説明

曳航式模型船の水中音計測装置及びその方法

【課題】水中音の発生位置を特定できると共に、雑音が低減できる曳航式模型船の水中音計測装置及びその方法を提供する。
【解決手段】水槽2と、該水槽2に沿って地上3を走行する曳引車4と、該曳引車4に保持され該曳引車4の走行方向に船首を向けて上記水槽2を曳引される模型船5と、上記曳引車4に保持され上記水槽2の水中で上記模型船5に臨むハイドロホン6とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中音の発生位置を特定できると共に、雑音が低減できる曳航式模型船の水中音計測装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶に関する諸特性を調べるために、模型船を使用することがある。水槽に浮かべた模型船を地上から固定しておき、水槽中の水を循環させることで相対的に模型船を航行させる方式もあるが、ある程度の長さ、例えば、100mを有する水槽を作り、水槽に沿って地上に曳引車を走行させ、曳引車に保持された模型船を水槽で曳引(曳航)する方式がある。
【0003】
曳引車で曳航される模型船が発生する水中音を計測する場合、従来は、図6に示されるように、水槽2の壁などの定点にハイドロホン6を設置しておき、ハイドロホン6の近くを曳引車5に曳引された模型船4が通過する時にその水中音をハイドロホン6で計測している。あるいは模型船4の船体表面にハイドロホン6を取り付けておき、模型船4が発生する水中音をハイドロホン6で計測することもできる。
【0004】
【特許文献1】特開平10−2832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水槽の定点にハイドロホンを設置する方式は、ハイドロホンの近くを模型船が通過した短い時間しか計測ができない。また、ハイドロホンと模型船との位置関係が継続的に変化していると共に、ハイドロホンの指向性がある程度の広さを有することから、計測された水中音からその水中音の精密な発生位置は特定できない。また、ハイドロホンには周囲から様々な雑音が混ざって計測されるが、模型船が発生している水中音とその他の雑音とが分離しにくい。
【0006】
水槽に沿って多箇所にハイドロホンを設置することで、各ハイドロホンが次々と順番に水中音を計測するようにしたとしても、ハイドロホンと模型船との位置関係は継続的に変化し、その変化がハイドロホンの設置周期で繰り返されるのみである。水中音の精密な発生位置が特定できない点、模型船が発生している水中音とその他の雑音とが分離しにくい点は同じである。
【0007】
ハイドロホンを模型船に取り付ける方式もある。しかし、ハイドロホンを模型船に取り付けると、ハイドロホンは模型船内で生じているレベルの大きい雑音を計測してしまう。また、この方式では、模型船が発生した水中音を模型船から適宜に離れた場所で計測することができない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、水中音の発生位置を特定できると共に、雑音が低減できる曳航式模型船の水中音計測装置及びその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の水中音計測装置は、水槽と、該水槽に沿って地上を走行する曳引車と、該曳引車に保持され該曳引車の走行方向に船首を向けて上記水槽を曳引される模型船と、上記曳引車に保持され上記水槽の水中で上記模型船に臨むハイドロホンとを備えたものである。
【0010】
上記曳引車に取り付けられ上記ハイドロホンの上記模型船に対する相対位置を調節可能な位置調節機構を備えてもよい。
【0011】
上記曳引車に取り付けられて水中に浸漬され、上記曳引車の走行方向に平行な側面を有するカウリングと、該カウリングの上記側面に並べて配置された複数の上記ハイドロホンとを備えてもよい。
【0012】
また、本発明の水中音計測方法は、水槽に沿った地上に曳引車を走行させることにより、この曳引車に保持された模型船を上記水槽で曳引すると共に、上記曳引車に保持されたハイドロホンを上記水槽の水中で上記模型船に臨ませておくことにより、曳引中に上記模型船から発生する水中音を上記模型船に対して固定の位置を維持している上記ハイドロホンで継続的に計測するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0014】
(1)水中音の発生位置を特定できる。
【0015】
(2)雑音が低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0017】
図1、図2、図3に示されるように、本発明に係る曳航式模型船の水中音計測装置1は、水槽2と、水槽2に沿って地上3を走行する曳引車4と、曳引車4に保持され曳引車4の走行方向に船首を向けて水槽2を曳引される模型船5と、曳引車4に保持され水槽2の水中で模型船5に臨むハイドロホン6とを備えたものである。
【0018】
曳引車4が模型船5を保持するための具体的構成は、従来技術であるので、省く。
【0019】
本実施形態では、ハイドロホン6は複数のハイドロホン6を並べたハイドロホンアレイ7で実現される。ハイドロホンアレイ7は、カウリング8とそのカウリング8に取り付けられた複数のハイドロホン6とからなる。
【0020】
カウリング8は、流線型又は管状に形成された容器である。曳引車4に固定されて水上より水中に垂直に下ろされた支持棒9にカウリング8が水平に保持される。カウリング8は、曳引車4の走行方向に平行な側面を有する。このカウリング8の側面にハイドロホンアレイ7となる複数のハイドロホン6が所定の間隔で並べて配置される。
【0021】
図示しないが、各ハイドロホン6からの信号線が曳引車4上のデータ解析装置に配線されており、各ハイドロホン6が時間的に連続して計測する水中音の信号(アナログ信号又はデジタル信号)をデータ解析装置において解析することができる。あるいは、曳引車4上には無線通信機を搭載し、地上3に設置されたデータ解析装置で水中音の信号を解析するようにしてもよい。
【0022】
データ解析装置は、図4に示されるように、ハイドロホンアレイ7のように所定の間隔で配置された複数のハイドロホン6が計測する水中音の複数の信号から、鋭い受波指向性ビームを形成し、その受波指向性ビームが向いた特定方向のみにおける音を抽出することが可能である。同時に、受波指向性ビームの外から来る音を排除することができる。ハイドロホンアレイ7で集めた複数のハイドロホン6の信号を元に受波指向性ビームを形成することは従来技術に属するので、説明は省く。
【0023】
以下、本発明の水中音計測装置1の動作と作用効果を説明する。
【0024】
図1のように、曳引車4に模型船5とハイドロホンアレイ7を取り付けて、曳引車4を水槽2に沿わせて走行させると、模型船5とハイドロホンアレイ7は相互の位置関係を維持したまま水槽2を進む。このように、ハイドロホンアレイ7は模型船5に対して常に同じ位置、同じ姿勢にある。
【0025】
模型船5が水槽2を曳引されている間、ハイドロホンアレイ7の各ハイドロホン6が計測する水中音の複数の信号がデータ解析装置に収集される。データ解析装置では、複数のハイドロホン6の信号を元に受波指向性ビームを形成する。受波指向性ビームは、ハイドロホンアレイ7におけるハイドロホン6の列に対して所望の角度に向けることができる。
【0026】
このとき、ハイドロホンアレイ7は模型船5に対して常に同じ位置、同じ姿勢にあるので、ハイドロホンアレイ7から所望の角度に向けた受波指向性ビームは、模型船5の所定位置範囲を継続的に指すことになる。よって、水中音の音源の位置(船体の所望部位)を特定した計測が可能となる。また、このとき、特定方向以外からの雑音は効果的に遮断することができる。
【0027】
このように、本発明にあっては、曳引車4に保持されたハイドロホン6を備えたので、模型船5に対して常に同じ位置から水中音を計測することができる。
【0028】
ハイドロホンアレイ7は流線型のカウリング8内に設置することで、水の抵抗を減らすと共に、ハイドロホンアレイ自体が雑音を発生しにくい。また、ハイドロホンアレイ7は管状のカウリング8内に設置することで、水の流れの音(ハイドロホンアレイ7が発生する水中音)を緩和することができる。
【0029】
これまで説明したハイドロホンアレイ7は、複数のハイドロホン6を一次元的に配置したものである。しかし、これに限らず、複数のハイドロホン6を二次元的に配置してもよい。図5(a)に示したハイドロホンアレイ51は、曳引車4の走行方向に平行な側面を有するカウリング52の上記側面に、上下方向及び前後方向にそれぞれ所定の間隔で複数のハイドロホン6を設けたものである。また、図5(b)に示したハイドロホンアレイ53は、前述のハイドロホンアレイ7を上下方向に複数段に配置したものである。
【0030】
これらの二次元ハイドロホンアレイでは、ハイドロホンを平面に並べることでピンポイントの指向性を得ることができる。すなわち、図4の受波指向性ビームは上面から見た指向性を有するものであるが、側面から見ると高さ方向に拡がりを有する。このため、複数のハイドロホン6を一次元的に配置したハイドロホンアレイ7では、高さ方向での位置を特定することができない。これに対し、複数のハイドロホン6を二次元的に配置したハイドロホンアレイ51,53を用いると、音源の位置を高さ(水深)方向にも特定することができる。
【0031】
本発明の水中音計測装置1は、曳引車4に取り付けられハイドロホン6の模型船5に対する相対位置を調節可能な位置調節機構を備えてもよい。すなわち、図1の水中音計測装置1では、ハイドロホンアレイ7が模型船5と平行に模型船5から所定の距離を隔てているが、位置調節機構によりこの距離を可変することができる。また、位置調節機構により模型船5の前後方向にもハイドロホンアレイ7の位置を調節することができる。
【0032】
位置調節機構は、曳引車4の走行方向、走行方向に直角な方向、上下方向に移動可能なハイドロホン保持具と、そのハイドロホン保持具を上記各方向に駆動するステッピングモータとを備える。ステッピングモータの駆動量は地上3に設置された図示しない制御装置から与える。あるいは、ジグを手操作することでハイドロホンアレイ7の位置が調節できるようにしておき、模型船5とハイドロホンアレイ7の位置関係を実測しつつ、適切な位置にハイドロホンアレイ7を固定するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態を示す曳航式模型船の水中音計測装置の上面図である。
【図2】図1の水中音計測装置の模型船正面から見た正面図である。
【図3】図1の水中音計測装置の模型船側面から見た側面図である。ただし、ハイドロホンアレイは透視されている。
【図4】受波指向性ビームを示す上面図である。
【図5】(a),(b)は、本発明の他の実施形態を示すハイドロホンアレイの側面図である。
【図6】従来の曳航式模型船の水中音計測装置の上面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 水中音計測装置
2 水槽
3 地上
4 曳引車
5 模型船
6 ハイドロホン
7 ハイドロホンアレイ
8 カウリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水槽と、該水槽に沿って地上を走行する曳引車と、該曳引車に保持され該曳引車の走行方向に船首を向けて上記水槽を曳引される模型船と、上記曳引車に保持され上記水槽の水中で上記模型船に臨むハイドロホンとを備えたことを特徴とする曳航式模型船の水中音計測装置。
【請求項2】
上記曳引車に取り付けられ上記ハイドロホンの上記模型船に対する相対位置を調節可能な位置調節機構を備えたことを特徴とする請求項1記載の曳航式模型船の水中音計測装置。
【請求項3】
上記曳引車に取り付けられて水中に浸漬され、上記曳引車の走行方向に平行な側面を有するカウリングと、該カウリングの上記側面に並べて配置された複数の上記ハイドロホンとを備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の曳航式模型船の水中音計測装置。
【請求項4】
水槽に沿った地上に曳引車を走行させることにより、この曳引車に保持された模型船を上記水槽で曳引すると共に、上記曳引車に保持されたハイドロホンを上記水槽の水中で上記模型船に臨ませておくことにより、曳引中に上記模型船から発生する水中音を上記模型船に対して固定の位置を維持している上記ハイドロホンで継続的に計測することを特徴とする曳航式模型船の水中音計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−288104(P2009−288104A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141470(P2008−141470)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】