説明

昇降体落下防止装置とそれを装備した昇降体落下防止装置付き作業機器

【課題】昇降体の昇降停止時に、昇降体を確実に停止させる。
【解決手段】固定係止具5と係止駒17を備えた移動係止具6と、移動係止具を前後に移動させる駆動装置8を備え、固定係止具は縦方向に間隔をあけて形成された二以上の受歯20を備え、係止駒は縦方向に間隔をあけて形成された二以上の係止歯21を備える。係止駒は移動係止具の保持具に昇降可能に設けられて係止駒の係止歯が固定係止具の受歯と対向する。受歯は係止歯側に先鋭な鋸歯状であって、上面が水平状態、底面が先端側から根元側に下り傾斜である。係止歯は受歯側に先鋭な鋸歯状であって、底面が水平状態、上面が根元側から先端側に向けて下り斜面である。両歯は昇降体の昇降停止時に、移動係止具が駆動装置により固定係止具側に押されると、互いに噛み合い、係止駒の係止歯が受歯により強制的に押し下げられて、係止歯の下水平面が受歯の上水平面に押し付けられて昇降体の落下が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は縦長の機器本体に設けた、ワーク搭載台やロボット支持アーム等の可動体を装備する昇降体の不用意な降下(落下)を防止して安全を確保するための昇降体落下防止装置と、それを装備した昇降体落下防止装置付き作業機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本件発明者は先にロボット・ワーク等の位置決め装置を開発して特許を取得した(特許文献1参照)。その後、ワーク懸架装置(ポジショナー)を開発して特許出願した(特許文献2参照)。
【0003】
前記特許文献1のロボット・ワーク等の位置決め装置は、縦長の機器本体にワーク搭載台とロボット用アームを昇降可能に設け、ワーク搭載台を旋回、回転、昇降等させることによりワーク搭載台に搭載されたワークの高さ、向き、角度等を調整可能とし、ロボット用アームを昇降、横移動、前後移動等させることによりそのアームに取付けた多関節溶接用ロボットの高さ、横位置、前後位置等を変えて、ワーク搭載台に搭載されたワークの所望箇所を溶接できるようにしたものである。
【0004】
前記特許文献2のポジショナーは、縦長の機器本体にワーク搭載台を昇降可能に設け、ワーク搭載台を旋回、回転、昇降等させることによりワーク搭載台に搭載されたワークの高さ、向き、角度等を調整可能として、工場内の溶接用ロボットでワークの所望箇所を溶接できるようにしたものである。
【0005】
前記作業機器のワーク搭載台やロボット用アームは重い(数トンもある)ため不用意に降下(落下)すると危険である。そのため安全面から昇降体落下防止装置を設けるのが望ましい。
【0006】
昇降体落下防止装置として、従来は、昇降体にディスクブレーキを設け、機器本体に固定レールを取付け、固定レールをディスクブレーキでクランプして昇降体の不用意な落下を防止し、昇降体を昇降させるときに前記クランプを解除するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3026790号公報
【特許文献2】特開2003−117629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のディスクブレーキによる落下防止手段には次のような課題がある。
(1)ディスクブレーキの制動力は最大で1400kgf程度である。しかし、前記作業装置のワーク搭載台にワークを載せたときに昇降体に掛かる負荷は標準製品でも3〜10tfであるため、昇降体の落下を確実に防止することはできない。
(2)前記いずれの作業機器も、構造上、ディスクブレーキの設置が困難であり、ディスクブレーキの数が多くなるとなおさら困難である。
(3)ディスクブレーキのパッドが使用により磨耗すると、ディスクブレーキの制動力が低下して確実な落下防止が困難になる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本件発明は、本件発明者が先に開発した前記作業機器のみならず、昇降体を備えた他の作業機器にも取付け可能であり、制動力が大きく、昇降体の落下を確実に防止でき、長期間使用しても制動力の低下がなく、安全性の高い落下防止装置と、それを取付けた作業機器を提供するものである。
【0010】
本願発明の昇降体落下防止装置は、請求項1記載のように、機器本体に、昇降体が昇降可能に装備された作業機器に取り付けて、昇降停止時の昇降体を支持して、昇降体の落下を防止する昇降体落下防止装置であり、固定係止具と、係止駒を備えた移動係止具と、駆動装置を備え、固定係止具は、縦方向に嵌合空間を設けて二以上の受歯が形成され、係止駒は、縦方向に間隔をあけて二以上の係止歯が形成され、駆動装置は、前記移動係止具を固定係止具に対して前進・後退させることができ、前記固定係止具は機器本体と昇降体のいずれか一方に、移動係止具は他方に取付け可能であり、前記係止駒は移動係止具に、昇降可能に設けられて、係止駒の係止歯が前記固定係止具の受歯と対向し、前記受歯は、係止歯側に先鋭な鋸歯状であって、上面が水平状態であり、底面が先端側から根元側に下り傾斜であり、前記係止歯は、受歯側に先鋭な鋸歯状であって、底面が水平状態であり、上面が前記受歯の傾斜とは逆に根元側から先端側に向けて下り斜面であり、昇降体の昇降停止時に、前記移動係止具が前記駆動装置により固定係止具側に押されて、前記係止駒の係止歯が前記固定係止具の受歯の嵌合空間に進入して噛み合い、前記噛み合い時に、前記昇降可能な係止駒の係止歯が受歯により強制的に押し下げられて、係止歯の下水平面が受歯の上水平面に押し付けられて噛み合って昇降体が支持されて昇降体の落下が防止され、昇降体の昇降時には、移動係止具が固定係止具側から後退して、係止歯と受歯の前記噛み合いが解放されて昇降体が昇降可能としてある。
【0011】
本願発明の昇降体落下防止装置は、請求項2記載のように、前記昇降体落下防止装置において、係止駒は移動係止具に、スプリングを介して昇降可能に設けられているものとしてある。請求項3記載のように、前記昇降体落下防止装置において、係止歯は受歯よりも小さなサイズであり、受歯の嵌合空間よりも狭い間隔で設けられて、受歯の一つの嵌合空間内に二以上の係止歯が嵌入可能とすることもできる。請求項4記載のように、前記昇降体落下防止装置において、固定係止具が機器本体の昇降体の昇降範囲よりも長く、その略全長に受歯が設けられ、昇降体の昇降停止時に、移動係止具の係止歯が前記受歯のいずれかに係止されるようにすることもできる。請求項5記載のように、前記昇降体落下防止装置において、移動係止具を固定係止具側に常時押す押しバネを備え、前記押しバネは駆動装置により前記移動係止具を前進させて、前記係止歯と受歯を噛み合わせるときも、前記駆動装置により移動係止具を前進させることもできないときも、前記移動係止具を固定係止具に押して、前記移動係止具の係止駒の係止歯と受歯を互いに噛み合わせて、移動係止具を固定係止具に支持させることができる強さの押し力を備えて、前記移動係止具の係止歯を固定係止具の受歯側に押して両歯の噛み合いを確保できるようにしたものである。
【0012】
本願発明の昇降体落下防止装置付き作業機器は、請求項6記載のように、機器本体と、その上下方向に昇降可能に設けられた昇降体が設けられ、昇降体にワーク搭載台、ロボット支持アーム等の可動体が装備され、可動体は旋回、回転、昇降、前後移動、横移動等によって高さ、横位置、前後位置、向き、角度等を変えることができる作業機器において、請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の昇降体落下防止装置の固定係止具が機器本体と昇降体のいずれか一方に、移動係止具及び駆動装置が他方に取付けられて、固定係止具の受歯と、移動係止具の係止駒の係止歯が対向され、移動係止具は駆動装置により固定係止具に対して前進・後退可能であり、昇降体の昇降停止時に、前記移動係止具が前記駆動装置により固定係止具側に押されて、前記係止駒の係止歯が前記固定係止具の受歯と噛み合い、前記噛み合い時に、前記係止駒の係止歯が受歯により強制的に押し下げられて、係止歯の下水平面が受歯の上水平面に押し付けられて噛み合って昇降体が支持されて昇降体の落下が防止されるようにしたものである。
【0013】
本願発明の昇降体落下防止装置付き作業機器は、請求項記載のように、前記昇降体落下防止装置付き作業機器において、固定係止具が機器本体の昇降体の昇降範囲よりも長く、その略全長に受歯が設けられ、昇降体の昇降停止時に、移動係止具の係止歯が前記受歯のいずれかに係止されるようにしたものである。
【0014】
本願発明の昇降体落下防止装置付き作業機器は、請求項記載のように、前記昇降体落下防止装置付き作業機器において、移動係止具が取付けられた機器本体又は昇降体にスイッチを設け、移動係止具にスイッチ押し具を設け、移動係止具の後退時にスイッチ押し具によりスイッチがON或はOFFされると昇降体の昇降ロックされ、移動係止具が固定係止具側に前進してスイッチ押し具によりスイッチが前回とは逆にOFF或はON操作されると前記ロックが解除されて昇降体が昇降可能になるロック機構を備えたものである。
【発明の効果】
【0015】
本件出願の昇降体落下防止装置は次のような効果がある。
(1)固定係止具の受歯と移動係止具の係止歯を噛み合わせて昇降体を支持するため、昇降体の支持が確実になって昇降体の不用意な落下を確実に防止でき、安全性が向上する。
(2)受歯も係止歯も磨耗しにくいため両者の噛み合いが不安定になることがなく、安全性が長期に亘って確保される。
(3)新設の作業機器に装備可能であるのは勿論のこと、既存の作業機器にも装備可能である。
(4)移動係止具に設けたスライド軸を案内体で案内して移動係止具を前後移動させれば移動係止具の前後移動が安定する。このため移動係止具の係止歯と固定係止具の受歯の噛み合いが確実になり、昇降体の不用意な落下をより一層確実に防止できる。
【0016】
本件出願の昇降体落下防止装置は、押しバネにより移動係止具を固定係止具側に常時押して、移動係止具の係止歯を固定係止具の受歯と噛み合わせて昇降体を支持させることもできるようにしたので、係止歯と受歯の噛み合いは駆動装置による押しと押しバネによる押しの二重の押しで確保されることになり、駆動装置による押しができない緊急事態が発生しても昇降体の不用意な落下を確実に防止することができる安全性の高い昇降体落下防止装置となる。
【0017】
本件出願の昇降体落下防止装置付き作業機器は、昇降体を備えた作業機器に前記昇降体落下防止装置が装備されているので次のような効果がある。
(1)昇降体の不用意な落下が確実に防止されるため、安全性の高い作業機器となり、組立て、溶接、修理、点検等の各種作業を安心して行うことができる。
(2)昇降体落下防止装置の構成が簡潔で小型であるため、作業機器に装備し易く、装備しても前記各種作業の邪魔にならない。
(3)移動係止具が取付けられた機器本体又は昇降体に案内体を取付け、移動係止具のスライド軸が案内体にガイドされて前後移動するようにすれば、移動係止具の前後移動がスムースになり、受歯と係止歯の噛み合いがスムースになるため、両歯の摩耗が少なく、係止が確実になり、昇降体の不用意な落下が確実に防止され、安全性の高い作業機器となり、組立て、溶接、修理、点検等の各種作業を安心して行うことができる。
【0018】
本件出願の昇降体落下防止装置付き作業機器は、スイッチ及びスイッチ操作具を設け、スイッチのON/OFFによって昇降体の昇降をロックし、又はロックを解除して昇降体を昇降可能とするロック機構を備えるので、上記各効果に加えて次のような効果がある。
(1)ロック機構によって昇降体の昇降を確実にロックできるため、昇降体の不用意な落下がより確実に防止され、安全性の高い作業機器となり、組立て、溶接、修理、点検等の各種作業を安心して行うことができる。
(2)スイッチのON/OFFによって、昇降体が昇降可能か、ロックされているかを即座に判断できるため、作業中に作業員等が、昇降体の状態を即座に把握することができ、作業の安全性の向上に資する。
【0019】
本件出願の昇降体落下防止装置付き作業機器は、前記昇降体落下防止装置における押しバネを作業機器の移動係止具に設けたので、係止歯と受歯の噛み合いが駆動装置による押しと押しバネによる押しの二重の押しで確保されることになり、駆動装置による押しができない緊急事態が発生しても昇降体の不用意な落下を確実に防止することができ、安全性の高い作業機器となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の昇降体落下防止装置とそれを備える作業機器の実施形態の一例を示す斜視図。
【図2】図1に示す昇降体落下防止装置が昇降体の支持を解除した状態を示す正面説明図。
【図3】図1に示す昇降体落下防止装置が昇降体を支持した状態を示す正面説明図。
【図4】図1に示す昇降体落下防止装置を示す部分拡大斜視図。
【図5】本発明の作業機器の実施形態の一例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(昇降体落下防止装置の実施形態1)
本発明の昇降体落下防止装置(以下「落下防止装置」と記す。)の実施形態の一例を図1〜図4に基づいて説明する。この落下防止装置1は図1に示すように縦長の機器本体2に昇降体3を昇降可能に設けた作業機器4に装備して、昇降体3の不用意な落下を防止するものである。
【0022】
この落下防止装置1は図2に示すように、金属製の縦長の固定係止具5と金属製の移動係止具6と、移動係止具6を固定係止具5側に前後移動させる駆動装置8を備えている。
【0023】
前記固定係止具5は昇降体3の昇降範囲よりも長くして、昇降体3が昇降範囲内のどの位置に停止しても昇降体3を係止して落下防止できるようにしてある。固定係止具5の前面縦方向には図2に示すように多数の受歯20が所定間隔(嵌合空間)で形成されている。夫々の受歯20は鋸歯状であり、移動係止具6側に尖鋭になっており、上面が水平面、底面が先端から奥に向けて下り傾斜面に形成されている。
【0024】
前記移動係止具6は図2に示すように金属製の逆L字状の保持具7と、保持具7の前面7bに配置されて保持具7に吊下げられた金属製の係止駒17と、保持具7を支持すると共にガイドする二つの案内体10とで構成されている。保持具7の縦板の背面には二本の丸棒状のスライド軸9が突設されており、夫々のスライド軸9が案内体10を貫通して案内体10に支持されると共に横(図2、図3の左右)にスライド可能として固定係止具5に対して前進・後退できるようにしてある。案内体10は前後移動するスライド軸9をガイドすると同時に負荷を支持するためのものである。
【0025】
前記係止駒17は固定係止具5と対向しており、前面縦方向に多数の係止歯21が一定間隔で形成されている。夫々の係止歯21も鋸歯状であり、固定係止具5側に尖鋭になっており、その上面は前記受歯20の傾斜とは逆に奥から先端側に向けて下り斜面に、底面が水平面となっており、受歯20の下斜面と係止歯21の上斜面の斜面角度は逆向きの同じ角度としてある。また、係止歯21の間隔は前記受歯20の間隔の半分にして、図3に示すように受歯20と係止歯21とが噛み合うときに上下の受歯20の間に係止歯21が二本ずつ嵌入して噛み合うようにしてあり、これにより受歯20と係止歯21との係止が確実になるようにしてある。
【0026】
係止駒17の上面には吊ボルト11が上方に向けて突設されており、その吊ボルト11が前記保持具7の上横部7aを下から上に貫通し、スプリング12を挟んで二重ナット13で止めて吊り下げてある。この場合、上横部7aの底面と係止駒17の上面との間にクリアランス(空間)14が形成される。また、保持具7の前面7bと係止駒17の背面17aのいずれかに板状の摺動金具23を固定して、前記前面7bと背面17aの摩擦抵抗を小さくして係止駒17がスムースに昇降できるようにしてある。この摺動金具23には含油メタルとか滑り特性の良い他の金属等を使用することができる。
【0027】
前記駆動装置8には油圧シリンダが使用されており、それが前記保持具7の背面に配置され、そのピストンロッド22が保持具7の背面であって上下二本のスライド軸9の間に連結固定され、ピストンロッド22を突出させると保持具7及び係止駒17が固定係止具5側に前進して、係止駒17の係止歯21が固定係止具5の受歯20と噛み合い、ピストンロッド22を引き戻すと保持具7及び係止駒17が後退して両歯の噛み合いが解放されるようにしてある。前記駆動装置8の作動は同装置の油圧ユニット及び電気回路(いずれも図示されていない)によって制御される。前記油圧ユニットはシングル電磁弁を備えたものでもダブル電磁弁を備えたものでもよい。
【0028】
図2〜図4に示すように駆動装置8のピストンロッド22の外周には押しバネ25が配置されている。押しバネ25は移動係止具6を固定係止具5側に常時押しており、その押し力は、移動係止具6の係止歯21を固定係止具5の受歯20に噛み合わせて、移動係止具6が装備されている昇降体3を固定係止具5に係止して支持できる強さにしてある。これにより、電気回路の異常発生(例えば、停電)、油圧ユニットの異常発生(例えば油圧ホースの油漏れ)、制御盤の操作による昇降体3の緊急停止といった緊急事態発生によって油圧ユニットの電磁バルブがOFFとなり、前記ピストンロッド22が自由に前後移動可能なフリー状態(ピストンロッド22で強制的に押すことができない状態)になると、直ちに(同時に)、押しバネ25がその押し力で移動係止具6を固定係止具5側に押して、移動係止具6の係止歯21を固定係止具5の受歯20に噛み合わせ、更に、固定係止具5に噛み合わされた係止駒17の上面が保持具7の上横部7aを係止して、昇降体3の不用意な落下を防止することができるようにしてある。
【0029】
前記受歯20と係止歯21の噛み合い時には受歯20の下斜面と係止歯21の上斜面とが接触して係止駒17がそれら斜面の傾斜分だけ押し下げられて両歯20、21がスムースに噛み合うようにしてある。この押し下げにより前記スプリング12が圧縮されて両歯20、21に無理が掛からないようにしてある。また、前記噛み合い時に受歯20の下水平面と係止歯21の上水平面とが接触して両歯20、21の係止が確実になり、噛み合いが外れないようにしてある。また、前記後退時には両歯20、21の噛み合いが外れて昇降体3が昇降できるようにしてある。
【0030】
前記保持具7の横向き上部にはスイッチ押し具16が固定されており、スイッチ押し具16は前記のように保持具7が後退するとスイッチ押し具16の後方に配置されるスイッチ15を押してON或はOFFとし、前記のように保持具7が前進するとスイッチ15から離れてスイッチ15が前回とは逆にOFF或はONに戻るようにしてある。スイッチ15は保持具7が前進してスイッチ押し具16による押しが解放され、係止駒17の係止歯21が固定係止具5の受歯20と噛み合って昇降体3が支持(落下防止)されると昇降体3が昇降しないように昇降体用昇降機構をロックし、保持具7が後退して前記両歯20、21の噛み合いが解放されて昇降体3が昇降できるようになるとスイッチ押し具16により押されて前記ロックを解除し、昇降体用昇降機構により昇降体3を昇降させることができるようにするロック機構を構成するものである。スイッチ15には、リミットスイッチ、磁石式のリードスイッチや近接スイッチ等を使用することもできる。
【0031】
(昇降体落下防止装置の実施形態2)
前記固定係止具5の受歯20及び係止駒17の係止歯21は互いに噛み合い可能であれば任意の形状、大きさ、歯数、傾斜角等とすることができる。前記駆動装置8には油圧シリンダ以外のもの、例えば、エアーシリンダ等を使用することもできる。スライド軸9の本数も三本以上としたり、駆動装置8の設置台数を二台以上としたりすることもできる。
【0032】
(昇降体落下防止装置付き作業機器の実施形態1)
前記実施形態に記載の昇降体落下防止装置は図1、図4に示すように作業機器4に装備することができる。一例として図1に示す作業機器4は縦長の機器本体2に昇降体3が昇降自在に設けられている。機器本体2は縦長箱状であり、平面略コ字状に形成された台座40の上に立設されており、その両側面に縦長の昇降ガイド41が上下方向に設けられている。
【0033】
前記ワーク支持用の昇降体3は旋回盤30の先方にワーク支持アーム31が突設され、その先端にワーク搭載用の回転盤32が設けられ、旋回盤30が図示されていない昇降駆動機構により機器本体の昇降ガイド41に沿って昇降するとワーク支持アーム31も昇降し、旋回盤30の旋回によりワーク支持アーム31も旋回し、ワーク搭載用の回転盤32が回転することによりそれに搭載されたワークが回転して、ワークの高さ、向き、角度が変わるようにしてある。
【0034】
機器本体2の上部には、横長台34が横向きに備えられ、その横長台34の前面には、左右方向に往復スライド可能に左右スライド体35が取付けられている。左右スライド体35の前面には、ロボット支持アーム36が前方に突出して取付けられている。ロボット支持アーム36の内部には前後スライド体37が設けられ、この前後スライド体37の下面には多関節型アーク溶接ロボット(以下「ロボット」と記す。)38が下向きに取付けられている。従って、前記ロボット支持アーム36は横長台34に沿って横(図1の左右)に走行でき、ロボット38がロボット支持アーム36に沿って前後に移動して、ロボット38を前後左右に移動して、ワーク搭載用の回転盤32の上に搭載されたワークの所望箇所を前記ロボット38で溶接できるようにしてある。
【0035】
本発明の昇降体落下防止装置付き作業機器は、前記作業機器4の機器本体2の側面に前記昇降体落下防止装置の固定係止具5を固定し、昇降体3の側面に前記昇降体落下防止装置1の移動係止具6を構成する保持具7と係止駒17と案内体10、及び駆動装置8、スイッチ15を図3に示す位置関係で取付けて、保持具7が案内体10にガイドされて固定係止具5側に前後移動させることが出来、それにより係止駒17も前後移動するようにしてある。
【0036】
(昇降体落下防止装置付き作業機器の使用例1)
図1〜図4に示す作業機器4の昇降体3は落下防止装置1が無くとも所定位置に停止し、必要時にのみ昇降させることができるものであり、停止時に不用意に落下するものではないが、落下防止装置を装備することによって昇降体3を支持してその落下を確実に防止し、必要に応じて支持を解除して昇降体3を昇降可能にすることができる。その係止と係止解除は次のようにして行うことができる。
(1)昇降体3の停止時には図3、図4に示すように、落下防止装置1の保持具7及び係止駒17が駆動装置8により固定係止具5側に前進させられ、受歯20と係止歯21が噛み合って昇降体3が支持されその落下が防止される。前記噛み合い時には係止歯21の上斜面が受歯20の下斜面に沿って噛み合いが進行し、進行に伴って、スプリング12で引き上げられている係止歯21の上斜面が受歯20の下斜面で強制的に押し下げられて係止歯21の下水平面が受歯20の上水平面に押し付けられ、係止歯21と受歯20の間に隙間の無い確実な噛み合いとなって両歯の係止が確実になり、昇降体3が支持されその落下が確実に防止される。このとき、スプリング12が圧縮される。また、スイッチ押し具16がスイッチ15から離れてスイッチ15がONとなり、前記ロック機構が作動して、制御盤を操作しても昇降体3が昇降できないロック状態になる。このとき、駆動装置8のピストンロッド22に備えられた押しバネ25によっても保持具7及び係止駒17が押されているため、昇降体3の支持は駆動装置8による押しと押しバネ25による押しの二重の押しで確保された状態となる。
(2)昇降体3を上昇或は降下させるには駆動装置8を作動させて、図2に示すように保持具7及び係止駒17を後退させることにより受歯20と係止歯21の噛み合いを解放して昇降体3の支持を解除する。噛み合いが解除されると先に圧縮されたスプリング12の復元力で移動係止具6が引き上げられる。前記のように保持具7及び係止駒17が後退するとスイッチ押し具16も後退してスイッチ15が押され、スイッチ15がOFFとなって前記ロックが解除され、制御盤の操作により昇降体3を昇降操作できるフリーの状態になる。前記押しバネ25は保持具7及び係止駒17の後退に伴って圧縮される。この状態で制御盤を操作して昇降体3を上昇或は降下させ、所望位置で停止させることができる。
(3)前記停止状態で駆動装置8を操作して保持具7及び係止駒17を固定係止具5側に前進させると受歯20と係止歯21が前記のように噛み合って昇降体3が支持されてその落下が再度防止される。同時にスイッチ15の押しが解放されてスイッチ15がONとなりロック状態に自動復帰する。このとき、駆動装置8のピストンロッド22に備えられた押しバネ25によっても保持具7及び係止駒17が押されているため、昇降体3の支持は駆動装置8による押しと押しバネ25による押しの二重の押しで確保された状態となる。
(4)前記(1)〜(3)の操作の繰り返しにより昇降体3の昇降操作、所望位置への停止、停止時の受歯20と係止歯21の噛み合いによる昇降体3の支持及びロック、ロック解除と再度の昇降操作を随時行なうことができる。
【0037】
(昇降体落下防止装置付き作業機器の使用例2)
図2〜図4に示すように押しバネ25を備えた作業機器では、昇降体3の昇降中に電気回路や油圧ユニットの異常発生(例えば停電や油圧ホースの油漏れ)、制御盤の操作による昇降体3の緊急停止といった緊急事態発生のため、駆動装置8により移動係止具6を固定係止具5側に押すことができなくなっても、自動的に押しバネ25がその押し力によって移動係止具6を固定係止具5側に前進させる方向に押して受歯20と係止歯21を噛み合わせ、更に、固定係止具5に噛み合わされた係止駒17の上面が保持具7の上横部7aを係止して昇降体3を支持して、昇降体3の落下を防止する(図3、図4参照)。
【0038】
(昇降体落下防止装置付き作業機器の使用例3)
図2〜図4に示す押しバネ25を備えない作業機器では、受歯20と係止歯21が噛み合って昇降体3が支持されているときに、前記緊急事態が発生すると、駆動装置8による移動係止具6の押し付けが解放されるため、場合によっては受歯20と係止歯21の噛み合いが外れて昇降体3の係止が外れ、昇降体3が不用意に落下する危険性があるが、図2〜図4に示す押しバネ25を備えた作業機器4では前記解放時に移動係止具6が押しバネの押し力で強制的に押されて受歯20と係止歯21の噛み合いが保持され、更に、固定係止具5に噛み合わされた係止駒17の上面が保持具7の上横部7aを係止するため昇降体3が不用意に落下することは無い。
【0039】
(昇降体落下防止装置付き作業機器の実施形態2)
本発明の落下防止装置は図5に示す作業機器(ポジショナー)に同図に示すように装備することもできる。図5に示す作業機器4は縦長の機器本体2にワーク支持用の昇降体3が昇降自在に設けられている。機器本体2は縦長箱状であり、平面略コ字状に形成された台座40の上に立設されており、その両側面に縦長の昇降ガイド41が上下方向に設けられている。図5に示す作業機器4は、機器本体2に横長台34、左右スライド体35、ロボット支持アーム36、前後スライド体37、ロボット38を備えず、また、回転盤32がリング状に形成され、回転盤32の下側からも溶接等の作業が可能としてあるものである。
【0040】
前記ワーク支持用の昇降体3は旋回盤30の先方にワーク支持アーム31が突設され、その先端にワーク搭載用の回転盤32が設けられており、旋回盤30が図示されていない昇降駆動機構により機器本体2の昇降ガイド41に沿って昇降するとワーク支持アーム31が昇降し、旋回盤30が旋回するとワーク支持アーム31が旋回し、ワーク搭載用の回転盤32が回転するとそれに搭載されたワークが回転してワークの高さ、向き、角度が変わるようにしてある。
【0041】
図5の昇降体落下防止装置付き作業機器は、図5の作業機器4の機器本体2の側面に前記落下防止装置の固定受具5を固定し、昇降体3の側面に前記昇降体落下防止装置の保持具7、係止駒17、駆動装置8、案内体10、スイッチ15を図3に示す位置関係で取付けて、図1の駆動装置8により保持具7及び係止駒17を固定係止具5側に前後移動させることが出来、それにより昇降体落下防止装置付き作業機器と同様に作動して、昇降体3の支持、支持解除ができるようにしてある。
【0042】
(昇降体落下防止装置付き作業機器の実施形態3)
前記昇降体落下防止装置付き作業機器の実施形態1、2では固定係止具5を機器本体2に、保持具7、係止駒17、駆動装置8、案内体10、スイッチ15を昇降体3に取付けてあるが、本発明の昇降体落下防止装置付き作業機器ではそれとは逆に、固定係止具5を昇降体3に、保持具7、係止駒17、駆動装置8、案内体10、スイッチ15を機器本体2に取り付けることもできる。
【0043】
(昇降体落下防止装置付き作業機器のその他の実施形態)
本発明の昇降体落下防止装置付き作業機器では、図1の作業機器4のように機器本体2に、ワーク搭載用の昇降体3が一つのみ備えられたものに限られず、機器本体2に、ワーク搭載用、ロボット支持アーム取り付け用等、二以上の昇降体3が夫々昇降可能に備えられている場合であっても、そのいずれにも落下防止装置を装備することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の昇降体落下防止装置付き作業機器は前記実施形態の作業機器に限らず、機器本体に昇降体を昇降可能に設けた作業機器であって、本発明の落下防止装置を装備可能なものであれば、どのような構造、機能、形態等の作業機器にも応用することもできる。
【符号の説明】
【0045】
1 落下防止装置
2 機器本体
3 昇降体
4 作業機器
5 固定係止具
6 移動係止具
7 保持具
8 駆動装置
9 支持体
10 案内体
14 クリアランス
15 スイッチ
16 スイッチ押し具
17 係止駒
20 受歯
21 係止歯
23 摺動金具
25 押しバネ
30 旋回盤
31 ワーク支持アーム
32 回転盤
34 横長台
35 左右スライド体
36 ロボット支持アーム
37 前後スライド体
38 ロボット
40 台座
41 昇降ガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器本体に、昇降体が昇降可能に装備された作業機器に取り付けて、昇降停止時の昇降体を支持して、昇降体の落下を防止する昇降体落下防止装置であり、
固定係止具と、係止駒を備えた移動係止具と、駆動装置を備え、
固定係止具は、縦方向に嵌合空間を設けて二以上の受歯が形成され、
係止駒は、縦方向に間隔をあけて二以上の係止歯が形成され、
駆動装置は、前記移動係止具を固定係止具に対して前進・後退させることができ、
前記固定係止具は機器本体と昇降体のいずれか一方に、移動係止具は他方に取付け可能であり、
前記係止駒は移動係止具に、昇降可能に設けられて、係止駒の係止歯が前記固定係止具の受歯と対向し、
前記受歯は、係止歯側に先鋭な鋸歯状であって、上面が水平状態であり、底面が先端側から根元側に下り傾斜であり、
前記係止歯は、受歯側に先鋭な鋸歯状であって、底面が水平状態であり、上面が前記受歯の傾斜とは逆に根元側から先端側に向けて下り斜面であり、
昇降体の昇降停止時に、前記移動係止具が前記駆動装置により固定係止具側に押されて、前記係止駒の係止歯が前記固定係止具の受歯の嵌合空間に進入して噛み合い、
前記噛み合い時に、前記昇降可能な係止駒の係止歯が受歯により強制的に押し下げられて、係止歯の下水平面が受歯の上水平面に押し付けられて噛み合って昇降体が支持されて昇降体の落下が防止され、
昇降体の昇降時には、移動係止具が固定係止具側から後退して、係止歯と受歯の前記噛み合いが解放されて昇降体が昇降可能となることを特徴とする昇降体落下防止装置。
【請求項2】
請求項1記載の昇降体落下防止装置において、
係止駒は移動係止具に、スプリングを介して昇降可能に設けられていることを特徴とする昇降体落下防止装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の昇降体落下防止装置において、
係止歯は受歯よりも小さなサイズであり、受歯の嵌合空間よりも狭い間隔で設けられて、受歯の一つの嵌合空間内に二以上の係止歯が嵌入可能であることを特徴とする昇降体落下防止装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の昇降体落下防止において、
固定係止具が機器本体の昇降体の昇降範囲よりも長く、その略全長に受歯が設けられ、昇降体の昇降停止時に、移動係止具の係止歯が前記受歯のいずれかに係止されるようにしたことを特徴とする昇降体落下防止装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の昇降体落下防止装置において、
移動係止具を固定係止具側に常時押す押しバネを備え、
前記押しバネは駆動装置により前記移動係止具を前進させて、前記係止歯と受歯を噛み合わせるときも、前記駆動装置により移動係止具を前進させることもできないときも、前記移動係止具を固定係止具に押して、前記移動係止具の係止駒の係止歯と受歯を互いに噛み合わせて、移動係止具を固定係止具に支持させることができる強さの押し力を備えて、前記移動係止具の係止歯を固定係止具の受歯側に押して両歯の噛み合いを確保できることを特徴とする昇降体落下防止装置。
【請求項6】
機器本体と、その上下方向に昇降可能に設けられた昇降体が設けられ、昇降体にワーク搭載台、ロボット支持アーム等の可動体が装備され、可動体は旋回、回転、昇降、前後移動、横移動等によって高さ、横位置、前後位置、向き、角度等を変えることができる作業機器において、
請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の昇降体落下防止装置の固定係止具が機器本体と昇降体のいずれか一方に、移動係止具及び駆動装置が他方に取付けられて、固定係止具の受歯と、移動係止具の係止駒の係止歯が対向され、
移動係止具は駆動装置により固定係止具に対して前進・後退可能であり、
昇降体の昇降停止時に、前記移動係止具が前記駆動装置により固定係止具側に押されて、前記係止駒の係止歯が前記固定係止具の受歯と噛み合い、
前記噛み合い時に、前記係止駒の係止歯が受歯により強制的に押し下げられて、係止歯の下水平面が受歯の上水平面に押し付けられて噛み合って昇降体が支持されて昇降体の落下が防止されることを特徴とする昇降体落下防止装置付き作業機器。
【請求項7】
請求項記載の昇降体落下防止装置付き作業機器において、
固定係止具が機器本体の昇降体の昇降範囲よりも長く、その略全長に受歯が設けられ、昇降体の昇降停止時に、移動係止具の係止歯が前記受歯のいずれかに係止されるようにしたことを特徴とする昇降体落下防止装置付き作業機器。
【請求項8】
請求項6又は請求項7記載の昇降体落下防止装置付き作業機器において、
移動係止具が取付けられた機器本体又は昇降体にスイッチを設け、
移動係止具にスイッチ押し具を設け、
移動係止具の後退時にスイッチ押し具によりスイッチがON或はOFFされると昇降体の昇降ロックされ、移動係止具が固定係止具側に前進してスイッチ押し具によりスイッチが前回とは逆にOFF或はON操作されると前記ロックが解除されて昇降体が昇降可能になるロック機構を備えたことを特徴とする昇降体落下防止装置付き作業機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−115986(P2012−115986A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−19979(P2012−19979)
【出願日】平成24年2月1日(2012.2.1)
【分割の表示】特願2006−180863(P2006−180863)の分割
【原出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(393025725)株式会社ラインワークス (5)
【Fターム(参考)】