説明

昇降機の災害時運転装置

【課題】昇降機の仮復旧状態が長時間継続し、その間に群管理されているエレベーターの1つに軽微な故障が検出された場合にも、群管理されている全てのエレベーターのサービスが停止してしまうことを回避できるようにした昇降機の災害時運転装置を得る。
【解決手段】昇降機112〜1n2が設置されるビル11〜1nから離れた遠隔地に設けられる監視センター3内に設置される監視装置の制御部33は、ビル内の各昇降機に接続された監視端末111〜1n1から昇降機の稼動状態に関する情報を収集し、収集した情報に基づいて昇降機の復旧状態が仮復旧状態でありかつ所定台数以上の号機を備えて群管理運転されている昇降機があると判定した場合、昇降機の稼動状態を検知する監視端末111〜1n1に群管理運転切り離し指令を発信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降機の災害時運転装置に係り、特に、地震等の災害発生時に、一定の条件を基に昇降機を継続運転させるように制御可能とした昇降機の地震時運転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
昇降機の災害時運転装置に関する従来技術として、地震が発生した場合に、エレベーターの利用客に対する人身の安全を確保したり、エレベーターに生じる重大な機能低下に伴う不測の事故を防止するため、地震感知器と連動して動作するエレベーターの地震時管制運転装置を備えた昇降機の災害時運転装置が、例えば、特許文献1等に記載されて知られている。この地震時管制運転装置は、比較的小さい第1のレベルを超える振動で動作する第1の地震感知器と、前記第1のレベルより大きい第2のレベルを超える振動で動作する第2の地震感知器とを備えて構成されている。
【0003】
前述の地震時管制運転装置は、地震発生時に地震感知器が動作した場合にエレベーターを最寄階に停止させ、地震の発生に伴うエレベーターの構成部品の損傷を防止すると共に、第1の地震感知器のみが動作した場合、特定時間、例えば、60秒経過後に第1の地震感知器の自動復旧を行い、平常運転状態に復帰させるというものである。また、前述の地震時管制運転装置は、第2の地震感知器が動作した場合、一定時間、例えば、5分経過後にエレベーターの動作確認運転を行い、異常がなかった場合にエレベーターの仮復旧を行い、保守員による本復旧が行われるまでの間に再度地震が発生した場合、または、故障が発生した場合、直ちにエレベーターの運転を休止するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−264910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した従来技術は、多数のエレベーターが納入されていて、群管理運転を行っているエレベーターシステムが存在する場合に、広範囲に亘る地震被害が発生し、仮復旧状態が長時間、例えば、3日間程度継続し、この仮復旧の期間中に1台のエレベーターに軽微な故障が発生すると、群管理運転を行っているエレベーターシステムの他の故障が発生していないエレベーターの運転も休止させてしまい、エレベーターの利用者にサービスを提供することができなくなってしまうという問題点を有している。
【0006】
本発明の目的は、前述した従来技術の問題点を解決し、昇降機の仮復旧状態が長時間継続し、その間に群管理されているエレベーターの1つに軽微な故障が検出された場合にも、群管理されている全てのエレベーターのサービスが停止してしまうことを回避することができるようにした昇降機の災害時運転装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば前記目的は、複数のビル内のそれぞれに設置される昇降機のそれぞれに接続され、前記昇降機の稼動状態を検知する監視端末と、前記ビルから離れた遠隔地に設けられる監視センター内に設置され、前記各監視端末と接続される監視装置とを備える昇降機の災害時運転装置において、前記監視装置は、災害発生を検出する災害検出装置と、前記災害検出装置により災害発生が検出されたときに、通信手段を介して前記監視端末から各昇降機の稼動状態に関する情報を収集し、収集した情報に基づいて前記各昇降機の復旧状態を判定する制御部とを備え、前記制御部は、災害が発生してから一定時間経過後に、前記監視端末から前記昇降機の前記稼動状態に関する情報を収集して、該情報に基づいて前記昇降機の復旧状態を判定すると共に、復旧状態が仮復旧状態であると判定された昇降機であって、かつ所定台数以上の号機を備えて群管理運転されている昇降機に接続される監視端末へ群管理運転切り離し指令を発信することにより達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、監視センターの監視装置から群管理運転されている昇降機に対して群管理運転切り離し指令を発信することにより昇降機の運転制御を単独運転制御に切り替えることができるので、仮復旧状態が継続中に軽微な故障検出による群管理されている昇降機の全てがサービスを停止してしまうことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態による昇降機の災害時運転装置を含むシステム構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す本発明の実施形態による昇降機の災害時運転装置の制御処理の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明による昇降機の災害時運転装置の実施形態を図面により詳細に説明する。
【0011】
図1は本発明の一実施形態による昇降機の災害時運転装置を含むシステム構成を示すブロック図、図2は図1に示す本発明の実施形態による昇降機の災害時運転装置の制御処理の動作を説明するフローチャートである。
【0012】
本発明の実施形態による昇降機の災害時運転装置を含むシステムは、図1に示すように、それぞれが図示しない地震感知器を備えた複数のビル11〜1nのそれぞれに設置され、地震感知器に接続された昇降機112、122、…、1n2と、これらの昇降機112、122、…、1n2に接続され各昇降機の稼動状態や故障を検知する監視端末111、121、…、1n1と、これらの監視端末111、121、…、1n1と公衆電話回線、インターネット、無線通信回線等による通信手段2を介して接続されるビル11、12、…、1nから地理的に離れた遠隔地に設けられる監視センター3内に設置される監視装置とにより構成される。そして、本発明の実施形態による昇降機の災害時運転装置は、複数のビル内のそれぞれに設置される昇降機に接続され、昇降機の稼動状態を検知する監視端末と、ビルから離れた遠隔地に設けられる監視センター内に設置され、監視端末と接続される監視装置とにより構成される。
【0013】
前述において、複数のビル11〜1nのそれぞれに設置された昇降機112、122、…、1n2の中には、複数の号機が群管理されている昇降機が含まれている。また、監視センター3内に設置される監視装置は、ビル11〜1n内の監視端末111、121、…、1n1と通信手段2を介して選択的に接続される端末通信装置31と、地震等の災害が発生した際に、緊急地震速報等の気象通知サービスの受信や監視端末111、121、…、1n1からの故障情報等の通報量の測定により災害発生を検出する災害検出装置32と、監視装置の各種装置を制御する制御部33と、出動拠点4や拠点支社5との通信制御を行う通信装置34と、昇降機の復旧状態の管理を行う昇降機稼動情報351及びビル11、12、…、1nを管轄する出動拠点、設置地域を記録した出動拠点情報352を記憶する記憶装置35とを備えて構成されている。
【0014】
出動拠点4には、監視センター3との通信を行うための通信装置41が設置され、管轄拠点内での災害発生を出動拠点4内に報知する表示装置42が設けられている。また、拠点支社5にも、出動拠点4の場合と同様に監視センター3との通信を行うための通信装置51が設置され、管轄支社内での災害発生を出動拠点5内に報知する表示装置52が設けられている。
【0015】
次に、図2に示すフローを参照して本発明の実施形態による昇降機の災害時運転装置の制御処理の動作を説明する。なお、本発明の実施形態による昇降機の災害時運転装置は、図1に示して説明したように、複数のビル内のそれぞれに設置される昇降機に接続され、昇降機の稼動状態を検知する監視端末と、ビルから離れた遠隔地に設けられる監視センター内に設置され、監視端末と接続される監視装置とにより構成されるものである。
【0016】
(1)監視センター3は、例えば、地震災害が発生すると、災害検出装置32がインターネット等の高速通信回線を介して予め契約を行っている気象通知サービス会社等から災害発生通知を受信する。併せて災害検出装置32は、複数のビル11、12、…、1nによるビル群を含む被災地域1に設置された各ビル内の監視端末111、121、…、1n1からの故障通知が予め設定された単位時間当りの規定件数を超過して通知されてきたか否かを判定し、規定件数を超過して通知があった場合、広域災害が発生したことを検出する。この災害検出装置32で検出された災害発生情報は、災害検出装置32が具備するスピーカーを介して監視センター3内に報知されると共に、制御部33へ即時に通知される。制御部33は、通知された災害発生情報に応じて、記憶装置35に格納されている出動拠点情報352を参照し、被災地域内の出動拠点4を特定する(ステップS1)。
【0017】
(2)出動拠点4が制御部33により特定されると、監視センター3の制御部33は、出動拠点4が担当している被災地域のビル群1の監視端末111、121、…、1n1に対し、端末通信装置31を制御することにより通信手段2を介して昇降機の稼働状態に関する情報を収集する(ステップS2)。
【0018】
(3)制御部33は、ステップS2の処理での昇降機の稼働状態に関する情報の収集の結果に基づいて、昇降機112、122、…、1n2が復旧状態にあるか否か、すなわち、昇降機が稼働中か否かを判定する(ステップS3)。
【0019】
(4)制御部33は、ステップS3の判定で、昇降機112、122、…、1n2の全てが稼働中であると判定した場合、さらに、これらの昇降機が本復旧状態か否かを判定し、全てが本復旧状態であった場合、昇降機稼働情報351として本復旧情報を記憶装置35に登録する。ここで、本復旧状態とは、技術者による点検及び復旧処置が完了して、昇降機が平常運転に復帰している状態である。これに対し、後述する仮復旧状態とは、災害管制運転により昇降機を一旦停止した後、昇降機を自動点検運転した上で、平常運転を再開し、あるいは、平常運転よりも機能を制限して運転を再開し、本復旧を待っている状態である(ステップS4、S5)。
【0020】
(5)制御部33は、ステップS3の判定で、昇降機112、122、…、1n2の少なくとも1つが稼働中でなかった場合、すなわち、これらの少なくとも1つの昇降機が停止状態であると判定した場合、停止状態にある昇降機の昇降機稼働情報351として停止情報を記憶装置35に登録する(ステップS15)。
【0021】
(6)制御部33は、ステップS4の判定で、昇降機112、122、…、1n2の少なくとも1つが本復旧状態ではないと判定した場合、すなわち、これらの少なくとも1つの昇降機が本復旧状態ではなく、仮復旧状態であった場合、仮復旧状態にある昇降機の昇降機稼働情報351として仮復旧情報を記憶装置35に登録する(ステップS14)。
【0022】
(7)制御部33は、ステップS5、S14、または、S15の処理を終了した後、監視センター3の通信装置34を制御して、記憶装置35に登録された昇降機稼働情報351を出動拠点4及び拠点支社5の表示装置42、52へ提供し、その後、災害発生より一定期間、例えば、3日程度が経過するまで待つ。その間に、出動拠点4から保守員が出動し、停止中及び仮復旧中の昇降機の復旧が順次行われる(ステップS6、S7)。
【0023】
(8)一定期間経過後、監視センター3の制御部33は、復旧対応漏れを確認するため、端末通信装置31を制御することにより通信手段2を介して、仮復旧状態にある昇降機を含む被災地域内のビル群1における昇降機112、122、…、1n2の稼働状態に関する情報を再度収集する(ステップS8)。
【0024】
(9)制御部33は、ステップS8の処理で再収集した昇降機112、122、…、1n2の稼働状態に関する情報に基づいて、前述で説明したステップS3、S4、S5、S14、S15での処理と同様に、被災地域内のビル群1における昇降機112、122、…、1n2の復旧状態を判定及び登録する。すなわち、制御部33は、昇降機の稼動状態に関する情報を再度収集した結果、昇降機112、122、…、1n2が全て稼働している場合、本復旧状態かを判定し、全ての昇降機が本復旧状態にあった場合、昇降機稼働情報351として本復旧情報を記憶装置35に登録し、また、昇降機の少なくとも1つが停止状態であった場合、または、仮復旧状態であった場合、停止状態、あるいは、仮復旧状態にある昇降機の昇降機稼働情報351として停止情報を登録するか、あるいは、仮復旧情報を登録する(ステップS9〜S11、S16、S17)。
【0025】
(10)その後、制御部33は、出動拠点4及び拠点支社5へ対応フォローを行い、昇降機稼働情報351として記憶装置35に登録されている仮復旧情報を参照し、多数の号機が群管理されている多大数納入現場の昇降機が仮復旧状態であるならば、この仮復旧情報に対応する昇降機の監視端末へ、端末通信装置31を制御して、通信手段2を介して群管理運転切離し指令を送信する。該当する監視端末が、群管理運転切離し指令を受信すると、対応する昇降機は、一時的に群管理制御から単独制御へ切り替えられることとなる。これにより、仮復旧中に、ある号機が故障したときに、群管理されている全号機が同時に停止してしまうようなことを防止することができる。なお、ここで多大数は、監視装置において、ある所定値以上の号機台数に設定されている(ステップS12)。
【0026】
(11)監視センター3は、被災地域のビル群1における全ての昇降機112、122、…、1n2が本復旧状態になったか否かを監視し、停止中及び仮復旧中の昇降機があるか否かを判定し、停止中及び仮復旧中の昇降機がある場合、ステップS6からの処理に戻って、継続して出動拠点4及び拠点支社5へ情報提供を行い、全ての昇降機112、122、…、1n2が本復旧状態となった場合に災害対応を終了する(ステップS13)。
【0027】
本発明の実施形態は、前述したような処理を行うことにより、災害発生に伴う昇降機112、122、…、1n2の復旧対応漏れを防止することができると共に、多大数納入により群管理制御されているエレベーターシステムの現場における運行サービスを停止することなく継続して提供することが可能となる。
【0028】
前述した本発明の実施形態において、災害とは、例えば、地震や火災等であり、また、昇降機としては、エレベーターやエスカレータ等がある。特に、災害が地震であり、かつ、昇降機がエレベーターである場合、本発明は、エレベーターに、第1のレベルを超える振動で動作する第1の地震感知器と、前記第1のレベルより大きい第2のレベルを超える振動で動作する第2の地震感知器とで構成される地震感知器を適用することができる。そして、地震発生時に地震感知器が動作した場合、エレベーターを最寄階に停止させる地震管制運転を実行することにより、地震の発生に伴うエレベーターの構成部品の損傷を防止することができる。
【0029】
前述において、第1の地震感知器のみが動作した場合、特定時間、例えば、60秒経過後に第1の地震感知器の自動復旧を行い、平常運転状態に復帰させる。さらに、第2の地震感知器が動作した場合、一定時間、例えば、5分経過後に自動点検運転によりエレベーターの動作確認運転を行い、異常がなかった場合にエレベーターの仮復旧を行い、技術者よる本復旧を待つ。このような本発明の実施形態によれば、エレベーターの仮復旧中に、複数台の号機を備える群管理エレベーターの一部の号機が故障しても全号機が同時に停止するようなことを防止することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 被災地域のビル群
11、12、…、1n ビル
111、121、…、1n1 監視端末
112、122、…、1n2 昇降機
2 通信手段
3 監視センター
31 端末通信装置
32 災害検出装置
33 制御部
34 通信装置
35 記憶装置
351 昇降機稼働情報
352 出動拠点情報
4 出動拠点
41 通信装置
42 表示装置
5 拠点支社
51 通信装置
52 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のビル内のそれぞれに設置される昇降機のそれぞれに接続され、前記昇降機の稼動状態を検知する監視端末と、前記ビルから離れた遠隔地に設けられる監視センター内に設置され、前記各監視端末と接続される監視装置とを備える昇降機の災害時運転装置において、
前記監視装置は、災害発生を検出する災害検出装置と、前記災害検出装置により災害発生が検出されたときに、通信手段を介して前記監視端末から各昇降機の稼動状態に関する情報を収集し、収集した情報に基づいて前記各昇降機の復旧状態を判定する制御部とを備え、前記制御部は、災害が発生してから一定時間経過後に、前記監視端末から前記昇降機の前記稼動状態に関する情報を収集して、該情報に基づいて前記昇降機の復旧状態を判定すると共に、復旧状態が仮復旧状態であると判定された昇降機であって、かつ所定台数以上の号機を備えて群管理運転されている昇降機に接続される監視端末へ群管理運転切り離し指令を発信することを特徴とする昇降機の災害時運転装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−26106(P2011−26106A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176612(P2009−176612)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】