説明

有害生物防除のためのくん蒸剤及び防除方法

【課題】有害生物防除のためのくん蒸剤及び防除方法を提供すること。
【解決手段】メチルイソチオシアネートを液化高圧ガスに溶解して成る農園芸用有害生物防除くん蒸剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農園芸分野における有害生物防除のためのくん蒸剤及びくん蒸方法に関する。更に詳しくは、有効成分としてメチルイソチオシアネートを用い、それを液化高圧ガスに溶解して成る有害生物防除くん蒸剤及びくん蒸方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メチルイソチオシアネートを土壌くん蒸剤として用いることは、すでに知られている(非特許文献1)。
【0003】
また、メチルイソチオシアネートを液化高圧ガスに溶解して成る木材害虫殺虫用くん蒸剤が知られている(特許文献1)。
【非特許文献1】農薬ハンドブック、2005年版、日本植物防疫協会発行、p.199−200
【特許文献1】特開平10−152408号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、下記に示す、くん蒸剤が農園芸における有害生物防除に優れた効果を現わすことを見い出し、本発明を完成した。
【0005】
本発明によれば、驚くべきことに、上記該くん蒸剤を作物栽培における被覆マルチシート内に使用することにより、従来のメチルイソチオシアネートの土壌くん蒸剤に比べて、より一層有効な防除効果を現わすことが判明した。この本発明による効果は、有害生物として雑草及び病害虫に作用するものである。
【0006】
そして、本発明のくん蒸剤は、農作物の播種または定植前のマルチシート内に噴射し、有効成分のメチルイソチオシアネートをマルチシート内に均一に充満させることにより、マルチシート内に発生する雑草、病害虫を防除することができる。
【0007】
本発明は、液化高圧ガスに溶解しているメチルイソチオシアネートを該液化高圧ガスの圧力を利用して、農作物の播種または定植前のマルチシート内に噴射することから成る有害生物防除方法を提供するものでもある。
【0008】
以下、本発明の農園芸用有害生物防除くん蒸剤及び有害生物防除方法についてさらに詳細に説明する。
【発明の効果】
【0009】
後記試験例から明らかな通り、本発明のメチルイソチオシアネートを液化高圧ガスに溶解して成るくん蒸剤は、雑草及び病害虫などの農園芸における有害生物防除に優れた効果を現わす。
【0010】
また、上記該くん蒸剤を作物栽培における被覆マルチシート内に使用することにより、従来の土壌くん蒸剤に比べて、より一層有効な防除効果を現わすことが判明した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で用いられる液化高圧ガスとしては、炭酸ガス、プロパン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、臭化メチル、フッ化スルフリルを挙げることができる。そして実際の使用に際しては、上記例示の液化高圧ガスより選ばれる少なくとも1種を挙げることができ、好ましくは、炭酸ガスを挙げることができる。また、同じく好ましい液化高圧ガスの組み合わせは、炭酸ガスを必須として、それに炭酸ガス以外の上記例示の液化高圧ガスより選ばれる少なくとも1種を加えた混合ガスを挙げることができる。
【0012】
また、本願発明の該くん蒸剤を被覆マルチシート内に使用する場合、吸気パイプを使用することが、より好ましい態様である。
【0013】
吸気パイプの具体例としては、塩化ビニルタイプ、鉄パイプ、アルミパイプ等を挙げることができ、好例としては塩化ビニルパイブを挙げることができる。
【0014】
吸気パイプの長さは、25cm〜250cm、好ましくは50cm〜150cmであり、その径は、10cm〜50cm、好ましくは、20cm〜40cmである。
また、吸気パイプは円筒型に限定される必要はなく、半円柱型でもよい。
【0015】
本発明における有効成分であるメチルイソチオシアネートと液化高圧ガスの混合割合は、メチルイソチオシアネート1重量部に対し、液化高圧ガスを1〜5重量部、好ましくは1〜4重量部である。
【0016】
本発明のくん蒸剤は、高圧ボンベに充填して用いることができる。
【0017】
本発明の農園芸用有害生物防除くん蒸剤の好ましい使用場面は、農園芸作物のマルチシート内での栽培における雑草、病害虫の防除である。そして、本発明の対象作物の主な例として下記のものを例示することができるが、これらに限定されるべきものではない。
【0018】
【表1】

【0019】
また、本発明の防除対象の病害及び対象有害生物の主な例として下記の病害虫及び雑草などを例示することができるが、これらに限定されるべきものではない。
【0020】
【表2】

【0021】
本発明のくん蒸剤をマルチシート内に施用する場合、施用量は、有害生物の種類、発生状況等、又は予防条件等により変えることができるが、一般には有効成分量として、約60kg/ha〜約200kg/ha、好ましくは約80kg/ha〜約150kg/haの範囲とすることができる。
【0022】
本発明のくん蒸剤の優れた効果を以下の実施例により更に具体的に説明する。しかし、本発明はこれのみに限定されるべきものではない。
【実施例】
【0023】
供試薬剤
発明 I:メチルイソチオシアネート20%含有(重量%)の液化炭酸ガス製剤
II:メチルイソチオシアネート30%含有(重量%)の液化炭酸ガス製剤
比較C−1:メチルブロマイド98.5%含有くん蒸剤
C−2:ホスチアゼート1.5%含有粒剤
C−3:シアゾファミド9.4%水和剤
【0024】
試験例1 除草効果試験
方法
1区36m(2m×18m)とし、一年生雑草のスベリヒユとメヒシバの種子を含む土壌(火山灰埴土)からなる各試験区をビニルマルチで覆い、その2日後、高圧ボンベに充填した発明薬剤を試験区の端からビニルマルチ内へ噴射処理した。また、比較薬剤C−1を比較試験区の中央に設置し、くん蒸処理した。
処理7日後にビニルマルチを撤去した。
処理後約10日間隔で薬効を下記の基準で評価した。
薬効: 0=効果なし
4<実用性あり
5 完全枯死(実用性に優れている)
結果を第1表及び第2表に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
【表4】

【0027】
試験例2 フザリウム菌罹病に対する防除効果試験
方法
前培養として、PDA培地を用いてフザリウム菌を平板培養した。70%エタノールに浸漬した後滅菌水で洗浄したニンジン片(約1cm)約10個を培地上の菌叢へ置床し28℃で5日間培養した。7月11日、培地から罹病したニンジン片を剥がし、10個を網袋に入れ、これを耕起後ビニル被覆前の圃場へ深度別(5cm又は15cm)に埋設した。
【0028】
試験区内へタンポール(グラスファイバー製トンネル用支柱)を約2mおきにアーチ状に設置後、ビニルマルチでトンネル状に被覆した。2日後、発明製剤を試験区端からマルチ内へ処理した。比較製剤は、試験区中央マルチ内に製品を置いて処理した。マルチの撤去は処理7日後に行った。
【0029】
マルチ撤去直後、罹病ニンジン片入り網袋を掘り出し、選択培地を分注したシャーレへニンジン片5ヶずつをピンセットで置き、室温、散光条件下で8日間培養した。
【0030】
フザリウム菌に対する殺菌効果は、選択培地(下記参照)上に置床したニンジン片の周囲の培地上におけるフザリウム菌の菌叢(各接種地点あたり10サンプル)の直径を計測した。各接種地点ごとに菌叢直径の平均値を算出し、各接種地点と、その深度に対応する無処理区の菌叢直径平均値との比較で防除価を求めた。
【0031】
*選択培地の作成法:
リン酸一カリウム1g、塩化カリウム0.5g、硫酸マグネシウム・7水和物0.5g、硫酸ナトリウム2g、ホウ酸0.5g、少量のDMSOに溶解した硝酸エコナゾール5mg、微量要素液0.2ml、クロラムフェニコール0.25g、寒天20gを蒸留水1Lに溶解又は懸濁しオートクレーブで滅菌後L−ソルボース20g、25%イミノクタジン三酢酸塩溶液0.05ml、トリクロフォスメチル水和剤1mgを加えた。(微量要素液:蒸留水95mlにクエン酸5g、硫酸第一鉄5g、硫酸亜鉛・7水和物1g、硫酸マンガン・5水和物0.05g、モリブデン酸ナトリウム0.05gを加えオートクレーブで滅菌後冷所保存)。オートクレーブ後直径9cmの滅菌シャーレに流し込み平板培地として用いた。
【0032】
試験結果を第3表に示す。
【表5】

【0033】
試験例3 キュウリネコブセンチュウに対する防除効果試験
方法
マルチシートで被覆したネコブセンチュウ汚染圃場に供試薬剤を処理し、その3日後キュウリを定植した。定植2ヶ月半後に被害度を次の基準により類別評価し、根瘤指数を求め、防除効果を求めた。
【0034】
【数1】

尚、評価は下式に従い防除効果で評価した。
【0035】
【数2】

結果を第4表に示す。
【0036】
【表6】

【0037】
試験例4 ハクサイ根こぶ病に対する防除効果試験
方法
マルチシートで被覆した根こぶ病汚染圃場に発明製剤を処理し、その11日後ハクサイを定植する。
比較としては、C−3の希釈剤(500倍希釈)をハクサイ苗のセルトレイに潅注し、定植した。
【0038】
定植おおよそ2ヶ月後に掘りおこし、下記の基準により発病状態を評価し、発病指数並びに発病度を求めた。
【0039】
【数3】

結果を第5表に示す。
【0040】
【表7】

【0041】
試験例5 吸気パイプを用いた除草効果試験
方法
1区(1m×23m)とし、エンバクとイタリアンライグラスを半量づつ混合し、土壌に混和した。各試験区をビニルマルチで覆い、その2日後、高圧ボンベに充填した発明IIの製剤を、吸気パイプ(径20cm、長さ35cm)を用いた場合と用いない場合で試験区の端から噴射処理した。
尚、吸気パイプを用いない場合には、グラスファイバーを用いて、ビニルマルチを持ち上げた。
【0042】
処理50日後に、噴射点からの距離1m毎の殺草率を調査した。
結果を第6表に示す。
【0043】
【表8】

【0044】
試験例6 吸気パイプの径と長さの違いによるガス膨満試験
方法
1区(2.5m×5m)とし、ビニルマルチで各区を覆い、径と長さの異なる塩化ビニルパイプを用意し、試験区の端から液化炭素ガスを噴射しビニルマルチが完全に膨らむまでの時間を測定した。
径(cm) 長さ(cm)
パイプ A: 10 20
パイプ B: 10 50
パイプ C: 10 100
パイプ D: 20 20
パイプ E: 20 50
パイプ F: 20 100
パイプ G: 20 210
使用ノズル:Vee Jetスプレーノズル
[スプレータイプ:フルコーン、オリフィス径:0.8mm、
スプレー角度:58゜(0.15Mpa時)、
流量サイズ:1、流量(l/分):0.6(0.2Mpa時)、
1.3(1.0Mpa時)]
結果を第7表に示す。
【0045】
【表9】

【0046】
試験例7 処理の違いによる除草効果試験
方法
1区(4m×50m)のオオイヌタデを主にした試験区を設け、ビニルマルチで覆い、試験例5と同様に発明IIの製剤を下記第8表の処理法にしたがって、各試験区のビニルマルチ内に噴射処理した。処理量は、有効成分量として8kg/10aである。
【0047】
処理7日後にビニルマルチを除去し、処理40日後に、殺草率100%を示す噴射点からの距離を測定した。
【0048】
【表10】

【0049】
結果を第9表に示す。
【0050】
【表11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルイソチオシアネートを液化高圧ガスに溶解して成る農園芸用有害生物防除くん蒸剤。
【請求項2】
液化高圧ガスが、炭酸ガス、プロパン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、臭化メチル及びフッ化スルフリルからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のくん蒸剤。
【請求項3】
液化高圧ガスが、炭酸ガスである請求項1に記載のくん蒸剤。
【請求項4】
液化高圧ガスが、炭酸ガスとプロパン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、臭化メチル及びフッ化スルフリルからなる群より選ばれる少なくとも1種との混合ガスである請求項1に記載のくん蒸剤。
【請求項5】
メチルイソチオシアネートと液化高圧ガスの混合割合(重量比)が1:1乃至1:5である請求項1に記載のくん蒸剤。
【請求項6】
液化高圧ガスに溶解しているメチルイソチオシアネートを該液化高圧ガスの圧力を利用して、農作物の播種または定植前のマルチシート内に噴射することから成る有害生物防除方法。
【請求項7】
吸気パイプを用いてマルチシート内に噴射することから成る請求項6に記載の有害生物防除方法。

【公開番号】特開2008−174548(P2008−174548A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317953(P2007−317953)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000232564)バイエルクロップサイエンス株式会社 (23)
【Fターム(参考)】