説明

既設橋梁の耐震改修工法

【課題】予め設計通りに製作しておいた履歴型ダンパを既設のブレースが取り付けられていた位置にそのまま取り付けることができる既設橋梁の耐震改修工法を提供すること。
【解決手段】橋桁12を支持する柱材14、これら柱材14と柱材14との間をそれぞれ水平に接続する複数本の水平材15、およびこれら柱材14と水平材15との間に斜めに配置された複数本のブレース16を有する既設橋梁の耐震改修工法であって、長さ調整可能な仮ブレース17を、前記ブレース16に対して略平行となるようにそれぞれ配置し、前記ブレース16の死荷重応力がゼロになるように前記仮ブレース17の長さをそれぞれ調整した後に、前記ブレース16を取り外し、その代わりに圧縮力・引張力に対しても同等の塑性変形特性を有する履歴型ブレースを取り付けてから、前記仮ブレース17を取り外すようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設橋梁の耐震改修工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既設橋梁の耐震改修工法としては、ブレース(斜材)の代わりに、圧縮力・引張力に対しても同等の塑性変形特性を有する履歴型ブレースを入れて、既設橋梁の耐震性を向上させようとするものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3631965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献のものでは、交換対象のブレースを取り外し、そのブレースを取り外した位置に履歴型ブレースを取り付けるだけのものであった。
しかしながら、このような方法では、交換対象のブレースを取り外した際に、各部材の応力バランスが崩れ、部材間の距離が変わり、構造系が当初の設計状態と変わってしまうため、既設のブレースが取り付けられていた位置に予め設計通りに製作しておいた履歴型ダンパそのまま取り付けることができないといった問題点があった。
【0004】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、予め設計通りに製作しておいた履歴型ダンパを既設のブレースが取り付けられていた位置にそのまま取り付けることができる既設橋梁の耐震改修工法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
本発明による既設橋梁の耐震改修工法は、橋桁を支持する柱材、これら柱材と柱材との間をそれぞれ水平に接続する複数本の水平材、およびこれら柱材と水平材との間に斜めに配置された複数本のブレースを有する既設橋梁の耐震改修工法であって、長さ調整可能な仮ブレースを、前記ブレースに対して略平行となるようにそれぞれ配置し、前記ブレースの死荷重応力がゼロになるように前記仮ブレースの長さをそれぞれ調整した後に、前記ブレースを取り外し、その代わりに圧縮力・引張力に対しても同等の塑性変形特性を有する履歴型ブレースを取り付けてから、前記仮ブレースを取り外すようにしている。
このような既設橋梁の耐震改修工法によれば、既設のブレースの死荷重応力がゼロになるように仮ブレースの長さが調整された後に、既設のブレースがそれぞれ履歴型ブレースに取り替えられることとなるので、各部材に作用している死荷重応力のバランスを変えることなくブレースの交換を行うことができて、予め設計通りに製作しておいた履歴型ダンパを既設のブレースが取り付けられていた位置にそのまま取り付けることができる。
また、履歴型ブレースとして、例えば、本出願人が先に出願した特開2000−81085号公報に開示されているブレースを用いた場合には、その特定部位(ダンパー部分)の断面部が塑性化領域となるので、この領域部の長さを縮小(減少)させることで、履歴型ブレース自体の軸剛性を高めることができ、わずかな変形から塑性化させることが可能となるので、地震等により履歴型ブレースがわずかに変形したとしても、履歴型ブレースによりそのエネルギーを確実に吸収させることができ、既設橋梁の耐震性を向上させることができる。
【0006】
本発明による橋梁は、橋桁を支持する柱材、これら柱材と柱材との間をそれぞれ水平に接続する複数本の水平材、およびこれら柱材と水平材との間に斜めに配置された複数本のブレースを有する橋梁であって、長さ調整可能な仮ブレースを、前記ブレースに対して略平行となるようにそれぞれ配置し、前記ブレースの死荷重応力が緩和されるように前記仮ブレースの長さをそれぞれ調整した後に、前記ブレースを取り外し、その代わりに圧縮力・引張力に対しても同等の塑性変形特性を有する履歴型ブレースを取り付けてから、前記仮ブレースを取り外すようにして耐震改修されている。
このような橋梁によれば、既設のブレースの死荷重応力がゼロになるように仮ブレースの長さが調整された後に、既設のブレースがそれぞれ履歴型ブレースに取り替えられることとなるので、各部材に作用している死荷重応力のバランスを変えることなくブレースの交換を行うことができて、予め設計通りに製作しておいた履歴型ダンパを既設のブレースが取り付けられていた位置にそのまま取り付けることができる。
また、履歴型ブレースとして、例えば、本出願人が先に出願した特開2000−81085号公報に開示されているブレースを用いた場合には、その特定部位(ダンパー部分)の断面部が塑性化領域となるので、この領域部の長さを縮小(減少)させることで、履歴型ブレース自体の軸剛性を高めることができ、わずかな変形から塑性化させることが可能となるので、地震等により履歴型ブレースがわずかに変形したとしても、履歴型ブレースによりそのエネルギーを確実に吸収させることができ、既設橋梁の耐震性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、予め設計通りに製作しておいた履歴型ダンパを既設のブレースが取り付けられていた位置にそのまま取り付けることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明による既設橋梁の耐震改修工法の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は既設橋梁(以下、「方杖(π型)ラーメン橋」という。)の図であって、(a)は正面図、(b)は(a)のI−I矢視断面図である。図1に示すように、方杖ラーメン橋10は、両岸に設けられた基礎11と基礎11との間に架設された橋桁12と、基礎13上に架設され、橋桁12を橋軸方向(橋桁12の長手方向)の両端部二箇所で、それぞれ橋桁12の幅方向左右二箇所で橋桁12を支持する柱材14と、柱材14間をそれぞれ水平に接続する複数本の水平材15と、これら柱材14および水平材15間に斜めに配置された複数本のブレース16とを主たる要素として構成されたものである。
【0009】
つぎに、このように構成された既設方杖ラーメン橋10の耐震改修工法について、図2を参照しながら説明する。
施工方法としては、まず、仮ブレース17を既設のブレース16と平行に取り付けるためのブラケット18を、柱材14および水平材15の所定の位置に、橋軸方向に沿って両側に突出するようにボルト結合(あるいは溶接接合)により取り付ける。
ブラケット18の取り付けが終了したら、既設のブレース16と平行になるように、これらブラケット18とブラケット18との間に仮ブレース17をボルト結合(あるいは溶接接合)により取り付ける。
【0010】
図3に示すように、仮ブレース17は、既設のブレース16の死荷重応力の状態にあわせてその長さを調節できる、例えば、油圧式ジャッキ(あるいはスクリュー式ジャッキ)である。このような仮ブレース17のブラケット18への取り付けが終了したら、つぎに仮ブレース17の長さを調節する。具体的には、対応する既設のブレース16の死荷重応力が引っ張りの場合には、仮ブレース17の長さが縮む方向に調整され(図3(b)参照)、対応する既設のブレース16の死荷重応力が圧縮の場合には、仮ブレース17の長さが伸びる方向に調整されて(図3(c)参照)、最終的に既設のブレース16の死荷重応力がゼロになるように仮ブレース17の長さが調整される。既設のブレース16に加わる死荷重応力は、歪みゲージや油圧式ジャッキの油圧により検出可能である。また、既存のブレース16の死荷重応力をゼロにするために仮ブレース17に加わえるべき応力は、設計値から求めることができる。
【0011】
すべての既設のブレース16の死荷重応力がゼロになったら、既設のブレース16を一本ずつ取り外し、図4に示すような復元力特性を有する(圧縮力・引張力に対しても同等の塑性変形特性を有する)履歴型ブレース20(例えば、本出願人が先に出願した特開2000−81085号公報に開示されているブレース)を既設のブレース16の代わりに柱材14と水平材15との間にボルト結合(あるいは溶接接合)により取り付けていく。
交換必要なすべてのブレース16の履歴型ブレース20への取り替えが終了したら、仮ブレース17(およびブラケット18)を取り外して、耐震改修工事を完了する。
図5は、図1(b)および図2(a)と同様の図であり、耐震改修工事終了後の図である。なお、図5中の符号21はガセットプレートである。
【0012】
本実施形態による既設橋梁の耐震改修工法によれば、既設のブレース16の死荷重応力がゼロになるように仮ブレース17の長さが調整された後に、既設のブレース16がそれぞれ履歴型ブレース20に取り替えられることとなるので、各部材に作用している死荷重応力のバランスを変えることなくブレースの交換を行うことができて、予め設計通りに製作しておいた履歴型ダンパ20を既設のブレース16が取り付けられていた位置にそのまま取り付けることができる。
また、履歴型ブレース20として、例えば、本出願人が先に出願した特開2000−81085号公報に開示されているブレースを用いた場合には、その特定部位(ダンパー部分)の断面部が塑性化領域となるので、この領域部の長さを縮小(減少)させることで、履歴型ブレース20自体の軸剛性を高めることができ、わずかな変形から塑性化させることが可能となるので、地震等により履歴型ブレース20がわずかに変形したとしても、履歴型ブレース20によりそのエネルギーを確実に吸収させることができ、既設橋梁の耐震性を向上させることができる。
【0013】
なお、本発明による既設橋梁の耐震改修工法は、既設のブレース16が、図1(b)および図2(a)に示すような、ハ字状に配置された既設方杖ラーメン橋10のみに適用され得るものではなく、例えば、図6に示すような、菱形状に配置されたものにも適用することができる。この場合も、ブラケット18は、柱材14および水平材15の所定の位置に、橋軸方向に沿って両側に突出するようにボルト結合(あるいは溶接接合)により取り付けられている。
【0014】
また、本発明による既設橋梁の耐震改修工法は、方杖ラーメン橋10以外の橋梁、例えば、図7および図8に示すようなアーチ橋30、図9および図10に示すようなアーチ橋40、図11および図12に示すようなトラス橋70等にも適用することができる。さらに図示はしないが、同様に柱材と柱材との間をそれぞれ水平に接続する複数本の水平材、およびこれら柱材と水平材との間に斜めに配置された複数本のブレースを有する構造からなる斜長橋や吊橋の主塔に対しても適用することができる。なお、図9から図12において、前述した実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
【0015】
さらに、上述した実施形態においては、ブラケット18が、柱材14および水平材15の所定の位置から、橋軸方向に沿って両側に突出するように取り付けられているが、各部材の応力バランスが崩れないようであれば、いずれか一方の側(片側)のみに突出するよう取り付けることもできる。
【0016】
さらにまた、上述の実施形態では、仮ブレース17として、油圧式ジャッキ(あるいはスクリュー式ジャッキ)を具体例として挙げたが、本発明はこれらのものに限定されるものではなく、ターンバックル式のものやワイヤ式のもの等、その長さを調整できて柱材と柱材との間をそれぞれ水平に接続する複数本の水平材で囲まれた層間形状・寸法が既設ブレースを取り外す前の状態を維持できるものであれば、いかなるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】既設方杖ラーメン橋の図であって、(a)は正面図、(b)は(a)のI−I矢視断面図である。
【図2】ブラケットおよび仮ブレースを取り付けたところを示す図であって、(a)は図1(b)と同様の図、(b)は(a)のII−II矢視断面図である。
【図3】仮ブレースの平面図であって、(a)は通常の状態を示す図、(b)は縮んだ状態を示す図、(c)は伸びた状態を示す図である。
【図4】履歴型ブレースの復元力特性を示すグラフであり、横軸は履歴型ブレースの軸方向変形量δ、縦軸は履歴型ブレースに加わる繰り返し軸力Nを示している。
【図5】図1(b)および図2(a)と同様の図であって、耐震改修工事終了後の図である。
【図6】既設のブレースが菱形状に配置されたものにブラケットおよび仮ブレースを取り付けたところを示す図であって、(a)は図2(a)と同様の図、(b)は(a)のVI−VI矢視断面図である。
【図7】既設アーチ橋の正面図である。
【図8】(a)は図7のA−A矢視断面図、(b)は図7のB−B矢視断面図である。
【図9】他の既設アーチ橋の正面図である。
【図10】図7のX−X矢視断面図である。
【図11】既設トラス橋の正面図である。
【図12】(a)は図11のC−C矢視断面図、(b)は図11のD−D矢視断面図である。
【符号の説明】
【0018】
10 方杖ラーメン橋(既設橋梁)
12 橋桁
14 柱材
15 水平材
16 ブレース
17 仮ブレース
20 履歴型ブレース
30 アーチ橋(既設橋梁)
40 アーチ橋(既設橋梁)
70 トラス橋(既設橋梁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋桁を支持する柱材、これら柱材と柱材との間をそれぞれ水平に接続する複数本の水平材、およびこれら柱材と水平材との間に斜めに配置された複数本のブレースを有する既設橋梁の耐震改修工法であって、
長さ調整可能な仮ブレースを、前記ブレースに対して略平行となるようにそれぞれ配置し、前記ブレースの死荷重応力が緩和されるように前記仮ブレースの長さをそれぞれ調整した後に、前記ブレースを取り外し、その代わりに圧縮力・引張力に対しても同等の塑性変形特性を有する履歴型ブレースを取り付けてから、前記仮ブレースを取り外すようにしたことを特徴とする既設橋梁の耐震改修工法。
【請求項2】
橋桁を支持する柱材、これら柱材と柱材との間をそれぞれ水平に接続する複数本の水平材、およびこれら柱材と水平材との間に斜めに配置された複数本のブレースを有する橋梁であって、
長さ調整可能な仮ブレースを、前記ブレースに対して略平行となるようにそれぞれ配置し、前記ブレースの死荷重応力が緩和されるように前記仮ブレースの長さをそれぞれ調整した後に、前記ブレースを取り外し、その代わりに圧縮力・引張力に対しても同等の塑性変形特性を有する履歴型ブレースを取り付けてから、前記仮ブレースを取り外すようにして耐震改修されたことを特徴とする橋梁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−126848(P2007−126848A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319104(P2005−319104)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(506122246)三菱重工橋梁エンジニアリング株式会社 (111)
【Fターム(参考)】