説明

有体物の表面浄化艶出し方法

【課題】漆塗膜が施された有体物の表面を十分に浄化すると共に、その後の有体物の見栄えが美麗なままに維持されるようにする。
【解決手段】漆塗膜3が施された有体物の表面浄化艶出し方法であって、まず、漆塗膜3の表面を石油系溶剤により浄化し、次に、漆塗膜3の表面を乾性油によりコーティングする。石油系溶剤をリグロイン、もしくはアルコールとする。乾性油を荏油とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風習、儀式や宗教上の古来からの物品など漆塗膜が施された有体物の表面を浄化し、かつ、艶出しするための有体物の表面浄化艶出し方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
風習として節句に用いられる飾り台や、儀式として祭りに用いられる山車(だし:鉾を含む)や神輿(みこし)などでは、外観上の見栄えが向上し、かつ、寿命が著しく向上するという理由により、その基体の表面に漆を塗布して漆塗膜を形成することが古来より行われている。
【0003】
一般に、上記漆の天然液は、油中水滴型のエマルジョンであり、ウルシオール(脂質成分)、ゴム質(多糖)、含窒素物(糖蛋白)、ラッカーゼ(酵素)及び水で構成されている。そして、上記漆の天然液が有体物の基体表面に塗布されて乾燥させられることにより、この基体表面に漆塗膜が形成されるようになっている。
【0004】
下記特許文献1は、上記した飾り台に関するもので、その表面に施した漆塗膜に高級感を持たせるため、上記漆中に乾性油を混入したというものである。つまり、この漆を飾り台の基体表面に塗布すれば、この漆中の乾性油が空気中の酸素と反応して樹脂化し、上記飾り台の表面の艶出しができて、上記高級感が生じることと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−18921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記した飾り台や山車などの有体物は、風習や儀式において年に一度だけ、しかも、短期に用いられることが多く、この後は、収納庫に長期にわたり収納されるものである。このため、この使用による汚れや傷付きはわずかなものであって、艶はほとんどそのまま残されることとなるが、上記した有体物は、歓楽的な催しに用いられるものであって、常に美麗な見栄えであることが望まれる。よって、上記有体物の収納に際しても、その表面の汚れを十分に除去するよう浄化することが望まれる。
【0007】
そこで、従来では、上記有体物の収納に際し、その表面に付着した汚れである主に油脂分を、アルコールなどの溶剤を用いて十分に除去することが試みられている。
【0008】
しかし、上記のように溶剤を用いると、この溶剤の量がわずかであるとしても、上記漆塗膜の艶出しに用いられている前記樹脂化している乾性油が上記溶剤により溶解しがちとなる。この結果、この漆塗膜の表面が粗面化してうっすらと白化しがちとなり、これは漆塗膜の艶による見栄えを低下させるものであって好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、漆塗膜が施された有体物の表面を十分に浄化すると共に、その後の有体物の見栄えが美麗なままに維持されるようにすることである。
【0010】
請求項1の発明は、漆塗膜3が施された有体物の表面浄化艶出し方法であって、
まず、上記漆塗膜3の表面を石油系溶剤により浄化し、
次に、上記漆塗膜3の表面を乾性油によりコーティングするようにしたことを特徴とする有体物の表面浄化艶出し方法である。
【0011】
請求項2の発明は、上記石油系溶剤をリグロイン、もしくはアルコールとしたことを特徴とする請求項1に記載の有体物の表面浄化艶出し方法である。
【0012】
請求項3の発明は、上記乾性油を荏油としたことを特徴とする請求項1、もしくは2に記載の有体物の表面浄化艶出し方法である。
【0013】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0014】
本発明による効果は、次の如くである。
【0015】
請求項1の発明は、漆塗膜が施された有体物の表面浄化艶出し方法であって、
まず、上記漆塗膜の表面を石油系溶剤により浄化し、
次に、上記漆塗膜の表面を乾性油によりコーティングするようにしている。
【0016】
このため、上記漆塗膜の表面の浄化に石油系溶剤が用いられたことにより、この漆塗膜の表面に付着している特に油脂族系の汚れの除去がより確実に達成され、よって、有体物の表面が十分に浄化される。
【0017】
また、上記のように有体物の表面の浄化に溶剤を用いた場合には、この溶剤が、漆塗膜に混入されて樹脂化しているこの漆塗膜の表面の乾性油を溶解して、この漆塗膜の表面を粗面化しがちである。
【0018】
しかし、前記した溶剤による汚れの除去後には、上記漆塗膜の表面を乾性油によりコーティングするため、このコーティングした乾性油が上記漆塗膜の表面の粗面化した乾性油と互いに一体化しつつ平滑となるよう空気中の酸素と反応して樹脂化するため、漆塗膜の表面の艶出しが達成される。よって、上記した有体物の表面の浄化後のこの有体物の見栄えは美麗なままに維持される。
【0019】
請求項2の発明は、上記石油系溶剤をリグロイン、もしくはアルコールとしている。
【0020】
このため、有体物の使用などにより、この有体物の表面に汚れが付着したとき、この汚れの量や性質(無極性、極性)に照らして上記リグロインとアルコールとのうち、いずれか適正なものを選択すればよい。そして、この選択によれば、上記漆塗膜の表面が上記溶剤より無用に粗面化することを抑制しつつ、有体物の表面を十分に浄化させることができる。
【0021】
請求項3の発明は、上記乾性油を荏油としている。
【0022】
ここで、上記荏油は、乾性油のうち、特に、漆塗膜の表面の艶出しに有効な極性の植物油であるため、上記荏油を用いることにより、上記有体物の見栄えをより美麗にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】有体物の一例としての山車の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の有体物の表面浄化艶出し方法に関し、漆塗膜が施された有体物の表面を十分に浄化すると共に、その後の有体物の見栄えが美麗なままに維持されるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0025】
即ち、漆塗膜が施された有体物の表面浄化艶出し方法であって、
まず、上記漆塗膜の表面を石油系溶剤により浄化し、
次に、上記漆塗膜の表面を乾性油によりコーティングするようにしている。
【実施例】
【0026】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0027】
図において、符号1は、山車で例示される有体物である。この有体物1の基体2は木製であって、この基体2の表面には漆塗膜3が施されている。この漆塗膜3には荏油(えのあぶら、エゴマ油:ヨウ素価190〜215)、亜麻仁油(あまにゆ、アマ油:ヨウ素価175〜195)、桐油(とうゆ、アブラギリ油:ヨウ素価160〜175)などの乾性(植物)油が混入されており、この混入の後、空気中の酸素と酸化重合反応することにより樹脂化され、これにより、漆塗膜3の艶出しが可能とされている。また、この有体物1を使用したことにより、上記漆塗膜3の表面には、わずかな汚れ4が付着している。
【0028】
上記有体物1の表面の汚れ4を十分に除去するよう浄化し、かつ、改めて上記漆塗膜3の艶出しをするための方法につき、以下説明する。
【0029】
まず、上記漆塗膜3の表面を石油系溶剤により浄化して、乾燥させる。
【0030】
具体的には、上記汚れ4が無極性(親水性)である石油系の場合や、上記有体物1の使用により、より多く付着すると考えられる極性(疎水性)である動植物油のような脂肪族系の場合には、いずれにしても、上記溶剤のうち、特にリグロインにより上記汚れ4を除去して漆塗膜3の表面を浄化する。上記リグロインは、工業ガソリンの一種で、沸点が60〜110℃の無色透明の石油製品であり,ベンジンの概念に含まれるものである。
【0031】
上記リグロインにより汚れ4を除去する場合には、まず、このリグロインを可撓性の多孔吸湿体6に含ませる。そして、このようにリグロインを含んだ多孔吸湿体6により上記漆塗膜3の表面を拭き上げるようにして、上記汚れ4を拭き取る。上記多孔吸湿体6は脱脂綿が好ましいが、スポンジや、不織布などの布を重ね合わせたり、塊状にさせたりしたものであってもよい。
【0032】
上記多孔吸湿体6による汚れ4の拭き取りの際、リグロインの蒸発速度は上記溶剤であるアルコールよりも遅いが、乾きが速いため、上記漆塗膜3の表面を、上記多孔吸湿体6を滑らすよう、かつ、漆塗膜3の表面に対し部分的な負荷を与えないようにして上記汚れ4を素早く拭き取ることが好ましい。
【0033】
ここで、上記したように漆塗膜3の表面から汚れ4を除去するためのリグロインは、漆塗膜3に混入されて樹脂化しているこの漆塗膜3の表面の乾性油を溶解して、この漆塗膜3の表面を粗面化させがちである。
【0034】
そこで、上記のようにして汚れ4を除去した漆塗膜3の表面を前記したと同様の乾性油により薄くコーティングする。この乾性油は、前記荏油であることが好ましい。また、上記乾性油をコーティングする場合、この乾性油を上記多孔吸湿体6と同じ構成の多孔吸湿体に含ませる。そして、このように乾性油を含んだ多孔吸湿体を、上記漆塗膜3の表面を滑らすように移動させて、上記乾性油を上記漆塗膜3の表面に薄く滑らかに塗り付ける。また、この場合、上記多孔吸湿体により余分のリグロインを拭き取ればよい。
【0035】
すると、上記乾性油は、経時的に空気中の酸素と酸化重合反応することにより樹脂化し、この際、上記漆塗膜3の表面に混入されている乾性油と一体化し、全体的に固化させられる。これにより、上記漆塗膜3の表面の艶出しが可能とされる。
【0036】
なお、上記汚れ4が無極性と極性とのうち、いずれであるとしても、上記溶剤としてリグロインに代えアルコールを用いれば、上記リグロインに比べて汚れ4の除去がより確実に達成される。
【0037】
しかし、上記アルコールによれば、上記リグロインに比べ漆塗膜3の表面の乾性油がより溶解して、この漆塗膜3の表面がより粗面化しがちとなる。
【0038】
このため、その後における上記漆塗膜3の表面に対する乾性油によるコーティングは、より厚くすることが好ましい。
【0039】
上記構成によれば、漆塗膜3が施された有体物の表面浄化艶出し方法であって、
まず、上記漆塗膜3の表面を石油系溶剤により浄化し、
次に、上記漆塗膜3の表面を乾性油によりコーティングするようにしている。
【0040】
このため、上記漆塗膜3の表面の浄化に石油系溶剤が用いられたことにより、この漆塗膜3の表面に付着している特に油脂族系の汚れ4の除去がより確実に達成され、よって、有体物1の表面が十分に浄化される。
【0041】
また、上記のように有体物1の表面の浄化に溶剤を用いた場合には、この溶剤が、漆塗膜3に混入されて樹脂化しているこの漆塗膜3の表面の乾性油を溶解して、この漆塗膜3の表面を粗面化しがちである。
【0042】
しかし、前記した溶剤による汚れ4の除去後には、上記漆塗膜3の表面を乾性油によりコーティングするため、このコーティングした乾性油が上記漆塗膜3の表面の粗面化した乾性油と互いに一体化しつつ平滑となるよう空気中の酸素と反応して樹脂化するため、漆塗膜3の表面の艶出しが達成される。よって、上記した有体物1の表面の浄化後のこの有体物1の見栄えは美麗なままに維持される。
【0043】
ここで、上記したように漆塗膜3の表面を乾性油によりコーティングした場合、これに光を当てたり、雰囲気温度を上げれば、上記反応を促進させることができる。
【0044】
また、前記したように、石油系溶剤をリグロイン、もしくはアルコールとしている。
【0045】
このため、有体物1の使用などにより、この有体物1の表面に汚れ4が付着したとき、この汚れ4の量や性質(無極性、極性)に照らして上記リグロインとアルコールとのうち、いずれか適正なものを選択すればよい。そして、この選択によれば、上記漆塗膜3の表面が上記溶剤より無用に粗面化することを抑制しつつ、有体物1の表面を十分に浄化させることができる。
【0046】
また、前記したように、乾性油を荏油としている。
【0047】
ここで、上記荏油は、乾性油のうち、特に、漆塗膜3の表面の艶出しに有効な極性の植物油であるため、上記荏油を用いることにより、上記有体物1の見栄えをより美麗にすることができる。
【0048】
なお、以上は図示の例によるが、上記有体物1は、風習として節句に用いられる飾り台、儀式として祭りに用いられり神輿、宗教用の仏像、仏壇、仏具、また、建物である社寺などであってもよい。
【0049】
また、上記漆塗膜3の表面への乾性油のコーティングは、スプレーによってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 有体物
2 基体
3 漆塗膜
4 汚れ
6 多孔吸湿体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
漆塗膜が施された有体物の表面浄化艶出し方法であって、
まず、上記漆塗膜の表面を石油系溶剤により浄化し、
次に、上記漆塗膜の表面を乾性油によりコーティングするようにしたことを特徴とする有体物の表面浄化艶出し方法。
【請求項2】
上記石油系溶剤をリグロイン、もしくはアルコールとしたことを特徴とする請求項1に記載の有体物の表面浄化艶出し方法。
【請求項3】
上記乾性油を荏油としたことを特徴とする請求項1、もしくは2に記載の有体物の表面浄化艶出し方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−31218(P2011−31218A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182396(P2009−182396)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(508203725)株式会社メイクリーン (7)
【Fターム(参考)】