説明

最低動作電圧推定方法及び装置

【課題】非常に簡単に且つ低コストに、非線形負荷機器の最低動作電圧を推定する。
【解決手段】受電所の遮断器が開放されたときのある工場内の電力系統の電圧値を測定していたところ、瞬時的に電源電圧が低下するのではなく、定格電圧値から0となるまでに数百msの時間をかけてほぼ線形に低下することがわかった。本発明の最低動作電圧推定装置は、電力系統の電圧値が通常時の電圧値から少なくとも交流周期よりも充分長い時間をかけて低下していく最中に、非線形負荷機器に供給される電流値を測定する測定手段と、非線形負荷機器に対して電流が供給されなくなった時刻を特定し、当該時刻における電圧値に基づき最低動作電圧を推定する推定手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非線形負荷機器の最低動作電圧を算出する最低動作電圧推定方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気機器は、外部の電力系統等から電力が供給され、その電力をエネルギー源として動作をする。電気機器が動作可能な電源電圧は、一般にある程度の範囲を有している。電気機器が動作停止をせずに、継続的に動作し続けることが可能な最低の電圧を、最低動作電圧という。
【0003】
各種の電気機器を管理する際に、その電気機器の最低動作電圧の算出が必要となる場合がある。例えば、瞬時的な電源電圧の低下が発生したときの対策や無停電電源の設計を行う場合等に、最低動作電圧の把握が必要となる。
【0004】
以下、非線形負荷機器の最低動作電圧を算出する従来の最低動作電圧測定システムについて、図9を参照して説明をする。
【0005】
従来の最低動作電圧測定システム100は、測定対象となる非線形負荷機器101に対して交流の電源電圧を供給する電源装置102と、最低動作電圧を計測する計測装置103とから構成される。
【0006】
測定対象となる非線形負荷機器101は、交流の電源電圧を整流して直流に変換し、その直流電力をコンデンサに蓄積し、コンデンサに蓄積された電力を直流のまま出力する又は交流電圧に変換するインバータ104と、インバータ104から出力される電力を消費する負荷105とから構成される。
【0007】
従来の最低動作電圧測定システム100は、次のように動作する。
【0008】
まず、電源装置102は、出力電圧を非線形負荷機器101が確実に動作可能であろう電圧値から段階的に下げ、各段階で出力電圧を一定時間ずつ固定する。計測装置103は、各段階で非線形負荷機器101が動作を停止したか否かを判断する。非線形負荷機器101が動作を停止したか否かの判断は、例えば、非線形負荷機器101が動作していることを示す出力信号の有無を判断するか、又は、電源装置102から非線形負荷機器101へ電流が流れているか否かを判断すればよい。すなわち、出力信号が無くなるか、又は、電源装置102から非線形負荷機器101への電流が無くなれば、非線形負荷機器101が動作していないと判断できる。
【0009】
計測装置103は、非線形負荷機器101が動作しなくなったと判断した場合、その直前の段階での電源装置102の出力電圧を、非線形負荷機器101の最低動作電圧として出力する。
【0010】
ある非線形負荷機器に対する最低動作電圧の測定結果を、図10に示す。
【0011】
図10は、実線の太線が測定対象の非線形負荷機器に印加されている電源電圧の実効値(Vrms)を示しており、実線の細線が測定対象の非線形負荷機器に印加されている電源電圧の瞬時値(V)を示しており、点線の太線が測定対象の非線形負荷機器に供給されている電流の実効値(Irms)を示しており、点線の細線が測定対象の非線形負荷機器に供給されている電流の瞬時値(I)を示している。
【0012】
この図10に示すように、測定対象の非線形負荷機器は、電源電圧が150V(実効値)の時には電流が流れており動作しているが、電源電圧が149V(実効値)では電流が流れておらず動作していないのがわかる。
【0013】
従って、従来の最低動作電圧測定システム100は、150V(実効値)をこの非線形負荷機器の最低動作電圧であると判断する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、工場等に既に設置されている電気機器に対して、従来の最低動作電圧測定システム100を用いて最低動作電圧の測定を行う場合、電源装置を測定対象機器の近傍まで移動させなければならない。そのため、従来の最低動作電圧測定システム100では、既に設置されている電気機器の測定が非常に面倒となる。
【0015】
また、大容量の機器に対して従来の最低動作電圧測定システム100を用いて最低動作電圧の測定を行う場合、大容量の電源装置を準備しなければならず、コストが高くなってしまう。また、例えば、何百アンペアといった大容量の電気機器に対しては、電源を準備するのは現実的に困難である。
【0016】
本発明は、このような課題を解決するものであり、非常に簡単に且つ低コストに、非線形負荷機器の最低動作電圧を推定することができる最低動作電圧推定方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、受電所の遮断器が開放されたときのある工場内の電力系統の電圧値を測定していた。このときの電力系統の三相電圧の測定波形を図1に示す。
【0018】
本発明者は、この測定の結果を解析した。すると、受電所の遮断器が開放されると、工場の電力系統は、瞬時的に電源電圧が低下するのではなく、通常の電圧値(例えば定格電圧値)から0となるまでに、約200ms(電源の交流周期で10サイクル時間)の時間をかけて低下することがわかった。
【0019】
このような電圧がゆっくりと低下してゆく現象は、一般的な工場の電力系統に接続されている電気機器の6〜7割程度は回転機であるといわれており、これらの回転機の残留電圧によるものではないかと推定される。従って、回転機を用いている他の工場等でも、送り出しの変電所の遮断器が開放されたときに同様の現象が発生すると想定される。
【0020】
また、ある工場内の電力系統に発生する残留電圧は、その工場内の回転機だけでなく、同一の電力系統に接続されている他の需要家(他の工場等)の回転機による影響も含まれると推定される。従って、例えば、回転機がほとんど存在しない工場の電力系統であっても、同様の現象が生じると想定される。
【0021】
そこで、本発明者は、以上のような充分に長い時間をかけて電力系統の電圧が定格値から低下していく現象を、電気機器の最低動作電圧の把握に利用することを見出し、次のような最低動作電圧推定方法及び装置を発明した。
【0022】
本発明に係る最低動作電圧推定方法は、非線形負荷機器の最低動作電圧を推定する最低動作電圧推定方法であって、測定対象となる上記非線形負荷機器を、他の電気機器が接続された電力系統から電力の供給を受けて動作させておき、上記電力系統の電圧値が、通常時の電圧値から少なくとも交流周期よりも長い時間をかけて低下していく最中に、上記非線形負荷機器に対して供給されている電圧値及び電流値を測定し、上記非線形負荷機器に対して電流が供給されなくなった時刻を特定し、上記時刻における当該非線形負荷機器に対して印加されている電圧値に基づき、当該非線形負荷機器の最低動作電圧を推定することを特徴とする。
【0023】
本発明に係る最低動作電圧推定装置は、非線形負荷機器の最低動作電圧を推定する最低動作電圧推定装置であって、測定対象となる上記非線形負荷機器を、他の機器が接続されている電力系統から電力の供給を受けて動作させておき、上記非線形負荷機器に対して供給されている電圧値及び電流値を測定する測定手段と、上記測定手段による測定結果に基づき、上記非線形負荷機器の最低動作電圧を推定する推定手段とを備え、上記測定手段は、上記電力系統の電圧値が、通常時の電圧値から少なくとも交流周期よりも長い時間をかけて低下していく最中に、上記非線形負荷機器に対して供給されている電圧値及び電流値を測定し、上記推定手段は、上記非線形負荷機器に対して電流が供給されなくなった時刻を特定し、上記時刻における当該非線形負荷機器に対して印加されている電圧値に基づき、当該非線形負荷機器の最低動作電圧を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る最低動作電圧推定方法及び装置では、電力系統の電圧値が通常時の電圧値から少なくとも交流周期よりも長い時間をかけて低下していく最中に、非線形負荷機器に供給される電流値を測定して、当該非線形負荷機器の最低動作電圧を推定している。
【0025】
このため本発明に係る最低動作電圧推定方法及び装置では、電源装置を準備しなくても済み、非常に簡単に且つ低コストに最低動作電圧を推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明が適用された非線形負荷機器の最低動作電圧を推定する最低動作電圧推定装置について、具体的に説明をする。
【0027】
非線形負荷機器には、正弦波の電圧を印加したときに、正弦波ではない電流が流れる機器が含まれる。非線形負荷機器には、例えば、電気を一方向にしか流さないダイオードと、電気を蓄えるコンデンサで構成される整流回路によって、交流電圧を整流して直流に変換する回路が含まれる。この場合、コンデンサは、コンデンサ電圧より交流電圧の方が高い時には充電されるが、交流電圧が低い時には、コンデンサが放電し負荷に直流電圧のエネルギーを供給するように設計されている。この回路では、交流電圧のピーク付近の部分でしか電流が流れないパルス状の電流波形になる。最近では、力率向上の観点から電流波形が正弦波となるよう制御した回路もあり、交流実効値電圧とそれに伴って流れる交流実効値電流の関係が線形でない能動素子で構成されたパワーエレクトロニクス機器なども非線形負荷機器と総称される。
【0028】
また、最低動作電圧とは、電気機器が動作停止をせずに、継続的に動作し続けることが可能な最低の電圧のことである。
【0029】
まず、最低動作電圧推定装置が適用される電力ネットワークについて説明をする。
【0030】
図2は、ある電力ネットワークの構成を示す図である。
【0031】
電力ネットワークは、電力の送電を行う電力系統1と、電力系統1に対して電力の供給を行う変電所や発電所等の電力供給源2と、電力供給源2から電力系統1へ供給される電力を一時的に遮断する遮断器3と、電力系統1に供給されている電力を消費する需要家4(4-1〜4-n)とを備えている。
【0032】
電力系統1は、電力を電力供給源2から各需要家4まで送電するための送電線のネットワークであり、送電線、配電用変電所、高圧配電線、変圧器、低圧配電線、引込線、需要家構内配線等から構成されている。
【0033】
遮断器3は、電力供給源2から電力系統1へ供給される電力を、電力系統1の電力供給源2側の端で遮断するものである。
【0034】
需要家4とは、家庭、工場、商店、その他ビル等の建物、工場内の各受変電設備等々の電力を消費する機関である。電力系統1上には、多数の需要家4が接続されおり、それぞれの需要家4が電力系統1上に送電されている電力を消費している。
【0035】
需要家4は、電力系統1からの電力を消費する各種の電気機器を備えている。需要家4は、例えば、複数の回転機6-1〜6-n、その他の電気機器7-1〜7-n等を備えている。
【0036】
ここで、ある需要家(例えば、需要家4-1)には、測定対象となる非線形負荷機器10が、需要家内の電力系統1に接続されている。測定対象となる非線形負荷機器10は、電力系統1からの電力を消費して動作をしている。
【0037】
本発明が適用された最低動作電圧推定装置11は、このような測定対象となる非線形負荷機器10に接続されている。
【0038】
つぎに、本発明が適用された最低動作電圧推定装置11についてさらに詳細に説明をする。
【0039】
図3は、最低動作電圧の測定対象となる非線形負荷機器10、及び、最低動作電圧を測定する最低動作電圧推定装置11の構成を示す図である。
【0040】
まず、非線形負荷機器10は、例えば、インバータ21と、インバータ21から出力される電力を消費する負荷22とから構成される。インバータ21は、電力系統1から供給される正弦波の交流電圧を整流して直流に変換するコンバータ部23と、コンバータ部23から出力される直流電力を蓄積するコンデンサ24と、コンデンサ24に蓄積された電力を例えば再度交流電圧に変換して負荷22に供給するインバータ部25とを備えている。
【0041】
このような構成の非線形負荷機器10は、電力系統1から供給された電力をエネルギー源として負荷22が動作している。
【0042】
最低動作電圧推定装置11は、測定/記憶部31と、推定部32とを備えている。
【0043】
測定/記憶部31は、電力系統1から非線形負荷機器10に印加される瞬時電圧(V)並びに電力系統1から非線形負荷機器10へ供給される瞬時電流(I)を継続的に測定するとともに、その値を記憶する。測定/記憶部31は、例えば、電力系統1の非線形負荷機器10側の端部部分で、非線形負荷機器10に与えられる電圧V及び電流Iを測定する。電圧V及び電流Iの測定方法はどのような方法であってもよいが、電力の交流周期よりも充分に短いサンプリング間隔(例えば、1/3200秒)で測定し、実効値が算出できるような測定方法が必要となる。なお、電力の交流周期とは、例えば1/50秒及び1/60秒等である。以下、電力の交流周期のことを、単にサイクルと呼ぶ。
【0044】
また、測定/記憶部31は、電力系統1とは別系統の電源、例えば電池や無停電電源等を電源として動作する必要がある。最低動作電圧推定装置11は、非線形負荷機器10の最低動作電圧の推定を行うために、電力系統1の電圧が低下して0になったとしても動作し続ける必要があるからである。
【0045】
推定部32は、測定/記憶部31による測定結果に基づき、非線形負荷機器10の最低動作電圧を推定する。推定部32は、単独の機器であってもよいし、例えば、パーソナルコンピュータ上で動作するコンピュータプログラムであってもよい。
【0046】
つぎに、推定部32による最低動作電圧の推定処理について、図4のフローチャートを参照して説明をする。
【0047】
ステップS1において、推定部32は停止判定電流値を求める。推定部32は、例えば、非線形負荷機器10の待機時の電流の上限値を停止判定電流値として設定する。推定部32は、例えば、電源方式が三相式の場合には、各相の待機電流の実効値の最大値を求め平均値(Iave)を算出する(図5)。推定部32は、最大値の平均値(Iave)(0.145A)を停止電流判定値に設定する。なお、後述するように、実効値は、瞬時値よりも1サイクル分遅れて算出される値である。
【0048】
ステップS2において、推定部32は、電圧Vがゆっくりと低下していく現象が発生している時間帯における電圧V及び電流Iの波形を観測する。電圧Vがゆっくりと低下していく現象とは、例えば、受電所の遮断器が開放された場合、工場内等の電力系統は、瞬時的に電源電圧が低下するのではなく、通常の電圧値(例えば定格電圧値)から0となるまでに約200ms(電源の交流周期で10サイクル時間)の時間をかけてゆっくりと低下する。電圧Vがゆっくりと低下していく現象が発生する原因としては、電力供給源2から電力系統1への電力供給が絶たれた(遮断器3が開放された)時に、同一回路に接続された回転機が慣性で回転しているために生じる残留電圧によるものではないかと推定される。もちろん、遮断器3が人為的に開放された場合にも、電圧Vがゆっくりと低下していく現象が発生する。
【0049】
推定部32は、測定/記憶部31の測定結果に基づき、電圧Vがゆっくりと低下していく現象が発生している時間帯における電力系統1から非線形負荷機器10に印加された電圧の実効値(Vrms)を演算する。ある時刻tにおける実効電圧(Vrms)は、時刻tから過去1サイクル分の瞬時電圧(V)を二乗して、平方根を取り、1サイクル期間で時間平均した値である。また、推定部32は、測定/記憶部31の測定結果に基づき、電圧Vがゆっくりと低下していく現象が発生している時間帯における電力系統1から非線形負荷機器10に供給される電流の実効値(Irms)を演算する。ある時刻tにおける実効電流(Irms)は、時刻tから過去1サイクル分の瞬時電流Iを二乗して、平方根を取り、1サイクル期間で時間平均した値である。
【0050】
また、図6に、遮断器3が開放されたときにおける、非線形負荷機器10に印加される瞬時電圧(V)及び瞬時電流(I)、並びに、ステップS2での算出結果(実効電圧Vrms及び実効電流Irms)の一例を示す。
【0051】
図6の例では、非線形負荷機器10に印加された実効電圧Vを、約200m秒かけて、200ボルト(実効値)から0ボルトまで低下させた。
【0052】
次に、ステップS3において、推定部32は、ステップS1で設定した停止電流判定値に基づいて、ステップS2で算出された結果から、停止判定時刻tを算出し、また、当該停止判定時刻tを基準にして、1サイクル前の時刻tを求める。推定部32は、ステップS2で算出された実効電流が、停止電流判定値を下回った時刻(クロスポイント)を停止判定時刻tに決定する。
【0053】
図6の瞬時電流波形から、停止判定時刻tにおいては非線形負荷機器10が停止しており、時刻tにおいては非線形負荷機器10に電流が流れ動作していることが分かる。したがって、時刻tから停止判定時刻tの間に、非線形負荷機器10が動作停止する、すなわち、最低動作電圧となる時刻tが存在することとなる。
【0054】
ステップS4において、推定部32は、動作停止時刻tの推定を行う。推定部32は、時刻tから停止判定時刻tの間にある動作停止時刻tについて、動作停止時刻t以前の1サイクル分の瞬時電流から偶数次の高調波(例えば、第2次高調波)成分を算出し、当該偶数次の高調波成分の大きさが閾値を超えた時点を動作停止時刻tとして求める。
【0055】
ここで、偶数次の高調波成分を用いるのは、偶数次の高調波成分が正負のバランス(プラス側の1/2サイクルとマイナス側の1/2サイクルとの対称性)が崩れたときに発生することを利用している。また、任意の時刻tでの偶数次の高調波成分は、時刻tでの電流値と、時刻tの1/2サイクル前の電流値とに差が生じた場合にも発生する。
【0056】
時刻t以降の時刻(動作停止時刻t)において、偶数次の高調波電流が増加していた場合には、時刻t以前においては安定した電流が流れていたのであるから、その後(時刻t以降)に電流が変化(減少)したことを示す。したがって、推定部32は、時刻tから停止判定時刻tの間にある動作停止時刻tについて、動作停止時刻t以前の1サイクル分の瞬時電流から偶数次の高調波(例えば、第2次高調波)成分を算出し、閾値を超えた時刻を動作停止時刻tとする(図7(c)参照)。
【0057】
ここで、閾値について説明する。一般的に、非線形負荷機器10が動作する時の電流は、待機時の電流と比して、十分に大きい。そこで、非線形負荷機器10が待機状態から停止状態に移行する時に生じる偶数次の高調波成分を予め求めておき、その値の最大値を閾値とする。つまり、待機時の電流の最大値(実効値)から、待機時の電流が正弦波であると仮定し、当該正弦波を半波整流した時に生じる2次高調波成分を求め、その値を閾値とする。例えば、2次高調波成分の場合には、フーリエ変換の演算から、待機時電流(実効値)の0.212倍(=2/3π)である。
【0058】
そして、ステップS5において、推定部32は、動作停止時刻tに対応する電圧値と動作時刻tに対応する電圧値を求め、両電圧値の平均値として最低動作電圧値を求める。図7に示す例においては、動作停止時刻tと時刻tとは一致している。図7(A)は、遮断器を開放したときの電圧波形(三相の線間電圧)の変化の様子を示し、図7(B)は、遮断器を開放したときの電流波形(各相)の変化の様子を示し、図7(C)は、電流(Irms)に含まれている高調波成分を示している。また、横軸のスケールは、1サイクル(20ms)を示している。なお、本実施例では、動作停止時刻tに対応する電圧値と動作時刻tに対応する電圧値の平均値として最低動作電圧値を求めたが、最低動作電圧値は動作停止時刻tに対応する電圧値と動作時刻tに対応する電圧値の間にあると出力するようにしてもよい。
【0059】
以上のように推定部32では、以上のステップS1からステップS5までの処理を行うことによって、非線形負荷機器10の最低動作電圧を推定することができる。なお、本実施例では、最低動作電圧は、147Vである。
【0060】
また、図8に、従来の方法(図9参照)で最低動作電圧を測定した結果を示す。従来の方法で測定した値は、最低動作電圧が約148Vであった。したがって、推定部32により推定された最低動作電圧(147V)は、従来の方法で測定した値とほぼ一致する結果となったことが分かる。
【0061】
以上のように本発明が適用された最低動作電圧推定装置11では、電源装置を準備しなくても非線形負荷機器10の最低動作電圧の測定ができ、非常に簡単であり且つ低コストに測定が行える。
【0062】
また、測定して得られた最低動作電圧は、環境条件等により差が生じる場合もあるので、最低動作電圧を複数回測定した場合には、これらを平均化した値を最低動作電圧としてもよい。
【0063】
また、本発明の適用例として、遮断器3が開放され電力供給源2から電力系統1への電力供給が絶たれた場合を例にとって説明をしたが、測定対象となる非線形負荷機器に印加される電源電圧がゆっくりと低下していく現象が発生するのであれば、例えば、電力系統の需要家端の部分で電力系統を開放してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】遮断器が開放されたときの電力系統の電圧の変化を示す波形図である。
【図2】本発明が適用された最低動作電圧推定装置が用いられる電力ネットワークを示した図である。
【図3】最低動作電圧推定装置及び非線形負荷機器の構成を示すブロック図である。
【図4】最低動作電圧推定装置の処理内容を示すフローチャートである。
【図5】推定部により算出された待機電流(実効値)の平均値及び最大値を示す図である。
【図6】遮断器が開放されたときの非線形負荷機器に与えられる瞬時電圧(V)及び瞬時電流(I)、並びに、実効電圧Vrms及び実効電流Irmsを示した図である。
【図7】遮断器を開放したときの電圧及び電流の変化を示す図である。
【図8】実際の最低動作電圧を測定した結果を示す図である。
【図9】従来の最低動作電圧測定システムのブロック構成図である。
【図10】ある非線形負荷機器に対する最低動作電圧の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
1 電力系統、2 電力供給源、3 遮断器、4 需要家、10 非線形負荷機器、11 最低動作電圧推定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非線形負荷機器の最低動作電圧を算出する最低動作電圧推定方法において、
測定対象となる上記非線形負荷機器を、他の電気機器が接続された電力系統から電力の供給を受けて動作させておき、
上記電力系統の電圧値が、通常時の電圧値から少なくとも交流周期よりも長い時間をかけて低下していく最中に、上記非線形負荷機器に対して供給されている電圧値及び電流値を測定し、
上記非線形負荷機器に対して電流が供給されなくなった時刻を特定し、
上記時刻における当該非線形負荷機器に対して印加されている電圧値に基づき、当該非線形負荷機器の最低動作電圧を推定すること
を特徴とする最低動作電圧推定方法。
【請求項2】
上記非線形負荷機器に対して供給されている電流の実効値を算出し、
上記実効値が所定値となった時刻に基づき、電流が供給されなくなった時刻を特定すること
を特徴とする請求項1記載の最低動作電圧推定方法。
【請求項3】
上記非線形負荷機器に対して供給されている電流の偶数高調波成分を算出し、
上記実効値が所定値となった時刻及び上記偶数高調波成分が所定値となった時刻に基づき、電流が供給されなくなった時刻を特定すること
を特徴とする請求項2記載の最低動作電圧推定方法。
【請求項4】
非線形負荷機器の最低動作電圧を推定する最低動作電圧推定装置において、
測定対象となる上記非線形負荷機器を、他の機器が接続されている電力系統から電力の供給を受けて動作させておき、上記非線形負荷機器に対して供給されている電圧値及び電流値を測定する測定手段と、
上記測定手段による測定結果に基づき、上記非線形負荷機器の最低動作電圧を推定する推定手段とを備え、
上記測定手段は、上記電力系統の電圧値が、通常時の電圧値から少なくとも交流周期よりも長い時間をかけて低下していく最中に、上記非線形負荷機器に対して供給されている電圧値及び電流値を測定し、
上記推定手段は、上記非線形負荷機器に対して電流が供給されなくなった時刻を特定し、上記時刻における当該非線形負荷機器に対して印加されている電圧値に基づき、当該非線形負荷機器の最低動作電圧を推定すること
を特徴とする最低動作電圧推定装置。
【請求項5】
上記測定手段は、上記非線形負荷機器に対して供給されている電流の実効値を算出し、上記実効値が所定値となった時刻に基づき、電流が供給されなくなった時刻を特定すること
を特徴とする請求項4記載の最低動作電圧推定装置。
【請求項6】
上記測定手段は、上記非線形負荷機器に対して供給されている電流の偶数高調波成分を算出し、上記実効値が所定値となった時刻及び上記偶数高調波成分が所定値となった時刻に基づき、電流が供給されなくなった時刻を特定すること
を特徴とする請求項5記載の最低動作電圧推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−259512(P2007−259512A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−76772(P2006−76772)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】