説明

有害有機物質含有排ガスの処理装置

【課題】焼却施設から不可避的に生成され排出ガス中に混入するダイオキシン類(DXN類)や多環芳香族化合物(PAH)などの有害有機物質を、簡素な設備構成で効果的に除去分解可能な有害有機物質含有排ガスの処理装置を提供する。
【解決手段】産業廃棄物焼却炉などの焼却施設から排出される排ガス26中に含有される有害有機物質を除去する有害有機物質含有排ガスの処理装置において、上記有害有機物質の吸収能を有する洗浄液6と上記排ガス26とを接触せしめて有害有機物質を洗浄液6中に吸収溶解させる洗浄塔4と、この洗浄塔4から抜き出された上記有害有機物質を吸収溶解させた洗浄液6を上記洗浄液貯槽5から部分的に抜き出し、抜き出した洗浄液6に放射線を照射することにより洗浄液6中の有害有機物質を分解する有害物分解機構7と、を備えることを特徴とする有害有機物質含有排ガスの処理装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有害有機物質含有排ガスの処理装置に係り、特に焼却施設から不可避的に生成され排出ガス中に混入するダイオキシン類(DXN類)や多環芳香族化合物(PAH)などの有害有機物質を、簡素な設備構成で効果的に除去分解可能な有害有機物質含有排ガスの処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業廃棄物焼却炉や鉄鋼焼結炉などの焼却・焼成施設からは廃棄物等の焼却焼成処理によって不可避的にダイオキシン類(DXN類)や多環芳香族炭化水素化合物(PAH)などが多量に発生する。ダイオキシン類は毒性が非常に強い塩素化芳香族炭化水素に属する化合物であり、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、DDTなどの物質と同様に、自然には分解され難く生物濃縮によって人体や生態系に害を及ぼす有機物として、特に残留性有機汚染物質(POPs:Persistent Organic Pollutants)に指定されている。
【0003】
一方、多環芳香族化合物(PAH)は毒性が相対的に低いため、現時点では一般人の注目度は低いが、その発生量はDXN類よりはるかに膨大であり、地球全体の環境規模で計算するとダイオキシンの10000倍程度の多量の毒性を生活環境に放出していると推計されている。そのため世界的に広域に排出規制が設けられる傾向にあり、特に環境意識が高く先進的な欧米で、その排出規制が強化されつつある現状である。
【0004】
ここで、一般的な廃棄物焼却施設から排出される排ガスの処理フローについて図4を参照して説明する。図4に示す従来の処理施設は、供給された廃棄物29を燃焼させる焼却炉の燃焼室1と、発生した燃焼廃ガスを冷却する冷却装置2と、得られた排ガス26に含有されるダイオキシン等の有害物質を分離除去する排ガス処理装置20とから構成される。この排ガス処理装置20は、さらにダイオキシン等が付着したダストなどの微細固形物を除去する集塵機21と、排ガス26中に含有されるダイオキシン等を除去・分離する、例えばスクラバ等のダイオキシン除去装置22とから構成される。
【0005】
上記処理施設において、外気と遮断した焼却炉の燃焼室で燃焼温度が800℃以上で、停留時間が2秒以上の条件で廃棄物の焼却処理が実行される。焼却時に発生する排ガス26中には微粒子に付着したダイオキシン類やガス中に浮遊したダイオキシン類が多量に含有されるため、集塵機21を使用した集塵操作や洗浄塔を使用したスクラバ操作でダイオキシン等の有害物質を分離除去する必要がある。
【0006】
しかしながら、排気ガスが高温状態のままでは、処理施設を構成する排ガス処理装置の耐熱仕様などに適合しないため、排ガス26の煙道の途中に設けた冷却装置2により排ガス温度を200℃程度に低下させた後に処理している。なお、この温度低下の過程でさらにダイオキシン類が生成されるために、この生成量の増加分を上乗せして排ガス処理装置でダイオキシン等の有害物質を分離除去している。集塵機21の二次側には、有害物質の分離除去機構としてのオイルスクラバを例示している。
【0007】
上記オイルスクラバは、図5に示すように、排ガスとオイル(油)との気液接触を促進する気液接触塔23と、この気液接触塔23の底部から抜き出した油を気液接触塔23の頂部に供給し液滴状態のシャワーとして降らせる油循環装置24と、上記気液接触塔23の底部から抜き出した油を一旦貯留する油貯槽25とから構成されている。
【0008】
上記オイルスクラバにおいて、気液接触塔23の下部から導入されたダイオキシンやPAHなどの有害有機物質を含む排ガス26が、気液接触塔23の頂部から供給された液滴状態のシャワー油と向流に気液接触する間に、親油性のダイオキシン類が油側に移行されて分離される。同様にPAHも油によって分離除去される。
【特許文献1】特開2000−334205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように従来の排ガス処理装置に組み込まれたオイルスクラバによる有害物質の洗浄吸収効果によって、原理的にはPAHの分離除去は可能ではある。しかしながら、PAHはダイオキシンの生成量の10倍程度も多量に生成するため、油中における濃縮速度が高い問題点があり、処理装置の運転管理が煩雑になる欠点がある。すなわち、油中のPAH濃度が10%近くに上昇すると有害物の吸着性能が急激に低下する結果、吸着されずに大気放出され易くなる。この問題点を事前に防止するためには、油中のPAH濃度を常時監視して油中PAH量が一定濃度に達した時点で新油と交換する必要があるが、その交換頻度が高く管理作業が煩雑化する問題点があった。
【0010】
さらに、それまで使用していた油であり所定のPAH濃度に達した油は、焼却処理することが通常の最終処分である。しかしながら、この油には燃焼時の副生成物であるPAHが大量に含まれているために、上記焼却処理を実施すると、さらに排ガス中にPAHが高濃度で放出されるという悪循環が生じる問題点もある。この悪循環を防止するには油中に吸収したPAHを分解する装置が必要であるのだが、ダイオキシン類よりはるかに難分解性であることや焼却処理が困難であること等の事情から適切かつ効率的に処理できる排ガス処理装置は現在までに実用化されてはいない。
【0011】
各種有害物の中でも、特に多環芳香族化合物(PAH)は、自然に分解され難く生物濃縮によって人体や生態系に害を及ぼす有機物として残留性有機汚染物質(POPs)に指定されている。このPAHの影響度の大きさを考慮して、現在、PAHは次期残留性有機汚染物質(POPs)の対象候補に検討されている一方で、多国間条約による規制対象とすることも検討されている。
【0012】
PAHが次期POPsの対象に指定された場合には、ダイオキシンの排ガス規制に準拠した排出濃度規制が採用される蓋然性が極めて高い。しかしながら、前記の通り、PAHは焼却に伴い生成する物質であり、ダイオキシンよりもさらに難分解性を有するため、上記のような厳格な排出濃度規制に十分対応できる効果的な排ガス処理装置の早期実現が望まれている。
【0013】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、焼却施設から不可避的に生成され排出ガス中に混入するダイオキシン類(DXN類)や多環芳香族化合物(PAH)などの有害有機物質を、簡素な設備構成で効果的に除去分解可能な有害有機物質含有排ガスの処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明に係る有害有機物質含有排ガスの処理装置は、産業廃棄物焼却炉や鉄鋼焼結炉などの焼却施設から排出される排ガス中に含有される有害有機物質を除去する有害有機物質含有排ガスの処理装置において、上記有害有機物質の吸収能を有する洗浄液と上記排ガスとを接触せしめて有害有機物質を洗浄液中に吸収溶解させる洗浄塔と、この洗浄塔から抜き出され、有害有機物質を吸収溶解させた洗浄液を貯留する洗浄液貯槽と、この洗浄液貯槽に貯留された洗浄液を上記洗浄塔に還流させる洗浄液循環装置と、上記有害有機物質を吸収溶解させた洗浄液を上記洗浄液貯槽から部分的に抜き出し、抜き出した洗浄液に放射線を照射することにより洗浄液中の有害有機物質を分解する有害物分解機構と、を備えることを特徴とする。
【0015】
すなわち、上記有害有機物質含有排ガスの処理装置は、産業廃棄物焼却炉や鉄鋼焼結炉などの焼却施設からの排ガス中に含まれるダイオキシン類(DXN類)などのハロゲン系芳香族や多環芳香族炭化水素(PAH)などの有害有機物質を除去する排ガス処理装置であり、有害有機物質の吸収性が高い洗浄液に排ガスを通すことにより、有害有機物質は洗浄液中に溶解されて排ガスと分離されるので、洗浄液との接触後における排ガスは清浄に保持される。一方、有害有機物質を吸収した洗浄液に対しては、電子線もしくはガンマ線もしくはX線などの放射線が照射されるために、洗浄液中の有害有機物質は放射線による分解反応によって効果的に分解される。
【0016】
特に上記排ガスの処理装置においては、有害物分解機構が備えられ、有害有機物質を吸収溶解させた洗浄液に放射線を照射することにより有害有機物質を常に分解しているために、排ガスを連続処理することが可能である。さらに、洗浄塔に循環される洗浄液中における有害有機物質の濃縮が少ないので、有害有機物質の吸収分離効率を高く維持することが可能であり、洗浄液の交換頻度が少なく処理装置の運転管理が極めて容易となる。
【0017】
また、上記有害有機物質含有排ガスの処理装置において、前記有害有機物質が、ダイオキシン類を含むハロゲン系芳香族化合物および多環芳香族炭化水素(PAH)の少なくとも一方であることが好ましい。処理対象とする有害有機物質が、ダイオキシン類を含むハロゲン系芳香族化合物およびPAHである場合に、その吸収分離効率および分解効率を高く維持することが可能である。
【0018】
さらに、上記有害有機物質含有排ガスの処理装置において、前記放射線が、電子線、ガンマ線およびX線の少なくとも1種であることが好ましい。電子線、ガンマ線およびX線は、ダイオキシン類を含むハロゲン系芳香族化合物およびPAHから成る有害物質の分解性に優れている。
【0019】
また、上記有害有機物質含有排ガスの処理装置において、前記有害有機物質の吸収溶解に用いた洗浄液中に含まれる有害有機物質を放射線分解する時もしくは分解をする前に、上記洗浄液中に吸収溶存しているガスを除去するガス分離除去機構を備えることが好ましい。このガス分離除去機構は、洗浄液中に吸収溶存しているガスを真空引きして除去する真空吸引機構または洗浄液からガスを膜分離する膜分離機構であることが好ましい。
【0020】
上記洗浄液中に溶存しているガスは、有害物分解機構における有害有機物質の放射線分解効率に悪影響を与える要因となるために、洗浄液中に吸収溶存しているガスを真空吸引機構や膜分離機構などの機構で除去することにより、放射線による有害有機物質の分解効率を高めることが可能である。
【0021】
さらに、上記有害有機物質含有排ガスの処理装置において、前記有害有機物質の吸収溶解に用いた洗浄液中に含まれる有害有機物質を放射線分解する時もしくは分解する前に、洗浄液中に溶解している空気を、不活性ガスで置換するガス置換機構を有していることが好ましい。また、前記不活性ガスは、窒素およびアルゴンの少なくとも一方であることが好ましい。
【0022】
上記洗浄液中に溶存している空気は、有害物分解機構における有害有機物質の放射線分解効率に悪影響を与える要因となるために、洗浄液中に溶解している空気を、酸素が含まれていない窒素やアルゴンなどの不活性ガスで置換することにより、放射線による有害有機物質の分解効率を高めることが可能である。
【0023】
また、上記有害有機物質含有排ガスの処理装置において、前記排ガス中の有害有機物濃度を検出するオンラインモニタが排ガスの煙道に設けられていることが好ましい。
【0024】
このように排ガス中の有害有機物質濃度を検出するオンラインモニタを、例えば洗浄塔の排ガス出入り口の煙道に適宜複数基配設することにより、排ガス中の有害有機物質濃度を常時監視できるシステムとなるため、排ガスの処理状況を常に把握することができ、処理装置の運転管理の安全性が向上する。
【0025】
さらに、上記有害有機物質含有排ガスの処理装置において、前記有害有機物質の吸収溶解に用いる洗浄液が、炭素数10以上の炭化水素溶剤および流動パラフィン系油の少なくとも一方であることが好ましい。炭素数10以上の炭化水素溶剤または流動パラフィンに代表される油は、ダイオキシン類(DXN類)や多環芳香族化合物(PAH)などの有害有機物質の吸収溶解効率が高いために、洗浄塔における排ガスからの有害有機物質の分離性能を大幅に向上させることができる。
【0026】
また、上記有害有機物質含有排ガスの処理装置において、前記有害有機物質の吸収溶解に用いる洗浄液(油)が流動パラフィン系油である場合に、洗浄液に初期に含有される多環芳香族炭化水素(PAH)化合物の濃度の合計が5質量%以下であることが好ましい。
【0027】
このように使用開始時の油等の洗浄液に初期に含まれるPAH化合物濃度の合計を5質量(wt)%以下に制御することにより、一旦吸収したPAH等が再蒸散する可能性が低くなり、排ガスの処理装置の運転管理上の安全性を向上させることができる。
【0028】
上記のように排ガス処理装置本体に各種の付帯設備を付加したり、処理条件を適用したりして構成することにより、産業廃棄物焼却炉や鉄鋼焼結炉などの焼却施設から排出される排ガス中に含有されるダイオキシン類(DXN類)等のハロゲン系芳香族化合物や多環芳香族炭化水素(PAH)などの有害有機物質を高い効率で除去分解できる排ガス処理装置が実現する。特に有害有機物質の吸収性の高い洗浄液に排ガスを通して、洗浄液中に有害有機物質を溶解させて排ガスと分離し、液体通過後の排ガスを清浄に処理する一方、有害有機物質を吸収溶解した洗浄液には、電子線もしくはガンマ線もしくはX線などの放射線を照射することにより、洗浄液中の有害有機物質を効果的に分解することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る有害有機物質含有排ガスの処理装置によれば、有害有機物質の吸収性が高い洗浄液に排ガスを通すことにより、有害有機物質は洗浄液中に溶解されて排ガスと分離されるので、洗浄液との接触後における排ガスは清浄に保持される。一方、有害有機物質を吸収した洗浄液に対しては、電子線もしくはガンマ線もしくはX線などの放射線が照射されるために、洗浄液中の有害有機物質は放射線による分解反応によって効果的に分解される。
【0030】
特に上記排ガス処理装置においては有害物分解機構が備えられ、有害有機物質を吸収溶解させた洗浄液に放射線を照射することにより有害有機物質を常に分解しているために、排ガスを連続処理することが可能である。さらに、洗浄塔に循環される洗浄液中における有害有機物質の濃縮が少ないので、有害有機物質の吸収分離効率を高く維持することが可能であり、洗浄液の交換頻度が少なく処理装置の運転管理が極めて容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に本発明に係る有害有機物質含有排ガスの処理装置の実施形態について、以下に示す実施例および添付図面を参照して具体的に説明する。
【0032】
[実施例1]
図1は実施例1に係る有害有機物質含有排ガスの処理装置の設備構成を示す系統図であり、洗浄塔としてオイルスクラバを採用した例を示している。すなわち、実施例1に係る有害有機物質含有排ガスの処理装置は、産業廃棄物焼却炉や鉄鋼焼結炉などの焼却施設から排出される排ガス26中に含有される有害有機物質を除去する有害有機物質含有排ガスの処理装置であり、上記有害有機物質の吸収能を有する洗浄液としての油と上記排ガス26とを気液接触せしめて有害有機物質を洗浄液(油)6中に吸収溶解させる洗浄塔4としてのオイルスクラバと、このオイルスクラバの底部から抜き出され、有害有機物質を吸収溶解させた洗浄液(油)6を貯留する洗浄液貯槽5と、この洗浄液貯槽5に貯留された洗浄液(油)6を上記洗浄塔4の頂部に還流させる洗浄液循環装置27と、上記有害有機物質を吸収溶解させた洗浄液6を上記洗浄液貯槽5から部分的に抜き出し、抜き出した洗浄液6に放射線を照射することにより洗浄液中の有害有機物質を分解する有害物分解機構7とを備えて構成される。
【0033】
また、上記洗浄液循環装置27の循環配管には、洗浄液循環ポンプ28が配設されている。さらに、廃棄物を燃焼させる焼却炉の燃焼室1と洗浄塔4の排ガス入り口とを結ぶ煙道の途中には、燃焼室1で発生した燃焼廃ガス26を冷却する冷却装置2と、ダイオキシン等が付着したダストなどの微細固形物を除去する集塵装置3とが配置されている。
【0034】
上記のように構成された実施例1に係る有害有機物質含有排ガスの処理装置において、焼却炉の燃焼室1で800℃で2秒以上火炎に接触し加熱された排ガス26は冷却装置2を通過して温度200℃程度まで冷却された後に、集塵装置3に導入されて微粉末が除去される。このとき微粉末に付着していたダイオキシン類も同時に除去される。
【0035】
排ガス気相中に含有されていたダイオキシン類やPAHは、オイルスクラバである洗浄塔4の頂部から散布された洗浄液(油)と接触し、洗浄液(油)中に回収され、排ガス26から除去される。有害物質を除去された排ガスは、洗浄塔4の頂部から系外に排出される。
【0036】
一方、洗浄塔4における気液接触によってPAHを取り込んだ洗浄液(油)6は洗浄液貯槽5に一旦貯留された後に、洗浄液循環ポンプ28により洗浄塔4の頂部に供給され、再び洗浄塔4の上部よりシャワー状の洗浄液(油)6として降り注ぎ、排ガス26からダイオキシン類やPAHを吸収し分離する。
【0037】
また、洗浄液(油)6中に吸収溶解されるダイオキシンやPAHは、排ガス26からの分離濃縮を繰り返すことにより、その濃度は経時的に上昇していく。そのため、この有害物質が濃縮された洗浄液(油)6が汚染源となり、排ガス中に有害物質が再混入する危険性が高まる。その危険性を回避するために、洗浄液貯槽5から連続的に洗浄液(油)6を抜き出し、有害物分解機構7において洗浄液(油)6に放射線を照射して有害物質を常に分解することにより、循環する洗浄液(油)6に含有される有害物質量(濃度)を常に一定のレベルに保持している。そのために、洗浄塔4における有害物質の吸収溶解効率を常に高く維持できることになり、処理装置の運転効率も良好になる。
【0038】
なお、洗浄液貯槽5からの洗浄液(油)6の抜き出しは、循環する洗浄液(油)6に含有される有害物質量(濃度)を常に一定のレベル以下に保持できる限りにおいては、間歇的に実施することも可能である。
【0039】
上記のように構成された実施例1に係る排ガス処理装置においては、有害物分解機構7が備えられ、有害有機物質を吸収溶解させた洗浄液(油)6に放射線を照射することにより有害有機物質を分解しているために、排ガス26を連続処理することが可能である。さらに、洗浄塔4に循環される洗浄液6中における有害有機物質の濃縮が少ないので、有害有機物質の吸収分離効率を高く維持することが可能であり、洗浄液6の交換頻度が少なく処理装置の運転管理が極めて容易となる。
【0040】
[実施例2]
図2は実施例2に係る有害有機物質含有排ガスの処理装置の設備構成を示す系統図であり、洗浄塔としてオイルスクラバを採用した例を示している。この実施例2に係る有害有機物質含有排ガスの処理装置は、有害有機物質の吸収溶解に用いた洗浄液(油)6中に含まれる有害有機物質を放射線分解する時もしくは分解をする前に、上記洗浄液(油)6中に吸収溶存しているガスを除去するガス分離除去機構8をさらに備えた点以外は、図1に示す実施例1に係る有害有機物質含有排ガスの処理装置と構成が同一である。そのため、実施例1の処理装置と同一の構成要素には同一符号を付して、その説明は省略する。
【0041】
上記実施例2で用いたガス分離除去機構8は、例えば洗浄液6中に吸収溶存しているガスを真空引きして除去する真空吸引機構であり、具体的には抜き出した洗浄液6の収容空間を排気減圧する真空ポンプ等で構成される。
【0042】
有害物分解機構7において、抜き出した洗浄液6に対して放射線を照射して分解反応を進行させる放射線分解処理においては、洗浄液(油)中に存在する溶存酸素等が分解反応を遅延させる原因になることが多い。そこで、本実施例2のように、真空ポンプなどで構成したガス分離除去機構(真空吸引機構)8によって、例えば洗浄液6中に吸収溶存しているガスや空気を真空引きして除去した後に、放射線分解を実施するプロセスを採用することにより、有害物質の分解反応を迅速に進行させることができる。
【0043】
[実施例3]
図3は実施例3に係る有害有機物質含有排ガスの処理装置の設備構成を示す系統図であり、洗浄塔としてオイルスクラバを採用した例を示している。この実施例3に係る有害有機物質含有排ガスの処理装置は、実施例2の処理装置の構成に加えて、洗浄液中に含まれる有害有機物質を放射線分解する時もしくは分解する前に、洗浄液中に溶解している空気を不活性ガスで置換するガス置換機構9を備えた構成および排ガス中の有害有機物濃度を検出するオンラインモニタ10を排ガスの煙道に設けた構成を追加した排ガス処理装置である。
【0044】
上記不活性ガスは、窒素およびアルゴンの少なくとも一方から構成される。また、排ガス中の有害有機物濃度を検出するオンラインモニタ10は、洗浄塔4の排ガス入口および排ガス出口の双方に配設される。
【0045】
上記のように構成された実施例3に係る有害有機物質含有排ガスの処理装置によれば、実施例2の処理装置によって得られる効果に加えて、下記のような効果が得られる。すなわち、有害物分解機構7において有害物の分解処理を実施する際には、洗浄液中に吸収溶存しているガスや空気によって分解反応が阻害されるので、洗浄液貯槽5から抜き出した洗浄液を収容する空間部を真空引きして内部の空気および溶存ガスを排気しているために、有害物分解機構7内部は減圧状態になっている。この状態で洗浄液貯槽5と有害物分解機構7とを接続する戻し管路を開くと、洗浄液貯槽5に作用する圧力はほぼ大気圧であるために、両者間の差圧により洗浄液貯槽5から有害物分解機構7内部に洗浄液が逆流してしまう。したがって、分解処理完了後に、有害物分解機構7から洗浄液貯槽5を含めた洗浄液循環系に洗浄液を戻すときには、有害物分解機構7内部を大気圧に戻す煩雑な操作が必要となる。
【0046】
ところが実施例3の処理装置においては、洗浄液に接触したり、または洗浄液中に溶解したりしている空気等を窒素やアルゴンなどの不活性ガスで置換するガス置換機構9を備えているために、ガス置換機構9から有害物分解機構7に不活性ガスを所定量だけ注入することにより、有害物分解機構7内の雰囲気圧力を容易に大気圧に戻すことが可能になり、洗浄液貯槽5等からの洗浄液の逆流を効果的に防止できる。
【0047】
また、分解処理を実施する洗浄液の収容空間に不活性ガスが封入されるために酸素との接触が無い。したがって酸素等のガスの悪影響を受けることが無く高い分解効率で有害物質を分解除去できる。
【0048】
さらに、排ガス中の有害有機物濃度を検出するオンラインモニタが排ガスの煙道に設けられているために、排ガス中の有害有機物質濃度を常時監視できるシステムとなり、排ガスの処理状況を常に把握することができ、処理装置の運転管理の安全性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る有害有機物質含有排ガスの処理装置の一実施例の構成を示す系統図。
【図2】本発明に係る有害有機物質含有排ガスの処理装置の他の実施例の構成を示す系統図。
【図3】本発明に係る有害有機物質含有排ガスの処理装置のその他の実施例の構成を示す系統図。
【図4】産業廃棄物焼却施設における排ガスの一般的な処理フローを示す系統図。
【図5】オイルスクラバの構成例および処理原理を説明する系統図。
【符号の説明】
【0050】
1 焼却炉の燃焼室
2 冷却装置
3 集塵装置
4 洗浄塔(オイルスクラバ)
5 洗浄液(スクラバオイル)貯槽
6 洗浄液(オイルシャワーの油滴)
7 有害物分解機構
8 ガス分離除去機構(真空吸引機構、真空ポンプ)
9 ガス置換装置
10 排ガス中の有害有機物モニタ(オンラインモニタ)
20 排ガス処理装置
21 集塵機
22 ダイオキシン除去装置
23 気液接触塔
24 油循環装置
25 油貯槽
26 排ガス
27 洗浄液循環装置
28 洗浄液(油)循環ポンプ
29 廃棄物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業廃棄物焼却炉や鉄鋼焼結炉などの焼却施設から排出される排ガス中に含有される有害有機物質を除去する有害有機物質含有排ガスの処理装置において、上記有害有機物質の吸収能を有する洗浄液と上記排ガスとを接触せしめて有害有機物質を洗浄液中に吸収溶解させる洗浄塔と、この洗浄塔の底部から抜き出され、有害有機物質を吸収溶解させた洗浄液を貯留する洗浄液貯槽と、この洗浄液貯槽に貯留された洗浄液を上記洗浄塔に還流させる洗浄液循環装置と、上記有害有機物質を吸収溶解させた洗浄液を上記洗浄液貯槽から部分的に抜き出し、抜き出した洗浄液に放射線を照射することにより洗浄液中の有害有機物質を分解する有害物分解機構と、を備えることを特徴とする有害有機物質含有排ガスの処理装置。
【請求項2】
前記有害有機物質が、ダイオキシン類を含むハロゲン系芳香族化合物および多環芳香族炭化水素の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1記載の有害有機物質含有排ガスの処理装置。
【請求項3】
前記放射線が、電子線、ガンマ線およびX線の少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の有害有機物質含有排ガスの処理装置。
【請求項4】
前記有害有機物質の吸収溶解に用いた洗浄液中に含まれる有害有機物質を放射線分解する時もしくは分解をする前に、上記洗浄液中に吸収溶存しているガスを除去するガス分離除去機構を備えていることを特徴とする請求項1記載の有害有機物質含有排ガスの処理装置。
【請求項5】
前記ガス分離除去機構は、前記洗浄液中に吸収溶存しているガスを真空引きして除去する真空吸引機構または洗浄液からガスを膜分離する膜分離機構であることを特徴とする請求項4記載の有害有機物質含有排ガスの処理装置。
【請求項6】
前記有害有機物質の吸収溶解に用いた洗浄液中に含まれる有害有機物質を放射線分解する時もしくは分解する前に、洗浄液中に溶解している空気を、不活性ガスで置換するガス置換機構を有していることを特徴とする請求項1記載の有害有機物質含有排ガスの処理装置。
【請求項7】
前記不活性ガスが、窒素およびアルゴンの少なくとも一方であることを特徴とする請求項6記載の有害有機物質含有排ガスの処理装置。
【請求項8】
前記排ガス中の有害有機物濃度を検出するオンラインモニタが排ガスの煙道に設けられていることを特徴とする請求項1記載の有害有機物質含有排ガスの処理装置。
【請求項9】
前記有害有機物質の吸収溶解に用いる洗浄液が、炭素数10以上の炭化水素系溶剤および流動パラフィン系油の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1記載の有害有機物質含有排ガスの処理装置。
【請求項10】
前記有害有機物質の吸収溶解に用いる洗浄液が流動パラフィン系油である場合に、洗浄液に含有されている多環芳香族炭化水素(PAH)化合物の濃度の合計が5質量%以下であることを特徴とする請求項9記載の有害有機物質含有排ガスの処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−272571(P2008−272571A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355228(P2006−355228)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】