説明

易分散性の固体N’−ヒドロキシ−N−シクロヘキシルジアゼニウムオキシド塩を製造するための方法

固体Mn+(HDO)n塩(式中、HDOはN’−ヒドロキシ−N−シクロヘキシルジアゼニウムオキシドであり、およびMn+は金属カチオンである)を製造するための方法であって、アミン類の存在下で一価カチオンを備えるHDO塩のアルカリ溶液から酸を用いた沈降および穏和な条件下で乾燥させる工程による方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体Mn+(HDO)n(式中、HDOはN’−ヒドロキシ−N−シクロヘキシルジアゼニウムオキシドのアニオンであり、かつMn+は金属カチオンである)を製造するための方法であって、アミン類の存在下で一価カチオンを備えるHDO塩のアルカリ溶液から酸を用いた沈降および穏和な条件下で乾燥させる工程による方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長年にわたり、N−アルキル−N−ニトロヒドロキシルアミン(N’−ヒドロキシ−N−アルキルジアゼニウムオキシドとも称する)の金属塩、例えばCa、Ba、Al、Pb、Ag、Cu、Fe、Ni、もしくはZn塩が真菌増殖を阻害するために有効であることは公知である(例えば独国特許出願公開第1024743(A)号明細書によって開示されている)。
【0003】
欧州特許出願公開第358072(A)号明細書は、湿潤条件下で増殖する微生物、例えば藻類および地衣類を、N’−ヒドロキシ−N−シクロヘキシルジアゼニウムオキシドの所定の金属塩、著明には銅、アルミニウムもしくはスズ塩、またはアミン塩を用いた処置によって制御する方法を開示している。この殺菌活性成分は、ポリマーマトリックス内、例えばポリマー箔内に直接的に組み込むことができる、または保護すべき水性もしくは有機溶媒をベースとする媒体、例えば塗料、特別には防汚塗料に添加することができる。
【0004】
N’−ヒドロキシ−N−シクロヘキシルジアゼニウムオキシドのCu塩であるCu(HDO)2は、たった約30ppmという不良な水溶性しか有していない。しかし、水性媒体中のCu(HDO)2を使用することが必要になることが多い。
【0005】
国際公開第2005/044010号パンフレットは、N’−ヒドロキシ−N−シクロヘキシルジアゼニウムオキシドのCu塩であるCu(HDO)2の調製物および希釈剤を使用して、例えばラッカー、木材、コーティング材料もしくは防汚コーティング剤などの工業原料中で細菌、糸状菌、酵母、および藻類に対処する、および/またはそれらを殺滅するためのCu(HDO)2の使用について開示している。この調製剤は、水中のCu(HDO)2の水溶性を増強するための界面活性剤を追加して含有することができる。
【0006】
さらに当分野においては、Cu(HDO)2の水溶性を増強するために、Cu(HDO)2調製物に錯体形成化合物を添加することもまた公知である。米国特許第4,143,153号明細書は、木材を保護するためのCu(HDO)2と水溶性錯体形成化合物との混合物について開示している。米国特許第4,761,179号明細書および米国特許第5,187,194号明細書は、ポリアミンおよび錯体形成化合物としての錯体形成性カルボン酸もしくはポリマーポリアミン類を含む類似の調製物を開示している。
【0007】
所定の添加物を使用することによって可溶化されたCu(HDO)2を含むそのような調製物は、例えば塗料、コーティング剤およびコーティングされた基質などの材料を保護するために使用できる。しかし使用される添加物は、さらにまたコーティングおよび/または基質からCu(HDO)2が滲出するのを補助する可能性があり、これは高度に望ましくない。さらに、水溶性Cu(HDO)2は強度の青色を有するが、これもまた所定の用途において、特に装飾目的のための塗料、コーティング剤もしくはコーティングされた基質におけるCu(HDO)2の使用にとって望ましくない可能性がある。
【0008】
当分野においては独国特許第1024743号明細書から、固体Cu(HDO)2を微細粉末に粉砕する、および該粉末を水性分散液として粉末を適用することは公知である。しかしそのような粉砕された粉末は、液体調製物中、特別には水性調製物中、例えば塗料もしくはコーティング剤中に均質に分散させることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】独国特許出願公開第1024743(A)号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第358072(A)号明細書
【特許文献3】国際公開第2005/044010号パンフレット
【特許文献4】米国特許第4,143,153号明細書
【特許文献5】米国特許第4,761,179号明細書
【特許文献6】米国特許第5,187,194号明細書
【特許文献7】独国特許第1024743号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の1つの目的は、液体調製物中、特別には水性調製物中に易分散性であるN’−ヒドロキシ−N−シクロヘキシルジアゼニウムオキシドの固体塩を製造するための改良された方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1態様によると、本発明は、固体Mn+(HDO)n塩(式中、HDOはN’−ヒドロキシ−N−シクロヘキシルジアゼニウムオキシドであり、Mn+はアルカリ金属カチオンを除くカチオンであり、nは1〜4の数値を有する)を製造するための方法であって、少なくとも以下の工程:
(1)少なくとも
・ 水溶性Mn+塩、
・ 化合物M(I)(HDO)(式中、M(I)は1モルのMn+に付きn〜1.5nモルの量にある少なくとも1つの一価カチオンであり、該カチオンはH+、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンN(R14+および/またはホスホニウムイオンP(R24+(式中、R1およびR2は、相互とは無関係に、Hおよび1〜30個の炭素原子を含む炭化水素置換基および/または1〜30個の炭素原子を含むヒドロキシ置換炭化水素置換基から選択される)の群から選択されるが、ただし使用されるM(I)カチオンおよびMn+カチオンは相違する)、
・ 1モルのMn+に付き1〜6モルのアミノ基の量にある少なくとも1つの水溶性アミンを含む水性混合物を提供し、
および該水性混合物のpH値を10〜14へ調製する工程と、
(2)実質的に均質な混合物を入手するために該成分を30〜70℃の温度で混合する工程と、
(3)30℃未満の温度へ冷却して固体Mn+(HDO)n塩を沈殿させ、酸を使用して該混合物のpH値を5〜9.5のpH値へ調整する工程と、
(4)該形成されたMn+(HDO)nの沈降物を収集する工程と、
(5)該沈降物を45℃未満の温度で乾燥させる工程とを含む方法に関する。
【0012】
第2態様によると、本発明は、30〜75μmの粒径D50を有する、固体Mn+(HDO)n塩(式中、HDOはN’−ヒドロキシ−N−シクロヘキシルジアゼニウムオキシドのアニオンであり、Mn+はアルカリ金属カチオンを除く金属カチオンであり、nは1〜4の数値を有する)に関する。
【0013】
第3態様によると、本発明は、塗料、コーティング、建設材料、プラスチックおよび紙、レザー、繊維製品、ポリマー材料もしくは表面を保護するためのそのような固体Mn+(HDO)n塩の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、サンプルの顕微鏡写真を示している。
【図2】図2は、粒径分布(容積分布)を示している。
【図3】図3は、1分間の代わりに10分間の分散後の粒径分布分析の結果を示している。
【図4】図4は、30分間の分散後の粒径分布分析の結果を示している。
【図5】図5は、比較例において調製したCu(HDO)2の顕微鏡写真を示している。
【図6】図6は、該実施例におけるものと同一条件下において1分間の分散時間で実施された粒径分布分析(容積分布)の結果を示している。
【図7】図7は、1分間の代わりに10分間の分散後の粒径分布分析の結果を示している。
【図8】図8は、30分間の分散後の粒径分布分析の結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では本発明の詳細について説明する。
【0016】
本発明による方法は、固体Mn+(HDO)n塩(式中、HDOは、以下の式(I):
【0017】
【化1】

を有するN’−ヒドロキシ−N−シクロヘキシルジアゼニウムオキシドのアニオンである)を産生する。
【0018】
数nは、1〜4、好ましくは2もしくは3の数値を有し、および最も好ましくはnは2である。Mn+は、アルカリ金属カチオンを除くカチオンである。該カチオンは、金属カチオンであるが、さらにその他のカチオン、例えばアンモニウムカチオンもしくはホスホニウムカチオンもまた使用できる。
【0019】
好ましい金属カチオンには、アルカリ土類金属カチオン、例えばMg2+、Ca2+もしくはBa2+、Al3+、および遷移金属、特別には第1遷移金属、例えばTi3+、Ti4+、Fe2+、Fe3+、Co2+、Ni2+、Cu2+、およびZn2+が含まれる。
【0020】
本発明の好ましい実施形態では、nは2もしくは3であり、Mn+は、Cu2+、Zn2+、Ni2+、Co2+、Ca2+、およびAl3+、より好ましくはCa2+、Zn2+、およびCu2+の群から選択されるが、最も好ましいMn+はCu2+である。
【0021】
本発明による方法の工程(1)では、少なくともM(I)(HDO)化合物、アミンおよび水溶性Mn+塩を含む水性混合物が提供される。
【0022】
n+塩として、該Mn+カチオンのあらゆる種類の水溶性塩を使用できる。適切な塩としては、特別には炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物、酸化物またはケイ酸塩を挙げることができる。好ましい塩は、硫酸塩である。当然ながら、2つ以上の相違するMn+塩の混合物を使用することができる。これらの塩が水溶液を入手するために水に容易に溶解しない場合は、該塩を水に溶解させるために任意で酸、例えば硫酸を加えてもよい。
【0023】
M(I)(HDO)化合物では、M(I)は、H+、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、およびホスホニウムイオンの群から選択される少なくとも1つの一価カチオンであるが、ただし該方法において使用されるM(I)カチオンおよびMn+カチオンは相違する。
【0024】
適切なアンモニウムイオンは、式N(R14+(式中、R1は、相互とは無関係に、Hおよび1〜30個の炭素原子、好ましくは1〜10個の炭素原子を含み、例えばOH基などの追加の官能基を含んでいてよい炭化水素置換基から選択される)のアンモニウムイオンである。好ましくは、R1は、H、1〜4個のC原子を備える未置換直鎖状アルキル基または2〜4個のC原子を備える直鎖状モノヒドロキシアルキル基の群から選択される。
【0025】
適切なホスホニウムイオンは、式P(R24+(式中、R2は、相互とは無関係に、Hおよび1〜30個の炭素原子、好ましくは1〜10個の炭素原子を含み、例えばOH基などの追加の官能基を含んでいてよい炭化水素置換基から選択される)のホスホニウムイオンである。好ましくは、置換基R2の内の少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つは水素ではない。好ましくは、R2は、1〜10個の炭素原子を備える脂肪族または芳香族炭化水素基である。1つの例として、テトラフェニルホスホニウムイオンを適切なイオンとして挙げることができる。
【0026】
好ましくは、M(I)は、Na+、K+、およびNH4+の群から選択され、最も好ましいM(I)はK+である。K(HDO)の水溶液は、例えば登録商標Protected(登録商標)KDの下で市販で入手できる。
【0027】
M(I)(HDO)化合物をMn+塩に関してわずかに過剰に使用することが推奨される。一般に、M(I)(HDO)化合物の量は、1モルのMn+に付きn〜1.5nモル、好ましくはn〜1.25n、および最も好ましくは1.05n〜1.2nである;すなわち、n=2に付いて、これらの数は1モルのM2+に付き2〜3モル、好ましくは2〜2.5モル、および最も好ましくは2.1〜2.4である。
【0028】
本発明のためには、任意の種類の水溶性アミンを使用できる。当然ながら、2つ以上の相違するアミンの混合物を使用できる。適切なアミン類は、第1級、第2級または第3級アミノ基を含むことができる。好ましくは、該アミン類は、第1級および/または第2級アミノ基だけを含んでいる。好ましくは、該アミンは、脂肪族ジアミンまたは脂肪族トリアミンである。適切なアミン類の例には、メチルアミン、ジメチルアミン、エタノールアミン、環状アミン類、例えばピロリドン、第3級アミン類、例えばトリメチルアミン、または芳香族アミン類、例えばアニリン、エチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、もしくはジエチレントリアミンが含まれる。好ましいアミン類の例には、エチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、またはジエチレントリアミンが含まれる。最も好ましくは、エチレンジアミンは、該アミンとして使用できる。
【0029】
アミン類の量は、1モルのMn+に付き1〜6モル、好ましくは1.5〜4モル、および最も好ましくは2〜3モルのアミノ基である。
【0030】
それぞれに該成分を添加する順序は、当業者であれば選択できる。有益には、第1工程として水中の該M(I)(HDO)化合物(例、総量の30〜50%)の一部分の混合物を提供し、該アミンを添加し、次に該Mn+塩を添加し、その後に該M(I)(HDO)化合物の残りの部分を添加することができるが、しかし本発明は前記順序に限定されない。
【0031】
該混合物のpH値は、10〜14、好ましくは11〜13である。必要であれば、pH値は、例えばNaOHまたはKOHなどの適切な塩基を使用して前記数に調整することができる。調整が必要であるかどうかは、出発材料の性質に依存する。M(I)(HDO)化合物内のM(I)がH+である場合、またはMn+塩の酸性溶液が使用される場合は、通例は調整が必要になるであろうが、KHDOの溶液は強度にアルカリ性であるので、調整が必要とならない可能性がある。
【0032】
該混合物の水以外の全成分の総量は、該水性混合物の全成分の総量に基づいて5〜40重量%、好ましくは20〜40重量%、および最も好ましくは25〜35重量%である。
【0033】
本発明による方法の工程(2)では、工程(1)の混合物は、実質的に均質な混合物を入手するために混合される。「実質的に均質な」は、工程(1)に使用される成分の大部分が好ましくは水中に十分に溶解しているが、該成分が均質な懸濁液を形成する場合もまた十分であることを意味する。混合する工程は、公知の技術、例えば該混合物を攪拌もしくは振とうする工程、好ましくは攪拌する工程によって行うことができる。
【0034】
混合する工程(2)は、室温より高い温度で実施される。混合する工程は、30〜70℃の温度で行うことができる。混合する工程のために好ましい温度範囲は、30℃〜55℃、より好ましくは35〜55℃、および最も好ましくは45〜50℃である。混合する工程は、一晩実施することができるが、一般には、該溶液を混合する工程は、1〜6時間、好ましくは2〜6時間、および最も好ましくは4〜5時間行われなければならない。
【0035】
工程(2)において実質的に均質な溶液を入手した後に、本方法の工程(3)では、固体Mn+(HDO)n塩は該溶液から30℃未満の温度へ冷却させる工程と、かつ酸を使用して該溶液のpH値を5〜9.5へ調整する工程によって沈降させられる。好ましくは、pH値は、6.5〜8.5へ調整され、かつ最も好ましくはpH値は6.5〜7.5へ調整される。該混合物は、0〜25℃、好ましくは15〜25℃の温度へ冷却することができる。該工程を逆順で、または該工程を同時に実行するために、該溶液を最初に冷却し、次にpH値を調整することが可能である。
【0036】
適切な酸の例には、有機もしくは無機酸、例えばH3PO4、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、2−エチレンヘキサン酸、クエン酸、シュウ酸、スルホン酸、スルファミン酸、乳酸、グルコン酸、硫酸、硝酸、またはハロゲン化物をベースとする酸、例えばHClもしくはHBrが含まれる。好ましい酸は、H3PO4である。
【0037】
沈降させた後、固体Mn+(HDO)n塩は、固体を液体から分離するための通例の技術、例えば濾過または遠心分離によって収集される。さらに、入手された固体は、例えば、過剰量のM(I)(HDO)化合物および/または該アミンを除去するために洗浄することができる。技術的規模では、該沈降物を収集および洗浄する工程は、例えばフィルタープレスを使用することによって実施できる。
【0038】
最後に、固体Mn+(HDO)n塩は45℃未満、好ましくは35℃未満、より好ましくは25℃未満、および最も好ましくは20℃未満の温度で乾燥させられる。Mn+(HDO)n塩をより高い温度で乾燥させる工程は、劣化した分散特性を備える生成物を生じさせることがある。
【0039】
上述の限度を超える温度を含まない任意の乾燥方法、例えば、適切な乾燥剤および/または減圧を使用する技術の存在下でMn+(HDO)n塩を乾燥させる方法を使用できる。本発明の好ましい実施形態では、乾燥する工程は、フリーズドライ法によって行うことができる。
【0040】
本発明による方法は、粗大粒子を含有していない、固体Mn+(HDO)nの均質な微細粉末を産生する。入手した粉末は、水性および非水性媒体中に易分散性である。
【0041】
このため、また別の実施形態では、本出願は、30〜75μm、好ましくは35μm〜70μm、および最も好ましくは40μm〜60μmの粒径D50を有する、前記方法によって入手できる固体Mn+(HDO)n粒子に関する。
【0042】
好ましくは、粒径D10は、5〜25μm、より好ましくは10〜20μmであり、および好ましくは、粒径D90は80〜200μm、より好ましくは90〜150μmである。
【0043】
D10、D50およびD90は、それぞれ、粒径分布(容積分布)のメジアンまたは10、50、および90パーセンタイルを表す。つまり、D50(D10/D90)は、粒子の50%(10%/90%)がこの数値以下の粒径を有するような分布上の数値である。容積平均粒径分布は、当業者には公知の技術によって、例えばレーザー回折技術によってMn+(HDO)nの水性分散液を用いて測定できる。
【0044】
好ましい実施形態では、Mn+(HDO)n粒子は、Cu(HDO)2、Zn(HDO)2、Ni(HDO)2、Co(HDO)2、Ca(HDO)2およびAl(HDO)3の群から選択され、最も好ましい固体塩は、Cu(HDO)2である。
【0045】
この粒径分布は、保護すべき媒体中に粒子を分散させるために極めて優れている。分散させることが困難である粗大粒子の分率が極めて低いだけではなく、いずれも分散するのが困難である数μm以下でさえに過ぎない粒径を備える微細粒子の量もまた小さい。
【0046】
本発明の第3実施形態では、本発明による固体Mn+(HDO)n粒子は、従来法で調製されたMn+(HDO)nと同一用途における基本的な殺菌活性成分として、特別には例えば細菌、真菌、および藻類などの微生物の増殖に対処するために使用できる。特別には、固体Mn+(HDO)n粒子は、国際公開第2005/044010号パンフレット第4頁第25〜34行に記載された微生物に対処するために使用できる。
【0047】
固体Mn+(HDO)n粒子は、例えば国際公開第2005/044010号パンフレット第7頁第15〜25行に引用されたような工業用材料を保護するために、かつ例えば国際公開第2005/044010号パンフレット第7頁第27〜30行に引用されたような工業方法において使用できる。
【0048】
特別には、本発明によって調製された固体Mn+(HDO)n塩は、塗料、ラッカー、コーティング、建築材料、プラスチック、紙、レザー、繊維製品、ポリマー材料もしくは表面を保護するため、最も好ましくは塗料、ラッカー、およびコーティングを保護するために使用できる。これらの粒子は、後で表面に塗布される塗料および/またはラッカー調製物中に容易に分散させることができる。
【0049】
好ましい実施形態では、殺菌剤として使用される固体Mn+(HDO)nは、Cu(HDO)2、Zn(HDO)2、Ni(HDO)2、Co(HDO)2、Ca(HDO)2およびAl(HDO)3の群から選択され、最も好ましくは、該固体塩は、Cu(HDO)2である。
【0050】
以下では本発明の実施形態を下記の実施例を参照しながらより詳細に説明する。
【0051】
固体Cu(HDO)2の調製
出発材料として以下の成分を使用した:
K(HDO)(水溶液、含量:30重量%) 690g 1.2モル
エチレンジアミン 75g 1.2モル
CuSO4・5H2O 130g 0.5モル
脱塩水 222g
【0052】
エチレンジアミン、脱塩水および307gのK(HDO)溶液を攪拌しながらビーカー内に配置し、硫酸銅を添加し、この混合物を周囲温度で30分間にわたり攪拌した。その後、別の383gのK(HDO)溶液を添加し、再び周囲温度で30分間にわたり攪拌した。入手した混合液は、13〜14のpH値を有した。この混合液を50℃へ加温し、前記温度で攪拌しながら5時間にわたり維持した。その後、この混合液を室温へ冷却させ、該混合液のpH値はオルトリン酸を用いてpH7へ調整した。その直後に淡青色の沈降物が出現したので、これを濾過して取り除き、1Lの脱塩水で洗浄した。固体を除去し、1Lの水中に再懸濁させ、次にフリーズドライした。
収量:184gのCu(HDO)2
【0053】
調製したCu(HDO)2サンプルは、光学顕微鏡を使用して分析した。図1は、サンプルの顕微鏡写真を示している。
【0054】
さらに、粒径分布分析(容積分布)は、従来型レーザー回折装置(Mastersizer(登録商標)2000、Fa.Malvern instruments社)を用いて実施した。測定のために、1gのCu(HDO)2を100mLの水サンプルおよび非イオン性界面活性剤(ポリエチレングリコールp−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−フェニルエーテル、約9〜10エチレンオキサイド基)の1mL溶液(1重量%)中に分散させた。分散時間は1分間であった。
【0055】
図2は、粒径分布(容積分布)を示している。この分布は、約50μmで最高値を備える単峰性である。約300〜400μmではわずかな段部しかない。D10値は、16μmであり、D50は49μm、およびD90は140μmである。粒径分布曲線は対称性であり、ガウス形曲線と極めて近い。
【0056】
図3は、1分間の代わりに10分間の分散後の粒径分布分析の結果を示している。300〜400μmでのわずかな段部の強度は極めてわずかに減少した。D10値は、14μmであり、D50は45μm、およびD90は108μmである。粒径分布曲線は依然として対称性であり、ガウス形曲線と極めて近い。
【0057】
図4は、30分間の分散後の粒径分布分析の結果を示している。
【0058】
D10値は12μmであり、D50は41μm、およびD90は93μmである。粒径分布曲線は依然として対称性であり、ガウス形曲線と極めて近い。
【0059】
[比較例]
Cu(HDO)2の比較例は上記に記載した方法と同様に調製したが、50℃で5時間にわたり混合する工程を削除し、乾燥する工程は60〜80℃の温度で実施した。
【0060】
図5は、比較例において調製したCu(HDO)2の顕微鏡写真を示している。この顕微鏡写真は、粗大および微細粒子の混合物を示している。
【0061】
図6は、該実施例におけるものと同一条件下において1分間の分散時間で実施された粒径分布分析(容積分布)の結果を示している。この分布は、明らかに二峰性である;すなわち、粒径分布分析もまた有意な量の粗大粒子を示している。第1ピークの最高値は約25μmで見られ、第2ピークの最高値は約450μmで見られる。D10値は3μmであり、D50は23μm、およびD90は306μmである。
【0062】
図7は、1分間の代わりに10分間の分散後の粒径分布分析の結果を示している。約450μmでのピークの強度は、たった1分間の分散後より低い。D10値は2μmであり、D50は15μm、およびD90は79μmである。しかし粒径分布は依然として本発明による実施例におけるより明白に広範囲であり、さらにその上非対称性である。
【0063】
図8は、30分間の分散後の粒径分布分析の結果を示している。約450μmでのピークは消失したが、分布は依然として広範囲で非対称性である。D10値は2μmであり、D50は1μm、かつD90は53μmである。
【0064】
実施例および比較例は、本発明による方法が狭く、基本的に単峰性の粒径分布を備える生成物および易分散性粒子を産生することを証明している。分散時間が長くなっても小さな作用しか生じさせない。
【0065】
当分野の最新状態による比較例は、より長い分散時間後でさえ、有意な量の粗大粒子を極めて広範囲の粒径分布でしか産生しない。言うまでもないが、そのような長い分散時間は、少なくとも保護すべき物品に適用することが不可能である場合は高度に望ましくない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体Mn+(HDO)n塩(式中、HDOはN’−ヒドロキシ−N−シクロヘキシルジアゼニウムオキシドであり、Mn+はアルカリ金属カチオンを除くカチオンであり、およびnは1〜4の数値を有する)を製造するための方法であって、少なくとも以下の:
(1)少なくとも
・ 水溶性Mn+塩、
・ 化合物M(I)(HDO){式中、M(I)は1モルのMn+に付きn〜1.5nモルの量にある少なくとも1種の一価カチオンであり、該カチオンはH+、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンN(R14+および/またはホスホニウムイオンP(R24+(式中、R1およびR2は、相互とは無関係に、Hおよび1〜30個の炭素原子を含む炭化水素置換基および/または1〜30個の炭素原子を含むヒドロキシ置換炭化水素置換基から選択される)の群から選択されるが、ただし使用されるM(I)カチオンとMn+カチオンとは相違する}、
・ アミノ基の量が1モルのMn+に付き1〜6モルである少なくとも1種の水溶性アミンを含む水性混合物を用意し、
そして前記水性混合物のpH値を10〜14へ調製する工程と、
(2)前記成分を30〜70℃の温度で混合して、実質的に均質な混合物を得る工程と、
(3)30℃未満の温度へ冷却することにより固体Mn+(HDO)n塩を沈殿させ、酸を使用して前記混合物のpH値を5〜9.5のpH値へ調整する工程と、
(4)前記形成されたMn+(HDO)nの沈降物を収集する工程と、
(5)前記沈降物を45℃未満の温度で乾燥させる工程と
を含む方法。
【請求項2】
工程(2)中において、前記pH値は11〜13である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(2)中において、前記溶液を20〜50℃の温度で1〜6時間にわたり攪拌する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(3)中おいて、前記pH値を6.5〜8.5に調整する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
工程(5)中において、前記沈降物を、フリーズドライ法によって乾燥する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記アミンは、ジアミンまたはトリアミンである、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記酸は、H3PO4である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
水を除く全成分の総量は、前記水性混合物の全成分の総量に基づいて5〜40重量%である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
nは2または3であり、Mn+は、Cu2+、Zn2+、Ni2+、Co2+、Ca2+、およびAl3+の群から選択される、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
nは2であり、Mn+はCu2+である、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
30〜75μmの粒径D50を有する、固体Mn+(HDO)n塩(式中、HDOはN’−ヒドロキシ−N−シクロヘキシルジアゼニウムオキシドのアニオンであり、Mn+はアルカリ金属カチオンを除く金属カチオンであり、nは1〜4の数値を有する)。
【請求項12】
前記Mn+(HDO)n塩は、Cu(HDO)2、Zn(HDO)2、Ni(HDO)2、Co(HDO)2、Ca(HDO)2およびAl(HDO)3の群から選択される、請求項11に記載の固体塩。
【請求項13】
Cu(HDO)2である、請求項11に記載の固体塩。
【請求項14】
塗料、コーティング、建築材料、プラスチックおよび紙、レザー、繊維製品、ポリマー材料または表面を保護するために、請求項11〜13に記載の固体Mn+(HDO)n塩を使用する方法。
【請求項15】
前記Mn+(HDO)n塩は、Cu(HDO)2、Zn(HDO)2、Ni(HDO)2、Co(HDO)2、Ca(HDO)2およびAl(HDO)3の群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記Mn+(HDO)n塩は、Cu(HDO)2である、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−512144(P2012−512144A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−540098(P2011−540098)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際出願番号】PCT/EP2009/066801
【国際公開番号】WO2010/069849
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】