説明

有形成分分析装置及び方法

【課題】 炎症や疾患などの有無の推定を容易にする装置を提供する
【解決手段】 本発明は、生体試料中の有形成分に光を照射するための光源と、前記光を照射された前記有形成分によって散乱する散乱光を検出する検出部と、前記検出部によって検出された散乱光に基づき、前記生体試料中の上皮細胞のうち、所定の上皮細胞を計数する分析部とを有する有形成分分析装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中の有形成分を分析する装置及び方法に関する。特に本発明は、尿試料中の有形成分を分析する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
尿試料には血球、細菌、円柱、上皮細胞などの有形成分が含まれる。尿試料に含まれる上皮細胞には扁平上皮細胞、移行上皮細胞、及び尿細管上皮細胞がある。尿試料中の扁平上皮細胞は外尿道口付近の粘膜に由来する。尿試料中の移行上皮細胞は腎杯、腎盂から尿管、膀胱、内尿道口迄の粘膜に由来する。尿試料中の尿細管上皮細胞は近位尿細管からヘンレの係蹄、遠位尿細管、集合管、及び腎乳頭までの内腔を覆う上皮に由来する。扁平上皮細胞は、扁平上皮細胞によって構成される上皮の表層部に由来する表層型扁平上皮細胞、前記上皮の中層部に由来する中層型扁平上皮細胞、及び前記上皮の深層部に由来する深層型扁平上皮細胞に細分できる。移行上皮細胞は、移行上皮細胞によって構成される上皮の表層部に由来する表層型移行上皮細胞、前記上皮の中層部に由来する中層型移行上皮細胞、及び前記上皮の深層部に由来する深層型移行上皮細胞に細分できる。尿細管上皮細胞は、尿細管上皮細胞によって構成される上皮の表層部に由来する表層型尿細管上皮細胞、前記上皮の中層部に由来する中層型尿細管上皮細胞、及び前記上皮の深層部に由来する深層型尿細管上皮細胞に細分できる。
【0003】
一般的に表層型扁平上皮細胞以外の上皮細胞は健常人の尿試料中には殆ど見られず、腎杯・腎盂から内尿道口迄の炎症や腎疾患などの場合尿試料中に多数出現する。一方表層型扁平上皮細胞は炎症や疾患などの場合だけでなく健常人の尿試料中にも多く見られる。その為、上皮細胞を分析して炎症や疾患などの有無を推定するには、上皮細胞全体を計数するだけでは不十分であり、上皮細胞全体のうち炎症や疾患などの有無の推定に有用な上皮細胞を計数する必要がある。
従来から、尿試料中の有形成分(血球、上皮細胞、円柱、細菌等)を分析する方法として、検査技師が顕微鏡によって有形成分を目視して分析する目視分析方法がある。また、従来から、尿試料中の有形成分を分析する装置として、フローセル中の有形成分にレーザ光を照射して得られる光学的情報に基づいて有形成分を自動的に分析する装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−322883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の目視分析方法においては、前処理として、尿試料を遠心分離し、上澄み液を除去して、上澄み液を除去した尿試料の沈渣物のスライド標本を作製する。前記前処理によって作成したスライド標本中の有形成分を検査技師が観察・計数する。この方法では、尿試料中の上皮細胞のうち例えば尿細管上皮細胞などを含む所定の上皮細胞を計数できる。しかし、前記前処理及び顕微鏡下での有形成分の観察・計数には多くの時間と労力が必要で、検査技師の大きな負担になっている。さらに、検査技師によって有形成分の分析に個人差があるなどの問題点もある。
【0005】
また前記特許文献1に記載された装置においては、尿試料中の上皮細胞全体をまとめて計数することは可能である。しかし前記特許文献1には、上皮細胞全体のうち炎症や疾患の有無の推定に有用な所定の上皮細胞を計数することについては記載されていない。
【0006】
本発明の目的は、尿などの生体試料中の炎症や疾患などの有無の推定に有用な上皮細胞を分析することが可能な有形成分分析装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
本発明の第一の局面による有形成分分析装置は、尿試料中の有形成分に光を照射するための光源と、前記光を照射された前記有形成分によって散乱する散乱光を検出する検出部と、前記検出部によって検出された散乱光に基づき、前記尿試料中の上皮細胞のうち、所定の上皮細胞を計数する分析部と、を有する有形成分分析装置を提供する。
本発明の第一の局面による有形成分分析装置によれば、上皮細胞のうち例えば尿細管上皮細胞などを含む所定の上皮細胞が計数されるので、炎症や疾患などの有無の推定に有用な装置が提供される。
【0008】
本発明の第二の局面による有形成分分析装置は、尿試料中の有形成分に光を照射するための光源と、前記光を照射された前記有形成分によって散乱する散乱光を検出する検出部と、前記尿試料中の全上皮細胞を計数し、前記検出部によって検出された前記散乱光に基づいて前記尿試料中の表層型扁平上皮細胞を計数し、前記全上皮細胞の数に占める前記表層型扁平上皮細胞の数の割合を算出する分析部と、を有する有形成分分析装置を提供する。
本発明の第二の局面による有形成分分析装置によれば、上皮細胞のうち表層型扁平上皮細胞が計数され、全上皮細胞の数に占める表層型扁平上皮細胞の数の割合が算出されるので、炎症や疾患などの有無の推定に有用な装置が提供される。
【0009】
本発明の第三の局面による有形成分分析方法は、尿試料中の有形成分に光を照射する工程と、前記光を照射された前記有形成分から散乱する散乱光を検出する検出工程と、前記検出工程で検出された前記散乱光に基づき、前記尿試料中の上皮細胞のうち、所定の上皮細胞を計数する分析工程と、を有する有形成分分析方法を提供する。
本発明の第三の局面による有形成分分析方法によれば、上皮細胞のうち例えば尿細管上皮細胞などを含む所定の上皮細胞が計数されるので、炎症や疾患などの有無の推定に有用な方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態による有形成分分析装置1の全体構成を示す斜視図である。有形成分分析装置1は、血球、細菌、円柱、上皮細胞などの有形成分を含む尿試料を測定対象とする。有形成分分析装置1の測定対象となる尿試料は、排泄された尿の他に、原尿、尿管中の尿、膀胱内の尿、及び尿道中の尿など、生体内から採取した尿を含む。
有形成分分析装置1は、測定対象である尿試料に希釈・染色処理を行って測定用試料を作成し、レーザ光を測定用試料中の有形成分に照射し、レーザ光を照射された有形成分によって散乱する散乱光などの光学的情報を検出し解析することによって、測定用試料に含まれる有形成分を分析し、計数する装置である。
本実施形態の有形成分分析装置1は、装置本体10と、装置本体10にチューブを介して接続され、装置本体10に陽圧及び陰圧を供給する空圧源2とを有する。装置本体10は情報の入力や分析結果の表示などを行うタッチパネル式液晶ディスプレイ11と、測定を開始するスイッチであるスタートスイッチ14とを備えている。
【0012】
図2は装置本体10の機能的な構成を示すブロック図である。装置本体10は、タッチパネル式液晶ディスプレイ11,試料吸引ピペット12、サンプルシリンジユニット13、サンプリングバルブ15、試料調製部3,光源4、検出部5、分析部6、及びシース液容器59を有する。
試料容器に収容された尿試料は試料吸引ピペット12からサンプルシリンジユニット13によって吸引され、サンプリングバルブ15に収容される。サンプリングバルブ15に収容された尿試料は、定量され、サンプルシリンジユニット13によって試料調製部3の反応容器34に吐出される。
【0013】
試料調製部3は、尿試料を希釈する為の希釈液を収容する希釈液容器30と,希釈液容器30の希釈液を定量して反応容器34に供給する定量シリンジユニット31と、尿試料を染色するための染色液を収容する染色液容器32と,染色液容器32の染色液を定量して反応容器34に供給する定量シリンジユニット33と、反応容器34とを有する。反応容器34では、試料吸引ピペット12を介して供給される尿試料と、希釈液容器30から供給される希釈液と、染色液容器32から供給される染色液とが混合され測定用試料が作成される。作成された測定用試料はシースフローセル50に送られる。
【0014】
光源4は、シースフローセル50中を流れる測定用試料中の有形成分にレーザ光を照射する赤色半導体レーザである。
シース液容器59はシースフローセル50に供給するシース液を収容する容器である。
検出部5は、反応容器34から送られる測定用試料及びシース液容器59から供給されるシース液を流すシースフローセル50と、測定用試料中の有形成分に光源4からレーザ光が照射されることによって側方に散乱するレーザ光(側方散乱光)を検出するフォトマルチプライヤ51aと、測定用試料中の有形成分に光源4からレーザ光が照射されることによって生じる蛍光を検出するフォトマルチプライヤ51bと、測定用試料中の有形成分に光源4からレーザ光が照射されることによって前方に散乱するレーザ光(前方散乱光)を検出するフォトダイオード52とを有する。
フォトマルチプライヤ51aは側方散乱光を検出して側方散乱光信号を、フォトマルチプライヤ51bは蛍光を検出して蛍光信号を、フォトダイオード52は前方散乱光を検出して前方散乱光信号を分析部6に出力する。前方散乱光信号、蛍光信号、及び側方散乱光信号は電気信号である。なお、側方散乱光を検出するためのフォトマルチプライヤ51aの代わりにフォトダイオードを用いてもよく、前方散乱光を検出するためのフォトダイオード52の代わりに、フォトマルチプライヤを用いてもよい。また、蛍光を検出するためのフォトマルチプライヤ51bの代わりにフォトダイオードを用いてもよいが、検出される蛍光は微弱なので、検出感度の高いフォトマルチプライヤが好ましい。
【0015】
分析部6は解析ユニット60とマイクロコンピュータ61とを有する。解析ユニット60は、検出部5から送られた側方散乱光信号、蛍光信号、及び前方散乱光信号を解析する演算回路を備えている。解析ユニット60は、検出部5から送られた側方散乱光信号、蛍光信号、及び前方散乱光信号のノイズ信号を除去し、各信号の波形を解析し、解析結果をマイクロコンピュータ61に出力する。マイクロコンピュータ61は、解析ユニット60から出力された解析結果に基づき、スキャッタグラムを作成し、測定用試料中の有形成分を分析、計数する。マイクロコンピュータ61によって作成されたスキャッタグラムや計数した値などは分析結果として装置本体10のタッチパネル式液晶ディスプレイ11に表示される。
【0016】
ここで、図3を用い、検出部5の構成について説明する。
図3は装置本体10の光源4,検出部5、シース液容器59、及び分析部6の構成を示す斜視図である。
光源4は、波長635nmのレーザ光を照射する赤色半導体レーザであり、光源4から発せられたレーザ光は照射レンズ系41によって絞られて、シースフローセル50を流れる測定用試料中の有形成分に照射される。本実施形態において用いられている赤色半導体レーザは、アルゴンイオンレーザに比べ、小型かつ安価で、発振寿命が長いという利点を有する。
【0017】
シースフローセル50は、シース液容器59から供給されるシース液と、試料調製部3で調製された測定用試料を流すためのものである。シース液は、シースフローセル50に測定用試料を流す際、測定用試料の流れを囲んで包むように流れる液体である。シース液容器59から供給されるシース液はシース液導入ノズル53を介してシースフローセル50に導入される。試料調製部3から送られた測定用試料は、シースフローセル50内のシース液流の中心に、サンプルノズル54から吐出される。これにより測定用試料は、シースフローセル50内でシース液に包まれ、細く絞られた状態で流れる。フォトマルチプライヤ51aは、測定用試料中の有形成分に光源4からレーザ光を照射することによって側方に散乱するレーザ光を検出して側方散乱光信号を分析部6に出力し、フォトマルチプライヤ51bは、測定用試料中の有形成分に光源4からレーザ光を照射することによって生じる蛍光を検出して蛍光信号を分析部6に出力し、フォトダイオード52は、測定用試料中の有形成分に光源4からレーザ光を照射することによって前方に散乱するレーザ光を検出して前方散乱光信号を分析部6に出力する。シースフローセル50とフォトマルチプライヤ51aとの間の光軸上には、集光レンズ55aとダイクロイックミラ56とが配置されている。ダイクロイックミラ56とフォトマルチプライヤ51bとの間の光軸上には光学フィルタ57とピンホール58aとが配置されている。シースフローセル50と、フォトダイオード52との間の光軸上には、集光レンズ55bとピンホール58bとが配置されている。分析部6は、検出部5から出力された側方散乱光信号から側方散乱光強度及び側方散乱光パルス幅を算出し、検出部5から出力された蛍光信号から蛍光強度及び蛍光パルス幅を算出し、検出部5から出力された前方散乱光信号から前方散乱光強度及び前方散乱光パルス幅を算出し、スキャッタグラムを作成して測定用試料中の有形成分を分析する。
【0018】
ここで、図4に基づき、側方散乱光強度、蛍光強度、前方散乱光強度、蛍光パルス幅、及び前方散乱光パルス幅について説明する。
図4は、検出部5で検出された光の強度を縦軸とし検出時間を横軸とする図中にそれぞれ前方散乱光信号の波形と蛍光信号の波形と側方散乱光信号の波形とを示した模式図である。図4(a)には前方散乱光信号の波形65が示されている。この波形65は、一つの有形成分がシースフローセル50内でレーザ光を照射されることによって前方に散乱するレーザ光の強度及び検出時間に基づく。図4(b)には蛍光信号の波形66が示されている。この波形66は、一つの有形成分がシースフローセル50内でレーザ光を照射されることによって生じる蛍光の強度及び検出時間に基づく。図4(c)には側方散乱光信号の波形67が示されている。この波形67は、一つの有形成分がシースフローセル50内でレーザ光を照射されることによって側方に散乱するレーザ光の強度及び検出時間に基づく。図4(a)において、前方散乱光信号の波形65の高さを前方散乱光強度とし波形65の幅を前方散乱光パルス幅とする。図4(b)において蛍光信号の波形66の高さを蛍光強度とし波形66の幅を蛍光パルス幅とする。図4(c)において側方散乱光信号の波形67の高さを側方散乱光強度とし波形67の幅を側方散乱光パルス幅とする。
【0019】
以下、図5に基づき、装置本体1の動作を説明する。
図5は、装置本体10の動作を説明するフローチャートである。
ステップS1では、マイクロコンピュータ61はスタートスイッチ14が押されたか否かを判断する。マイクロコンピュータ61はスタートスイッチ14が押されたと判断するとステップS2の処理を実行する。
【0020】
ステップS2(測定用試料調製)においては、尿試料と染色液と希釈液とから測定用試料を作成する。サンプルシリンジユニット13によって尿試料が反応容器34に所定量供給され、定量シリンジユニット31によって希釈液容器30から希釈液が反応容器34に所定量供給され、定量シリンジユニット33によって染色液容器32から染色液が反応容器34に所定量供給されて、測定用試料が作成される。反応容器34で希釈液によって染色液は40倍に希釈され、尿試料は4倍に希釈されて測定用試料が作成される。本実施形態では測定用試料720μLは、尿試料180μLと、希釈液522μLと、染色液18μLとを混合して作成されたものである。
【0021】
ステップS3(光学的情報検出)においては、光源4は測定用試料中の有形成分にレーザ光を照射し、検出部5は光学的情報として側方散乱光、蛍光、及び前方散乱光を検出する。側方散乱光はフォトマルチプライヤ51aによって検出され側方散乱光信号が分析部6に出力される。蛍光はフォトマルチプライヤ51bによって検出され蛍光信号が分析部6に出力される。前方散乱光はフォトダイオード52よって検出され前方散乱光信号が分析部6に出力される。
【0022】
ステップS4(解析)において、分析部6の解析ユニット60が検出部5より送られた側方散乱光信号、蛍光信号、及び前方散乱光信号を波形解析し、解析結果をマイクロコンピュータ61に送る。マイクロコンピュータ61は解析ユニット60による解析結果に基づいてスキャッタグラムを作成して分析結果を算出し、タッチパネル式液晶ディスプレイ11に送信する分析結果画面を作成する。
ステップS4のより詳細な説明は図6を用いて後述する。
【0023】
ステップS5(表示)においては、マイクロコンピュータ61によって作成された分析結果画面はタッチパネル式液晶ディスプレイ11に送信され、分析結果画面はタッチパネル式液晶ディスプレイ11に表示される。
【0024】
ここで、図6を用いてステップS4の詳細を説明する。
図6はステップS4の詳細を示すフローチャートである。
ステップS41において、解析ユニット60は検出部5から送られた側方散乱光信号、蛍光信号、及び前方散乱光信号を取得する。
【0025】
ステップS42において、解析ユニット60は、検出部5から送られた側方散乱光信号、蛍光信号、及び前方散乱光信号からノイズ信号を除去する。
【0026】
ステップS43において、解析ユニット60は、ノイズ信号が除去された側方散乱光信号、蛍光信号、及び前方散乱光信号の波形に基づき、測定用試料中のそれぞれの有形成分について側方散乱光強度、蛍光強度、前方散乱光強度、蛍光パルス幅、及び前方散乱光パルス幅を算出し、解析結果をマイクロコンピュータ61に送る。
【0027】
ステップS44において、マイクロコンピュータ61は、解析ユニット60から送られた側方散乱光強度、蛍光強度、前方散乱光強度、側方散乱光パルス幅、蛍光パルス幅、及び前方散乱光パルス幅を取得する。マイクロコンピュータ61は前方散乱光強度及び蛍光強度を軸とする座標平面を作成し、測定用試料中のそれぞれの有形成分を前方散乱光強度及び蛍光強度に対応する座標にプロットし、前方散乱光強度及び蛍光強度を軸とするスキャッタグラムを作成する。マイクロコンピュータ61は作成されたスキャッタグラム中に赤血球の出現する領域RBCと、白血球の出現する領域WBCと、細菌の出現する領域BACTと、上皮細胞の出現する領域EC1とを測定用試料に応じて作成する。図7はスキャッタグラム中に領域RBCと領域WBCと領域BACTと領域EC1とを示した模式図である。
さらに、マイクロコンピュータ61は蛍光パルス幅及び前方散乱光パルス幅を軸とする座標平面を作成し、測定用試料中のそれぞれの有形成分を蛍光パルス幅及び前方散乱光パルス幅に対応する座標にプロットし、蛍光パルス幅及び前方散乱光パルス幅を軸とするスキャッタグラムを作成する。マイクロコンピュータ61は作成されたスキャッタグラム中に円柱の出現する領域CASTと上皮細胞の出現する領域EC2とを測定用試料に応じて作成する。図8はスキャッタグラム中に領域CAST及び領域EC2を示した模式図である。図8のスキャッタグラムにおいて蛍光パルス幅及び前方散乱光パルス幅が共に小さく座標平面の原点付近に現れる有形成分は、測定用試料中の小型の有形成分(血球、細菌など)である。
【0028】
ステップS45において、マイクロコンピュータ61は、図7の領域RBCに出現する赤血球数と、領域WBCに出現する白血球数と、領域BACTに出現する細菌数と、図8の領域CASTに出現する円柱数と、領域EC2に出現する上皮細胞数とを計数する。図8の領域EC2に出現する全上皮細胞数は検出に用いられる所定量の測定用試料に含まれる全上皮細胞の数ECN(扁平上皮細胞、移行上皮細胞、及び尿細管上皮細胞の総数)となる。
【0029】
ステップS46において、マイクロコンピュータ61は、前方散乱光強度及び側方散乱光強度を軸とする座標平面を作成する。図8の領域EC2に出現する各々の上皮細胞を前方散乱光強度及び側方散乱光強度に基づいてこの座標平面にプロットし、スキャッタグラムを作成する。
マイクロコンピュータ61は、作成したスキャッタグラム中に、所定の上皮細胞が出現する領域(第一領域及び第二領域)を配置する。図9は作成されたスキャッタグラム中に第一領域68及び第二領域69を設定した図である。
第一領域68及び第二領域69は様々な測定用試料の分析を行い予め設定された固定領域であり、マイクロコンピュータ61に記憶されている。
第一領域68は主に、表層型尿細管上皮細胞、表層型移行上皮細胞、中層型上皮細胞(中層型上皮細胞は、中層型尿細管上皮細胞、中層型移行上皮細胞、及び中層型扁平上皮細胞を含む)、及び深層型上皮細胞(深層型上皮細胞は、深層型尿細管上皮細胞、深層型移行上皮細胞、及び深層型扁平上皮細胞を含む)が出現する領域である。第二領域69には主に表層型扁平上皮細胞が出現する領域である。以下、第一領域68に出現する上皮細胞を第一領域上皮細胞とし、第二領域69に出現する上皮細胞を第二領域上皮細胞とする。
【0030】
ステップS47において、第一領域上皮細胞の数を計数する。本ステップで計数する上皮細胞は尿試料中の第一領域上皮細胞の総数DECN1となる。
【0031】
ステップS48において、以下の式1に示すように、全上皮細胞数ECNと、第一領域上皮細胞の総数DECN1とから、測定用試料中の全上皮細胞に対する第一領域上皮細胞の割合REC1を求める。
<式1>
REC1=DECN1/ECN
【0032】
ステップS49において、ステップS44で作成した前方散乱光強度及び蛍光強度を軸とするスキャッタグラムと蛍光パルス幅及び前方散乱光パルス幅を軸とするスキャッタグラムと、ステップS45で計数した赤血球、白血球、細菌及び円柱の計数値と全上皮細胞の計数値ECNと、ステップS46で作成した前方散乱光強度及び側方散乱光強度を軸とするスキャッタグラムと、第一領域上皮細胞の総数DECN1と、割合REC1とを含む分析結果画面を作成する。
【0033】
ステップS50において、ステップS48で求められた割合REC1が所定の値以上であるか否か判断する。割合REC1が所定の値以上の場合、ステップS51へ進む。
【0034】
ステップS51において、割合REC1が所定の値以上であった旨を示すフラグ(炎症や疾患の可能性が高いことを示すメッセージ)をステップS49において作成した分析結果画面に追加する。
【0035】
第一領域68内に出現する第一領域上皮細胞は、炎症や疾患などの場合尿試料中に多数出現するが、健常人の尿試料中には殆ど見られない細胞である。一方、第二領域69内に出現する第二領域上皮細胞は健常人の尿試料中にも多数見られる細胞である。よって測定用試料中の全上皮細胞を計数するのみでは炎症や疾患などの有無の推定をするには不十分であり、第一領域上皮細胞の総数DECN1及び/又は全上皮細胞のうちの第一領域上皮細胞の割合REC1を求めることが炎症や疾患などの有無の推定に有用である。
【0036】
本実施形態では、図8に示したように蛍光パルス幅及び前方散乱光パルス幅を軸とする座標平面を作成し、測定用試料中のそれぞれの有形成分を蛍光パルス幅及び前方散乱光パルス幅に対応する座標にプロットして、蛍光パルス幅及び前方散乱光パルス幅を軸とするスキャッタグラムを作成する。このスキャッタグラムに上皮細胞が出現する領域EC2を設定して上皮細胞を分類し、領域EC2内の上皮細胞を計数する。そして前方散乱光強度及び側方散乱光強度を軸とする座標平面を作成し、領域EC2内の上皮細胞を前方散乱光強度及び側方散乱光強度に対応する座標にプロットして、前方散乱光強度及び側方散乱光強度を軸とするスキャッタグラム(図9)を作成する。このスキャッタグラムに、予めマイクロコンピュータ61に記憶してある第一領域上皮細胞が出現する第一領域68を読み出し、配置して上皮細胞を分類し、第一領域68内の第一領域上皮細胞を計数しているので、上皮細胞以外の有形成分から確実に分類することができ、第一領域上皮細胞を精度良く計数できる。
【0037】
図10に尿細管上皮細胞のみを含む測定用試料を分析したスキャッタグラムを示す。図11に表層型扁平上皮細胞のみを含む測定用試料を分析したスキャッタグラムを示す。図10及び図11に示すように、尿細管上皮細胞の殆どは第一領域68内に出現し、表層型扁平上皮細胞の殆どは第二領域69内に出現している。このことから第一領域68及び第二領域69は適切に設定されていることが確認できる。
【0038】
なお、本実施形態では生体試料として尿試料を用いているが、血液、髄液などの生体試料を用いてもよい。
【0039】
なお、本実施形態では光源4として赤色半導体レーザを用いているが、アルゴンイオンレーザやヘリウムネオンレーザなどのガスレーザ、青色半導体レーザ、緑色半導体レーザなどを用いてもよい。
【0040】
なお、本実施形態ではステップS44においては、領域RBC,WBC,BACT,CAST,EC1,EC2は測定用試料に応じて作成されるが、予め決定された固定領域を作成し、マイクロコンピュータ61に記憶しておいてもよい。
また、本実施形態ではステップS46において作成する第一領域68及び第二領域69は予めマイクロコンピュータ61に記憶されているが、測定用試料に応じて作成してもよい。この場合、マイクロコンピュータ61は予め第一領域68及び第二領域69に対応する初期領域を記憶しておき、スキャッタグラム上の各上皮細胞がいずれの初期領域に属するかを決定し、それに基づいて初期領域を変形させて第一領域68及び第二領域69を作成しても良い。
【0041】
なお、本実施形態では第一領域上皮細胞を計数する為に前方散乱光強度及び側方散乱光強度を軸とするスキャッタグラムを用いているが、レーザ光を第一領域上皮細胞に照射することによって側方に散乱する光と、レーザ光を第二領域上皮細胞に照射することによって側方に散乱する光とには強度の相違があるので、前方散乱光強度及び側方散乱光強度を軸とするスキャッタグラムに代えて側方散乱光強度と有形成分の出現数とを軸とする頻度分布図を用いてもよい。また、前方散乱光強度及び側方散乱光強度を軸とするスキャッタグラムに代えて側方散乱光強度と蛍光強度と軸とするスキャッタグラムを用いてもよい。
【0042】
なお、本実施形態では、ステップS46において、図9に示されるように分析部6は第一領域68及び第二領域69の両方の領域を設定しているが、ここで設定する領域は第一領域68又は第二領域69のどちらか一方のみでもよい。
【0043】
なお、本実施形態では、ステップS50において、分析部6は割合REC1が所定の値以上であるか否かを判断しているが、分析部6は全上皮細胞数ECNが所定数以上であり且つ割合REC1が所定の値以上であるか否かを判断してもよい。
この場合、分析部6は全上皮細胞数ECNが所定数以上であり且つ割合REC1が所定の値以上であった場合にステップS51に進む。
またこの場合、分析部6は、ステップS51において、全上皮細胞数ECNが所定数以上であり且つ割合REC1が所定の値以上である旨を示すフラグをステップS49において作成した分析結果画面に追加する。
【0044】
なお、本実施形態では、分析部6は、炎症や疾患の有無の推定に有用な上皮細胞として第一領域上皮細胞を計数しているが、第二領域上皮細胞を計数してもよい。
この場合、計数された第二領域上皮細胞の数はDECN2となる。
またこの場合、分析部6がステップS48において求める割合は、以下の式2に示すように全上皮細胞数ECNのうちの第二領域上皮細胞の数DECN2の割合REC2となる。
<式2>
REC2=DECN2/ECN
割合REC2が所定の値以下であれば、尿試料中に存在する全上皮細胞のうちの炎症や疾患の有無の推定に有用な上皮細胞(第一領域上皮細胞)の割合が所定の値以上であることを示し、割合REC2が所定の値よりも高ければ、全上皮細胞のうちの第一領域上皮細胞の割合が所定の値よりも低いことを示す為、割合REC2は炎症や疾患の有無の推定に有用である。
またこの場合、分析部6は、ステップS49において、ステップS44で作成した前方散乱光強度及び蛍光強度を軸とするスキャッタグラムと、蛍光パルス幅及び前方散乱光パルス幅を軸とするスキャッタグラムと、ステップS45で計数した赤血球、白血球、細菌及び円柱の計数値と全上皮細胞の計数値ECNと、ステップS46で作成した前方散乱光強度及び側方散乱光強度を軸とするスキャッタグラムと、第二領域69内の第二領域上皮細胞の計数値DECN2と、割合REC2とを含む分析結果画面を作成する。
またこの場合、分析部6は、ステップS50において、ステップS48で求められた割合REC2が所定の値以下であるか否かを判断する。割合REC2が所定の値以下の場合、ステップS51へ進む。
またこの場合、分析部6は、ステップS51において、割合REC2が所定の値以下であった旨を示すフラグをステップS49において作成した分析結果画面に追加する。
【0045】
なお、本実施形態では、図8の領域EC2に出現する有形成分を全上皮細胞数ECNとしているが、第一領域に出現する有形成分数と第二領域に出現する有形成分数の和を全上皮細胞数ECNとしてもよい。
【0046】
なお、本実施形態における有形成分分析装置1は、測定用試料として、所定の上皮細胞以外の有形成分を予め試薬で溶解、変形するなどして検出できない様にしたものを用いてもよい。これによって、所定の上皮細胞の分類や計数などの分析精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態による有形成分分析装置1の全体構成を示す斜視図である。
【図2】装置本体10の機能的な構成を示すブロック図である。
【図3】装置本体10の光源4,検出部5、シース液容器59、及び分析部6の構成を示す斜視図である。
【図4】前方散乱光信号の波形と蛍光信号の波形と側方散乱光信号の波形とを示した模式図である。
【図5】装置本体10の動作を説明するフローチャートである。
【図6】ステップS4の詳細を示すフローチャートである。
【図7】領域RBCと領域WBCと領域BACTと領域EC1とを示した模式図である。
【図8】領域CAST及び領域EC2を示した模式図である。
【図9】第一領域68及び第二領域69を設定した図である。
【図10】尿細管上皮細胞のみを含む測定用試料を分析した分析結果を示すスキャッタグラムである。
【図11】表層型扁平上皮細胞のみを含む測定用試料を分析した分析結果を示すスキャッタグラムである。
【符号の説明】
【0048】
1 有形成分分析装置
2 空圧源
3 試料調製部
4 光源
5 検出部
6 分析部
10 装置本体
11 タッチパネル式液晶ディスプレイ
12 試料吸引ピペット
13 サンプルシリンジユニット
14 スタートスイッチ
15 サンプリングバルブ
30 希釈液容器
31 定量シリンジユニット
32 染色液容器
33 定量シリンジユニット
34 反応容器
41 照射レンズ系
50 シースフローセル
51a、51b フォトマルチプライヤ
52 フォトダイオード
53 シース液導入ノズル
54 サンプルノズル
55a、55b 集光レンズ
56 ダイクロイックミラ
57 光学フィルタ
58a、58b ピンホール
59 シース液容器
60 解析ユニット
61 マイクロコンピュータ
65 前方散乱光信号の波形
66 蛍光信号の波形
67 側方散乱光信号の波形
68 第一領域
69 第二領域




【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中の有形成分に光を照射するための光源と、
前記光を照射された前記有形成分によって散乱する散乱光を検出する検出部と、
前記検出部によって検出された前記散乱光に基づいて前記生体試料中の上皮細胞のうち所定の上皮細胞を計数する分析部と、
を有する有形成分分析装置。
【請求項2】
前記光源が半導体レーザである、請求項1記載の有形成分分析装置。
【請求項3】
前記散乱光が側方散乱光を含む、請求項1又は請求項2のいずれかに記載の有形成分分析装置。
【請求項4】
前記散乱光が側方散乱光及び前方散乱光を含む、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の有形成分分析装置。
【請求項5】
前記所定の上皮細胞が疾患の有無の推定に有用な上皮細胞である、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の有形成分分析装置。
【請求項6】
前記所定の上皮細胞が尿細管上皮細胞を含む、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の有形成分分析装置。
【請求項7】
前記分析部が、前記生体試料中の全上皮細胞を計数し、さらに前記生体試料中の前記所定の上皮細胞の数を計数し、前記全上皮細胞の数に占める前記所定の上皮細胞の数の割合を算出する請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の有形成分分析装置。
【請求項8】
前記検出部が、染色された前記有形成分に前記光源から前記光を照射することによって生じる蛍光をさらに検出し、前記散乱光として前方散乱光及び側方散乱光を検出し、
前記分析部が、前記前方散乱光及び前記蛍光に基づいて前記有形成分から上皮細胞を分類し、分類された前記上皮細胞のうち前記所定の上皮細胞を前記前方散乱光及び前記側方散乱光に基づいて計数する、請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の有形成分分析装置。
【請求項9】
前記検出部が、前記散乱光として前方散乱光及び側方散乱光を検出し、前記前方散乱光に基づいて前方散乱光信号を前記分析部に出力し、前記側方散乱光に基づいて側方散乱光信号を前記分析部に出力し、
前記分析部が、前記前方散乱光信号から前方散乱光強度を取得し、前記側方散乱光信号から側方散乱光強度を取得し、前記前方散乱光強度及び前記側方散乱光強度を軸とする分布図を作成し、前記分布図に前記所定の上皮細胞が出現する領域を設定し、前記領域内の前記所定の上皮細胞を計数する請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の有形成分分析装置。
【請求項10】
生体試料中の有形成分に光を照射するための光源と、
前記光を照射された前記有形成分によって散乱する散乱光を検出する検出部と、
前記生体試料中の全上皮細胞を計数し、前記検出部によって検出された前記散乱光に基づいて前記生体試料中の表層型扁平上皮細胞を計数し、前記全上皮細胞の数に占める前記表層型扁平上皮細胞の数の割合を算出する分析部と、
を有する有形成分分析装置。
【請求項11】
生体試料中の有形成分に、光を照射する照射工程と、
前記光を照射された前記有形成分から散乱する散乱光を検出する検出工程と、
前記検出工程で検出された前記散乱光に基づいて前記生体試料中の上皮細胞のうち、所定の上皮細胞を計数する分析工程と、
を有する有形成分分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−17555(P2006−17555A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194877(P2004−194877)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】