説明

方向性電磁鋼板の製造ライン及び誘導加熱装置

【課題】設備を大型化させることなく、鉄損の少ない方向性電磁鋼板を製造することができる製造ラインを提供する。
【解決手段】方向性電磁鋼板を製造するための製造ラインにおいて、コイルボックス3と、誘導加熱装置4とを備える。コイルボックス3は、熱間圧延ラインの粗圧延工程2と仕上げ圧延工程5との間に設けられる。コイルボックス3は、トランスファーバーを、中心部が中空の円筒状に巻き取る。誘導加熱装置4は、コイルボックス3によって成形されたトランスファーコイル8bを、円筒状のまま加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、方向性電磁鋼板を製造するための製造ラインと、金属材料を誘導加熱するための誘導加熱装置とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図8は従来の熱間圧延ラインの要部を示す図である。
図8において、21は粗圧延工程、22はコイルボックス、23は仕上げ圧延工程である。スラブ24a(被圧延母材)は、加熱炉26(図8においては図示せず)において1250℃程度に加熱及び均熱された後、粗圧延工程21において圧延加工される。スラブ24aは、粗圧延工程21を通過することにより、その厚さが、百数十[mm]〜二百数十[mm]程度から、二十数[mm]〜四十数[mm]程度になる。
【0003】
コイルボックス22は、粗圧延工程21と仕上げ圧延工程23との間に備えられている。コイルボックス22は、粗圧延工程21において全ての圧延加工が終了した被圧延母材(トランスファーバー24b)を、中心部が中空の円筒状コイルに巻き取る機能を有している。また、コイルボックス22は、巻き取ったトランスファーバー24bを、仕上げ圧延工程23側に巻き戻す(送り出す)機能も有している。
【0004】
コイルボックス22は、トランスファーバー24bを均熱及び保温する目的で備えられたものである。粗圧延工程21後の仕上げ圧延工程23は、被圧延母材を加工する時間が、数分間程度と相対的に長い。また、被圧延母材(トランスファーバー24b)の熱エネルギーは、主に輻射によって失われる。コイルボックス22によってトランスファーバー24bを円筒状に巻き取ることにより、被圧延母材が外気に接する表面積を、板状の時よりも大幅に減少させることができる。コイルボックス22を備えることにより、仕上げ圧延工程23に入ろうとしているトランスファーバー24bの温度を、高温且つ均一に保つことができる。
【0005】
図9は従来の方向性電磁鋼板の製造ラインの要部を示す図である。図9は上記従来の熱間圧延ラインに、中間加熱炉25を追加したものに相当する。26は加熱炉である。
【0006】
方向性電磁鋼板は、鉄結晶の磁化容易軸を特定の方向に配向させた鋼板である。方向性電磁鋼板は、鉄損を低減させることができるため、例えば、変圧器等の電気機器の鉄心に使用される。
方向性電磁鋼板の従来技術として、例えば、下記特許文献1に記載のものがある。
【0007】
方向性電磁鋼板の素材となるスラブ24aを製造するためには、先ず、純鉄を融点以上に加熱して液体にする。次に、純鉄に珪素等の不純物を数[%]添加して攪拌し、その後、鋳造して固体化させる。この固体化させたものが、スラブ24aである。スラブ24aは、不純物の固溶限界が比較的高い面心立方格子や、不純物をほとんど固溶しない体心立方格子等の様々な結晶が混在する多結晶体である。このような状態のことを、固溶体と呼ぶ。また、鋳造後のスラブ24aを構成する多結晶の主成分のことを、母相結晶と呼ぶ。
【0008】
加熱炉26から抽出されたスラブ24aは、図9に示す熱間圧延ラインにおいて、圧延加工工程と配向制御工程とを経て、ホットコイルに形成される。なお、方向性電磁鋼板の製造ラインは、熱間圧延ラインと冷間圧延及び熱処理ラインとから構成されている。図9は、冷間圧延及び熱処理ラインの上流工程に位置づけられた熱間圧延ラインのみを示している。熱間圧延ラインでは、鉄結晶の磁化容易軸を可能な限り一方向に揃えるような配向制御を行いながら、被圧延母材を薄くしていく。そして、熱間圧延ラインの工程が終了すると、被圧延母材は、下流工程の冷間圧延及び熱処理ラインに供される。熱間圧延ラインで製造された半製品であるホットコイルに対しては、主に熱処理ラインにおいて、蚕食と呼ばれるプロセスが行われる。この蚕食プロセスでは、同じ方向の磁化容易軸を備えた結晶が、周囲のそれ以外の結晶を、自身と同構造の結晶へ転位させる。これにより、最終製品である鉄損の少ない方向性電磁鋼板を得ることができる。
【0009】
具体的に、加熱炉26から抽出されたスラブ24aは、先ず、熱間圧延ラインの粗圧延工程21において圧延加工される。スラブ24aは、圧延加工によって厚さ方向に圧縮歪が加えられると、結晶がスラブ24aの長さ方向に転位し、細粒化される。
【0010】
圧縮歪が加えられたスラブ24aを長時間放置すると、再結晶化と時効とにより、母相結晶が成長する。この時、スラブ24aの温度を適切に調整すると、固溶限界に達した添加不純物元素を多く含む結晶構造を、成長した母相結晶の周りに析出させることができ、これにより、同じ方向の磁化容易軸を備えた結晶を、選択的に成長させることができる。この工程のことを、配向制御工程(或いは、単に配向制御)と呼ぶ。
【0011】
配向制御工程は、中間加熱炉25において行われる。中間加熱炉25は、粗圧延工程21の途中、例えば、粗圧延工程21に備えられた一台目の圧延機27と二台目の圧延機27との間で配向制御を行うことができるように設けられている。加熱炉26から抽出されたスラブ24aは、粗圧延工程21の一台目の圧延機27による加工が終わると、中間加熱炉25に搬送される。
なお、配向制御工程前に行われる圧延加工のことを、予備圧延加工(その工程のことを予備圧延工程)と呼ぶ。
【0012】
配向制御工程において、スラブ24aは、中間加熱炉25内に比較的長い時間(例えば、数十分間)滞留される。このため、中間加熱炉25は、図8に示す熱間圧延ラインの外側に設置されることが多い。かかる構成であれば、スラブ24aが中間加熱炉25で加熱及び保温されている間、粗圧延工程21や仕上げ圧延工程23において、方向性電磁鋼板以外の品種(例えば、普通鋼等)の製造を行うことができる。また、加熱炉26の炉温度は、方向性電磁鋼板以外の品種の製造に適した温度、例えば、1250[℃]程度に設定される。これにより、ラインの稼働率を高めることが可能となる。
【0013】
一方、配向制御工程に適した温度は1300[℃]以上である。このため、方向性電磁鋼板用のスラブ24aは、加熱炉26で1250[℃]程度に加熱され、粗圧延工程21の一部で予備圧延加工が行われた(圧縮歪が加えられた)後、中間加熱炉25において再加熱され、1300[℃]以上の所望の温度に保持される。配向制御工程が終了すると、スラブ24aは、中間加熱炉25から粗圧延工程21に戻され、粗圧延工程21のパススケジュールの残りのパス数だけ、圧延加工される。
【0014】
図10は図9に示す中間加熱炉の構成図である。中間加熱炉25は、スラブ24aを、粗圧延工程21の途中の状態、即ち、板状の状態で、加熱及び保温する。図10に示す中間加熱炉25は、誘導加熱によってスラブ24aを加熱する方式のものである。
【0015】
中間加熱炉25は、例えば、加熱保温容器28、ソレノイドコイル29、高周波電力変換器30、装入機31、炉床32によって、その要部が構成される。
加熱保温容器28は、スラブ24aを内部に収容するためのものである。加熱保温容器28は、炉床32の上方に設けられている。炉床32は、装入機31によって上下方向に移動自在に支持されており、加熱保温容器28の底蓋を構成する。即ち、炉床32が装入機31によって上方に移動され、加熱保温容器28に下方から装着されると、加熱保温容器28の内部空間が密閉され、所定の気密性が確保される。ソレノイドコイル29は、加熱保温容器28の周囲に巻かれている。高周波電力変換器30は、ソレノイドコイル29に接続されている。
【0016】
スラブ24aは、予備圧延加工が終わると、上記構成の中間加熱炉25に搬送され、炉床32の上面に立てた状態で載せられる。中間加熱炉25では、炉床32にスラブ24aが載せられると、装入機31によって炉床32を上方に移動させ、スラブ24aを加熱保温容器28の内部に装入する。加熱保温容器28の下面側が炉床32によって閉じられると、加熱保温容器28の内部は、所定の気密性が確保される。
【0017】
スラブ24aが加熱保温容器28の内部に格納されると、中間加熱炉25では、高周波電力変換器30によってソレノイドコイル29を励磁して交番磁界を発生させ、スラブ24aに渦電流を生じさせる。これにより、スラブ24aは、加熱保温容器28の内部で加熱される。スラブ24aに渦電流を効率良く生じさせるためには、交番磁界の周波数は高い方が望ましい。しかし、周波数が高すぎると、表皮効果によって磁束がスラブ24aの内部まで浸透しないため、高周波電流は、300[Hz]程度に設定される。
また、スラブ24aの加熱時は、加熱保温容器28の内部を、不活性ガス或いは還元性ガスで満たし、スラブ24aの表面に酸化皮膜(スケール)が形成されることを防止する。
下記特許文献2には、中間加熱炉の従来技術が開示されている。
【0018】
配向制御工程が終了すると、スラブ24aが粗圧延工程21に戻され、粗圧延工程21において残りのパススケジュールが実施される。
粗圧延工程21において全ての粗圧延加工が終了すると、被圧延母材(トランスファーバー24b)は、コイルボックス22によって、中心部が中空の円筒状に巻き取られる。その後、被圧延母材は、コイルボックス22で巻き戻され、仕上げ圧延工程23側に供給される。
【0019】
仕上げ圧延工程23において、被圧延母材は、4乃至7スタンドで構成される連続仕上げ圧延機33によって、短時間に一気に仕上げ圧延加工される。これにより、被圧延母材の結晶の磁化容易軸が一方向に転位、配向される。仕上げ圧延工程23が終了すると、冷却速度を適切に制御しながら被圧延母材を水冷し、磁化容易軸を一方向に固定化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2006−265685号公報
【特許文献2】特開平6−17131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
図9に示す熱間圧延ラインにおいて、粗圧延工程21のパススケジュールは、一般的に5乃至7パス程度である。予備圧延加工のパス数を増やせば、配向制御工程後に行うパス数を減らすことができる。しかし、スラブ24aは、圧延加工が行われる度に長くなるため、予備圧延加工のパス数を増やすと、長大な中間加熱炉25を建設しなければならないといった問題があった。
【0022】
現実的には、気密性の高い長大な加熱保温容器28や、長大なソレノイドコイル29を製作することは困難である。このため、従来では、加熱保温容器28の炉長を15[m]程度にして、加熱保温容器28に装入するスラブ24aの長さを、最大11[m]程度としていた。
【0023】
なお、加熱炉26から抽出する際のスラブ24aの長さを短くすれば、予備圧延加工のパス数を増やして、配向制御工程後に行うパス数を減らすことができる。しかし、加熱炉26から抽出する際のスラブ24aの長さを短くすると、1つのスラブ24aから製造できる半製品(ホットコイル)の長さが短くなってしまう。更に、加熱炉26から抽出する際のスラブ24aの長さを短くしても、粗圧延工程21に要する時間はあまり短くならず、熱間圧延ラインの生産性が大幅に低下してしまう。このため、従来では、加熱炉26から抽出する際のスラブ24aの長さを極力長くし、予備圧延工程のパス数を(例えば、1パス程度に)制限していた。
【0024】
このため、従来では、配向制御工程において適切に配向された結晶の磁化容易軸が、その後の粗圧延加工によって、再びランダムな方向に転位してしまうことがあった。即ち、上記従来の製造方法では、鉄損の少ない方向性電磁鋼板の製造が困難になるといった問題があった。
【0025】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、設備を大型化させることなく、鉄損の少ない方向性電磁鋼板を製造することができる製造ラインを提供することである。
また、他の目的は、方向性電磁鋼板の製造ラインにおいて、上記効果を奏することが可能な誘導加熱装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
この発明に係る方向性電磁鋼板の製造ラインは、方向性電磁鋼板を製造するための製造ラインであって、熱間圧延ラインの粗圧延工程及び仕上げ圧延工程の間に設けられ、トランスファーバーを、中心部が中空の円筒状に巻き取るコイルボックスと、コイルボックスによって成形されたトランスファーコイルを、円筒状のまま加熱する誘導加熱装置と、を備えたものである。
【0027】
この発明に係る誘導加熱装置は、中心部が中空の円筒状に巻き取られた板状の金属材料を、円筒状のまま加熱する誘導加熱装置であって、金属材料の中空部及び外側に、金属材料の幅方向に沿って配置されるソレノイドコイルと、ソレノイドコイルを励磁して、金属材料を加熱する励磁手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0028】
この発明によれば、方向性電磁鋼板の製造ラインにおいて、設備を大型化させることなく、鉄損の少ない方向性電磁鋼板を製造することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の実施の形態1における方向性電磁鋼板の製造ラインの要部を示す図である。
【図2】図1の製造ラインに備えられた誘導加熱装置を示す斜視図である。
【図3】図1の製造ラインに備えられた誘導加熱装置を示す側面図である
【図4】図1の製造ラインに備えられた誘導加熱装置を示す背面図である。
【図5】図1の製造ラインに備えられた誘導加熱装置の動作を説明するための図である。
【図6】この発明の実施の形態2における方向性電磁鋼板の製造ラインの要部を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態2における誘導加熱装置の機能を説明するための図である。
【図8】従来の熱間圧延ラインの要部を示す図である。
【図9】従来の方向性電磁鋼板の製造ラインの要部を示す図である。
【図10】図9に示す中間加熱炉の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
添付の図面を参照して、本発明を詳細に説明する。各図において、同一又は相当する部分には、同一の符号を付している。以下の説明においては、重複する内容を、適宜簡略化或いは省略している。
【0031】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1における方向性電磁鋼板の製造ラインの要部を示す図である。
電磁鋼板には、方向性電磁鋼板と無方向性電磁鋼板とが存在する。図1は、方向性電磁鋼板を製造するための熱間圧延ラインを示している。方向性電磁鋼板は、鉄結晶の磁化容易軸を特定の方向に配向させた鋼板である。方向性電磁鋼板は、鉄損を低減させることができるため、例えば、変圧器等の電気機器の鉄心に使用される。方向性電磁鋼板の製造ラインは、上流側の熱間圧延ラインと、下流側の冷間圧延及び熱処理ラインとから構成される。本実施の形態では、熱間圧延ラインについてのみ説明し、冷間圧延及び熱処理ラインの説明については省略する。
【0032】
図1に示すように、熱間圧延ラインには、加熱炉1、粗圧延工程2、コイルボックス3、誘導加熱装置4、仕上げ圧延工程5、水冷装置6、コイラー7が備えられている。
方向性電磁鋼板の素材となるスラブ8a(被圧延母材)の製造方法は、従来と同様である。即ち、スラブ8aを製造するためには、先ず、純鉄を融点以上に加熱して液体にする。次に、純鉄に珪素等の不純物を数[%]添加して攪拌し、その後、鋳造して固体化させ、数[m]から十数[m]に切断する。
【0033】
具体的に、スラブ8aは、加熱炉1によって全体が1250[℃]程度に加熱及び均熱され、ライン(搬送機)上に抽出される。加熱炉1から抽出されたスラブ8aは、例えば、百数十[mm]から二百数十[mm]程度の厚さを有している。
【0034】
粗圧延工程2には、1スタンド或いは複数スタンドの圧延機9が備えられている。圧延機9は、可逆式のものでも良いし、非可逆的なものでも良い。複数スタンド(図1に示す例では、4スタンド)の圧延機9が備えられている場合は、可逆式のものと非可逆式のものとを組み合わせて粗圧延工程2を構成しても良い。
【0035】
スラブ8aは、粗圧延工程2においてパススケジュールの最終パスまで圧延加工されると、厚さが、二十数[mm]から四十数[mm]程度、長さが、数十[m]から百数十[m]程度になる。また、粗圧延工程2において最終パスまで圧延加工されると、被圧延母材は、その温度が、例えば、1000[℃]から1100[℃]程度にまで低下する。
粗圧延工程2で最終パスまで圧延加工された状態の被圧延母材のことを、トランスファーバーという。
【0036】
コイルボックス3は、粗圧延工程2と仕上げ圧延工程5との間に設けられている。コイルボックス3は、トランスファーバーを、中心部が中空の円筒状コイルに巻き取る機能を有している。また、コイルボックス3は、巻き取ったトランスファーバーを、仕上げ圧延工程5側に巻き戻す(送り出す)機能も有している。
【0037】
コイルボックス3は、粗圧延工程2における加工が終了した被圧延母材(トランスファーバー)を、均熱及び保温するために備えられている。コイルボックス3には、トランスファーバーを巻き取るためのマンドレル(芯棒)等が備えられていない。コイルボックス3は、板状のトランスファーバーを適切に回転させながら、中心部が中空の円筒状コイルに巻き取る。このため、コイルボックス3によって円筒状に巻き取られた被圧延母材(トランスファーバー)には、中心部に、軸方向(トランスファーバーの幅方向)に渡って、被圧延母材が存在しない空間(中空部)が形成されている。この中空部をコイルアイと呼ぶ。
コイルボックス3によって中心部が中空の円筒状に巻き取られた被圧延母材(トランスファーバー)のことを、トランスファーコイル8bという。
【0038】
誘導加熱装置4は、コイルボックス3によって成形されたトランスファーコイル8bを、円筒状のまま、加熱及び保温するためのものである。誘導加熱装置4では、誘導加熱によってトランスファーコイル8bを1350℃乃至1400℃程度に保ち、トランスファーコイル8b内で所望の結晶を成長させる。即ち、本熱間圧延ラインでは、誘導加熱装置4において、配向制御工程が行われる。
以下に、図2乃至図4も参照し、誘導加熱装置4の構成について具体的に説明する。
【0039】
図2は図1の製造ラインに備えられた誘導加熱装置を示す斜視図、図3はその側面図、図4はその背面図である。
誘導加熱装置4には、加熱保温容器10、搬送装置11、加熱器12が備えられている。
【0040】
加熱保温容器10は、トランスファーコイル8bを内部に収容するためのものである。加熱保温容器10には、トランスファーコイル8bを出し入れするための出入口(図示せず)が形成されている。また、加熱保温容器10には、上記出入口を開閉するための気密扉(図示せず)が設けられている。気密扉が適切に閉められると、加熱保温容器10の内部は、所定の気密性が確保される。トランスファーコイル8bは、気密扉が適切に閉められた状態で、加熱保温容器10の内部において、加熱及び保温される。
【0041】
誘導加熱装置4には、加熱保温容器10の内部を所定の雰囲気に保つための手段(雰囲気保持手段:図示せず)が備えられている。雰囲気保持手段は、トランスファーコイル8bを加熱及び保温する際に、トランスファーコイル8bの表面に酸化皮膜(スケール)が形成されることを防止するためのものである。雰囲気保持手段は、トランスファーコイル8bの加熱及び保温時に、例えば、加熱保温容器10の内部を真空にする、或いは、加熱保温容器10の内部を高温度の不活性ガス(例えば、窒素ガス)や還元ガス(例えば、水素ガス)で充満させる等の方法により、トランスファーコイル8bの表面にスケールが形成されることを防止する。
【0042】
搬送装置11は、コイルボックス3によって成形されたトランスファーコイル8bを、円筒状のまま、コイルボックス3から加熱保温容器10に搬送するためのものである。搬送装置11は、例えば、支持台13、レール14、クレードルロール15により、その要部が構成される。
【0043】
支持台13は、トランスファーコイル8bを支持するためのものである。支持台13には、その下面に、レール14上を転がる車輪16が回転自在に設けられている。即ち、支持台13は、トランスファーコイル8bを支持した状態で、レール14に沿って移動できるように構成されている。レール14は、コイルボックス3と加熱保温容器10との間に敷設されている。本実施の形態では、加熱保温容器10の内部にもレール14を敷設している。このため、本実施の形態では、支持台13は、コイルボックス3と加熱保温容器10の内部との間をレール14に沿って移動する。また、トランスファーコイル8bは、支持台13に支持された状態で加熱及び保温される。
【0044】
クレードルロール15は、支持台13がトランスファーコイル8bを支持する際に、トランスファーコイル8bが実際に載せられる部分を構成する。クレードルロール15は、支持台13に回転自在に設けられている。本実施の形態では、一対のクレードルロール15が、支持台13の上面に、水平且つ平行で同じ高さに、所定の間隔を空けて設置されている。かかる構成のクレードルロール15を備えた搬送装置11では、図2乃至図4に示されているように、トランスファーコイル8bは、軸方向(図3における左右方向)がクレードルロール15の軸方向と一致するように配置される。また、トランスファーコイル8bは、クレードルロール15間に最下部が配置されるように、双方のクレードルロール15上に均等に載せられる。
【0045】
搬送装置11には、クレードルロール15を駆動するための駆動装置(図示せず)が備えられている。駆動装置は、トランスファーコイル8bの加熱時に、クレードルロール15を駆動(回転)させ、トランスファーコイル8bを回転させる。トランスファーコイル8bは、クレードルロール15と軸方向が一致し、且つその外周面がクレードルロール15の外周面に接触するようにクレードルロール15上に載せられている。このため、トランスファーコイル8bは、クレードルロール15が回転することにより、その中空部を中心として、クレードルロール15の回転方向とは反対方向に回転する。
【0046】
加熱器12は、加熱保温容器10の内部において、トランスファーコイル8bを、搬送装置11のクレードルロール15上に載せた状態で、加熱及び保温するためのものである。加熱器12は、ソレノイドコイル17、支持装置18、高周波電力変換器19(励磁手段)により、その要部が構成される。
【0047】
ソレノイドコイル17は、トランスファーコイル8bを加熱及び保温する際に、図2に示すように、トランスファーコイル8bの上側に配置される部分の周囲を取り囲むように配置される。
【0048】
具体的に、ソレノイドコイル17は、その一部が、トランスファーコイル8bの軸中心に形成された中空部(コイルアイ)を貫通するように、上記中空部に、トランスファーコイル8bの幅方向に沿って水平に配置される。また、ソレノイドコイル17は、トランスファーコイル8bの両側方で上記一部から上方側に配置され、トランスファーコイル8bの上方において、トランスファーコイル8b側に向かうように、再び水平に配置される。即ち、ソレノイドコイル17の他の一部は、トランスファーコイル8bの外周面との間に所定の間隙が形成されるように、トランスファーコイル8bの外周部の外側に、トランスファーコイル8bの幅方向に沿って水平に配置される。
【0049】
ソレノイドコイル17は、導電体17aと短絡器17bとに分割構成されている。導電体17aは、例えば、図3に示すように、側面視コ字状(横向きのU字状)を呈しており、一側に開口する。短絡器17bは、導電体17aに形成されている端部間を接続するためのものである。短絡器17bが導電体17aの端部間に適切に接続されることにより、導電体17a及び短絡器17bが一続きの螺旋状に形成される。即ち、この一続きの螺旋状に形成されたものがソレノイドコイル17である。
【0050】
ソレノイドコイル17(導電体17a、短絡器17b)は、支持装置18によって支持されている。支持装置18は、導電体17a及び短絡器17bの少なくとも一方を、クレードルロール15に載せられた状態のトランスファーコイル8bに対して、幅方向に移動自在となるように支持する。
高周波電力変換器19は、ソレノイドコイル17を励磁して、トランスファーコイル8bを加熱するためのものである。
【0051】
次に、上記構成を有する誘導加熱装置4の動作について説明する。
コイルボックス3によって成形されたトランスファーコイル8bは、コイルボックス3内に具備されている搬送装置11のクレードルロール15上で巻き取られる。支持台13は、トランスファーコイル8bがクレードルロール15上に載せられると、レール14上を移動して、トランスファーコイル8bを加熱保温容器10の内部に搬送する。トランスファーコイル8bが加熱保温容器10の内部に運ばれると、気密扉が閉められ、加熱保温容器10の内部に、例えば、高温度の窒素ガスが送り込まれる。
【0052】
加熱保温容器10の内部では、トランスファーコイル8bが搭載された支持台13が所定の位置に停止すると、導電体17aと短絡器17bとによってソレノイドコイル17が形成される。
【0053】
具体的に、トランスファーコイル8bは、一端面側から、支持装置18に固定された導電体17aに接近するように移動される。導電体17aは、最終的に、コ字状の下辺部分が、トランスファーコイル8bの中空部を貫通し、上辺部分が、トランスファーコイル8bの上方を横切るように配置される。また、短絡器17bは、支持装置18により、トランスファーコイル8bの他端面側から、トランスファーコイル8bに接近するように移動され、導電体17aの各端部間に接続される。これにより、トランスファーコイル8bの上側に配置される部分の周囲を取り囲むようにソレノイドコイル17が形成され、閉じた電気回路が形成される。
【0054】
導電体17aが短絡器17bによって適切に短絡され、且つ、加熱保温容器10の内部が高温度の窒素ガスで満たされると、高周波電力変換器19により、上記閉回路となったソレノイドコイル17が、例えば、数百[Hz]程度の高周波電流で励磁される。これにより、トランスファーコイル8bの円周方向(図4に示す矢印A方向)に交番磁界が発生し、トランスファーコイル8b内に渦電流が生じてトランスファーコイル8bが加熱される。
【0055】
トランスファーコイル8bの加熱時、駆動装置は、クレードルロール15を駆動して、トランスファーコイル8bをクレードルロール15上で回転させる。なお、トランスファーコイル8bが一対のクレードルロール15上に均等に載せられ、且つ、ソレノイドコイル17とトランスファーコイル8bとの間には十分な間隙が形成されているため、トランスファーコイル8bをクレードルロール15上で回転させても、トランスファーコイル8bがソレノイドコイル17に接触することはない。
そして、かかる状態でトランスファーコイル8bを適切な温度に保ち、同じ方向の磁化容易軸を備えた結晶を、トランスファーコイル8b内で選択的に成長させる
【0056】
トランスファーコイル8bの加熱を開始してから所定時間が経過し、加熱及び保温工程(即ち、配向制御工程)が終了すると、短絡器17bが導電体17aから外される。また、トランスファーコイル8bが、支持台13によって、加熱保温容器10からコイルボックス3に搬送される。トランスファーコイル8bがコイルボックス3の所定位置に戻されると、コイルボックス3では、所定のアンコイリング機構によってトランスファーコイル8bを巻き戻す。これにより、被圧延母材が仕上げ圧延工程5に供給される。
【0057】
なお、図5は図1の製造ラインに備えられた誘導加熱装置の動作を説明するための図である。図5において、11aは連結器11bによって搬送装置11に連結された待機クレードルロール及び支持装置である。図5は、トランスファーコイル8bの加熱中(図5(a))及び巻取中(図5(b))の状態を示している。
【0058】
仕上げ圧延工程5には、例えば、4乃至7スタンドで構成された連続仕上げ圧延機20が備えられている。また、水冷装置6は、仕上げ圧延工程5の下流側に設けられている。コイルボックス3から供給された被圧延母材は、連続仕上げ圧延機20によって、短時間で一気に所望の板厚まで圧延される。また、仕上げ圧延加工が行われた被圧延母材は、水冷装置6によって、冷却速度を適切に制御しながら水冷されることにより、結晶の磁化容易軸が固定化される。
【0059】
水冷装置6によって適切に冷却された被圧延母材は、コイラー7によって巻き取られ、その後、下流の冷間圧延及び熱処理ラインへと搬送される。
【0060】
上記構成の製造ラインであれば、熱間圧延ラインにおいて設備を大型化させることなく、鉄損の少ない方向性電磁鋼板を製造することができるようになる。
【0061】
即ち、上記構成の誘導加熱装置4であれば、トランスファーコイル8bを、円筒状のまま加熱して、配向制御に適した温度に保つことができるため、配向制御工程を、粗圧延工程2のパススケジュールが完全に終了した後に実施することができる。このため、従来のように、配向制御工程において適切に配向制御された結晶の磁化容易軸が、その後の粗圧延加工によって再びランダムな方向に転位してしまうようなことはなく、鉄損の少ない方向性電磁鋼板を製造することが可能となる。
【0062】
また、上記構成の誘導加熱装置4であれば、トランスファーコイル8bを、円筒状のまま加熱することができるため、加熱炉1から抽出する際のスラブ8aの長さを長くしても、加熱保温容器10を長大にする必要がない。このため、熱間圧延ラインの生産性を損なうことなく、誘導加熱装置4を小型化させることができる。
【0063】
図10に示すような従来の中間加熱炉25(誘導加熱装置)では、ソレノイドコイル29が加熱保温容器28の周囲を取り巻くように配置されていた。かかる構成では、高周波電力変換器30によってソレノイドコイル29を励磁すると、スラブ24a、炉床32、外気中を通るように磁束が発生してしまう。空気中は磁気抵抗が大きいため、磁束の一部が無限遠に漏れてしまう、或いは、周辺の他の金属中を通り、それらを加熱してしまう。このため、従来の中間加熱炉25では、スラブ24aを効率的に加熱することができないといった問題があった。
【0064】
また、従来の中間加熱炉25では、炉床32が渦電流によって加熱されることを防止するため、炉床32を、非磁性で耐熱性が高い素材であり、且つ、重量の大きいスラブ24aを載せても挫屈しないような強度を備えた特殊な材質で構成しなければならなかった。
更に、従来の中間加熱炉25では、スラブ24aの四方を完全に取り囲むようにソレノイドコイル29を配置しなければならず、大きなソレノイドコイル29が必要になるといった問題もあった。
【0065】
上記構成の誘導加熱装置4であれば、このような種々の問題を解決することができる。
即ち、誘導加熱装置4では、ソレノイドコイル17が、トランスファーコイル8bの上側に配置される部分の周囲を取り囲むように配置される。このため、高周波電力変換器19によってソレノイドコイル17が励磁されると、磁束は、トランスファーコイル8bの円周方向(図4に示す矢印A方向)に発生し、磁気抵抗が小さい金属による閉じた磁気回路を形成することができる。即ち、上記構成の誘導加熱装置4であれば、漏れ磁束を低減させて、トランスファーコイル8bを効率的に加熱することができる。
【0066】
また、磁束の大半がトランスファーコイル8bの内部を通るため、高周波電力変換器19によってソレノイドコイル17を励磁しても、クレードルロール15には渦電流がほとんど発生しない。このため、クレードルロール15を特殊な材質で構成する必要はなく、誘導加熱装置4を安価に構成することができる。
更に、従来のように、板状を呈する被圧延母材の周囲にソレノイドコイル17を配置する訳ではないため、ソレノイドコイル17が大型化することもない。小さなソレノイドコイル17であれば、絶縁耐力を高くすることも容易である。
【0067】
上記構成の誘導加熱装置4では、クレードルロール15によって、トランスファーコイル8bを回転させながら加熱及び保温している。このため、トランスファーコイル8bの全体を均等に加熱することができ、トランスファーコイル8bに温度ムラが生じる恐れもない。
【0068】
なお、従来の中間加熱炉25では、スラブ24aを炉床32の上に載せ、スラブ24aを立てた状態で加熱していた。炉床32は、上述したように、特殊材質で構成されているため、スラブ24aの加熱時も比較的低温に保たれる。このため、従来の中間加熱炉25では、スラブ24aに接触している炉床32からスラブ24aの熱が逃げてしまい、スラブ24aの幅方向の温度分布が不均一になるといった問題があった。スラブ24aが均等に加熱されなければ、適切な配向制御が実施できなくなってしまう。
【0069】
上記構成の誘導加熱装置4であれば、このような問題が生じることもない。即ち、誘導加熱装置4では、クレードルロール15によって、トランスファーコイル8bを回転させながら加熱及び保温するため、トランスファーコイル8bの幅方向及び長さ方向(トランスファーバーの長さ方向)の何れにおいても、温度分布を一様にすることができる。
【0070】
本実施の形態では、搬送装置11の支持台13上でトランスファーコイル8bを加熱及び均熱する場合について説明した。しかし、これは一例を示したものであり、加熱保温容器10の内部において、トランスファーコイル8bを支持台13から加熱用の固定台(支持台)に移しても良い。かかる場合、上記クレードルロール15は、上記加熱用の固定台に回転自在に設けられ、駆動装置によって駆動される。
【0071】
実施の形態2.
図6はこの発明の実施の形態2における方向性電磁鋼板の製造ラインの要部を示す図である。図6は、加熱保温容器10の内部を示している。
【0072】
実施の形態1において説明したように、粗圧延工程2においてパススケジュールの最終パスまで圧延加工されたトランスファーバーは、厚さが、二十数[mm]から四十数[mm]程度になる。トランスファーバーがコイルボックス3によって巻き取られると、その端部8c(尾端部)が、トランスファーコイル8bの外周部(最外部)に配置される。即ち、コイルボックス3によって円筒状に成形されたトランスファーコイル8bには、その外周部(の上記端部8cの位置)に、トランスファーバーの厚さ分の段差が形成されてしまう。
【0073】
本実施の形態では、図6に示すように、搬送装置11の支持台13に、3つ以上のクレードルロール15が回転自在に設けられている。以下においては、一例として、支持台13に4つのクレードルロール15a乃至15dが設けられている場合について説明する。
【0074】
クレードルロール15a乃至15dの機能自体は、実施の形態1と同様である。
即ち、クレードルロール15a乃至15dは、支持台13がトランスファーコイル8bを支持する際に、トランスファーコイル8bが実際に載せられる部分を構成する。クレードルロール15a乃至15dは、支持台13の上面に、水平且つ平行に配置されている。また、内側の一対のクレードルロール15b及び15cが同じ高さに配置され、外側の一対のクレードルロール15a及び15dが、クレードルロール15b及び15cよりも僅かに高い位置で同じ高さに配置されている。
【0075】
かかる構成のクレードルロール15a乃至15dを備えた搬送装置11では、図6に示されているように、トランスファーコイル8bは、軸方向がクレードルロール15a乃至15dの各軸方向と一致するように配置される。また、トランスファーコイル8bは、クレードルロール15b及び15c間に最下部が配置されるように、左右均等に各クレードルロール15a乃至15d上に載せられる。なお、端部8cが上方位置に配置されている場合は、クレードルロール15a乃至15dの全てがトランスファーコイル8bに接触する。
【0076】
搬送装置11に備えられた駆動装置は、トランスファーコイル8bの加熱時に、クレードルロール15a乃至15dを駆動(回転)させ、トランスファーコイル8bを回転させる。トランスファーコイル8bは、クレードルロール15a乃至15dと軸方向が一致し、且つその外周面がクレードルロール15a乃至15dの外周面に接触するようにクレードルロール15a乃至15d上に載せられている。このため、トランスファーコイル8bは、クレードルロール15a乃至15dが回転することにより、その中空部を中心として、クレードルロール15a乃至15dの回転方向とは反対方向に回転する。
【0077】
また、クレードルロール15a乃至15dは、トランスファーコイル8b(の外周面)に接触する位置と、接触しない位置とに移動可能に構成されている。駆動装置は、トランスファーコイル8bの加熱時に、トランスファーコイル8bの外周部に配置された(被圧延母材)の端部8cがクレードルロール15a乃至15dに接触しないように、上記端部8cの位置に合わせて、クレードルロール15a乃至15dをトランスファーコイル8bから離隔させる。
【0078】
図7はこの発明の実施の形態2における誘導加熱装置の機能を説明するための図である。図7に示すように、駆動装置は、トランスファーコイル8bの加熱時に、例えば、クレードルロール15a乃至15dを一側(図7では時計回り)に回転させることにより、トランスファーコイル8bを他側(図7では反時計回り)に回転させる。
【0079】
駆動装置は、トランスファーコイル8bが回転して端部8cがクレードルロール15aに接近すると、端部8cがクレードルロール15aの位置に到達する前に、クレードルロール15aを外側(下方側)に移動させて、トランスファーコイル8bから離す(図7(a))。この時、クレードルロール15b乃至15dは、トランスファーコイル8bに接触しており、トランスファーコイル8bを回転させている。
【0080】
その後、端部8cがクレードルロール15aの位置を通過すると、駆動装置は、クレードルロール15aを内側(上方側)に移動させて、トランスファーコイル8bに接触させる。これにより、クレードルロール15aの回転力がトランスファーコイル8bに伝わるようになる。
【0081】
クレードルロール15b乃至15dについても上記と同様である。
即ち、駆動装置は、トランスファーコイル8bが回転して端部8cがクレードルロール15bに接近すると、端部8cがクレードルロール15bの位置に到達する前に、クレードルロール15bを外側に移動させて、トランスファーコイル8bから離す(図7(b))。この時、クレードルロール15a、15c、15dは、トランスファーコイル8bに接触しており、トランスファーコイル8bを回転させている。そして、端部8cがクレードルロール15bの位置を通過すると、駆動装置は、クレードルロール15bを内側に移動させて、トランスファーコイル8bに接触させる。
【0082】
図7(c)はクレードルロール15cを外側に移動させて、トランスファーコイル8bから離した状態を、図7(d)は、クレードルロール15dを外側に移動させて、トランスファーコイル8bから離した状態を示している。
【0083】
トランスファーコイル8bは、非常に大きな重量を有するため、端部8cが、例えば、クレードルロール15aに接触したまま乗り越えると、クレードルロール15aやソレノイドコイル17、加熱保温容器10等に大きな衝撃が作用してしまう。また、トランスファーコイル8bの外周部も損傷してしまう。上記構成の誘導加熱装置4であれば、端部8cによって生じるトランスファーコイル8bの上下動を低減させることができ、トランスファーコイル8bの回転を安定させて、誘導加熱装置4に作用する負荷を大幅に低減させることができる。
【0084】
その他は、実施の形態1と同様の構成を有している。
【符号の説明】
【0085】
1、26 加熱炉
2、21 粗圧延工程
3、22 コイルボックス
4 誘導加熱装置
5、23 仕上げ圧延工程
6 水冷装置
7 コイラー
8a、24a スラブ
8b トランスファーコイル
8c 端部
9、27 圧延機
10、28 加熱保温容器
11 搬送装置
11a 待機クレードルロール及び支持装置
11b 連結器
12 加熱器
13 支持台
14 レール
15、15a、15b、15c、15d クレードルロール
16 車輪
17、29 ソレノイドコイル
17a 導電体
17b 短絡器
18 支持装置
19、30 高周波電力変換器
20、33 連続仕上げ圧延機
24b トランスファーバー
25 中間加熱炉
31 装入機
32 炉床

【特許請求の範囲】
【請求項1】
方向性電磁鋼板を製造するための製造ラインであって、
熱間圧延ラインの粗圧延工程及び仕上げ圧延工程の間に設けられ、トランスファーバーを、中心部が中空の円筒状に巻き取るコイルボックスと、
前記コイルボックスによって成形されたトランスファーコイルを、円筒状のまま加熱する誘導加熱装置と、
を備えた方向性電磁鋼板の製造ライン。
【請求項2】
前記誘導加熱装置は、
前記トランスファーコイルの中空部と外周部の外側とに、前記トランスファーコイルの幅方向に沿って配置されるソレノイドコイルと、
前記ソレノイドコイルを励磁して、前記トランスファーコイルを加熱する励磁手段と、
を備えた請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造ライン。
【請求項3】
前記誘導加熱装置は、
前記ソレノイドコイルを支持する支持装置と、
を備え、
前記ソレノイドコイルは、
側面視コ字状を呈し、一側に開口する導電体と、
前記導電体の端部間に接続されることにより、前記導電体とともに一続きの螺旋状に形成される短絡器と、
を備え、
前記支持装置は、前記導電体及び前記短絡器の一方を、前記トランスファーコイルの幅方向に移動可能に支持する請求項2に記載の方向性電磁鋼板の製造ライン。
【請求項4】
前記誘導加熱装置は、
支持台と、
前記支持台に回転自在に設けられ、前記トランスファーコイルが載せられるクレードルロールと、
前記クレードルロールを駆動するための駆動装置と、
を備え、
前記駆動装置は、前記トランスファーコイルの加熱時に、前記クレードルロールを駆動して前記トランスファーコイルを回転させる請求項1から請求項3の何れかに記載の方向性電磁鋼板の製造ライン。
【請求項5】
前記支持台に、複数の前記クレードルロールが回転自在に設けられ、
前記駆動装置は、前記トランスファーコイルの加熱時に、前記クレードルロールを駆動して前記トランスファーコイルを回転させるとともに、前記トランスファーコイルの外周部に配置された母材の端部が前記クレードルロールに接触しないように、前記端部の位置に合わせて前記クレードルロールを前記トランスファーコイルから離隔させる
請求項4に記載の方向性電磁鋼板の製造ライン。
【請求項6】
前記誘導加熱装置は、
前記トランスファーコイルを内部に収容可能な加熱保温容器と、
前記トランスファーコイルを、円筒状のまま、前記コイルボックスから前記加熱保温容器の内部に搬送する搬送装置と、
を備えた請求項1から請求項3の何れかに記載の方向性電磁鋼板の製造ライン。
【請求項7】
前記搬送装置は、
前記コイルボックスと前記加熱保温容器の内部との間を移動する支持台と、
前記支持台に回転自在に設けられ、前記トランスファーコイルが載せられるクレードルロールと、
前記クレードルロールを駆動するための駆動装置と、
を備え、
前記駆動装置は、前記トランスファーコイルの加熱時に、前記クレードルロールを駆動して前記トランスファーコイルを回転させる請求項6に記載の方向性電磁鋼板の製造ライン。
【請求項8】
前記誘導加熱装置は、
前記トランスファーコイルの表面にスケールが形成されることを防止するため、前記トランスファーコイルの加熱時に、前記加熱保温容器の内部を所定の雰囲気に保つ雰囲気保持手段と、
を備えた請求項6に記載の方向性電磁鋼板の製造ライン。
【請求項9】
中心部が中空の円筒状に巻き取られた金属材料を、円筒状のまま加熱する誘導加熱装置であって、
前記金属材料の中空部と外周部の外側とに、前記金属材料の幅方向に沿って配置されるソレノイドコイルと、
前記ソレノイドコイルを励磁して、前記金属材料を加熱する励磁手段と、
を備えた誘導加熱装置。
【請求項10】
前記ソレノイドコイルを支持する支持装置と、
を備え、
前記ソレノイドコイルは、
側面視コ字状を呈し、一側に開口する導電体と、
前記導電体の端部間に接続されることにより、前記導電体とともに一続きのコイル状に形成される短絡器と、
を備え、
前記支持装置は、前記導電体及び前記短絡器の一方を、前記金属材料の幅方向に移動可能に支持する請求項9に記載の誘導加熱装置。
【請求項11】
支持台と、
前記支持台に回転自在に設けられ、前記金属材料が載せられるクレードルロールと、
前記クレードルロールを駆動するための駆動装置と、
を備え、
前記駆動装置は、前記金属材料の加熱時に、前記クレードルロールを駆動して前記金属材料を回転させる請求項9又は請求項10に記載の誘導加熱装置。
【請求項12】
前記支持台に、複数の前記クレードルロールが回転自在に設けられ、
前記駆動装置は、前記金属材料の加熱時に、前記クレードルロールを駆動して前記金属材料を回転させるとともに、外周部に配置された前記金属材料の端部が前記クレードルロールに接触しないように、前記端部の位置に合わせて前記クレードルロールを前記金属材料から離隔させる
請求項11に記載の誘導加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−35028(P2013−35028A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173163(P2011−173163)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】