説明

時間デジタル変換器

【課題】スタート信号とストップ信号の時間差を計測する、高分解能、省電力、省スペースの時間デジタルコンバータ(TDC:Time−to−Digital Converter)を実現することを目的とする。
【解決手段】本発明は、時間領域で二分探索を行うn個のモジュールMないしMを直列に接続することにより、TDCを実現する。本発明では、スタート信号とストップ信号の立ち上がり時刻の時間差TDCoutを、MないしMの出力(tdc...tdc)から直接得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時間をデジタル値に変換する変換装置(TDC:Time−to−Digital Converter)に関する。
【背景技術】
【0002】
時間デジタル変換器(以下「TDC」と言う。)は、スタート信号(基準信号)と、ストップ信号(比較信号)との時間差を、デジタルで計測するために用いられる。近年、TDCは、通信分野や計測分野において広く利用されている。特に、周波数シンセサイザ、ディレイ・ロック・ループ(DLL)、オンチップ・テスト回路、アナログ・ディジタル変換器(ADC)等に用いられる。例えば、非特許文献1には、TDCを用いた周波数シンセサイザに係る技術が開示されている。
【0003】
図1は、TDCの原理を説明するための従来技術を示している。TDC100は、デジタル信号であるスタート信号とストップ信号の立ち上がり時刻の時間差tmを計測する。計測された時間差に対応する二進数ディジタルコードTDCoutが生成される。
【0004】
図1の動作は、以下の通りである。図1(b)のTDC100は、スタート信号が伝達されるスタート信号ライン110,ストップ信号が伝達されるストップ信号ライン120、及びスタート信号ライン110のノードの電圧とこれに対応するストップ信号ライン120のノードの電圧とを比較する比較器130(FないしF)、を有している。比較器130は、それぞれフリップフロップで実現されている。比較器130の各々の入力端子にスタート信号ラインの各ノードが接続されている。また、比較器130の各々のクロック端子にストップ信号ラインが接続されている。
【0005】
スタート信号とストップ信号との時間差は、比較器130のそれぞれの出力QないしQから、エンコーダ140を介してTDCoutとして出力される。入力信号ライン110に存在する遅延素子DないしDの各々は、遅延量t1で信号を伝達する機能を有している。この遅延素子は、例えばインバータを二段直列に接続することにより実現される。また、遅延量t1は、TDCの解像度(分解能)となる。
【0006】
遅延素子DないしDの遅延によって、比較器FないしFの入力には、所定の遅延量t1ずつ遅延したスタート信号が入力される。このため、ストップ信号120が「高(H)」となると、ある遅延素子Dおよび遅延素子Dよりも入力側(図1における左側)に近い遅延素子の出力は「高(H)」になるが、次の遅延素子Dk+1以降の出力は、「低(L)」状態である。この場合、QからQk+1までが「高(H)」であり、Qk+2(図示せず)以降は「低(L)」となる。したがって、kの値は、比較器の出力QないしQを観察し、その値が入力側から数えて何番目の出力まで「高(H)」であるか(この場合Qk+1)を調べることにより知ることができる。エンコーダ140により、比較器の出力QないしQの値を基にして、kの値を二進数に変換したTDCoutが、TDC100の出力として取り出される。
【0007】
図1(a)に、スタート信号110とストップ信号120のタイミングを示す。TDCoutの解像度(分解能)は、t1である。スタート信号とストップ信号の立ち上がりの時間差tmは、以下の計算式で求まる。
tm=t1×TDCout
ここで、図1(a)に示すように、スタート信号とストップ信号との正確な時間差taと、計測された時間差tmとの間には、量子化エラーteが存在する。
【0008】
なお、出力QないしQの値からTDCoutを出力するエンコーダ140の動作は、当業者に周知であるので、本願明細書においては説明しない。
【0009】
上述の量子化エラーte(te<=t1)を小さくするためには、遅延量t1を小さくすることが必要となる。図2は、解像度(分解能)を上げるために、ストップ信号ライン220にも遅延量t2の遅延素子DvないしDvを有するバーニア(Vernier)遅延ライン220を有する従来のTDC200を示す。図1のTDCと異なり、二つの遅延ラインを有する。第1の遅延ライン110に含まれた遅延素子(DないしD)と、バーニア遅延ライン220に含まれた遅延素子(DvないしDv)の遅延量には差がある(t1<t2)。この場合ストップ信号も、スタート信号と相対的に遅延するため、量子化の解像度(分解能)は、t2−t1となる。例えば、t1の遅延量が45ピコ秒の遅延量を有し、t2の遅延量が50ピコ秒であれば、t2−t1=50−45=5ピコ秒の解像度(分解能)となる。このバーニア遅延ラインを利用したTDCは、非特許文献2に開示されている。
【0010】
また、図1及び図2に示した従来例は、何れも、遅延素子、比較器等が非常に多く必要となるため、時間領域で、逐次比較(Successive approximation)を利用したTDC(以下「逐次比較型TDC」と言う。)も提案されている(非特許文献3)。この逐次比較型TDCは、基本的にスタート信号の立ち上がり時刻から、ストップ信号の立ち上がり時刻を測定する際に二分探索(binary search)を用いたものである。時間領域のデータに対して二分探索を行うため、二つの独立したデジタル時間変換器(DTC:Digital−to−analog converter)のそれぞれの出力を入力にフィードバックさせつつ、ストップ信号の立ち上がり時刻の二分探索を行う。このTDCの出力は、二進数で表された計測値が、上位ビット(MSB)から下位ビット(LSB)へと順次シフトレジスタに出力される。このため、図1及び図2に示されるエンコーダ140は、不要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】R. B. Staszewski et al., "1.3V 20ps time-to-digital converters for frequency synthesis in 90-nm CMOS," Transaction on Circuits and Systems-II: Express Briefs, pp. 220-224, Mar. 2006
【非特許文献2】P. Dudek et al., "A high-resolution CMOS time-to-digital converter utilizing a Vernier delay line," Journal of Solid-State Circuits, pp. 240-247, Feb. 2000
【非特許文献3】A. Mantyniemi et al., "A CMOS time-to-digital converter (TDC) based on a cyclic time domain successive approximation interpolation method," Journal of Solid-State Circuits, pp.3067-3078, Nov. 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図1に示した従来技術は、測定結果の精度を上げるために、非常に多くの素子を必要とする。例えば、10ビットの分解能を得るためには、少なくとも1024個の遅延素子と1024個の比較器が必要とされる。加えて、エンコーダ140が複雑化し、非常に大きな電力を消費する。
【0013】
また、図2に示した従来技術は、図1の従来技術に比較すると、少なくとも2倍の遅延素子を必要とする。測定の解像度が増加した分だけ、測定できる最大の時間(時間測定レンジ)が短くなるため、長い時間を測定するためには、更に段数を増加させる必要がある。このため、図1の従来技術よりも複雑度が増加し、更に大きな電力を消費することとなる。
【0014】
また、図1及び図2の従来技術は、回路が複雑であるため、大きな面積を必要とする。
【0015】
上述の逐次比較型TDCは、フィードバックを行いながら、二分探索を実行するため、必要なタイミングマージンを必要とし、測定に要する時間(変換時間)が長くかかる。
【0016】
TDCは、上述したように、例えば、高周波数帯域を利用した携帯端末の受信クロック同期などにも利用されている。このため、高速に、かつ低消費電力で動作し、加えて小さな面積に実装できることが望まれている。本発明は、上述の課題を解決し、高分解能、省電力、省スペースのTDCを実現することを目的とする。なお、ここに示した目的は、例示的なものであって、本発明の目的はこれらに限定されない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、n個の二分探索を行うモジュール(MないしM)を直列に接続することにより、TDCを実現する。スタート信号とストップ信号の立ち上がり時刻の時間差TDCoutを、モジュール(MないしM)の出力(tdcないしtdc)から直接得ることができる。
【0018】
より詳細には、本発明は、上記目的を達成するために、時間測定レンジTの範囲内で、スタート信号とストップ信号との時間差を自然数nの分解能で測定する時間デジタルコンバータであって、
前記スタート信号に、直列に接続されたn個の第1遅延素子であって、入力から数えてk番目(1<=k<=n)の前記第1遅延素子は、T/2の遅延量を有する、n個の第1遅延素子と、
前記ストップ信号に、各々がマルチプレクサを介して直列に接続されたn個の第2遅延素子であって、k番目の前記第2遅延素子は、T/2の遅延量を有する、n個の第2遅延素子と、
n個の判定回路であって、k番目の前記判定回路は、k番目の前記第1遅延素子の出力信号の変化エッジを基準時刻として、k番目の前記第2遅延素子の入力信号の変化エッジが、時間的に前に発生しているかを判定し、k番目の判定結果信号として出力する、n個の判定回路と、
を有し、
k番目の前記第2遅延素子の出力に接続された前記マルチプレクサは、k番目の前記判定結果信号に基づいて、k番目の前記第2遅延素子を利用するかバイパスするかを決定し、
第1の前記判定結果信号ないし第nの前記判定結果信号を、前記時間差を表す信号として出力する、時間デジタルコンバータを実現するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高分解能、低消費電力のTDCを小さな回路規模で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来技術を提示し、TDCの原理を説明するためのタイミング図とブロック図である。
【図2】バーニア遅延ラインを利用した従来技術を説明するためのブロック図である。
【図3】本発明の実施例を示す図である。
【図4】本発明の構成要素であるモジュールMの詳細を示す図である。
【図5】本発明の処理を模式的に示したタイミング図である。
【図6】本発明の遅延素子のキャリブレーションを行うためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図3は、本発明のTDCを示すブロック図である。スタート信号Sおよびストップ信号Pが、モジュールMに入力される。
【0022】
モジュールMは、スタート信号Sとストップ信号Pの時間差をnビットの二進数で表した場合の、最上位ビット(MSB)であるtdcを、レジスタ340に出力する。図3に示す実施例では、n段のモジュールで構成されているため、nビットのTDCデータ出力TDCout(tdcないしtdc)が得られる。
【0023】
レジスタ340は、各モジュールMないしMからの出力tdcないしtdcを一時的に記憶し、TDCの二進数出力であるTDCoutを出力するためのものである。各モジュールMないしMの動作は、パイプライン的に実行され、ステージ1ないしステージnにわけられる。レジスタ340は、tdcないしtdcを一時的に記憶できるものであれば、どのような構成の記憶装置であってもよい。独立したレジスタがn個存在してもよく、あるいは、n段のシフトレジスタであってもよい。
【実施例】
【0024】
図4に、ステージkにおけるモジュールMの回路構成の実施例を示す。モジュールMないしMの回路構成は、モジュールMと同様である。モジュールMの前のステージから、スタート信号S及びストップ信号Pが、モジュールMに入力される。スタート信号Sは、T/2の遅延量を有する遅延素子Ds(k)に入力され、遅延信号Sdとなる。遅延信号Sdは、サンプル/ホールド回路S/H(k)のホールド入力端子に入力される。また、遅延信号Sdは、遅延素子d1(k)及びDc(k)を介して、次のステージのモジュールMk+1のスタート信号Sk+1となる。
【0025】
また、前のステージからのストップ信号Pは、T/2の遅延量を有する遅延素子Dp(k)に入力され、遅延素子d2(k)を介して、マルチプレクサM(k)の一方の入力端子に接続されている。また、ストップ信号Pは、サンプル/ホールド回路S/H(k)の入力に接続される。加えて、ストップ信号Pは、遅延素子d3(k)を介して、マルチプレクサM(k)の他方の入力端子に接続される。
【0026】
マルチプレクサM(k)は、図4に示すように、サンプル/ホールド回路S/H(k)の出力が"0"の場合には、遅延素子Dp(k)および遅延素子d2(k)を経由したストップ入力信号を、次のステージのストップ信号Pk+1として出力する。また、サンプル/ホールド回路S/H(k)の出力が"1"の場合には、遅延素子d3(k)を経由したストップ信号Pを、次のステージのストップ信号Pk+1として出力する(遅延素子Dp(k)はバイパスされる)。
【0027】
なお、遅延素子d1(k)、d2(k)及びd3(k)は、サンプル/ホールド回路S/H(k)の遅延量と同じ遅延量TS/Hを有する。これらの遅延素子は、それぞれのラインにサンプル/ホールド回路S/H(k)の遅延量と同じ遅延量TS/Hを加えることによって、以降の回路に対してサンプル/ホールド回路S/H(k)の遅延量TS/Hを補償するための役割を果たすものである。加えて、遅延素子Dc(k)は、マルチプレクサM(k)の遅延量と同じ遅延量Tを有する。遅延素子Dc(k)は、同じ遅延量Tをスタート信号ラインにも加えることによって、以降のステージにおける回路に対してマルチプレクサM(k)の遅延量Tを相殺し、補償するための役割を果たすものである。このように、d1(k)、d2(k)、d3(k)、及びDc(k)を挿入することによって、サンプル/ホールド回路S/H(k)及びマルチプレクサM(k)によって生じる遅延量が、次のステージへのスタート信号Sk+1及びストップ信号Pk+1に影響するのを防止することができる。
【0028】
図5は、n=4の場合における本発明の動作を模式的に示したタイミング図である。なお、nは4に限られず、実際に使用される回路においては、n=10などの他のステージ数を有してもよい。したがって、図5に示す実施例は、本発明を限定するものではない。また、図5においては、説明をわかりやすくするために、各ステージにおいて、上述したd1(k)、d2(k)、d3(k)、及びDc(k)を挿入することによって生じる補償のための遅延量TS/H及びTは考慮していない。また、以下の説明においても、補償のための遅延については、説明をわかりやすくするために省略する。
【0029】
図5において、時間差の測定レンジをTとする。そして、図5に示すスタート信号Sおよびストップ信号Pが入力されたとする。以下、各ステージについて説明する。
【0030】
[ステージ1]
図5におけるステージ1のタイミング図は、モジュールMにおけるタイミングを示している。信号Sdは、スタート信号SをT/2だけ遅延させた信号を示している。モジュールMのサンプル/ホールド回路S/H(1)のホールド入力端子に信号Sdが入力され、入力端子にはストップ入力信号Pが入力される。ステージ1では、信号Sdの立ち上がりタイミング501で、ストップ信号Pの反転した値をホールドし、tdcとして出力する。図5におけるステージ1の場合、タイミング501において、ストップ信号Pは"1"となっているため、この反転した値"0"がtdcとして出力される。そして、マルチプレクサM(1)には、"0"が制御信号として入力される。このため、マルチプレクサM(1)は、Dp(1)を経由し、ストップ信号PをT/2だけ遅延させた信号を通過させ、ステージ2にストップ信号Pとして伝達する。
【0031】
このように、サンプル/ホールド回路S/H(1)は、入力されたスタート信号Sの遅延信号Sdの立ち上がり(すなわち変化エッジ)時刻501を基準として、入力されたストップ信号Pの立ち上がり時刻が、時間的に前に発生していたかどうかをチェックしていることになる。時間的に前に発生していた場合には、サンプル/ホールド回路S/H(1)は、tdcとして値"0"を出力し、それ以外の場合には、サンプル/ホールド回路S/H(1)は、tdcとして値"1"を出力することになる。
【0032】
[ステージ2]
図5におけるステージ2では、モジュールMにおいて、スタート信号Sは、遅延素子Ds(2)によって、T/2だけ遅延され、信号Sdとなる。また、ストップ信号Pは、上述のステージ1において、ストップ信号PをT/2だけ遅延した信号となっている。モジュールM2のサンプル/ホールド回路S/H(2)のホールド入力端子に信号Sdが入力され、入力端子にはストップ信号Pが入力される。ステージ2では、信号Sdの立ち上がりタイミング502で、ストップ信号Pの反転した値をホールドし、tdcとして出力する。図5におけるステージ2の場合、タイミング502において、ストップ信号Pは"0"となっているため、この反転した値"1"がtdcとして出力される。そして、マルチプレクサM(2)には、"1"が制御信号として入力される。このため、マルチプレクサM(2)は、ストップ信号Pを遅延させず、そのまま通過させ、ステージ3にストップ信号Pとして伝達する。
【0033】
[ステージ3]
図5におけるステージ3では、モジュールMにおいて、スタート信号Sは、遅延素子Ds(3)によって、T/2だけ遅延され、信号Sdとなる。また、ストップ信号Pは、上述のステージ2において、ストップ信号Pがそのまま通過した信号となっている。モジュールMのサンプル/ホールド回路S/H(3)のホールド入力端子に信号Sdが入力され、入力端子にはストップ信号Pが入力される。ステージ3では、信号Sdの立ち上がりタイミング503で、ストップ信号Pの反転した値をホールドし、tdcとして出力する。図5におけるステージ3の場合、タイミング503において、ストップ信号Pは"0"となっているため、この反転した値"1"がtdcとして出力される。そして、マルチプレクサM(3)には、"1"が制御信号として入力される。このため、マルチプレクサM(3)は、ストップ信号Pを遅延させず、そのまま通過させ、ステージ4にストップ信号Pとして伝達する。
【0034】
[ステージ4]
図5におけるステージ4では、モジュールMにおいて、スタート信号Sは、遅延素子Ds(4)によって、T/2だけ遅延され、信号Sdとなる。また、ストップ信号Pは、上述のステージ3において、ストップ信号Pがそのまま通過した信号となっている。モジュールMのサンプル/ホールド回路S/H(4)のホールド入力端子に信号Sdが入力され、入力端子にはストップ入力信号Pが入力される。ステージ4では、信号Sdの立ち上がりタイミング504で、ストップ信号Pの反転した値をホールドし、tdcとして出力する。図5におけるステージ4の場合、タイミング504において、ストップ信号Pは"1"となっているため、この反転した値"0"がtdcとして出力される。
【0035】
[出力DCTout
以上のステージ1ないし4を経て、DCTout(すなわちtdc、tdc、tdc、tdc)として、二進数"0110"が出力される。なお、この値は、10進数に変換すれば6である。したがって、スタート信号Sとストップ信号Pとの時間差は、T/TDCout=T/6として把握されることになる。
【0036】
[遅延素子のキャリブレーション]
本発明には、種々の遅延素子が存在する。本発明の回路を集積回路に実装する際に、遅延素子には、誤差が発生する場合がある。このため、集積回路内の各遅延素子の遅延量を所望の値に調整するためのキャリブレーションが必要となる場合がある。キャリブレーションを行うことによって、高精度のTDCとして動作させることが可能である。
【0037】
図6に、モジュールMの遅延素子のキャリブレーションを行うためのブロック図を示す。図6は、図4のブロック図に加えて、スタート信号Sとストップ信号Pとを比較するためのサンプル/ホールド回路S/H2(k)を設置する。このサンプル/ホールド回路S/H2(k)は、Align(k)を出力し、スタート信号Sとストップ信号Pとのタイミングが一致しているかをチェックするために用いられる。また、遅延素子Ds(k)、Dp(k)及びDc(k)の遅延量は、外部からコントロールできるようになっている。
【0038】
遅延素子のキャリブレーションについては、種々の方法が考えられるが、以下、その一例について説明する。本発明は、以下のキャリブレーションに限定されるものではない。
【0039】
図6に示すように、遅延素子Ds(k)、Dp(k)及びDc(k)に対して、外部から遅延量をコントロールし、キャリブレーションが行えるようにする。図6を用いて、キャリブレーションの例を以下説明する。
【0040】
(1)Align(k)信号をモニタリングすることにより、スタート信号Sとストップ信号Pとのタイミングを合わせる。
【0041】
(2)ストップ信号PをT/2だけ遅延させる。
【0042】
(3)tdcを見ながら、遅延素子Ds(k)の遅延量を調整し、スタート信号SをT/2だけ遅延させる。これによって、信号SdとPのタイミングが一致する。
【0043】
(4)次のステージのモジュールMk+1のAlign(k+1)をモニタリングすることにより、遅延素子Dc(k)を調整する。これによって、モジュールMの出力であるスタート信号Sk+1とストップ信号Pk+1のタイミングを合わせることができる。この調整によって、サンプル/ホールド回路S/H(k)およびマルチプレクサM(k)の遅延が補償されることになる。
【0044】
(5)上記(2)において、遅延させたストップ信号Pの遅延を解除し、スタート信号Sとストップ信号Pのタイミングを合わせる。そして、Align(n+1)をモニタリングしながら、遅延素子Dp(k)を調整する。この結果、遅延素子Dp(k)の遅延量は、T/2となる。
【0045】
以上で、各遅延素子のキャリブレーションが終了する。
【0046】
なお、遅延量が小さくなる後段のステージのモジュールにおける遅延素子は、バーニア遅延ラインを利用してもよい。これは、ストップ信号のライン(例えば、図4において401の位置)に遅延素子を挿入することによって実現できる。なお、バーニア遅延ラインの動作については、図2を用いて既に説明したとおりである。
【0047】
また、本願明細書に記載された各実施例の構成は、排他的なものではなく、矛盾が生じない限り、各実施例の構成を自由に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0048】
〜S スタート信号
〜P ストップ信号
〜M モジュール
M(k) モジュールMにおけるマルチプレクサ
時間差の測定レンジ
S/H(k) モジュールMにおけるサンプル/ホールド回路
S/H2(k) モジュールMにおけるサンプル/ホールド回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間測定レンジTの範囲内で、スタート信号とストップ信号との時間差を自然数nの分解能で測定する時間デジタルコンバータであって、
前記スタート信号に、直列に接続されたn個の第1遅延素子であって、入力から数えてk番目(1<=k<=n)の前記第1遅延素子は、T/2の遅延量を有する、n個の第1遅延素子と、
前記ストップ信号に、各々がマルチプレクサを介して直列に接続されたn個の第2遅延素子であって、k番目の前記第2遅延素子は、T/2の遅延量を有する、n個の第2遅延素子と、
n個の判定回路であって、k番目の前記判定回路は、k番目の前記第1遅延素子の出力信号の変化エッジを基準時刻として、k番目の前記第2遅延素子の入力信号の変化エッジが、時間的に前に発生しているかを判定し、k番目の判定結果信号として出力する、n個の判定回路と、
を有し、
k番目の前記第2遅延素子の出力に接続された前記マルチプレクサは、k番目の前記判定結果信号に基づいて、k番目の前記第2遅延素子を利用するかバイパスするかを決定し、
第1の前記判定結果信号ないし第nの前記判定結果信号を、前記時間差を表す信号として出力する、時間デジタルコンバータ。
【請求項2】
k番目の前記第2遅延素子の出力に接続された前記マルチプレクサは、k番目の前記判定結果信号が肯定的である場合には、k番目の前記第2遅延素子の出力信号を選択し、k番目の判定結果信号が否定的である場合には、k番目の前記第2遅延素子の入力信号を選択し、k+1番目の前記第2遅延素子に伝達する、
請求項1記載の時間デジタルコンバータ。
【請求項3】
n個の前記第1遅延素子の一部は、バーニア遅延回路を構成する、請求項1又は2記載の時間デジタルコンバータ。
【請求項4】
前記判定回路、及び前記マルチプレクサのうち少なくとも1つの遅延量を補償する1つ以上の補償遅延素子を更に有する、請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の時間デジタルコンバータ。
【請求項5】
n個の前記第1遅延素子、n個の前記第2遅延素子、及び前記少なくとも1つの補償遅延素子のうち、少なくとも1つは、遅延量を可変できる遅延素子で構成される、請求項4記載の時間デジタルコンバータ。
【請求項6】
n個のキャリブレーション用判定回路であって、k番目の前記第1遅延素子の入力信号の変化エッジを基準時刻として、k番目の前記第2遅延素子の入力信号の変化エッジが、時間的に前に発生しているかを判定し、k番目のキャリブレーション用判定結果信号として出力する、n個のキャリブレーション用判定回路を更に有する、請求項5記載の時間デジタルコンバータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−138848(P2012−138848A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291150(P2010−291150)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「極低電力回路・システム技術開発(グリーンITプロジェクト)」委託開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】