置74は、3つの条件のうちのいずれか1つでも発生し得る場合には出力増大事象を終了させ得る。第1の条件は、タイマーの期限が切れたときとし得る。第2の条件は、機械10または機械10の要素の加速度が、燃料消費がパワー出力よりも重要となる予め定められた閾値を下回るときとし得る。そのような閾値を、例えば、牽引装置14の加速度が12.5rev/秒2を下回るときとし得る。第3の条件は、FNRセレクタ26の位置が変更され、それにより、操作者が推進方向変更事象の終了を望んでいることが示されるときとし得る。これらの条件が1つも満たされない場合、制御装置74は、出力増大事象を継続する必要があると判断して(ステップ216:No)、ステップ214を繰り返し得る(すなわち、制御装置74は、FNRセレクタ26およびセンサ68からデータを受信してFNRセレクタ26の位置および動力源34の加速度を監視し続ける)。
【0043】
上述の条件のうちの1つでも満たされる場合、制御装置74は、出力増大事象を終了する必要があると判断して(ステップ216:Yes)、制御装置74は出力増大事象を終了し得る(ステップ218)。出力増大事象を終了すると、制御装置74は、推進方向変更モードに切り替わる前に制御装置74が動作していた元の動作モードでの動作を再開し得る(ステップ220)。元の動作モードでの動作が再開されると、この方法は終了され得る。
【0044】
推進方向変更モードでの動作に応答して出力増大マップを選択することは、推進方向変更事象中のパワー系統性能が改善される見込みを高め得る。特に、このような選択は、システムが、推進方向変更事象中の動作としてはあまり理想的ではない可能性があるマップに従わないようにし得る。加えて、出力増大は、エンジンが望ましい最低回転数よりも少ない回転数で動作し得る時間を短縮するかまたはなくし得る。
【0045】
本明細書の範囲から逸脱することなく開示のシステムに種々の修正および変形をなすことができることは当業者には明白であろう。ここで説明した明細書を考慮すれば、当業者には他の実施形態が明白であろう。本明細書および例は例示を目的としたにすぎず、真の範囲は、以下の特許請求の範囲およびそれらの等価物に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機(36)に動作可能に結合された動力源(34);
操作者要求を生成するように構成されている少なくとも1つの操作者インターフェース機器(18);および
推進方向変更のための操作者要求に応答して:
パワー系統の動力源の出力定格を増大させる出力増大マップを選択し、
変速機が動力源に動力を向けるようにさせ;かつ
動力源にこれ以上動力を向けない場合には出力増大マップに従ってパワー系統を制御しかつ動力源の速度を加速させるように構成された制御装置(74)
を含むパワー系統(16)。
【請求項2】
制御装置がさらに、制御装置と少なくとも1つの操作者インターフェース機器との間の通信が中断されるかまたは失われるときに、動力源の速度の加速を継続するように構成されている請求項1に記載のパワー系統。
【請求項3】
制御装置がさらに、制御装置と少なくとも1つの操作者インターフェース機器との間の通信が中断されるかまたは失われるときに、動力源の速度の加速を、予め定められた期間継続するように構成されている請求項2に記載のパワー系統。
【請求項4】
制御装置がさらに、パワー系統によって動く機械(10)の加速度が閾値を下回るときに、出力増大マップに従って動力源の速度の加速を中止するように構成されている請求項1に記載のパワー系統。
【請求項5】
制御装置がさらに、推進方向変更を終了する操作者要求を受信すると、出力増大マップに従って動力源の速度の加速を中止するように構成されている請求項1に記載のパワー系統。
【請求項6】
パワー系統(16)を動作させる方法であって、
推進方向変更のための操作者要求を受信すること;
推進方向変更要求に応答して、パワー系統の動力源(34)の出力定格を増大させる出力増大マップを選択すること、
動力源に動力を向けること;および
動力源にこれ以上動力を向けない場合、出力増大マップに従ってパワー系統を制御しかつ動力源の速度を加速させること
を含む方法。
【請求項7】
推進方向変更に関する操作者信号が受信されない場合、動力源の速度の加速を継続することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
操作者が推進方向変更の継続または中断を望むことを示す信号が受信されない場合、動力源の速度の加速を、予め定められた期間継続することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
予め定められた期間が終了する場合、パワー系統によって動く機械(10)の加速度が閾値を下回る場合、または推進方向変更を終了する操作者要求を受信する場合、出力増大マップに従って動力源の速度の加速を中止することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの牽引装置(14);および
請求項1〜6のいずれか一項に記載のパワー系統
を含む機械(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−518284(P2011−518284A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505233(P2011−505233)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【国際出願番号】PCT/US2009/040974
【国際公開番号】WO2009/129471
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(391020193)キャタピラー インコーポレイテッド (296)
【氏名又は名称原語表記】CATERPILLAR INCORPORATED
【Fターム(参考)】