説明

暖房便座装置

【課題】クッション部を有する便座の着座面の温度をオーバーシュートすることなく目標温度に到達させることができる、あるいは省エネルギー化を図ることができる暖房便座装置を提供することを目的とする。
【解決手段】ヒータと、前記ヒータと着座面との間に設けられたクッション部と、前記着座面の近傍の温度を検知する第1の温度検知手段と、を有する便座と、前記第1の温度検知手段の検知温度を設定された目標温度に向けて上昇させるように前記ヒータに通電する第1の加熱動作を実行し、前記通電に対応した前記第1の温度検知手段の検知温度の上昇率に基づいて前記ヒータに通電することにより前記第1の温度検知手段の検知温度を前記目標温度に接近させる第2の加熱動作を実行する制御部と、を備えたことを特徴とする暖房便座装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、一般的に、暖房便座装置に関し、具体的には便器に設けられる便座を暖めることができる暖房便座装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、便座の座面は、PP(polypropylene:ポリプロピレン)等の樹脂で製造されている。そのため、使用者が便座に座ったときに、硬い座り心地を与えている。また一方、冬場などの気温の低いときに冷えた便座に座ると、冷感を感じる。そこで、着座時の衝撃を吸収し、かつ着座状態の座り心地がよく、かつ長時間の着座の際においても人体への影響度が小さい便座を有し、かつ便座表面から人体の皮膚を温める際に無駄な熱損失が少なく、快適でエネルギー効率のよい便座装置がある(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、弾性体層(クッション部)は、一般的に熱抵抗が大きいため、ヒータの熱が着座面に伝わるまでに長い時間がかかる。つまり、ヒータの温度が変化してから着座面の温度が変化するまでに長い時間がかかる。そのため、着座面の温度を目標温度にするために、その着座面の温度を検知しながらヒータの通電量(加熱量)を制御すると、着座面の温度がオーバーシュートしてしまうおそれがある。そうすると、便座の快適性を損なったり、電力を無駄に消費するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−97937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、クッション部を有する便座の着座面の温度をオーバーシュートすることなく目標温度に到達させることができる、あるいは省エネルギー化を図ることができる暖房便座装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、ヒータと、前記ヒータと着座面との間に設けられたクッション部と、前記着座面の近傍の温度を検知する第1の温度検知手段と、を有する便座と、前記第1の温度検知手段の検知温度を設定された目標温度に向けて上昇させるように前記ヒータに通電する第1の加熱動作を実行し、前記通電に対応した前記第1の温度検知手段の検知温度の上昇率に基づいて前記ヒータに通電することにより前記第1の温度検知手段の検知温度を前記目標温度に接近させる第2の加熱動作を実行する制御部と、を備えたことを特徴とする暖房便座装置である。
この暖房便座装置によれば、着座面の温度をオーバーシュートすることなく、より早く目標温度に到達させることができる。そのため、無駄な電力を削減することができ、暖房便座装置の省エネルギー化を図ることができる。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記制御部は、前記第2の加熱動作において、前記検知温度の前記上昇率に基づいて、前記検知温度を前記目標温度に接近させるヒータの通電量を決定し、前記決定した通電量に基づいて前記ヒータに通電することを特徴とする暖房便座装置である。
この暖房便座装置によれば、第2の加熱動作において、ヒータへの通電量をより的確に決定し、着座面の温度をオーバーシュートすることなく、より早く目標温度に到達させることができる。
【0008】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、前記制御部は、前記第2の加熱動作を実行した後、前記第1の温度検知手段の検知温度が前記目標温度に維持されるように前記ヒータに通電する第3の加熱動作を実行することを特徴とする暖房便座装置である。
この暖房便座装置によれば、着座面の温度を設定された目標温度に維持することができるため、使用者は、いつ便座に着座しても快適感を得ることができる。
【0009】
また、第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記便座は、前記ヒータの近傍の温度を検知する第2の温度検知手段をさらに有し、前記制御部は、前記第1の加熱動作において、前記第2の温度検知手段の検知温度と、前記目標温度と、の温度差に応じて決定された加熱量に基づいて前記ヒータに通電することを特徴とする暖房便座装置である。
この暖房便座装置によれば、現在のヒータ近傍の温度と、設定された目標温度と、により第1の加熱動作の加熱量を決定するため、着座面の温度が目標温度に到達するまでの時間を短縮することができる。
【0010】
また、第5の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記制御部は、前記第1の加熱動作において、前記第1の温度検知手段の検知温度と、前記目標温度と、の温度差に応じて決定された加熱量に基づいて前記ヒータに通電することを特徴とする暖房便座装置である。
この暖房便座装置によれば、現在の着座面の温度と、設定された目標温度と、により第1の加熱動作の加熱量を決定するため、着座面の温度が目標温度に到達するまでの時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の態様によれば、クッション部を有する便座の着座面の温度をオーバーシュートすることなく目標温度に到達させることができる、あるいは省エネルギー化を図ることができる暖房便座装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態にかかる暖房便座装置を備えたトイレ装置を例示する斜視模式図である。
【図2】本実施形態の便座の断面を表す断面模式図である。
【図3】ヒータの温度と、着座面の温度と、の関係を表すグラフ図である。
【図4】ヒータへの供給電力と、ヒータおよび着座面の温度と、の関係を表すグラフ図である。
【図5】本実施形態の比較例にかかる暖房便座装置のヒータの温度と、着座面の温度と、の関係を表すグラフ図である。
【図6】本実施形態の他の比較例にかかる暖房便座装置のヒータの温度と、着座面の温度と、の関係を表すグラフ図である。
【図7】本実施形態のさらに他の比較例にかかる暖房便座装置のヒータの温度と、着座面の温度と、の関係を表すグラフ図である。
【図8】本実施形態にかかる暖房便座装置の動作の具体例を例示するフローチャートである。
【図9】本実施形態にかかる暖房便座装置の動作の他の具体例を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる暖房便座装置を備えたトイレ装置を例示する斜視模式図である。
また、図2は、本実施形態の便座の断面を表す断面模式図である。
なお、図2は、図1に表したA−A断面図に相当する。
【0014】
図1に表したトイレ装置は、洋式腰掛便器(以下説明の便宜上、単に「便器」と称する)800と、その上に設けられた暖房便座装置100と、を備える。暖房便座装置100は、暖房便座機能部400と、便座200と、便蓋300と、を有する。便座200と便蓋300とは、暖房便座機能部400に対して開閉自在にそれぞれ軸支されている。
【0015】
便座200は、図2に表したように、ヒータ210を内蔵する。このヒータ210は、通電されて発熱することにより、便座200を暖めることができる。つまり、ヒータ210は、便座の表面(着座面)に伝えられる熱を発生する。なお、図1に表した便座200では、1本のヒータ210が往復するように設置されているが、ヒータ210の設置形態や設置数はこれだけに限定されず、例えば2本以上の複数のヒータ210が設置されていてもよい。
【0016】
ヒータ210としては、いわゆる「チュービングヒータ」や、「シースヒータ」、「ハロゲンヒータ」、「カーボンヒータ」などを用いることができる。また、ヒータ210の形状は、ワイヤ状やシート状やメッシュ状などのいずれであってもよい。
【0017】
また、便座200は、基材230と、弾力性(クッション性)を有するクッション部240と、クッション部240の上面や側面を覆う表面部250と、ヒータ210の上に隣接して設けられた熱伝導体260と、基材230の内部に設けられた断熱材220と、を有する。基材230は、上板231と底板233とを有する。但し、基材230は、一体的に形成されていてもよい。また、表面部250の表面は、着座面として機能する。
【0018】
基材230は、例えばPP(polypropylene:ポリプロピレン)等の樹脂から形成されている。熱伝導体260としては、例えばアルミシートやカーボンシートなどが挙げられる。クッション部240は、基材230よりも柔らかい材料により形成され、使用者が便座200に着座すると、その体重に応じて変形して体重を分散させる。クッション部240は、基材230の上に設けられクッション性を有するため、使用者が便座200に座ったときの座り心地を向上させることができる。また、断熱材220は、便座200の下への放熱を抑制できる。
【0019】
また、便座200は、第1の温度検知手段271と、第2の温度検知手段272と、を内蔵する。第1の温度検知手段271は、例えば表面部250の近傍に設けられ、着座面の近傍の温度を検知できる。一方、第2の温度検知手段272は、例えばヒータ210の近傍に設けられ、ヒータ210近傍の温度を検知できる。
なお、第1の温度検知手段271は、相対的にみて着座面の近くに配置され、一方、第2の温度検知手段272は、相対的にみてヒータ210の近くに配置されていればよい。つまり、着座面からみたときに、第2の温度検知手段272よりも第1の温度検知手段271のほうが近くに配置され、一方、ヒータ210からみたときには、第1の温度検知手段271よりも第2の温度検知手段272のほうが近くに配置されていればよい。
あるいは、第1の温度検知手段271の検知温度は、ヒータ210の温度よりも着座面の温度に近く、一方、第2の温度検知手段272の検知温度は、着座面の温度よりもヒータ210の温度に近いように、第1及び第2の温度検知手段271、272を配置すればよい。
【0020】
暖房便座機能部400は、第1および第2の温度検知手段271、272の少なくともいずれかからの検知信号に基づいてヒータ210の通電量(加熱量)を制御する制御部410を有する。また、暖房便座機能部400は、便座200への使用者の着座を検知する着座検知センサ420と、トイレ室への使用者の入室を検知する入室検知センサ430と、便蓋300が閉止したことを検知する便蓋開閉検知センサ450と、を有する。
【0021】
着座検知センサ420および入室検知センサ430としては、例えば、焦電センサや、測距センサなどの赤外線投光式のセンサ、超音波センサ、またはドップラーセンサなどのマイクロ波センサなどを用いることができる。また、便蓋開閉検知センサ450としては、例えば、ホールICまたはマイクロスイッチなどを用いることができる。そのため、便蓋開閉検知センサ450は、暖房便座機能部400に内蔵されていることに限定されず、便蓋300のヒンジ部や暖房便座機能部400の外部に設けられていてもよい。つまり、便蓋開閉検知センサ450は、便蓋300が閉止したことを検知できればよい。これは、着座検知センサ420および入室検知センサ430についても同様であり、着座検知センサ420および入室検知センサ430は、暖房便座機能部400に内蔵されていることに限定されない。
【0022】
図1に表したトイレ装置では、暖房便座機能部400の上面に凹設部441が形成され、この凹設部441に一部が埋め込まれるように入室検知センサ430が設けられている。入室検知センサ430は、便蓋300が閉じた状態では、その基部付近に設けられた透過窓310を介して使用者の入室を検知する。
【0023】
また、暖房便座機能部400は、衛生洗浄装置としての機能部を併設してもよい。すなわち、暖房便座機能部400は、便座200に座った使用者の「おしり」などに向けて水を噴出する図示しない吐水ノズルを有する衛生洗浄機能部などを適宜備えてもよい。なお、本願明細書において「水」という場合には、冷水のみならず、加熱されたお湯も含むものとする。
【0024】
またさらに、暖房便座機能部400には、便座200に座った使用者の「おしり」などに向けて温風を吹き付けて乾燥させる「温風乾燥機能」や「脱臭ユニット」や「室内暖房ユニット」などの各種の機構が適宜設けられていてもよい。この際、暖房便座機能部400の側面には、脱臭ユニットからの排気口443及び室内暖房ユニットからの排出口445が適宜設けられる。ただし、本発明においては、衛生洗浄機能部やその他の付加機能部は必ずしも設けなくてもよい。
【0025】
次に、本実施形態にかかる暖房便座装置の動作の概要について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図3は、ヒータの温度と、着座面の温度と、の関係を表すグラフ図である。
なお、図3に表したグラフ図において、分岐後の太い実線は本実施形態の着座面の温度を表しており、分岐後の太い破線は本実施形態のヒータの温度を表している。一方、分岐後の細い実線は比較例の着座面の温度を表しており、分岐後の細い破線は比較例のヒータの温度を表している。
本実施形態にかかる暖房便座装置100において、制御部410は、まず、便座200の着座面の温度を設定された目標温度に到達させるようにヒータ210に通電し加熱させる(第1の加熱動作)。より具体的には、制御部410は、第1の温度検知手段271により検知された着座面の温度と、設定された目標温度と、の温度差ΔT1に応じて決定された加熱量に基づいてヒータ210に通電する。なお、制御部410は、第2の温度検知手段272により検知されたヒータ210近傍の温度と、設定された目標温度と、の温度差ΔT2に応じて決定された加熱量に基づいてヒータ210に通電してもよい。これによれば、着座面の温度が設定された目標温度に到達するまでの時間を短縮することができる。
【0027】
続いて、制御部410は、第1の温度検知手段271により検出された着座面の温度の上昇率に応じて、着座面の温度を設定された目標温度に到達させるヒータの総通電量(総加熱量)を算出する。そして、制御部410は、算出した総加熱量に基づいて、ヒータ210に通電する(第2の加熱動作)。この第2の加熱動作の具体例については、後に詳述する。
【0028】
なお、本願明細書において、「温度の上昇率」とは、着座面の温度を目標温度に到達させるようにヒータの通電量を制御し始めてから、着座面の温度が所定温度上昇したときの温度変化率をいうものとする。あるいは、「温度の上昇率」とは、着座面の温度を目標温度に到達させるようにヒータの通電量を制御し始めてから、着座面の温度が所定温度上昇するまでの経過時間をいうものとする。あるいは、「温度の上昇率」とは、着座面の温度を目標温度に到達させるようにヒータの通電量を制御し始めてから、所定時間経過するまでに上昇した着座面の温度をいうものとする。
【0029】
これによれば、図3に表した太い実線のように、着座面の温度は、オーバーシュートすることなく、より早く目標温度に到達する。そのため、無駄な電力を削減することができ、暖房便座装置100の省エネルギー化を図ることができる。
【0030】
これに対して、制御部410が、第1の温度検知手段271により検知された着座面の温度と、設定された目標温度と、の温度差ΔT1に応じて決定された加熱量だけでヒータの通電量を制御する場合には、着座面の温度が目標温度に到達するまでの時間は、図3に表した細い実線のように、より長くなる。これは、弾力性を有するクッション部240の熱抵抗は、一般的に大きく、ヒータの熱が着座面に伝わるまでに長い時間がかかるためである。つまり、着座面の温度には、より大きな応答遅れがある。
【0031】
続いて、制御部410は、第2の加熱動作において算出した総加熱量に基づいて通電を行った後に、着座面の温度を設定された目標温度に維持するようにヒータ210に通電し加熱させる(第3の加熱動作)。このときの加熱量は、トイレ室内の外気温度や、便蓋300の開閉状態や、使用者の便座200への着座状態などに応じて決定される。これによれば、着座面の温度を目標温度に維持することができるため、使用者は、いつ便座に着座しても快適感を得ることができる。なお、制御部410は、これらの状態に応じた加熱量をテーブルあるいは関係式として予め保存しておき、その保存されたデータを参照することにより、第3の加熱動作における加熱量を決定してもよい。以下、本実施形態にかかる暖房便座装置100の動作について、図面を参照しつつさらに説明する。
【0032】
図4は、ヒータへの供給電力と、ヒータおよび着座面の温度と、の関係を表すグラフ図である。
本実施形態の制御部410は、図3に関して前述したように、第1の温度検知手段271により検出された着座面の温度の上昇率に応じて、着座面の温度を設定された目標温度に到達させるためのヒータの総加熱量(図4に表した斜線領域)を算出する。より具体的には、制御部410は、着座面の温度の上昇率がより小さい場合には、着座面の温度を目標温度により早く到達させるように、より大きな総加熱量を設定する。一方、制御部410は、着座面の温度の上昇率がより大きい場合には、着座面の温度をオーバーシュートさせないように、より小さな総加熱量を設定する。
【0033】
ここで、着座面の温度の上昇率は、便蓋300の開閉状態により変化する。より具体的には、便蓋300が開放しているときには、便座200の表面は、外気に露出される。そのため、便座200の表面からの放熱量はより大きく、着座面の温度の上昇率はより小さい。一方、便蓋300が閉止しているときには、便座200の表面は、便蓋300に覆われる。そのため、便座200の表面からの放熱量はより小さく、着座面の温度の上昇率はより大きい。なお、便蓋300の開閉状態については、便蓋開閉検知センサ450により検知することができる。
【0034】
あるいは、着座面の温度の上昇率は、使用者の便座200への着座状態により変化する。より具体的には、使用者が便座200に着座していないときには、便座200の表面は、外気に露出される。そのため、便座200の表面からの放熱量はより大きく、着座面の温度の上昇率はより小さい。一方、使用者が便座200に着座しているときには、便座200の表面は、人体に接触している。そのため、便座200の表面からの放熱量はより小さく、着座面の温度の上昇率はより大きい。なお、使用者の便座200への着座状態については、着座検知センサ420により検知することができる。
【0035】
あるいは、着座面の温度の上昇率は、着座面の温度を設定された目標温度に到達させるためのヒータの総加熱量を算出する前の加熱状態により変化する。このような加熱状態については、制御部410に記憶された通電履歴を参照することにより検索できる。あるいは、着座面の温度の上昇率は、経年劣化によるクッション部240の潰れ状態により変化する。これは、クッション部240が潰れると、ヒータ210と着座面との距離が小さくなり、クッション部240の密度が上がる(例えば、クッション部240が発泡性樹脂の場合には、クッション部240が潰れると気泡が潰れて発泡密度が小さくなる)ため、クッション部240の熱抵抗が小さくなり、ヒータ210からの熱が伝導し易くなるためである。
【0036】
このように、着座面の温度の上昇率は、便座200や便蓋300の使用状態などにより変化する。そのため、便座200の着座面の温度をいわゆるPID制御(Proportinal Control-Integral Control-Differential Control )により制御する場合であっても、時定数が変化するため、比例要素や微分要素における定数(フィードバックゲイン)は、時定数の変化に応じて変化する。制御部410が、このような時定数の変化に応じた定数(フィードバックゲイン)をテーブルとして保存しておくとしても、便座200や便蓋300の使用状態などによる影響をより正確に判断することは困難な場合がある。つまり、便座200や便蓋300の使用状態などに応じた時定数のパターンは、多く存在し、その時定数のパターンをより正確に判断し保存しておくことは困難な場合がある。また、テーブルとして保存しておくデータ量が大きくなり、大がかりになる場合がある。
【0037】
これに対して、本実施形態の制御部410は、第1の温度検知手段271により検出された着座面の温度の上昇率に応じて、着座面の温度を設定された目標温度に到達させるためのヒータの総加熱量を算出する。つまり、着座面の温度の上昇率は、便座200や便蓋300の使用状態などによる影響を受けた結果として変化するため、制御部410は、着座面の温度の上昇率に応じてヒータの総加熱量を算出することにより、その総加熱量をより正確に、より早く算出できる。
【0038】
これによれば、本実施形態にかかる暖房便座装置100は、着座面の温度を目標温度に到達させるまでの時間を短縮できる。そのため、無駄な電力を削減することができ、暖房便座装置100の省エネルギー化を図ることができる。なお、制御部410は、着座面の温度の上昇率と、第2の加熱動作における総加熱量と、の関係をテーブルあるいは関係式として予め保存しておき、その保存されたデータを参照することにより、第2の加熱動作における総加熱量を決定することができる。
【0039】
次に、本実施形態の比較例について、図面を参照しつつ説明する。
図5は、本実施形態の比較例にかかる暖房便座装置のヒータの温度と、着座面の温度と、の関係を表すグラフ図である。
また、図6は、本実施形態の他の比較例にかかる暖房便座装置のヒータの温度と、着座面の温度と、の関係を表すグラフ図である。
また、図7は、本実施形態のさらに他の比較例にかかる暖房便座装置のヒータの温度と、着座面の温度と、の関係を表すグラフ図である。
【0040】
制御部410が、第2の温度検知手段272により検知されたヒータ210近傍の温度と、設定された目標温度と、の温度差ΔT2に応じて決定された加熱量だけでヒータの通電量を制御する場合には、着座面の温度が目標温度に到達するまでの時間は、図5に表したように、より長くなる。あるいは、着座面の温度が目標温度に到達できない場合がある。これは、弾力性を有するクッション部240の熱抵抗は、一般的に大きく、ヒータの熱が着座面に伝わるまでに長い時間がかかるためである。つまり、着座面の温度には、より大きな応答遅れがある。これによれば、暖房便座装置の省エネルギー化を図ることが困難な場合がある。
【0041】
そこで、着座面の温度が目標温度により早く到達できるように、制御部410が、第1の温度検知手段271により検知された着座面の温度と、設定された目標温度と、の温度差ΔT1に応じて決定された加熱量だけでヒータの通電量を制御すると、図6に表したように、オーバーシュート(図6に表した斜線領域)が生ずるおそれがある。つまり、制御部410は、着座面の温度が目標温度に到達したことを検知してヒータ210の通電量を低減させても、着座面の温度には、より大きな応答遅れがあるため、着座面の温度が目標温度よりも高くなるおそれがある。
【0042】
一方、制御部410は、着座面の温度が目標温度に低下したことを検知してヒータ210の通電量を増加させても、着座面の温度には、より大きな応答遅れがあるため、アンダーシュート(図6に表した点領域)が生ずるおそれがある。このように、本比較例によれば、オーバーシュートやアンダーシュートが生ずるおそれがあり、着座面の温度が安定するまでに時間がかかるおそれがある。そうすると、暖房便座装置の省エネルギー化を図ることが困難となる。
【0043】
また、ヒータ210と着座面との間の熱抵抗がより小さい場合、すなわち例えばクッション部240が設けられていない場合には、図7に表したように、ヒータ210の温度と、着座面の温度と、の間には追従性の良い比例関係がある。そのため、制御部410は、第2の温度検知手段272により検知されたヒータ210近傍の温度と、設定された目標温度と、の温度差ΔT2に応じて決定された加熱量だけでヒータの通電量を制御することにより、着座面の温度をより早く、より安定的に目標温度に到達できる。
【0044】
しかしながら、本比較例では、クッション部240が設けられていないため、使用者が便座に座ったときに、硬い座り心地を与える場合がある。そのため、着座状態の座り心地があまりよくなく、使用者は、長時間に亘って着座していると苦痛を感ずる場合がある。
【0045】
図5〜図7に表した比較例に対して、本実施形態にかかる暖房便座装置100では、制御部410は、第1の温度検知手段271により検出された着座面の温度の上昇率に応じて、着座面の温度を設定された目標温度に到達させるヒータの総加熱量を算出する。そして、制御部410は、算出した総加熱量に基づいて、ヒータ210に通電する(第2の加熱動作)。そのため、着座面の温度は、オーバーシュートすることなく、より早く目標温度に到達する。したがって、無駄な電力を削減することができ、暖房便座装置100の省エネルギー化を図ることができる。また、便座200には弾力性を有するクッション部240が設けられているため、使用者が便座200に座ったときの座り心地を向上させることができる。
【0046】
次に、本実施形態にかかる暖房便座装置の動作の具体例について、図面を参照しつつ説明する。
図8は、本実施形態にかかる暖房便座装置の動作の具体例を例示するフローチャートである。
【0047】
制御部410は、まず、タイマーを初期化し(ステップS101)、着座面の温度の設定があるか否かを判断する(ステップS103)。着座面の温度の設定がある場合には(ステップS103:Y)、制御部410は、着座面およびヒータ210近傍の温度を測定する(ステップS105)。なお、着座面の温度については、第1の温度検知手段271により検知することができ、ヒータ210近傍の温度については、第2の温度検知手段272により検知することができる。一方、着座面の温度の設定がない場合には(ステップS103:N)、制御部410は、ヒータ210を「OFF」にする(ステップS107)。
【0048】
続いて、制御部410は、着座面の温度と、設定された目標温度と、の間に温度差ΔT1があるか否かを判断する(ステップS109)。温度差ΔT1がある場合には(ステップS109:Y)、制御部410は、その温度差ΔT1に応じて決定された加熱量に基づいてヒータ210に通電する(ステップS111)(第1の加熱動作)。一方、温度差ΔT1がない場合には(ステップS109:N)、制御部410は、着座面の温度が現状温度(設定された目標温度)に維持されるようにヒータ210には追加の通電を行わない(ステップS113)。
【0049】
続いて、制御部410は、着座面の温度が所定温度ΔT3(例えば、ここでは0.5℃)上昇したか否かを判断する(ステップS115)。着座面の温度が所定温度ΔT3上昇した場合には(ステップS115:Y)、制御部410は、ステップS111を開始してから着座面の温度が所定温度ΔT3上昇するまでの時間t1と、所定温度ΔT3と、により温度の上昇率(0.5℃/t1)を算出する(ステップS117)。つまり、本具体例の制御部410は、着座面の温度を目標温度に到達させるようにヒータの通電量を制御し始めてから、着座面の温度が所定温度上昇するまでの経過時間により、温度の上昇率を算出する。そして、制御部410は、着座面の温度の上昇率(0.5℃/t1)に応じて、着座面の温度を設定された目標温度に到達させるヒータの総加熱量(第2の加熱量)を算出し、その総加熱量に基づいてヒータ210に通電する(ステップS117)(第2の加熱動作)。
【0050】
なお、制御部410は、温度上昇率と、ステップS117において設定する総加熱量(第2の加熱量)と、の関係をテーブルあるいは関係式として予め保存しておき、その保存されたデータを参照することにより、第2の加熱量を決定できる。続いて、制御部410は、第2の加熱量に基づいて通電を行った後に、着座面の温度を設定された目標温度に維持するようにヒータ210に通電し加熱させる(ステップS119)(第3の加熱動作)。そして、制御部410は、ステップS109に戻り、前述した動作を行う。
【0051】
本具体例によれば、制御部410は、着座面の温度が所定温度上昇するまでの経過時間により温度の上昇率を算出するため、温度の上昇率の相違をより確実に識別できる。つまり、ステップS115における所定温度ΔT3をより大きく設定すると、着座面の温度が所定温度上昇するまでの経過時間は、便座200や便蓋300の使用状態などに応じてより大きく相違する。そのため、ステップS115における所定温度ΔT3を適宜設定することにより、着座面の温度の上昇率の相違をより顕著にすることができる。したがって、制御部410は、ステップS115における所定温度ΔT3を適宜設定することにより、温度の上昇率の相違をより確実に識別できる。
【0052】
これによれば、本具体例の暖房便座装置は、着座面の温度をより確実にオーバーシュートすることなく目標温度に到達させることができる。また、その他の効果についても、図3に関して前述した効果と同様の効果を得ることができる。
【0053】
図9は、本実施形態にかかる暖房便座装置の動作の他の具体例を例示するフローチャートである。
本具体例においては、着座面の温度の上昇率の算出方法が、図8に関して前述した具体例とは異なる。本具体例の制御部410は、着座面の温度を目標温度に到達させるようにヒータの通電量を制御し始めてから、所定時間経過するまでに上昇した着座面の温度により、温度の上昇率を算出する。そのため、ステップS201、ステップS203、ステップS205、ステップS207、ステップS209、およびステップS213の動作は、図8に表したステップS101、ステップS103、ステップS105、ステップS107、ステップS109、およびステップS113の動作とそれぞれ同様である。
【0054】
続いて、温度差ΔT1がある場合には(ステップS209:Y)、制御部410は、その温度差ΔT1に応じて決定された加熱量に基づいてヒータ210に所定時間t2だけ通電する(ステップS211)(第1の加熱動作)。続いて、制御部410は、着座面の上昇温度ΔT4が所定温度(例えば、ここでは0.1℃)以上であるか否かを判断する(ステップS215)。これは、着座面の上昇温度ΔT4がある程度大きくなければ、着座面の温度の上昇率を算出することが困難なためである。
【0055】
着座面の上昇温度ΔT4が所定温度以上である場合には(ステップS215:Y)、制御部410は、ステップS211を開始してからの経過時間(所定時間)t2と、その所定時間t2の間における上昇温度ΔT4と、により温度の上昇率(ΔT4/t2)を算出する(ステップS217)。つまり、本具体例においては、着座面の温度を目標温度に到達させるようにヒータの通電量を制御し始めてから、所定時間経過するまでに上昇した着座面の温度により、温度の上昇率を算出している。
【0056】
そして、制御部410は、着座面の温度の上昇率(ΔT4/t2)に応じて、着座面の温度を設定された目標温度に到達させるためのヒータの総加熱量(第2の加熱量)を算出し、その総加熱量に基づいてヒータ210に通電する(ステップS217)(第2の加熱動作)。なお、図8に関して前述した具体例と同様に、制御部410は、温度上昇率と、ステップS217において設定する総加熱量(第2の加熱量)と、の関係をテーブルあるいは関係式として予め保存しておき、その保存されたデータを参照することにより、第2の加熱量を決定できる。
【0057】
続いて、制御部410は、第2の加熱量に基づいて通電を行った後に、着座面の温度を設定された目標温度に維持するようにヒータ210に通電し加熱させる(ステップS219)(第3の加熱動作)。そして、制御部410は、ステップS209に戻り、前述した動作を行う。
【0058】
本具体例によれば、制御部410は、所定時間経過するまでに上昇した着座面の温度により温度の上昇率を算出するため、所定時間t2を適宜設定することにより温度の上昇率をより早く算出できる。そのため、本具体例の暖房便座装置は、着座面の温度をオーバーシュートすることなく、より早く目標温度に到達させることができる。また、その他の効果についても、図3に関して前述した効果と同様の効果を得ることができる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態によれば、制御部410は、第1の温度検知手段271により検出された着座面の温度の上昇率に応じて、着座面の温度を設定された目標温度に到達させるためのヒータの総加熱量を算出する。そして、制御部410は、算出した総加熱量に基づいて、ヒータ210に通電する。これによれば、着座面の温度は、オーバーシュートすることなく、より早く目標温度に到達する。そのため、無駄な電力を削減することができ、暖房便座装置100の省エネルギー化を図ることができる。
【0060】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、便座200などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などや第1および第2の温度検知手段271、272の設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。すなわち、例えば、第1の温度検知手段271の設置位置は、表面部250の近傍に限定されず、着座面の温度と略同温になる位置、つまり擬似的な着座面の位置であってもよい。これによっても、第1の温度検知手段271は、着座面の温度を擬似的に検知(推定)できる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0061】
100 暖房便座装置、 200 便座、 210 ヒータ、 220 断熱材、 230 基材、 231 上板、 233 底板、 240 クッション部、 250 表面部、 260 熱伝導体、 271 第1の温度検知手段、 272 第2の温度検知手段、 300 便蓋、 310 透過窓、 400 暖房便座機能部、 410 制御部、 420 着座検知センサ、 430 入室検知センサ、 441 凹設部、 443 排気口、 445 排出口、 450 便蓋開閉検知センサ、 800 洋式腰掛便器、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒータと、前記ヒータと着座面との間に設けられたクッション部と、前記着座面の近傍の温度を検知する第1の温度検知手段と、を有する便座と、
前記第1の温度検知手段の検知温度を設定された目標温度に向けて上昇させるように前記ヒータに通電する第1の加熱動作を実行し、前記通電に対応した前記第1の温度検知手段の検知温度の上昇率に基づいて前記ヒータに通電することにより前記第1の温度検知手段の検知温度を前記目標温度に接近させる第2の加熱動作を実行する制御部と、
を備えたことを特徴とする暖房便座装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第2の加熱動作において、前記検知温度の前記上昇率に基づいて、前記検知温度を前記目標温度に接近させるヒータの通電量を決定し、前記決定した通電量に基づいて前記ヒータに通電することを特徴とする請求項1記載の暖房便座装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第2の加熱動作を実行した後、前記第1の温度検知手段の検知温度が前記目標温度に維持されるように前記ヒータに通電する第3の加熱動作を実行することを特徴とする請求項1または2に記載の暖房便座装置。
【請求項4】
前記便座は、前記ヒータの近傍の温度を検知する第2の温度検知手段をさらに有し、
前記制御部は、前記第1の加熱動作において、前記第2の温度検知手段の検知温度と、前記目標温度と、の温度差に応じて決定された加熱量に基づいて前記ヒータに通電することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の暖房便座装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1の加熱動作において、前記第1の温度検知手段の検知温度と、前記目標温度と、の温度差に応じて決定された加熱量に基づいて前記ヒータに通電することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の暖房便座装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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