説明

昇華堅牢度に優れた染色繊維構造体およびその製造方法

【課題】昇華堅牢度が高く、高温成形加工後であっても染色の均一性に優れた染色繊維構造体、および、その製造方法を提供する。
【解決手段】酸性染料非染性樹脂の繊維の表面に酸性染料可染性樹脂を微粒子状に付着させ、この微粒子状酸性染料可染性樹脂を酸性染料により染色する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華堅牢度が高く、染色の均一性に優れた染色繊維構造体およびその製造方法に関する。前記染色繊維構造体は、例えば、人工皮革の基体として好ましく用いられる。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は疎水性で結晶度が高く、緻密であるために難染性である。そのため、ポリエステル繊維の染色は、通常、分散染料を用い、ポリエステル分子鎖間の結合を緩め分散染料が繊維中に拡散し易くするために130℃前後の高温、高圧条件下で行われている。高温、高圧条件を得るためには密閉、耐圧容器を用いる必要があり、エネルギー的にもこの染色方法は工業的に有利な方法とは言い難い。また、分散染料を用いた染色方法として、ポリエステルの分子中にカチオン可染基を含有させ、カチオン染料で染色させる方法が公知であるが、染料の種類が塩基性染料に限定され、落ち着きのある色調や深みのある鮮明色が得がたい課題が有った。
【0003】
ポリエステル繊維の染色性を改善するために、ポリエステルを改質することが知られている。例えば特許文献1は、常圧染色が可能で染色性がいいポリアミド繊維と混合して混用染色品を得るためのポリエステル繊維をポリエチレンテレフタレートにポリエチレングリコールを共重合することにより製造している。また、ポリエステル繊維の断面をW字状にし、かつ、扁平度(断面に外接する楕円の長軸と短軸の比)を特定範囲にすることにより染色性を改善することが記載されている。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の技術では、ポリエステル繊維を特殊な幾何学形状にする必要があり、生産上有利な方法とは言い難い。また、染色性を改善しても、ポリエステル繊維を染色可能な染料は分散染料に限られている。分散染料は昇華性が高く、従って、分散染料で染色したポリエステル繊維を含む構造体を熱成形などの高温成形法により加工すると分散染料が昇華し、得られる製品の染色が不均一になる。
【0005】
特許文献2には繊維の表面に芳香族ビニル化合物とビニルアミン等価体の共重合体を存在させ、酸処理後に酸性染料を使用して50℃以上温度で染色する方法が提案されている。しかしながら、この方法では、繊維製品を水中に浸漬して、2段階の反応を90℃の高温で4時間以上行う必要があり、生産性や安全性の面で問題がある。また、7デシテックス以上の太いポリエステル繊維であれば物性への影響は最小限に限られているものの、極細繊維に適用した場合には劣化等による物性の低下を避けることはできなかった。また、繊維表面で芳香族ビニル化合物とビニルアミン等価体を共重合させ、かつ該共重合体の皮膜で繊維を被覆する為、該皮膜の厚さが繊維の太さ、繊維構造体形状、密度の影響により不均一になり易く、染色ムラが起こりやすい。また、0.001〜2dtexの極細繊維では顕著な濃色効果が得られなかった。更に、未反応の原料、芳香族ビニル化合物とビニルアミン等価体のオリゴマーに起因するガス黄変や退色の問題が避けがたく、製品の用途が限定されるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−344242号公報
【特許文献2】特開平10−140489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、従来、ポリエステル繊維を染色可能な染料は事実上分散染料に限られていた。しかし、分散染料によるポリエステル繊維の染色は高温、高圧の過酷な条件で行う必要があった。また、分散染料により染色したポリエステル繊維は昇華堅牢度が不十分であり、高温成形加工時に分散染料が部分的に昇華し得られる製品の染色が不均一になる不都合があった。従って、分散染料で染色したポリエステル繊維からなる繊維構造体は高温成形加工には適さなかった。また、繊維構造体に高分子弾性体が含浸されている場合、分散染料に対して非染性の高分子弾性体が多量の分散染料を吸収する。従って、染色処理後に吸収された分散染料を洗い流す必要があり、分散染料の利用効率が悪かった。このように、ポリエステル繊維の分散染料による染色には工業上不都合な問題があった。
【0008】
本発明は上記問題を解決し、昇華堅牢度が高く、高温成形加工後であっても染色の均一性に優れた染色繊維構造体、および、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
含金染料(金属錯塩染料)を含む酸性染料は良好な染色性と優れた耐光堅牢度、昇華堅牢度を示すことが知られている。しかし、酸性染料はポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維などを染色することができない。本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、オレフィン樹脂などの酸性染料非染性樹脂の繊維表面上に酸性染料可染性樹脂を微粒子状に付着させ、この酸性染料可染性樹脂を酸性染料により染色することにより酸性染料非染性樹脂の繊維が酸性染料により間接的に染色されることを見出した。
【0010】
また、ポリウレタンのような酸性染料可染性樹脂を繊維間空隙に含浸し、ネットワーク状に分布させていた従来の人工皮革では、酸性染料で染色しても、染料が酸性染料可染性樹脂に選択的に吸尽されるのみで繊維は着色されず、メランジ状の不均一な外観しか得られなかった。しかし、酸性染料非染性樹脂の繊維表面上に酸性染料可染性樹脂をネットワークを形成することなく微粒子状に付着させることによって、意外にも少量の染料使用量で十分な濃度で、均一に染色できることを見出した。
【0011】
さらに、得られた染色繊維が良好な昇華堅牢度を示すこと、および、該染色繊維を含む繊維構造体を高温成形により加工した後であっても染色が均一に保たれることを見出した。本発明はこれらの知見に基づく。
【0012】
すなわち、本発明は、酸性染料非染性樹脂の繊維を含み、該酸性染料非染性樹脂の繊維の表面には該酸性染料非染性樹脂の繊維に対して0.01〜20質量%の酸性染料可染性樹脂が微粒子状に付着しており、該酸性染料可染性樹脂が酸性染料により染色されている染色繊維構造体を提供する。
【0013】
さらに、本発明は
(1)酸性染料非染性樹脂の繊維から繊維ウェブを製造する工程、
(2)前記繊維ウェブに絡合処理を施し、絡合不織布を製造する工程、
(3)前記絡合不織布に、前記繊維に対して0.01〜20質量%の酸性染料可染性樹脂を付与する工程、および
(4)前記酸性染料可染性樹脂を酸性染料で染色する工程
を順次行う染色繊維構造体の製造方法を提供する。
【0014】
さらに、本発明は
(1)酸性染料非染性樹脂の極細繊維を形成可能な繊維から繊維ウェブを製造する工程、
(2)前記繊維ウェブに絡合処理を施し、絡合ウェブを製造し、次いで、前記絡合ウェブ中の極細繊維を形成可能な繊維を酸性染料非染性樹脂の極細繊維の繊維束に変換し、絡合不織布を製造する工程、
(3)前記絡合不織布に、前記極細繊維に対して0.01〜20質量%の酸性染料可染性樹脂を付与する工程、および
(4)前記酸性染料可染性樹脂を酸性染料で染色する工程
を順次行う染色繊維構造体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、含金染料等で代表される酸性染料により染色することができなかったポリエステル繊維などを間接的に染色することができる。得られる染色繊維構造体は高い昇華堅牢度を示し、高温成形による加工後であっても染色の均一性が極めて良好である。少量の酸性染料可染性樹脂で上記効果が十分に得られるため経済的、環境的に優れた染色方法である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】含金染料可染性樹脂が酸性染料非染性樹脂(ポリエステル樹脂)の極細長繊維上に微粒子状に付着している様子を示す本発明の繊維構造体断面の走査型電子顕微鏡写真(1000倍)である。
【図2】ポリエステル極細繊維絡合体に高分子弾性体が含浸された構造体を従来の分散染料で染色した様子を示す比較例1に記載の繊維構造体断面の走査型電子顕微鏡写真(300倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の染色繊維構造体をその製造方法を参考にしながら説明する。
【0018】
本発明の染色繊維構造体は下記の順次工程:
(1)酸性染料非染性樹脂の繊維から繊維ウェブを製造する工程、
(2)前記繊維ウェブに絡合処理を施し、絡合不織布を製造する工程、
(3)前記絡合不織布に、前記繊維に対して0.01〜20質量%の酸性染料可染性樹脂を付与する工程、および
(4)前記酸性染料可染性樹脂を酸性染料で染色する工程
または、下記の順次工程:
(1)酸性染料非染性樹脂の極細繊維を形成可能な繊維から繊維ウェブを製造する工程、
(2)前記繊維ウェブに絡合処理を施し、絡合ウェブを製造し、次いで、前記絡合ウェブ中の極細繊維を形成可能な繊維を酸性染料非染性樹脂の極細繊維の繊維束に変換し、絡合不織布を製造する工程、
(3)前記絡合不織布に、前記極細繊維に対して0.01〜20質量%の酸性染料可染性樹脂を付与する工程、および
(4)前記酸性染料可染性樹脂を酸性染料で染色する工程
により製造することができる。
以下、各工程について詳述する。
【0019】
工程(1)では、酸性染料非染性樹脂の繊維から繊維ウエブを製造する。
【0020】
前記繊維を形成する樹脂は、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂およびオレフィン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸性染料非染性樹脂である。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、これらの変性ポリエステル(例えば、変性度1〜15モル%のイソフタル酸変性ポリエステル)、ポリエステルエラストマー等の公知の繊維形成性の水不溶性熱可塑性ポリエステル樹脂が挙げられる。アクリル樹脂としては、アクリル酸およびそのエステル、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリル酸およびそのエステル、メタクリルアミドなどのアクリル化合物の水不溶性の単独重合体及び共重合体が挙げられる。オレフィン樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブテン、メチルペンテン、塩素化オレフィンの水不溶性の単独重合体及び共重合体が挙げられる。PET、PTT、PBT、これらの変性ポリエステル等のポリエステル樹脂は、熱処理により収縮しやすく、充実感のある風合いを有し、耐磨耗性、耐光性、形態安定性などの実用的性能や着色される繊維密度が高く発色性が優れた繊維構造体および人工皮革製品が得られる点で特に好ましい。
【0021】
酸性染料非染性樹脂の融点は160℃以上であるのが好ましく、融点が180〜330℃であり結晶性であるのがより好ましい。融点は後述する方法で求めた。島成分ポリマーには、着色剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、消臭剤、防かび剤、抗菌剤、各種安定剤などが添加されていてもよい。
【0022】
前記繊維は少なくとも1種の酸性染料非染性樹脂を公知の方法により紡糸することができる。例えば、樹脂を融点以上の温度で溶融させてエクストルーダーから押し出して製糸する溶融紡糸、ポリマー溶液を細孔より押し出し、溶媒を蒸発させる乾式溶液紡糸、高分子溶液を非溶剤中に紡出する湿式溶液紡糸法により紡糸することができる。前記繊維は通常繊度の繊維であっても極細繊維であってもよく、その単繊維繊度は0.1〜20dtexであるのが製法上および得られる繊維構造体の物性上好ましい。後述する海島型繊維などの複合繊維を極細化して得られる繊維と区別するために、本発明においては上記のようにして得られる繊維を直接紡糸繊維と称する。
【0023】
上記のようにして得られた長繊維を、延伸、捲縮した後、任意の繊維長(18〜110mm)にカットしてステープル化し、カード、クロスラッパー、ランダムウェッバーなどを用いて短繊維ウェブにしてもよい。また、溶融紡糸ノズルから繊維形成性ポリマーを吐出した直後に高速気体で吹き飛ばし繊維を細くする、いわゆるメルトブロー法やフラッシュ紡糸などの方法を用いることもできるし、エレクトロスピニング法や抄紙法を使用してナノファイバーを作成してもよい。更に、スパンボンド法などにより紡糸した長繊維をカットすることなく、移動式ネットなどの捕集面上に堆積させて実質的に無延伸の長繊維からなる長繊維ウェブにしてもよい。必要に応じて、得られた繊維ウェブ(短繊維ウェブ、長繊維ウェブ)をプレス(温度:30〜120℃、線圧:1〜10000N/mm)等により部分的に圧着して形態を安定化させてもよい。得られた繊維ウエブの目付は10〜1000g/m2が好ましい。
【0024】
長繊維ウェブ製造方法は、短繊維ウェブ製造方法では必須の原綿供給装置、開繊装置、カード機などの一連の大型設備を必要としないので生産上有利である。また、長繊維ウエブから得られた染色繊維構造体を用いて得られる人工皮革は連続性の高い長繊維からなるので、短繊維ウェブおよびそれを用いて製造した人工皮革に比べて、強度などの物性においてもより優れている。短繊維ウェブと長繊維ウェブは最終製品に要求される性能などを考慮して選ばれる。
【0025】
本発明において、長繊維とは、繊維長が通常3〜80mm程度である短繊維よりも長い繊維長を有する繊維であり、短繊維のように意図的に切断されていない繊維をいう。例えば、極細化する前の長繊維の繊維長は100mm以上が好ましく、技術的に製造可能であり、かつ、物理的に切れない限り、数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。
【0026】
直接紡糸繊維(通常繊度の繊維および極細繊維)を用いる代わりに、酸性染料非染性樹脂の極細繊維に変換可能な繊維(極細繊維形成性繊維)を用いて繊維ウェブを製造し、後の工程において、極細繊維形成性繊維を酸性染料非染性樹脂の極細繊維の繊維束に変換してもよい。
【0027】
極細繊維形成性繊維には、海島型繊維、多層積層型繊維、放射型積層型繊維等があるが、海島型繊維がニードルパンチ時の繊維損傷が少なく、かつ極細繊維の繊度の均一性の点で好ましい。以下、極細繊維形成性繊維として海島型繊維を用いた例により説明するが、多層積層型繊維、放射型積層型繊維等の他の極細繊維成性繊維を用いて以下の工程を行ってもよい。
【0028】
海島型繊維は少なくとも2種類のポリマーからなる多成分系複合繊維であって、海成分ポリマー(除去可能ポリマー)中にこれとは異なる種類の島成分ポリマー(酸性染料非染性樹脂)が分散した断面を有する。海島型繊維は、絡合ウェブを形成した後、酸性染料可染性樹脂を含浸させる前に海成分ポリマーを抽出または分解して除去することで、残った島成分ポリマーからなる極細繊維が複数本集まった繊維束に変換される。また、海成分と島成分を上記とは逆にした海島型繊維、すなわち、海成分ポリマーが酸性染料非染性樹脂であり、島成分ポリマーが除去可能ポリマーである海島型繊維を用いて絡合ウェブを形成してもよい。酸性染料可染性樹脂を含浸させる前に島成分ポリマーを抽出または分解して除去することで、海島型繊維は残った海成分ポリマーからなる多孔中空繊維に変換される。
【0029】
上記した繊維を形成する樹脂と同様、島成分ポリマーはポリエステル樹脂、アクリル樹脂およびオレフィン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸性染料非染性樹脂である。これらの樹脂の詳細は上記した通りであり、簡略化のためここでは記載を省略する。
【0030】
海島型繊維を極細繊維の繊維束に変換する際に、海成分ポリマーは溶剤または分解剤により抽出または分解除去される。従って、海成分ポリマーは溶剤に対する溶解性または分解剤による分解性が島成分ポリマーよりも大きいことが必要である。海島型繊維の紡糸安定性の点から島成分ポリマーとの親和性が小さく、かつ、紡糸条件において溶融粘度及び/又は表面張力が島成分ポリマーより小さいことが好ましい。このような条件を満たす限り海成分ポリマーは特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−エチレン共重合体、スチレン−アクリル共重合体、易アルカリ分解性変性ポリエステル、ポリビニルアルコール系樹脂などが好ましく用いられる。有機溶剤を用いることなく染色繊維構造体を製造することができるので、海成分ポリマーに水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(水溶性PVA)を用いるのが特に好ましい。
【0031】
水溶性PVAの粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する)は200〜500が好ましく、230〜470がより好ましく、250〜450がさらに好ましい。重合度が200以上であると、溶融粘度が適度で島成分ポリマーとの複合化が容易である。重合度が500以下であると、溶融粘度が高すぎて紡糸ノズルから樹脂を吐出することが困難となる問題を避けることができる。重合度500以下のいわゆる低重合度PVAを用いることにより、熱水で溶解するときに溶解速度が速くなるという利点も有る。水溶性PVAの重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、水溶性PVAを再ケン化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求められる。
P=([η]103/8.29)(1/0.62)
【0032】
水溶性PVAのケン化度は90〜99.99モル%が好ましく、93〜99.98モル%がより好ましく、94〜99.97モル%がさらに好ましく、96〜99.96モル%が特に好ましい。ケン化度が90モル%以上であると、熱安定性が良く、熱分解やゲル化することなく満足な溶融紡糸を行うことができ、生分解性も良好である。更に後述する共重合モノマーによって水溶性が低下することがなく、極細化が容易になる。ケン化度が99.99モル%よりも大きい水溶性PVAは安定に製造することが難しい。
【0033】
水溶性PVAの融点(Tm)は、160〜230℃が好ましく、170〜227℃がより好ましく、175〜224℃がさらに好ましく、180〜220℃が特に好ましい。融点が160℃以上であると、結晶性が低下して繊維強度が低くなることがなく、熱安定性が悪くなり繊維化が困難になることも避けることができる。融点が230℃以下であると、PVAの分解温度より低い温度で溶融紡糸することができ、海島型繊維を安定に製造することができる。
【0034】
水溶性PVAは、ビニルエステル単位を主体として有する樹脂をケン化することにより得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でも水溶性PVAを容易に得る点からは酢酸ビニルが好ましい。
【0035】
水溶性PVAは、ホモPVAであっても共重合単位を導入した変性PVAであってもよいが、溶融紡糸性、水溶性、繊維物性の観点からは、変性PVAを用いることが好ましい。共重合単量体としては、共重合性、溶融紡糸性および繊維の水溶性の観点から、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数4以下のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類が好ましい。炭素数4以下のα−オレフィン類および/またはビニルエーテル類に由来する単位の量は、変性PVA構成単位の1〜20モル%が好ましく、4〜15モル%がより好ましく、6〜13モル%がさらに好ましい。さらに、共重合単量体がエチレンであると繊維物性が高くなるので、エチレン単位を好ましくは4〜15モル%、より好ましくは6〜13モル%含む変性PVAが好ましい。
【0036】
水溶性PVAは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法で製造される。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が好ましい。溶液重合の溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、a、a’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネートなどのアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0〜150℃の範囲が適当である。
【0037】
海島型繊維は前記の海成分ポリマーと島成分ポリマーを複合紡糸用口金から押出すことにより溶融紡糸する。紡糸温度(口金温度)は180〜350℃が好ましい。口金から吐出した溶融状態の海島型繊維を冷却装置により冷却した後、エアジェットノズルなどの吸引装置を用いて、目的の繊度となるように1000〜6000m/分の引取り速度に相当する速度の高速気流により牽引細化することにより得られる。極細繊維形成性繊維を使用する場合も、長繊維を延伸、捲縮した後、任意の繊維長(18〜110mm)にカットしてステープル化し、カード、クロスラッパー、ランダムウェッバーなどを用いて短繊維ウエブにしてもよい。また、スパンボンド法などにより紡糸した海島型長繊維(極細長繊維形成性繊維)をカットすることなく、移動式ネットなどの捕集面上に堆積させて実質的に無延伸の長繊維からなる長繊維ウエブにしてもよい。必要に応じて、得られた繊維ウエブ(短繊維ウェブ、長繊維ウェブ)をプレス(温度:30〜120℃、線圧:1〜10000N/mm)等により部分的に圧着して形態を安定化させてもよい。
【0038】
海島型繊維の平均断面積は30〜800μm2であるのが好ましい。海島型繊維の断面において、海成分ポリマーと島成分ポリマーの平均面積比(ポリマー体積比に相当)は5/95〜70/30が好ましい。海島型繊維を用いて得られた繊維ウエブの目付は10〜1000g/m2が好ましい。
【0039】
工程(2)では、直接紡糸繊維の繊維ウエブに絡合処理を施して絡合不織布を得る。極細繊維形成性繊維を用いた場合は、絡合処理を施して絡合ウェブにし、次いで、極細繊維形成性繊維を酸性染料非染性樹脂の極細繊維の繊維束に変換して絡合不織布を得る。
【0040】
直接紡糸繊維の繊維ウェブを、必要に応じてクロスラッパー等を用いて複数層重ね合わせた後、両面から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチする。パンチング密度は、300〜6000パンチ/cm2が好ましく、より好ましくは500〜5000パンチ/cm2である。上記範囲内であると、充分な絡合が得られ、直接紡糸繊維のニードルによる損傷が少ない。該絡合処理により、直接紡糸繊維同士が三次元的に絡合し、厚さ方向に平行な断面において直接紡糸繊維が平均400〜5000個/mm2の密度で存在する、直接紡糸繊維が極めて緻密に集合した絡合不織布が得られる。繊維ウェブにはその製造から絡合処理までのいずれかの段階で油剤を付与してもよい。また、必要に応じて、70〜150℃の温水に浸漬するなどの収縮処理によって、繊維ウェブの絡合状態をより緻密にしてもよい。また、熱プレス処理を行なうことで直接紡糸繊維同士をさらに緻密に集合させ、繊維ウェブの形態を安定にしてもよい。絡合不織布の目付は100〜3000g/m2であるのが好ましい。
【0041】
海島型繊維の繊維ウェブも上記と同様にして絡合処理され、絡合ウェブを得る。海島型繊維の繊維ウエブを、必要に応じてクロスラッパー等を用いて複数層重ね合わせた後、両面から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチする。パンチング密度は、300〜6000パンチ/cm2が好ましく、より好ましくは500〜5000パンチ/cm2である。上記範囲内であると、充分な絡合が得られ、海島型繊維のニードルによる損傷が少ない。該絡合処理により、海島型繊維同士が三次元的に絡合し、厚さ方向に平行な断面において海島型繊維が平均600〜4000個/mm2の密度で存在する、海島型繊維が極めて緻密に集合した絡合ウェブが得られる。海島型繊維の繊維ウェブにはその製造から絡合処理までのいずれかの段階で油剤を付与してもよい。また、必要に応じて、70〜150℃の温水に浸漬するなどの収縮処理によって、繊維ウエブの絡合状態をより緻密にしてもよい。また、熱プレス処理を行なうことで海島型繊維同士をさらに緻密に集合させ、繊維ウエブの形態を安定にしてもよい。絡合ウェブの目付は100〜2000g/m2あるのが好ましい。
【0042】
海島型繊維を用いた場合は、海成分ポリマーを除去することにより極細繊維形成性繊維(海島型繊維)を酸性染料非染性樹脂の極細繊維の繊維束に変換し、該繊維束からなる絡合不織布を製造する。海成分ポリマーを除去する方法としては、島成分ポリマーの非溶剤または非分解剤であり、かつ、海成分ポリマーの溶剤または分解剤で絡合ウエブを処理する方法が本発明においては好ましく採用される。島成分ポリマーがポリエステル系樹脂であり、海成分ポリマーがポリエチレンであればトルエン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどの有機溶剤が、海成分ポリマーが水溶性PVAであれば温水、また、海成分ポリマーが易アルカリ分解性の変性ポリエステルであれば水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性分解剤が使用される。海成分ポリマーの除去は人工皮革製造分野において従来採用されている方法により行えばよく、特に制限されない。本発明においては、環境負荷が少なく、また、労働衛生上好ましいので、海成分ポリマーとして水溶性PVAを使用し、これを、有機溶媒を使用することなく85〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理し、除去率が95質量%以上(100%を含む)になるまで抽出除去し、極細繊維形成性繊維を極細繊維の繊維束に変換するのが好ましい。
【0043】
必要に応じて、極細繊維形成性繊維を極細化する前または極細化と同時に、下記式:
[(収縮処理前の面積−収縮処理後の面積)/収縮処理前の面積]×100
で表される面積収縮率が好ましくは30%以上、より好ましくは30〜75%になるように収縮処理を行って高密度化してもよい。収縮処理により形態保持性がより良好になり、繊維の素抜けも防止され、発色性が向上する。
【0044】
極細化前に行う場合、水蒸気雰囲気下で絡合ウエブを収縮処理するのが好ましい。水蒸気による収縮処理は、例えば、絡合ウエブに海成分に対して30〜200質量%の水分を付与し、次いで、相対湿度が70%以上、より好ましくは90%以上、温度が60〜130℃の加熱水蒸気雰囲気下で60〜600秒間加熱処理することが好ましい。上記条件で収縮処理すると、水蒸気で可塑化された海成分ポリマーが島成分ポリマーにより構成される極細繊維の収縮力で圧搾・変形するので緻密化が容易になる。次いで、収縮処理した絡合ウエブを85〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理して海成分ポリマーを溶解除去する。また、海成分ポリマーの除去率が95質量%以上になるように、水流抽出処理してもよい。水流の温度は80〜98℃が好ましく、水流速度は2〜100m/分が好ましく、処理時間は1〜20分が好ましい。
【0045】
収縮処理と極細化を同時に行う方法としては、例えば、絡合ウエブを65〜90℃の熱水中に3〜300秒間浸漬した後、引き続き、85〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理する方法が挙げられる。前段階で、極細繊維形成性繊維が収縮すると同時に海成分ポリマーが圧搾される。圧搾された海成分ポリマーの一部は繊維から溶出する。そのため、海成分ポリマーの除去により形成される空隙がより小さくなるので、より緻密化した絡合不織布が得られる。
【0046】
収縮処理(任意)および海成分ポリマー除去により、好ましくは140〜3000g/m2の目付を有する絡合不織布が得られる。この絡合不織布中の繊維束の平均繊度は0.5〜10dtex、好ましくは0.7〜5dtexである。極細繊維の平均単繊維繊度は0.001〜2dtex、好ましくは0.005〜0.2dtexである。この範囲内であると、得られる繊維構造体の緻密性、その表層部の緻密性が向上する。極細繊維の平均単繊維繊度および繊維束の平均繊度が上記範囲内である限り繊維束中の極細繊維の本数は特に制限されないが、一般的には5〜1000本である。
【0047】
上記のようにして得られた直接紡糸繊維または極細繊維形成性繊維に由来する極細繊維の絡合不織布の湿潤時の剥離強力は4kg/25mm以上であることが好ましく、4〜15kg/25mmであることがより好ましい。剥離強力は繊維または極細繊維の繊維束の三次元絡合の度合いの目安である。上記範囲内であると、絡合不織布および得られる染色繊維構造体、人工皮革の表面摩耗が少なく、形態保持性が良好である。また、充実感に優れた人工皮革が得られる。湿潤時の剥離強力が上記範囲内であると、後の工程での繊維の素抜けやほつれを防止することができる。
【0048】
工程(3)では、工程(2)で得た絡合不織布に酸性染料可染性樹脂の水性エマルジョンを絡合不織布全体に均一に含浸させ、あるいは、絡合不織布の表面および裏面に熱を加えながら酸性染料可染性樹脂を表面および裏面に移行させ、その後、直接紡糸繊維または繊維束およびその内部の極細繊維表面上に微粒子状に凝固させる。酸性染料可染性樹脂としては、酸性染料により染色される樹脂であれば特に制限されないが、水乳化性のポリウレタンエラストマーおよびアクリルエラストマーが特に好ましく用いられる。
【0049】
水乳化性のポリウレタンエラストマーとしては、高分子ポリオール、有機ジイソシアネート、及び、必要に応じて鎖伸長剤を所望の割合で、溶融重合法、塊状重合法、溶液重合法などにより重合して得られる公知の熱可塑性ポリウレタンが好ましい。
【0050】
高分子ポリオールは用途や必要性能に応じて公知の高分子ポリオールから選択される。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)、ポリ(メチルペンタン)ジオールなどのポリエーテル系ポリオール及びその共重合体;ポリブチレンアジペートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンアジペート)ジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンセバケート)ジオール、ポリカプロラクトンジオールなどのポリエステル系ポリオール及びその共重合体;ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(ポリヘキシレンカーボネートジオール)、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンカーボネート)ジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリテトラメチレンカーボネートジオールなどのポリカーボネート系ポリオール及びその共重合体;ポリエステルカーボネートポリオールなどが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
高分子ポリオールの平均分子量は500〜3000であるのが好ましい。得られる染色繊維構造体、人工皮革の耐光堅牢性、耐熱堅牢性、耐NOx黄変性、耐汗性、耐加水分解性などの耐久性をより良好にする場合には、2種以上の高分子ポリオールを使用することが好ましい。
【0051】
有機ジイソシアネートは用途や必要性能に応じて公知のジイソシアネート化合物から選択すればよい。例えば、芳香環を有しない脂肪族あるいは脂環族ジイソシアネート(無黄変型ジイソシアネート)、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、水添メチレンジイソシアネート(4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート)などや、芳香環ジイソシアネート、例えば、フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなど挙げることができる。特に、光や熱での黄変が起こりにくいことから、無黄変型ジイソシアネートを使用することが好ましい。
【0052】
鎖伸長剤は、用途や必要性能に応じて公知のウレタン樹脂の製造に鎖伸長剤として用いられている活性水素原子を2個有する低分子化合物から選択すれば良い。例えば、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドなどのジアミン類;ジエチレントリアミン等のトリアミン類;トリエチレンテトラミン等のテトラミン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオールなどのジオール類;トリメチロールプロパン等のトリオール類;ペンタエリスリトール等のペンタオール類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。中でも、ヒドラジン、ピペラジン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミンおよびその誘導体、エチレントリアミンなどのトリアミンの中から2〜4種類を併用することが好ましい。特に、ヒドラジン及びその誘導体は酸化防止効果を有するので、耐久性が向上する。
また、鎖伸長反応時に、鎖伸長剤とともに、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミンなどのモノアミン類;4−アミノブタン酸、6−アミノヘキサン酸などのカルボキシル基含有モノアミン化合物;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのモノオール類を併用してもよい。
【0053】
熱可塑性ポリウレタンのソフトセグメント(ポリマージオール)とハードセグメント(有機ジイソシアネート)の合計量に対して、ソフトセグメントの含有量は90〜15質量%、ハードセグメントの含有量は10〜85質量%であることが好ましい。鎖伸長剤を使用する場合、その使用量はソフトセグメントとハードセグメントの合計量に対して1〜50質量%であることが好ましい。
【0054】
水乳化性のアクリルエラストマーとしては、例えば、軟質成分、架橋形成性成分、硬質成分とこれらいずれの成分にも属さないその他の成分からなる水分散性または水溶性のエチレン性不飽和モノマーの重合体が挙げられる。
【0055】
軟質成分とは、その単独重合体のガラス転移温度(Tg)が−5℃未満、好ましくは−90℃以上で−5℃未満である成分であり、非架橋性(架橋を形成しない)であることが好ましい。軟質成分を形成するモノマーとしては、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸誘導体などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
【0056】
硬質成分とは、その単独重合体のガラス転移温度(Tg)が50℃を越え、好ましくは50℃を越えて250℃以下である成分であり、非架橋性(架橋を形成しない)であることが好ましい。硬質成分を形成するモノマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸誘導体;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドなどのアクリルアミド類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸およびそれらの誘導体;ビニルピロリドンなどの複素環式ビニル化合物;塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミドなどのビニル化合物;エチレン、プロピレンなどで代表されるα−オレフィンなどが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
【0057】
架橋形成性成分とは、架橋構造を形成し得る単官能または多官能エチレン性不飽和モノマー単位、または、ポリマー鎖に導入されたエチレン性不飽和モノマー単位と反応して架橋構造を形成し得る化合物(架橋剤)である。単官能または多官能エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどのトリ(メタ)アクリレート類;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等などのテトラ(メタ)アクリレート類;ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼンなどの多官能芳香族ビニル化合物;アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸不飽和エステル類;2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートの2:1付加反応物、ペンタエリスリトールトリアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートの2:1付加反応物、グリセリンジメタクリレートとトリレンジイソシアネートの2:1付加反応物などの分子量が1500以下のウレタンアクリレート;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの水酸基を有する(メタ)アクリル酸誘導体;(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドなどのアクリルアミド類およびそれらの誘導体;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのカルボキシル基を有するビニル化合物;ビニルアミドなどのアミド基を有するビニル化合物などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
【0058】
架橋剤としては、例えば、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、エポキシ基含有化合物、ヒドラジン誘導体、ヒドラジド誘導体、ポリイソシアネート系化合物、多官能ブロックイソシアネート系化合物などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
【0059】
アクリルエラストマーのその他の成分を形成するモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、グリシジル(メタ)アクリレート、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどの(メタ)アクリル酸誘導体が挙げられる。
【0060】
酸性染料可染性樹脂の融点は130〜240℃であるのが好ましく、130℃での熱水膨潤率は10%以上、好ましくは10〜100%である。一般に、熱水膨潤率が大きい程酸性染料可染性樹脂は柔軟であるが、分子内の凝集力が弱い為、後の工程や製品の使用時に剥落することが多く、直接繊維、または、繊維束およびその内部の極細繊維への付着力が不十分になる。上記範囲内であるとこのような不都合を避けることができる。熱水膨潤率は後述する方法により求めた。
【0061】
酸性染料可染性樹脂の損失弾性率のピーク温度は10℃以下、好ましくは−80℃〜10℃である。損失弾性率のピーク温度が10℃を超えると、得られる人工皮革の風合いが堅くなり、また、耐屈曲性等の力学的耐久性が悪化する。損失弾性率は後述する方法で求めた。
【0062】
酸性染料使用量10%owf、浴比1:45、染色温度:95℃、染色時間:60分の条件で染色したときの酸性染料可染性樹脂の吸尽量は30mg/g以上、好ましくは30〜100mg/g、より好ましくは40〜100mg/g、さらに好ましくは50〜100mg/gである。水乳化性の酸性染料可染性樹脂は多くの極性基(染着座席)を有するので吸尽量が多く、染色濃度を高くすることができ、また、染料を効率よく利用できる。
【0063】
酸性染料可染性樹脂は水系エマルジョンとして絡合不織布に含浸させる。水系エマルジョン中の酸性染料可染性樹脂含量は0.1〜60質量%が好ましい。酸性染料可染性樹脂の水系エマルジョンは、凝固後に直接繊維、または、繊維束およびその内部の極細繊維の表面に付着した酸性染料可染性樹脂の量が該繊維に対して0.01〜20質量%、好ましくは0.05〜15質量%、より好ましくは0.1〜10質量%になるように含浸させる。上記範囲内であれば、酸性染料可染性樹脂が繊維または繊維束表面上に微粒子状に付着し、十分な染色濃度が得られ、均一に染色することができる。また、繊維同士が酸性染料可染性樹脂を介して接着するのを避けることができる。上記範囲を超えると酸性染料可染性樹脂が繊維または繊維束表面上に微粒子状に付着せず、連続的に付着しネットワークを形成する。その結果、均一な染色が得られず、色調が悪く、また、多量の酸性染料が必要となる。
【0064】
本発明において「微粒子状に付着」とは図1に示すように、直接紡糸繊維、または、繊維束およびその内部の極細繊維の表面上(長さ方向に延びる側面上)に最大径が100μm以下の酸性染料可染性樹脂粒子がネットワークを形成することなく不連続に点在していることを示す。そして均一に付着する点で平均粒子径が50μm以下が好ましく、より好ましくは10μm以下、最も好ましくはより均一に付着する点で5μm以下が好ましい。工業的に得られる付着した酸性染料可染性樹脂粒子の大きさは、使用する繊維の太さと種類の影響を受けるが、平均粒子径を極細繊維の単繊維の平均直径以下にすることが好ましく、最大経の下限値は通常10nmである。
【0065】
酸性染料可染性樹脂の水系エマルジョンには、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥水剤、撥油剤、増粘剤、増量剤、硬化促進剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、防黴剤、発泡剤、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、染料、顔料などを添加してもよい。
【0066】
酸性染料可染性樹脂の水系エマルジョンを絡合不織布に含浸させる方法は特に制限されないが、例えば、浸漬などにより絡合不織布内部に均一に含浸する方法、表面と裏面に塗布し絡合不織布内部に均一に浸透させる方法が挙げられる。また、絡合不織布内部に含浸させた後、あるいは、表面と裏面に塗布した後、酸性染料可染性樹脂を表面と裏面に移行(マイグレーション)させ、その後凝固させて、主として両表層部の繊維上に酸性染料可染性樹脂を付着させてもよい。例えば、絡合不織布の表面と裏面を好ましくは110〜150℃で、好ましくは0.5〜30分間加熱する。このような加熱により水分が表面と裏面から蒸散し、それに伴って酸性染料可染性樹脂を含む水分が両表層部に移行し、酸性染料可染性樹脂が表面と裏面近傍に存在する繊維上で凝固する。マイグレーションのための加熱は、乾燥装置中などにおいて熱風を表面および裏面に吹き付けることにより行うのが好ましい。なお、絡合不織布が極細繊維の繊維束からなる場合、酸性染料可染性樹脂の水性エマルジョンを絡合不織布に付与する前に、サーキュラー染色機中で70℃で30分間リラックスしたり、水流絡合機で処理する、あるいは起毛ブラシやサンドペーパーで起毛するなどの手段によって、繊維束中の各極細繊維の拘束を解いてばらばらにするのが好ましい。このようにした後に水性エマルジョンを付与すると、酸性染料可染性樹脂が繊維束内部の極細繊維上にも微粒子状に付着する。
【0067】
工程(4)では直接紡糸繊維、または、繊維束およびその内部の極細繊維上に微粒子状に付着した酸性染料可染性樹脂を酸性染料で染色する。
【0068】
酸性染料とは溶液中でイオン化し、有機残基がアニオンの染料のことをいい、塩基性窒素を有する繊維と酸性浴でイオン結合により染着する。絹、羊毛等の蛋白繊維やナイロンの染色に使用できるものであり、上記染料であれば公知の染料を用いることが可能であり、例えば、日本化薬(株)製のKayanol(登録商標)シリーズ、カヤノールミーリングシリーズや住友化学工業(株)製のSuminol(登録商標)“等を使用することができる。なかでも、染料分子中にクロム、コバルトなどが配位した含金染料が、より繊維との結合が強いので、堅牢染に適する点で好ましい。
また、含金染料は金属原子が染料分子に配位結合した錯塩型アゾ染料であり、1個の金属原子と1個の染料分子が配位結合している1:1含金染料と1個の金属原子と2個の染料分子が配位結合している1:2含金染料が知られている。金属は通常クロムである。より高い染色堅牢度を得る場合には、1:2含金染料を用いることが好ましい。1:2含金染料は、住友化学工業(株)の商品名Lanyl(登録商標)シリーズ、日本化薬(株)の商品名Kayalan(登録商標)およびKayalax(登録商標)シリーズ、三井BASF染料(株)の商品名Acidol(登録商標)およびLanafastシリーズ、保土ヶ谷化学工業(株)の商品名Aizen(登録商標)シリーズ、Dystar社の商品名Isolan(登録商標)シリーズ、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社の商品名Irgalan(登録商標)シリーズ、クラリアント(株)の商品名Lanasyn(登録商標)シリーズとして入手することができるが、これら以外の含金染料も使用することができる。以下含金染料を例にあげて説明する。
【0069】
染色は従来行われている含金染料を用いた繊維、布帛の染色条件に従って行えばよい。例えば、浴比は1:10〜1:100、含金染料使用量は0.0001〜50%owf、染色温度は70〜100℃、染色時間は20〜120分、染浴のpHは弱酸性〜中性の条件で行うのが好ましい。本発明においては、従来の分散染料によるポリエステル繊維の染色と異なり、上記染色を常圧下で穏和な条件で行うことができ、染色処理が容易である。
【0070】
上記染色は染色助剤の存在下で行ってもよい。染色助剤としては、染色速度を上げる促進剤、均一に染色するための均染剤、染色速度を遅らせてむら染めをなくすための緩染剤、染料の繊維への浸透・拡散を助ける浸透剤、染浴中での染料の溶解性を上げる染料溶解剤、染浴中での染料の分散性を上げる染料分散剤、染着した染料の堅牢度を上げるフィックス剤、繊維保護剤、消泡剤などが挙げられる。これらは従来公知の薬剤から適宜選ぶことができ、従来採用されている量用いる。
【0071】
染色装置としては通常使われているもの、例えば、液流染色機、ウインス染色機、ビーム染色機、ジッカー染色機等が挙げられる。
【0072】
上記のようにして得られる本発明の染色繊維構造体は、含金染料非染性樹脂の繊維以外の繊維を含んでいてもよいし、含金染料非染性樹脂の染色繊維のみで形成されていてもよい。染色繊維構造体の目付は80〜3000g/m2であるのが好ましい。
【0073】
本発明の染色繊維構造体は人工皮革の基材として好ましく用いられる。例えば、公知の方法により所望の条件にて、染色繊維構造体の表面に表面被覆層用の樹脂を塗布し、更に必要に応じてエンボス加工、柔軟化処理、染色などの処理を行うことにより、また、表面を加熱溶融させて表面を平滑化することにより、銀付き調、または半銀付き調の人工皮革とすることができる。また、染色繊維構造体の表面を起毛処理し、毛羽立てることによって、さらに必要により柔軟化処理することによりスエード調やヌバック調の人工皮革とすることもできる。毛羽立てる方法としては、公知の方法を用いることが可能であるが、サンドペーパーや針布等を用いたバフがけをすることが好ましい。得られた人工皮革は優れた外観、風合い、機械物性と共に均一な色調を有する。また、昇華堅牢度が高いので、均一な色調を変化させることなく、高温成形により各種形状に加工することができ、靴、各種用途のケース、携帯電話ホルダー、家電外装、成型カバン、車両内装材、競技ボールなどの製品の素材として好適である。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により、本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例中で記載される「%」は、特にことわりのない限り質量基準である。なお各特性は以下の方法で測定した。
【0075】
(1)繊維の平均繊度
皮革様シートを形成している繊維(20個)の断面積を走査型電子顕微鏡(倍率:数百倍〜数千倍程度)により測定し平均断面積を求めた。この平均断面積と繊維を形成するポリマーの密度から平均繊度を計算した。
【0076】
(2)繊維束の平均繊度
絡合不織布を形成している繊維束の中から選び出した平均的な繊維束(20個)を走査型電子顕微鏡(倍率:数百倍〜数千倍程度)で観察し、その外接円の半径を測定して平均断面積を求めた。この平均断面積が繊維を形成するポリマーで充填されているとし、該ポリマーの密度から繊維束の平均繊度を計算した。
【0077】
(3)融点
示差走査熱量計(TA3000、メトラー社製)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温からポリマー種類に応じて300〜350℃まで昇温後、直ちに室温まで冷却し、再度直ちに昇温速度10℃/分で300〜350℃まで昇温したときに得られた吸熱ピークのピークトップ温度を求めた。
【0078】
(4)損失弾性率のピーク温度
厚さ200μmの酸性染料非染性樹脂フィルムを、130℃で30分間熱処理し、粘弾性測定装置(レオロジ社製FTレオスペクトラー「DVE−V4」)を用いて周波数11Hz、昇温速度3℃/分で測定を行い、損失弾性率のピーク温度を求めた。
【0079】
(5)130℃での熱水膨潤率
厚さ200μmの酸性染料非染性樹脂フィルムを加圧下130℃で60分間熱水処理し、50℃に冷却後、ピンセットで取り出した。過剰な水をろ紙でふき取り、重量を測定した。浸漬前の重量に対する増加した重量の割合を熱水膨潤率とした。
【0080】
(6)吸尽量
Kayakalan Black 2BLの0.001%、0.01%、0.1%、10%水溶液を作成し、吸収スペクトルを測定、その最大吸収波長を求めた。次に最大吸収波長における吸光度と濃度の関係をグラフ化し、検量線とした。次いで、酸性染料可染性樹脂の発泡構造体を作成し、その5gを浴比1:45のポット染色機を用いて、10%owfの濃度で95℃−60分間染色した。染色残液の吸光度を測定して上記検量線から濃度に換算し、酸性染料可染性樹脂への吸尽量を算出した。
【0081】
(7)見掛け密度
JIS L 1096:1999 8.10.1に規定の方法により測定した。
【0082】
(8)湿潤時剥離強力
たて15cm、幅2.7cm、厚さ4mmのゴム板の表面を240番のサンドペーパーでバフ掛けし、表面を十分に粗くした。溶剤系の接着剤(US−44)と架橋剤(ディスモジュールRE)の100:5の混合液を該ゴム板の粗面とたて(シート長さ方向)25cm、幅2.5cmの試験片の片面に12cmの長さにガラス棒で塗布し、100℃の乾燥機中で4分間乾燥した。その後、ゴム板と試験片の接着剤塗布部分同士を貼り合わせ、プレスローラーで圧着し、20℃で24時間キュアリングした。蒸留水に10分浸漬した後に、ゴム板と試験片の端をそれぞれチャックで挟み、引張試験機で引張速度50mm/分で剥離した。得られた応力−ひずみ曲線(SS曲線)の平坦部分から湿潤時の平均剥離強力を求めた。結果は、試験片3個の平均値で表した。
【0083】
(9)酸性染料可染性樹脂の含有割合
繊維構造体から得た試料を元素分析して全窒素量を定量した。得られた全窒素量と酸性染料可染性樹脂の窒素量、および、酸性染料非染性樹脂の繊維の量から含有割合を計算した。
【0084】
(10)酸性染料可染性樹脂の付着状態
繊維構造体の断面を、走査型電子顕微鏡「S−2100日立走査型電子顕微鏡」(倍率100〜2000)で10ケ所以上観察した。
【0085】
(11)均染性評価
染色加工技術に従事する10人で下記基準により視覚判定し、その合計点数の平均で評価した。
3点:非常に均一に染色されている。
2点:やや均染性に欠けるものの、商品性としては問題ないレベル。
1点:不均一に染色されており、商品性に欠ける。
【0086】
水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系樹脂の製造
攪拌機、窒素導入口、エチレン導入口および開始剤添加口を備えた100L加圧反応槽に、酢酸ビニル29.0kgおよびメタノール31.0kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が5.9kgf/cm2となるようにエチレンを導入した。2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(開始剤)をメタノールに溶解して濃度2.8g/Lの開始剤溶液を調製し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の重合槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液170mLを注入し重合を開始した。重合中、エチレンを導入して反応槽圧力を5.9kgf/cm2に、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を610mL/hrで連続添加した。10時間後に重合率が70%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。
【0087】
次いで、減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去しエチレン変性ポリ酢酸ビニル(変性PVAc)のメタノール溶液を得た。該溶液にメタノールを加えて調製した変性PVAcの50%メタノール溶液200gに、NaOHの10%メタノール溶液46.5gを添加してケン化を行った(NaOH/酢酸ビニル単位=0.10/1(モル比))。NaOH添加後約2分で系がゲル化した。ゲル化物を粉砕器にて粉砕し、60℃で1時間放置してケン化を更に進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するNaOHを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和したことを確認後、濾別して白色固体を得た。
【0088】
白色固体にメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液し、乾燥機中70℃で2日間放置乾燥してエチレン変性ポリビニルアルコール(変性PVA)を得た。得られた変性PVAのケン化度は98.4モル%であった。また該変性PVAを灰化した後、酸に溶解して得た試料を原子吸光光度計により分析した。ナトリウムの含有量は、変性PVA100質量部に対して0.03質量部であった。
【0089】
また、上記変性PVAcのメタノール溶液に、n−ヘキサンを加え、次いで、アセトンを加える沈殿−溶解操作を3回繰り返した後、80℃で3日間減圧乾燥を行って精製変性PVAcを得た。該変性PVAcをd6−DMSOに溶解し、80℃で500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて分析したところ、エチレン単位の含有量は10モル%であった。上記の変性PVAcをケン化した後(NaOH/酢酸ビニル単位=0.5(モル比))、粉砕し、60℃で5時間放置して更にケン化を進行させた。ケン化物を3日間メタノールソックスレー抽出し、抽出物を80℃で3日間減圧乾燥を行って精製変性PVAを得た。該変性PVAの平均重合度をJIS K6726に準じて測定したところ330であった。該精製変性PVAを5000MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)により分析したところ、1,2−グリコール結合量は1.50モル%および3連鎖水酸基の含有量は83%であった。さらに該精製変性PVAの5%水溶液から厚み10μmのキャストフィルムを作成した。該フィルムを80℃で1日間減圧乾燥した後に、前述の方法により融点を測定したところ206℃であった。
【0090】
実施例1
上記変性PVA(水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール:海成分)と、変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ−ト(島成分)を、海成分/島成分が25/75(質量比)となるように260℃で溶融複合紡糸用口金(島数:25島/繊維)より吐出した。紡糸速度が3700m/minとなるようにエジェクター圧力を調整し、平均繊度が2.1デシテックスの海島型長繊維をネット上に捕集した。ついで、表面温度42℃の金属ロールでネット上の海島型長繊維シートを軽く押さえ、表面の毛羽立ちを抑えてネットから剥離し、表面温度75℃の金属ロール(格子柄)とバックロール間で200N/mmの線圧で熱プレスして表面繊維が格子状に仮融着した目付31g/m2の長繊維ウェブを得た。
【0091】
上記長繊維ウェブに油剤および帯電防止剤を付与し、クロスラッピングにより8枚重ねて総目付が250g/m2の重ね合わせウエブを作製し、更に針折れ防止油剤をスプレーした。次いで、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、針深度8.3mmにて両面から交互に3300パンチ/cm2でニードルパンチした。このニードルパンチ処理による面積収縮率は68%であり、ニードルパンチ後の絡合ウェブの目付は320g/m2であった。
【0092】
絡合ウエブを巻き取りライン速度10m/分で70℃熱水中に14秒間浸漬して面積収縮を生じさせた。ついで95℃の熱水中で繰り返しディップニップ処理を実施して変性PVAを溶解除去し、ポリエステル極細長繊維を25本含む、平均繊度2.5デシテックスの繊維束が3次元的に交絡した絡合不織布を作成した。乾燥後に測定した面積収縮率は52%であり、目付は480g/m2、見掛け密度は0.52g/cm3、湿潤時剥離強力は、4.2kg/25mmであった。
【0093】
該絡合不織布をバフィングにより厚みを0.82mmに調整後、ソフトセグメントがポリへキシレンカーボネートジオールとポリメチルペンタンジオールの70:30の混合物からなり、ハードセグメントが主として水添メチレンジイソシアネートからなるポリウレタン(融点が180〜190℃、損失弾性率のピーク温度が−15℃、130℃での熱水膨潤率が35%)の6%水系エマルジョンをポリエステル極細長繊維に対するポリウレタンの付着割合が1.2%になるように付与し、乾燥し、ポリウレタンをポリエステル極細長繊維上に微粒子状に付着させた。
【0094】
次いで、ポリエステル極細長繊維上に付着したポリウレタン微粒子を下記の条件で含金染料(Irgalan系)により常圧下で茶色に染色した。
浴比:1:30
含金染料使用量:5%owf
染色温度:95℃
染色時間:45分
染浴pH:6.8
得られた染色ポリエステル繊維構造体の発色は良好で、均染性評価は2.6点であった。また、得られた該構造体を電子顕微鏡で観察すると極細繊維束の表面に平均粒径が5μm以下のポリウレタン粒子が付着していた。
【0095】
染色ポリエステル繊維構造体を170℃、10kPaでプレス成形した後、再度均染性を評価した。評点は2.5点であり、本発明の染色繊維構造体は昇華堅牢性が高いことが確認された。
【0096】
比較例1
島成分であるポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂と海成分である低密度ポリエチレン(PE))との質量比率が40/60で、島数16島である、海島型複合繊維を溶融紡糸した。得られた繊維を延伸、クリンプ、カットすることにより、繊度4dtex、カット長さ51mmのステープルを得た。得られたステープルをカードに通した後、クロスラッパー方式によりウェブを作製した。そして得られたウェブを所定の枚数重ねて積層した。次にフェルト針を用いて積層されたウェブをニードルパンチすることにより海島型繊維からなる重量が663g/m2の絡合ウェブが得られた。
【0097】
次に、得られた絡合ウェブを温水中で収縮させて乾燥した後、熱プレスすることにより、表面が平滑にされた厚み1.98mm、目付量950g/m2、比重0.480の絡合不織布を得た。該平滑化された絡合不織布にポリエーテル系ポリウレタンのジメチルホルムアミド(DMF)溶液(固形分13%)を、固形分で極細繊維化後の絡合不織布の20質量%になるように含浸した。ポリエーテル系ポリウレタンを湿式凝固させた後水洗した。次いで、85℃の熱トルエンにより海成分のポリエチレンを除去することにより、PET極細繊維の絡合体と多孔質状のポリウレタンエラストマーとの複合体が得られた。得られた複合体は、平均単繊維径約0.2dtexのPET単繊維の繊維束からなる絡合不織布を含有し、厚み1.55mm、比重0.449g/m3、ポリウレタン含有割合20質量%、目付量696g/m2であった。
【0098】
次に、スライスすることにより上記複合体を2分割し、その一片の両面を400番のサンドペーパーを用いてバフ処理して0.75mmの厚みに調整して起毛処理した。これにより、表層部に存在する極細繊維が起毛されたスエード調の人工皮革を得た。次に、分散染料(キワロン Black AS−6:22%owf、YellowBRF:1.0%owf、Blue 2BFL:1.2%owf)を用い、浴比1:30、染料濃度10%owf、染色温度130℃、染色時間60分の条件で染色し、さらに還元洗浄を行なった。得られたスエード調の人工皮革の発色は良好で、均染性評価は2.6点であった。
【0099】
このスエード調人工皮革を170℃、10kPaの条件でプレス成形した後、再度均染性を評価した。評点は1.2点であり、昇華堅牢性が低いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
得られた人工皮革は優れた外観、風合い、機械物性と共に均一な色調を有する。酸性染料可染性樹脂として、無黄変タイプの樹脂を使用することが可能であり、ガス黄変や退色の懸念がなく、インテリア等の高耐久性が要求される用途への適用が可能である。また、昇華堅牢度が高いので、均一な色調を変化させることなく、高温成形により各種形状に加工することができ、靴、各種用途のケース、携帯電話ホルダー、家電外装、成形カバン、車両内装材(コントロールパネル)、競技ボールなどの素材として好適である。また、モールディング成形が主流の競技靴(サッカー、ランニング、テニス、バスケット等)や、長期使用による退色が懸念されるインテリアや車両用内装材(シート、ドア内張り等)に好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性染料非染性樹脂の繊維を含み、該酸性染料非染性樹脂の繊維の表面には該酸性染料非染性樹脂の繊維に対して0.01〜20質量%の酸性染料可染性樹脂が微粒子状に付着しており、該酸性染料可染性樹脂が酸性染料により染色されている染色繊維構造体。
【請求項2】
前記酸性染料非染性樹脂がポリエステル樹脂、アクリル樹脂およびオレフィン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である請求項1に記載の染色繊維構造体。
【請求項3】
前記繊維が極細繊維形成性繊維から得られた繊維束を形成する極細繊維であり、該極細繊維の単繊維繊度が0.001〜2dtexであり、該繊維束の繊度が0.5〜10dtexである請求項1または2に記載の染色繊維構造体。
【請求項4】
前記酸性染料可染性樹脂が水乳化性ポリウレタンエラストマー及び/又は水乳化性アクリルエラストマーである請求項1〜3のいずれか1項に記載の染色繊維構造体。
【請求項5】
酸性染料使用量10%owf、浴比1:45、染色温度:95℃、染色時間:60分の条件で染色したときの前記酸性染料可染性樹脂の吸尽量が30mg/g以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の染色繊維構造体。
【請求項6】
(1)酸性染料非染性樹脂の繊維から繊維ウェブを製造する工程、
(2)前記繊維ウェブに絡合処理を施し、絡合不織布を製造する工程、
(3)前記絡合不織布に、前記繊維に対して0.01〜20質量%の酸性染料可染性樹脂を付与する工程、および
(4)前記酸性染料可染性樹脂を酸性染料で染色する工程
を順次行う染色繊維構造体の製造方法。
【請求項7】
前記酸性染料非染性樹脂がポリエステル樹脂、アクリル樹脂およびオレフィン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記酸性染料可染性樹脂が水乳化性ポリウレタンエラストマー及び/又は水乳化性アクリルエラストマーである請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
酸性染料可染性樹脂を水系エマルジョンを用いて付与する請求項8に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−222772(P2010−222772A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39380(P2010−39380)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】