説明

昇華性物質の精製装置

【課題】昇華性物質を含有する個体混合物から、昇華速度を速めて、昇華性物質を収率よく、かつ、純度を高めて得られる昇華性物質の精製装置を提供する。
【解決手段】マイクロ波加熱装置を使用して、昇華槽10内の固体混合物を先端が分岐したガス吸入管12で不活性ガスを吸入しながら加熱し、昇華性物質の昇華速度を速め、昇華蒸気を隣接する結晶析出槽20に導入し、析出槽内に設置され、冷媒で冷却された結晶析出管21の外壁面に結晶として付着させる。付着した結晶を自然剥離及び析出管内の冷媒を熱媒に交換して熱剥離させ、析出槽の下端部に設けた結晶受器に落下させて精製された結晶を得る。析出管は先細のテーパー状に形成されている。析出管内に冷媒及び熱媒を導入する導入管は、管の先端を検出管内の上部側に位置させて配置する。結晶受器は熱媒を循環させるジャケットを備える。結晶析出槽のユニットを複数基設置して、結晶純度を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華性物質を含有する固体混合物から、昇華性物質を分離精製する装置に関する。さらに詳しくは、特に昇華性物質を含有する固体混合物から、昇華性物質のみを、その特性(昇華性)を利用して、他の固体混合物から精密に分離精製し、工業的製造にも対応できる昇華性物質の精製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
昇華性物質を精製する手段として、昇華精製法が知られているが、特に近年、電子材料や化学触媒などの先端産業分野で固体混合物を取扱うことが多くなり、その精製法が一層注目されるようになってきた。具体的な材料としては、例えば、有機EL素材,液晶,フォトレジスト,配位化合物触媒などがある。
【0003】
従来から、昇華法は分離精製手段として知られているが、工業的な規模での大量処理に適した方法は多くない。
【0004】
従来の昇華法による分離精製法として、例えば、特開2004−141777号公報、特開2006−95350号公報に記載の技術が挙げられる。これらの技術による方法は、原料蒸気を冷風と共に混合し、フィルター上に昇華性物質を析出させた後、エアーにて逆洗し、析出結晶を剥離させて回収するものである(例えば、特許文献1、2参照)。しかし、これらの方法は、フィルターの閉塞や大量処理困難などの問題があり、工業的観点からは必ずしも満足し得ないものであった。
【0005】
そこで、本発明者らは、上記問題を解消すべく研究,実験を行なった結果、本発明に先行して、特開2009−106917号公報に記載の技術(以下、「先行技術」という)を開発した。
【0006】
上記先行技術は、昇華性物質を含有する固体混合物を昇華槽に仕込み、真空ポンプを用いて全系内を減圧し、昇華槽の外周に設けたジャケットに熱媒を流して加熱し、昇華槽で発生した昇華蒸気を、外部から吸引した不活性ガスと共に導入管を経由して、析出槽に導入する。そして、析出槽内にあって内部に冷媒が循環した析出管の外壁周面に結晶を析出させて、付着した結晶を自然剥離、または析出管内の冷媒を熱媒に交換することにより熱により熱剥離させ、直下の結晶回収受器に落下させて回収するように構成したものである(特許文献3参照)。
【0007】
先行技術によれば、上述したフィルターの閉塞等の問題は解消することができる。しかし、先行技術によっても、昇華速度や純度等において工業的観点から未だ満足し得ない点があり、改良を加えるべき余地が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−141777号公報
【特許文献2】特開2006−95350号公報
【特許文献3】特開2009−106917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記のような実情に鑑み、先行技術を基にして、先行技術の有する特長的技術はそのまま活用し、工業的製造を考慮し、昇華速度を先行技術よりさらに高めると共に付着結晶の熱剥離を容易にし、かつ、高純度の結晶を得ることができる昇華性物質の精製装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明者は、さらに研究、実験を繰返して行なった結果、その発明を完成したので、ここに開示する。
【0011】
即ち、本発明のうち、1つの発明(第1の発明)は、昇華性物質を含有する固体混合物から、昇華性物質を減圧下で精製する装置であって、
昇華槽と、前記昇華槽を収容して前記昇華槽内の前記固体混合物を加熱する加熱装置と、前記昇華槽内に挿入して設けられ、不活性ガスを前記昇華槽内に吸入させるためのガス吸入管とを有する昇華ユニットと、
前記昇華槽と連通させて設けた結晶析出槽と、前記析出槽内に設けた結晶析出管と、前記析出管の上端側から前記析出管内に挿入して設け、前記析出管内に冷媒及び熱媒を導入して流通させる冷媒・熱媒導入管と、前記析出槽の下端部に連結して設けた結晶受器とを有し、前記析出管内に冷媒を流通させると共に、前記昇華槽内で発生した昇華蒸気を前記吸入管から吸入した不活性ガスと一緒に前記析出槽内に導入させて前記蒸気を前記析出管の外壁面に結晶として付着させた後、前記析出管内の冷媒を熱媒と交換して前記付着した結晶を熱剥離させ、前記受器に落下させて回収する結晶析出ユニットとを備え、
前記加熱装置は、マイクロ波加熱装置で構成され、
前記吸入管は、管の先端に複数本に分岐した分岐ノズルを有し、
前記受器は、所要時に熱媒を流通させるジャケットを有していることを特徴とする。
【0012】
本発明の他の1つの発明(第2の発明)は、第1の発明の昇華性物質の精製装置において、前記析出管は、上部側から下端部側に向けて次第に縮径するテーパーが付与されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の他の1つの発明(第3の発明)は、前記昇華性物質の精製装置において、前記冷媒・熱媒導入管は、管の先端を前記析出管の略中央部ないし中央部より上部側に位置させるように配置して設けてあることを特徴とする。
【0014】
本発明の他の1つの発明(第4の発明)は、前記昇華性物質の精製装置において、前記結晶析出ユニットは複数基備え、当該各ユニットは、下流側の前記ユニットの前記析出槽を上流側(昇華ユニットに近い方の側)の前記ユニットの前記結晶受器と連通させて配置されていることを特徴とする。
【0015】
なお、本発明において、「熱媒」とは、加熱用の流体を意味する用語として使用されている。また、「テーパー」の用語は、直線状に縮径する形状及び任意のカーブを付して縮径する形状等を含む概念として用いられている。要は、上部側から上端部側に向けて次第に縮径する全ての形状を含むものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、次のような作用効果を奏する。
(1)加熱装置としてマイクロ波加熱装置を採用したので、昇華槽内の原料(固体混合物)全体を平均して加熱できるので、昇華速度を向上できる。また、吸入管は、管の先端に複数本に分岐した分岐ノズルを有する構成を採用したので、キャリアーガス(不活性ガス)を平均的に分散して吸入するので昇華速度を速くすることができる。したがって、上記両者の相乗作用により、昇華速度を効率よく向上して処理量を増大し、工業化に際して有利になる。
(2)第2の発明によれば、結晶析出管は上部側から下端部側に向けて縮径からテーパー構成になっているので、析出管に付着した結晶が容易に剥離して固体のまま結晶受器に回収できる。したがって、この受器から昇華操作が連続して行うことが可能になる。
(3)第3の発明によれば、結晶析出管の上部側に厚く付着した結晶が上部側からすばやく熱剥離して、付着結晶を固体のまま結晶受器に落下して回収される。
(4)第4の発明によれば、昇華の操作回数を増やして製品結晶の純度を効率良く高めることができる。
(5)上記のように、本発明によれば、昇華速度を向上すると共に製品結晶の純度を高め、工業的な規模での大量処理に適応可能な昇華性物質の精製装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態の昇華性物質の精製装置の全体のフローを概略的に示す系統図である。
【図2】図1の前記精製装置の使用状態及び作用を示す説明図である。
【図3】前記精製装置に採用した冷媒及び熱媒の回路図の一例を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の昇華性物質の精製装置の実施形態の一例について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。
【0019】
図1ないし図3は本発明の一実施形態を示す。
【0020】
図1ないし図3に示すように、本実施形態の昇華性物質の精製装置は、昇華ユニット1と、第1の結晶析出ユニット2と、第2の結晶析出ユニット3と、真空ポンプPと、冷媒供給循環装置4と、熱媒供給循環装置5とを備える。また、本実施形態では第2の結晶析出ユニットに隣接して設けたコールドトラップ6を備える。
【0021】
昇華ユニット1は、昇華槽10と、マイクロ波加熱装置11と、ガス吸入管12とを備える。昇華槽10は加熱装置11のキャビネット11a内に収容して設置される。昇華槽10は、槽10の上端部から突出させて設けた原料仕込部13を備える。仕込部13は上端に仕入口13aを有していると共に中間部には開閉バルブ14を備える。
【0022】
原料となる昇華性物質を含有する固体混合物X(図2参照)は仕込部13から昇華槽10内に投入されて槽10内に仕込まれる。槽10内に仕込まれた固体混合物Xは、加熱装置11により加熱される。これより、混合物X中の昇華性物質を昇華させる。
【0023】
ガス吸入管12は、管12aを昇華槽10内に気密を保持して挿入して設けてある。ガス吸入管12は、管12aの先端に複数本に分岐した分岐ノズル12bを有している。本実施形態の分岐ノズル12bは三方(3本)に分岐したノズルで構成されているが、ノズル12bの分岐本数は任意に増減可能である。
【0024】
ガス吸入管12の上端部は、図示しないがガス供給部と管路15により流量調整弁16を介在して接続されている。これにより、不活性ガス17は弁16により流量を調整され、分岐ノズル12bで平均的に分散されて昇華槽10内に吸入される。
【0025】
第1の結晶析出ユニット2は、昇華ユニット1と隣接させて配置されている。前記析出ユニット2は、結晶析出槽20と、結晶析出管21と、冷媒・熱媒導入管22と、結晶受器23とを備える。析出槽20は導入管24を介して昇華槽10と連通して配設されている。
【0026】
前記析出管21は、気密性を保持して析出槽20内に挿入して、槽20内に設けてある。析出管21は、上部側から下端部側に向けて次第に縮径するテーパーが付与されている。析出管21は、突出上端部に流体出口25を有している。
【0027】
前記冷媒・熱媒導入管22は、気密性を保持して析出管21の上端側から析出管21内に挿入して設けてある。前記導入管22は、冷媒及び熱媒を所要時に選択的に析出管21内に導入して析出管21内を流通させ、析出管21を冷却及び加熱するものである。
【0028】
前記冷媒・熱媒導入管22は、管の先端22aを析出管21内の略中央部ないし中央部より上部側に位置させるように配置して設けてある。即ち、導入管22は、導入管22の析出管21への挿入部位の長さを短く調節して設けてある。これにより、析出管21内に熱媒を導入して析出管21を加熱する際に、析出管21の上部側の方が管21の下部側に比べて高温に加熱される。
【0029】
前記結晶受器23は、析出槽20の下端部に着脱可能に連結して設けてある。受器23の下端部には、開閉バルブ26を有する流出管27が設けてある。また、結晶受器23は、受器23の外周面を包囲させて設け、所要時に熱媒を流通させるジャケット28を有している。前記ジャケット28は流体入口及び流体出口(それぞれ符号省略)を有している。
【0030】
本実施形態の析出槽20は、槽20の外周面を包囲させて設け、所要時に熱媒を流通させるジャケット29を有している。前記ジャケット29は流体入口及び流体出口(いずれも符号省略)を有している。
【0031】
第2の結晶析出ユニット3は、第1の結晶析出ユニット2と隣接させて配置されている。第3の前記ユニット3は、第2の前記ユニット2と同様に構成されている。
できた。
【0032】
即ち、第2の結晶析出ユニット3は、結晶析出槽30と、結晶析出管31と、冷媒・熱媒導入管32と、結晶受器33とを備える。析出槽30は第1の結晶析出ユニット2の前記結晶受器23と導入管34を介して連通して配設されている。
【0033】
析出管31は、前記析出管21と同様に析出槽30内に挿入して、槽30内に設けてある。析出管31は、前記と同様に、上部側から下端部側に向けて次第に縮径するテーパーが付与されている。析出管31は、突出上端部に流体出口35を有している。
【0034】
冷媒・熱媒導入管32は、前記導入管22と同様の手段により、析出管31の上端部から管31内に挿入して設けてある。導入管32は前記導入管22と同様に冷媒及び熱媒を選択的に析出管31内に導入して管内を流通させ、析出管31を冷却及び加熱するものである。
【0035】
前記冷媒・熱媒導入管32は、前記導入管22と同様に管の先端32aの析出管31内に対する位置を調整して設けてある。
【0036】
結晶受器33は、析出槽30の下端部に着脱可能に設けてある。受器33は、下端部に開閉バルブ36を有する流出管37を有している。また、受器33及び析出槽30は、前記受器23及び析出槽20と同様に、外周面を包囲させて設けたジャケット38及び39を備える。
【0037】
前記コールドトラップ6は、接続管61を有し、この接続管61を第2の結晶析出ユニット2の結晶受器33に設けた導入管60と接続させ、受器33と連通させて配置されている。前記トラップ6は、外周面を包囲させて設け、冷媒を流通させてトラップ6を冷却するためのジャケット62を備える。前記ジャケット62は流通入口及び流体出口(いずれも符号省略)を有している。
【0038】
前記トラップ6の下端部には、開閉バルブ63を有する流出管64が設けてある。また、トラップ6の上端部には吸引口管65を備え、この口管65を管路66によりポンプPと接続させてある。上記により、ポンプPを稼動することにより、全系内、即ち、本実施形態では昇華槽10内,析出槽20内,受器23内,析出槽30内,受器33内,及びトラップ6内を減圧して真空状態(減圧状態)にする。
【0039】
なお、前記トラップ6は、昇華蒸気が受器33から仮に流出した際に、これを捕集して、外部へ排出されるのを防止するために設けたものである。このトラップ6は所望に応じて設けるもので、省略することも可能である。トラップ6を省略する場合には、受器33の導入管60をポンプPと接続する。
【0040】
冷媒供給循環装置4は、図3に示すように、ハウジング40内に、図示しないが、冷媒用の貯槽,冷却ないし冷凍機,温度調整用のヒータ,ポンプ,コンプレッサー、及び温度制御手段等を備えている。また、循環装置4は、吐出口41及び戻り口42を備え、貯槽内の冷媒を前記ポンプ等により吐出口41から送給し、戻り口42から貯槽内へ戻して循環させるように構成されている。
前記循環装置4は、流体輸送用の管路L,Lにより第1及び第2の結晶析出ユニット2及び3と接続されている。これにより、貯槽内の冷媒を管路を通して前記両ユニット2,3に導入し、所定部を流通させて循環させるように構成されている。前記管路の所定部には、管路(流通路)を開閉する弁が介装して設けてある。この点については、追ってさらに説明する。なお、前記トラップ6にも冷媒を導入し、流通させて循環させる。
【0041】
熱媒供給循環装置は、図3に示すように、ハウジング50内に、図示しないが熱媒用の貯槽,加熱器,温度調整の冷却器,ポンプ、及び温度制御手段等を備えている。また、前記循環装置5は、吐出口51及び戻り口52を備え、貯槽内の熱媒を前記ポンプにより吐出口51から送給し、戻り口52から貯槽内へ戻して循環させるように構成されている。
前記循環装置5は、流体輸送用の管路L,Lにより第1及び第2の結晶析出ユニット2及び3と接続されている。これにより、貯槽内の熱媒を管路を通って前記両ユニットに導入し、所定部を流通させて循環させるように構成されている。前記管路の所定部には、管路(流通路)を開閉する弁が介装して設けてある。この点については追ってさらに説明する。
【0042】
本実施形態の昇華性物質の精製装置は上記構成を具備している。次に本実施形態の操作方法の一例及び作用等について説明する。
【0043】
マイクロ波加熱装置11のキャビネット内に設置されている昇華槽10内に原料となる昇華物質を含有する固体混合物Xを仕込む。真空ポンプPを稼動して装置内、即ち、昇華槽10,析出槽20,受器23,析出槽30,受器33,及びトラップ6内を減圧して真空状態にする。
マイクロ波加熱装置により昇華槽の内容物(混合物X)を加熱する。昇華槽内の温度は、目的結晶物(昇華性物質)の融点に対して3〜5℃程度下の温度に調整する。融点温度以上になると昇華槽内の固体混合物が溶解して液状になり、目的の結晶物が昇華し難くなる。
【0044】
循環装置4で冷媒を設定温度に調整しておく。管路中の弁B,B,B,B,Bを開け、弁B,B,B,Bを閉じる。この状態で循環装置を稼動し、析出槽20内の析出管21、及び析出槽30の析出管31に、温度調整した冷媒を流通させて冷却する。
【0045】
上記冷媒の流れ工程を図3を参照して具体的に説明する。循環装置4のポンプを稼動すると、装置4で温度調整されている冷媒は、吐出口41から送給され、管路を通って導入管22から第1の析出管21内に導入される。この析出管21内に導入された冷媒は、管21内を流れて(流通して)流体出口25から流出し、管路を通って導入管32から第2の析出管31内に導入される。この析出管31内に導入された冷媒は、管31内を流れて(流通して)流体出口35から流出し、管路を通って戻り口42から装置4の貯槽に戻る。このように、冷媒は前記管路を通って循環する。これにより、析出管21及び31は冷却される。
【0046】
なお、図3には図示してないが、上記冷媒の流れの工程において、装置4の吐出口41から送給される冷媒をトラップ6のジャケット62内に導入して流通させ、トラップを冷却させるように構成する。上記冷媒の導入手段としては、例えば、吐出口41から送給される冷媒の一部を分岐管路を介してジャケット62へ分流して導入し、或いは、戻り口42から装置4の貯槽へ戻る途中において、上記戻り冷媒を迂回させてジャケット62に導入するように構成する等により行なうことができる。
【0047】
循環装置5で熱媒を設定温度に調整しておく。管路中の弁B10,B16を開け、弁B11,B12,B13,B14,B15を閉じる。この状態で循環装置5を稼動し、第1のユニット2の析出槽20のジャケット20及び第2のユニット3の析出槽30のジャケット39に熱媒を流通させて加温する。この目的は、析出槽20及び30に結晶が析出槽20及び30に付着するのを防止するためである。
【0048】
上記熱媒の流れ工程を具体的に説明する。循環装置5のポンプを稼動すると、貯槽内の温度調整された熱媒は、吐出口51から送給され、管路を通って第1のユニット2の析出槽のジャケット29の流体入口からジャケット内に導入される。この熱媒は、ジャケット29を流れて(流通して)ジャケット29の流体出口から流出し、管路を通って第2のユニット3の析出槽30のジャケット39の流体入口からジャケットに導入される。この熱媒はジャケット39内を流れて(流通して)流体出口から流出し、管路を通って戻り口52から装置5の貯槽内に戻る。このように、熱媒は前記経路を通って循環する。これにより、ジャケット29及び39は加温ないし加熱される。
【0049】
一方、上記と同時に昇華槽10に挿入したガス吸入管12から不活性ガスを、流量調整弁16で流量を調整しながら昇華槽10内に吸入(吸引)させる。このように、前記不活性ガスを分岐ノズル12bで平均的に分散して吸入するので、昇華速度を速くすることができる。また、上述したように、加熱装置としてマイクロ波加熱装置を採用したので、昇華槽内の原料(固体混合物)は全体的に平均して加熱されるので、昇華速度を向上できる。したがって、上記両者の相乗作用により、昇華速度を効率よく向上し、工業的な規模での大量処理に適応可能になる。
【0050】
上記により、昇華槽の原料(前記固体混合物X)中の目的物質は昇華し、この昇華蒸気は不活性ガスと共に導入管24を通って、第1ユニット2の第1の析出槽20内に導入される。そして、図2に示すように、時間の経過につれて、目的の物質は槽20内の第1の析出槽20の外壁面(外壁周面)に結晶Xとして凝縮付着してくる。また、前記昇華蒸気の一部は導入管34を通って第2のユニット3の第2の析出槽30内にも導入され、槽30の第2の析出管31の外壁面(外壁周面)にも少量ではあるが結晶Xとなって付着する。通常では、第2の析出管31に付着した結晶は第1の析出管21に付着した結晶より純度は良い。
【0051】
上記のように、昇華槽10で発生した昇華蒸気の大部分は、第1の析出管21の外壁面に結晶Xで析出し、結晶層が厚くなるにつれて、一部は自然に剥離し、直下の結晶受器23内に固体のまま落下する。析出管21は、上部側から下端部側に向けて先細となるテーパーが付与されているので、運転中でも結晶は剥離して落下し易くなっている。
【0052】
昇華槽10に仕込んだ原料の固体混合物X中の昇華性物質が概ね昇華したのを待って、第1のユニット2の析出管21内の冷媒を熱媒に換えて、析出管の外壁面に付着した結晶Xを熱剥離させ、下部(直下)の結晶受器23に落下させて結晶のまま回収する。
【0053】
上記操作は例えば次のように行う。弁B,B,B11を開け、弁B,B,B10,B12,B16を閉じる。この状態で循環装置5のポンプを稼動すると、吐出口51から送給される熱媒は、管路を通って導入管22から第1の析出管21内に導入される。この導入管内に導入された熱媒は、管21内を流通して流体出口25から流出し、管路を通って戻り口52から装置の貯槽に戻る。このように、熱媒は前記経路を通って循環する。これにより、析出管21は加熱される。
【0054】
上記のように析出管21が加熱されると、管21の外壁面に付着した結晶は熱剥離して落下し、受器に回収される。この場合において、析出管21内に挿入した導入管22は、管の先端を析出槽22の略中央部ないし中央部より上部側に位置させるように配置して設けてあるので、析出管21は上部側の方が下半部側に比べて高温に加熱される。また、析出管は上記したように先細のテーパー構成になっている。したがって、上記両者の構成による相乗作用によって、付着結晶は上部側から熱剥離し易く、結晶の自重により短時間でスムーズに受器に落下する。
【0055】
そして、前記受器23に落下した結晶が目的とする純度に達している場合は、第1及び第2の結晶受器23及び33のジャケット28,38に熱媒を流通して循環し、熱剥離させて、結晶のまま両受器23,33から回収することができる。前記両ジャケット28,38へ熱媒を循環させる操作は、管路中に設けた弁のうち、所定部位の弁を開閉操作して行う。
【0056】
また、前記両受器23,33に落下した結晶を融点以上に加熱して液体にし、両受器の流出管27,37から流出して回収することもできる。通常は、液体で回収する方が多くなると思われる。前記結晶を液体化する場合には、結晶の融点以上に加熱した熱媒を前記両ジャケット28,38に導入して循環させることにより行える。
なお、両受器に落下させた結晶を、結晶のまま回収する場合には、例えば両受器23,33を両析出槽20,30から取り外して行う。
【0057】
一方、前記第1の結晶受器23に落下させた結晶の純度が目的とする純度に達していない場合は、昇華操作を続行する。即ち、昇華槽10を目的の結晶の融点温度より3〜5℃程度低い温度に加温すると共に第1の析出管21及び第1の析出槽20のジャケット28に前記温度の熱媒を導入して流通し、循環させて加熱する。また、第2の析出管31には冷媒を導入して流通し、循環させて冷却し、昇華操作を続行する。
【0058】
上記操作によって、第1の結晶受器23内の結晶は昇華して蒸気となり、導入管34を通って、第2のユニット3の析出槽30内へ導入され、析出管31の外壁面に結晶となって付着する。第1の受器23内の結晶が概ね全て昇華し、前記析出管31の外壁面に付着した後、前記析出管31内の冷媒を熱媒に交換して、付着結晶を熱剥離して第2のユニット3の結晶受器33に落下させて回収する。
【0059】
上記操作においては、第2の結晶析出ユニット3が昇華装置として機能する。即ち、昇華装置を多段(2段)でシリーズに接続した構成になる。なお、本実施形態では、結晶析出ユニットを2基(2セット)接続して設けた例を開示したが、その基数は所望に応じて任意に増加することができる。結晶析出ユニットを増加する場合には、増加する各結晶析出ユニットは、下流側の前記ユニットの析出槽を上流側(昇華ユニットに近い方の側)の結晶析出ユニットの結晶受器と連通させて配置する。結晶析出ユニットの増加により、昇華装置兼用の結晶析出装置の段数が増加することになる。
【0060】
なお、上記した冷媒及び熱媒の管路の回路構成は一例として開示したもので、上記以外の回路構成に任意に変更可能なこと勿論である。
【0061】
(試験例)
次に本実施形態の昇華性物質の精製装置を用いて実施した試験例及びその試験結果を示す。
【0062】
<使用装置の寸法等>
昇華槽 :外径130mm×長さ300mm
両結晶析出槽:外径130mm×長さ500mm
両結晶析出管:管の上部側の外径50mm、管の下端部の外径20mm×長さ450mm
両結晶受器 :外径130mm×長さ300mm
なお、ガス吸入管は、管の先端に3本(三方)に分岐した分岐ノズルを有する構成のガス吸入管を使用。
また、両結晶析出管の上端側から前記析出管内に挿入して設けた両冷媒・熱媒導入管は、管の先端を前記析出管の中央部より上部側に位置させるように配置して設けた。
<測定方法>
昇華性物質を含む原料の固体混合物、及び昇華精製した目的物の分析は、非極性充填剤でコーティングしたキャピラリーガスクロマトグラフィーによって行った。
カラム寸法:内径0.25mm×長さ30m
測定条件 :注入温度150℃、カラム入口温度150℃、オーブン温度200℃、検出器温度250℃
【0063】
<試験の実施方法及び試験結果>
第1及び第2の結晶析出ユニットの両結晶析出槽内に設けた両結晶析出管内に冷媒を導入流通して循環させ、両析出管内の温度が−10℃前後になるように十分冷却した。
【0064】
昇華槽にナフタレン100grとハイドロキノン10gr(いずれも研究用試薬)の固体混合物を仕込み、真空ポンプを稼動し、ガス吸入管を通して、流量調整弁により流量を調節しながら、乾燥した窒素ガスを吸入(吸引)し、系内、即ち、昇華槽内,両析出槽内,両結晶受器内,及びトラップ内を50mmHg〜150Hgの真空とする。また、昇華槽内の温度が75℃〜77℃程度になるように加熱装置の加熱温度を設定して、昇華槽を加熱した。
【0065】
昇華槽で発生した昇華蒸気は吸入ガスと共に導入管を通って第2のユニットの析出槽内に導入され、前記析出槽内の析出管の外壁面に結晶として付着し、時間の経過に伴って付着結晶層が次第に厚くなった。付着した結晶は針状又は板状であった。
【0066】
付着した結晶層の厚さが増すにつれて、付着した結晶の一部が剥離し、下部(直下)に設けた結晶受器に落下した。約4時間でナフタレンが大部分昇華し、昇華結晶が前記析出管の外壁面と前記受器に回収された。
【0067】
真空ポンプと熱媒供給循環装置のポンプはそのまま運転(稼動)して、前記析出管内に流通する冷媒を熱媒に交換した。3〜5分後に析出管の外壁面に付着した結晶は全て剥離(熱剥離)して下部の前記受器に落下し、操作中に自然剥離して落下した結晶と一緒になって全て前記受器に回収された。
前記受器に回収された結晶純度は95%であった。
【0068】
前記受器のジャケットに74〜77℃の熱媒を導入し、流通させて循環させ、第2の結晶析出ユニットの結晶析出管には−20℃の冷媒を導入し、流通させて循環させ、昇華操作を続行した。
【0069】
約8時間昇華操作を続けて、第1のユニットの前記受器内の結晶の大部分を第2のユニットの前記析出管の外壁面に付着させた。昇華操作中に付着結晶の一部は前記析出管の下部の結晶受器に落下した。
【0070】
第2のユニットの前記析出管内の冷媒を熱媒に交換して、付着結晶を熱剥離させて前記結晶受器に落下回収し、結晶純度を測定したところ、純度は100%であった。
【0071】
なお、上記した実施形態は一例として開示したもので、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の技術思想を越脱しない範囲内において任意に変更可能なものである。
【符号の説明】
【0072】
1 昇華ユニット
2 第1の結晶析出ユニット
3 第2の結晶析出ユニット
10 昇華槽
11 マイクロ波加熱装置
12 ガス吸入管
17 不活性ガス
20,30 結晶析出槽
21,31 結晶析出管
22,32 冷媒・熱媒導入管
23,33 結晶受器
28,29,38,39 ジャケット
X 固体混合物
結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇華性物質を含有する固体混合物から、昇華性物質を減圧下で精製する装置であって、
昇華槽と、前記昇華槽を収容して前記昇華槽内の前記固体混合物を加熱する加熱装置と、前記昇華槽内に挿入して設けられ、不活性ガスを前記昇華槽内に吸入させるためのガス吸入管とを有する昇華ユニットと、
前記昇華槽と連通させて設けた結晶析出槽と、前記析出槽内に設けた結晶析出管と、前記析出管の上端側から前記析出管内に挿入して設け、前記析出管内に冷媒及び熱媒を導入して流通させる冷媒・熱媒導入管と、前記析出槽の下端部に連結して設けた結晶受器とを有し、前記析出管内に冷媒を流通させると共に、前記昇華槽内で発生した昇華蒸気を前記吸入管から吸入した不活性ガスと一緒に前記析出槽内に導入させて前記蒸気を前記析出管の外壁面に結晶として付着させた後、前記析出管内の冷媒を熱媒と交換して前記付着した結晶を前記熱媒の熱により前記外壁面から剥離させ、前記受器に落下させて回収する結晶析出ユニットとを備え、
前記加熱装置は、マイクロ波加熱装置で構成され、
前記吸入管は、管の先端に複数本に分岐した分岐ノズルを有し、
前記受器は、所要時に熱媒を流通させるジャケットを有している
ことを特徴とする昇華性物質の精製装置。
【請求項2】
前記析出管は、上部側から下端部に向けて次第に縮径するテーパーが付与されていることを特徴とする請求項1に記載の昇華性物質の精製装置。
【請求項3】
前記冷媒・熱媒導入管は、管の先端を前記析出管の略中央部ないし中央部より上部側に位置させるように配置して設けてあることを特徴とする請求項1に記載の昇華性物質の精製装置。
【請求項4】
前記結晶析出ユニットは複数基備え、当該各ユニットは、下流側の前記ユニットの前記析出槽を上流側の前記ユニットの前記結晶受器と連通させて配置されていることを特徴とする請求項1に記載の昇華性物質の精製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−59750(P2013−59750A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201395(P2011−201395)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(591196474)有限会社桐山製作所 (4)
【Fターム(参考)】