説明

曲面に追随する超音波探傷装置

【課題】曲面形状を有する検査対象物の形状に合わせて配置し、精度の良い探傷が可能な超音波探傷装置を提供する。
【解決手段】複数の圧電振動子1が配列され、曲面形状に変形可能なアレイ圧電振動子5と、該アレイ圧電振動子から超音波を発振させる前記圧電振動子を選択する駆動素子選択部と、該駆動素子選択部で選択された圧電振動子から発振される超音波を送受信し、その電気信号を検出する信号検出部と、前記アレイ圧電振動子に応力を加えて所望の曲面形状に変形させる変形調整手段(リニアアクチュエータ7)を備える。圧電振動子を検査対象物の表面形状に沿った形状に容易に調整することが可能になる。これにより、個々の圧電振動子が検査対象物の探傷面と略平行になることで、圧電振動子から発信された超音波が検査対象物の探傷面に対し略垂直に入射することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、検査対象物の内部構造、内部欠陥の状態、探傷面や裏面の凹凸状況を超音波を用いて非破壊検査する超音波検査技術において、特に、曲面形状を有する検査対象部位の欠陥や減肉の状態を可視化し、検査することが可能な曲面に追随する超音波探傷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波探傷装置として圧電振動子をアレイ型に配列した探触子が知られており、精度の良い超音波探傷を可能にしている。従来のアレイ探傷用探触子では固定した構造において平面又は曲面に振動子を配列した構造を有している。このため、検査対象物の表面が曲面形状を有する場合には、平面に振動子を配列した超音波探触子の構造では曲面形状に密着状態で接触させることができず、検査が困難であった。これを回避する方法として平面配列の探触子と検査対象物の間にアクリル等の遅延材を入れ、遅延材表面を曲率形状に合わせて探傷する方法があるが、この場合でも曲面に対し垂直に超音波を入射可能な部分のみの探傷が可能で、超音波が曲面に対し角度を持って入射する部分では超音波が屈曲し所定の方向への入射が因難である。また、曲面に合わせて配列したアレイ探触子の場合は、曲率毎にアレイ探触子を製作する必要があることと、曲面の曲率が連続的に変化する部位に於いては数度にわけ探触子を交換して探傷する必要があるなどの問題がある。
【0003】
これに対し、複数の圧電振動子を配列したアレイ圧電振動子を変形可能な柔軟性を有するものとし、これを検査対象物の表面形状に沿うように変形させて配置することで曲面形状を有する検査対象物への設置を可能とした探傷装置が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開特開2007−192649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のように柔軟性を有するアレイ圧電振動子も、検査対象物や、これに重ねた遅延材に接して沿わせることでアレイ圧電振動子の形状を変化させているため、検査対象物と超音波探傷装置との間に水などの液体を介在させた超音波探傷では、検査対象物や遅延材に重ねてアレイ圧電振動子の変形を行うことができない。一旦、検査対象物にアレイ圧電振動子を重ねて変形を行った後、これを移動させて水などを介在させることも可能であるが、移動時に形状を保持することが難しく、また、アレイ圧電振動子の正確な移動も困難であり、現実的ではない。
【0005】
この発明は上記のような従来のものの課題を解決するためになされたもので、曲面形状に対応しアレイ圧電振動子の曲率を部分的にも可変調整可能とすることで、検査対象物の曲面形状に追随することを容易にしたアレイ圧電振動子を備える曲面に追随する超音波探傷装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の曲面に追随する超音波探傷装置のうち、第1の本発明は、複数の圧電振動子が配列され、曲面形状に変形可能なアレイ圧電振動子と、該アレイ圧電振動子から超音波を発振させる前記圧電振動子を選択する駆動素子選択部と、該駆動素子選択部で選択された圧電振動子から発振される超音波を送受信し、その電気信号を検出する信号検出部と、前記アレイ圧電振動子に応力を加えて所望の曲面形状に変形させる変形調整手段とを備えることを特徴とするる。
【0007】
第2の本発明の曲面に追随する超音波探傷装置は、前記第1の本発明において、前記変形調整手段は、前記圧電素子の配列方向に沿って配置された複数の変形調整部を備えており、該複数の変形調整部は、独立して前記アレイ圧電振動子に所望の応力付加が可能であることを特徴とする。
【0008】
第3の本発明の曲面に追随する超音波探傷装置は、前記第1または第2の本発明において、前記信号検出部で検出された超音波反射波の電気信号を演算処理により画像化して、表示する表示処理装置を備えることを特徴とする。
【0009】
第4の本発明の曲面に追随する超音波探傷装置は、前記第1〜第3の本発明のいずれかにおいて、前記アレイ圧電振動子は、柔軟性を有する基板に複数の圧電振動子が直線状に配列され、該圧電振動子が両面側から変形可能な弾力性のある材料で保持されていることを特徴とする。
【0010】
第5の本発明の曲面に追随する超音波探傷装置は、前記第1〜第4の本発明のいずれかにおいて、前記変形調整手段は、前記アレイ圧電振動子面方向において複数の位置で固定され、該アレイ圧電振動子の面方向と交差する方向において独立して固定位置の変更が可能な複数のジグ又はリニアアクチュエータを有することを特徴とする。
【0011】
第6の本発明の曲面に追随する超音波探傷装置は、前記第1〜第5の本発明のいずれかにおいて、前記アレイ圧電振動子は、液体を介して検査対象物の検査面側に配置して表面超音波を検査対象物に送受信するものであることを特徴とする。
【0012】
第7の本発明の曲面に追随する超音波探傷装置は、前記第1〜第6の本発明のいずれかにおいて、前記各圧電振動子で発信された超音波による反射波を受信して、前記圧電素子と検査物表面との距離を算出し、該算出結果に基づいて前記変形調整手段を制御して、前記アレイ圧電振動子を前記検査物表面に沿った形状に変形させる制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
すなわち、本発明によれば、複数の圧電振動子が配列され、曲面形状に変形可能なアレイ圧電振動子と、該アレイ圧電振動子から超音波を発振させる前記圧電振動子を選択する駆動素子選択部と、該駆動素子選択部で選択された圧電振動子から発振される超音波を送受信し、その電気信号を検出する信号検出部と、前記アレイ圧電振動子に応力を加えて所望の曲面形状に変形させる変形調整手段とを備えるので、各圧電素子から超音波を送信して、検査対象物からの反射波を信号検出部で検出することができ、高精度な超音波探傷を行うことができるとともに、前記検出結果に基づいて各圧電振動子と検査対象物表面との距離を測定することができ、該測定結果に基づいて変形調整手段によってアレイ圧電振動子を変形させることで、該圧電振動子を検査対象物の表面形状に沿った形状に容易に調整することが可能になる。これにより、個々の圧電振動子が検査対象物の探傷面と略平行になることで、圧電振動子から発信された超音波が検査対象物の探傷面に対し略垂直に入射することが可能になり、測定精度を一層高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の曲面に追随する超音波探傷装置の一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
柔軟性を有するポリマー圧電フィルム材や柔軟性を有する基板に貼り付けたコンポジット材等からなる圧電振動子1を直線状に配置してガラスエポキシ基板2に貼り付け固定する。
上記ガラスエポキシ基板2は厚さによって柔軟性は変わるが、適切な厚さを選択すると必要な曲率までの変形が可能である。ガラスエポキシを薄くしすぎると個々の圧電振動子1の剛性により屈曲が一様ではなくなり、ガラスエポキシの曲率と個々の圧電振動子1の向きが異なることが発生する。
【0015】
このガラスエポキシ基板2の端部分を剛性のある鋼材などで軽く挟み、鋼材に曲がるように力を加えたとき、その力に応じてサンドイッチ構造で曲がる様に保持する。すなわち、その各圧電振動子を両側から変形可能な弾力性のある鋼板またはプラスチック板3、4にて挟んでアレイ圧電振動子5とする。前記鋼板またはプラスチック板3、4の一方には、圧電素子1からの超音波の送受信を行うために窓(図示しない)を設け、他方には圧電素子の信号線の取り出しのための窓(図示しない)を設ける。このとき、鋼板またはプラスチック板3、4側のガラスエポキシ面には音響吸収としてゴムやシリコンゴムの貼り付けを行う場合もある。
【0016】
上記アレイ圧電振動子5には取付孔5aを設け、該取付孔5aを通して圧電振動子1を挟むように固定部6、6によりリニアアクチュエータ7、7が固定されている。リニアアクチュエータ7は、伝導モータなどによって伸縮が可能であり、本発明の変形調整手段に相当する。なお、曲面に合わせた変形時におけるガラスエポキシ基板2と鋼板またはプラスチック板3、4との保持位置のずれを吸収するため取付孔5aを長穴とする。ガラスエポキシ基板2と鋼板またはプラスチック板3、4とのサンドイヅチ構造はリニアアクチュエータ7の固定部6、6が上下しても追随できる程度に弱く保持されている。
【0017】
上記リニアアクチュエータ7は、アレイ圧電振動子5の配列方向に沿って、所定間隔で配置されてその固定部6、6によって圧電振動子1に固定されている。通常はアレイ圧電振動子5の配列方向中心を固定し、両側の2点又は4点をリニアアクチュエータ7で固定し、アレイ圧電振動子5の面方向と交差する方向で移動調整することで、曲率に合わせたアレイ圧電振動子5の曲面が得られる。
なお、固定部6は、アレイ圧電振動子5の曲面変形に対応できるようにアレイ圧電振動子5側の面が凸曲面(略半球面)で構成されており、アレイ圧電振動子5の変形によってもアレイ圧電振動子5と固定部6との隙間量が変化しないようにされている。
【0018】
上記アレイ圧電振動子5では、図2(リニアアクチュエータ7の図示を省略)に示すように、各圧電振動子1に、駆動素子選択部11が電気的に接続されており、該駆動素子選択部11に、信号発生部10で発生させた超音波発生用信号が入力される。駆動素子選択部11は、スイッチング回路などにより構成され、所望の圧電振動子1に対し信号を加えて超音波発信をさせることができる。また、各圧電振動子1では、受信した超音波信号が信号検出部に相当する信号検出回路12に出力され、該信号検出回路12には、前記駆動素子選択部からの出力信号が前記圧電振動子1とともに入力されている。これにより動作している圧電振動子5の確定および出力同期がなされる。信号検出回路12で検出された信号は信号処理部13に出力され、増幅部13aで増幅された後、A/D変換部13bでデジタル変換される。該信号処理部13には、表示部14が接続されており、該表示部14では、信号処理部13で得られた信号に基づいて画像を表示することができる。また、信号処理部13には、各リニアアクチュエータ7の電気モータなどを個別に制御可能な制御部15が接続されている。制御部15は、CPUとこれを動作させるプログラムを主として構成することができる。
【0019】
次に、上記超音波探傷装置の使用状態を図2、図3に基づいて説明する。
アレイ圧電振動子5は、望ましくは、検査対象物20の表面形状に合わせて粗変形させておく。
この使用状態では、超音波探傷には水浸法又は局部水浸法が用いられ、検査対象物20とアレイ圧電振動子5との間には水が介在されている。
探傷に際しては、アレイ圧電振動子5に対し、超音波を発振させる圧電振動子1を選択する駆動素子選択部11から圧電素子1へ高電圧パルスを送信する。駆動素子選択部11に選択され、高電圧パルスを受けた圧電振動子1から超音波が発振される。庄電振動子1から発信された超音波は水を介し検査対象物20の表面、裏面及び内部欠陥で反射し、再び圧電振動子1で受信される。受信された超音波は、その電気信号を検出する信号検出回路12と、検出されたエコーの電気信号を増幅しデジタル変換する信号処理部13にて数値化され、表示部14の演算処理により、画像化し表示する。したがって表示部14は本発明の表示処理装置に相当する。
【0020】
また、探傷に先立って、各圧電素子5で受信した信号が信号処理された後、制御部15に出力される。制御部では、受信信号に基づいて、各圧電素子5と検査物20の探傷面20aとの距離を算出することができる。すなわち、アレイ圧電振動子5で発信した超音波は水などの液体21を介して伝搬し、検査対象物の探傷面20aで反射し、一部が検査物20に入射する。このときの、探傷面20aの反射波の受信時間は液体21の音速と液体の厚さによって定まる。この液体の音速を予め測定しておくことで液体の厚さは反射波の受信時間から求まることから、それぞれのアレイ圧電振動子で受信される探傷面20aでの反射波の時間がほぼ一定となるよう制御することで、アレイ圧電振動子5は検査対象物20の表面形状に合うことになる。
【0021】
制御部15では、算出結果に基づいて、図3に示すように、各圧電素子5と検査物20の探傷面20aとの距離を調整するように各リニアアクチュエータ7の伸縮制御を行う。この結果、アレイ圧電振動子は、各固定部6によって位置が調整され、探傷面20aの曲率形状に合わせて変形される。このとき、アレイ圧電振動子5の個々の振動子1と探傷面20aとの間隔は全て一定でなくとも良い。距離の変動は、表示部14での入力を可能にしておくことで表示部14を通して入力が可能であり、該入力結果は制御部15に出力されてリニアアクチュエータ7の調整がなされる。個々の圧電振動子1と探傷面20aとの平行度は2度以内であれば探傷結果に殆ど影響しない。
この結果、個々の圧電振動子が検査対象物20の探傷面20aと略平行になり、圧電振動子1から発信された超音波が検査材対象物20に対し略垂直に入射することが可能になり、探傷精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態のアレイ圧電振動子を示す平面図および断面図である。
【図2】同じく、超音波探傷装置を検査対象物に配置した状態を示す図である。
【図3】同じく、超音波探傷装置を検査対象物に配置した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1 圧電振動子
2 ガラスエポキシ基板
3 鋼板またはプラスチック板
4 鋼板またはプラスチック板
5 アレイ圧電振動子
7 リニアアクチュエータ
10 信号発生部
11 駆動信号選択部
12 信号検出回路
13 信号処理部
14 表示部
15 制御部
20 検査対象物
20a 探傷面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧電振動子が配列され、曲面形状に変形可能なアレイ圧電振動子と、該アレイ圧電振動子から超音波を発振させる前記圧電振動子を選択する駆動素子選択部と、該駆動素子選択部で選択された圧電振動子から発振される超音波を送受信し、その電気信号を検出する信号検出部と、前記アレイ圧電振動子に応力を加えて所望の曲面形状に変形させる変形調整手段とを備えることを特徴とする曲面に追随する超音波探傷装置。
【請求項2】
前記変形調整手段は、前記圧電素子の配列方向に沿って配置された複数の変形調整部を備えており、該複数の変形調整部は、独立して前記アレイ圧電振動子に所望の応力付加が可能であることを特徴とする請求項1記載の曲面に追随する超音波探傷装置。
【請求項3】
前記信号検出部で検出された超音波反射波の電気信号を演算処理により画像化して、表示する表示処理装置を備えることを特徴とする請求項1または2記載の超音波検査装置。
【請求項4】
前記アレイ圧電振動子は、柔軟性を有する基板に複数の圧電振動子が直線状に配列され、該圧電振動子が両面側から変形可能な弾力性のある材料で保持されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の曲面に追随する超音波探傷装置。
【請求項5】
前記変形調整手段は、前記アレイ圧電振動子面方向において複数の位置で固定され、該アレイ圧電振動子の面方向と交差する方向において独立して固定位置の変更が可能な複数のジグ又はリニアアクチュエータを有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の曲面に追随する超音波探傷装置。
【請求項6】
前記アレイ圧電振動子は、液体を介して検査対象物の検査面側に配置して表面超音波を検査対象物に送受信するものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の曲面に追随する超音波探傷装置。
【請求項7】
前記各圧電振動子で発信された超音波による反射波を受信して、前記圧電素子と検査物表面との距離を算出し、該算出結果に基づいて前記変形調整手段を制御して、前記アレイ圧電振動子を前記検査物表面に沿った形状に変形させる制御を行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の曲面に追随する超音波探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−276085(P2009−276085A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125068(P2008−125068)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(594029263)日鋼検査サービス株式会社 (5)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【出願人】(598085261)エルメック電子工業株式会社 (7)
【出願人】(500305508)株式会社検査技術研究所 (2)
【Fターム(参考)】