説明

昇降補助具

【課題】既存の階段昇降用運搬車に対する簡単な改造で取付けることが可能であり、かつ昇降運搬作業及び踊り場での転回作業を容易にし、作業時間の短縮を図ることが可能な昇降補助具を提供することを課題とする。
【解決手段】昇降補助具1は、物品3の底面部3aの少なくとも一部と接し、物品3を下方から支持するフォーク4を有し、階段の傾斜に沿って物品3を昇降可能な階段昇降用運搬車2に取付けられる昇降用補助具1であって、フォーク4に着脱自在に装着され、物品3の底面部3aと相対する面積を拡張させる本体上面8aを有する板状の補助具本体8と、フォーク4及び補助具本体8の装着状態を固定する装着固定手段と、補助具本体8の本体下面8bに設けられ、物品3を支持した階段昇降用運搬車2の移動をアシストするキャスター7とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降補助具に関するものであり、特に、自動販売機、冷蔵庫及び洗濯機等の大型家電製品、コピー機を含む事務用機器等の重量物の物品を、階段の傾斜に沿って昇降させる階段昇降用運搬車(以下、単に「運搬車」と称す)に装着可能に形成され、昇降作業及び物品の搬入設置に係る作業を補助することが可能な昇降補助具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動販売機等の各種重量物の物品を、室内又は室外の所定の設置場所まで運搬し、設置作業を行うことが行われている。ここで、物品を設置する場所は、建物内の1階に限られるものではなく、2階以上の階上若しくは地下等に設定されることもある。このような場合、1台で数10kgから数100kg程度の重量の物品を階上または階下へ運搬する作業は非常に困難なものであった。特に、建物内にエレベータの設置されていない場合、運搬する重量物の物品に対し、エレベータのサイズが小さい場合、一定重量以上の物品のエレベータ使用を建物の管理者側が認めていない場合等の種々のケースによって、エレベータ使用が制限されることがある。
【0003】
この場合、人力を用いた運搬作業には限界があり、さらに作業者の安全性を十分に確保できないため、運搬車(階段昇降用運搬車)と呼ばれる運搬装置を用い、駆動モータ及び電磁ブレーキの作用を利用し、少ない作業人数であっても安全かつ安定して物品の昇降運搬を行っている。ここで、運搬車は、階段の傾斜に沿って物品を上下方向に自在に昇降させるものであり、階段の二つ以上の段差角に跨るようにして接する一対のクローラ部及び該クローラ部を稼働させ、かつ電磁ブレーキによって階段からの落下を制御するクローラ機構部等の構成を主に有している。
【0004】
さらに具体的に説明すると、階段昇降用運搬車100は、その一般的な構成として、略矩形状に形成された金属製のメインフレーム101と、メインフレーム101のフレーム裏側にフレーム下端部を軸として所定範囲で回動可能に設けられ、二段以上の階段の段差に跨るような長さで形成された一対のクローラ車輪を有するクローラ部102と、メインフレーム101のフレーム下端部からフレーム方向に直交するように突設され、メインフレームに対して上下方向に摺動可能な板状のフォーク103と、メインフレーム101のフレーム下端部に設けられた尾輪104及び運搬車100を傾倒状態で支持するために回動支持フレームの先端に設けられた運搬車輪を有する車輪部と、クローラ部102を駆動するための駆動モータ等を有する駆動部と、当該駆動部と電気的に接続され、駆動モータによる駆動力の発生及び電磁ブレーキの発生を制御し、運搬車による昇降動作を制御するクローラ制御部と、メインフレームの上部のハンドル部に取付けられ、作業者によって昇降動作を操作するための操作部とを主に具備して構成されている(例えば、特許文献1参照及び図6参照)。
【0005】
上記構成の運搬車を利用することにより、クローラ車輪を階段の傾斜に沿って斜め上下方向に昇降させることが可能となる。これにより、少ない作業人数でかつ、十分な安全性を確保した状態で物品の昇降運搬作業を行うことが可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した運搬車を用いた昇降運搬作業は、下記に掲げる点において問題を生じることがあった。すなわち、自動販売機等の物品の昇降運搬作業を行う場合、建築物の主階段を使用するのではなく、一般的には室外等に設けられた非常階段を利用することが多かった。この非常階段は、火災発生時等に主に使用するものであり、日常的に使用するものではなかった。そのため、非常階段に必要以上の十分なスペースを確保することがすくなく、さらに階段の傾斜も通常の階段よりもきつい場合があった。加えて、階段を昇り切った最上段のスペース、所謂「踊り場」も狭い場合があり、周囲を壁や手すり等で囲まれていることがあった。
【0007】
そのため、上記運搬車を用いて自動販売機等の昇降運搬作業を行った場合、階段の最上段に到達した運搬車及び物品は、狭い踊り場のスペースによって運搬作業が規制されることがあった。すなわち、運搬車の一部または自動販売機等が踊り場付近の壁や手すり等と接触することがあった。さらに、階段に沿って傾斜させた傾倒状態から運搬車を直立させる直立状態に引き起こして変位させる作業を行う場合、踊り場のスペースが狭いと係る作業が容易でないことがあった。
【0008】
具体的に説明すると、傾倒状態から直立状態に引き起こす場合、直立した状態で自動販売機等の物品の一方の側面端側の位置(運搬車のメインフレームに接していない側)が、階段の最上段の角部よりも内側(踊り場側)に位置する必要があった。そのため、引き起こしの作業の前に、最上段の角部よりも運搬車を内側に十分に引き寄せておく必要があった。係る作業が十分でないと、自動販売機等の重心位置が最上段の角部よりも外側(階段方向)に位置することとなり、直立した状態から逆方向(階段方向)をさらに傾倒し、物品が階段を落下する等の作業事故につながるおそれがあった。
【0009】
しかしながら、階段の傾斜に沿って運搬車及び物品を昇降させた場合、傾倒状態での横幅方向よりも踊り場のスペースが狭いことがあり、係る状態では傾倒状態から少しずつ運搬車を引き起こし、さらに側面端側の位置が最上段の角部よりも内側にくるように運搬車を移動させる作業を複数回に亘って繰り返し行う必要があった。
【0010】
加えて、踊り場で運搬車及び物品を直立状態とすることができた場合でも、運搬車の向きを変化させる動作(転回動作)が容易に行えないことがあった。すなわち、1階から3階に物品を搬送するような複数回に亘る昇降運搬作業が必要なケースでは、2階の踊り場で運搬車の向きを180°転回させる必要があり、上述の狭い踊り場のスペースでは、係る作業が十分にできないことがあった。これにより、昇降運搬作業を行う作業者に過大な負担を強いることになり、作業時間も大幅に増加する可能性が高かった。さらに、長時間の労働による集中力の低下によって、作業の安全性が十分に保たれないこともあった。
【0011】
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、既存の階段昇降用運搬車に対して簡単な改造を施すことにより、容易に装着可能であって、昇降運搬作業及び踊り場で転回作業を容易にし、作業時間の短縮を図ることが可能な昇降補助具の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明の昇降補助具は、「物品の底面部の少なくとも一部と接し、前記物品を下方から支持するフォークを有し、階段の傾斜に沿って前記物品を昇降可能な階段昇降用運搬車に取付けられる昇降用補助具であって、前記フォークに着脱自在に装着され、前記物品の前記底面部と相対する面積を拡張させた本体上面を有する板状の補助具本体と、前記フォーク及び前記補助具本体の装着状態を固定する装着固定手段と、前記補助具本体の本体下面に設けられ、前記物品を支持した前記階段昇降用運搬車の移動をアシストするキャスターと」を具備するものから主に構成されている。
【0013】
階段昇降用運搬車(運搬車)の具体例については、既に説明を行っているため、ここでは説明を省略する。また、フォークによって下方から支持され、運搬される物品は、重量物であって、比較的大型のものを想定することができ、自動販売機、大型家電製品、コピー機、及び大型家具等のものが例示される。そのため、係る運搬車は、自動販売機の設置業者、家電製品の搬送業者、事務用機器メーカー、家具業者、及び引っ越し業者等によって使用される業務用のものが想定されている。
【0014】
さらに、運搬車のフォークは、物品の底面部と接し、下方から持ち上げるようにして支持し、運搬車を傾倒した状態でメインフレームとともに、物品を支持するものであり、メインフレームのフレーム下端部から直交するように突設された金属製の板状部材として構成されている。ここで、運搬車は、階段を昇降する際には、メインフレームに設けられたクローラ車輪部が階段の段差に当接しながら移動するものであり、積載支持した物品の荷重はメインフレームのフレーム側面及びフォークのフォーク上面で支持している。そのため、係るフォークは、物品の底面部の一部と接し、落下を保持可能な機能を有すればよく、一般に物品の底面部全体と当接するフォーク面のサイズは必要がなく、底面部より狭いサイズのフォーク面を有するフォークが採用されている。特に、運搬車で運搬する自動販売機や冷蔵庫等の物品の多くには、物品の底面部のそれぞれの四隅に高さ位置を微調整するための小型の脚部が設けられていることが多い。そのため、フォークによって物品を下方から支持するためには、それぞれの脚部の間にフォークを挿込む必要があり、必然的にフォーク自体のサイズは物品の底面部よりも小さく設定されている。
【0015】
一方、装着固定手段とは、既存の運搬車のフォークと本発明の昇降補助具の補助具本体とを連結し、装着状態を固定するためのものであり、例えば、複数のボルト、ボルト孔、及びボルトねじ孔等を組合わせたものとして構成することができる。この場合、既存の運搬車のフォーク部分には、ボルトねじ孔等を形成する改造作業が必要となる。なお、装着固定手段は、その他の周知の固定具等を用いるものであっても構わない。しかしながら、運搬作業の現場で容易に着脱を可能とし、また特殊な治具等を必要とすることがないから、上記ボルト等の構成を採用するものが好適と思われる。
【0016】
また、補助具本体とは、フォークによって支持される物品の底面部と相対するフォーク面の面積をさらに拡張するものであり、フォークと装着され、固定されることにより、補助具本体の本体上面と相対する物品の底面部との当接面積を増加させることができる。さらに、キャスターは、物品を積載した運搬車を直立状態で移動させる際に、狭い場所での転回性能をアップさせることが可能となる。
【0017】
したがって、本発明の昇降補助具によれば、既存の運搬車のフォークに簡易な改造を施し、さらに運搬する物品と相対する面積を拡張するための板状の補助具本体を装着することにより、狭い踊り場等であっても運搬車を傾倒状態から直立状態に戻す作業が容易に行えるようになる。すなわち、フォークで物品を支持した運搬車を傾倒状態から直立状態にする場合、少なくとも補助具本体の先端が最上段よりも内側(踊り場)の位置を越えていれば、上記直立状態への復帰作業が可能となる。その結果、従来のように傾倒状態で踊り場の深い位置まで移動させる必要がなくなり、階段に相対する位置にある壁等と運搬車の一部が接触することがない。そのため、傾倒状態から直立状態に復帰させる動作を速やかに行うことが可能となる。さらに、本発明の昇降補助具を利用することにより、自動販売機の重心が内側に位置することになる。その結果、直立状態にした場合、最上段の階段の段差よりも内側に位置する重心によって、自動販売機等の物品及び階段昇降用運搬車が、さらに外側(階段方向)に傾いて落下する危険性を回避することが可能となっている。さらに、キャスターによって運搬車を直立状態とした場合、狭い踊り場等で転回操作が楽になる。
【0018】
さらに、本発明の昇降補助具は、上記構成に加え、「前記補助具本体は、前記フォークによって前記物品を支持し、前記階段昇降用運搬車を直立位置から傾倒位置に変化させた状態で、前記フォークに前記装着固定手段を利用して装着される」ものであっても構わない。
【0019】
したがって、本発明の昇降補助具によれば、当該補助具のフォークに対する着脱は、物品をフォークに積載支持し、階段の傾斜等に沿って傾倒させた状態で取付けられる。ここで、自動販売機等の物品には、前述したように四隅に脚部が設けられることが一般的であり、さらに物品の底面部と床面との間は非常に狭い場合がある。そのため、予め補助具本体をフォークに取付けた状態では、上述の脚部や底面部と床面との狭い隙間によってフォークの上に物品を積載できないことが多い。そこで、補助具本体の取付けを運搬車に積載して傾倒させた状態、換言すれば、階段の昇降の直前に取付けることにより、上記不具合を解消することができる。なお、フォークから昇降補助具を取り外す場合にも同様に傾倒状態で行う必要がある。
【0020】
さらに、本発明の昇降補助具は、上記構成に加え、「前記補助具本体は、T字形状を呈して構成され、前記フォークにT字下部が装着される」ものであっても構わない。
【0021】
したがって、本発明の昇降補助具によれば、T字形状の補助具本体のT字下部がフォークと装着される。これにより、物品の脚部等に装着が規制されることがなく、かつT字形状とすることにより、物品の底面部に対して広範囲で相対する拡張面を拡張することができる。なお、一対のT字側端部はそれぞれ物品の幅側面からはみ出すように形成するものであっても構わない。
【0022】
さらに、本発明の昇降補助具は、上記構成に加え、「前記物品は、自動販売機である」ものでも構わない。
【0023】
したがって、本発明の昇降補助具によれば、昇降運搬の対象となる物品として自動販売機が想定される。これにより、自動販売機の設置業者は、自動販売機の設置作業が特に容易となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の効果として、昇降運搬の対象となる物品の相対する面積を補助具本体によって拡張することができ、階段最上段での直立状態への引起作業を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態の昇降補助具の構成を示す平面図である。
【図2】昇降補助具の構成を示す正面図である。
【図3】昇降補助具を装着する運搬車のフォークの構成を示す説明図である。
【図4】運搬車への昇降補助具の(a)装着前、及び(b)装着後の構成を模式的に示す説明図である。
【図5】昇降補助具を装着した運搬車による昇降運搬を模式的に示す(a)階段運搬時、(b)踊り場傾倒状態、及び(c)踊り場直立状態の説明図である。
【図6】従来の運搬車を利用した昇降運搬の一例を示す(a)踊り場傾倒状態、及び(b)踊り場直立状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態である昇降補助具1について、図1乃至図5に基づいて説明する。図1は本実施形態の昇降補助具1の構成を示す平面図であり、図2は昇降補助具1の構成を示す正面図であり、図3は昇降補助具1を装着する運搬車2のフォーク4の構成を示す説明図であり、図4は運搬車2への昇降補助具1の(a)装着前、及び(b)装着後の構成を模式的に示す説明図であり、図5は昇降補助具1を装着した運搬車2による昇降運搬を模式的に示す(a)階段運搬時、(b)踊り場傾倒状態、及び(c)踊り場直立状態の説明図である。なお、本実施形態の昇降補助具1は、略直方体形状の自動販売機3(物品に相当)を階段Kを用いて階下から階上に運搬する運搬車2に装着する場合について例示をする。
【0027】
本実施形態の昇降補助具1は、図1乃至図5に示すように、階段の傾斜に沿って数100kgの重量を有する自動販売機3を階段Kの昇降運搬することが可能な運搬車2に装着されるものであって、当該運搬車2のフォーク4に着脱自在に取付けられ、自動販売機3の底面部3aと相対する面を拡張する機能を有するものである。ここで、運搬車2は、既存の運搬車に対し、一部改造を施したものを使用している。
【0028】
具体的に説明すると、運搬車2の主骨格をなす矩形状の金属製のメインフレーム5のフレーム方向に対して直交して設けられ、メインフレーム5に沿って所定範囲で上下に修道可能な金属製の薄板状部材からなるフォーク4には、予め複数箇所(本実施形態では4カ所)に内側に雌ねじ(図示しない)の形成されたボルトねじ孔6を穿設した改造が行われている。これにより、後述するボルト10等を利用して、フォーク4に本実施形態の昇降補助具1を装着することが可能となる。ここで、フォーク4のボルトねじ孔6、及びボルト10等の構成が本発明の装着固定手段の一部構成に相当する。
【0029】
補助具本体8は、運搬車2が直立状態のときには、フォーク4とともに自動販売機3の底面部3aに相対し、自動販売機3の荷重を下方から支持している。一方、階段Kの傾斜の沿って昇降させる場合には、重力によって落下しようとする自動販売機3をメインフレーム5のフレーム側面5aと一緒に支持している。そのため、自動販売機3の荷重によって変形しない程度の十分な強度を有する素材で構築される必要があり、本実施形態では金属製の板状部材を用いて構築されている。さらに、補助具本体8に設置されたキャスター7は、同様に直立状態の際に接地面(床面)と補助具本体8との間で、自動販売機3の荷重を支える必要があり、予め設計された耐荷重性を有するものが選択されている。このとき、フォーク4に昇降補助具1を装着すると、運搬車2のフォーク4のフォーク端部4bよりも、補助具本体8の本体端部8bが、メインフレーム5のフレーム側面5aよりもさらに離間した位置に設定されている。その結果、補助具本体8を利用することにより、自動販売機3の底面部3aと相対する面をフォーク4と比べて拡張することができる。
【0030】
さらに、本実施形態の昇降補助具1の補助具本体8は、全体として、略T字形状を呈するように構成されている(図1参照)。そして、フォーク4とは、T字形状の下部に相当するT字下部12とが当接し、T字下部12の上にはT字下部12の長手方向に直交するT字上部13が設けられている。ここで、T字上部13のそれぞれの上部端部13a,13bは、装着及び積載時に自動販売機3の側面3bからはみ出すように、換言すれば、自動販売機3の幅方向よりもT字上部13の長さが長くなるように形成されている。このとき、自動販売機3の底面部3aのそれぞれの四隅には、高さ調整用の脚部14が設けれている。そのため、上述したように、補助具本体8の構成を略T字形状とすることにより、T字下部12及びT字上部13がそれぞれの脚部14の間に挿入された状態でフォーク4に装着されることになる。すなわち、脚部14の存在によって装着状態が制限されることがない。
【0031】
さらに、補助具本体8に設けられたキャスター7は、ボルト10によってフォーク4と締結されるボルト孔9の近傍及び補助具本体8の本体端部8bの近傍に合計で6つが配されている。係るキャスター7は、運搬車2を直立状態とした時に、床面と設置し、運搬車2の尾輪15ともに、直立状態での移動を容易にするとともに、直立状態での転回を行うことを可能としている。ここで、本実施形態では、補助具本体8に6つのキャスター7を取設したものを示したが、フォーク4及び補助具本体8に積載して昇降運搬を支持する自動販売機3やその他の物品の重量に応じてキャスター7の個数や耐荷重性能を変更したものを採用するものであっても構わない。また、補助具本体8には、フォーク4への装着時に作業を容易にするための楕円空孔状の把持部16が本体端部8bの近傍に左右二カ所に設けられている。
【0032】
次に、本実施形態の昇降補助具1を運搬車2に装着し、自動販売機3を階段Kで昇降運搬を行う一例について、主に図4及び図5に基づいて説明を行うものとする。はじめに、昇降対象となる直方体形状の自動販売機3は、底面部3aの四隅に設けられた脚部14によって直立した状態にある。そのため、自動販売機3の底面部3aと床面18との間には、運搬車2のフォーク4の板厚さよりも大きな脚部14の高さに相当する隙間が生じている。さらに、フォーク4の横幅は、自動販売機3の幅側に相当する互いに隣接する一対の脚部14の間の距離よりも狭く設定されている。そのため、自動販売機3に直立状態の運搬車2を近接させ、脚部14の間の空間にフォーク4の先端のフォーク端部4bを挿入する作業を容易に行うことができる。
【0033】
そして、フォーク4を挿込んだ状態でメインフレーム5に対してフォーク4を上方向に摺動させる。これにより、フォーク4のフォーク面4aが自動販売機3の底面部3aと当接し、さらにフォーク4の上昇によって自動販売機3が持ち上げられる。その結果、脚部14が床面から離れた状態となる。その後、運搬車2を直立状態から傾倒状態に変位させる。このとき、係る変位はメインフレーム5のフレーム下端部5bに設けられた尾輪15を回動軸とし、クローラ部19が設けられた側に向かって傾ける。ここで、メインフレーム5に回動自在に軸支された支持フレーム(図示しない)の先端に取付けられた運搬車輪(図示しない)によって傾倒状態を所定の角度に保持するものであってもかまわない。なお、運搬車2及び自動販売機3を昇降運搬させる階段Kに近接させ、階段Kの傾斜にそって運搬車2を傾倒状態にするものであっても構わない。この場合、メインフレーム5に設けられたクローラ部19が階段Kの二つ以上の段差17に跨って当接することになる。このとき、昇降運搬時の自動販売機3の積載状態を安定させるため、運搬車2のメインフレーム5と自動販売機3とを固定用バンド(図示しない)を用いて強固に締結する作業を行ってもよい。これにより、昇降時の振動によってメインフレーム5及びフォーク4に支持された自動販売機3が運搬車2(フォーク4)の幅方向に微動することを防ぎ、昇降時のバランスを安定した状態に維持することができる。なお、上記操作は通常の運搬車を利用した昇降運搬と同様のものであり、詳細な説明は省略する。
【0034】
運搬車2によって自動販売機3を傾倒させた状態(図4(a)参照)では、自動販売機3の底面部3a及び運搬車2のフォーク4の下側のフォーク面4aが露出している。そのため、作業者は、当該フォーク面4aに昇降補助具1の補助具本体8のT字下部12の本体上面8aを当接させ、フォーク4のボルトねじ孔6と補助具本体8のボルト孔9との位置を合致させる。そして、補助具本体8の下方からボルトネジ孔6及びボルト孔9にボルト10を挿込み、ボルトねじ孔6の雌ねじとボルト10の雄ねじを螺合させて締結する。これにより、フォーク4に補助具本体8が装着され、自動販売機3の底面部3aに相対する面を拡張することができる(図4(b)参照)。このとき、前述したように、T字形状の補助具本体8のT字下部12及びT字上部13はそれぞれ脚部14と干渉することがない。
【0035】
次に、上記態様で昇降補助具1を装着した運搬車2を用い、階段Kの傾斜に沿って自動販売機3を上昇させる(図5(a)参照)。係る動作及び運搬車2による昇降機構は、既存の運搬車と同一であるため詳細な説明については省略する。そして、最終的に運搬車2は、階段Kの最上段の段差17(踊り場と同じ高さ)に到達する(図5(b)参照)。このとき、運搬車2の階段Kの傾斜に沿った状態で尾輪15が最上段の段差17を乗り越えることにより、上方向への移動が完了する。この状態では、運搬車2は傾倒状態のままにある。
【0036】
そして、階段Kに相対する踊り場の壁21にメインフレーム5のフレーム上端部5cが接触するぐらいまで傾倒状態で移動させる。その後、運搬車2を直立状態に復帰させる。ここで、従来の運搬車100の場合、直立状態に復帰させるためには、自動販売機3の側面が階段Kの最上段の段差17よりも少なくとも内側(図6等における紙面左方向に相当)に位置する必要があるとともに、自動販売機3の荷重中心(重心)自体が直立状態の際に段差17よりも内側に位置している必要があった。すなわち、自動販売機3の側面22及び重心が段差17の外側にある場合(図6(a)参照)、直立状態としても自動販売機3の外側の脚部14が踊り場の床面18に設置することなく、浮いた状態となり(図6(b)参照)。その結果、運搬車100及び自動販売機3の重心が直立状態であっても段差17よりも外側に位置し、自動販売機3が階下側に向かって落下する危険性が非常に高くなった。そのため、踊り場に十分なスペースがない場合、傾倒状態から直立状態に復帰させる動作を行うことが困難となり、運搬車100の傾倒角度を変化させる動作及び運搬車100を踊り場で移動させる動作を複数回繰り返し、徐々に傾倒角度を変化させ、上記重心位置を段差17よりも内側に位置させる必要があった。そのため、傾倒状態から直立状態にするまでに多くの時間及び労力が必要となった。さらに、作業に伴う危険性も多く存在し、作業者の安全確保を十分に行う必要があった。
【0037】
これに対し、本実施形態の昇降補助具1を用いた場合、図5(b)に示すように、踊り場のスペースがそれほど十分でない場合であっても、昇降補助具1の本体端部8b近傍側のキャスター7が階段Kの段差17よりも内側(紙面左方向に相当)に位置するに傾倒状態から直立状態へと変化させることができる(図5(c)参照)。すなわち、本実施形態の昇降補助具1を用いることにより、自動販売機3の重心位置を段差17よりも内側に変位させることが可能となり、上記のような角度変化及び移動に係る動作を複数回に亘って行う必要が生じなくなる。さらに、直立状態とすることにより、自動販売機3が階下側に向かって傾き危険性は生じず、上述のような作業時における不安を解消することができる。これにより、従来と比べて、直立状態にするための作業時間を著しく短縮し、作業効率を大幅に向上させることができる。さらに、直立状態にした後に自動販売機3が階下側に傾くおそれがないため、作業員の安全性を容易に確保することが可能となる。
【0038】
さらに詳細に説明すると、本実施形態の昇降補助具1によって、自動販売機3の底面部3aを下方から支持するフォーク4に装着された補助具本体8がフォーク4の面積を拡張するように設けられている。さらに、補助具本体8に取設された複数のキャスター7によって直立状態に復帰した運搬車2及び昇降補助具1の踊り場での接地位置を、補助具本体8の本体端部8bの内側位置まで変化させることができる。そのため、壁21や階段Kの手すり等に当接し、直立状態にする際の制限が小さくなる。
【0039】
その結果、運搬車2及び自動販売機3の重心が、当該段差17よりも内側(紙面左側に相当)に存在することとなり、運搬車2が自動販売機3とともに階下方向に傾く危険性、または階段Kを落下するような事故の発生を抑えることができる。そして、階段Kの段差17から自動販売機3の一部を突出して直立状態となった運搬車2を、壁21に近づくように移動させることにより、階段Kの昇降運搬作業が完了する。このとき、昇降補助具1に設けられた複数のキャスター7によって上記移動が容易に行える。これにより、自由に自動販売機3を設置場所まで自由に移動させることができる。
【0040】
さらに、昇降補助具1の複数のキャスター7によって、直立状態にある運搬車2のその場での転回作業を容易に行える。これにより、踊り場で移動方向を180°変化する場合、従来の運搬車100のように複数回の切り返しを行う必要がない。例えば、1階から3階まで自動販売機3を運搬する作業を行う場合、狭い踊り場での転回を容易にすることは作業時間の大幅短縮を図ることができる。
【0041】
なお、本実施形態の昇降補助具1を装着した運搬車2を利用し、所定の設置場所まで自動販売機3を移動させた後は、運搬車2を直立状態から傾倒状態に再び変化させ、昇降補助具1を露出させるとともに、装着状態を固定している4カ所のボルト10による締結を解除し、フォーク4から昇降補助具1を取外す。その後、運搬車2を再び直立状態とし、フォーク4をメインフレーム5に沿って下方に移動させることにより、自動販売機3の積載支持が解除される。
【0042】
以上、説明したように、本実施形態の昇降補助具1は、既存の運搬車2のフォーク4に簡易な改造を施することにより、当該運搬車2に着脱自在に装着され、階段Kの踊り場等の狭いスペースでの物品の昇降運搬作業を容易に行うことができる。特に、本実施形態の昇降補助具1によって物品(自動販売機3)の重心を段差17の内側に変位させることが可能となり、狭い踊り場での階段の傾斜に沿った傾倒状態から直立状態へ変化させる作業の作業時間を従来と比べて大幅に短縮することができる。さらに、直立状態から階下へ向かって逆方向に傾くおそれがなくなり、物品の落下の危険性を少なくし、かつ作業者の作業環境の安全性を確保することが可能となる。なお、上記説明は自動販売機3を階下から階上に運搬するものを示したが、物品を階上から階下へ降ろす作業を行うことも当然可能である。この場合、各作業は階下から階上に運搬する場合の基本的には逆の動作を行えば足りるため、ここでは説明を省略するものとする。
【0043】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0044】
すなわち、本実施形態の昇降補助具1において、装着固定手段の一形態としてボルト10及びボルト孔9等の構成を備え、ボルト10及びボルトねじ孔6の螺合力を利用して装着するものを示したが、これに限定されるものではなく、その他周知の固定手段または締結手段を利用するものであっても構わない。しかしながら、自動販売機3等の重量物の物品を長時間傾倒させた状態で取付けるため、装着作業は短時間で確実な装着が可能なものが望まれる。そのため、本実施形態で示したボルト10等を用いるものが特に好適と考えられる。
【0045】
さらに、本実施形態の昇降補助具1において、重量物の物品として自動販売機3を昇降させるものについて例示したがこれに限定されるものではなく、コピー機等の事務機器や冷蔵庫等の大型家電製品等を昇降させるものに使用しても構わない。
【符号の説明】
【0046】
1 昇降補助具
2,100 運搬車(階段昇降用運搬車)
3 自動販売機(物品)
3a 底面部
4 フォーク
4a フォーク面
4b フォーク端部
6 ボルトねじ孔(装着固定手段)
7 キャスター
8 補助具本体
8a 本体上面
8b 本体端部
9 ボルト孔(装着固定手段)
10 ボルト(装着固定手段)
17 段差
K 階段
【先行技術文献】
【特許文献】
【0047】
【特許文献1】特開平5−170104号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品の底面部の少なくとも一部と接し、前記物品を下方から支持するフォークを有し、階段の傾斜に沿って前記物品を昇降可能な階段昇降用運搬車に取付けられる昇降用補助具であって、
前記フォークに着脱自在に装着され、前記物品の前記底面部と相対する面積を拡張させた本体上面を有する板状の補助具本体と、
前記フォーク及び前記補助具本体の装着状態を固定する装着固定手段と、
前記補助具本体の本体下面に設けられ、前記物品を支持した前記階段昇降用運搬車の移動をアシストするキャスターと
を具備することを特徴とする昇降補助具。
【請求項2】
前記補助具本体は、
前記フォークによって前記物品を支持し、前記階段昇降用運搬車を直立位置から傾倒位置に変化させた状態で、前記フォークに前記装着固定手段を利用して装着されることを特徴とする請求項1に記載の昇降補助具。
【請求項3】
前記補助具本体は、
T字形状を呈して構成され、前記フォークにT字下部が装着されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の昇降補助具。
【請求項4】
前記物品は、
自動販売機であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載の昇降補助具。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−111076(P2011−111076A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270560(P2009−270560)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(309036379)株式会社名岐ベンド (2)
【Fターム(参考)】