説明

曲げコネクタ構造

【課題】環境温度により光学特性が変動することを抑制できる曲げコネクタ構造を得る。
【解決手段】テープ状多心光ファイバ12の曲げ部32Aがフェルール本体16の凹部16Aに収納されており、フェルール本体16の凹部16Aに蓋部材18が嵌合されている。テープ状多心光ファイバ12の被覆部33は、高粘度接着剤36でフェルール本体16と蓋部材18とブーツ20に接着固定されている。テープ状多心光ファイバ12の先端部32Bは、エポキシ樹脂などの接着剤38でフェルール本体16の溝部26と蓋部材18に接着固定されている。これによって、テープ状多心光ファイバ12の曲げ部32Aの周囲の空洞部Sが、空気を封入した密閉空間となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲げコネクタ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバをフェルールなどの固定部材に位置決めして接着固定した光ファイバ部品が知られている。この光ファイバ部品では、小型化などの要請から光の導波方向を約90度変換する方法が検討されている。
【0003】
下記特許文献1には、所定の曲げ半径で曲線状に曲げることで曲げ部分が形成された光ファイバをフェルールなどの固定部材の空間部分に収納し、光ファイバの曲げ部分の周囲にクラッド部分よりも屈折率が小さい樹脂を充填した構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−152229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1では、光ファイバ部品の光学特性が充填された樹脂の影響を受ける。すなわち、環境温度によって樹脂の屈折率が変動しやすく、屈折率の変動が起こった場合に、光の漏洩が起こり、光ファイバ部品の光学特性が影響されるという問題がある。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、環境温度による光学特性の変動を抑制することができる曲げコネクタ構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1の発明に係る曲げコネクタ構造は、曲げ部が形成された光ファイバと、前記光ファイバの前記曲げ部の一方側が挿通されて固定された第1固定部と、前記曲げ部が収納された空洞部と、前記曲げ部の他方側の前記光ファイバの先端部が挿通されて固定された第2固定部と、を備えたフェルールと、を有し、前記曲げ部は前記空洞部の壁面に非接触で、かつ前記空洞部が密閉空間とされたものである。
【0008】
本発明によれば、光ファイバの曲げ部の一方側がフェルールの第1固定部に挿通されて固定され、光ファイバの曲げ部の他方側の先端部がフェルールの第2固定部に挿通されて固定されている。光ファイバの曲げ部はフェルールの空洞部の壁面に非接触で、空洞部が密閉空間とされており、光ファイバの曲げ部と密閉空間の気体との屈折率差で光の導波方向が変換され、曲げ損失が低減される。この構成では、温度変化によって屈折率の変化しにくい気体を封入することで、環境温度により曲げコネクタの光学特性が変動することを抑制することができる。
【0009】
また、上記目的を達成するために、請求項2の発明に係る曲げコネクタ構造は、請求項1に記載の発明において、前記曲げ部は、前記光ファイバの被覆を除いた裸光ファイバを曲げて形成されているものである。
【0010】
また、請求項3の発明に係る曲げコネクタ構造は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記密閉空間に空気又は不活性ガスが封入されているものである。
【0011】
本発明によれば、曲げ部の周囲の密閉空間に空気又は不活性ガスが封入されており、従来の樹脂に比べてより低い屈折率の空気又は不活性ガスを封入することで、光学特性の変動をより確実に抑制することができる。
【0012】
請求項4の発明に係る曲げコネクタ構造は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の発明において、前記フェルールは、前記空洞部が形成されたフェルール本体と、前記空洞部を覆い密閉空間とする蓋部材と、を有するものである。
【0013】
本発明によれば、フェルール本体に形成された空洞部に光ファイバの曲げ部を収納した後、空洞部を蓋部材で覆い、光ファイバをフェルールの第1固定部と第2固定部に固定することで、空洞部が密閉空間とされる。このため、光ファイバのフェルールへの組み付けが容易となる。
【0014】
請求項5の発明に係る曲げコネクタ構造は、請求項4に記載の発明において、前記フェルール本体には、前記第2固定部を構成し前記光ファイバの先端部が嵌まる溝部が形成されているものである。
【0015】
本発明によれば、フェルール本体の第2固定部に形成された溝部に光ファイバの先端部を嵌めることで、光ファイバの先端部が位置決めされ、光ファイバの軸ずれを防止することができる。
【0016】
請求項6の発明に係る曲げコネクタ構造は、請求項4又は請求項5に記載の発明において、前記フェルール本体及び前記蓋部材には、前記空洞部の壁面を前記第2固定部から前記曲げ部に対して広げる窪み部が設けられているものである。
【0017】
本発明によれば、フェルール本体及び蓋部材には、空洞部の壁面を第2固定部から曲げ部に対して広げる窪み部が設けられており、例えば、光ファイバの先端部をフェルール本体に接着剤で固定するときに、窪み部が接着剤が流れる逃げ部となり、接着剤が光ファイバの曲げ部に付着することを阻止することができる。
【0018】
請求項7の発明に係る曲げコネクタ構造は、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の発明において、前記光ファイバの先端部が前記第2固定部にエポキシ樹脂系接着剤で接着固定され、前記光ファイバが前記第1固定部に前記エポキシ樹脂系接着剤よりも粘度が高い高粘度接着剤で接着固定されているものである。
【0019】
本発明によれば、光ファイバの先端部が第2固定部にエポキシ樹脂系接着剤で接着固定され、光ファイバの基部側部分が第1固定部にエポキシ樹脂系接着剤よりも粘度が高い高粘度接着剤で接着固定されており、曲げ部の両側の少なくとも2点でおさえることで光ファイバを強固に固定できる。また、光ファイバが第1固定部に高粘度接着剤で接着固定されることで、コネクタ空洞部の光ファイバの曲げ部近傍に接着剤が流れ込むことなく、第1固定部で光ファイバを確実に固定することができる。
【0020】
請求項8の発明に係る曲げコネクタ構造は、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の発明において、前記フェルールの前記第2固定部側の表面に、前記光ファイバの先端部と共に研磨された研磨面が設けられているものである。
【0021】
本発明によれば、フェルールの第2固定部側の表面に、光ファイバの先端部と共に研磨された研磨面が設けられており、光接続が可能となる。
【0022】
請求項9の発明に係る曲げコネクタ構造は、請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の発明において、前記フェルールの前記第2固定部に、前記光ファイバの保持孔を備えたアタッチメントが取り付けられているものである。
【0023】
本発明によれば、フェルールの第2固定部に、光ファイバの保持孔を備えたアタッチメントが取り付けられており、高精度に形成された保持孔に光ファイバを挿入・保持させることで、光ファイバの位置精度が向上する。
【0024】
請求項10の発明に係る曲げコネクタ構造は、請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の発明において、前記アタッチメントの表面に、前記光ファイバと共に研磨されたアタッチメント側研磨面が設けられているものである。
【0025】
本発明によれば、アタッチメントの表面に、光ファイバと共に研磨されたアタッチメント側研磨面が設けられており、光接続が可能となる。
【0026】
請求項11の発明に係る曲げコネクタ構造は、請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の発明において、前記曲げ部が、r=0.5〜3mmの曲率を持つように形成されたものである。
【0027】
本発明によれば、曲げ部がr=0.5〜3mmの曲率を持つ光ファイバを密閉空間に配置することによって光学損失を低減することができる。
【0028】
請求項12の発明に係る曲げコネクタ構造は、請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載の発明において、前記光ファイバは、複数本の光ファイバが並べられたテープ状光ファイバであるものである。
【0029】
本発明によれば、複数本の光ファイバを固定する際の作業効率を向上することができ、また、第1固定部での接着固定を強固にできる。
【0030】
請求項13の発明に係る曲げコネクタ構造は、請求項7に記載の発明において、高粘度接着剤の粘度が50〜300Pa・sであるものである。
【0031】
本発明によれば、高粘度接着剤の粘度が50〜300Pa・sであり、フェルールの第1固定部を封止するときに曲げ部に接着剤が流れるのを防止することができる。
【0032】
請求項14の発明に係る曲げコネクタ構造は、請求項1から請求項13までのいずれか1項に記載の発明において、前記フェルールの前記第1固定部には、前記光ファイバを覆い、かつ、内面に前記フェルールに向かって拡径するテーパー面が形成された可撓性の保護部材が取り付けられているものである。
【0033】
本発明によれば、フェルールの第1固定部に光ファイバを覆う可撓性の保護部材が取り付けられており、保護部材によって光ファイバの折れ等の損傷の発生が抑制される。また、保護部材の内面にフェルールに向かって拡径するテーパー面が形成されており、保護部材と光ファイバとの隙間に高粘度接着剤等の接着剤が流れ込みやすい。
【0034】
請求項15の発明に係る曲げコネクタ構造は、請求項14に記載の発明において、前記保護部材は、軟質ゴムあるいはエラストマーからなるプラスチックで形成されているものである。
【0035】
本発明によれば、保護部材は、軟質ゴムあるいはエラストマーからなるプラスチックで形成されており、光ファイバの損傷をより確実に阻止することができる。
【0036】
請求項16の発明に係る曲げコネクタ構造は、請求項1から請求項15までのいずれか1項に記載の発明において、前記曲げ部は、熱によって曲げ加工されているものである。
【0037】
本発明によれば、曲げ部は、熱によって曲げ加工されており、曲げ歪の発生を阻止することができる。
【0038】
請求項17の発明に係る曲げコネクタ構造は、請求項1から請求項16までのいずれか1項に記載の発明において、前記フェルールによって前記光ファイバの光軸が90度〜150度曲げられているものである。
【0039】
本発明によれば、フェルールによって光ファイバの光軸が90度〜150度曲げられており、接続される光学部品の光軸方向のコネクタの高さを低く設計できる。
【0040】
請求項18の発明に係る曲げコネクタ構造は、請求項5に記載の発明において、前記溝部が250μm又は125μmのピッチで配列されているものである。
【0041】
本発明によれば、複数の光ファイバを溝部にそれぞれ嵌め込むことで、複数の光ファイバを近接して配置し、かつ高精度で位置決めすることができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、環境温度により曲げコネクタの光学特性が変動することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態に係る曲げコネクタ構造の蓋部材側の全体構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る曲げコネクタ構造の蓋部材と反対側の全体構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る曲げコネクタ構造に用いられるフェルール本体及び蓋部材を示す断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る曲げコネクタ構造であって、フェルール本体及び蓋部材にアタッチメントが接続された状態を示す斜視図である。
【図5】フェルール本体及び蓋部材にアタッチメントが接続された状態を示す断面図である。
【図6】フェルール本体及び蓋部材に接続されるアタッチメントを示す分解斜視図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る曲げコネクタ構造の基板上への実装例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、図1〜図3を用いて、本発明の曲げコネクタ構造の第1実施形態について説明する。
【0045】
図1には、曲げコネクタ構造10のフェルール14の表側(蓋部材側)の全体構成が斜視図にて示されており、図2には、曲げコネクタ構造10のフェルール14の裏側の全体構成が斜視図にて示されている。また、図3には、曲げコネクタ構造10の断面図が示されている。これらの図に示されるように、曲げコネクタ構造10は、曲げ部32Aが形成された複数の裸光ファイバ32を有するテープ状多心光ファイバ12と、テープ状多心光ファイバ12が固定されるフェルール14と、を備えている。フェルール14は、テープ状多心光ファイバ12の曲げ部32Aが収納される凹部16Aが形成された箱状のフェルール本体16と、フェルール本体16の凹部16Aを覆う蓋部材18と、を備えている。
【0046】
フェルール14の長手方向一端部(複数の裸光ファイバ32の先端部32Bと反対側の端部)には、テープ状多心光ファイバ12を保護する保護部材としての矩形状のブーツ20が連結されている。図3では、曲げコネクタ構造10の蓋部材18を下方側に配置した状態が示されている。
【0047】
テープ状多心光ファイバ12は、複数の裸光ファイバ32と、これらの裸光ファイバ32の周囲を覆うテープ状の被覆部33と、で構成されている。裸光ファイバ32は、コア部と、コア部の周囲のクラッドとを備えている。裸光ファイバ32には、所定の曲げ半径で曲線状に曲げられた曲げ部32Aが形成されている。例えば、裸光ファイバ32の加熱対象部分をアーク放電により軟化点以上、溶融点以下の範囲の温度で加熱することにより、裸光ファイバ32の加熱対象部分は曲げ加工が可能な状態に移行し、この加熱対象部分を所定の曲げ半径Rで曲線状に曲げることにより曲げ部32Aが形成され、冷却することにより曲げ部32Aの形状が固定される。曲げ半径Rは光の漏れが許容できる大きさとなるように設定される。本実施形態では、裸光ファイバ32の曲げ部32Aより根元側(被覆部33側)と曲げ部32Aより先端側の直線状の先端部32Bとが約90度となるように曲線状に曲げられている。
【0048】
フェルール本体16には、側壁24と底面部22とで囲まれた凹部16A内に、図3の紙面垂直方向から見て略矩形状の空洞部Sが形成されている。フェルール本体16のブーツ20側の側壁24には、テープ状多心光ファイバ12の被覆部33が挿通されて固定される第1固定部としての凹状の挿入部24Aが設けられている。フェルール本体16の挿入部24Aにテープ状多心光ファイバ12の被覆部33が挿通された状態で曲げ部32Aが凹部16A内に収納される構成となっている。
【0049】
フェルール本体16のブーツ20と反対側の側壁24には、蓋部材18が嵌合される位置に、図3中の上下方向に沿って裸光ファイバ32の先端部32Bが嵌まる複数の溝部26が形成されている。フェルール本体16の複数の溝部26が形成された位置が第2固定部となっている。溝部26は、フェルール本体16の長手方向に沿った断面が略V字状に形成されている(図1参照)。複数の溝部26は、例えば、250μmのピッチで配列されており、溝部26内に裸光ファイバ32の先端部32Bが嵌まるようになっている。なお、裸光ファイバ32の太さに応じて複数の溝部26を125μmのピッチで配列してもよい。
【0050】
フェルール本体16の側壁24の溝部26と隣接する位置(図3中に示す上部側)には、裸光ファイバ32の曲げ部32Aの外周側との対向部に、溝部26から凹部16Aの壁面を曲げ部32Aに対して広げる窪み部28が設けられている。本実施形態では、窪み部28は溝部26が形成された面に対して約45度の角度で傾斜したテーパー面28Aを備えており、テーパー面28Aの端部から約45度の角度で図3中の上下方向に沿って配置された壁面を備えている。窪み部28は、裸光ファイバ32の先端部32Bを溝部26と蓋部材18に先端部32Bを接着するための接着剤38で接着固定するときに、接着剤38が壁面を伝わって曲げ部32Aに流れないための逃げ部となっている。
【0051】
蓋部材18は、フェルール本体16の凹部16A内に嵌合されるように蓋部材18の外形が凹部16Aの内形より若干小さく形成されている。フェルール本体16の凹部16Aの幅方向の内壁は、溝部26側の横幅が狭く、ブーツ20側の横幅が広く形成されている(図1参照)。蓋部材18には、フェルール本体16の凹部16Aの溝部26側の内壁に嵌合する横幅が狭い第1嵌合部18Aと、フェルール本体16の凹部16Aのブーツ20側の内壁に嵌合する横幅が広い第2嵌合部18Bと、を備えている。蓋部材18がフェルール本体16の凹部16Aに嵌合された状態で、テープ状多心光ファイバ12の複数の裸光ファイバ32の先端部32Bをそれぞれフェルール本体16の複数の溝部26に蓋部材18の端面18Cで押し付けるようになっている。また、凹部16Aの内側に蓋部材18を嵌合させる際に深さ方向の位置決めをさせるための段差を設けて蓋部材18の挿入深さが決まるようにされても良い。
【0052】
蓋部材18の長手方向端部には、ブーツ20が連結される切欠き部18Dが設けられている(図3を参照)。蓋部材18の内壁面には、裸光ファイバ32の曲げ部32Aの内周側と対向する位置に傾斜面18Eが形成されている。傾斜面18Eは、フェルール本体16の溝部26と対向する端面18Cと隣接する位置に形成されており、端面18Cに対して約45度の角度で形成されている。この端面18Cの傾斜により、先端部32Bを接着するための接着剤38が壁面に沿って光ファイバに付着することが防止される。
【0053】
本実施形態では、フェルール本体16及び蓋部材18は、一般的にコネクタ製造に用いられる樹脂や、特にPPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂)やエポキシ樹脂で形成されている。
【0054】
ブーツ20は、テープ状多心光ファイバ12の被覆部33が貫通される貫通孔20Aを備えている。ブーツ20は、軟質ゴム又は樹脂で形成されており、被覆部33の厚み方向(ブーツ20の上下方向)に弾性変形が可能となっている。ブーツ20の一端部の周縁には、フェルール本体16側に突出する突出部20Bが形成されている。そして、ブーツ20の突出部20Bがフェルール本体16の側壁24の周囲及び蓋部材18の切欠き部18Dに外挿されることで、ブーツ20がフェルール本体16及び蓋部材18に連結されている。
【0055】
ブーツ20の貫通孔20Aの幅方向の一方の面(図3では下方側の面)には、フェルール本体16の方向に向かって次第に貫通孔20Aの上下方向の間隔が大きくなるようにテーパー面20Cが形成されている。テープ状多心光ファイバ12の被覆部33はブーツ20の貫通孔20Aに貫通されており、テープ状多心光ファイバ12の被覆部33に曲げ方向に力が掛かったときにブーツ20が弾性変形し、テープ状多心光ファイバ12の折れ曲がり等が防止される。
【0056】
この曲げコネクタ構造10では、テープ状多心光ファイバ12の曲げ部32Aより根元側の被覆部33がフェルール本体16の挿入部24Aと蓋部材18とブーツ20に高粘度接着剤36で接着固定されている。また、テープ状多心光ファイバ12の先端部32Bがフェルール本体16の溝部26と蓋部材18にコネクタ用に一般的に用いられるエポキシ樹脂などの接着剤38で接着固定されている。テープ状多心光ファイバ12の曲げ部32Aは、フェルール本体16の凹部16Aの壁面及び蓋部材18の内壁面に非接触で、曲げ部32Aの周囲に空洞部Sが設けられている。
【0057】
すなわち、テープ状多心光ファイバ12の被覆部33とフェルール14が高粘度接着剤36で封止され、テープ状多心光ファイバ12の先端部32Bとフェルール14が接着剤38で接着固定されることにより、テープ状多心光ファイバ12の曲げ部32Aが収納されたフェルール本体16の空洞部Sが密閉空間となる。空洞部Sには、空気が封入されている。曲げ部32Aの周囲の空洞部Sに封入された空気は、従来の曲げ部の周囲に充填された樹脂に比べて屈折率が低く、裸光ファイバ32のコア層の屈折率と空洞部Sの空気との間で十分な屈折率差が得られる。
【0058】
接着剤38としては、例えば、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂の他、シアノアクリレート系の瞬間接着剤、又は紫外線硬化性樹脂などが用いられる。高粘度接着剤36は、コネクタ用に一般的に用いられるエポキシ樹脂などの接着剤38よりも粘度の高い接着剤であり、例えば、高粘度接着剤36の粘度は50〜300Pa・sが好ましい。高粘度接着剤36の粘度が上記範囲の下限値を下回ると接着剤が流れ出す恐れがあり、上記範囲の上限値を超えると接着剤の接着面に入らない可能性がある。高粘度接着剤36としては、例えば、常温で硬化する二液混合型のエポキシ樹脂などが用いられる。
【0059】
図1に示されるように、フェルール本体16の上面部の溝部26側の幅方向両側には切欠き部40が形成されており、切欠き部40にそれぞれガイドピン穴42が形成されている。2つのガイドピン穴42に円柱状のガイドピン(図示省略)がそれぞれ嵌め込まれることで、他のコネクタや基板などの外部要素に対して位置決め固定される構成となっている。ガイドピン穴42と溝26との位置関係を精密にすることによって、ガイドピン穴42と基板等側のガイドピンとの位置あわせによって精密にテープ状多心光ファイバ12の先端部32Bと光接続されるべきコネクタや光素子との光学的結合が達成できる。
【0060】
テープ状多心光ファイバ12の先端部32Bが挿通されたフェルール本体16及び蓋部材18の表面には、テープ状多心光ファイバ12の先端部32Bと共に研磨された研磨面16B、18Fが設けられている。これによって、他のコネクタ(図示省略)の光ファイバが接続されるときの接続損失が低減される。
【0061】
次に、曲げコネクタ構造10の作製方法を説明する。
【0062】
図3に示されるように、フェルール本体16の挿入部24Aにテープ状多心光ファイバ12の被覆部33を挿通させ、テープ状多心光ファイバ12の曲げ部32Aをフェルール本体16の凹部16A内に収納する。さらに複数の裸光ファイバ32の先端部32Bをフェルール本体16に形成された複数の溝部26に嵌めると共に、裸光ファイバ32の端末をフェルール本体16の外部に露出させる。
【0063】
この状態で、フェルール本体16の凹部16Aに蓋部材18を挿入してテープ状多心光ファイバ12の曲げ部32Aが収納された部位を蓋部材18で覆う。そして、テープ状多心光ファイバ12の被覆部33とフェルール本体16の挿入部24Aと蓋部材18との間に高粘度接着剤36を充填する。さらに、ブーツ20の貫通孔20Aに高粘度接着剤36を充填してブーツ20の突出部20Bをフェルール本体16の側壁24及び蓋部材18の切欠き部18Dに外挿する。これによって、高粘度接着剤36が、ブーツ20の突出部20Bの内側と蓋部材18との隙間に充填される。高粘度接着剤36として、常温で硬化する二液混合型のエポキシ樹脂が用いられており、高粘度接着剤36が硬化することによって、テープ状多心光ファイバ12がフェルール本体16と蓋部材18とブーツ20に接着固定される。
【0064】
さらに、図1及び図3に示されるように、複数の裸光ファイバ32の先端部32Bとフェルール本体16の複数の溝部26と蓋部材18との隙間に一般的にコネクタ用に用いられている接着剤38を充填して硬化させる。
【0065】
裸光ファイバ32の先端部32Bは、フェルール本体16と蓋部材18の端面近傍で切断されて、切断された裸光ファイバ32の端面と共にフェルール本体16と蓋部材18の表面が研磨され、研磨面16B、18Fが形成される。この曲げコネクタ構造10では、フェルール本体16の2つのガイドピン穴42に円柱状のガイドピン(図示省略)をそれぞれ嵌合させると共に、これらのガイドピンを、図示しない別の多心用フェルールコネクタのガイドピン穴に嵌合させることにより、別のコネクタなどの外部要素と接続することができる。
【0066】
この曲げコネクタ構造10では、フェルール14によってテープ状多心光ファイバ12の光軸が90度曲げられているが、例えば、テープ状多心光ファイバ12の光軸が90度〜150度曲げられている構成でもよい。テープ状多心光ファイバ12の曲げ部32Aは、例えば、r=0.5〜3mmの曲率を持つことが好ましい。rが上記範囲の下限値を下回ると曲げ損失が大きくなりすぎ、rが上記範囲の上限値を超えるとコネクタサイズが大きくなってしまう。
【0067】
次に、本実施形態の曲げコネクタ構造10の作用並びに効果について説明する。
【0068】
この曲げコネクタ構造10では、テープ状多心光ファイバ12の被覆部33が高粘度接着剤36でフェルール本体16と蓋部材18とブーツ20に接着固定され、テープ状多心光ファイバ12の先端部32Bが接着剤38でフェルール本体16と蓋部材18に接着固定されることにより、テープ状多心光ファイバ12の曲げ部32Aが収納されたフェルール本体16の空洞部Sが空気を封入した密閉空間とされている。これによって、複数の裸光ファイバ32の曲げ部32Aで、裸光ファイバ32のコア層の屈折率と、空洞部Sの空気との間で十分な屈折率差があるので、曲げ損失が低減される。曲げ部32Aの周囲の密閉空間に封入された空気は、環境温度が変化したときに、例えば、従来の空洞部Sに充填された樹脂の屈折率に比べて、屈折率の変動が少ない。したがって、環境温度により光の閉じ込め効果等の曲げコネクタ構造10の光学特性が変動することを抑制することができる。さらに、曲げ部32Aの周囲に密閉空間が形成されているため、フェルール14の外部からゴミなどが入って付着することがなく、曲げ損失を低減することができる。
【0069】
次に、図4〜図6を用いて、本発明の曲げコネクタ構造の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0070】
図4〜図6に示されるように、曲げコネクタ構造50は、フェルール本体52の溝部26側の端部に装着されるアタッチメント54を備えている。アタッチメント54は、フェルール本体52の溝部26から出た複数の裸光ファイバ32の先端部32Bをそれぞれ保持する複数のファイバ保持孔56と、これらのファイバ保持孔56の左右に形成された2つのガイドピン穴58と、を備えている。フェルール本体52の溝部26側の端部には、幅方向両側を切り欠いた切り欠き部52Aが形成されており、アタッチメント54に形成された凹部54Aが切り欠き部52Aに嵌合されるようになっている(図6参照)。
【0071】
アタッチメント54のファイバ保持孔56の挿入側端部には、幅が徐々に拡大されたテーパー穴57が設けられている(図5参照)。テーパー穴57を設けることで、複数の裸光ファイバ32の先端部32Bを複数のファイバ保持孔56に挿入するのが容易となる。
【0072】
フェルール本体52にアタッチメント54を取り付ける際には、フェルール本体52の溝部26に挿通された複数の裸光ファイバ32の先端部32Bを、それぞれアタッチメント54のファイバ保持孔56に挿通する。そして、アタッチメント54をフェルール本体52に接着剤38で固定する。さらに、アタッチメント54のファイバ保持孔56から突き出た複数の裸光ファイバ32の先端部32Bと共にアタッチメント54の端面を研磨することによって研磨面54Bを設ける。
【0073】
この曲げコネクタ構造50では、図5に示されるように、フェルール本体52の挿入部24Aに挿通されたテープ状多心光ファイバ12の被覆部33がフェルール本体52の挿入部24Aと蓋部材18とブーツ20に高粘度接着剤36で接着固定されており、複数の裸光ファイバ32の先端部32Bがアタッチメント54のファイバ保持孔56に接着剤38で接着固定されている。そして、フェルール本体52と蓋部材18で囲まれた複数の裸光ファイバ32の曲げ部32Aの周囲と、アタッチメント54の内部の複数の裸光ファイバ32の周囲が密閉空間となっており、この密閉空間に空気が封入されている。
【0074】
この曲げコネクタ構造50は、2つのガイドピン穴58にガイドピン(図示省略)をそれぞれ嵌合させると共に、これらのガイドピンを、図示しない別の多心用フェルールコネクタ(MTコネクタ)のガイドピン穴に嵌合させることにより、MTコネクタ等の別のコネクタと接続させることができる。
【0075】
このような曲げコネクタ構造50では、フェルール本体52の凹部16Aに収納されたテープ状多心光ファイバ12の曲げ部32Aの周囲は空気が封入された密閉空間とされており、従来の曲げ部の周囲に充填された樹脂に比べてより低い屈折率の空気を封入することで、環境温度により曲げコネクタ構造50の光学特性が変動することを抑制することができる。さらに、テープ状多心光ファイバ12の曲げ部32Aの周囲の密閉空間が形成されているため、フェルール本体52、蓋部材18及びアタッチメント54の外部からゴミなどが流入して付着せず、曲げ損失を低減することができる。また、曲げコネクタ構造50では、複数の裸光ファイバ32の先端部32をV字状の溝部で固定している構造に比べて位置精度が向上し、SMファイバでも都合がよい。
【0076】
〔実施形態の補足説明〕
【0077】
上述した第1及び第2実施形態の曲げコネクタ構造10、50では、テープ状多心光ファイバ12の曲げ部32Aの周囲の密閉空間に空気を封入したが、これに限定されず、例えば、反応性の低いガス(一例として、アルゴン、窒素、ヘリウムのような不活性ガス)を封入してもよい。曲げ部を含む空洞部は完全に密閉されていることが最も好ましいが、使用環境における空気の流れ(例えば、冷却風)によって空洞部の雰囲気が変わらない、あるいは、雰囲気中のごみ等が混入されない程度に封じられていればよく、これは、空洞部を囲む領域に1mmを超える大きさの隙間、あるいは開口部を設けないこと、さらに好ましくは部材間の隙間、あるいは光ファイバと部材の隙間に樹脂、あるいは接着剤を注入することで実現できる。従来、光ファイバの曲げ部に付着されていた低屈折率樹脂に比べて、曲げ部の周囲により屈折率の低いガスを封入することで、環境温度により曲げコネクタ構造50の光学特性が変動することを抑制することができる。さらに、密閉空間を真空状態としても良い。
【0078】
また、第1及び第2実施形態の曲げコネクタ構造10、50では、フェルール本体と蓋部材とからなるフェルールによってテープ状多心光ファイバ12の光軸が90度曲げられているが、これに限定されるものではない。曲げコネクタ構造では、テープ状多心光ファイバ12の光軸が90度〜150度曲げられている構成とすることができる。図7は、135度に曲げられた曲げコネクタを密集したアレイ状に配置した例である。この図に示すように、135度に曲げられた複数の曲げコネクタ100が電気回路基板120上に実装されている。この構造では、曲げコネクタ100から延びる光ファイバ110を斜め上方に逃がすことができる。このため、従来の光軸が曲げられていないコネクタに比べて基板上の厚みを薄くすることができる、あるいは90度曲げコネクタに比べて密集させることができるといった特徴を持っている。
【0079】
さらに、第1及び第2実施形態の曲げコネクタ構造10、50では、フェルール本体と蓋部材とからなるフェルールを用いたが、これに限定されるものではない。曲げコネクタ構造では、テープ状多心光ファイバ12の曲げ部32Aを収納すると共に、テープ状多心光ファイバ12の根元側を第1固定部に固定し、テープ状多心光ファイバ12の先端部32Bを第2固定部に固定できるものであれば、他の構成でもよく、例えば一体に形成されたフェルールとすることもできる。
【符号の説明】
【0080】
10 曲げコネクタ構造
12 テープ状多心光ファイバ(テープ状光ファイバ)
14 フェルール
16 フェルール本体
16A 凹部(空洞部)
16B 研磨面
18 蓋部材
18F 研磨面
20 ブーツ(保護部材)
20A 貫通孔
20C テーパー面
22 底面部
24 側壁
24A 挿入部(第1固定部)
26 溝部
28 窪み部
32 裸光ファイバ
32A 曲げ部
32B 先端部
33 被覆部
36 高粘度接着剤
38 接着剤
50 曲げコネクタ構造
52 フェルール本体
54 アタッチメント
54B 研磨面
56 ファイバ保持孔(保持孔)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ部が形成された光ファイバと、
前記光ファイバの前記曲げ部の一方側が挿通されて固定された第1固定部と、前記曲げ部が収納された空洞部と、前記曲げ部の他方側の前記光ファイバの先端部が挿通されて固定された第2固定部と、を備えたフェルールと、を有し、
前記曲げ部は前記空洞部の壁面に非接触で、かつ前記空洞部が密閉空間とされた曲げコネクタ構造。
【請求項2】
前記曲げ部は、前記光ファイバの被覆を除いた裸光ファイバを曲げて形成されている請求項1に記載の曲げコネクタ構造。
【請求項3】
前記密閉空間に空気又は不活性ガスが封入されている請求項1又は請求項2に記載の曲げコネクタ構造。
【請求項4】
前記フェルールは、前記空洞部が形成されたフェルール本体と、前記空洞部を覆い密閉空間とする蓋部材と、を有する請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の曲げコネクタ構造。
【請求項5】
前記フェルール本体には、前記第2固定部を構成し前記光ファイバの先端部が嵌まる溝部が形成されている請求項4に記載の曲げコネクタ構造。
【請求項6】
前記フェルール本体及び前記蓋部材には、前記空洞部の壁面を前記第2固定部から前記曲げ部に対して広げる窪み部が設けられている請求項4又は請求項5に記載の曲げコネクタ構造。
【請求項7】
前記光ファイバの先端部が前記第2固定部にエポキシ樹脂系接着剤で接着固定され、
前記光ファイバの基部側部分が前記第1固定部に前記エポキシ樹脂系接着剤よりも粘度が高い高粘度接着剤で接着固定されている請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の曲げコネクタ構造。
【請求項8】
前記フェルールの前記第2固定部側の表面に、前記光ファイバの先端部と共に研磨された研磨面が設けられている請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の曲げコネクタ構造。
【請求項9】
前記フェルールの前記第2固定部に、前記光ファイバの保持孔を備えたアタッチメントが取り付けられている請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の曲げコネクタ構造。
【請求項10】
前記アタッチメントの表面に、前記光ファイバと共に研磨されたアタッチメント側研磨面が設けられている請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の曲げコネクタ構造。
【請求項11】
前記曲げ部が、r=0.5〜3mmの曲率を持つように形成された請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の曲げコネクタ構造。
【請求項12】
前記光ファイバは、複数本の光ファイバが並べられたテープ状光ファイバである請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載の曲げコネクタ構造。
【請求項13】
前記高粘度接着剤の粘度が50〜300Pa・sである請求項7に記載の曲げコネクタ構造。
【請求項14】
前記フェルールの前記第1固定部には、前記光ファイバを覆い、かつ、内面に前記フェルールに向かって拡径するテーパー面が形成された可撓性の保護部材が取り付けられている請求項1から請求項13までのいずれか1項に記載の曲げコネクタ構造。
【請求項15】
前記保護部材は、軟質ゴムあるいはエラストマーからなるプラスチックで形成されている請求項14に記載の曲げコネクタ構造。
【請求項16】
前記曲げ部は、熱によって曲げ加工されている請求項1から請求項15までのいずれか1項に記載の曲げコネクタ構造。
【請求項17】
前記フェルールによって前記光ファイバの光軸が90度〜150度曲げられている請求項1から請求項16までのいずれか1項に記載の曲げコネクタ構造。
【請求項18】
前記溝部が250μm又は125μmのピッチで配列されている請求項5に記載の曲げコネクタ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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