説明

方向性電磁鋼板の製造方法

【課題】製品コイル全長に亘って二次再結晶粒を細粒化し、低鉄損化することができる方向性電磁鋼板の製造方法を提案する。
【解決手段】C:0.001〜0.20%、Si:1.0〜5.0%、Mn:0.03〜1.0%、SおよびSeの1種または2種の合計:0.005〜0.040%、sol.Al:0.003〜0.050%、N:0.0010〜0.020%を含有する鋼スラブを熱間圧延し、冷間圧延を施して最終板厚とし、一次再結晶焼鈍し、その後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布して最終仕上焼鈍を施す方向性電磁鋼板の製造方法において、上記一次再結晶焼鈍の昇温過程における300〜600℃間の昇温速度Sを100℃/s以上、600〜700℃間の昇温速度Sを30〜(0.5×S)℃/sの範囲とし、好ましくは300〜700℃における雰囲気の酸化ポテンシャルPH2O/PH2を0.05以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板の製造方法に関し、具体的には、製品コイルの全長に亘って鉄損特性に優れる方向性電磁鋼板の有利な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁鋼板には、大別して、方向性電磁鋼板と無方向性電磁鋼板とがあり、変圧器や発電機等の鉄心材料として広く用いられている。特に、前者の方向性電磁鋼板は、結晶方位がゴス方位と呼ばれる{110}<001>方位に高度に集積しているため、変圧器や発電機におけるエネルギーロスを低減するのに有効な磁気特性を有している。従来、方向性電磁鋼板の鉄損を低減する技術としては、板厚の低減や、Si含有量の増加、結晶方位の配向性向上、鋼板への張力付与、鋼板表面の平滑化、二次再結晶粒の細粒化などが知られている。
【0003】
上記鉄損低減技術のうちで、二次再結晶粒を微細化する技術としては、脱炭焼鈍時に急速加熱する方法や、脱炭焼鈍直前に急速加熱処理し、一次再結晶集合組織を改善する方法が知られている。例えば、特許文献1には、最終板厚まで圧延されたストリップを脱炭焼鈍する前に、雰囲気酸素濃度500ppm以下で、加熱速度100℃/秒以上で800〜950℃に急速加熱処理し、脱炭焼鈍工程の前部領域の温度を急速加熱での到達温度よりも低い775〜840℃とし、引き続く後部領域の温度を前部領域よりも高い815〜875℃で脱炭焼鈍を施すことで低鉄損の方向性電磁鋼板を得る技術が、特許文献2には、最終板厚まで圧延されたストリップを脱炭焼鈍する直前に、PHO/PHが0.2以下の非酸化性雰囲気中で100℃/秒以上の加熱速度で700℃以上の温度へ加熱処理することにより、低鉄損の方向性電磁鋼板を得る技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、脱炭焼鈍工程の昇温段階の少なくとも600℃以上の温度域を95℃/s以上の昇温速度で800℃以上に加熱し、かつ、この温度域の雰囲気が体積分率で10−6〜10−1の酸素を含有する不活性ガスで構成され、脱炭焼鈍の均熱時における雰囲気の構成成分をHとHOもしくはH、HOと不活性ガスとし、かつ、HO分圧のH分圧に対する比PHO/PHを0.05〜0.75とし、また、単位面積当り雰囲気流量を、0.01Nm/min・mから1Nm/min・mの範囲とする皮膜特性と磁気特性に優れる電磁鋼板を得る技術が、また、特許文献4には、脱炭焼鈍工程の昇温段階の少なくとも650℃以上の温度域を100℃/s以上の昇温速度で800℃以上に加熱し、かつこの温度域の雰囲気を体積分率で10−6〜10−2の酸素を含有する不活性ガスとし、一方、脱炭焼鈍の均熱時における雰囲気の構成成分をHとHO、もしくはHとHOと不活性ガスとし、かつHO分圧のH分圧に対する比PHO/PHを0.15〜0.65とすることで皮膜特性と磁気特性に優れる方向性電磁鋼板を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−298653号公報
【特許文献2】特開平07−062436号公報
【特許文献3】特開2003−027194号公報
【特許文献4】特開2000−204450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1〜4に記載された技術を適用することによって、それなりに二次再結晶粒が細粒化され、鉄損の低減を図ることができる。しかしながら、上記従来技術では、素材成分の変動や一次再結晶焼鈍以前の工程における製造条件の変動等の影響を受けて、製品コイル内での細粒化効果にばらつきがあり、製品コイルの全長に亘って安定的に鉄損低減効果を得ることが難しいという問題があった。
【0007】
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、製品コイル全長に亘って安定的に二次再結晶粒を細粒化し、もって、コイル全長に亘って低鉄損化することができる方向性電磁鋼板の製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上記課題を解決するべく、一次再結晶焼鈍における昇温過程に着目し、製品コイル全長に亘って安定的に二次再結晶粒を細かくする技術を追求した結果、一次再結晶焼鈍の昇温過程を低温域と高温域とに分け、低温域を急速昇温するとともに、高温域では逆に昇温速度を緩めてやることが有効であることを知見した。すなわち、一次再結晶の昇温速度を高めることで二次再結晶粒が細粒化することは従来から知られているが、発明者らは、さらに検討した結果、一次再結晶焼鈍の昇温過程において、回復が起こる低温域の昇温速度を、通常の脱炭焼鈍における昇温速度よりも高くしてやるとともに、一次再結晶が起こる高温域の昇温速度を、上記低温域の昇温速度の50%以下とすることで、素材成分や前工程の製造条件の変動があっても、製品コイル全長に亘って安定して二次再結晶粒を微細化することができることを知見し、本発明を開発するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、C:0.001〜0.20mass%、Si:1.0〜5.0mass%、Mn:0.03〜1.0mass%、SおよびSeのうちから選ばれる1種または2種の合計:0.005〜0.040mass%、sol.Al:0.003〜0.050mass%、N:0.0010〜0.020mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成の鋼スラブを熱間圧延し、1回もしくは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚とし、一次再結晶焼鈍し、その後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布して最終仕上焼鈍を施す方向性電磁鋼板の製造方法において、上記一次再結晶焼鈍の昇温過程における300〜600℃間の昇温速度Sを100℃/s以上、600〜700℃間の昇温速度Sを30〜(0.5×S)℃/sの範囲とすることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法である。
【0010】
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、上記一次再結晶焼鈍の昇温過程の300〜700℃間における雰囲気の酸化ポテンシャルPH2O/PH2を0.05以下とすることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、上記成分組成に加えてさらに、Cu:0.01〜0.2mass%、Ni:0.01〜0.5mass%、Cr:0.01〜0.5mass%、Sb:0.01〜0.1mass%、Sn:0.01〜0.5mass%、Mo:0.01〜0.5mass%およびBi:0.001〜0.1mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、上記成分組成に加えてさらに、B:0.001〜0.01mass%、Ge:0.001〜0.1mass%、As:0.005〜0.1mass%、P:0.005〜0.1mass%、Te:0.005〜0.1mass%、Nb:0.005〜0.1mass%、Ti:0.005〜0.1mass%およびV:0.005〜0.1mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、方向性電磁鋼板の製品コイル全長に亘って二次再結晶粒を細粒化し、低鉄損化することができるので、製品歩留まりを大幅に向上することができると共に、変圧器等の鉄損特性の向上にも大きく寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の方向性電磁鋼板の成分組成について説明する。
C:0.001〜0.10mass%
Cは、ゴス方位粒の発生に有用な成分であり、かかる作用を有効に発揮させるためには0.001mass%以上の含有を必要とする。しかし、Cを0.10mass%超え添加すると、脱炭焼鈍しても脱炭不足を起こすようになるので、Cは0.001〜0.10mass%の範囲とする。
【0015】
Si:1.0〜5.0mass%
Siは、鋼の電気抵抗を高めて、鉄損を低減するとともに、鉄のBCC組織(フェライト組織)を安定化させて高温熱処理を可能とするのに必要な成分であり、少なくとも1.0mass%以上の添加を必要とする。しかし、5.0mass%を超えて添加すると、冷間圧延することが困難となる。よって、Siは1.0〜5.0mass%に限定した。
【0016】
Mn:0.01〜1.0mass%
Mnは、鋼の熱間脆性を防止するのに有効な成分であると共に、SやSeと結合してMnSやMnSe等の析出物を形成し、抑制剤(インヒビター)として作用する有用な成分である。しかし、Mnの含有量が0.01mass%より少ないと、上記効果が得られず、一方、1.0mass%を超えて添加すると、MnSe等の析出物が粗大化し、インヒビターとしての機能が失われるため、Mnは0.01〜1.0mass%の範囲とする。
【0017】
sol.Al:0.003〜0.050mass%
Alは、鋼中でAlNを形成し、分散第二相としてインヒビターの作用をする有用成分である。しかし、sol.Alとしての添加量が0.003mass%に満たないと、AlN析出量が十分に確保できないため上記効果が得られず、一方、0.050mass%を超えて添加すると、AlNが粗大化してインヒビターとしての作用が失われてしまう。よって、Alは、sol.Alで0.003〜0.050mass%の範囲とする。
【0018】
N:0.0010〜0.020mass%
Nは、Alと同様に、AlNを形成するために必要な成分である。しかし、N添加量が0.0010mass%を下回ると、十分なAlNが形成されないため、上記効果が得られず、一方、0.020mass%を超えて添加すると、スラブ加熱時にふくれ等を生じて表面欠陥を引き起こすようになる。よって、Nは0.001〜0.020mass%の範囲とする。
【0019】
SおよびSe:1種又は2種の合計で0.01〜0.05mass%
SおよびSeは、MnやCuと結合してMnSe,MnS,Cu2−xSe、Cu2−xSを形成して鋼中に分散第二相として析出し、インヒビター作用を発揮する有用成分である。しかし、SおよびSeの合計含有量が0.01mass%に満たないと、上記添加効果に乏しく、一方、0.05mass%を超えて添加すると、スラブ加熱時の固溶が不完全となる他、表面欠陥を引き起こす原因ともなる。よって、単独添加、複合添加のいずれの場合でも合計添加量は0.01〜0.05mass%の範囲とする。
【0020】
本発明の方向性電磁鋼板は、上記必須とする成分に加えてさらに、Cu:0.01〜0.2mass%、Ni:0.01〜0.5mass%、Cr:0.01〜0.5mass%、Sb:0.01〜0.1mass%、Sn:0.01〜0.5mass%、Mo:0.01〜0.5mass%およびBi:0.001〜0.1mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を添加することができる。
これらの元素は、いずれも結晶粒界や表面に偏析しやすい元素であり、補助的なインヒビターとして作用し、磁気特性のさらなる向上を図るのに有効な成分である。これらの元素の添加量が、上記下限値未満では、二次再結晶過程の高温域での一次粒の粗大化を抑制する効果が不足し、十分な添加効果が得られず、一方、上記上限値を超える添加は、被膜外観の不良や二次再結晶不良が発生しやすくする。よって、上記成分を添加する場合には、上記範囲とするのが好ましい。
【0021】
また、本発明の方向性電磁鋼板は、上記成分に加えてさらに、B:0.001〜0.01mass%、Ge:0.001〜0.1mass%、As:0.005〜0.1mass%、P:0.005〜0.1mass%、Te:0.005〜0.1mass%、Nb:0.005〜0.1mass%、Ti:0.005〜0.1mass%およびV:0.005〜0.1mass%から選ばれる1種または2種以上を添加することができる。これらの元素を上記範囲で添加することにより、インヒビター効果(抑制力)がより強化されて、ゴス方位への集積度がより向上し、高い磁束密度を安定して得ることができる。
【0022】
次に、本発明に係る方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の方向性電磁鋼板は、上記に説明した成分組成を有する鋼を従来公知の精錬プロセスで溶製し、連続鋳造法または造塊−分塊圧延法等を用いて鋼素材(鋼スラブ)とし、その後、上記鋼スラブを熱間圧延して熱延板とし、必要に応じて熱延板焼鈍を施した後、1回もしくは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚の冷延板とし、一次再結晶焼鈍し、その後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布して最終仕上焼鈍を施した後、必要に応じて、絶縁被膜の塗布・焼付けを兼ねた平坦化焼鈍を経る一連の工程からなる製造方法で製造することができるが、上記一次再結晶焼鈍工程以外の製造条件については、従来公知の条件を採用することができ、特に制限はない。
以下、最終冷間圧延後の一次再結晶焼鈍の条件について説明する。
【0023】
一次再結晶焼鈍の条件、特に昇温過程における昇温速度は、先述したように、二次再結晶組織に大きな影響を及ぼすため、厳密な制御が必要とされる。そこで、本発明においては、二次再結晶粒を製品コイル全長に亘って安定的に微細化し、製品コイル内の鉄損特性に優れる領域の比率を高めるため、上記昇温過程を、回復が進行する低温域と一次再結晶が起こる高温域とに分け、それぞれの領域の昇温速度を適正に制御する必要がある。具体的には、一次再結晶の前駆過程である回復が起こる低温域(300〜600℃)の昇温速度Sを通常の焼鈍よりも高い100℃/s以上とするとともに、一次再結晶が起こる高温域(600〜700℃)の昇温速度Sを30℃/s以上かつ低温域の50%以下とする必要がある。これにより、鋼成分や、一次再結晶焼鈍以前の製造条件の変動素材が変動した場合にも、安定的に鉄損低減効果を得ることができる。
【0024】
ここで、ゴス方位{110}<001>の二次再結晶核は、圧延組織において歪エネルギーが蓄積され易い{111}繊維組織中に生じる変形帯の中に存在することが知られている。なお、上記変形帯とは、{111}繊維組織の中でも特に歪エネルギーが蓄積された領域のことを意味する。
一次再結晶焼鈍の低温域(300〜600℃)での昇温速度Sが100℃/s未満の場合には、歪エネルギーが極めて高い変形帯では、優先的に回復(歪エネルギーの緩和)が生じるため、ゴス方位{110}<001>の再結晶を促進させることができない。これに対して、Sを100℃/s以上とした場合には、変形組織を歪エネルギーが高い状態のままで高温まで保持することができるので、比較的低温(600℃近傍)でゴス方位{110}<001>の再結晶を促進することができる。
【0025】
また、二次再結晶したゴス方位{110}<001>の粒径を、目的とする大きさに制御するためには、ゴス方位{110}<001>に蚕食される{111}組織の量を適正範囲に制御することが需要である。すなわち、{111}方位が多すぎると、二次再結晶粒の成長が進み易く、ゴス方位{110}<001>が多数あっても、それぞれが成長する前に1つの組織が粗大化し、粗大粒となるおそれがあり、逆に、少なすぎると二次再結晶粒の成長が進み難く、二次再結晶不良となるおそれがある。
{111}方位は、変形帯ほどではないものの、周囲に比べて歪エネルギーの高い{111}繊維組織から再結晶して生じるため、600℃までの昇温速度Sを100℃/s以上として加熱する本発明のヒートサイクルでは、ゴス方位{110}<001>に次いで再結晶を起こし易い結晶方位である。
そのため、一次再結晶が生じる高温(700℃以上)まで、Sに規定する昇温速度より高い速度で加熱すると、ゴス方位{110}<001>や、その次に再結晶が進行し易い{111}方位の再結晶が抑制されたままになり、一次再結晶後の集合組織はランダム化する。その結果、600〜700℃をSに規定する昇温速度より低い速度で加熱する場合に比べて、ゴス方位{110}<001>の再結晶組織が少なくなり、二次再結晶粒の微細化効果が損なわれたり、{111}方位が少なくなり、二次再結晶粒が十分に成長しなかったりする。逆に、600〜700℃をSに規定する昇温速度よりも低くした場合には、上記温度範囲で再結晶し易い{111}方位が増加し、二次再結晶粒が粗大化するおそれがある。
【0026】
一般に、一次再結晶焼鈍は、脱炭焼鈍と兼ねて行われることが多いが、本発明においても、脱炭焼鈍と兼ねた一次再結晶焼鈍とすることができる。この場合、脱炭雰囲気中で、急速加熱してもよいが、その場合には、酸化性の低い雰囲気とした方が安定的に低鉄損を得ることができる。これは、昇温過程で脱炭が生じてしまうと、二次再結晶粒の微細化に不利な一次再結晶組織となってしまうためである。したがって、本発明においては、昇温過程の300〜700℃間の雰囲気の酸素ポテンシャルPH2O/PH2は0.05以下に制御するのが好ましい。
【0027】
なお、一次再結晶焼鈍におけるその他の条件、例えば、均熱温度、均熱時間、均熱時の雰囲気、冷却速度等の条件については、常法にしたがって行えばよく、特に制限はない。また、鋼スラブ中のC含有量が30massppm以下である場合には、特に脱炭焼鈍を行う必要がなく、最終冷間圧延後、通常の一次再結晶焼鈍を行えばよい。
【実施例1】
【0028】
C:0.06mass%、Si:3.3mass%、Mn:0.08mass%、S:0.023mass%、sol.Al:0.03mass%、N:0.007mass%、Cu:0.2mass%およびSb:0.02mass%を含有する鋼スラブを1430℃×30分加熱後、熱間圧延して板厚2.2mmの熱延板とし、1000℃×1分の熱延板焼鈍を施した後、冷間圧延して中間板厚1.5mmとし、1100℃×2分の中間焼鈍を施した後、最終冷間圧延して板厚0.23mmの冷延板とした。その後、昇温条件(300〜600℃間の昇温速度S、600〜700℃間の昇温速度Sおよびを300〜700℃間の雰囲気の酸素ポテンシャルPH2O/PH2)を表1のように種々に変化させて加熱し、840℃で2分間均熱保持する脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を施した後、MgOを主成分とし、TiOを10mass%含有する水スラリー状の焼鈍分離剤を塗布・乾燥し、コイルに巻き取り、最終仕上焼鈍し、リン酸塩系の絶縁張力コーティングの塗布・焼付と鋼帯の平坦化を兼ねた平坦化焼鈍を施して製品コイルとした。
【0029】
【表1】

【0030】
斯くして得られた製品コイルの長さ方向から一定間隔で連続的に試験片を採取し、コイル全長にわたる鉄損を測定し、製品コイル全長に対する鉄損W17/50が0.80W/kg以下となる部分の比率(%)を求めた。
表1に上記測定の結果を併記した。これから、昇温速度が本発明に適合する一次再結晶焼鈍を施した発明例の鋼板は、いずれもW17/50≦0.80W/kgとなる部分の比率がコイル全長の70%以上となっていること、さらに、昇温過程の300〜700℃間の雰囲気の酸素ポテンシャルPH2O/PH2を0.05以下とした場合には、さらに低鉄損部分の比率が高めることができることがわかる。
【実施例2】
【0031】
表2に示した各種成分組成を有する鋼スラブを1430℃×30分加熱後、熱間圧延して板厚2.2mmの熱延板とし、1000℃×1分の熱延板焼鈍を施した後、冷間圧延して板厚1.5mmとし、1100℃×2分の中間焼鈍を施し、さらに、冷間圧延して最終板厚0.23mmの冷延板とし、電解エッチングにより磁区細分化のために線状溝を形成した。次いで、上記冷延板に、昇温過程における300〜700℃間の雰囲気の酸素ポテンシャルPH2O/PH2を0.03とし、300〜600℃間の昇温速度Sを200℃/s、600〜700℃間の昇温速度Sを50℃/sとして700℃まで昇温したのち、700〜840℃間を10℃/sの平均昇温速度で昇温し、PH2O/PH2が0.4の雰囲気で840℃×2分の脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を施した後、MgOを主成分とし、TiOを10mass%添加した水スラリー状の焼鈍分離剤を塗布・乾燥し、コイルに巻き取り、最終仕上焼鈍を施し、リン酸塩系の絶縁張力コーティングの塗布・焼付けと鋼帯の平坦化を兼ねた平坦化焼鈍を施して製品コイルとした。
【0032】
【表2−1】

【0033】
【表2−2】

【0034】
斯くして得られた製品コイルの長さ方向から一定間隔で連続的にエプスタイン試験片を採取した後、窒素雰囲気中で800℃×3hの歪取焼鈍を施してから、エプスタイン試験法で鉄損W17/50を測定し、製品コイル全長に対する鉄損W17/50が0.80W/kg以下となる部分の比率(%)を求め、結果を表2に併記した。これらの結果から、本発明に適合する成分組成の冷延板を、本発明に適合する条件で一次再結晶焼鈍することにより、製品コイル全長に亘って低鉄損の方向性電磁鋼板を製造し得ることがわかる。特に、インヒビター効果のあるCu,Ni,Cr,Sb,Sn,MoおよびBiのうちから選ばれる1種または2種以上、あるいはさらに、B,Ge,As,P,Te,Nb,TiおよびVのうちから選ばれる1種または2種以上を追加添加した場合には、鉄損W17/50が0.80W/kgの比率が高い製品コイルを安定して製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.001〜0.20mass%、Si:1.0〜5.0mass%、Mn:0.03〜1.0mass%、SおよびSeのうちから選ばれる1種または2種の合計:0.005〜0.040mass%、sol.Al:0.003〜0.050mass%、N:0.0010〜0.020mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成の鋼スラブを熱間圧延し、1回もしくは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚とし、一次再結晶焼鈍し、その後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布して最終仕上焼鈍を施す方向性電磁鋼板の製造方法において、上記一次再結晶焼鈍の昇温過程における300〜600℃間の昇温速度Sを100℃/s以上、600〜700℃間の昇温速度Sを30〜(0.5×S)℃/sの範囲とすることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
上記一次再結晶焼鈍昇温過程の300〜700℃間における雰囲気の酸化ポテンシャルPH2O/PH2を0.05以下とすることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
上記成分組成に加えてさらに、Cu:0.01〜0.2mass%、Ni:0.01〜0.5mass%、Cr:0.01〜0.5mass%、Sb:0.01〜0.1mass%、Sn:0.01〜0.5mass%、Mo:0.01〜0.5mass%およびBi:0.001〜0.1mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
上記成分組成に加えてさらに、B:0.001〜0.01mass%、Ge:0.001〜0.1mass%、As:0.005〜0.1mass%、P:0.005〜0.1mass%、Te:0.005〜0.1mass%、Nb:0.005〜0.1mass%、Ti:0.005〜0.1mass%およびV:0.005〜0.1mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2012−207278(P2012−207278A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74313(P2011−74313)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】