説明

曝気攪拌機

【課題】従来のスクリュー式曝気機にあった制約を越えて、浸漬深さを大きくすることや空気量を増加させること、さらに、それに応じた動力増加分を抑えることで、結果的にエネルギ効率の高い好気運転を行うことができる曝気攪拌機を供給すること。
【解決手段】中空軸1の外周部に設けたカバー5内を、中空軸1が貫通し、水中に浸漬される下端部5aを除いて密閉構造として内部に空気室50を形成し、中空軸1の水上部に開口孔1a、1bを形成し、開口孔1a、1bを介して中空軸1の内部と空気室50とが連通するようにし、かつ、好気運転時に、空気供給源6から空気導管4を介して空気室50に空気を強制的に送り込むようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曝気攪拌機に関し、特に、水中に空気(酸素)を供給する好気運転(曝気運転)と、水中に空気(酸素)を供給しない嫌気運転(攪拌運転)とを、簡単に切り替えられ、特に、エネルギ効率のよい好気運転が可能な曝気攪拌機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下水等の汚水処理場にて使用する曝気機として、図3に示すようなスクリュー式曝気機が実用化されている(特許文献1参照)。
このスクリュー式曝気機は、電動機30と、この電動機30により回転する中空軸1と、中空軸1の上端に取り付けた電動バルブ40と、中空軸1の下端部の外周面に螺旋状に羽根20を取り付けて構成したスクリュー2と、中空軸1の外周を覆うパイプ状のカバー52と、カバー52の下端に取り付けた渦流防止板51とより構成されている。
【0003】
このスクリュー式曝気機は、電動機30を駆動することにより、中空軸1を介してスクリュー2を回転すると、これにより生じる水流により、スクリュー2の先端水域に負圧が生じる。この負圧のため、電動バルブ40を開放とすると、空気が電動バルブ40を経て吸い込まれ、吸い込まれた空気は、中空軸1を通って、水中に吐出される。このとき、水中に吐出された空気は、スクリュー2の羽根20及び水流の作用によって、微細化され、水流に乗って水中深く送られ、その過程で空気中の酸素が水に溶け、曝気が行われる(好気運転)。また、電動バルブ40を閉鎖すると、空気は吸い込まれず、スクリュー2の回転により生じる水流によって、曝気槽内の汚水の攪拌が行われる(嫌気運転)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−277089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来のスクリュー式曝気機は、スクリュー2の先端水域に生じる負圧により空気を自給する方式のため、水面からスクリュー2の先端までの垂直方向の距離、すなわち、浸漬深さを約0.3m程度に保つ必要があった。
その理由は、(1)浸漬深さを浅くしすぎると、回転するスクリュー2が水面に近づくことにより良好な水流を発生できなくなるためであり、逆に、(2)浸漬深さを深くしすぎると、回転するスクリュー2の先端部の領域における水圧(静圧)が上昇するため、スクリュー2の回転による負圧の効果が薄められ、自給する空気量が減少してしまい、エネルギ効率のよい好気運転が行えないだけでなく、必要な空気量を水中に送り込めないためであった。
【0006】
上記のように従来のスクリュー式曝気機においては、前記浸漬深さを約0.3m程度に保つ必要があり、なおかつ水流発生のために適した一定速度でスクリューを回転させる必要性があったため、電動バルブ40を半分閉じるといった空気量を減じる調整はできたが、空気量を増加させる調整が不可能であった。
【0007】
そして、スクリュー2の先端部より放つ気泡が水面に到達するまでの滞留時間を延長し、酸素移動速度の効率を上昇させるために浸漬深さを大きくすることは、上記(2)の理由から困難であった。
また、空気量を増加させられない構造であるため、エネルギ効率の向上には限度があった。
【0008】
本発明は、従来のスクリュー式曝気機にあった制約を越えて、浸漬深さを大きくすることや空気量を増加させること、さらに、それに応じた動力増加分を抑えることで、結果的にエネルギ効率の高い好気運転を行うことができる曝気攪拌機を供給することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の曝気攪拌機は、電動機により回転駆動するようにした中空軸の下端部にスクリューを設けた曝気攪拌機において、中空軸の外周部に設けたカバー内を、中空軸が貫通し、水中に浸漬される下端部を除いて密閉構造として内部に空気室を形成し、中空軸の水上部に開口孔を形成し、該開口孔を介して中空軸の内部と空気室とが連通するようにし、かつ、好気運転時に、空気供給源から空気導管を介して空気室に空気を強制的に送り込むようにしたことを特徴とする。
【0010】
この場合において、空気供給源にブロアを用いたことを特徴とする請求項1記載の曝気攪拌機。
【0011】
また、開口孔を、中空軸の軸方向に間隔をあけて複数個形成することができる。
【0012】
また、中実軸を有する電動機により中空軸を回転駆動するようにすることができる。
【0013】
また、空気導管に電動バルブを設けることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の曝気攪拌機によれば、中空軸の外周部に設けたカバー内を、中空軸が貫通し、水中に浸漬される下端部を除いて密閉構造として内部に空気室を形成し、中空軸の水上部に開口孔を形成し、該開口孔を介して中空軸の内部と空気室とが連通するようにし、かつ、好気運転時に、空気供給源から空気導管を介して空気室に空気を強制的に送り込むようにすることにより、空気室に強制的に送り込まれる空気の圧力によって、スクリューの回転による負圧を補助し、スクリューの浸漬深さを大きくしたり、空気量を増加させることができ、さらに、それに応じた動力増加分を抑えることで、結果的にエネルギ効率の高い好気運転を行うことができる。
【0015】
また、空気供給源にブロアを用いたことにより、空気供給源を簡易な機構によって構成することができる。
【0016】
また、開口孔を、中空軸の軸方向に間隔をあけて複数個形成することにより、嫌気運転時に中空軸とカバーの間を水が上昇して、電動機の近傍に達し、開口孔が上昇してきた水に含まれるごみが乾燥することによって閉塞されることを防止することができる。
【0017】
また、中実軸を有する電動機により中空軸を回転駆動するようにすることにより、汎用の電動機を使用することができる。
【0018】
また、空気導管に電動バルブを設けることにより、好気運転と、電動バルブを閉鎖して行う嫌気運転とを容易に切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の曝気攪拌機の一実施例を示す説明図で、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図2】同曝気攪拌機の嫌気運転時の中空軸付近の水流イメージを示す説明図である。
【図3】従来の曝気攪拌機を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の曝気攪拌機の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0021】
図1〜図2に、本発明の曝気攪拌機の一実施例を示す。
この曝気攪拌機は、図3に記載した従来の曝気攪拌機と同様、電動機3により回転駆動するようにした中空軸1の下端部にスクリュー2を設けた曝気攪拌機に関するものである。
【0022】
そして、この曝気攪拌機は、中空軸1の外周部に設けたカバー5内を、中空軸1が貫通し、水中に浸漬される下端部5aを除いて密閉構造として内部に空気室50を形成し、中空軸1の水上部に開口孔1a、1bを形成し、開口孔1a、1bを介して中空軸1の内部と空気室50とが連通するようにし、かつ、好気運転時に、空気供給源6から空気導管4を介して空気室50に空気を強制的に送り込むようにしている。
【0023】
この場合において、空気室50に空気導管4を介して空気を強制的に送り込む手段である空気供給源6には、ブロアを用いたことができる。
これにより、空気供給源を簡易な機構によって構成することができる。
【0024】
また、電動機3には、中実軸を有する電動機を用いるようにしている。
これにより、汎用の電動機を使用することができ、補修等を容易に行うことができる。
【0025】
また、空気導管4に電動バルブ4aを設けるようにしている。
これにより、電動バルブ4aを開き、空気供給源6から空気導管4を介して空気室50に空気を強制的に送り込みながら行う好気運転と、電動バルブ4aを閉鎖して行う嫌気運転とを容易に切り替えることができる。
【0026】
ところで、電動バルブ4aを閉鎖して行う嫌気運転では、中空軸1とカバー5の間を水が上昇して、電動機3の近傍に達し、カバー5の内部が汚れ、上昇してきた水に含まれるごみが乾燥することによって閉塞されるという問題があった。
そのメカニズムは、嫌気運転では、スクリュー2の先端の負圧によりカバー5内が負圧となり、中空軸1とカバー5の間を水が上昇し、極端な場合には、電動機3の出力軸と中空軸1の接続部まで水位が上昇する。
このとき、中空軸1の先端部における負圧は、実測で約2.5mH0〜4.0mH0となっている。
これを防ぐために、この曝気攪拌機においては、中空軸1の軸方向に間隔をあけて複数個の開口孔1a、1bを形成する(ここで、開口孔1bは、水面の少し上の箇所に形成するようにする。)ようにしている。
これにより、嫌気運転時にカバー5の内部を上昇してきた水は、開口孔1bから中空軸1の内部側へ吸い込まれ、その結果、中空軸1とカバー5の間を水が上昇しても、上側の開口孔1aや電動機3の出力軸と中空軸1の接続部まで水が上昇することがなく、特に、開口孔1aが上昇してきた水に含まれるごみが乾燥することによって閉塞されることを防止することができる。
【0027】
次に、この曝気攪拌機の作用について説明する。
まず、対比のため、図3に記載した従来の曝気攪拌機を、設置角度を45度、スクリュー2の先端の浸漬深さを0.3mにして、3.7kWの所要動力で駆動すると、適正な水流を発生させるとともに、2.4m/minの空気を自給で水中に放出することができた。このときの空気流量Qaを所要動力Pで除した値を空気の投入効率ηairとすると、
ηair=Qa/P=2.4/3.7=0.65m/(min・kW)
となる。
水槽の深いところまで気泡を届かせるために、スクリュー2の先端の浸漬深さを0.3mから0.7mに変更すると、自給による空気量は減少し、1.1m/minとなってしまう。
そこで、自給に加えて、空気供給源6であるブロワから空気導管4を介して空気室50に空気を強制的に送り込むようにする。このとき、空気供給源6であるブロワによる空気圧は0.4mHOとなる。この値は水深が深い割には小さく、ブロワの所要動力は0.44kWとなる。
ここで、ブロワの所要動力0.44kWは、以下の計算式に基づいて算出される。
断熱ヘッド:Had={κ/(κ−1)}・Rgas・T1・{(P2/P1)(κ−1)/κ−1}=330(mm)
κ:比熱比 1.4
gas:ガス定数(kgm/kgK) 29.5
T1:入口温度(全温)K 293.2
P1:入口全圧(kg/mabs) 10330
P2:出口全圧(kg/mabs) 10330+400(静圧の増加分)
空気量 Q=2.4m/min
重量流量 G=1.2×Q/60=0.054kg/s
空気動力 P=G×Had/102=0.174kW
ブロワの効率 η=0.40と定める
ブロワ所要動力 L=P/η=0.44kW
3.7kWの曝気攪拌機に、0.44kWのブロワを追加することで、浸漬深さ300mmを700mmにしても、空気量を2.4m/minに維持できる。
なお、空気量は実測でそれより大きな2.7m/minになった。このときの空気の投入効率ηairは、
ηair=Qa/P=2.7/(3.7+0.44)=0.66m/(min・kW)
となり、浸漬深さが300mmで自給していたときとほぼ同じになる。
【0028】
ここで、今まで述べてきた空気の投入効率ηairは、曝気効率の目安になるがそれそのものではない。そもそも、曝気効率とは、その空気内の酸素が水に溶解する速度の動力当たりの値、すなわち酸素溶解動力効率Epであり、簡略計算で求めることは困難であり実測で求めることとした。
【0029】
表1に示すように、実測により酸素溶解動力効率Epは数%上昇することが確認されている。
この結果は、浸漬深さを深くすることで気泡の滞留時間が延長され、曝気効率(酸素溶解動力効率Ep)が向上した現象によるものと考えられる。
【0030】
【表1】

【0031】
次に、この曝気攪拌機により、攪拌のエネルギ効率が維持できる効果について説明する。
まず、スクリュー2の先端の浸漬深さを大きくし、気泡を深い位置に投入する場合、気体と液体が一緒に垂直上向きに流れる傾向が大きくなる影響で、水平に流れる水の流速を低下させる。これにより、副次的に攪拌効率の低下が懸念されるが、その一方で攪拌効率を上昇させる以下の効果もあり、それらが相殺されることで攪拌のエネルギ効率が維持できることが実験で確認されている。
水流発生、すなわち攪拌について、まず垂直方向の水の流速を考えると、浸漬深さの増大により水流発生位置から底部までの距離が短縮されることで水流の底部での減少が抑制される。その一方で、水平横向きに水流を発生させる位置が0.4m下側に移ることにより、例えば、2m以上の水槽の水深と水路幅より形成される水路断面において、水流発生位置がより中心位置にスライドする効果が得られる。
以上の内容を、水深2.5m、水路幅2.0m、水路長さ20m以上の無終端水路を用いて実験で確認した結果では、底部流速にほとんど差がなく、攪拌のエネルギ効率が維持できる効果が確認できた。
具体的には、浸漬深さが0.3mにおいて平均流速28.7cm/sに対して、浸漬深さが0.7mにおいて平均流速26.3cm/sとなった。
【0032】
そして、この曝気攪拌機によれば、前述のように曝気攪拌機の中空軸1の水上部に開口孔1a、1bを形成し、その外周部は、カバー5に囲まれた空気室50とし、この空気室50には、空気導管4を介して地上側に設ける空気供給源6による空気の追加供給を可能としたが、必要な酸素溶解量に応じて空気供給源の回転数制御によりエネルギ効率のよい好気運転が可能となる。
なお、空気供給量の制御は、空気導管4の途中に設けた電動バルブ4aの開度調整でも調整できる。またそれらの併用により、空気供給装置にありがちな空気供給装置の低回転数時の低効率化を抑制することができる。
【0033】
以上、本発明の曝気攪拌機について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、各実施例に記載した構成を適宜組み合わせる等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の曝気攪拌機は、浸漬深さを大きくすることや空気量を増加させること、さらに、それに応じた動力増加分を抑えることで、結果的にエネルギ効率の高い好気運転を行うことができることから、曝気攪拌機の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0035】
1 中空軸
2 スクリュー
3 電動機
4 空気導管
4a 電動バルブ
5 カバー
50 空気室
6 空気供給源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機により回転駆動するようにした中空軸の下端部にスクリューを設けた曝気攪拌機において、中空軸の外周部に設けたカバー内を、中空軸が貫通し、水中に浸漬される下端部を除いて密閉構造として内部に空気室を形成し、中空軸の水上部に開口孔を形成し、該開口孔を介して中空軸の内部と空気室とが連通するようにし、かつ、好気運転時に、空気供給源から空気導管を介して空気室に空気を強制的に送り込むようにしたことを特徴とする曝気攪拌機。
【請求項2】
空気供給源にブロアを用いたことを特徴とする請求項1記載の曝気攪拌機。
【請求項3】
開口孔を、中空軸の軸方向に間隔をあけて複数個形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の曝気攪拌機。
【請求項4】
中実軸を有する電動機により中空軸を回転駆動するようにしたことを特徴とする請求項1、2又は3記載の曝気攪拌機。
【請求項5】
空気導管に電動バルブを設けたことを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の曝気攪拌機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−71269(P2012−71269A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218917(P2010−218917)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】