説明

既製コンクリート杭

【課題】製造工程を複雑化したり、部材数を増やすことなく、杭頭部などの杭端部内周に簡単に環状突起を形成することができる既製コンクリート杭を提供する。
【解決手段】杭頭部10aなどの杭端部内周にその周方向に沿う環状突起21を有する既製コンクリート杭であって、環状突起21は、拡径方向にばね力が付与された環状部材21aを、そのばね力によって杭頭部10a内周に固定することにより形成されていることを特徴とする。環状部材21aは周方向の一部に2つの自由端部を有する拡縮可能な部材であり、縮径することによってばね力が付与されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既製コンクリート杭に関し、さらに詳細には、例えば杭頭部と構造物基礎との接合部に作用する引張り力に対応するのに有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、短工期とローコスト化の潮流から、既製コンクリート杭の高支持力化が進み、従来の埋め込み杭工法と比較すると同径の杭で2〜3倍の支持力をもつようになった。このため、地震時に1本の杭が負担する水平力も従来より大きくなり、小口径でも大きな耐力をもつSC杭(外殻鋼管付きコンクリート杭)やPRC杭(遠心力プレストレスト鉄筋コンクリート杭)を採用する事例が増えてきた。このような高耐力の杭を使用することで、杭体の曲げ耐力は確保できるが、杭頭接合部はRC構造となるため、接合部破壊を防止することが困難であった。
【0003】
これを解決するため、杭頭に拡頭リングを設けて接合部耐力を確保して、杭頭破壊を防止する工法が開発されている。しかしながら、この工法は杭頭に拡頭リングをかぶせコンクリートを充填して両者を一体化させるため、大きな引張り力には対応できないという問題があった。
【0004】
また、拡頭リングを用いない既製コンクリート杭の杭頭接合部の場合、引張り力に対応するためには杭頭に鉄筋(基礎へのアンカー筋)を現場溶接する方法が採用されている。しかしながら、現場溶接の信頼性が低く接合部の品質を確保する観点から、今後は現場溶接しない工法が求められてくる状況にある。例えば、今回改訂された「杭基礎設計便覧 平成18年度改訂版」(平成19年1月 社団法人 日本道路協会)では、道路橋示方書で解説された意図を踏まえ杭頭接合部の設計において杭外周に溶接される鉄筋を1次設計(許容応力度設計)では考慮しないこととしている。
【0005】
従来、現場溶接によらない杭頭接合部として図5に示すような構造が知られている。既製コンクリート杭10は、杭施工に伴って内部にソイルセメント13が満たされ、杭頭部10aには杭頭部内側空間15が形成される。既製コンクリート杭10は、この杭頭部内側空間15に挿入される複数本のアンカー筋14及び杭頭部内側空間15に打設される中詰めコンクリート12を介して構造物基礎であるパイルキャップ16と一体的に接合される。17はアンカー筋14の周囲に巻かれる帯筋、18は下側主筋を示している。
【0006】
上記のような従来の杭頭接合構造の場合、アンカー筋14(中詰め補強鉄筋)に作用する引張り力は中詰めコンクリート12とコンクリート杭10の杭体コンクリート内面との付着により杭体に伝達される。しかし、遠心成形される杭体の内面は滑らかで凹凸が小さく、この付着は一般的なコンクリート打継ぎ面よりかなり小さなものとなる。このため、引張り力が作用した際、アンカー筋14が引張り耐力に達する前に、杭体内面と中詰めコンクリート12との付着が切れてしまうおそれがある。この出願の出願人による実験によれば、ピストン内でシリンダーが動くように、早期に中詰めコンクリート12が杭体に対して杭軸方向に離間してずれてしまうという現象が見出された。
【0007】
この問題を解決するために、この出願人は特許文献1に記載されるような既製コンクリート杭の杭頭部接合構造を提案した。これは、図6に示すように、杭頭部の内周に外周部分が杭体コンクリート内に埋め込まれかつ内周部分が中詰めコンクリート12に突出する環状突起21が周方向に沿って設けられている接合構造である。この接合構造によれば、アンカー筋14に引張り力が作用した場合、環状突起21が中詰めコンクリート12と杭体コンクリートとの間で支圧抵抗による「シャーキー」として機能するので、両者間にずれが生じることなく一体化が保たれ、アンカー筋14の耐力を十分に発揮させることができる。
【0008】
しかしながら、上記接合構造に適用される既製コンクリート杭10は、環状突起21が杭体コンクリート内に外周部分が埋め込まれたものである。このため、既製コンクリート杭10を遠心成形する前に、環状突起21を形成する部材をコンクリート充填空間に保持しなければならない。具体的には、同特許文献1に記載のように、保持部材を配置してこれに環状部材を固定しなければならない。また、遠心成形時には環状部材の突出長さを確保し、突出部分にモルタル成分が付着しないように、発泡スチロール等で養生をする必要がある。以上のことから、環状部材を杭体コンクリートに一部埋め込んで環状突起とする方法は、既製コンクリート杭の製造工程を複雑化するだけでなく、環状部材を保持するための部材を必要とする難点がある。
【特許文献1】特願2008−264801号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、製造工程を複雑化したり、部材数を増やすことなく、簡単に環状突起を形成することができる、環状突起を備えた既製コンクリート杭を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は上記課題を達成するために、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、杭端部内周にその周方向に沿う環状突起を有する既製コンクリート杭であって、
前記環状突起は、拡径方向にばね力が付与された環状部材を、そのばね力によって前記杭端部内周に固定することにより形成されていることを特徴とする既製コンクリート杭にある。
【0011】
より具体的には、前記環状部材は周方向の一部に2つの自由端部を有する拡縮可能な部材であり、縮径することによってばね力が付与されている。前記環状部材の前記杭端部内周との当接面に粗面化処理がなされている構成を採用することができる。
【0012】
前記杭端部の内周に環状溝が形成され、この環状溝に前記環状部材の外周部分が嵌め込まれている構成を採用することもできる。この場合、前記環状部材はその外周が上方に向けて径が漸増するテーパ面に形成され、前記環状溝は前記テーパ面に合致する形状に形成されている構成としてもよい。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、環状突起は、拡径方向にばね力が付与された環状部材をそのばね力によって杭端部内周に固定することにより形成されているので、既製杭コンクリート杭の製造工程とは無関係に、例えば施工現場でも、環状突起を形成することができる。したがって、製造工程を複雑化したり、部材数を増やすことなく簡単に環状突起を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1は、この発明の第1実施形態を示す杭頭部の軸方向断面図である。杭端部である杭頭部10aの内周には環状突起21が周方向に沿って形成されている。環状突起21は、図示のように杭軸方向に沿って間隔を置いて複数段(この実施形態では2段)形成してもよい。
【0015】
環状突起21は、図2に示すような環状部材21aを杭頭部10aの内周に固定することによって形成される。環状部材21aは所要の厚みを有する断面矩形の鋼材を図2(a)のように、周方向の一部が開放し2つの自由端部を有する環状のものとして加工される。2つの自由端部にはそれぞれ外周部及び内周部にテーパ面22,23を形成するとよい。そして、図2(b)に示すように、環状部材21を縮径してテーパ面22,23どうしを重ね合わせ、適宜の仮止め手段で仮止めする。仮止め手段としては図示のようにピン24や、仮溶接、あるいは結束線による結束を用いることができる。
【0016】
環状部材21は、縮径して仮止めすることにより閉鎖した環状とのものとなり、この状態で拡径方向へのばね力が付与されたことになる。縮径した状態での環状部材21の径は、杭頭部10aの内周の径よりも幾分か小さい程度である。環状部材21は、杭頭部10a内の所定位置に配置され、ピン24を引き抜くことにより仮止め手段が解除される。これにより、環状部材21aはその付与されたばね力により杭頭部10aの内周を押圧し、固定される。このようにして、図1に示したような環状突起21が杭頭部10aの内周に形成される。環状部材21aの外周面、すなわち杭頭部10aとの当接面には、摩擦力を増大させるために、多数の凹凸を設けるなど、粗面化処理を施すようにしてもよい。
【0017】
図3は、別の実施形態を示す杭頭部の軸方向断面図である。この実施形態においても、図2に示した環状部材21aをそのばね力により杭頭部10aの内周に固定する点は上記実施形態と同様である。この実施形態では、杭頭部10aの内周に環状部材21aを嵌め込むための環状溝25が杭頭部10aの周方向に沿って形成されている。環状溝25は、杭頭部10aの内周をグラインダー等により削ることにより形成することができる。環状溝25の深さは環状部材21aの厚みよりも小さく、したがって、環状部材21aを環状溝25に嵌め込むようにして取り付けると、環状部材21の内周部分が杭頭部内方に突出し、図3に示すような環状突起21が形成される。この実施形態によれば、環状突起21は杭頭部内周に確実に固定され、杭軸方向にずれが生じるのを確実に防止できる。
【0018】
図4は、さらに別の実施形態を示す拡大断面図である。この実施形態では環状部材21は、その外周が上方に向けて径が漸増するテーパ面26に形成されている。これに応じて、環状溝25もテーパ面に合致する形状に形成されている。この実施形態によれば、環状突起21に杭軸方向にずれようとする力(上向きの力)が作用すると、テーパ面26により楔作用が生じるので杭軸方向にずれるのを確実に防止できる。
【0019】
上記各実施形態から理解されるように、環状突起21は、拡径方向にばね力が付与された環状部材21aをそのばね力によって杭頭部内周に固定することにより形成されているので、既製杭コンクリート杭の製造工程とは無関係に、例えば施工現場でも、環状突起を形成することができる。したがって、製造工程を複雑化したり、部材数を増やすことなく簡単に環状突起を形成することができる。
【0020】
上記各実施形態では、環状突起を杭頭部内周に形成する例を示したが、環状突起は杭先端部内周に形成することもできる。このような環状突起を杭先端部内周に形成することにより、根固め部コンクリートと杭先端部との付着力を高め、杭の引抜き抵抗を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施形態を示す杭軸方向断面図である。
【図2】環状部材の平面図である。
【図3】別の実施形態を示す杭軸方向断面図である。
【図4】さらに別の実施形態を示す杭軸方向断面図である。
【図5】従来の杭頭部接合構造を示す軸方向断面図である。
【図6】改良された杭頭部接合構造を示す軸方向断面図である。
【符号の説明】
【0022】
10 既製コンクリート杭
10a 杭頭部
21 環状突起
21a 環状部材
22,23 テーパ面
24 ピン
25 環状溝
26 テーパ面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭端部内周にその周方向に沿う環状突起を有する既製コンクリート杭であって、
前記環状突起は、拡径方向にばね力が付与された環状部材を、そのばね力によって前記杭端部内周に固定することにより形成されていることを特徴とする既製コンクリート杭。
【請求項2】
前記環状部材は周方向の一部に2つの自由端部を有する拡縮可能な部材であり、縮径することによってばね力が付与されていることを請求項1記載の既製コンクリート杭。
【請求項3】
前記環状部材の前記杭端部内周との当接面に粗面化処理がなされていることを特徴とする請求項1又は2記載の既製コンクリート杭。
【請求項4】
前記杭端部の内周に環状溝が形成され、この環状溝に前記環状部材の外周部分が嵌め込まれていることを特徴とする請求項1,2又は3記載の既製コンクリート杭。
【請求項5】
前記環状部材はその外周が上方に向けて径が漸増するテーパ面に形成され、前記環状溝は前記テーパ面に合致する形状に形成されていることを特徴とする請求項4記載の既製コンクリート杭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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