説明

最適化乾燥ガス流を用いた常圧イオン化

【課題】試料液滴の蒸発を改善することができる、常圧イオン化において使用される装置および方法を提供する。
【解決手段】常圧イオン化において使用される装置は、試料受容チャンバと、試料受容チャンバと連通する試料液滴源と、出口導管と、境界部とを備えている。出口導管は、試料受容チャンバと連通するサンプリングオリフィスを形成する。境界部は、試料受容チャンバとサンプリングオリフィスとの間に介在し、開口部を備えている。開口部は、乾燥ガスが伸長されたフロープロファイルで試料受容チャンバ内へと流通可能な第1の通路と、試料材料が試料受容チャンバからサンプリングオリフィスに向かって流通可能な第2の通路とを形成する。第1の通路は、第2の通路に対して非同軸に配置されている。第1の通路は、第2の通路に向かって流れる試料材料の液滴の経路内へと伸長されたフロープロファイルの乾燥ガスを導入するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、常圧イオン化に関する。特に、本発明は、常圧(大気圧)イオン化装置の性能向上のために最適化された方法で乾燥ガス流を装置に供給することに関する。
【背景技術】
【0002】
分析化学などにおける特定の技術では、分析に先だって試料の成分をイオン化する必要がある。質量分析(MS)は、この様な分析技術の一例である。一般的に、MSとは、試料成分をその質量電荷比(質量対電荷比)に従って分解可能な、様々な機器的な定性定量分析方法のことを言う。この目的のために、MSシステムは、試料成分をイオンに変換して、その質量電荷比に基づいてイオンを分類または分離して、質量スペクトルを生成するために必要に応じて、得られたイオン出力(例えば、イオン流、イオン束、イオンビームなど)を処理する。通常、質量スペクトルは、質量電荷比(通常、m/zまたはm/eとして表され、または、大抵の場合、電荷zもしくはeが値1を有するものとして、単に「質量」として表される)の関数として、荷電成分の相対存在量を示す一連のピークである。
【0003】
本開示に関する限り、MSシステムは、一般的に公知であり、詳述する必要はない。簡単に言えば、典型的なMSシステムは、通常、試料導入口システムと、イオン源またはイオン化システムと、質量分析装置(質量分類装置または質量分離装置とも称する)または複数の質量分析装置と、イオン検出装置と、信号処理装置と、読み取り/表示手段とを備えている。さらに、MSシステムは、MSシステムの1以上の構成部材の機能を制御し、MSシステムが生成する情報を格納し、分析などに有用な分子データのライブラリを提供するためのコンピュータや、その他の電子処理装置ベースの装置などの電子制御装置を備えている場合もある。電子制御装置は、MSシステムのオペレータに対するインタフェースを可能とするための端末およびコンソールなどを備えたメインコンピュータと、データ取得、操作などの専用機能を有する1以上のモジュールまたはユニットとを備えている場合もある。また、MSシステムは、制御下の脱気環境に質量分析装置を密閉するための真空システムを備えている場合もある。質量分析装置に加え、設計に応じて、試料導入口システム、イオン源およびイオン検出装置が、全体的または部分的に脱気環境に密閉されている場合もある。ある種のイオン源またはインタフェースは、大気圧または大気圧の近くで動作するので、質量分析装置の真空領域または低圧領域とは区別される。
【0004】
動作において、試料導入口システムは、少量の試料材料をイオン源に導入する。設計に応じて、試料導入口システムは、全体的または部分的にイオン源に組み込まれている場合もある。連結技術において、試料導入口システムは、ガスクロマトグラフィ(GC)装置、液体クロマトグラフィ(LC)装置、キャピラリ電気泳動(CE)装置、キャピラリ電気クロマトグラフィ(CEC)装置などの分析分離機器の出力である場合もある。イオン源は、試料材料の成分を陽イオンおよび陰イオンのストリーム(流れ)に変換する。そして、あるイオン極性が、質量分析装置へと加速される。質量分析装置は、各イオンの質量電荷比に従ってイオンを分離する。質量分析装置から出力された質量分解されたイオンは、イオン検出装置に収集される。イオン検出装置は、イオン流を電流に変換する一種のトランスデューサであり、これにより、電気信号としてのイオン出力によって表される情報をコード化して、アナログおよび/またはデジタル技術によるデータ処理を可能にする。
【0005】
イオン化を実行するために、いくつかの異なる方法を採用することができる。したがって、イオン源のために様々な設計が開発されてきた。本開示は、主に、常圧イオン化(API)として公知のイオン化技術の部類に関し、この常圧イオン化において、試料材料のイオン化は、大気圧または大気圧の近くで起こり、その後、得られたイオンは、質量分析装置に移送される。便宜上、「質量分析装置」という用語は、ここでは、質量分析/分類装置と、通常、APIインタフェースからの試料材料の入力を受ける脱気空間内において動作する関連部材とを指すものとして、一般的かつ非限定的な意味合いで使用される。API技術としては、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、常圧化学イオン化(APCIまたはAPcI)、常圧光イオン化(APPI)が例示される。API技術は、高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)を含む液体クロマトグラフィ(LC)などの分析分離技術と質量分析との結合が望まれる場合に特に有用である。例えば、LCカラムからの溶出液の出力は、試料源またはAPIインタフェースへの入力となり得る。通常、溶出液は、分析対象物(例えば、分析対象の分子)の液相マトリックスと、流動相材料(例えば、溶媒や添加物)とで構成されている。
【0006】
ESIは、気体イオンを直接生成するために試料液体にエネルギーを与える、ある種の脱着イオン化技術である。典型的なESI源は、大気圧(または近大気圧)に保持されたチャンバを備えている。このチャンバは、質量分析部材およびイオン検出部材が存在する、質量分析装置の1以上の真空領域または低圧領域から分離されている。試料液体は、毛細管またはエレクトロスプレーニードルを介してチャンバに導入される。チャンバ内の表面またはその他の構造体である対向電極とエレクトロスプレーニードルとの間に電圧電位を印可し、これにより、チャンバ内に電界を形成する。電界は、液体表面またはエレクトロスプレーニードルの先端付近に電荷蓄積を誘発し、液体は、高電荷液滴(エレクトロスプレー)の形態でニードルから放出される。多数の微滴またはエアゾールへの液体ストリームの分解は、空気的手段、超音波的手段、または熱的手段を含む噴霧技術により支援可能である。例えば、空気的噴霧は、エレクトロスプレーニードルと同軸のチューブを準備して、窒素などの不活性ガスを試料液体と同軸に放出することによって実施可能である。電界は、チャンバから質量分析装置に至るサンプリングオリフィスに向かって、荷電液滴をエレクトロスプレーニードルの先端から導く。液滴がチャンバを通過し、そして/または、サンプリングオリフィスに関連する導管を通過する時に、液滴は、脱溶媒またはイオン蒸発プロセスを経る。液滴に含まれる溶媒が蒸発するにつれて、液滴は小さくなる。さらに、液滴は、クーロン反撥力が液滴の結合力に近づいた結果として、破裂し、更に小さな液滴へと分裂する。最終的に、荷電分析対象分子(分析対象イオン)は、液滴の表面から脱着する。分析対象イオンのみが質量分析装置に入り、中性の溶媒和液滴など、エレクトロスプレーの他の成分は質量分析装置に入らないのが理想的である。窒素などの不活性乾燥ガスストリームをチャンバに導入して、溶剤蒸発を支援したり、サンプリングオリフィスから溶媒を一掃したりする場合もある。チャンバへの導入に先だって、乾燥ガスを加熱する場合もある。従来、乾燥ガスは、サンプリングオリフィスと同軸のチューブにより形成される環状開口部を介して導入される。すなわち、乾燥ガスは、エレクトロスプレーがサンプリングオリフィスに近づくに従って、エレクトロスプレーに対向して同軸に導入される。あるいは、乾燥ガスは、サンプリングオリフィスの前方でカーテンのように導入される。
【0007】
ESIとは異なり、APCIは、イオン化に先だって試料液体の噴霧および蒸発を必要とする一種の気相イオン化技術である。しかし、市販のAPI源には、ESI動作モードとAPCI動作モードとの間で容易に交換可能なものもあり、分析の実施において、これらの2つのモードは相補的であり、したがって非常に有用である。ESI源と同様に、典型的なAPCI源は、質量分析装置から分離された常圧チャンバを備えている。試料液体は、空気的噴霧装置へと導入され、この空気的噴霧装置において、窒素などの不活性噴霧ガスが、試料液体ストリームと同心に流れ、液体ストリームを液滴へと分解する。そして、試料液滴は、加熱蒸発チャンバまたはチューブ内を流れて、液滴マトリックスの流動相やその他の成分を蒸発させる。そして、得られた気相液滴分散体は、チャンバ内に放出される。コロナ放電ニードルなどの電極は、チャンバ内へと延び、電子を放出する。その結果、チャンバ内でコロナ放電が発生する。コロナ放電は、流動相分子をイオン化して、高エネルギー化学試薬ガスプラズマを生成する。コロナ放電において、イオン−分子反応が、電荷的に中性の試料と、主放電で生成された試薬イオンとの間で発生する。そして、イオン−分子反応によって、試料成分が帯電し、得られた分析対象イオンは、チャンバから質量分析装置に至るサンプリングオリフィスに向かう。分析対象イオンをサンプリングオリフィスへと導くために、例えば、サンプリングオリフィスを取り囲むプレートなどの対向電極とコロナ放電ニードルとの間に電圧電位を印加する場合もある。上記のESI源と同様に、分析対象イオン束がサンプリングオリフィスに近づくに従って、乾燥ガス流を、分析対象イオン束に対向して同軸に導入するか、あるいは、サンプリングオリフィスの前方でカーテンのように導入して、中性の液滴が質量分析装置に入るのを防止する場合もある。
【0008】
APPI技術においては、APCIと同様に、試料液体は噴霧装置内を流れ、得られた液滴は気化装置内を流れ、得られた気化液滴マトリックスは、常圧チャンバ内に導入される。そして、液滴は、紫外線(UV)ランプなどの光子源やその他の適切な装置から放射された光子で照射される。光子源は、気化装置の出口オリフィスに近接して配置され、この出口オリフィスから液滴がチャンバへと導入される。あるいは、光子源は、気化装置と一体化されているか、さもなければ、光子の経路が液滴の経路と遭遇するように配置されている。液滴マトリックスは、光子とマトリックス成分との間の衝突によってイオン化される。他の技術と同様に、サンプリングオリフィスへとイオンを導くために、チャンバ内に電界を形成する場合もある。さらに、質量分析装置に至るサンプリングオリフィスと同軸の乾燥ガスの対向流または乾燥ガスのカーテンを利用して、質量分析装置への不要な液滴の流入を防止する場合もある。
【0009】
上記の様なAPI技術において繰り返し発生する問題点は、サンプリングオリフィスへの不要な液滴やその他の非分析材料の流入である。この様な不要成分は、汚染、感度低下、堅牢性低下、ピークの尾引きなどにより、質量分析装置の性能および/またはそれにより生成される質量スペクトルデータの品質を低下させる可能性がある。これらの問題点は、イオン源に導入される試料材料の流量が増加するに従って悪化する可能性がある。上記のように、従来、イオン源は、窒素などの加熱乾燥不活性ガスの対向流またはカーテンを設けて、不要成分を吹き飛ばすことによってサンプリングオリフィスを保護してきた。しかし、これらの先行する方法は、チャンバにおける乾燥ガスから液滴への熱エネルギー伝達を増大または促進することで蒸発を増加させることによって、サンプリングオリフィスへの不要成分の流入が激しくなることを充分に把握していなかった。この目的のために、乾燥ガスの流量および温度は変更可能であり、様々な流動相組成物に適応するように変更される場合が多いが、これらのパラメータを変更可能な範囲は、実質的に制約される。サンプリングオリフィスへの分析対象イオンの流入を防止するほどに、乾燥ガスの流量を大きくすることはできない。さらに、分析対象イオンを熱劣化させたり、さもなければ分析対象イオンに悪影響を与えたり、質量分析装置の性能を損なったりするほどに、乾燥ガスの温度を高めることはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、例えば、感度の向上、ノイズの低減、および汚染の低減によって、分析機器の性能およびそれにより生成されるデータの品質を向上するために、イオン源における液滴の蒸発を向上させ、そして、液滴からイオン源が接続される質量分析装置またはその他の分析機器を保護する必要がある。本開示は、適切に設計されたイオン源への乾燥ガス流によって、乾燥ガスからイオン源の試料材料へと熱エネルギーを伝達する加熱ゾーンまたは加熱領域を形成可能であることを認識している。従来設計のイオン源においては、サンプリングオリフィスの直前の領域のみに、そして、主に単一の集中流路として乾燥ガス流を集中させる。したがって、乾燥ガスが試料材料に遭遇可能な加熱ゾーンは、あまりにも小さいので、蒸発プロセスを制約する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の問題点を全体的または部分的に解決するために、そして/または、当業者により認識されてきたその他の問題点を解決するために、本開示は、下記の例示的な実施態様によって説明するように、常圧イオン化(API)のための装置および方法を提供する。
一実施態様によれば、常圧イオン化において使用される装置が提供されている。この装置は、試料受容チャンバと、試料受容チャンバと連通している試料液滴源と、出口導管と、境界部とを備えている。出口導管は、試料受容チャンバと連通しているサンプリングオリフィスを形成する。境界部は、試料受容チャンバとサンプリングオリフィスとの間に介在し、開口部を備えている。開口部は、乾燥ガスが伸長されたフロープロファイルで試料受容チャンバ内へと流通可能な第1の通路と、試料材料が試料受容チャンバからサンプリングオリフィスに向かって流通可能な第2の通路とを形成する。第1の通路は、第2の通路に対して非同軸に配置されている。第1の通路は、第2の通路に向かって流れる試料材料の液滴の経路内へと伸長されたフロープロファイルの乾燥ガスを導入するように構成されている。
【0012】
他の実施態様によれば、試料液滴源は、エレクトロスプレーイオン化源、化学イオン化源または光イオン化源を備えていてもよい。
他の実施態様によれば、サンプリングオリフィスは、質量分析装置および/またはイオン検出装置などの分析機器と連通している。
他の実施態様によれば、境界部の開口部は、第1および第2の通路の両方を形成する単一の開口を備えている。
【0013】
他の実施態様によれば、境界部の開口部は、少なくとも第1の開口と第2の開口とを備えている。第1の開口は第1の通路を形成し、第2の開口は第2の通路を形成する。
他の実施態様によれば、単一開口の開口部の、第1の通路を形成する部分、または、複数開口の開口部の、第1の通路を形成する第1の開口は、少なくとも一方向に伸長されている。
【0014】
他の実施態様によれば、常圧イオン化において使用される装置が提供されている。この装置は、試料受容チャンバと、試料受容チャンバと連通している試料液滴源と、試料受容チャンバと連通しているサンプリングオリフィスを形成する出口導管とを備えている。この装置は、試料液滴源からの液滴流と非同軸にほぼ対向して、伸長されたフロープロファイルでチャンバ内へと乾燥ガス流を案内するための手段を備えており、これによって、伸長されたフロープロファイルは、試料液滴が、液滴蒸発のために乾燥ガスに接触する伸長領域を提供する。
【0015】
他の態様においては、常圧イオン化装置において試料材料の液滴を蒸発させるための方法が提供されている。この方法によれば、試料材料は、試料液滴ストリームとしてチャンバ内に導入される。試料液滴ストリームは、開口部およびサンプリングオリフィスに向けて案内される。チャンバおよびサンプリングオリフィスは、開口部の両側に配置され、サンプリングオリフィスは、チャンバの反対側に延びている。乾燥ガス流は、試料液滴ストリームを導く一方で、試料液滴ストリームと非同軸にほぼ対向して、伸長されたフロープロファイルで開口部を介してチャンバ内に導入され、これによって、伸長されたフロープロファイルは、サンプリングオリフィスへの試料材料の流入に先だって液滴の蒸発を促進するために、試料液滴ストリームの液滴が乾燥ガスに接触する伸長領域を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
一般的に、「連通」という用語(例えば、第1の部材が、第2の部材と「連通する」または「連通状態にある」)は、ここでは、2以上の部材または要素の間の構造的、機能的、機械的、電気的、光学的、磁気的、イオン的、または流体的な関係を示すために使用される。この様に、第1の部材が第の2部材と連通するということによって、更なる部材が第1の部材と第2の部材との間に存在したり、第1の部材や第2の部材に動作可能に関連または係合したりする可能性を排除する意図はない。
【0017】
一般的に、ここに開示されている主題は、常圧イオン化(API)に関する。以下、図1〜図5Hを参照しながら、APIのための装置、システム、素子および/または関連方法の実施例について詳細に説明する。これらの実施例は、質量分析を背景として説明する。ただし、質量分析装置以外の分析機器の使用を含む、イオンの生成が望まれるプロセスも、この開示の範囲に含まれる。
【0018】
図1は、例示的な実施態様に係るAPIに使用される装置100の概略横断面である。試料受容(受け取り)チャンバ110は、適切なハウジングまたはその他の構造体112により形成されている。通常、チャンバ110の内部は、大気圧または大気圧の近くに保持されている。したがって、チャンバ110は、所望の分析手順の一部として、特に、質量分析装置120などの適切な分析機器によって分析対象イオンを検出する準備段階で、試料材料の全体的または部分的なイオン化が大気圧または大気圧の近くで発生する領域を提供する。チャンバ110に近接するハウジング122は、イオン集束部材、質量分析部材、およびイオン検出部材(図示せず)が動作する脱気/低圧環境または内部空間124を取り囲むために使用される。便宜上、ハウジング122内で動作する部材を一括して質量分析装置120と称する。当業者に理解されているように、ハウジング122は、質量分析装置120の様々な部材の1以上を収容する、1以上の別個の真空ステージ(特に図示せず)、または、異なる圧力レベルに保持された領域を取り囲んでいてもよい。
【0019】
試料液滴源130は、試料液滴源130の出口オリフィス132がチャンバ110と流体連通するようにチャンバ110内へと延びている。当業者に理解されているように、装置100において使用される試料液滴源130のタイプは、実施するAPI技術により異なる。例えば、ESIの場合、試料液滴源130は、エレクトロスプレーニードルなどのエレクトロスプレー装置を備えている。エレクトロスプレー装置は、毛細管またはニードル、その他の細管を備えており、その内部を試料材料が流通する。エレクトロスプレー装置は、試料材料の支援噴霧を提供することができる。例えば、空気的噴霧の場合、エレクトロスプレーニードルは、窒素などの不活性噴霧ガスが流通する環状通路を形成するために、外管によって取り囲まれている。APCIまたはAPPIの場合、試料液滴源130は、毛細管またはニードル、その他の細管を備えており、その内部を試料材料が流通し、細管は、気化装置と一体化または連通している。気化装置は、噴霧装置と一体化しているか、または、噴霧装置に続いている。これら全ての場合、試料材料は、便宜上、形態や組成に関係なく、試料液滴流134と称する蒸気またはガス(または、ESIの場合はエレクトロスプレー)のストリームまたは噴流として、試料液滴源130の出口オリフィス132から放出される。
【0020】
本開示の目的のために、試料材料の組成、試料材料を試料液滴源130に供給する方法、または、流量、圧力、粘性などの流体力学的パラメータに制限はない。典型的な実施態様においては、試料液滴源130に供給される試料材料は、主に流体であるが、他の実施態様においては、固体または多相混合物であってもよい。APIに関わる多数の実施態様においては、流体は、主に、液相である。例えば、試料材料は、分析対象成分(例えば、分析対象の分子)が当初1以上の溶媒に溶解されているか、または、他のタイプの成分に担持されている溶液であってもよい。溶媒に加えて、賦形剤、緩衝剤、添加物、ドーパントなど、他の非分析成分(すなわち、分析が望ましくない成分および/または分析機器への入力が通常望ましくない成分)が存在していてもよい。他の例として、試料材料は、クロマトグラフィ、電気泳動、または他の分析分離プロセスからの溶出液であってもよく、この場合、試料材料は、分析対象成分と流動相成分とから成るマトリックスであってもよい。装置100における試料材料の所与の部分の位置や、イオン化が発生する手順段階に応じて、試料材料は、本質的にイオンのみを含むものであってもよいし、荷電および/または中性の液滴、蒸気、ガスなど、他の成分と共にイオンを含むものであってもよい。したがって、ここで用いられる「試料材料」という用語は、特定の相、形態または組成により制限されるものではない。さらに、試料液滴源130内を流通する試料材料は、バッチボリュームまたは試料プローブ、上流側の機器やプロセスなど、適切な供給源または試料導入口システム(図示せず)から生じるものであってもよい。例えば、試料液滴源130へのインレットを、クロマトグラフカラムなどの分析分離システムまたは装置のアウトレットで構成したり、連通させたりしてもよい。別の例として、試料材料を、液体取扱システムまたは溶解テストシステムから試料液滴源130に供給してもよい。試料液滴源130への試料材料の流通または料液滴源130内での試料材料の流通を、ポンプや毛細管作用、電気関連技術など、任意の手段で誘起してもよい。
【0021】
ハウジング122の前部構造体または端部プレート140は、通常、常圧チャンバ110をハウジング122の脱気内部空間124から分離する。前部構造体140は、1以上の構造部材と、固定部材と、封止部材などとを備えている。サンプリングオリフィス142は、前部構造体140の開口部144によって、または、前部構造体140の開口部144と整合するか、もしくは、前部構造体140の開口部144を介してチャンバ110内に延びる、イオンのための毛細管もしくはチューブ、その他の出口導管146によって形成されている。すなわち、サンプリングオリフィス142は、前部構造体140の近辺に配置されていてもよく、チャンバ110とハウジング122の内部空間124との間に流体連通を提供する。サンプリングオリフィス142は、チャンバ110とハウジング内部空間124との間に維持される圧力差を無効にするほど大きくない小口径を有する。サンプリングオリフィス142は、チャンバ110からハウジング122内へと流入する分析対象イオン150のストリームのための導入口としての役割を果たし、その後、レンズ(図示せず)などの適切な手段を介してイオンストリーム150のイオンを質量分析装置120へと導く。典型的な実施態様において、試料液滴源130の出口オリフィス132は、ほぼサンプリングオリフィス142の方向に向いている。図1に例示するように、試料液滴源130の出口オリフィス132の軸は、サンプリングオリフィス142の軸に対して角度が付いているか、またはオフセットされている。
【0022】
装置100は、乾燥ガス給送システムを更に備えている。乾燥ガス給送システムは、任意の適切な乾燥ガス供給源(図示せず)からチャンバ110へと窒素などの適切な不活性乾燥ガス流を給送するための乾燥ガス導管152と、熱エネルギーを乾燥ガスに伝達するための加熱装置154とを備えている。加熱装置154は、チャンバ110への乾燥ガスの導入に伴って乾燥ガスが充分に加熱される任意の位置に配置することができる。図1に示す例示的な実施態様において、加熱装置154は、乾燥ガス導管152とインライン整合して配置されている。乾燥ガス導管152、または、乾燥ガス導管152および加熱装置154は、ハウジング122の前部構造体140の開口部156に装着されている。乾燥ガス給送システムの乾燥ガス出口オリフィス158は、前部構造体140の開口部156と整合するか、または、前部構造体140の開口部156を介してチャンバ110内へと延びている。乾燥ガス出口オリフィス158は、乾燥ガス出口オリフィス158の軸がサンプリングオリフィス142の軸から距離をおいて離間するように、サンプリングオリフィス142と非同軸に配置されている。したがって、乾燥ガスストリーム160は、サンプリングオリフィス142に流入するイオンストリーム150にほぼ対向してチャンバ110内に導かれる。すなわち、ハウジング122の前部構造体140付近で、乾燥ガスストリーム160は、サンプリングオリフィス142に流入するイオンストリーム150と略平行に逆方向に流れる。図2は、前部構造体140の正面図を示し、この例示的な実施態様におけるサンプリングオリフィス142に対する乾燥ガス出口オリフィス158の相対位置を示す。当業者に理解されているように、乾燥ガス給送システムは、動作パラメータ(例えば、試料液滴源130から放出される試料液滴マトリックスの一部を構成する流動相の組成または揮発性、試料液滴マトリックスの流量など)に応じて乾燥ガスの温度および流量または圧力を変更するための手段を備えていてもよい。
【0023】
図1を再度参照して、装置100は、ハウジング122とチャンバ110との間に介在する構造境界部164を更に備えている。具体的には、乾燥ガス出口オリフィス158およびサンプリングオリフィス142は、境界部164の一方側に配置され、チャンバ110は、境界部164の他方側に配置されている。境界部164は、乾燥ガス出口オリフィス158と、一方側のサンプリングオリフィス142および他方側のチャンバ110との間に界面空間166を形成している。この目的のために、境界部164は、ハウジング122の前部構造体140と一体的な部材であってもよいし、前部構造体140に取り付けられた別体の部材であってもよい。さらに、境界部164を備えた構造体は、壁部、表面部、肩部などの1以上の部材を備えていてもよい。図1に示す例では、境界部164は、ボックス形状を有するものとして横断面で示されている。図示の実施態様において、境界部164は、ハウジング122の前部構造体140から離間した壁部または前部プレート168を備えている。界面空間166は、チャンバ110の一部と考えてもよいし、チャンバ110の一部ではないと考えてもよい。いずれの場合も、界面空間166は、通常、チャンバ110と同じ圧力を有するが、境界部164が存在するため、チャンバ110とは別個である。
【0024】
境界部164には、界面空間166とチャンバ110との間に流体連通を提供する境界開口部170が形成されている。図1に示す例示的な実施態様においては、境界部164の前部プレート168に、境界開口部170が形成されている。境界開口部170は、少なくとも2つの開口部位、すなわち、第1の通路または経路172および第2の通路または経路174を提供するために、乾燥ガス出口オリフィス158およびサンプリングオリフィス142に関連して配置されている。第1の通路172(または、開口部170の、第1の通路172を形成する部分)は、第2の通路174(または、開口部170の、第2の通路174を形成する部分)に間隔をおいて近接しており、第2の通路174と非同軸に配置されている。乾燥ガスストリーム160は、乾燥ガス出口オリフィス158から第1の通路172を介してチャンバ110内へと流れる。同時に、イオンストリーム150は、乾燥ガスストリーム160と略平行に反対方向に、チャンバ110から第2の通路174を介してサンプリングオリフィス142へと流れる。第1の通路172は、通常、乾燥ガスストリーム160の流量、および/または、開口部170の構成と、装置100の他の部材に対するその相対位置によって、乾燥ガスストリーム160が、開口部170付近でイオンストリーム150からほぼ分離されているという点で、第2の通路174とは流体的に異なる。ある例示的な実施態様においては、第1の通路172は、第2の通路174とは構造的にも異なる。すなわち、下記に更に説明するように、実施態様によっては、第1の通路172および第2の通路174を形成する開口部170の各部が隣接している単一の開口によって境界開口部170が形成されている場合もあるし、1以上の開口が第1の通路172を形成し、別の1以上の開口が第2の通路174を形成するように、1以上の開口によって境界開口部170が形成されている場合もある。特に有利な実施態様においては、境界部164、または、境界部164の少なくとも前部プレート168(いずれの場合も、境界部164の、境界開口部170を形成する部分)は、乾燥ガス出口オリフィス158から放出された乾燥ガスストリーム160が拡がり始めるように、ハウジング122の前部構造体140から充分離間されている。この場合、第1の通路172の寸法は、第1の通路172と第2の通路174とが互いに関連して配置されている方向において、第2の通路174の寸法より大きくてもよい。したがって、図1の視点から、垂直方向に沿った第1の通路172の長さ(または幅)は、同方向に沿った第2の通路174の長さ(または幅)より大きくてもよい。
【0025】
境界開口部170の構成の結果、乾燥ガスストリーム160は、伸長フロープロファイル(伸長されたフロープロファイル)180で、チャンバ110内へと境界開口部170の第1の通路172を通過する。換言すれば、フロープロファイルは、主に、少なくとも一方向または1つの次元方向に沿って拡大する。図1に示す例示的な実施態様においては、乾燥ガスストリーム160のフロープロファイルは、全体を180で示すように、略垂直方向に伸長される。伸長フロープロファイル180は、従来のイオン源と比較して、拡張または拡大された加熱ゾーンを提供し、これによって、試料液滴ストリーム134の溶媒やその他の非分析成分を蒸発させる乾燥ガスの能力を最大限に利用する機会を提供する。拡大加熱ゾーンを利用して、試料液滴ストリーム134と乾燥ガスストリーム160との間の重複量または接触量を増加させることにより試料液滴ストリーム134の成分の蒸発速度を増加させることができ、これによって、乾燥ガスから試料液滴への熱伝達速度および伝達熱エネルギーの総量を増加させることができる。蒸発プロセスを更に最適化するために、試料液滴ストリーム134が、乾燥ガスストリーム160の伸長方向180の全体または大部分に略直交して遭遇するように、試料液滴源130または少なくともその出口オリフィス132を配向させてもよい。例えば、試料液滴ストリーム134は、図1に示すように、直交方向または略直交方向に沿って、乾燥ガスストリーム160と接触可能となる。伸長乾燥ガスプロファイル180に対する出口オリフィス132の向きは、液滴形成の直後に液滴の蒸発が開始されるような、そして、チャンバ110中の試料液滴ストリーム134のほぼ全経路にわたり蒸発が継続するような向きである。試料液滴ストリーム134が乾燥ガスストリーム160の伸長フロープロファイル180を通過する時までに、イオンストリーム150で示すように、分析対象イオンのみがサンプリングオリフィス142に入るように、試料液滴ストリーム134の非分析成分の全てまたは大部分が、乾燥ガスストリーム160により蒸発そして/または一掃される。
【0026】
図3は、ハウジング122(図1)の前部構造体140の正面図であり、前部プレート168が、境界部164の一部として、乾燥ガス出口オリフィス158およびサンプリングオリフィス142の前方に配置されている例示的な実施態様を示す。この例において、前部プレート168の境界開口部170は、単一開口設計であるが、この開口の形状は、第1の部分302と、隣接する第2の部分304とを形成するものとして特徴付けられる。第1の部分302は、通常、乾燥ガス出口オリフィス158と流体的に整合しており、通常、乾燥ガスが乾燥ガス出口オリフィス158からチャンバ110(図1)へと通過する第1の通路172を形成する。第2の部分304は、通常、サンプリングオリフィス142と流体的に整合しており、通常、分析対象イオン150がチャンバ110からサンプリングオリフィス142へと通過する第2の通路174を形成する。前部プレート168によって生じる流体力学は、図1と同様に、乾燥ガスストリーム160、試料液滴ストリーム134、イオンストリーム150を概略的に表現するフローベクトルを示す図4を参照することによって、更に視覚化可能である。開口部170の第2の部分304と比較して、第1の部分302は、少なくとも一方向または1つの次元方向(この例では、垂直方向)に伸長され、乾燥ガスストリーム160のプロファイルを同方向に伸長することができる(すなわち、伸長乾燥ガス流プロファイル180)。図4に示す例において、第2の部分304は、サンプリングオリフィス142へのイオン入力を促進するために、略円形横断面または形状を有するが、他の形状を採用してもよい。第2の部分304は、第1の部分302よりも他の次元方向(例えば、水平方向)に沿って幅広であってもよい。
【0027】
試料液滴ストリーム134の所与の部分が乾燥ガスストリーム160の伸長断面180を通過する時までに、この部分の液滴の完全な蒸発が起こり、分析価値のあるイオンのみがサンプリングオリフィス142に流入するのが理想的である。ここに開示されている例示的な実施態様に係る前部プレート168は、この結果に到達または少なくとも接近するように設計されている。対照的に、従来のイオン源は、前部プレート168など、第1の部分302を設けたり、乾燥ガス用の第1の通路172を形成したりするような構成を提供しない。前述のように、従来のイオン源には、サンプリングオリフィス142と同軸に乾燥ガス流を導入して、サンプリングオリフィス142の直前で主に単一の流路内に集束させるものもある。また、従来のイオン源には、イオン源がスプレープレートまたは同様の構造を備えているか否かに拘わらず、乾燥ガス流が、イオン源のチャンバ側からチャンバ110内へと導入されるものもある。この様な設計は、スプレープレートまたは他の同様の構造の中実部に対して試料液滴を偏向させるか、さもなければサンプリングオリフィス142とは反対側に偏向させるための流体機構に依存する。従来設計には、非分析材料を充分に蒸発させ、この様な材料がサンプリングオリフィス142に流入するのを防止するために、乾燥ガスの可能性を最大限に利用するのに充分な大きさの加熱ゾーンを確立するものはない。
【0028】
図5A〜図5Hは、前部プレート168の更なる実施例を示す。図3および図4に示す前部プレート168と同様に、図5A〜図5Cは、単一開口設計の境界開口部170を形成する前部プレート168を示す。図5D〜図5Hは、複数開口設計の境界開口部170を形成する前部プレート168を示す。図1に関連して説明した境界部164の一部として設けられた、図5A〜図5Hに示す各前部プレート168は、乾燥ガスストリーム160のための伸長フロープロファイル180を形成し、結果的に、チャンバ110内に試料液滴ストリーム134のための拡大加熱ゾーンを形成し、上記のような付随する利点と利益とを提供する流体力学をチャンバ110内に生成することができる。所望の結果を達成するために様々に構成された前部プレート168からの選択は、試料材料の1以上の成分の特性(例えば、組成、揮発性、分子量、粘性、極性であるか非極性であるかなど)および/または動作パラメータ(流量、圧力など)、乾燥ガスの動作パラメータ(流量、圧力、温度、イオン化においてこの様なパラメータを変更すべきかどうかなど)に依存する。
【0029】
図5Aにおいて、前部プレート168の境界開口部170は、略一方向(例えば、垂直方向)に伸長されたスロットまたは開口の形状である。別の方向(例えば、水平方向)に沿った境界開口部170の第1の部分302の幅は、第2の部分304の幅と同じであってもよい。
図5Bにおいて、前部プレート168の境界開口部170の第1の部分302は、一方向に伸長されている。第1の部分302の幅は、第1の部分302の伸長方向に沿って先細りとなっている。第2の部分304は、任意の適切な形状を有していてもよい。図5Bで提供される例においては、第2の部分304は、ほぼ円形である。
【0030】
図5Cにおいて、前部プレート168の境界開口部170は、図5Bに示すものと類似している。しかし、図5Cにおいては、第1の部分302の一部502は、一定または略一定の幅を有するが、第1の部分302の他の部分504は幅が先細りとなっている。第2の部分304は、略円形形状を有するが、この実施態様において、任意の他の適切な形状であってもよい。
【0031】
図5Dにおいて、前部プレート168の境界開口部170は、第1の開口506および物理的に別個の第2の開口508として構成されている。第1の開口506は、乾燥ガスのための第1の通路172(図1および図4)を形成し、第2の開口508は、イオンのための第2の通路174を形成する。第1の開口506は、試料液滴が乾燥ガスに遭遇するチャンバ110の領域において、乾燥ガス流が拡張して伸長フロープロファイル(例えば、図1および図4に示す伸長乾燥ガスフロープロファイル180を参照)を形成し、そして、拡大加熱ゾーンを形成するのに充分な距離をおいて第2の開口508から離間されている。図5Dに示す例において、第1の開口506および第2の開口508は、直線的に相互に関連して、すなわち、同一方向に配置されているが、これは、この特定の実施態様や、ここに記載されている他の実施態様を限定するものではない。図5Dに示す例においても、第1の開口506および第2の開口508は、略円形形状である。しかし、他の形状でもよく、第1の開口506の形状は、第2の開口508の形状と異なっていてもよい。さらに、第1の開口506の直径(または、非円形である場合には、その他の特徴的な寸法の大きさ)は、第2の開口508の直径よりも小さいものとして例示されている。しかし、第1の開口506の直径は、第2の開口508の直径と同じであってもよいし、大きくてもよい。
【0032】
図5Eにおいて、前部プレート168の境界開口部170は、第1の開口512および物理的に別個の第2の開口514として構成される。図5Dと同様に、第1の開口512は、乾燥ガスのための第1の通路172(図1および図4)を形成し、第2の開口514は、イオンのための第2の通路174を形成する。しかし、図5Eにおいては、第1の開口512は、略一方向に伸長されたスロットの形状である。第2の開口514は、通常、略円形形状であるが、異なる形状を有していてもよい。図5Dに示す例では、第1の開口512の幅は、第2の開口514の幅(例えば、直径)よりも小さい。しかし、他の実施態様では、第1の開口512の幅は、第2の開口514の幅と同じであってもよいし、大きくてもよい。
【0033】
図5Fにおいて、前部プレート168の境界開口部170は、3つの別個の開口、すなわち、第1の開口522、第2の開口524、および第3の開口526により形成されている。第1の開口522および第2の開口524は、協働して乾燥ガスのための第1の通路172(図1および図4)を形成し、第3の開口526は、イオンのための第2の通路174を形成する。第1の開口522および第2の開口524は、離間されているか、または、比較的近接して纏まっているが、上記の伸長乾燥ガスフロープロファイル180(図1および図4)を形成するのに充分な距離をおいて第3の開口526から更に離間している。図5Fに示す例では、第1の開口522、第2の開口524、および第3の開口526は、略円形形状である。しかし、他の形状であってもよく、ある開口の形状が、他の開口の形状と異なっていてもよい。さらに、第1の開口522および第2の開口524の直径(または、非円形である場合には、その他の特徴的な寸法の大きさ)は、第3の開口526の直径よりも小さいものとして例示されている。しかし、第1の開口522および第2の開口524の直径が、第3の開口526の直径と同じであっても、大きくてもよく、または、第1の開口522および第2の開口524の各直径が相互に異なっていてもよい。
【0034】
図5Gにおいては、図5Fと同様に、前部プレート168の境界開口部170は、3つの別個の開口、すなわち、第1の開口532、第2の開口534、および第3の開口536により形成されている。第1の開口532および第2の開口534は、乾燥ガスのための第1の通路172(図1および図4)を形成し、第3の開口536は、イオンのための第2の通路174を形成する。図5Fとは異なり、第1の開口532および第2の開口534は、第3の開口536に対して距離をおいて離間している一方、第2の開口534および第3の開口536は、離間しているか、または、比較的近接して纏まっている。この構成は、上記の伸長乾燥ガスフロープロファイル180(図1および図4)や、その付随する恩恵や利点を、ここに開示されている原理に従って達成するもう1つの手段である。図5Gに示す例においては、第1の開口532、第2の開口534、および第3の開口536は、略円形形状である。しかし、図5Fの場合と同様に、他の形状であってもよく、ある開口の形状が、他の開口とは異なっていてもよい。さらに、第1の開口532および第2の開口534の直径(または、非円形である場合には、その他の特徴的な寸法の大きさ)は、第3の開口536の直径よりも小さいものとして例示されている。しかし、第1の開口532および第2の開口534の直径は、第3の開口536の直径と同じであっても、大きくてもよく、または、第1の開口532および第2の開口534の各直径が相互に異なっていてもよい。
【0035】
図5Hにおいて、前部プレート168の境界開口部170は、4つの別個の開口、すなわち、第1の開口542、第2の開口544、第3の開口546、または第4の開口548によって形成されている。第1の開口542、第2の開口544および第3の開口546は、乾燥ガスのための第1の通路172(図1および図4)を形成し、第4の開口548は、イオンのための第2の通路174を形成する。開口の間隔は、一定でもよいし、任意の2つの隣接開口の間隔が、他の2つの隣接開口の間隔と異なっていてもよい。この構成は、上記の伸長乾燥ガスプロファイル180(図1および図4)や、その付随する恩恵や利点を、ここに開示されている原理に従って達成する更に別の手段である。図5Hに示す例では、第1の開口542、第2の開口544、第3の開口546および第4の開口548は、略円形形状であるが、これらの開口542、544、546、548の1以上が他の形状であってもよい。さらに、第1の開口542、第2の開口544および第3の開口546の直径(または、非円形である場合には、その他の特徴的な寸法の大きさ)は、第4の開口548の直径よりも小さいものとして例示されている。しかし、第1の開口542、第2の開口544および第3の開口546の直径が、第4の開口548の直径と同じであっても、大きくてもよく、または、第1の開口542、第2の開口544および第3の開口546の各直径が相互に異なっていてもよい。
【0036】
様々な例示的な実施態様についての前記の説明を鑑み、当業者は、単一開口設計および複数開口設計の前部プレート168に関する更なる実施態様を容易に確認できるであろう。この様な実施態様は、第1の通路172および/または第2の通路174(図1、図4および図6)が、円形形状またはスロット形状、先細り形状、その他の形状を有する1以上の開口によって形成されている前部プレート168のための境界開口部170を備えていてもよい。この様な実施態様は、全て、図1、図4および図6に概略的に示すように、乾燥ガスストリーム160のための伸長フロープロファイル180を形成し、結果的に、APIのための装置100などのイオン源において拡大加熱ゾーンを形成する能力を特徴とし、上記の利点と利益とを提供する。ある特定の実施態様においては、オリフィスまたは開口の数が、前部プレート168をメッシュまたはスクリーンとして構成することを特徴とするのに充分な数となっている。この実施態様は、前部プレート168の前方の低速ゾーンに遭遇するまで、前部プレート168の前方で離間して分裂液滴を浮遊させる効果を有する。液滴が、低速ゾーンに遭遇すると、液滴は、開口を通過して界面空間166内に至る。
【0037】
ここで再び図6を参照して、境界部164(前部プレート168が設けられている場合には、前部プレート168)が、サンプリングオリフィス142の軸に対して傾斜させて乾燥ガスストリーム160を境界開口部170から導くために構成された複数開口設計を有する、他の例示的な実施態様を示す。この目的のために、境界開口部170により形成された1以上の開口を1以上の各ルーバまたは薄板602によって形成し、少なくとも1つのルーバ602または少なくとも1対の隣接ルーバ602の間に形成されるスロットの形状を有するものとして各開口を特徴付けてもよい。ルーバ602のために任意の角度を選択することができ、試料液滴ストリーム134(または、試料液滴源130の出口オリフィス132)の一般的な向きを考慮して選択することもできる。図6に示す例においては、試料液滴ストリーム134の向きが与えられると、乾燥ガスストリーム160の少なくとも一部およびその伸長フロープロファイル180が、試料液滴ストリーム134に向かって上方に向くように、ルーバ602に角度を与える。その結果、試料液滴ストリーム134と乾燥ガスストリーム160との間の対向関係または逆平行関係によって、拡大加熱ゾーンが、直交流と対向して形成される。この構成は、特定の流体流量や、その他の動作パラメータにとって有利であることが分かる。なお、第1の通路172および/または第2の通路174を、部分的または全体的にルーバ602によって形成してもよい。さらに、ルーバ602を、上記の様な他のタイプの開口と共に利用してもよい。さらに、境界部164または前部プレート168は、乾燥ガスストリーム160の角度調整が可能なように、ルーバ602を移動可能とする構成であってもよい。
【0038】
図1〜図6に示した上記の様々な実施態様に関して、乾燥ガス流を利用して試料をイオン化する方法の例を説明する。この方法は、既に簡単に説明した当業者に理解されているESIやAPCI、APPIなどの任意の技術に応じて、常圧イオン化に適応させたイオン源を使用することができる。この方法では、例えば、質量分析装置120などの分析機器への入力のためのイオンストリームまたはイオン束を生成するために、試料材料が加熱ゾーンの乾燥ガスに遭遇する大気圧または近大気圧領域において、拡大加熱ゾーンを形成するように構成された、図1または図6に示す上記の装置100を利用することができる。質量分析装置120の例は、既に簡単に説明されており、当業者に理解されている。この方法で使用される質量分析装置120のタイプや、その関連部材に制約はない。質量分析装置120は、例えば、多重極電極構造体、イオントラップ、飛行時間型(TOF)部材、静電分析装置(ESA)、磁気セクターなど、任意のタイプの質量分類部材もしくはフィルタ部材、または、1以上のタイプを組み合わせて利用することができる。また、質量分析装置120は、例えば、電子増倍管、光電子増倍管、ファラデーカップなど、任意のタイプのイオン検出手段を利用することができる。この方法で利用されるイオン源は、試料材料の直接入力を受けるものであってもよいし、質量分析装置120と、LC機器などの上流側のシステムとの間のインタフェースであってもよい。
【0039】
例えば、図1または図6を参照して、この方法によれば、結果的に分析対象物および非分析成分を含む多数の試料液滴をチャンバ110に導入する任意の適切な手段によって、例えば、試料液滴ストリーム134を放出するために試料液滴源130を動作することによって、試料材料を処理する。採用する技術に応じて、液滴が試料液滴源130の出口オリフィス132から放出される時に、液滴を帯電させてもよいし、帯電させなくてもよい。前述のように、採用する技術に応じて、試料液滴源130は、エレクトロスプレーニードル、気化装置および/または噴霧装置を備えていてもよい。試料液滴ストリーム134の成分のイオン化は、例えば、(通常、試料液滴源130と一体化された)エレクトロスプレーニードル、チャンバ110内に配置されたコロナニードル(図示せず)、または、試料液滴源130と一体化されるか、または、チャンバ110内に配置された光子源(図示せず)などを使用して、任意の適切な技術によって開始される。試料液滴ストリーム134は、任意の適切な手段によって、例えば、直接的または間接的に(例えば、角度を付けて、あるいは、非同軸に)試料液滴源130の出口オリフィス132をサンプリングオリフィス142に向けることによって、そして/または、この目的のためにチャンバ110内に生成された電圧電位を利用して、サンプリングオリフィス142に向かって導かれる。
【0040】
試料液滴ストリーム134が、チャンバ110内を流通する一方、乾燥ガスストリーム160は、チャンバ110内に導入される。イオン源(例えば、装置100)は、チャンバ110内で乾燥ガスストリーム160を伸長フロープロファイル180へと進展させ、試料液滴ストリーム134の成分の蒸発を促進するための拡大加熱ゾーンを提供するように構成されている。伸長フロープロファイル180は、試料液滴源130の出口オリフィス132からサンプリングオリフィス142までの試料液滴ストリーム134の経路の殆どの部分で試料液滴ストリーム134と交差するか、または、接触して、試料液滴ストリーム134の成分への熱エネルギーの伝達を最適化するように配置することができる。その結果、分析対象イオンストリーム150は、不要成分の無い状態または殆ど無い状態でサンプリングオリフィス142を通過する。サンプリングオリフィス142から、イオンは、任意の適切な手段によって、分析および検出のために質量分析装置120やその他の適切な機器へと導かれる。
【0041】
この方法によれば、伸長フロープロファイル180は、図1、図2および図6に示すように、乾燥ガス出口オリフィス158をサンプリングオリフィス142に対して非同軸に配置すること、および/または、図1、図3、図4、図5A、図5B、図5C、図5D、図5E、図5F、図5G、図5Hまたは図6に示すように、開口部170を有する境界部164を設けることを含む、ここに開示されている実施態様のいずれかを実施することによって形成可能である。開口部170は、同時に、第1の通路172および第2の通路174を形成する構造を備えることによって、一方向の乾燥ガスの通過および略反対方向のイオンの通過を許容する。各通路172または174は、物理的に1つの開口または1以上の開口によって形成されていてもよい。これらの目的のために、開口部170は、図1、図3、図4、図5A、図5B、図5C、図5D、図5E、図5F、図5G、図5Hまたは図6に示すように、前部プレート168など、境界部164の1以上の構造的な特徴によって形成されていてもよい。
【0042】
本発明の範囲を逸脱することなく、本発明の様々な態様または詳細を変更可能であると理解される。さらに、前述の説明は、特許請求の範囲で定義される本発明の例示目的であり、限定目的ではない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】例示的な実施態様に係る、常圧イオン化において使用される装置(API装置)の概略横断面である。
【図2】API装置を備えた構造の正面図であり、乾燥ガス出口オリフィスおよびサンプリングオリフィスを示す。
【図3】図2に示す構造の正面図であり、例示的な実施態様に係る、乾燥ガス出口オリフィスおよびサンプリングオリフィスの前方に配置される、開口部を備えた境界部または前部プレートを示す。
【図4】例示的な実施態様に係るAPI装置の他の構成部材に関連して設けられた、図3に示す境界部または前部プレートの斜視図である。
【図5A】更なる例示的な実施態様に係る前部プレートの正面図である。
【図5B】更なる例示的な実施態様に係る前部プレートの正面図である。
【図5C】更なる例示的な実施態様に係る前部プレートの正面図である。
【図5D】更なる例示的な実施態様に係る前部プレートの正面図である。
【図5E】更なる例示的な実施態様に係る前部プレートの正面図である。
【図5F】更なる例示的な実施態様に係る前部プレートの正面図である。
【図5G】更なる例示的な実施態様に係る前部プレートの正面図である。
【図5H】更なる例示的な実施態様に係る前部プレートの正面図である。
【図6】他の例示的な実施態様に係る、常圧イオン化に使用される装置(API装置)の概略横断面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常圧イオン化において使用される装置であって、
試料受容チャンバと、
前記試料受容チャンバと連通している試料液滴源と、
前記試料受容チャンバと連通しているサンプリングオリフィスを形成する出口導管と、
前記試料受容チャンバと前記サンプリングオリフィスとの間に介在し、開口部を備えた境界部であって、前記開口部は、乾燥ガスが伸長されたフロープロファイルで前記試料受容チャンバ内へと流通可能な第1の通路と、試料材料が前記乾燥ガスにほぼ対向して前記試料受容チャンバから前記サンプリングオリフィスに向かって流通可能な第2の通路とを形成し、前記第1の通路が、前記第2の通路に対して非同軸に配置されている境界部とを備えた装置。
【請求項2】
内部空間を取り囲むハウジングを備え、前記サンプリングオリフィスが、前記チャンバと前記内部空間との間に流体連通を提供する請求項1に係る装置。
【請求項3】
前記境界部の前記サンプリングオリフィスと同じ側に配置されている乾燥ガス出口オリフィスを備えた請求項1に係る装置。
【請求項4】
前記開口部が、前記第1および第2の通路を有する単一の開口を備えた請求項1に係る装置。
【請求項5】
前記開口部の、前記第1の通路を形成する部分が、少なくとも一次元方向に延びている請求項4に係る装置。
【請求項6】
前記開口部が、前記第1の通路を含む第1の部分と、前記第2の通路を含む第2の部分とを備え、前記第1の部分が、少なくとも第1の次元方向に延びており、前記第2の部分が、前記第1の部分に隣接している請求項4に係る装置。
【請求項7】
前記第1の部分が、前記第1の次元方向の少なくとも一部に沿って先細りになった横断面を有する請求項6に係る装置。
【請求項8】
前記開口部が、少なくとも第1の開口と、別個の第2の開口とを備え、前記第1の開口が前記第1の通路を形成し、前記第2の開口が前記第2の通路を形成する請求項1に係る装置。
【請求項9】
前記第1の開口が、前記第2の開口に対して少なくとも第1の次元方向に延びている請求項8に係る装置。
【請求項10】
前記開口部が、複数の別個の開口を備え、前記開口のうちの1つが前記第2の通路を形成し、他の開口が前記第1の通路を形成する請求項1に係る装置。
【請求項11】
前記境界部が、前記開口部の少なくとも一部を形成するルーバを備えている請求項1に係る装置。
【請求項12】
常圧イオン化において使用される装置であって、
試料受容チャンバと、
前記試料受容チャンバと連通している試料液滴源と、
前記試料受容チャンバと連通しているサンプリングオリフィスを形成する出口導管と、
前記試料液滴源からの液滴流と非同軸にほぼ対向して、伸長されたフロープロファイルで、前記チャンバ内へと乾燥ガス流を案内するための手段とを備えた装置。
【請求項13】
前記案内手段が、前記チャンバと前記サンプリングオリフィスとの間に介在する境界部を備え、前記境界部が、前記乾燥ガスが案内される開口部を備えている請求項12に係る装置。
【請求項14】
前記開口部が、前記乾燥ガスが案内される第1の通路と、前記液滴からのイオンが導入される第2の通路とを形成し、前記第1の通路が、前記第2の通路に対して非同軸に配置されている請求項12に係る装置。
【請求項15】
常圧イオン化装置において試料材料の液滴を蒸発させるための方法であって、
試料材料を試料液滴ストリームとしてチャンバ内に導入することと、
前記試料液滴ストリームを開口部およびサンプリングオリフィスに向けて案内することであって、前記チャンバおよび前記サンプリングオリフィスが、前記開口部の両側に配置され、前記サンプリングオリフィスが、前記チャンバから離れるように延びていることと、
前記試料液滴ストリームを案内する一方で、前記試料液滴ストリームと非同軸にほぼ対向して、伸長されたフロープロファイルで、前記開口部を介して前記チャンバ内へと乾燥ガス流を導入し、これによって、前記伸長されたフロープロファイルは、前記サンプリングオリフィスへの前記試料材料の流入に先だって液滴の蒸発を促進するために、前記試料液滴ストリームの液滴が前記乾燥ガスに接触する伸長領域を提供することとを含む方法。
【請求項16】
前記開口部の、少なくとも一方向に伸長された部分を介して前記乾燥ガス流を導入することによって、前記伸長されたフロープロファイルを形成することを含む請求項15に係る方法。
【請求項17】
前記開口部が、複数の開口を備え、前記開口部に向かって前記試料液滴流を案内することが、前記開口のうちの少なくとも1つに向けて前記試料液滴ストリームを案内することを含み、前記乾燥ガス流を前記チャンバへと導入することが、少なくとも1つの他の開口を介して前記乾燥ガス流を導入することを含む請求項15に係る方法。
【請求項18】
前記開口部の、少なくとも一方向に伸長された少なくとも1つの開口を介して前記乾燥ガス流を導入することによって、前記伸長されたフロープロファイルを形成することを含む請求項17に係る方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図5C】
image rotate

【図5D】
image rotate

【図5E】
image rotate

【図5F】
image rotate

【図5G】
image rotate

【図5H】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2008−524804(P2008−524804A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−546707(P2007−546707)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【国際出願番号】PCT/US2005/043060
【国際公開番号】WO2006/065520
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(599060928)バリアン・インコーポレイテッド (81)
【Fターム(参考)】