説明

星状細胞の増殖の誘導方法およびそのための組成物

【課題】 神経細胞の増殖を誘導しうる方法および組成物等を提供する等。神経細胞ならびに神経組織の再生、および神経欠損の修復に適した方法、および組成物を提供する。
【解決手段】 星状細胞の増殖の誘導方法であって、BMP−2、BMP−4、BMP−5、BMP−6、BMP−7、BMP−2/6ヘテロダイマー、およびBMP−2/7ヘテロダイマーからなる群より選択される骨形態形成蛋白の存在下で適当な細胞を培養することを含む、方法、ならびにかかる骨形態形成蛋白を含む、星状細胞の増殖を誘導する組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経細胞の増殖および神経組織の再生のための骨形態形成蛋白(BMPs)の医薬的使用に関する。より詳細には、本発明は、BMPsの使用に関し、好ましくは、神経細胞または神経組織の退化、死滅もしくは外傷を含む、中枢ならびに末梢神経系疾患、および機械的ならびに外傷性疾患の治療のためのBMP−2ないしBMP10の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
骨形態形成蛋白2ないし10は、形質転換増殖因子−β(TGF−β)のスーパーファミリーのメンバーである。もともと、BMPsは、インビボにおいて骨形成を誘導しうる骨形成蛋白として発見された。最初は、形質転換性増殖因子は、組織培養における哺乳動物細胞の表現型の形質転換、すなわち、インビボにおける正常な細胞の増殖から腫瘍的な細胞の増殖への変化に従来より関連している現象を誘導する能力に基づいて同定された。
【0003】
星状細胞は、神経系において見いだされるグリア細胞の1タイプであり、軸索誘導、神経突起の成長の刺激、ニューロン形態形成ならびに移動において機能を有する。さらに星状細胞は、血管内皮血液−脳関門の誘導およびニューロンへの血液の輸送にも関与している。星状細胞は、細胞骨格の中間体フィラメント蛋白、極めて特異的な星状細胞マーカーであるグリア原線維酸性蛋白(GFAP)を発現する。
【0004】
位置および形態によって、2つのタイプの星状細胞が従来より記載されていた。原形質星状細胞は、典型的に、灰白質において見いだされ、厚く非常に枝分かれした突起を有するが、線維性星状細胞は白質において見いだされ、長く真っすぐな突起を有する。視神経から単離された星状細胞は、そのGFAPおよび表面マーカーA2B5に対する染色を根拠にして1型および2型として抗原のごとく記載されていた。2種の異なる発生系統に由来するため、分裂時期において、1型星状細胞はGFAPのみに関して染色されるが、2型星状細胞はA2B5およびGFAPの両方に関して染色される。星状細胞は軸索成長のための誘導的環境を提供し、そのことは神経再生の重要な態様である。よって、星状細胞の生存および分化は、神経細胞および組織が生存し再生する能力において重要な因子である。シルバー(Silver)ら,米国特許第5,202,120号には活性化星状細胞を用いて軸索の再生を促進する方法が記載されている(特許文献1)。しかしながら、この方法は、自己由来の移植によるような星状細胞の供給を必要とすることにおいて不利である。
【特許文献1】シルバー(Silver)ら,米国特許第5,202,120号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
神経細胞の増殖を誘導しうる方法および組成物を提供することが本発明の1の課題である。神経細胞ならびに神経組織の再生、および神経欠損の修復に適した方法および組成物を提供することが本発明のもう1つの課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1の具体例において、本発明は、哺乳動物の神経の枯渇、損傷もしくは欠損部位に、医薬上許容される担体と混合された有効量の組み換え型ヒト・BMP(rhBMP)を投与することを特徴とする、神経細胞の増殖を誘導する方法を提供する。好ましくは、BMPは、BMP−2、BMP−4、BMP−5、BMP−6、BMP−7ならびにBMP−2/6およびBMP−2/7のヘテロダイマーからなる群より選択される。
【0007】
もう1つの具体例において、本発明は、神経欠損、神経損傷または神経状態を有する哺乳動物を治療する方法であって、該哺乳動物の神経の枯渇、欠損もしくは損傷部位に、適当なマトリックスに配合された神経再生量のrhBMPを投与することを特徴とする方法を含む。好ましくは、BMPは、BMP−2、BMP−4、BMP−5、BMP−6、BMP−7ならびにBMP−2/6およびBMP−2/7のヘテロダイマーからなる群より選択される。BMP−2、BMP−4ならびにBMP−2/6およびBMP−2/7ヘテロダイマーが最も好ましい。
【0008】
好ましい具体例において、本発明は、神経代替のためのデバイスを含む。好ましくは、該デバイスは、所望位置および所望方向にBMPを維持して神経組織の再生を可能にすることのできるマトリックスまたは担体を使用する。BMPはマトリックス上に吸着される。マトリックスは、当該分野で知られたいかなる適当な担持材料からできていてもよい。好ましくは、マトリックスは、コラーゲン、フィブリン組織接着物質、および正常神経内膜鞘成分からなる群より選択される適当な材料を含む。これらの成分は、ラミニン、ヒアルロン酸およびバーシカンを含むコンドロイチン硫酸プロテオグリカン類を包含する。トナ(Tona)ら,ジャーナル・オブ・ヒストケミストリー・アンド・サイトケミストリー(J.Histchemistry and Cytochemistry),第41巻:593〜599頁(1993年)。最も好ましい具体例においては、マトリックスは架橋コラーゲンを含む。コラーゲンはいかなる適当な形態であってもよいが、好ましくは、スポンジ形態である。コラーゲンを神経組織の再生に適した形態に成型してもよい。BMP吸着マトリックスを、マトリックスおよびBMPの入った人工神経代替容器に用いてもよい。好ましくは、人工神経代替容器は、開口したシラスティック管のごとき管状もしくはステント(stent)の形態である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、神経細胞の増殖を誘導しうる方法および組成物が提供される。また、神経細胞ならびに神経組織の再生、および神経欠損の修復に適した方法および組成物も提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
驚くべきことに、本発明者らは、BMPs、特に、BMP−2、BMP−4ならびにBMP−2/6およびBMP−2/7のヘテロダイマーを用いて神経再生を促進できることを見いだした。通常は、神経細胞は傷害後に増殖し、顕微外科的手法を用いる生理学的修復は、最適なケアにもかかわらず、しばしば、不完全な機能をもたらす。神経組織は、修復の前に新たな血管形成されるようにならなくてはならない。しかしながら、神経においては、新たな血管形成は他の生物学的システムにおいてよりもずっと遅くに起こり、初期の軸索修復を遅らせ、しばしば、回復不可能で時間依存性の運動端板萎縮を起こりやすくする。さらに、早く形成する線維性の瘢痕組織は、自然に起こる神経再生の成功を妨げるかもしれない。したがって、神経修復を促進または加速するためのBMPsの使用は、BMPsを使用しなければ起こり得ない神経の修復の改善方法を提供する。
【0011】
BMPsのDNA配列は知られており、以下のごとく記載されている。BMP−2(時々BMP−2Aと呼ばれる)およびBMP−4(時々BMP−2Bと呼ばれる),米国特許第5,013,649号;BMP−3,米国特許第5,116,738号;BMP−5,米国特許第5,106,748号;BMP−6,米国特許第5,187,076号;BMP−7,米国特許第5,141,905号;BMP−8,PCT公開WO93/00432;BMP−9,1991年6月25日出願の第07/720,590号BMP−10,1993年5月12日出願の第08/061,695号。ヘテロダイマーは、1992年4月7日出願の米国特許出願第07/787,496号に記載されている。参照により上記文献の開示をすべて本明細書に取り入れる。
【0012】
適当な形質転換宿主細胞においてBMPコードしているDNA配列を発現することにより、rhBMP−2のごとき組み換え型ヒト・BMPを本発明方法に使用するために製造することができる。例えば、既知方法を用いて、BMP−2をコードするDNAをpED(カウフマン(Kaufman)ら,ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Res.),第19巻,4484〜4490頁(1991年))のごとき発現ベクターに結合し、宿主細胞中に形質転換し、蛋白発現を誘導し最大とすることができる。もちろん、BMPの対立変異種をコードするDNA配列を用いることができるのと同様に、ヒト・BMPコードしている縮重DNA配列を用いてもrhBMP製造することができる。
【0013】
いかなる適当な発現ベクターを用いても、本発明に使用されるrhBMP−2のごときrhBMP製造することができる。哺乳動物での発現には、pEDのほかにも、pEF−BOS(ミズシマ(Mizushima)ら,ヌクレイック・アシッズ・リサーチ,第18巻,5322頁(1990年));pXM、pJL3ならびにpJL4(ゴフ(Gough)ら,EMBO J.第4巻,645〜653頁(1985年));およびpMT2(pMT2−VWF由来、ATCC番号67122;PCT/US87/00033参照)のごとき多くの発現ベクターが知られている。酵母、昆虫および細菌細胞における使用に適した発現ベクターも知られている。かかる発現ベクターの構築および使用は十分に当業者のレベル内にある。rhBMP−2のごとき組み換え型BMPを、異なるBMP由来のプロペプチドに作動可能に結合した成熟BMPをコードするキメラDNA配列を用いて製造してもよい。例えば、米国特許第5,168,050号参照、その開示を参照により本明細書に取り入れる。
【0014】
本発明に有用なBMPsの製造に適した宿主細胞は、例えば、チャイニーズハムスター・卵巣(CHO)細胞、サル・COS細胞、マウス・3T3細胞、マウス・L細胞、NSO(ガルフル(Galfre)およびミルステイン(Milstein),メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology)第73巻,3〜46頁(1981年))のごときミエローマ細胞等のような哺乳動物細胞を包含する。BMPコードするDNA配列で酵母、昆虫および細菌細胞を形質転換し、既知方法を用いて蛋白発現の誘導および増幅を行うことにより、rhBMPを製造してもよい。細菌細胞において生産される場合、骨形態形成蛋白を可溶化することが必要である。
【0015】
本発明に使用するために、組み換え法により製造されたrhBMP−2のごときBMPを、培地または細胞抽出液から精製しなければならない。市販の蛋白濃縮フィルター、例えば、アミコン(Amicon)社またはミリポア(Millipore)社のペリコン(Pellicon)限界濾過ユニットを用いてrhBMPを含んでいる培地または細胞抽出液を濃縮してもよい。濃縮工程の次に、ゲル濾過媒体のごとき精製マトリックスに濃縮物を適用する。別法として、アニオン交換樹脂、例えば、垂下したジエチルアミノエチル(DEAE)基を有するマトリックスまたは基材を用いてもよい。マトリックスは、アクリルアミド、アガロース、デキストラン、セルロースまたは蛋白精製に通常使用される他のタイプのものであってよい。別法として、カチオン交換工程を用いることができる。適当なカチオン交換体は、スルホプロピルまたはカルボキシメチル基を含む種々の不溶性マトリックスを包含する。さらに培養上清からのBMPの精製は、レクチン−アガロース、ヘパリン−トヨパール(登録商標)もしくはトバクロムブルー3GAセファロース(登録商標)のごときアフィニティー樹脂による、またはフェニルエーテル、ブチルエーテルもしくはプロピルエーテルのごとき樹脂を用いる疎水性相互作用クロマトグラフィーによる、あるいは免疫アフィニティークロマトグラフィーによる、1またはそれ以上のカラム工程を包含する。最終的に、疎水性RP−HPLC媒体、例えば、垂下したメチルもしくは他の脂肪族基を有するシリカゲルを用いる1またはそれ以上の逆相高品質液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)工程を用いて、本発明に使用するためにさらにBMPを精製することができる。上記精製工程のいくつかまたはすべてをいろいろと組み合わせて用いて実質的に均一な単離組み換え型蛋白を提供することができる。
【0016】
rhBMP−2のごときBMPsを、種々の症状における医師によるインビボでの哺乳動物の治療のための本発明方法に用いることができる。これらの症状は、末梢神経傷害、末梢ニューロパシーならびに局在性ニューロパシーのごとき末梢神経系の疾患、およびアルツハイマー症、パーキンソン症、ハンチントン症、筋萎縮性側索硬化症ならびにシャイ−ドレーガー(Shy-Drager)症候群のごとき中枢神経系疾患を包含する。本発明により治療されうるさらなる症状は、脊髄疾患、頭部外傷ならびに卒中のごとき脳血管疾患のような機械的および外傷性疾患を包含する。BMPsを用いて神経細胞および神経組織の再生を促進し、かかる疾患の治癒を促進または加速することができる。
【0017】
本発明方法によれば、rhBMP−2のごときBMPをそれのみ投与してもよく、他のBMPsと組み合わせて投与してもよく、あるいは他の療法と組み合わせて投与してもよい。例えば、神経の疾患の治療において、rhBMP−2を、サイトカイン、リンホカイン、増殖因子、またはコロニー刺激因子と有効に組み合わせてもよい。本発明方法によりBMPと組み合わせて使用する代表的なサイトカイン、リンホカイン、増殖因子およびコロニー刺激因子は、EGF、FGF、インターロイキン1ないし12、M−CSF、G−CSF、GM−CSF、幹細胞因子、エリスロポエチン等を包含するが、これらに限定しない。さらに、BMPsを、CNTF、LIF、IL−6およびインスリン様増殖因子[IGFs]のごとき神経栄養性因子と組み合わせてもよい。さらに、通常は神経環境に見いだされる蛋白を、本発明によりBMPsに添加してもよい。これらは、ラミニン、ヒアルロン酸、およびバーシカンを含むコンドロイチン硫酸プロテオグリカン類を包含してもよい。
【0018】
所望位置に所望方向でBMPを維持しうるマトリックスを用いて本発明BMPsを投与して神経組織の再生を可能にしてもよい。好ましくは、BMPをマトリックス上に吸着させてもよい。マトリックスは、当該分野で知られたいかなる適当な材料からできていてもよい。かかる材料は、コラーゲン、フィブリン組織接着物質、およびラミニン、ヒアルロン酸、バーシカンを包含するコンドロイチン硫酸プロテオグリカン類を包含する、正常神経内膜鞘成分から選択される適当な材料を包含する。好ましくは、マトリックスは多孔性であり、神経組織の再生に必要な細胞の流入、移動、分化および増殖を可能にするものであってよい。1の好ましい具体例において、マトリックスは架橋コラーゲンを含む。コラーゲンはいかなる適当な形態であってもよいが、好ましくは、スポンジの形態である。コラーゲンを神経組織の再生に適した形状に成型してもよい。もう1つの好ましい具体例において、マトリックスは、乳酸ポリマー(PLA)、グリコール酸ポリマー(PGA)、および乳酸とグリコール酸のコポリマー(PLGA)のごとき生分解性粒子を含む。マトリックスは、フィブリンまたは静脈移植片のごとき、神経組織の形成を促進する材料からなっていてもよい。
【0019】
次いで、好ましくは、開口したシラスティック管のごとき管状もしくはステント(stent)の形態である人工神経代替容器にBMPが吸着した材料を適用する。人工神経代替容器は、一定の位置にBMPが吸着した容器を保持して神経組織の再生を可能にするいかなる材料からなっていてもよい。1の具体例において、自己由来の静脈移植片を神経代替容器として用いてもよい。人工神経代替容器は、ポリマーのごとき再吸収可能な材料からなっていてもよい。いくつかの好ましい具体例において、マトリックスは人工神経代替容器としても役立つ。
【0020】
本発明方法に適した医薬組成物は、BMPのほかに、医薬上許容される担体、希釈剤、充填剤、塩、緩衝剤、安定化剤、および/または当該分野で知られた他の物質を含有していてもよい。用語「医薬上許容される」は、活性成分の生物学的活性の有効性を妨害しない無毒の物質を意味する。担体または他の物質の特性は投与経路に依存するであろう。
【0021】
本発明方法におけるrhBMP−2のごときBMPの投与を、種々の慣用的方法で行うことができる。神経組織の再生、神経欠損または神経損傷の治療には、BMPの局所投与が好ましい。最も好ましい投与モードにおいては、BMPは生体適合性マトリックスに吸着され、人工神経代替容器に適用される。好ましくは、生体適合性マトリックスはコラーゲンからできており、スポンジ、シートもしくはマット、または密に充填された粒子の形態であってもよい。人工神経代替容器は管またはステントの形態であってもよい。人工神経代替容器に適する他の材料は、当業者に明らかであろう。好ましい具体例において、人工神経代替容器は、BMPが吸着したマトリックスの入った開口したシラスティック管を含む。もう1つの好ましい具体例において、人工神経代替容器は自己由来の静脈移植片を含む。いくつかの好ましい具体例において、同じ材料がマトリックスおよび人工神経代替容器の両方として役立ちうる。
【0022】
本発明方法において有用なBMPの量は、治療すべき症状の性質ならびに重さ、および患者が受けていた以前の治療の性質に依存するであろう。結局は、各患者を治療するBMP量を担当医が決定するであろう。本発明の種々の医薬組成物は、体重1kgあたり約0.1μgないし約100mg、好ましくは約0.1μgないし100μgを含有すべきであると考えられる。担当医が薬剤の作用を変化させる種々の因子、例えば、患者の状態、体重、性別および食事、症状の重さ、投与期間ならびに方法、および他の臨床的因子を考慮して実際の投与規則が決定されよう。
【0023】
本発明治療方法の実施に際して、治療上有効量のBMPを、かかる症状を有する哺乳動物に投与する。用語「治療上有効量」は、有意な患者に対する利益、すなわち、慢性症状の治癒または治癒速度の増加を示すに十分な本発明方法の各化合物の総量を意味する。例えば、神経再生量の骨形態形成蛋白は、適当なマトリックス担体に吸着され、神経損傷、欠損もしくは枯渇部位に移植された場合に神経組織の再生および/または神経損傷、欠損もしくは枯渇の改善を可能にする蛋白の量である。個体に活性成分のみを投与する場合、該用語はその成分のみについていう。組み合わせて投与する場合、混合、順次または同時に投与する場合であっても、該用語は、治療効果を生じる活性成分を合わせた量をいう。本発明方法の実施のための、治療上有効なBMP用量は、1回の投与につき体重1kgあたり約0.1μgないし約100mgの範囲であると考えられる。一般的には、最初は用量の最低量で投与を開始し、あらかじめ選択しておいた期間中、正の効果が得られるまで用量を増加させていく。次いで、考えられるすべての不利な効果が考慮されつつ、用量に対応した効果の増大が限界に達するまで用量が増加させられるであろう。
【0024】
本発明方法を用いる静脈投与による治療期間は、治療すべき疾患の重さおよび個々の患者の状態ならびに固有の応答に依存して変更されるであろう。BMPの各適用期間は連続投与では12ないし24時間の範囲であろうと考えられる。結局、担当医が、本発明方法を用いる治療の適当な期間を決定するであろう。
【0025】
本発明方法によれば、医薬上許容される担体と混合された神経再生量のrhBMP−2のごときBMPを投与することにより、哺乳動物において神経再生を行うことができる。本発明の目的のためには、rhBMP−2のごときBMPの神経再生量は、神経の再生を引き起こすに必要な蛋白量である。神経組織の重量または体積により神経再生を測定することができる。BMPを発現するように形質転換された適当な宿主細胞を患者に投与して神経細胞または組織の増殖もしくは生存を改善してもよい。
【0026】
以下の実施例は本発明の説明であり、何ら限定的なものではない。
【0027】
BMPの非経口処方は、パイロジェン不含の非経口的に許容される水溶液の形態であろう。かかる非経口的に許容される蛋白溶液のpH、等張性、安定性等については当業者の範囲内である。好ましい非経口処方は、BMPに加えて、注射用塩化ナトリウム、注射用リンゲル溶液、注射用デキストロース、注射用デキストロースならびに塩化ナトリウム、注射用乳酸リンゲル溶液のごとき等張性担体、または当該分野で知られた他の担体を含有するべきである。本発明医薬組成物は、安定化剤、保存料、緩衝剤、抗酸化剤、または当業者に知られた他の添加物を含有していてもよい。
【0028】
局所的に投与する場合、本発明BMPは、パイロジェン不含の局所的に許容される、軟膏、クリーム、ローション、泡もしくはゲルのごとき液体または半固体処方であってもよい。処方に用いるかかる局所用標品は当該分野の技術の範囲内である。
【実施例1】
【0029】
実施例I. 神経細胞に対するBMPの効果
実施例IA. 細胞の培養
Balb c/SFME(無血清マウス胚)細胞をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)(CRL9392)から得て、以前に記載(サカイ(Sakai)ら,PNAS:USA,第87巻:8378〜8382頁(1990年))されているように、ウシ・インスリン10μg/ml(イーライ・リリー(Eli Lilly)社製)、ヒト・トランスフェリン25μg/ml(コラボレイティブ・リサーチ(Collaborative Research)社製)、ヒト・高密度リポ蛋白20μg/ml(シグマ(Sigma)社製)、ヒト・上皮増成長子100ng/ml(ペプロテック(PeproTech)社製)、ウシ・血漿フィブロネクチン20μg/ml(ギブコ(GIBCO)社製)、亜セレン酸ナトリウム10nM(ギブコ)、ペニシリン−ストレプトマイシン(10U/ml)、L−グルタミン(4mM)および4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジンエタンスルホン酸15mM(pH7.4)を含有するDME/F12(1:1)培地中で増殖させた。
【0030】
体積比1:2のトリプシン/EDTAおよび大豆トリプシンインヒビター(1mg/ml)を用いて細胞を継代し、19代から50代の間において使用した。特に断らないかぎり、コウルター・ダイアグノスティクス・カウンター(Coulter Diagnostics counter)で細胞を計数した。
【0031】
実施例IB. 増殖および分化因子:
使用したすべての組み換え型ヒト・蛋白は90%以上の純度であった。EGFをペプロテック(ニュージャージー州)から購入した。組み換え型ヒト・アクチビン−Aはヘレン・ニュー(Helen New)から親切にも譲り受けた。TGF−β1をR&Dシステムズから購入した。BMPsを、ジェネテイックス・インスティテュートにおいて数ステップの精製工程によりCHOならし培地から精製した。
【0032】
実施例IC. 分化の研究:
すべての免疫蛍光およびFACS分析については、特に断らないかぎり、細胞を2.5x10個/cmでプレーティングし、16〜20時間目にBMP−2を示された濃度および期間において添加した。
【0033】
実施例ID. 生存の研究:
EGF不含培地で細胞を2回洗浄し、次いで、種々の増殖因子を補足した同じ培地中に0.8〜1x10個/cmの密度でプレーティングした。これらの増殖因子は、BMP−2、BMP−4、BMP−5、BMP−6、BMP−7、BMP−2/6ヘテロダイマー、BMP−2/7ヘテロダイマーおよびTGF−β1を包含する。44〜48時間目に、血球計数板を用いる2系のトリパンブルー色素排除法により生存のパーセント値および細胞数を決定し、最少でも1試料あたり400個の細胞を計数した。細胞の増殖がいくつかの条件下で見られたので、終点において全細胞数で全生細胞数を割ったものとして生存のパーセント値を計算した。
【0034】
実施例IE. 免疫蛍光抗体染色:
4ウェルのガラスまたはプラスティックチャンバースライド(ラブテック(Lab Tek)社製)中の細胞から培地を除去し、Ca2+,Mg2+不含PBS(CMF)で2回洗浄した。抗体A2B5(ベーリンガー−マンハイム(Boehringer-Mannheim)社製)を用いる表面染色用に、まず細胞を4%パラホルムアルデヒドで10分間固定し、PBSで洗浄し、次いで、1%ウサギ・血清とともにPBS中でインキュベーションして非特異的結合をブロックした。抗体をPBS中1%ウサギ・血清で希釈し、1時間インキュベーションし、次いで、細胞をPBS中1%ウサギ・血清で洗浄してからビオチン化ウサギ・抗マウス抗体、次いで、ストレプトアビジン−FITC(ザイムド(Zymed)社製)抱合体で検出を行った。FGAPに関するさらなる二重染色実験または単一の内部染色用に、細胞をアセトン/メタノール(50:50)中、−20℃で10分間固定した。PBS中0.2%Triton X-100および第2段階の試薬に応じて1%ヤギもしくはウサギいずれかの血清で透過性付与およびブロッキングを行った。第1の抗体は、示されたように、ウサギ・ポリクローナル(1:200)またはマウス・モノクローナル(5μg/ml)のいずれかであり、それぞれPBS中の1%のヤギもしくはウサギいずれかの血清中に希釈し、次いで、1時間インキュベーションした。第2のビオチン化抗体(ザイムド社製)ならびにスレプトアビジンフィコエリスリン(PE)(ザイムド社製)または抱合体となった抗IgG1−PE抗体(ザイムド社製)のいずれかを用いて検出を行った。蛍光光学機器を装備したツァイス社のアクシオフォト(Zeiss Axiophot)またはオリンパス(Olympus)社のBH2−RFC顕微鏡のいずれかを用いて細胞を試験し、エクタクローム(Ektachrome)1600ASAフィルムで写真を取った。
【0035】
実施例IF. FACS分析
これらの実験のために、細胞をPBSで1回、次いで、EDTA/塩で1回洗浄してから、EDTA/塩とともに室温で20分インキュベーションした。次いで、ゆるやかにプレート表面上をピペッティングすることにより細胞を取った。プレートをEDTA/塩で洗浄し、細胞と一緒にして、次いで、遠心分離し、PBSで1回以上洗浄し、次いで、計数した。各抗体インキュベーションに1x10個の細胞を用いた。4℃におけるA2B5表面染色のために、まず細胞プレートを50μlの熱不活性化ウサギ・血清とともにインキュベーションして非特異的結合をブロックし、次いで、1%ウサギ・血清/PBS中に5μg/mlとなるよう希釈されたA2B5抗体(ベーリンガー−マンハイム社製)または対照クラスの特異的IgMとともに1時間インキュベーションした。直接抱合した抗IgM−PE(ザイムド社製)を用いて検出を行った。GFAPに対するさらなる二重染色実験または単一内部染色のために、細胞を0.25%パラホルムアルデヒド中、4℃で1時間固定し、遠心分離し、次いで、PBS/アザイド中0.2%ツイン20 1ml中に再懸濁し、37℃で15分インキュベーションした。2%熱不活性化ウサギ・血清/PBS1mlを添加し、細胞を遠心分離した。ペレット50μlのウサギ・血清中に再懸濁し、次いで、第1の抗体およびクラス特異的対照をPBS中1%ウサギ・血清100μl中に5μg/mlとなるよう希釈した。直接抱合した抗IgG1−FITC抗体(ザイムド,フィッシャー・バイオテック(Zymed,Fisher Biotech)社製)を用いて最終的な検出を行った。細胞を、PBS/アザイド中1%ウサギ・血清、0.2%ツイン20で洗浄し、次いで、PBSで洗浄し、さらに最終的に1%パラホルムアルデヒド中に再懸濁した。蛍光励起用に15mWの488nm空冷式アルゴンイオンレーザーを用いるFACScan(カリフォルニア州サン・ホセのベクトン・デイキンソン(Becton Dickinson)によりFACS分析を行った。蛍光エミッションを標準的なFACScan配列(530nm(FITC ,585nm(PE)および>650nm(赤色蛍光))において測定した。
【0036】
データを得て、LYSYS IIソフトウェア(カリフォルニア州サン・ホセのベツトン・デイキンソン社製)を用いるヒューレット・パッカード(Hewlett Packard)社製340Cコンピューターシステムにより分析した。イソタイプ対照を各試料に対して行い、ゲートを単染色実験用にセットして多くとも3%の細胞を含むようにした。
【0037】
実施例IG. ウェスタン分析
2系の6ウェルデイッシュに細胞を2.5x10個/cmとなるようプレーティングし、16時間目に適当なBMPまたはTGF−β1を1、10および100ng/mlとなるよう添加した。44時間後、細胞を収穫した。1のウェルをトリプシン処理して計数し、2つ目のウェルをPBSで洗浄し、1mMのPefabloc(ベーリンガー−マンハイムから購入した水溶性プロテアーゼインヒビター)を含有する氷冷したPBS中に細胞を掻き取り、400xGで遠心分離した。1〜2容の0.1%Triton X-100、1mM Pefabloc、0.125M Tris 塩基,pH6.8、250U/mlのDNAseを細胞ペレットに添加し、混合した。最後に、0.5%SDSおよび20mM DTTをそれぞれに添加した。2系のウェルの細胞計数値に基づき、各条件下での5x10個の細胞を含む等価な体積を、12%の1mmのレムリ(Laemmli)ミニゲル(ノベックス(Novex)社製)の各レーンに負荷した。10および100ngのウシ・GFAPも負荷した。電気泳動後、0.45ミクロンのニトロセルロース膜に対して0.05%SDS存在下で300mAで1時間、ゲルからの移行を行った。ブロットを風乾し、1%KOHで固定し、TBS(20mM Tris,500mM NaCl,pH8.5)中0.5%ツイン20で洗浄しブロッキングし、次いで、1:1000希釈のGFAP抗血清(BTI)中で一晩インキュベーションした。TBS中0.5%ツイン20中で洗浄した後、ブロットを1:3000希釈のヤギ・抗ウサギHRP中で1時間インキュベーションし、次いで、エンハンスト・ケミルミネッセンス(Enhanced Chemiliminescence)(アマーシャム(Amersham)社のキット)により現像した。簡単に説明すると、ブロットをTBS−ツイン20中、次いで、TBS中で洗浄し、試薬AおよびBの1:1混合物中で1分間インキュベーションし、次いで、フィルムに曝露し、現像した。
【0038】
結果
TGF−β1または血清でのSFME細胞の処理は、星状細胞特異的分化マーカーGFAP(サカイ(Sakai)ら,上記文献)の発現を伴った明確な形態学的変化を生じた。TGF−β1処理は、両端に細胞質突起を有する長くて両端に突起を有し、GFAPに関して染まる細胞タイプを生じた。対照的に、ウシ胎児血清(FCS)処理した細胞はサイズが長く、高度に分枝したフィラメントネットワークを有し、FGAPに関して非常に強く染まった。
【0039】
10ng/mlのBMP−2、4、5、6、7およびBMP−2/6ならびに2/7ヘテロダイマーでのSFME細胞の処理は、GFAPの発現を伴うその外観における劇的な形態学的変化を生じた。細胞は、培養中の初期の星状細胞に典型的な多くの長い細胞質突起を獲得した。総体的には、BMPsおよびウシ・血清に関連して観察されたGFAP染色の強度は、TGF−β1に関して観察された強度よりもずっと強かった。BMP−2およびBMP−2/7ヘテロダイマーは、ウシ・血清を用いた場合に見られるような大型の形態を有する細胞タイプを誘導したが、BMP−7は、性質がより繊維状である形態を誘導した。これらの形態は、誘導された細胞タイプの表現型の相違(タイプ1対タイプ2星状細胞)またはGFAPもしくは他の細胞骨格蛋白の種々のレベルのいずれかを反映している可能性がある。対照細胞は線維芽細胞様の外観を有し、GFAPに関して染まらない。
【0040】
BMPにより誘導されたGFAP発現レベルを正確に測定し、TFG−βの活性とBMPの活性を比較するために、蛍光活性化細胞ソーティングによる定量的アッセイを確立した。それぞれ10ng/mlのBMP、TGF−β1およびアクチビン(Activin)ならびに10%子ウシ・血清で細胞を処理した。応答している集団のパーセント値および平均蛍光強度によりデータを分析した。
【0041】
応答している集団のパーセント値はGFAPを発現している細胞数を反映し、発現レベルとは無関係である。BMP−2、4、5、6、7、2/6ヘテロダイマーならびに2/7ヘテロダイマー、TGF−βおよび子ウシ・血清は、対照と比較すると、GFAPの発現を有意に誘導する。TGF−βスーパーファミリーのもう1つのメンバーであるアクチビンは効果がない。BMP−2/6ならびに2/7ヘテロダイマーはこのパラメーターにおいて最も有効であり、約65ないし72%の応答レベルを生じる。BMP−2、4、TGF−β1およびウシ胎児血清での処理は、約53ないし58%の応答細胞を生じる。BMP−5、6および7での処理は、約30ないし40%の応答細胞を生じる。
【0042】
平均蛍光強度(MFI)はGFAP発現レベルを示す。平均蛍光が高いほど、GFAP発現レベルが大きい。BMP−2/6および2/7ヘテロダイマーにより誘導された細胞は、TGF−β1により誘導された細胞の約8倍の平均蛍光を有する。BMP−2、4、5、6および7により誘導された細胞は、子ウシ血清により誘導された細胞の約2〜4倍の平均蛍光を有する。TGF−βおよび子ウシ血清はすべて対照よりも有意に高い値を与える。
【0043】
BMPsおよびTGF−β1がGFAP誘導する能力を比較するために、BMP−2、BMP−6、BMP−2/6ヘテロダイマーおよびTGF−β1を0〜10ng/mlの濃度範囲において試験し、FACSアッセイをGFAP発現の定量のために用いた。各因子がGFAP平均蛍光値5(対照値0.5の10倍)を与えた濃度を用いて相対活性を比較した。TGF−β1と比較した相対活性に関しては、BMP−2/6ヘテロダイマーは約18倍活性があり、BMP−2およびBMP−6は約3〜4倍活性があった。BMP−2およびBMP−2/6は0〜0.08ng/mlの範囲の検出可能なGFAPのレベルを誘導したが、TGF−β1での最初の検出可能なGFAPの増加は0.4〜2ng/mlの範囲である。
【0044】
さらにウェスタン分析によってもBMPsへの曝露後のSFME細胞により生産された高レベルのGFAPが確認された。BMPまたはTGF−β1処理細胞抽出物において、検出に用いたポリクローナルGFAP抗体は、52kDのウシ・GFAP標準よりもわずかに下側を泳動する40〜50kDの範囲の蛋白を特異的に認識する。観察された広い分子量範囲は、おそらく、蛋白分解の結果であろう。1〜100ng/mlのBMP−2およびBMP−6処理による蛋白レベルの用量依存的増加があった。TGF−β処理により誘導されたGFAPは、10ng/mlの用量で最大となり、わずか1ng/mlのBMP−2により誘導されたGFAPとほぼ同じである。このレベルは100ng/mlの用量においてさえも上昇しなかった。BMPsはTGF−β1よりも高レベルのGFAPを誘導した。
【0045】
BMPsでのSFME細胞の処理は、「線維芽細胞様」細胞の2種の独特なGFAP陽性形態への変換を引き起こす。一方のほとんど突起がなく大型で平らな細胞タイプは星状細胞の原形質タイプを思わせ、もう一方の非常に長い細胞質突起を有するタイプは線維状星状細胞の特徴を示す。
【0046】
これらの細胞を、A2B5およびGFAPに関する二重免疫蛍光抗体染色によりさらに特徴づけた。BMP−2/6集団において、タイプ1およびタイプ2の両方の星状細胞系細胞が存在した。GFAPに関して染まるがA2B5に関しては染まらない細胞の大多数はタイプ1の星状細胞系であったが、A2B5およびGFAPの両方に関して染まる細胞はタイプ2の星状細胞系であった。対照細胞はその表面上のA2B5に関して染まったが、GFAPに関しては染まらなかった。
【0047】
免疫蛍光染色により可視化された細胞集団を定量するために、我々は、二重染色FACS分析を用いた。表1のデータを、少なくとも3回の実験の平均値±標準偏差として表す。対照細胞は約37%がA2B5陽性であった。対照細胞は星状細胞系マーカーに関して染色陽性でなかった。BMP−2、6および2/6により処理された細胞はA2B5に関してのみ染まらなかったが、2種の星状細胞系の集団からなっていた。GFAPのみに関しては60%以上が陽性であり、それらはタイプ1の系統であって、さらに約18%がA2B5およびGFAPに関して陽性であることが示され、これらはタイプ2の系統であることが示された。TGF−β1処理も、同様の規模の集団のタイプ2系統細胞(約14%)を生じたが、タイプ1系統の細胞のうち約40%の集団だけが陽性であった。さらに、A2B5に関してのみ染まる細胞の小さな集団(約7%)が残っていた。総体的に、BMPsまたはTGF−β1でのSFME細胞の処理は、A2B5/GFAP集団においては完全には説明できるとはいえないA2B5の発現の消失を引き起こした。
【表1】

【0048】
SFME細胞生存に関する研究
SFME細胞の生存にはEGFが必要であり、FGFおよびTGF−βのごとき他の因子でそれを代替することはできない。EGF、SFME細胞をBMP−2、7、2/7ヘテロダイマー、TGF−β1およびアクチビンで処理した。アクチビンは、P19細胞に関する神経細胞生存分子であることが示されている。シューバート(Schubert)ら,ネイチャー(Nature)第344巻:868〜870頁(1990年)。48時間後、EGF不存在下においては約30%の生存細胞が存在し、全体として細胞数が減少した。EGF添加は約95%の細胞生存率を引き起こし、細胞数は5倍に増加した。BMP−2、BMP−7およびBMP−2/7ヘテロダイマーで処理された細胞は、接種密度の約70〜80%の細胞数を維持した。しかしながら、細胞は増殖しなかった。BMP−2で処理された細胞は、生存したのみならず分化したようであった。その生存率は約80〜85%であった。TGF−β1またはアクチビンいずれかで細胞を処理すると、生存率は10%未満で、細胞数は少なくとも10倍の減少となった。高濃度のTGF−β1は生存率を増加させなかった。
【実施例2】
【0049】
実施例II. BMP−2を用いる哺乳動物における末梢神経の再生
A. コラーゲンスポンジの調製
コラーゲンスポンジ(Collastat(登録商標),ビタフォア・ウーンド・ヒーリング,インコーポレイテッド(Vitaphore Wound Healing,Inc.)社製)を約2x2x18mmの寸法に切り、滅菌ガラス容器中で蒸留水にて十分に洗浄し、凍結乾燥し、エチレンオキサイドで滅菌し、BMP−2添加前に脱気した。
【0050】
45%アセトニトリル,0.1%トリフルオロ酢酸中の0.5μgのBMP−2をスポンジ中に均等に分散させた。次いで、これらのスポンジをチューブに入れ、液体窒素中で凍結し、凍結乾燥した。BMP−2を含まない45%アセトニトリル,0.1%トリフルオロ酢酸バッファーを用いる以外は同様にして対照移植物を調製した。
【0051】
凍結乾燥後、BMP−2を負荷したスポンジおよび滅菌対照スポンジを、約1.6x20mmの寸法の滅菌した開口シラスティック管中に入れた。すべての操作を滅菌条件下で行った。外科手術の前に手術室内で移植物の両端の余分な管を除去した。
【0052】
6匹のルイス・ラット(Lewis Rat)の坐骨神経を切断した。内径1.6mmx長さ17mmの開口したシラステイックまたは生分解性ステントを挿入した。ステントにはrhBMP−2を含むコラーゲンマトリックス担体または含まないコラーゲンマトリックス担体が入っていた。コラーゲンマトリックス担体はコラーゲンスポンジ(Collastat)(約1.5mm x 15mm)からなっていた。坐骨神経が切断され再付着を防止するために後方に結束された動物は正の対照として役立った。手術されていない後ろ足はエイジ(age)を合わせた負の対照として役立った。
【0053】
ステントを顕微鏡下で適用し、坐骨神経の切断された神経末端と吻合した。神経末端をステントの各末端において1mm挿入し、15mmのギャップを残した。移植後、6、8および12週目に、電気的な機能の回復について動物を試験した。機能回復の程度を調べるための正確で信頼性および再現性のある方法を提供する、複合的筋肉作動電位(CMAP)を調べた。振幅および潜伏時間はエイジ依存的であり、再発達した軸索/運動端板の数に直接比例する。
【0054】
移植後12週目に、病理学的試験のために動物を屠殺した。染色にはH&E、銀、ルクソール−ファストブルー(Luxol-fast blue)およびS100を用いた。ステント中に近位、中央部、遠位エレメントに対して先入観のない定量を行った。数匹のラットの皮下組織内におかれたステントは染色のための対照として役立った。
【0055】
結果は、デバイス1個につきCollastatスポンジに沈着した0.5μgのBMP−2で12週間治療した6匹の動物のうち4匹において、15mmの神経の欠損を越えた良好な神経の再生を示した。BMP−2を用いなかった対照は、15mmの神経の欠損を越えた増殖を示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、医薬の分野、特に神経細胞の再生に関連する医薬の分野において利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
星状細胞の増殖の誘導方法であって、BMP−2、BMP−4、BMP−5、BMP−6、BMP−7、BMP−2/6ヘテロダイマー、およびBMP−2/7ヘテロダイマーからなる群より選択される骨形態形成蛋白の存在下で適当な細胞を培養することを含む、方法。
【請求項2】
細胞がマトリックスにおいて培養される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
マトリックスが、コラーゲン、フィブリン組織接着剤、ラミニン、ヒアルロン酸、およびコンドロイチン硫酸プロテオグリカン類からなる群より選択されるものである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
マトリックスがコラーゲンを含むものである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
コラーゲンがスポンジ形態である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
骨形態形成蛋白がBMP−2である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
星状細胞の増殖を誘導するための医薬組成物であって、BMP−2、BMP−4、BMP−5、BMP−6、BMP−7、およびBMP−2/6ヘテロダイマー、およびBMP−2/7ヘテロダイマーからなる群より選択される骨形態形成蛋白を有効量含む、医薬組成物。
【請求項8】
骨形態形成蛋白が適当なマトリックスに吸着されている、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
マトリックスがスポンジ形態のコラーゲンを含むものである、請求項8記載の医薬組成物。
【請求項10】
マトリックスが人工神経代替容器内に含まれている、請求項8記載の医薬組成物。
【請求項11】
人工神経代替容器が開口したシラスティック管を含むものである、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項12】
骨形態形成蛋白がBMP−2である、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項13】
骨形態形成蛋白がBMP−2である、請求項11記載の医薬組成物。

【公開番号】特開2007−130027(P2007−130027A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24523(P2007−24523)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【分割の表示】特願2004−268730(P2004−268730)の分割
【原出願日】平成6年8月19日(1994.8.19)
【出願人】(501418214)ジェネティクス インスティテュート,エルエルシー (35)
【出願人】(500033634)ザ・ボード・オブ・トラスティーズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・イリノイ (21)
【氏名又は名称原語表記】THE BOARD OF TRUSTEES OF THE UNIVERSITY OF ILLINOIS
【住所又は居所原語表記】506 South Wright Street, Urbana, IL 61801
【Fターム(参考)】