説明

既設覆工の補強方法と補強装置

【課題】断面円形の既設覆工を内側から補強する補強方法と補強装置に関し、補強後の覆工内に利用障害となる補強ユニットも存在せず、既設覆工に効果的に内側から力を付与して既設覆工を外側に押し出してその変形を緩和でき、既設覆工を介して地山に押し出し力を付与して既設覆工を効果的に補強できる既設覆工の補強方法と補強装置を提供する。
【解決手段】断面円形の既設覆工Fの内面の周方向に複数の弧状ブロック1を間隔を置いて配設し、間隔内にジャッキ3を配するステップ、各ジャッキ3を張り出させて間隔を広げながら周方向の軸力を弧状ブロック1に付与するステップ、広げられた間隔を保持する間隔保持材を間隔内に配し、ジャッキ3を取り外してジャッキ反力を間隔保持材に受け替え、周方向に配設された複数の弧状ブロック1と複数の間隔保持材からなる補強リングを形成するステップ、からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下トンネルの既設覆工をその内側から補強する既設覆工の補強方法と補強装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
首都圏をはじめとする都市部においては、密集した建物の間に幹線道路や鉄道路線が設けられ、場所によっては高速道等が立体交差するなどしてその地上空間が利用されており、したがって、新たな幹線道路やインフラ設備用の空きスペースを地上に求めることがほぼ不可能な状況となっている。
【0003】
そこで、上記する空きスペースの確保を地下に求め、地下空間を有効に利用しながら、地下道や共同溝、送水・排水管路や電力ケーブル、ガス配管などが収容された洞道などの地下トンネルが施工されている。
【0004】
この地下トンネルは、地上交通を占有し、土留め支保工にて確保された開削空間内に筐体を施工する開削工法や、シールド掘進機を利用して当該掘進機で比較的軟弱な地盤を支保しながらセグメントをリング状に組み付け、これに反力を取って掘進機の掘進を図りながらシールドトンネルを施工するシールド工法、さらには、たとえば立坑にある推進機から地盤内に推進管を押出してこれを繋げていく推進工法など、その施工方法は多岐に亘る。
【0005】
ところで、地下空間の利用の歴史は比較的古く、都市部においては既に数十年の供用期間を経たトンネルも存在している。このような供用期間の長い地下トンネルでは、セグメント等の構成部材そのものの経年劣化のほか、周辺地盤における新たなトンネルの構築や地下水位の変動などによって作用荷重が変化し、これに伴って構造耐力が不足したり過度の変形が生じてクラックが誘発され、漏水に至るといった問題などがある。
【0006】
施工されて20年以上を経た地下トンネルの中には、許容値を超える大きな変形が観測されている既設トンネルも存在している。このような大きな変形の主たる原因は定かではないものの、周辺地盤における再開発工事による作用土圧の変動や長期的な地下水位の変動が主たる要因の一つであろうとの推察がなされている。
【0007】
このように、補強を要する地下トンネルを構成する既設覆工の補強方法は多岐に亘るが、その中でも既設覆工内で剛性柱を十字状や放射状に組み立て、剛性柱のたとえば端部にジャッキを設け、これを張り出させて既設覆工を外側(地山側)に押し出して変形した既設トンネルを補強する方法がある。この補強方法では、ジャッキ反力によって強制的に変形が緩和された既設覆工の状態を維持するべく、十字状等に組み付けられた剛性柱の組付け体が既設覆工内に残置されることになる。
【0008】
このように既設覆工内に十字状等に組み付けられた剛性柱の組付け体が残置されてしまうと、これが既設覆工内の供用にとって大きな障害となり、その利用態様が制限されるといった大きな課題が生じてしまう。
【0009】
そこで、特許文献1には、既設トンネルの内周とほぼ同形状の補強材を周方向に分割した多数の補強セグメントを準備し、この補強セグメントを下段から一段ずつ設置して背面にグラウトを注入し、これを周方向さらには既設覆工の軸方向に繰り返してその補強をおこなう方法が開示されている。
【0010】
この補強方法によれば、既設覆工内部に構築された補強セグメントリングが既設覆工内部を利用する上で障害とならないことから、上記課題を解消することができる。
【0011】
しかしながら、特許文献1で開示される補強方法は、補強セグメントリングが上記する十字状等に組み付けられた剛性柱の組付け体のように既設覆工に力を付与するものでなく、既設覆工と補強セグメントリングはグラウトを介して間接的に併設されているに過ぎないことから既設覆工の変形緩和効果は極めて低い。
【0012】
そのため、既設覆工の変形を緩和し、当該変形に起因する内部応力を低減して既設覆工の耐力回復を図ることができないことに加えて、外力によって既設覆工の変形が一層進行して破損等した際には、外力を補給セグメントリングのみで支持する必要が生じることは必至である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001−323792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、断面が円形もしくは略円形の既設覆工をその内側から補強する補強方法に関し、補強後の覆工内に利用障害となる補強ユニットも存在せず、かつ、既設覆工に効果的に内側から力を付与して既設覆工を外側(径方向外側)に押し出してその変形を緩和させたり、既設覆工を介して地山に押し出し力を付与することで既設覆工を効果的に補強することのできる、既設覆工の補強方法と補強装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成すべく、本発明による既設覆工の補強方法は、地下トンネルにおける断面が円形もしくは略円形の既設覆工の内面の周方向に、複数の弧状ブロックを間隔を置いて配設するとともに、該間隔内にジャッキを配する第1のステップ、複数のジャッキを張り出させてそれぞれの弧状ブロック間の間隔を広げながら周方向の軸力をそれぞれの弧状ブロックに付与する第2のステップ、広げられた前記間隔を保持する間隔保持材を複数の該間隔内に配し、ジャッキを該間隔から取り外してジャッキ反力を間隔保持材に受け替えて、少なくとも周方向に配設された複数の弧状ブロックと複数の間隔保持材からなる補強リングを形成する第3のステップ、からなるものである。
【0016】
本発明の既設覆工の補強方法は、既述する従来技術のように既設覆工の内側から剛性柱のような軸部材を利用してその軸方向に力を生じさせて既設覆工に付与する技術思想に代わり、断面円形等の既設覆工の内面に周方向に軸力を生じさせることのできる補強リングを構築し、この補強リングに軸力を作用させてその径を拡大させ、補強リングの拡径の過程で既設覆工に地山側へ押し出す力を付与させるという新規な技術思想を具現化したものである。
【0017】
ここで、補強対象である既設覆工からなる地下トンネルは、セグメントリングを周方向およびトンネル軸方向(既設覆工の軸方向)に組み付けてなるシールドトンネルや推進管をトンネル軸方向に組み付けてなる推進トンネルなどのトンネル全般が対象であり、地下道や共同溝、送水・排水管路や電力ケーブル、ガス配管などが収容された洞道等に供されている既設トンネルの全般を含むものである。
【0018】
さらに、本発明の補強方法は、その補強対象となる地下トンネル(既設覆工)の断面が円形もしくは略円形(楕円形、上半と下半で曲率が異なる形状など)のものを補強対象としている。その理由は、本発明の補強方法が、補強リングを構成する複数の弧状ブロックに対して隣接する弧状ブロック間に配されたジャッキの張り出しによって軸力を付与し、周方向の軸力によって径方向(もしくは法線方向)の力を生じさせてこれを既設覆工に付与するものだからである。
【0019】
第1のステップでは、既設覆工の内面の周方向に、複数の弧状ブロックを間隔を置いて配設するとともに、該間隔内にジャッキを配する。たとえば、既設覆工内を自走するエレクタ装置等が搭載された仮受け台車等を利用し、既設覆工の周方向に所定間隔で複数の弧状ブロックを仮受けし、さらに、各間隔内にジャッキを配して仮受けする。
【0020】
ここで、「弧状ブロック」とは、既設覆工の長手方向に所定の幅を有し、所定の厚みを有し、さらには、補強リングの一部の円弧を成すコンクリート製セグメントや鋼製セグメントなどを意味しており、いわゆる二次覆工材としての所定の剛性を有する部材のことである。
【0021】
複数の弧状ブロックとジャッキを既設覆工の周方向に組み付けて仮受けさせたら、第2のステップとして各ジャッキを同期制御して対応する左右の弧状ブロックに同様の軸力を付与させる。
【0022】
ある程度の軸力が導入されたら、複数の弧状ブロックとジャッキは仮受けなしに自立的にリング形状を形成できるようになるので、この段階でエレクタ装置等による仮受けを解除する。この段階で、補強リングの前段となる中間補強リングが形成される。
【0023】
各ジャッキの張り出し量を除々に大きくしていくことで、弧状ブロック間の間隔が大きくなり、各間隔が同期して大きくなっていく過程で中間補強リングが拡径していく。
【0024】
中間補強リングの拡径にともなって、中間補強リングの軸力に起因する径方向の力が既設覆工に作用し、既設覆工はこの力によって地山側へ押し出されることになる。そのため、既設覆工の一部が内側に変形している場合はこの変形を地山側へ押し出して当該変形を緩和することができ、この変形によって既設覆工内に生じていた内部応力を低減して既設覆工の耐力回復を図ることができる。
【0025】
なお、構造力学的観点で言えば、断面円形(半径r)の既設覆工に地山から等分布荷重(q)が作用しているとした場合に、この等分布荷重によって既設覆工の周方向に生じる軸力N(圧縮力)は、N=qrの式で求められる。
【0026】
したがって、中間補強リングを拡径しながらその軸力N’を増大させていくと、上記算定式より、軸力N’とその際の中間補強リングの断面(半径r’)に応じた等分布荷重q’がこの中間補強リングから既設覆工に付与され、さらにこの既設覆工を介して地山を既設覆工から押し出す方向(押し返す方向)に付与することができる。すなわち、この場合は、地山から既設覆工に作用している土圧や土水圧が中間補強リングから既設覆工に付与される押し出し力によって相殺されることになる。
【0027】
また、将来的に既設覆工へ作用する土圧や土水圧等の荷重が増加した場合には、補強リングにて耐力回復が図られた(初期の耐力を具備する)既設覆工と補強リングからなる重ね梁として荷重に抵抗することもできる。
【0028】
中間補強リングを所定径まで拡径したら、第3のステップとして、ジャッキが配されている間隔に対してこの間隔を保持する間隔保持材を挿入してこれでジャッキ反力を受け替えさせ、ジャッキを間隔から取り外すことにより、少なくとも周方向に配設された複数の弧状ブロックと複数の間隔保持材からなる補強リングを形成することができる。
【0029】
ここで、前記弧状ブロックのうち、隣接する弧状ブロックに対向する端面は既設トンネル側からトンネル内側に傾斜したテーパー面を有し、前記間隔はその両側の2つのテーパー面によってトンネル内側に広がる断面視台形状を呈しており、前記間隔保持材は前記間隔と同じ断面視台形状の第1の楔となっているのが好ましい。
【0030】
弧状ブロックの端面をテーパー面としておき、もって弧状ブロック間の間隔の断面形状をトンネル内側に広がる台形状としておくことで、同様に台形状をなす間隔保持材を間隔内に容易に挿入することができ、かつ、挿入後はこの間隔保持材が楔(第1の楔)となって軸力が生じている弧状ブロック同士の姿勢保持を保証することができる。
【0031】
なお、間隔保持材は、弧状ブロック間の間隔内に単に挿入することのほかにも、挿入後に弧状ブロックの端面と間隔保持材に跨るボルト等で緊結してもよい。
【0032】
また、前記弧状ブロックの前記テーパー面と前記ジャッキの間に角度調整用挿入具を配設し、該角度調整用挿入具の平坦面を該ジャッキが押圧する実施の形態であってもよい。
【0033】
弧状ブロックの端面がテーパー面となっているため、ジャッキの押し出し面をこのテーパー面に直接作用させる方法では、ジャッキからの押し出し力が弧状ブロックに効果的に伝達され難い。
【0034】
そこで、ジャッキが弧状ブロックの端面を弧状ブロックの円弧方向に押し出すことができるように弧状ブロックの端面とジャッキの間に角度調整用挿入具を配設して平坦面(弧状ブロックの円弧方向に沿う方向と直交する面)を形成させておき、この角度調整用挿入具の平坦面をジャッキが押し出すようにしてやることで、ジャッキの押し出し力を効果的に弧状ブロックに付与することができる。なお、第3のステップでジャッキを取り外す際に、この角度調整用挿入具も取り外されることになる。
【0035】
また、前記第1のステップでは、前記弧状ブロックの前記端面の略中央位置に前記ジャッキを配し、前記第3のステップでは、前記間隔保持材を前記端面における該ジャッキの両側に配す実施の形態であってもよい。
【0036】
ジャッキ反力を間隔保持材に受け替えた際に、弧状ブロックの端面に軸力が一つの偏心位置のみに作用しないように、該端面の中央位置をジャッキで押し出すようにし、間隔保持材はこのジャッキの両側の2箇所(中央位置から左右同じオフセット位置)に配設するようにしておくことで、ジャッキ押し出し時に弧状ブロックに偏荷重が作用することもないし、ジャッキ反力を間隔保持材に受け替えた後に弧状ブロックに偏荷重が作用することもない。
【0037】
さらに、前記第3のステップでは、ジャッキを取り外した後に2つの前記間隔保持材の間に間詰め処理をおこなうのが好ましい。
【0038】
対向する弧状ブロックの端面と2つの間隔保持材とで画成される隙間にグラウト(モルタルやセメントペーストなど)を充填硬化させて間詰め処理をおこなうことで、周方向により一層強固な補強リングを形成することができる。
【0039】
また、前記弧状ブロックのうち、既設覆工と接触する外面に緩衝層が設けてある実施の形態であってもよい。
【0040】
比較的弾力性のあるゴム等の樹脂製シートや、樹脂溶剤を塗工して層状に形成したものなどからなる緩衝層を弧状ブロックの既設覆工と接触する外面に設けておくことで、既設覆工の内面が劣化して凹凸状となっている場合であっても、この凹凸を緩衝層で吸収して、補強リングから既設覆工への押し出し力を略均一に調整することができ、さらには、この既設覆工表面の凹凸によって補強リングが破損するのを抑制することもできる。なお、弧状ブロックを既設覆工の内面近くで真円状に配設し、弧状ブロックからなる真円と既設覆工の間に緩衝材料を間詰め処理して緩衝層を形成する方法を適用することもできる。
【0041】
また、本発明の既設覆工の補強方法の他の実施の形態において、前記補強リングは既設覆工の軸方向に間隔を置いて配設されるものであり、隣接する補強リングの対向する2つの弧状ブロックの該軸方向の端面もテーパー面となっており、これによって前記軸方向の間隔は平面視台形状を呈しており、該軸方向の間隔内に平面視台形状の第2の楔を配すものである。
【0042】
既設覆工の補強形態は多岐に亘り、その全延長区間を連続する周方向の補強リングで補強する形態や、特に既設覆工の劣化が著しい区間にのみ複数の補強リングを既設覆工の軸方向に連接して補強する形態、さらには、特に劣化が著しい箇所を比較的広幅の1つの補強リングのみで補強する形態などがある。
【0043】
たとえば既設覆工の軸方向に複数の補強リングを連続的に施工して任意延長区間を補強する場合を本実施の形態は対象としたものであり、周方向の補強リングを構成する弧状ブロック間の空間を台形状としてここに台形状の第1の楔(間隔保持材)を配設するのと同じように、隣接する補強リング間における対応する弧状ブロック同士の端面も、それらの端面をテーパー状に形成し、補強リング間に台形状の空間を形成して、この台形状空間と同形状の第2の楔を配して補強リング同士を強固に繋ぐものである。
【0044】
なお、隣接する補強リングの対向する2つの弧状ブロックの端面をテーパー状に形成する形態は、トンネル内側から補強リングを見た平面視で弧状ブロックの端面がテーパー状を呈するものであり、第2の楔も同様にトンネル内側から見た平面視で台形状を呈するものである。
【0045】
また、周方向の補強リングと同様に、前記軸方向の間隔を挟んで対向する弧状ブロックのテーパー面に2つの前記第2の楔が配設され、これら2つの第2の楔の間に間詰め処理をおこなう実施の形態であってもよい。
【0046】
さらに、本発明は既設覆工の補強装置にも及ぶものであり、この補強装置は、地下トンネルにおける断面が円形もしくは略円形の既設覆工の内面の周方向に、間隔を置いて配設される複数の弧状ブロックと、それぞれの前記間隔内に配されるジャッキであって、複数のジャッキを張り出させてそれぞれの弧状ブロック間の間隔を広げながら周方向の軸力をそれぞれの弧状ブロックに付与するジャッキと、広げられた前記間隔内に配されて該間隔を保持する間隔保持材と、からなり、ジャッキが前記間隔から取り外された際のジャッキ反力を前記間隔保持材が受け替え、少なくとも周方向に配設された複数の弧状ブロックと複数の間隔保持材からなる補強リングを形成するものである。
【0047】
本発明の既設覆工の補強装置は、既述する既設覆工の補強方法で適用される構成部材からなる補強構造でもあり、最終構造では取り外されて存在しないジャッキによって軸力が付与された弧状ブロックと間隔保持材からなる補強リングを最終装置構造とするものである。
【0048】
この補強装置においては、前記弧状ブロックのうち、隣接する弧状ブロックに対向する端面は既設トンネル側からトンネル内側に傾斜したテーパー面を有し、前記間隔はその両側の2つのテーパー面によってトンネル内側に広がる断面視台形状を呈しており、前記間隔保持材は前記間隔と同じ断面視台形状の第1の楔となっている実施の形態であってもよい。
【0049】
また、前記弧状ブロックのうち、既設覆工と接触する外面に緩衝層が設けてある実施の形態であってもよい。
【0050】
さらに、前記補強リングは既設覆工の軸方向に間隔を置いて配設されるものであり、隣接する補強リングの対向する2つの弧状ブロックの該軸方向の端面もテーパー面となっており、これによって前記軸方向の間隔は平面視台形状を呈しており、該軸方向の間隔内に平面視台形状の第2の楔が配されている実施の形態であってもよい。
【発明の効果】
【0051】
以上の説明から理解できるように、本発明の既設覆工の補強方法と補強装置によれば、断面円形等の既設覆工の内面に周方向に軸力を生じさせることのできる補強リングを構築し、この補強リングに軸力を作用させてその径を拡大させ、補強リングの拡径の過程で既設覆工に地山側へ押し出す力を付与させることにより、補強リングが既設覆工内部の利用上の障害とならず、かつ、既設覆工の変形を強制的に緩和してその内部応力を低減し、もってその耐力回復を図りながら、効果的に既設覆工に作用する土圧や土水圧を補強リングからの押し出し力で相殺することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】弧状ブロックの一実施の形態の斜視図である。
【図2】本発明の既設覆工の補強方法の第1のステップを説明する模式図である。
【図3】図2に続いて第1のステップ、さらに第2のステップを説明する模式図である。
【図4】(a)は図3のIVa部の拡大図であり、(b)は図3のIVb矢視図である。
【図5】第3のステップを説明する模式図である。
【図6】(a)は図5のVIa部の拡大図であり、(b)は図5のVIb矢視図であり、(c)は図6(b)に対応する図であって他の実施の形態を示した図である。
【図7】図5に続いて第3のステップを説明する模式図である。
【図8】図7のVIII矢視図である。
【図9】補強リングが既設覆工の軸方向に連続する場合の補強リング間の繋ぎ形態の一実施の形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、図面を参照して本発明の既設覆工の補強方法と補強装置の実施の形態を説明する。
【0054】
図1は弧状ブロックの一実施の形態の斜視図であり、図2,3,5,7は順に本発明の補強方法のフロー図となっており、図2は第1のステップ、図3は第1のステップおよび第2のステップ、図5,7は順に第3のステップをそれぞれ説明する模式図であって、いずれも既設覆工を軸方向に直交する縦断面で見た図である。
【0055】
図2で示す既設覆工Fは、都市部の地盤E内にシールド工法にて施工されたシールドトンネルであり、複数の弧状で鉄筋コンクリート製のセグメントSが不図示のシールド掘進機内のエレクタにて周方向(C方向)に組み付けられて断面円形のリング状を成し、これがトンネル軸方向に組み付けられて所定長さのトンネルを形成している。なお、既設トンネルの断面形状は図示する円形(新円形)に限定されるものでなく、楕円形や上下半で曲率の異なる断面形状などであってもよい。また、既設トンネルはシールドトンネルに限定されるものでなく、推進工法による推進トンネルや開削工法による開削トンネルなど、現存するトンネルであって補強を要するトンネル全般がその対象である。
【0056】
この既設覆工Fは、周辺地盤Eにおける別途のトンネルの新設や地下水位の変動などにより、変動した作用土圧や土水圧に対して構造耐力が不足したり、あるいはこれらの変動荷重によって過大な変形が生じたり、この過大な変形や構成部材の老朽化によるクラック等から漏水が生じる等の課題を有しており、そのために既設覆工内部に新規の補強リングを構築して既設覆工の補強をおこなうものである。
【0057】
まず、図1で示すような補強リング形成用の弧状ブロック1を用意する。この弧状ブロック1は、補強対象の既設覆工Fの内面をなす円の一部の円弧状を呈し、所定の幅でかつ所定の厚みを有するコンクリート製もしくは鋼製のセグメントからなる。
【0058】
弧状ブロック1の既設覆工側の外面1bにはゴム素材の緩衝層2が形成されており、既設覆工Fを構成するセグメントSと弧状ブロック1が施工時や供用時に直接接触した際に双方が損傷するのを抑制するものである。たとえば、既設覆工Fが過度に変形しており、この変形箇所に弧状ブロック1を設置した際に設計通りに設置できないといったケースや、セグメントSの表面が経年劣化で面粗度が大きくなっているケースにおいては、セグメントSと接触した際に少なくとも弧状ブロック1の外面が破損する可能性があるため、この破損可能性を低減するために緩衝層2が設けられる。
【0059】
また、弧状ブロック1のうち、これが既設覆工Fの内面に周方向に設置される際の周方向の端面1aは、円弧の法線に対して角度θで内側に(外面1bから内側に向かって)テーパー状に形成されたテーパー面となっている。
【0060】
既設覆工Fの内側で一つの補強リングを構築するに要する基数の弧状ブロック1を用意する。なお、既設覆工Fの軸方向に所定延長に亘って補強リングを連接して施工する場合は、一つの補強リング形成に要する基数×補強リング数で算出される基数の弧状ブロック1を用意する。
【0061】
まず、既設覆工F内を自走する不図示のエレクタ装置等が搭載された仮受け台車等を利用して、既設覆工Fの周方向(図2のC方向)に所定の間隔Gを置いて複数の弧状ブロック1,…を配設してこれらを仮受けし、さらに、図3で示すように各間隔G内に油圧ジャッキやキリンジャッキ等のジャッキ3を配して仮受けする(第1のステップ)。なお、ジャッキ3は、図4bで示すように弧状ブロック1の端面1aの中央位置に配設される。
【0062】
ここで、ジャッキ3が弧状ブロック1の端面1aを弧状ブロック1の円弧方向に押し出すことができるように、弧状ブロック1の端面1aとジャッキ3の間に、図4aで示すように断面視で中心角θの三角形状の角度調整用挿入具4を配設して平坦面(弧状ブロック1の円弧方向に沿う方向と直交する面)を形成しておく。この角度調整用挿入具4の平坦面をジャッキが押し出すようにしてやることで、ジャッキの押し出し力を効果的に弧状ブロック1に付与することができる。
【0063】
複数の弧状ブロック1,…とジャッキ3,…を既設覆工Fの周方向に組み付けて仮受けさせたら、次いで、各ジャッキ3を同期制御して対応する左右の弧状ブロック1,1に同様の軸力N’を付与させる。
【0064】
ある程度の軸力N’が各弧状ブロック1に導入された段階で、複数の弧状ブロック1,…とジャッキ3,…は仮受けなしに自立的にリング形状(補強リングの前段となる中間補強リング10’)を形成できるようになるので、この段階でエレクタ装置等による仮受けを解除する。
【0065】
各ジャッキ3,…の張り出し量を除々に大きくしていくことで弧状ブロック1,1間の間隔Gが大きくなり、各間隔Gが同期して大きくなっていく過程で中間補強リング10’が拡径していく。
【0066】
中間補強リング10’の拡径にともなって、中間補強リング10’の軸力N’に起因する径方向の力(等分布荷重q’=N’/r’(r’はその時点での中間補強リング10’の半径))が既設覆工Fに作用し、既設覆工Fはこの力によって地山E側へ押し出されることになる。そのため、既設覆工Fの一部が内側に変形している場合はこの変形を地山E側へ押し出して当該変形を緩和することができ、この変形によって既設覆工F内に生じていた内部応力を低減して既設覆工Fの耐力回復を図ることができる。
【0067】
等分布荷重q’が中間補強リング10’から既設覆工Fに付与され、さらにこの既設覆工Fを介して地山Eを既設覆工Fから押し出す方向(押し返す方向)に付与することができ、地山Eから既設覆工Fに作用している土圧や土水圧が中間補強リング10’から既設覆工Fに付与される押し出し力によって相殺されることになる。
【0068】
中間補強リング10’を所定径まで拡径した段階で各ジャッキ3の張り出し制御を停止する(第2のステップ)。
【0069】
次に、ジャッキ3が配されていて張り出し終了時点の幅を有する間隔Gに対して、図5で示すようにこの間隔Gを保持する間隔保持材5を間隔G内に挿入してこれでジャッキ反力を受け替えさせる。より具体的には、図6aで示すように、形成されている間隔Gはその断面視形状が両側のテーパー面1a,1aによって形成された台形状となっており、ここに挿入される間隔保持材5も同様に台形状を呈したものが使用され、これが楔をなして(第1の楔)、軸力(圧縮力)を有する両側の弧状ブロック1,1を強固に繋ぐことができる。なお、図6bで示すように、間隔保持材5は端面1aの中央位置にあるジャッキ3の両側2箇所に配設される。
【0070】
ここで、間隔保持材5と弧状ブロック1の接合強度を高めるべく、図6cで示すように弧状ブロック1と間隔保持材5の双方をボルトBで繋いでもよい。
【0071】
各間隔保持材5でジャッキ反力を受け替えさせたら、ジャッキ3の張り出し量を低減し、間隔Gからジャッキ3を取り外すことによって、周方向に配設された複数の弧状ブロック1,…と複数の間隔保持材5,…からなる補強リング10が形成される。
【0072】
図示するように弧状ブロック1の端面1aの中央位置をジャッキ3で押し出すようにし、間隔保持材5,5はこのジャッキの両側の2箇所(中央位置から左右同じオフセット位置)に配設するようにしておくことで、ジャッキ3を押し出す際に弧状ブロック1に偏荷重が作用することもないし、ジャッキ反力を間隔保持材5に受け替えた後に弧状ブロック1に偏荷重が作用することもない。
【0073】
図7,8で示すように、対向する弧状ブロック1,1の端面1a,1aと、2つの間隔保持材5,5とで画成される隙間にグラウト(モルタルやセメントペーストなど)を充填硬化させて間詰め処理(間詰め部6)をおこなうことで、周方向に強固な補強リング10が形成される(第3のステップ)。
【0074】
このように、本発明の既設覆工の補強方法によれば、断面円形等の既設覆工Fの内面に周方向に軸力を生じさせることのできる補強リング10を構築し、この補強リング10に軸力を生じさせてその径を拡大させ、補強リング10の拡径の過程で既設覆工Fに地山E側へ押し出す力を付与させることにより、補強リング10が既設覆工F内部の利用上の障害となることはなく、既設覆工Fの変形を強制的に緩和させてその内部応力を低減し、もって耐力回復を図りながら効果的に既設覆工を補強することができる。
【0075】
図9は、上記する補強方法を既設覆工の軸方向(長手方向)に拡張しておこなう際の隣接する補強リング10,10間の繋ぎ形態の一実施の形態を示した図である。
【0076】
図示する実施の形態はたとえば既設覆工Fの軸方向(J方向)に複数の補強リング10,…を連続的に施工して任意延長区間を補強するものであり、周方向(C方向)の補強リング10を構成する弧状ブロック1,1間の空間Gを台形状としてここに台形状の第1の楔(間隔保持材5)を配設するのと同じように、軸方向においても、隣接する補強リング10,10間における対応する弧状ブロック1,1同士の端面1c、1cをテーパー状に形成し、補強リング10,10間に台形状の空間を形成する。そして、この台形状空間と同形状の第2の楔7,7を配し、第2の楔7,7間に間詰め部8を施工して補強リング10,10同士を軸方向に強固に繋ぐものである。
【0077】
なお、図1,2で示す既設覆工Fの内面の周方向に間隔Gを置いて配設される複数の弧状ブロック1,…と、それぞれの間隔G内に配される図3で示すジャッキ3であって、複数のジャッキ3,…を張り出させてそれぞれの弧状ブロック1,1間の間隔Gを広げながら周方向の軸力Nをそれぞれの弧状ブロックに付与するジャッキ3と、広げられた間隔G内に配されて該間隔Gを保持する図5で示す間隔保持材5と、からなり、ジャッキ3が間隔Gから取り外された際のジャッキ反力を間隔保持材5が受け替え、少なくとも周方向に配設された複数の弧状ブロック1,…と複数の間隔保持材5,…から既設覆工の補強装置が構成される。
【0078】
この補強装置は、その構成部材である弧状ブロック1の既設覆工側の外面1bにゴム素材の緩衝層2を具備しているのが好ましい。
【0079】
また、補強装置の他の実施の形態として、図9で示すように、補強リング10は既設覆工Fの軸方向(J方向)に間隔を置いて配設されるものであり、隣接する補強リング10,10の対向する2つの弧状ブロック1,1の該軸方向の端面1c、1cもテーパー面となっており、これによって軸方向の間隔は平面視台形状を呈しており、該軸方向の間隔内に平面視台形状の第2の楔7が配されている実施の形態であってもよい。
【0080】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0081】
1…弧状ブロック、1a…周方向の端面、1b…既設覆工側の外面、2…緩衝層、3…ジャッキ、4…角度調整用挿入具、5…間隔保持材(第1の楔)、6…間詰め部、7…間隔保持材(第2の楔)、8…間詰め部、10…補強リング、G…間隔、S…セグメント、F…既設覆工、E…地盤(地山)、C…周方向、J…既設覆工の軸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下トンネルにおける断面が円形もしくは略円形の既設覆工の内面の周方向に、複数の弧状ブロックを間隔を置いて配設するとともに、該間隔内にジャッキを配する第1のステップ、
複数のジャッキを張り出させてそれぞれの弧状ブロック間の間隔を広げながら周方向の軸力をそれぞれの弧状ブロックに付与する第2のステップ、
広げられた前記間隔を保持する間隔保持材を複数の該間隔内に配し、ジャッキを該間隔から取り外してジャッキ反力を間隔保持材に受け替えて、少なくとも周方向に配設された複数の弧状ブロックと複数の間隔保持材からなる補強リングを形成する第3のステップ、からなる既設覆工の補強方法。
【請求項2】
前記弧状ブロックのうち、隣接する弧状ブロックに対向する端面は既設トンネル側からトンネル内側に傾斜したテーパー面を有し、前記間隔はその両側の2つのテーパー面によってトンネル内側に広がる断面視台形状を呈しており、
前記間隔保持材は前記間隔と同じ断面視台形状の第1の楔となっている請求項1に記載の既設覆工の補強方法。
【請求項3】
前記弧状ブロックの前記テーパー面と前記ジャッキの間に角度調整用挿入具を配設し、該角度調整用挿入具の平坦面を該ジャッキが押圧する請求項2に記載の既設覆工の補強方法。
【請求項4】
前記第1のステップでは、前記弧状ブロックの前記端面の略中央位置に前記ジャッキを配し、
前記第3のステップでは、前記間隔保持材を前記端面における該ジャッキの両側に配す、請求項1〜3のいずれかに記載の既設覆工の補強方法。
【請求項5】
前記第3のステップでは、ジャッキを取り外した後に2つの前記間隔保持材の間に間詰め処理をおこなう請求項4に記載の既設覆工の補強方法。
【請求項6】
前記弧状ブロックのうち、既設覆工と接触する外面に緩衝層が設けてある請求項1〜5のいずれかに記載の既設覆工の補強方法。
【請求項7】
前記補強リングは既設覆工の軸方向に間隔を置いて配設されるものであり、隣接する補強リングの対向する2つの弧状ブロックの該軸方向の端面もテーパー面となっており、これによって前記軸方向の間隔は平面視台形状を呈しており、該軸方向の間隔内に平面視台形状の第2の楔を配す、請求項1〜6のいずれかに記載の既設覆工の補強方法。
【請求項8】
前記軸方向の間隔を挟んで対向する弧状ブロックのテーパー面に2つの前記第2の楔が配設され、これら2つの第2の楔の間に間詰め処理をおこなう請求項7に記載の既設覆工の補強方法。
【請求項9】
地下トンネルにおける断面が円形もしくは略円形の既設覆工の内面の周方向に、間隔を置いて配設される複数の弧状ブロックと、
それぞれの前記間隔内に配されるジャッキであって、複数のジャッキを張り出させてそれぞれの弧状ブロック間の間隔を広げながら周方向の軸力をそれぞれの弧状ブロックに付与するジャッキと、
広げられた前記間隔内に配されて該間隔を保持する間隔保持材と、からなり、
ジャッキが前記間隔から取り外された際のジャッキ反力を前記間隔保持材が受け替え、少なくとも周方向に配設された複数の弧状ブロックと複数の間隔保持材からなる補強リングを形成する、既設覆工の補強装置。
【請求項10】
前記弧状ブロックのうち、隣接する弧状ブロックに対向する端面は既設トンネル側からトンネル内側に傾斜したテーパー面を有し、前記間隔はその両側の2つのテーパー面によってトンネル内側に広がる断面視台形状を呈しており、
前記間隔保持材は前記間隔と同じ断面視台形状の第1の楔となっている請求項9に記載の既設覆工の補強装置。
【請求項11】
前記弧状ブロックのうち、既設覆工と接触する外面に緩衝層が設けてある請求項9または10に記載の既設覆工の補強装置。
【請求項12】
前記補強リングは既設覆工の軸方向に間隔を置いて配設されるものであり、隣接する補強リングの対向する2つの弧状ブロックの該軸方向の端面もテーパー面となっており、これによって前記軸方向の間隔は平面視台形状を呈しており、該軸方向の間隔内に平面視台形状の第2の楔が配されている、請求項9〜12のいずれかに記載の既設覆工の補強装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−193577(P2012−193577A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59541(P2011−59541)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000230010)ジオスター株式会社 (77)
【Fターム(参考)】