説明

昇圧回路

【課題】従来から知られている昇圧回路は、小型化しようとすると効率が悪化してしまい、消費電力が増加してしまうという問題があった。
【解決手段】第1の櫛歯電極K10および第2の櫛歯電極K20は、第1の櫛歯アクチュエータαを構成する。第2の櫛歯電極K20と第3の櫛歯電極30は、可動部1として一体的に形成されている。第3の櫛歯電極K30および第4の櫛歯電極K40は、第2の櫛歯アクチュエータβを構成する。本実施の形態による昇圧回路は、可動部1を共有した2つの櫛歯アクチュエータα,βからなる3端子型櫛歯アクチュエータを用いている。第1の櫛歯電極K10と接地との間には、直流電源8と交流電源10とを直列に接続する。第4の櫛歯電極K40は接地し、可動部1(第2の櫛歯電極K20および第3の櫛歯電極K30)からボルテージフォロア12を介して昇圧出力を取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、櫛歯アクチュエータを用いた昇圧回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フラッシュメモリやDRAMに対して書き込み処理を行うためには、12V(ボルト)以上の電圧が必要とされている。一方、携帯電話などのモバイル機器における電源電圧は1.8Vないし3.3Vが標準であるので、フラッシュメモリなどの書き込み処理を行うための電圧としては不足している。そこで昇圧回路が必要となり、従来から種々の昇圧回路が知られている。
【0003】
例えば、チャージポンプ回路を備えた昇圧回路として、特許文献1あるいは特許文献2に記載された昇圧回路が知られている。特許文献1には、直列接続された複数のチャージポンプユニットを有するチャージポンプ回路を用いることにより、回路の大規模化を抑えながら昇圧効率を向上できる昇圧回路が開示されている。特許文献2には、昇圧用のキャパシタの耐圧を低くして小面積の昇圧回路を実現する多段構成の昇圧回路が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2008−22610号公報
【特許文献2】特開平2004−247689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来から知られているこの種の昇圧回路は、小型化しようとすると効率が悪化してしまい、消費電力が増加してしまうという問題があった。換言すると、従来から知られている昇圧回路に替えて、できるだけコンパクトで且つ消費電力の少ない昇圧回路が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る昇圧回路は、第1の櫛歯電極と、前記第1の櫛歯電極と所定の間隔をもって歯合する第2の櫛歯電極とを有する第1の櫛歯アクチュエータと、第3の櫛歯電極と、前記第3の櫛歯電極と所定の間隔をもって歯合する第4の櫛歯電極とを有する第2の櫛歯アクチュエータとを備え、前記第2の櫛歯電極および前記第3の櫛歯電極が同じ動きをするよう一体的に形成した3端子型櫛歯アクチュエータのいずれか一つの櫛歯電極から出力を得る。
【発明の効果】
【0007】
本発明による昇圧回路によれば、3端子型櫛歯アクチュエータを用いることにより、簡易且つ小型な構成ながら消費電力を抑制した昇圧回路を実現することができる。その結果として、本発明による昇圧回路は、フラッシュメモリやDRAMに対して書き込みを行う際に用いるばかりでなく、例えば携帯デバイス内部における他のICの駆動源としての利用や、太陽電池の出力電圧を昇圧するなど、従来は考えられなかった種々用途に供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態による昇圧回路を示す全体構成図である。
【図2】本発明の一実施形態による他の昇圧回路を示す全体構成図である。
【図3】平行平板型アクチュエータのモデル化を説明するための摸式図である。
【図4】平行平板型アクチュエータのモデル化演算により得られた回路を示す図である。
【図5】平行平板静電アクチュエータの等価回路を示す図である。
【図6】本実施の形態による3端子型櫛歯アクチュエータを示す等価回路図である。
【図7】一般的な櫛歯アクチュエータの櫛1組辺りの静電容量C0について示した説明図である。
【図8】電子回路シミュレータPSpice(商標)によるシミュレーション結果を示す図である。
【図9】その他の実施形態について説明した図である。
【図10】その他の実施形態について説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
<実施の形態1>
図1は本発明を適用した昇圧回路を示す全体構成図である。本図において、K10は第1の櫛歯電極であり、固定部1に含まれている。K20は第2の櫛歯電極であり、可動部1に含まれている。これら第1の櫛歯電極K10および第2の櫛歯電極K20は、所定の空隙を開けた状態で歯合する第1の櫛歯アクチュエータαを構成する。
【0011】
K30は第3の櫛歯電極であり、可動部1に含まれている。すなわち、第2の櫛歯電極K20と第3の櫛歯電極30は、一体的に移動する可動部1として形成されている。K40は第4の櫛歯電極であり、固定部2に含まれている。そして、第3の櫛歯電極K30および第4の櫛歯電極K40は、所定の空隙を開けた状態で歯合する第2の櫛歯アクチュエータβを構成する。このように、本実施の形態による昇圧回路は、可動部1(一体的に移動する第2の櫛歯電極K20および第3の櫛歯電極K30を有する)を共有した2つの櫛歯アクチュエータα,βからなる3端子型櫛歯アクチュエータを用いている。
【0012】
櫛歯アクチュエータに関する構造および製造方法については、本出願による国際公開第03/045838号(再公表特許公報 WO2003/045838)、あるいは、特開平2006−26826号公報に記載したように、もはや公知技術となっているので詳細な説明は省略する。
【0013】
第1の櫛歯電極K10と接地との間には、櫛歯電極間にクーロン力を発生させるための直流電源8と、3端子型櫛歯アクチュエータの共振周波数成分を印加する交流電源10とを直列に接続する。なお、直流電源8としては、固定的な直流電圧を発生する直流電源回路の他に、エレクトレットなど他の直流電圧発生源を含む。第4の櫛歯電極K30は接地し、可動部1(第2の櫛歯電極K20および第3の櫛歯電極K30)からは、ボルテージフォロア12を介して昇圧出力を取り出す。
【0014】
なお、図1に示した昇圧回路では、第1の櫛歯電極K10に直流電源8と交流電源を直列接続してあるが、図2に示すように、交流電源10のみを接続することも可能である。すなわち図2では、直流電源8については可動部1(第2の櫛歯電極K20および第3の櫛歯電極K30)に接続し、第4の櫛歯電極K40からボルテージフォロア12を介して昇圧出力を取り出している。
【0015】
図1に示した電圧印加状態も第2図に示した電圧印加状態も2つの櫛歯アクチュエータα,βを駆動する点では同様であるので、図1に基づいて、具体的な動作を詳細に説明していく。
【0016】
既述の通り、本実施の形態による昇圧回路では、可動部1(第2の櫛歯電極K20および第3の櫛歯電極K30)を共有した2つの櫛歯アクチュエータα,βからなる3端子型櫛歯アクチュエータを用いている。直流電圧を第1の櫛歯電極K10に印加すると、櫛歯アクチュエータα,βはそれぞれ別のコンデンサであるとみなすことができる。そこで、これらコンデンサに対して同時に共振周波数の交流電圧を印加することにより、可動部1は振動し容量のスイッチング(充放電)を行うことができる。なお、本実施の形態による3端子型櫛歯アクチュエータを自励発振回路の帰還回路中に組み込むことにより交流電源を省略することも可能であるが、この構造については、後に、実施の形態2として説明する。
【0017】
ボルテージフォロア12の出力端からは、入力した交流電圧の振幅の値を超える振幅を持つ交流電圧が出力される。この交流電圧を整流することで(図示せず)、直流を得ることができる。こうして得られた直流電圧は、適切な回路条件を設定することで、印加した直流電圧を越える値を有する。
【0018】
このようにして昇圧回路としての機能が実現されるが、既述の通り直流電圧を印加する手段として、エレクトレットなどの永久帯電膜による電荷を用いることもできる。特に、エレクトレットを用いた場合には非常に高い直流電圧(例えば、100V以上の直流電圧)を得ることがでるので、最終的に取り出せる直流電圧も数十V〜数百Vまで高めることができる。
しかも、MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)による非常に高いQ値を利用しているので、高効率の昇圧回路とすることができる。
【0019】
既に知られているように、櫛歯電極を有する回路では、電気系と機械系がそれぞれ相互に影響しあうことになる。そして、それぞれ変位や速度などの機械的なパラメータは、電気素子として解析することができる。次に示す表1は、機械系と電気系パラメータの対応関係を示したものである。

【表1】

【0020】
表1に示した各パラメータをもとにラグランジュ方程式を解くことにより、機械系を含んだ動きのある回路を電気的な等価回路で再現することができる。そして、PSpice(商標)などの電気回路シミュレータを用いることで、等価回路の振る舞いを予測することができる。(参考文献: 櫛歯アクチュエータの電気素子表現と自励発振回路解析への応用機械学会年次大会講演論文集2007(1)pp.707-708 2007907)
【0021】
まず、櫛歯電極をラグランジュ方程式によって解き、等価回路を記述する方法を以下に示す。ラグラジアンは一般的に

【数1】


の形をしており、


【数2】


である。
【0022】
これは空間の一様性からの要請で、ラグラジアンが位置ベクトルrに依存せず、さらに速度ベクトルの方向にも依存しないということから導かれる。すなわちTは、

【数3】


の形で表され、速さの二次形式になっている。
【0023】
ここで同次関数に関するオイラーの定理を用いると

【数4】


となる。
孤立した質点系では、

【数5】


である。
摩擦力のような損失は速度に比例し、力は速度と反対向きに働くので、

【数6】


と表される。
【0024】
散逸関数Fを、


【数7】


と定義すれば、

【数8】


と表現することができる。
一般化外力をfとすれば、ラグランジュ方程式の右辺に足すことにより、以下の式が得られる。

【数9】

【0025】
次に、平行平板型アクチュエータのモデル化について説明する。
【0026】
図3は、平行平板型アクチュエータのモデル化を説明するための摸式図である。ここで、ラグラジアンは

【数10】


であり、散逸関数Fは

【数11】


である。
よって機械系、電気系の方程式は

【数12】


で与えられる。
【0027】
また、浮遊容量Cを考慮した場合、ラグラジアンLは

【数13】


のように表すことができる。
ここで、

【数14】


などより、

【数15】


となる。
いま

【数16】


とし、微小変動に対して

【数17】


に変化したとすれば、

【数18】


として、

【数19】


となる。これを、より説明的に記載すると、

【数20】


となる。すなわち、

【数21】


はガウスの定理

【数22】


より電界を表すことが分かる。

【0028】
図4は、平行平板型アクチュエータのモデル化演算により得られた上式を表す回路図である。これをフェーザ表示すれば、

【数23】


となる。
【0029】
上述の如く、

【数24】


および

【数25】


は、それぞれ機械系における電気的影響と、電気系における機械的な影響を表している。すなわち、機械系においては、入力した電圧に係数(=M)をかけた電圧を出力する素子ということになり、PSpice(商標)においては電圧制御電圧源とみなすことができる。電気系においては、入力した電流に対し係数(=M)をかけた電流を吐き出す素子ということになり、電流制御電流源とみなすことができる。
【0030】
したがって、平行平板静電アクチュエータの等価回路は図5に示すようになる。本実施の形態による3端子櫛歯アクチュエータは、この静電アクチュエータを2個繋げたものとなる。そして、入力する側を一次側、出力もしくは接地する側を二次側とする。具体的には図6に示すように、電圧源および電流源を持つ左右の固定電極と、中央の可動電極の3つからなる。
【0031】
負荷容量をCLとし、出力に対して並列接続されているものと想定する。なお固定電極ではバネ定数kが非常に高くなるので、容量成分は低下することになる。但し、インダクタ成分である重量mおよび抵抗rfxは可動電極と同じ値に設定する。
【0032】
昇圧回路として構成する場合、固定電極にあたる部分も可動部と同じバネ定数にすることで共振周波数を一致させた可動構造とし、可動部を3つ並べることで、相対的な変位速度を向上させることができる。その場合、回路上はrfx、m、1/kの値が等しい3つの同じ等価回路が並ぶことになる。
【0033】
以上の説明は平行平板が前提の式であるが、櫛歯アクチュエータの場合には、静的静電容量C0の値や係数Mの算出方法が異なってくる。この係数Mを電気機械結合係数と呼ぶ。
【0034】
図7は、一般的な櫛歯アクチュエータの櫛1組辺りの静電容量C0について示した説明図である。一般的な櫛歯アクチュエータの櫛1組辺りの静電容量C0は下記の式で近似することができる。

【数26】


実際の櫛歯アクチュエータにおいては、この一組の櫛歯がN個あるとして、静電容量はN倍される。この式を既述のラグランジュ方程式に当てはめることで、櫛歯アクチュエータの等価回路を導くことができる。櫛歯アクチュエータにおける電気機械結合係数をAとすると、Aは下記の式で表すことができる。

【数27】


ここでX0は、直流電圧E0がかかっている場合の、櫛歯のオーバーラップ距離である。この電気機械結合係数が高くなればなるほど、櫛歯アクチュエータを昇圧回路として用いる場合、より高電圧を発生させることができ、かつ効率よく電流を伝えることが可能になる。
【0035】
したがって、櫛歯アクチュエータを昇圧回路として用いる場合に重要なポイントは、電気機械結合係数Aの値が、目標とする電圧や負荷に対して充分高いかどうか、という点になる。
【0036】
実用上の昇圧を実現するためには、電気機械結合係数が10の−6乗オーダ以上である必要がある。それ以下の場合は昇圧に至らないか、もしくは容量の負荷を満たすことができない。したがって、静電容量と、狭ギャップ、可動部の剛性、可動部の重量、機械抵抗について電気機械結合係数が1.0×10−6以上になるようしたうえで、昇圧が起こるように設計を行うのが好適である。
【0037】
電気機械結合係数Aは、上記の式にある通り、初期静電容量、初期の櫛歯のオーバーラップ、印加電圧、櫛歯本数の関数となる。これを向上させるためには、櫛歯のギャップ、図7におけるdを小さくすることが最も有効である。他のパラメータによってAを増やそうとする場合は同時に面積や抵抗値が上昇してしまうので、素子として効率が悪くなる。理想的には、櫛歯のギャップを0.2μm以下程度とすると、1.8Vから12Vの昇圧を得る回路にて素子サイズを1mm角程度に抑えこむことができる。
【0038】
なお、電気機械結合係数Aが大きくても、機械抵抗rfxが高い場合には、そのオーダの分だけ相殺されてしまう。図6に示した等価回路における機械抵抗は、主に空気の粘性によるものであるので、真空中などの空気の粘性抵抗の低い状態でなければ発生する電圧は低下することになる。
【0039】
実際に昇圧を実現するには機械抵抗係数が10のマイナス6乗以下である必要があり、周辺環境の空気圧が10Pa以下の環境下での駆動が必要となる。したがって、実際の素子作成においては、可動素子部分の真空封止が必要となる。
【0040】
櫛歯アクチュエータを真空中にて振動させた場合の等価回路に基づいてシミュレーションを行ったところ、1.8Vの直流電源電圧(および±0.9Vの交流電圧)において、特定の共振周波数では、最大で数倍の昇圧効果を得ることができた。特に、フラッシュメモリなどに電圧を加えるには、およそ100pF程度の容量負荷を考慮する必要があるので、それを加えたうえで考えると、電気機械結合係数が1.0×10−6以上、圧力が10Paより低い環境下において、3端子櫛歯回路を形成すれば昇圧を実現することができる。
【0041】
なお直流電圧発生源として、エレクトレットによる電荷を用いると、より効率よく昇圧させることができる。固定的な直流電源回路を用いる場合に得られる直流電圧は1.8Vないし3.3Vであるのに対し、エレクトレットによる直流電圧は、電荷によって100V以上にすることができるので、好適な電圧源として使用することができる(直流電圧が高ければ、そのぶん電気機械結合係数Aは上昇する)。
【0042】
いま櫛歯組数を左右それぞれ500組とし、印加直流電圧を1.8V、印加交流電圧を±0.9V、初期静電容量C0を5.0pFとし、固定電極部も可動電極部と同じ共振周波数にて可動できるようにして、左右中央の3つの電極のバネ定数を111N/m、各電極の重量を53.7ng、ギャップを0.2μm、オーバーラップを3μm、機械抵抗を10の−8乗とし、電気機械結合係数を10の−6乗、浮遊容量を各電極で1.4pF、負荷容量Cを100pFとした系についてシミュレーションを行うと、図8に示すような結果が得られた。すなわち、電子回路シミュレータPSpice(商標)によるシミュレーション結果によれば、最大で45Vp-pの交流電圧が得られた。したがって、これを整流することで12V以上の直流電圧が得られることになる。
【0043】
−実施の形態1による作用・効果−
本実施の形態によれば、以下のような作用・効果を奏することができる。
(1)第1の櫛歯電極K10と、第1の櫛歯電極K10と所定の間隔をもって歯合する第2の櫛歯電極K20とを有する第1の櫛歯アクチュエータαと、第3の櫛歯電極K30と、第3の櫛歯電極K30と所定の間隔をもって歯合する第4の櫛歯電極K40とを有する第2の櫛歯アクチュエータβとを備え、第2の櫛歯電極K20と第3の櫛歯電極K30とが同じ動きをするよう一体的に可動部1として形成した3端子型櫛歯アクチュエータのいずれか一つの櫛歯電極から昇圧出力を得る構成としてあるので、簡易且つ小型な構成ながら消費電力を抑制した昇圧回路を実現することができる。
【0044】
(2)第1の櫛歯電極K10には、直列接続された直流電源8および交流電源10を接続し、一体的に形成された第2の櫛歯電極K20および第3の櫛歯電極K30から昇圧出力を取り出す構成としてあるので、MEMSによる非常に高いQ値を利用して高効率の昇圧回路を実現することができる。また、固定的な直流電源8の替わりにエレクトレットを用いた場合には、非常に高い直流電圧(例えば、100V以上の直流電圧)を得ることがでるので、最終的に取り出せる直流電圧も数十V〜数百Vまで高めることができる。
【0045】
(3)第1の櫛歯電極K10には交流電源を接続し、一体的に形成された第2の櫛歯電極K20および第3の櫛歯電極K30には直流電源8を接続し、第4の櫛歯電極K40から昇圧出力を取り出す場合にも、上記(2)で述べたと同じ作用効果を得ることができる。
【0046】
−実施の形態1における変形例−
(1)これまで説明してきた実施の形態1では、昇圧出力を得るバッファアンプとしてボルテージフォロア12を用いたが、必ずしもボルテージフォロア12である必要はない。たとえば、FETなどインピーダンス変換ができる素子を利用ことも可能である。
すなわち、ボルテージフォロアに用いるオペアンプは、その原理上、自身の直流電源電圧以上の電圧を出力することはできないが、本発明では昇圧を目的とするものであることから、その昇圧された電圧より大きな直流電源が既に存在するというのは、実験環境ではともかく、実用上は現実的でない。実験環境ではJ−FET入力などの高入力インピーダンス型ボルテージフォロアが最も適切ではあるが、実際の応用場面では、FETを利用するのがより好適である。
【0047】
(2)先に説明した図1および図2では、第1の櫛歯電極K10および第4の櫛歯電極K40がそれぞれ固定部1,2に含まれており、第2の櫛歯電極K20と第3の櫛歯電極30は、一体的に移動する可動部1に含まれている構造を有している。しかしながら、本発明を実施するためには、第1の櫛歯電極K10および第4の櫛歯電極K40を必ずしも固定部に含ませることなく、可動部に含ませることも可能である。すなわち、第2の櫛歯電極K20と第3の櫛歯電極30が一体的に移動する構造となっていればよい。
換言すると、本発明を実施するためには、第1の櫛歯電極K10’と、第1の櫛歯電極K10’と所定の間隔をもって歯合する第2の櫛歯電極K20’とを有する第1の櫛歯アクチュエータα’と、第3の櫛歯電極K30’と、第3の櫛歯電極K30’と所定の間隔をもって歯合する第4の櫛歯電極K40’とを有する第2の櫛歯アクチュエータβ’とを備え、第2の櫛歯電極K20’と第3の櫛歯電極K30’とが同じ動きをするよう一体的に形成した3端子型櫛歯アクチュエータのいずれか一つの櫛歯電極から昇圧出力を得る構成をとればよい。
【0048】
<実施の形態2>
これまで説明してきた実施の形態1では、図1および図2に示したように、独立の交流電源10を用いるものとして説明を行ってきたが、3端子型櫛歯アクチュエータを自励発振器(図示せず)の帰還回路中に挿入して昇圧回路を構成することができる。この帰還回路中に接続する端子は、図1に示した第1の櫛歯電極K10および第4の櫛歯電極K40にそれぞれ設ける(図示せず)。直流電圧は可動部1(図1のK20,K30)に直接印加する。すなわち、実施の形態1では図6に示したように、交流電圧と直流電圧を櫛歯アクチュエータに対して印加する端子は固定部1への1つだけであるが、実施の形態2では、固定部1および2に交流印加端子を、可動部1に直流印加端子を別個に設ける。
【0049】
なお、実施の形態1では二次側(図1のK40)の固定部2が接地されているので、固定部2の寄生容量Cp2を、図6に示すように両側接地とみなして無視することができるが、実施の形態2では無視することができない。その結果、寄生容量による出力低減の影響が実施の形態1よりも大きくなる。しかし、直流電圧を直接可動電極に加えているので、各アクチュエータ間の直流電位差が実施の形態1に対して2倍となり、電気機械結合係数が向上する。さらに、固定部2(図1のK40)の寄生容量を出力負荷に対し充分に小さくできるように素子を作成すれば、実施の形態1よりも高い出力を得ることができる。
【0050】
−実施の形態2による作用・効果−
本実施の形態によれば、以下のような作用・効果を奏することができる。
(1)3端子型櫛歯アクチュエータを自励発信器の帰還回路中に挿入(すなわち、第1の櫛歯電極K10および第4の櫛歯電極K40に接続端子を設ける)構成としてあるので、独立した交流電源10が不要となる。
【0051】
直流電圧を直接可動電極に加えているので、各アクチュエータ間の直流電位差が実施の形態1に対して2倍となり、電気機械結合係数が向上する。
【0052】
固定部2の寄生容量が出力負荷に対して充分に小さくなるよう素子を作成することにより、実施の形態1より高い出力を得ることができる。
【0053】
<その他の実施の形態>
一次側と二次側において、共通の可動部によって相対的な容量のスイッチングを行うことができ、高い電気機械結合係数を実現できる構造であれば、所定の昇圧を行うことができる。
【0054】
例えば、櫛歯アクチュエータは一般に軸方向に移動するよう設計されるが、軸に対して面方向に垂直、あるいは水平方向に垂直に移動してもよい。
前者の場合は、図9に示すように、固定部を垂直方向に絶縁層を介して積層する。
また、可動部は水平方向には移動しないように4方向ないし3方向から支持し、垂直方向に対して最も振動しやすいようにする。そして印加する交流電圧の周波数は垂直方向の共振周波数を用いる。このような構造にすれば寄生容量は多くなるが、省スペース化を図ることができる。
後者の場合は、図10に示すような構造をとる。この場合、櫛歯が長辺方向に対して左右に振動する。図10の構造を有することにより、移動距離は短いものの、櫛歯のギャップの変化を多めにとることができる。
【0055】
なお、これらの構造を支持する台座は、ガラスや酸化シリコン、セラミックスなどを始めとする絶縁体などの寄生容量が低い材質であることが望ましい。
【0056】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上述した実施の形態および変形例に限定されるものではない。
実施の形態と変形例の一つとを組み合わせること、もしくは、実施の形態と変形例の複数とを組み合わせることも可能である。
変形例同士をどのように組み合わせることも可能である。
さらに、本発明の技術的思想の範囲内で考えられる他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0057】
K10 第1の櫛歯電極
K20 第2の櫛歯電極
K30 第3の櫛歯電極
K40 第4の櫛歯電極
α 第1の櫛歯アクチュエータα
β 第2の櫛歯アクチュエータβ
12 ボルテージフォロア


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の櫛歯電極と、前記第1の櫛歯電極と所定の間隔をもって歯合する第2の櫛歯電極とを有する第1の櫛歯アクチュエータと、
第3の櫛歯電極と、前記第3の櫛歯電極と所定の間隔をもって歯合する第4の櫛歯電極とを有する第2の櫛歯アクチュエータとを備え、
前記第2の櫛歯電極および前記第3の櫛歯電極が同じ動きをするよう一体的に形成した3端子型櫛歯アクチュエータのいずれか一つの櫛歯電極から昇圧出力を得ることを特徴とする昇圧回路。
【請求項2】
請求項1に記載の昇圧回路において、
前記第1の櫛歯電極には、直列接続された直流電源および交流電源を接続し、
一体的に形成された前記第2の櫛歯電極および前記第3の櫛歯電極から昇圧出力を取り出すことを特徴とする昇圧回路。
【請求項3】
請求項1に記載の昇圧回路において、
前記第1の櫛歯電極には交流電源を接続し、
一体的に形成された前記第2の櫛歯電極および前記第3の櫛歯電極には直流電源を接続し、
前記第4の櫛歯電極から昇圧出力を取り出すことを特徴とする昇圧回路。
【請求項4】
請求項1に記載の昇圧回路において、
前記3端子型櫛歯アクチュエータを自励発振器の帰還回路中に挿入したことを特徴とする昇圧回路。
【請求項5】
請求項4に記載の昇圧回路において、
前記第1の櫛歯電極および前記第4の櫛歯電極に接続端子を設けることにより、前記3端子型櫛歯アクチュエータを前記自励発振器の帰還回路中に挿入することを特徴とする昇圧回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−62024(P2011−62024A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210849(P2009−210849)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(390022471)アオイ電子株式会社 (85)
【Fターム(参考)】