説明

方向制御弁装置

【課題】極めて僅かな制御操作力で制御可能で、閉弁時の漏れ損もない、理想的な方向制御弁装置を提供する。
【解決手段】複数のポペット弁要素3の各々は、ハウジング部材5内を軸方向に移動可能なポペット弁部材7と、カム機構4による押し込みに応じてポペット弁部材7の軸方向に移動する従動部材15と、ポペット弁部材7と従動部材15との間に介在され、ポペット弁部材7と従動部材15との相対変位に応じて撓み量が変化するバネ要素16とを有し、カム機構4は、複数のポペット弁要素3の内二つのポペット弁要素3を共に駆動するカム部材24を有し、カム部材24は、二つのポペット弁要素3の内一方のポペット弁要素3のバネ要素16の撓み量が増加するときに、他方のポペット弁要素3のバネ要素16の撓み量が減少するように、二つのポペット弁要素3を駆動するカム山26を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧動作システムの制御に用いられる油圧回路の方向制御弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な油圧動作機械の制御機構要素として、油圧回路間の導通関係を切り換える方向制御弁が多用されている。
【0003】
この方向制御弁の形態として最も一般的なのは、所謂スプール弁である。このスプール弁は、円筒状の穴の内部に外径段差部を有するロッドを挿入し、そのロッドの軸方向位置をスライド変化させることによって、複数の油圧回路の導通穴とロッドの外径段差部との重なり状態を変化させて、油圧回路間の導通関係を切り換えるものである。
【0004】
このスプール弁型の方向制御弁は、極めて僅かな操作力で制御可能な優れた特性から多用されている。しかし、スプール弁型の方向制御弁には、その構造原理上、円筒穴とロッドとの間に摺動運動を可能にする隙間が必要であるために、その隙間を経由した圧力油の導通漏れが避けられず、油圧回路間の完全遮断は不可能であるという弱点がある。そのため、スプール弁型の方向制御弁の用途は、多少の漏れ損が実害とならない、動力駆動油圧ポンプによる大流量循環型の油圧システムに限定される。例えば、アキュムレータ油圧等を油圧源とするシステムのように、油圧回路間の僅かな漏れも嫌う、完全遮断機能が求められる用途の場合には、各油圧回路間の導通状態を各々ポペット弁によって開閉する構造のポペット弁型の方向制御弁が用いられている。この種のポペット弁型の方向制御弁は、例えば特許文献1及び2にも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−325476号公報
【特許文献2】特開平10−332006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のポペット弁型の方向制御弁の場合、各油圧通路間の導通状態を、漏れのない完全遮断にできる点が優れているのであるが、その完全遮断機能を実現している原理が、ポペット弁と弁座とが密着することに依存している。そのため、構成部品の加工寸法のバラツキ等も考慮して確実にポペット弁と弁座との密着状態を保証するために、ポペット弁を弁座に圧接させる弁バネを設け、その弁バネの撓み反力によってポペット弁を弁座に確実に圧接させる構造が最も一般的である。ポペット弁に圧接力を与える他の方法として、油圧推力や電磁力を用いる例もある。
【0007】
何れにしても、このポペット弁型の方向制御弁の場合、ポペット弁に何らかの方法で圧接力を与える必要があり、その圧接力によって閉弁状態にあるポペット弁を開弁させるためには、その圧接力以上の開弁方向操作力をポペット弁に与えてやらねばならない。
【0008】
このため、ポペット弁型の方向制御弁は、漏れのない完全遮断機能を実現できる反面、ポペット弁の開閉制御に際して相応の制御操作力を要するという問題が避けられなかった。
【0009】
ちなみに、ポペット弁型の方向制御弁は、その構造原理として、閉弁時、油圧回路間の導通穴部をポペット弁の圧接によって閉塞させることによって油圧回路間の導通を遮断するものであるから、その遮断した油圧回路間に圧力差がある場合、その圧力差を遮断面積に乗じた差圧推力がポペット弁に作用するので、その差圧推力もポペット弁の開閉状況に大きな影響を与える問題を孕んでいる。この差圧推力の問題に対しては、ポペット弁に、閉弁時の遮断面積による差圧推力と同じ値で逆向きの差圧推力を同時発生させるピストン構造部を追加することで差圧推力を相殺して解消する方策も用いられ、その構造形態としては、様々なものがある。
【0010】
しかし、このような方法によって差圧推力の影響を解消したとしても、閉弁時の確実な遮断機能を保証するための圧接力が不要になるわけではないので、この場合でもやはり、少なからぬ制御操作力を要するという問題は解消できなかった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、とりわけ油圧回路間の漏れ損を嫌う油圧動作システムに用いられるポペット弁型の方向制御弁の宿命であった、制御操作力が大きいという問題を解消し、極めて僅かな制御操作力で制御可能で、閉弁時の漏れ損もない、理想的な方向制御弁装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、三系統以上の油圧回路間の導通関係を、複数のポペット弁要素の開閉制御によって切り換えると共に、カム機構を用いて、前記複数のポペット弁要素に開閉運動を与える方向制御弁装置であって、前記複数のポペット弁要素の各々は、ハウジング部材内に設けられ、前記ハウジング部材内を軸方向に移動可能なポペット弁部材と、該ポペット弁部材に前記ポペット弁部材の軸方向に移動可能に装着され、制御入力部材となる前記カム機構による押し込みに応じて前記ポペット弁部材の軸方向に移動する従動部材と、前記ポペット弁部材と前記従動部材との間に介在され、前記ポペット弁部材と前記従動部材との相対変位に応じて撓み量が変化するバネ要素とを有し、前記カム機構は、前記複数のポペット弁要素の内二つのポペット弁要素を共に駆動するカム部材を有し、前記カム部材は、前記二つのポペット弁要素の内一方のポペット弁要素のバネ要素の撓み量が増加するときに、他方のポペット弁要素のバネ要素の撓み量が減少するように、前記二つのポペット弁要素を駆動するカム山を有するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、とりわけ油圧回路間の漏れ損を嫌う油圧動作システムに用いられるポペット弁型の方向制御弁の宿命であった、制御操作力が大きいという問題を解消し、極めて僅かな制御操作力で制御可能で、閉弁時の漏れ損もない、理想的な方向制御弁装置を提供することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る方向制御弁装置の断面図である。
【図2】図2は、図1の実施形態に係る方向制御弁装置の作動を示す図である。
【図3】図3は、図1の実施形態に係る方向制御弁装置の作動を示す図である。
【図4】図4は、図1の実施形態に係る方向制御弁装置の作動を示す図である。
【図5】図5は、従動部材の応動特性(閉弁→開弁)を示す図である。
【図6】図6は、カム接触角の変化特性(閉弁→開弁)を示す図である。
【図7】図7は、バネ反力及びカム移動負荷の変化特性(閉弁→開弁)を示す図である。
【図8】図8は、従動部材の応動特性(開弁→閉弁)を示す図である。
【図9】図9は、カム接触角の変化特性(開弁→閉弁)を示す図である。
【図10】図10は、バネ反力及びカム移動負荷の変化特性(開弁→閉弁)を示す図である。
【図11】図11は、同期相殺時カム移動負荷特性を示す図である。
【図12】図12は、従動部材変位特性を示す図である。
【図13】図13は、開弁リフト量特性を示す図である。
【図14】図14は、弁バネ撓み量特性を示す図である。
【図15】図15は、カム接触角変化特性を示す図である。
【図16】図16は、カム移動方向分力特性を示す図である。
【図17】図17は、他の実施形態に係る方向制御弁装置の断面図である。
【図18】図18は、図17の実施形態に係る方向制御弁装置の作動を示す図である。
【図19】図19は、図17の実施形態に係る方向制御弁装置の作動を示す図である。
【図20】図20は、図17の実施形態に係る方向制御弁装置の作動を示す図である。
【図21】図21は、図17の実施形態に係る方向制御弁装置の作動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0016】
図1に示すように、本実施形態に係る方向制御弁装置1は、三系統以上(図示例では三系統)の油圧回路間の導通関係を、複数(図示例では二つ)のポペット弁要素3の開閉制御によって切り換えると共に、確動型のカム機構4を用いて、複数のポペット弁要素3に開閉運動を与えるものである。
【0017】
本実施形態に係る方向制御弁装置1は、三系統の油圧回路A、B、Cが接続されるハウジング部材5を備えている。ハウジング部材5には、互いに平行に二つの中空孔6が形成され、各中空孔6は、後述するポペット弁部材7によって、ポペット弁部材7の軸方向両端部側の第一室8及び第二室9と、中間の第三室10とに分割されている。また、ハウジング部材5の側壁部には、外部から右方の第三室10に連通する第一ポート11と、外部から右方の第一室8に連通する第二ポート12と、外部から左方の第一室8に連通する第三ポート13とが形成されている。また、ハウジング部材5の中間壁部には、右方の第三室10と左方の第三室10とを連通する連通ポート14が形成されている。
【0018】
本実施形態では、ハウジング部材5の第一ポート11に油圧回路Aが接続され、第二ポート12に油圧回路Bが接続され、第三ポート13に油圧回路Cが接続されている。
【0019】
本実施形態では、ポペット弁要素3の各々は、ハウジング部材5内に設けられ、ハウジング部材5内を軸方向に移動可能なポペット弁部材7と、ポペット弁部材7にポペット弁部材7の軸方向に移動可能に装着され、制御入力部材となるカム機構4のカム部材24による押し込みに応じてポペット弁部材7の軸方向に移動する従動部材15と、ポペット弁部材7と従動部材15との間に介在され、ポペット弁部材7と従動部材15との相対変位に応じて撓み量が変化するバネ要素16とを有する。
【0020】
本実施形態では、二つのポペット弁要素3のポペット弁部材7は互いに平行(図1中の上下方向)に移動可能にハウジング部材5に配設されている。本実施形態のポペット弁部材7は、第一棒部17と、第一鍔部18と、第二鍔部19と、第二棒部20とから主に構成され、第一棒部17がハウジング部材5にスライド可能に支持され、第一鍔部18が第一室8と第三室10とを区画し、第二鍔部19がハウジング部材5にスライド可能に支持されて第二室9と第三室10とを区画し、第二棒部20がハウジング部材5にスライド可能に支持されている。また、ポペット弁部材7には、第一室8と第二室9とを連通する連通孔21が形成されている。
【0021】
本実施形態では、ポペット弁部材7の第二棒部20にバネ要素装着スペース(凹部)22が形成されており、このバネ要素装着スペース22に、従動部材15がポペット弁部材7の軸方向にスライド可能に装着されている。
【0022】
本実施形態のバネ要素16は、コイルバネ等の弁バネからなる。本実施形態のバネ要素16は、ほぼ一定のバネ定数を有している。本実施形態では、バネ要素(弁バネ)16は、ポペット弁部材7のバネ要素装着スペース22と従動部材15の鍔部23との間に介在させて配置されている。また、本実施形態では、バネ要素16は、ポペット弁部材7と従動部材15との相対変位がゼロであるとき(図1の右方のバネ要素16の状態)に撓み量がほぼゼロである状態となり、ポペット弁部材7と従動部材15との相対変位が最大変位であるとき(図1の左方のバネ要素16の状態)に撓み量が最大である状態となるように設定されている。
【0023】
本実施形態のカム機構4は、弁バネ力に依存しない確動型のものである。本実施形態のカム機構4は、二つのポペット弁要素3を共に駆動するカム部材24を有する。即ち、本実施形態では、同様構成のポペット弁要素3二つを、一つのカム部材24によって共に駆動させる構造をとっている。本実施形態では、カム部材24は、ポペット弁部材7の軸方向に直交する方向(図1中の左右方向)に移動可能になっている。カム部材24は、二つのポペット弁要素3の内一方のポペット弁要素3のバネ要素16の撓み量が増加するときに、他方のポペット弁要素3のバネ要素16の撓み量が減少するように、二つのポペット弁要素3を駆動するカム山25、26を有する。
【0024】
本実施形態では、ポペット弁部材7の軸方向両端を挟む形で上下二つのカム山25、26が一体的に一つのカム部材24に形成されることで、確動型のカム機構4を構成している。また、カム部材24とポペット弁部材7との間、カム部材24と従動部材15との間には、ボール27、28が介設されている。
【0025】
本実施形態では、カム部材24の下側のカム山26のカムプロフィールを、弁全開位置(図1の右方のポペット弁部材7の位置)から閉弁着座位置(図2の右方のポペット弁部材7の位置)までのポペット弁部材7の変位量を上回る変位量を従動部材15に与えるカムプロフィールとしている。このようにすることで、ポペット弁部材7が弁全開位置から閉弁着座位置に至るまでポペット弁部材7と従動部材15との相対変位はゼロであり、閉弁着座位置を超えて移動しようとする従動部材15が、閉弁着座位置以上には移動できないポペット弁部材7と従動部材15との間に介在させたバネ要素16を撓ませ、その閉弁着座位置以降増加するバネ要素16の撓み反力を、ポペット弁部材7をハウジング部材5に設けられた弁座Sに圧接する閉弁圧接力として利用する構造にしている。
【0026】
また、カム部材24の下側のカム山26のカムプロフィールを、ポペット弁部材7を開閉運動させる上で、そのポペット弁部材7の運動挙動を滑らかな動きにする加速度変化特性上好ましい、サインカーブ状の変化特性を従動部材15に与えるカムプロフィールとしておく。
【0027】
このような設定にしてやると、ポペット弁部材7の着座以降、カム部材24の下側のカム山26によって従動部材15が押し込まれる領域での、バネ要素16の撓み変位量は、カム部材24の変位量に対してサインカーブ状に移動する従動部材15の変位に従った変化特性となるから、そのバネ要素16の撓み反力はサインカーブ状の変化特性を辿る。
【0028】
このバネ要素16の撓み反力は、ポペット弁部材7と従動部材15との双方に作用し、従動部材15とカム部材24とのカム接触角に応じたバネ要素16の撓み反力の角分力が、カム部材24の移動方向に作用することになるが、この従動部材15とカム部材24とのカム接触角は、サインカーブ状のカムプロフィールによって、ポペット弁部材7及び従動部材15の変位に伴って変化していく。
【0029】
ここで、ポペット弁部材7と従動部材15との間に介在される弁バネ16のバネ定数をKsとし、ポペット弁部材7の閉弁着座位置を基準に、そこからの弁バネ最大撓み量をδmaxとし、この弁バネ最大撓み量を与える間のカム部材24の移動量をLtとして、弁バネ最大撓み位置を基点に、開弁方向にカム部材24を移動させていったときの変位Lに対する、カム部材24による弁バネ押し込み変位量δの変化特性を次式のように設定する。
【0030】
δ=δmax*cos(L*π/2/Lt)
カム部材24の変位Lに対する、カム部材24と従動部材15とのカム接触角θの変化特性は、変位δのL微分となるから、次式となる。
【0031】
θ=tan-1(−δmax*sin(L*π/2/Lt)*π/2/Lt)
弁バネ撓み反力Fsがカム部材24の移動方向に作用する推力Fcは、次式となる。
【0032】
Fc=Fs*tan(θ)=−Fs*δmax*sin(L*π/2/Lt)*π/2/Lt
そして、弁バネ撓み力Fsは、次式で表せる。
【0033】
Fs=δ*Ks=δmax*cos(L*π/2/Lt)*Ks
よって、カム部材24の移動推力Fcは、次式となる。
【0034】
Fc=−Fs*δmax*sin(L*π/2/Lt)*π/2/Lt
=−δmax*cos(L*π/2/Lt)*Ks*δmax*sin(L*π/2/Lt)*π/2/Lt
=−δmax^2*sin(L*π/2/Lt)*cos(L*π/2/Lt)*π/2/Lt*Ks
例えば、弁バネ最大撓み量δmaxを2mmとし、カム部材24の変位量Ltを3mmとし、弁バネ16のバネ定数Ksを8kg/mmとした場合、最大16kgの閉弁圧接力が得られる。カム部材24の変位に対する従動部材15の応動特性(閉弁→開弁)は図5に示すようになり、カム部材24と従動部材15とのカム接触角の変化特性(閉弁→開弁)は図6に示すようになり、バネ反力とそれによるカム移動負荷の変化特性(閉弁→開弁)は図7に示すようになる。
【0035】
また、カム部材24の変位に対する従動部材15の応動特性(開弁→閉弁)は図8に示すようになり、カム部材24と従動部材15とのカム接触角の変化特性(開弁→閉弁)は図9に示すようになり、バネ反力とそれによるカム移動負荷の変化特性(開弁→閉弁)は図10に示すようになる。
【0036】
つまり、弁バネ最大撓み位置から弁バネ撓みゼロ位置までカム部材24を動かす場合には、カム部材24の移動を促進する方向の推力がカム部材24に作用し、逆の場合には、移動負荷抵抗推力としてカム部材24に作用することになる。両者の動作タイミングを一致させた二つのポペット弁要素3を共に駆動するように構成すると、二つのバネ要素16の撓み反力の角分力が互いに相殺関係となり、カム部材24の移動操作の負荷をほぼゼロにすることができる(図11参照)。
【0037】
次に、本実施形態に係る方向制御弁装置1の作動を図1〜図4により説明する。
【0038】
本実施形態では、図1に示すように、カム部材24が右端の基準位置にあるとき、二つのポペット弁要素3の内、左方のポペット弁要素3に対するカム山26のカムプロフィールは、閉弁領域で弁バネ最大撓み位置にあるので、左方のポペット弁要素3はバネ要素16の最大撓み反力による圧接力によって閉弁しており、右方のポペット弁要素3に対するカム山26のカムプロフィールは弁全開位置にあり、右方のポペット弁要素3は開弁している。
【0039】
従って、図1に示す状態では、油圧回路Aと油圧回路Bとが右方の第一室8、右方の第三室10を通じて導通状態で、油圧回路Cは遮断状態にある。
【0040】
図1に示す状態からカム部材24を左方に(矢印D方向に)移動していくと、図2に示すように、まず右方のポペット弁要素3のポペット弁部材7がカム部材24のカム山26で押し上げられて閉弁着座位置に達する。図2に示す状態では、まだ右方のポペット弁要素3のバネ要素16は撓んでいないので、図1に示す状態から図2に示す状態までのカム部材24の移動に影響を与える力は摩擦抵抗力のみである。
【0041】
図2に示す状態から更にカム部材24を左方に移動していくと、図3に示すように、右方のポペット弁要素3のバネ要素16が撓み始めるので、カム部材24の移動方向の角分力が増加し始めるのであるが、それと同期して、左方のポペット弁要素3の従動部材15とカム部材24とのカム接触角が水平状態から傾いて、カム部材24の移動方向の負の角分力が増加し始めるので、これら二つのバネ要素16の撓み反力の角分力同士が相殺しあうこととなる。よって、カム部材24の移動に影響を与える力は摩擦抵抗力のみで図2に示す状態から図3に示す状態に至る。
【0042】
図3に示す状態は、両ポペット弁要素3共に閉弁着座位置にあるが、バネ要素16の撓み状態は、右方のポペット弁要素3が最大撓み状態で、左方のポペット弁要素3がゼロに到達した状態なので、図3に示す状態から更にカム部材24を左方に移動していく領域でも、カム接触角が水平状態となった右方のポペット弁要素3と、カム接触角が変化過程であるが撓み反力のない左方のポペット弁要素3の両方共に、バネ要素16の撓み反力の角分力が作用しないから、この領域でもやはり、摩擦抵抗力のみで図3に示す状態から図4に示す状態にまでカム部材24を移動させることができる。
【0043】
図4に示す状態は、図1に示す状態と逆の状態で、油圧回路Aと油圧回路Cとが左方の第一室8、連通ポート14、右方の第三室10を通じて導通状態で、油圧回路Bが遮断状態となっており、三系統の油圧回路の切換弁機能が達成される。
【0044】
以上の動作における、カム部材24の変位に対する、従動部材15の応動特性を図12に示し、ポペット弁部材7の開弁リフト量変化特性を図13に示し、弁バネ撓み量変化特性を図14に示し、カム部材24と従動部材15とのカム接触角変化特性を図15に示し、弁バネ撓み反力変化特性と、それによりカム部材24の移動方向力として作用する弁バネ撓み反力角分力の変化特性を図16に示す。
【0045】
このように、本実施形態によれば、二つのポペット弁要素3のバネ要素16によりカム部材24に作用する撓み反力の角分力を互いに相殺関係として、カム部材24の移動操作の負荷を低減することができるので、極めて僅かな制御操作力で制御可能で、閉弁時の漏れ損もない、理想的な方向制御弁装置1を実現することが可能になる。
【0046】
次に、他の実施形態に係る方向制御弁装置2について説明する。
【0047】
図1と同一構成には、同一符号を付して説明を省略し、相違点のみを説明する。
【0048】
図17に示すように、この実施形態では、ポペット弁部材7の第一棒部17にもバネ要素装着スペース(凹部)29が形成されており、このバネ要素装着スペース29に、別の従動部材30がポペット弁部材7の軸方向にスライド可能に装着されている。また、ポペット弁部材7と従動部材30との間には、ポペット弁部材7と従動部材30との相対変位に応じて撓み量が変化する別のバネ要素31が介在されている。
【0049】
ここで、本発明の原理において、二つのポペット弁要素3のバネ要素16が発生する撓み反力の角分力が互いに相殺関係となる条件として、開弁状態から閉弁方向にカム部材24を移動させていったときの、閉弁着座位置からサインカーブ状に増加していく弁バネ撓み量増加特性が、その最大撓み位置到達以降、撓み量変化がなくなるカムプロフィール特性の場合、従動部材15とポペット弁部材7との間に設置されるバネ要素16のセットフォースがゼロであって、そのバネ要素16のバネ定数が一定のリニア特性であることが求められる。
【0050】
しかし、このような部位に装着しやすい弁バネ16の形態として、一般的なコイルバネを想定すると、コイルバネの製造特性として、撓みゼロの自由状態付近と、コイル線間密着となる最大撓み状態付近の荷重撓み特性は、座巻部の形状精度の影響等でバラツキ易く、安定した特性を保証し難い。そのため、通常、安定した荷重撓み特性を求める場合には、最大撓み量の20〜80%の範囲内でコイルバネを使用することが推奨されている。
【0051】
つまり、このようなコイルバネの特性制約を踏まえて、最大撓み量の20%以上の初期撓みを与えて装着した場合、そのセットフォースがゼロにはなり得ず、二つのポペット弁要素3のバネ要素16が発生する撓み反力の角分力相殺関係が崩れてしまう。
【0052】
この対策としては、従動部材15とポペット弁部材7との間に装着するバネ要素16、31を二個直列状態で、一方の部材に設けたバネ要素装着スペース22、29内に20%以上の初期撓みを与えて装着し、その直列状態の二個のバネ要素16、31の接触境界部に、もう一方の部材が挟まれる形にしてやる方法が有効である(図17参照)。
【0053】
このような構造にしてやると、二個のバネ要素16、31のセットフォースが、二個のバネ要素16、31間に挟まれた部材に対して互いに相殺方向に作用して釣り合う結果、実質セットフォースゼロの弁バネと等価の特性を得ることができる。
【0054】
ちなみに、この場合のバネ定数特性は、二個のバネ要素16、31のバネ定数値の和となって作用するから、必要なバネ定数値に対して、それを発揮する二個のバネ要素16、31個々のバネ定数値は半分の低い値で済み、製造寸法バラツキに対するバネ撓み反力変化の影響感度が低くなることから、この面でも特性安定化に優位となる。
【0055】
この実施形態に係る方向制御弁装置2の作動を図17〜図21に示す。
【0056】
この実施形態においても、図17に示す状態から図21に示す状態までカム部材24を左方に移動していくことで、油圧回路Aと油圧回路Bとが導通状態で、且つ油圧回路Cが遮断状態にある図17に示す状態から、油圧回路Aと油圧回路Cとが導通状態で、且つ油圧回路Bが遮断状態となる図21に示す状態に切り換えることができる。
【0057】
図17に示す実施形態によっても、図1に示す実施形態と同様の効果を得ることができる。つまり、二つのポペット弁要素3のバネ要素16によりカム部材24に作用する撓み反力の角分力が互いに相殺関係となり、カム部材24の移動操作の負荷を低減することができるので、極めて僅かな制御操作力で制御可能で、閉弁時の漏れ損もない、理想的な方向制御弁装置2を実現することが可能になる。
【0058】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態には限定されず他の様々な実施形態を採ることが可能である。
【0059】
例えば、バネ要素(弁バネ)16、31を、ポペット弁部材7と従動部材15
、30との間に直接挿入するのではなく、ポペット弁部材7と従動部材15、30との間にリンク機構等を介在させて、そのリンク機構等の一部にバネ要素16、31のバネ力を作用させるようにしても良い。閉弁圧接力生成素子として、バネ力を利用する弁バネに依らず、磁力を利用する磁石等を用いても良い。要は、セットフォースがゼロで、バネ定数が一定のリニア特性と等価の角分力特性が得られれば、様々な応用変形形態が適用可能であることは言うまでもない。
【0060】
更に、上記実施形態では、二つのポペット弁要素3による三系統回路間を切り換える三回路切換弁ユニットの例で本発明の原理を説明したが、更に多くの多系統回路間を切り換える回路切換弁ユニットを構成する場合においても、その回路切換弁ユニットを構成する複数のポペット弁要素3の開閉タイミングの相互関係として、それら複数のポペット弁要素3の内二つのポペット弁要素3毎に、制御操作力の相殺関係が形成されるように構成すれば、全体としても上記の実施形態と同じ効果を得られることも勿論である。つまり、多系統の油圧回路間の導通関係を切り換える場合、四個以上の偶数個のポペット弁要素3の開閉制御によって切り換える方向制御弁装置として構成し、それら偶数個のポペット弁要素3各々の構成と、それらの動作タイミングの相互関係として、二つずつのポペット弁要素3間の動作関係に、上記実施形態の関係を適用することで、全体として操作力の低減を図ることができる。その場合、それら複数のポペット弁要素3に開閉運動を与えるカム機構4として、一つの中心軸回りの同心円上に各ポペット弁要素3を配置した弁ユニットブロックを挟む形で二枚のカムディスクを設置して、そのカムディスク同士を中心軸部材で一体的に連結することによって、カムディスクの回転運動によって各ポペット弁要素3の開閉を同期的に行わせることもできる。
【符号の説明】
【0061】
1 方向制御弁装置
2 方向制御弁装置
3 ポペット弁要素
4 カム機構
5 ハウジング部材
7 ポペット弁部材
15 従動部材
16 バネ要素(弁バネ)
24 カム部材
26 カム山
30 従動部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三系統以上の油圧回路間の導通関係を、複数のポペット弁要素の開閉制御によって切り換えると共に、カム機構を用いて、前記複数のポペット弁要素に開閉運動を与える方向制御弁装置であって、
前記複数のポペット弁要素の各々は、ハウジング部材内に設けられ、前記ハウジング部材内を軸方向に移動可能なポペット弁部材と、該ポペット弁部材に前記ポペット弁部材の軸方向に移動可能に装着され、制御入力部材となる前記カム機構による押し込みに応じて前記ポペット弁部材の軸方向に移動する従動部材と、前記ポペット弁部材と前記従動部材との間に介在され、前記ポペット弁部材と前記従動部材との相対変位に応じて撓み量が変化するバネ要素とを有し、
前記カム機構は、前記複数のポペット弁要素の内二つのポペット弁要素を共に駆動するカム部材を有し、
前記カム部材は、前記二つのポペット弁要素の内一方のポペット弁要素のバネ要素の撓み量が増加するときに、他方のポペット弁要素のバネ要素の撓み量が減少するように、前記二つのポペット弁要素を駆動するカム山を有することを特徴とする方向制御弁装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−58556(P2011−58556A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208442(P2009−208442)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】