説明

有機エレクトロルミネセンス素子

本発明は、少なくとも1つのリン光エミッタをドープしたマトリックス材料から成る発光層が、導電性層に直接的に隣接することを特徴とする、リン光有機エレクトロルミネセンスデバイスの改良に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネセンス素子についての新規の設計原理、およびそれらに基づくディスプレイにおけるその使用を記載する。
【0002】
機能性材料としての有機半導体の使用は、最も広い意味で電子産業とされ得る多くの様々なアプリケーションにおいて、かねてから現実のものとなっており、また、近い将来において期待されている。可視スペクトル領域における発光が可能である半導体有機化合物の使用は、例えば、有機エレクトロルミネセンスデバイス(OLED)において、市場への導入が始ったばかりである。パイオニア社製の自動車用ラジオ、パイオニア社およびSNMD社製の携帯電話、およびコダック社製の「有機ディスプレイ」を有するデジタルカメラにより確認されるように、OLEDを含む簡単なデバイスについて、市場への導入が既に始まっている。
【0003】
近年持ち上がった開発は、蛍光に代えてリン光を示す有機金属錯体の使用である(M.A.バルドー(Baldo)等、Appl. Phys. Lett. 1999, 75, 4-6)。量子力学的な理由により、有機金属化合物を用いると、最大で4倍までの量子効率、エネルギー効率およびパワー効率が見込まれる。これらのリン光エミッタの実用的な使用についてここで述べられ得る必須条件は、とりわけ、携帯アプリケーションを容易にするために、高いエネルギー効率に加えて、長い駆動寿命、並びに低い使用電圧および駆動電圧である。
【0004】
近年、この分野では大きな進歩が達成されてきた。しかしながら、急を要する改善を必要とする、かなりの問題がなお存在する。すなわち、複数の有機層を経るこれらのOLEDの構造は、複雑であり、且つ高価である。層の数を削減することは、製造工程の数を削減し、よって、コストを削減し、および製造の信頼性を高めるために、製造にとって非常に重要であろう。さらに、以前のデバイス構造の場合に、プロセスウインドウは、しばしば非常に小さく、すなわち、ドープの程度または層の厚さの比較的小さなばらつきが、発光性質の大きなばらつきをもたらす。製造の信頼性を高めるために、より大きなプロセスウインドウを用意することがここでは望ましいであろう。
【0005】
このことは、OLEDの製造における、とりわけ層構造におけるさらなる改良を必要とする。
【0006】
低分子量化合物に基づく有機エレクトロルミネセンスデバイスの一般的な構造は、例えば、US 4,539,507 および US 5,151,629 に記載されている。このタイプのデバイスは、たいてい、真空法または印刷法により重ねられた複数の層から成る。リン光有機エレクトロルミネセンスデバイスについて、詳細にはこれらの層は、以下の通りである。
【0007】
1.外板=基板(通常、ガラスまたはプラスチックシート)、
2.透明陽極(通常、インジウム−スズ酸化物、ITO)、
3.正孔注入層(HIL):例えば、フタロシアニン銅(CuPC)、またはポリアニリン(PANI)若しくはポリチオフェン誘導体(PEDOT等)のような伝導性ポリマーに基づく、
4.1以上の正孔輸送層(HTL):通常、トリアリールアミン誘導体に基づき、例えば、第1層として、4,4’,4’’−トリス(N−1−ナフチル−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(NaphDATA)、および第2層として、N,N’−ジ(ナフタ−1−イル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(NPB)、
5.1以上の発光層(EML):通常、例えば、トリス(フェニルピリジル)イリジウム(Ir(PPy))であるリン光色素をドープした、4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)ビフェニル(CBP)のようなマトリックス材料を含む、
6.正孔障壁層(HBL):通常、BCP(2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン=バトクプロイン)、またはビス(2−メチル−8−キノリナト)(4−フェニルフェノラト)アルミニウム(III)(BAIq)を含む、
7.電子輸送層(ETL):通常、トリス−8−ヒドロキシキノリネートアルミニウム(AIQ)に基づく、
8.電子注入層(EIL、絶縁層=ISLとしても知られる):例えば、LiF、LiO、BaF、MgO、NaFのような、高い誘電定数を有する材料から成る層、
9.陰極:一般的に、低い仕事関数を有する金属、金属の組み合わせまたは金属合金、例えば、Ca、Ba、Cs、Mg、Al、In、Mg/Ag。
【0008】
以上のように、異なる機能が、低分子量化合物に基づくエレクトロルミネセンスデバイスにおける個々の層に割り当てられる。リン光OLEDのこの構造は、多くの層(言い換えれば多くの異なる材料から成る)を次々と適用せねばならないために非常に複雑であり、これは、このようなOLEDの製造プロセスを、技術的に非常に複雑にする。
【0009】
今日まで、リン光OLEDの層構造を簡素化するための多くの試みがなされてきた。
【0010】
・US 2003/0146443 は、リン光エミッタをドープした、電子伝導性性質を有するマトリックス材料から発光層(EML)が成るOLEDを記載している。別個の電子輸送層を用いる必要がないために、ここでは、この層構造は簡素化される。しかしながら、この出願によれば、正孔輸送層は絶対に必要である。また、これらのOLEDは、一般的な構成、すなわち、HBL/ETLのOLEDと同じだけの効率を達成しない。
【0011】
・未公開特許出願 DE 10355358.4 および DE 10355380.0 は、別個の正孔障壁層および/または電子輸送層を使用しない場合に、低い電圧と高いパワー効率が得られるいくつかのマトリックス材料について記載していた。つまり、改善された電子性質が、かなり簡素化されたデバイス構造と同時に得られる。しかしながら、トリアリールアミンに基づく正孔輸送層は、ここでも全ての例において用いられた。
【0012】
つまり、陰極側における層の省略は、デバイス構造を簡素化することを既に可能にしている。しかしながら、工業的に応用するには、デバイスにおける電子性質を損なうことなく、エレクトロルミネセンスデバイスにおける層構造をさらに簡素化することを可能にすることが望まれる。
【0013】
驚くべきことに、発光層が、正孔注入層または陽極、すなわち、導電性層に直接的に隣接する三重項デバイスは、さらに簡素化された層構造と同時に、非常に良好な電子性質を示し続けることをここに見出した。発光層と、正孔注入層または陽極の間の1以上の正孔輸送層は、リン光エレクトロルミネセンスデバイスの良好な機能のためには不可欠であるということが、当該技術分野において今日までずっと当然だと思われていたために、このことは驚くべき結果である。例えば、三重項デバイスについての最初の特許(例えば、US 6,303,238)は、トリアリールアミン誘導体に基づく正孔輸送層を用いており、三重項デバイスの最初の出版物(M.A.バルドー(Baldo)等、Nature 1998, 395, 151)は、正孔注入層としてフタロシアニン銅が用いられ、正孔輸送層としてNPBが用いられるデバイス構造を記載している。
【0014】
従って、本発明は、陽極、陰極、および少なくとも1つのリン光エミッタをドープした少なくとも1つのマトリックス材料を含む少なくとも1つの発光層を含む有機エレクトロルミネセンスデバイスであって、陽極側の上記発光層は、導電性層に直接的に隣接することを特徴とする有機エレクトロルミネセンスデバイスに関する。
【0015】
本発明の1つの側面において、陽極側の導電性層は、陽極と発光層との間の有機正孔注入層または有機金属正孔注入層である。
【0016】
本発明の他の側面において、導電性層は、陽極自体である。
【0017】
本発明の目的上、正孔注入層とは、陽極に直接接触しており、自由電荷担体を含み、および本質的に導電性である有機層または有機金属層を意味すると解釈する。つまり、低分子量、樹枝状、オリゴマー、またはポリマーであり得る正孔注入材料は、理想的な場合にはオーム挙動を示す、すなわち、電流は、印加した電圧に比例する(有機)導電体である。正孔注入層は、一般的に、ドープされた有機化合物で構成されているが、これらの要求を満たす他の化合物も存在する。正孔注入層と正孔輸送層との間の境界は、完全には明瞭ではないが、とりわけ以下の定義付けを、本発明の目的に適用することを意図する。すなわち、陽極に直接接触し、その導電率が、10−8S/cmよりも大きい、好ましくは10−7〜10−1S/cm、特に好ましくは10−6〜10−2S/cmである層を、本発明の目的上正孔注入層と呼ぶ。この導電率の範囲における導電率の測定を、ここでは、フィルム上の2点測定により行うことができ、オーム抵抗を測定し、続いてこれから、層の厚さと長さを考慮に入れて、具体的な抵抗および導電率を決定する(D.メシェーデ(Meschede)、ゲルツェン(Gerthsen)、Physik、第21版、2001、319ページ)。これらの層の実例は、ドープされた、とりわけポリチオフェンまたはポリアニリン誘導体をドープされた導電性ポリマーであり、これは、陽極に直接隣接する。正孔注入層の他の例は、ドープされたトリアリールアミン誘導体から構成されたものであり、低分子量、オリゴマー、樹枝状またはポリマーであり得、並びに陽極に直接隣接しており、ここで、トリアリールアミン誘導体のドーピングを、例えば、酸化剤により、並びに/または酸および/若しくはルイス酸により酸化的に行うことができる。例えば、フタロシアニン銅(CuPc)のような金属フタロシアニンから構成され、陽極に直接隣接する層は、同様に、本発明の目的上、正孔注入層と呼ぶ(導電のメカニズムは、ここでは完全には明確ではないが、特定の理論に拘束されることを望まないが、おそらく、OLEDの駆動時の高い光伝導性を通じて生じている)。
【0018】
一方、正孔輸送層は、初期は、自由電荷担体を含まず、従って、導電性を示さない層を意味すると解釈される。つまり、正孔輸送材料は、典型的な半導体またはダイオード挙動を示す有機半導体である。これらは、一般的に、ドープされない有機化合物から、通常トリアリールアミン誘導体(これは、低分子量、オリゴマー、樹枝状またはポリマーの、例えばNaphDATAまたはNPB等であり得る)から構成される。正孔輸送層は、発光層と正孔注入層との間、または発光層と陽極との間のいずれかに位置し、ここで、これらの性質を有する複数の層を使用する場合には、これらの層の全てを、正孔輸送層と呼ぶ。
【0019】
本発明の目的上、ポリマー有機発光ダイオード(PLED)を包含することは意図されず、後者の場合にはポリマーが、一般的に、電荷輸送および発光等、それ自体が多くの役割を果たし、従って、1層または2層デバイス(さらに、追加の電荷注入層を含む)のみが、ここでは一般的に製造されるためである。本出願の目的上、ポリマー有機発光ダイオードは、発光層が、ポリマー、複数のポリマーの混合物、または1以上のポリマーと1以上の低分子量化合物の混合物から成る有機発光ダイオードを意味すると解釈し、ここで、ポリマーは、一般的に、5000g/モルよりも大きい、通常10,000g/モルよりも大きい分子量Mを有し、これらは、分子量分布であることを特徴とする。
【0020】
従って、本発明の好ましい態様は、マトリックス材料またはリン光エミッタのいずれかが、10,000g/モル未満、好ましくは5000g/モル未満、特に好ましくは3000g/モル未満の分子量を有するという低分子量規定化合物である有機エレクトロルミネセンスデバイスに関する。特に好ましくは、マトリックス材料およびリン光エミッタの双方が、10,000g/mol未満、好ましくは5000g/mol未満、特に好ましくは3000g/mol未満の分子量を有するという低分子量規定化合物である。
【0021】
上記の層に加えて、有機エレクトロルミネセンスデバイスは、例えば、1以上の正孔障壁層(HBL)および/または電子輸送層(ETL)および/または電子注入層(EIL)のような、さらなる層を含んでいてもよい。しかしながら、このエレクトロルミネセンスデバイスは、これらの層が無くとも非常に良好な結果を与えること、並びに簡素化された層構造のため、このエレクトロルミネセンスデバイスが、これらの層を含まないことが好ましいことを指摘しておく。本発明の好ましい態様において、発光層は、電子輸送層に直接的に隣接しており、すなわち、本発明によるエレクトロルミネセンスデバイスは、正孔障壁層(HBL)を含まない。
【0022】
本発明のさらに好ましい態様において、発光層は、陰極または電子注入層に直接的に隣接しており、すなわち、本発明によるエレクトロルミネセンスデバイスは、正孔障壁層(HBL)または電子輸送層(ETL)を含まない。
【0023】
1を超える発光層が存在することも可能である。2以上の発光層は、白色発光エレクトロルミネセンスデバイスに特に適している。ここで、少なくとも1つの発光層が、電場リン光(electrophosphorescent)を発しなければならない。さらに、発光層を、同じマトリックス材料または異なるマトリックス材料を用いて構成することができる。しかしながら、汚染の危険のため、および資源保護の理由のために、複数の発光層または全ての発光層において、同じマトリックス材料を使用することが有利であると分かった。
【0024】
発光層の層の厚さが、1〜300nm、特に好ましくは5〜200nm、非常に特に好ましくは10〜150nmの厚さを有することを特徴とする、有機エレクトロルミネセンスデバイスが好ましい。
【0025】
さらに、存在するリン光エミッタが、36よりも大きく84未満の原子番号を有する少なくとも1つの原子を有する化合物であることを特徴とする、有機エレクトロルミネセンスデバイスが好ましい。リン光エミッタが、56よりも大きく80未満の原子番号を有する元素、非常に特に好ましくはモリブデン、タングステン、レニウム、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、銀、金またはユーロピウム、非常に特に好ましくは、WO 98/01011、US 02/0034656、US 03/0022019、WO 00/70655、WO 01/41512、WO 02/02714、WO 02/15645、EP 1191613、EP 1191612、EP 1191614、WO 03/040257、WO 03/084972、WO 03/099959、WO 03/040160、WO 02/081488、WO 02/068435、WO 04/026886、WO 04/081017 および DE 10345572.8 (これらを、本明細書の一部として本願に援用する)によればイリジウムまたは白金の少なくとも1つを含むことを特徴とする有機エレクトロルミネセンスデバイスが、特に好ましい。
【0026】
マトリックスにおけるリン光エミッタのドーピングの程度は、0.5〜50%であり、好ましくは1〜40%、特に好ましくは3〜30%、非常に特に好ましくは5〜25%である。驚くべきことに、ドーピングの程度の比較的小さいばらつきは、電気性質および光学性質への影響を有さないことが、ここに見出された。
【0027】
マトリックス材料のガラス転移温度Tが、100℃よりも大きい、特に好ましくは120℃よりも大きい、非常に特に好ましくは140℃よりも大きいことを特徴とする有機エレクトロルミネセンスデバイスが好ましい。材料が、昇華および蒸着プロセス中安定であるために、これらは、高い熱的安定性、好ましくは200℃よりも大きい、特に好ましくは300℃よりも大きい、非常に特に好ましくは350℃よりも大きい熱的安定性を有する。
【0028】
マトリックス材料が、380nm〜750nmの可視スペクトル領域において、30nmのフィルム厚で、0.2未満の吸光度、好ましくは0.1未満の吸光度、特に好ましくは0.05未満の吸光度を有することを特徴とする有機エレクトロルミネセンスデバイスが好ましい。
【0029】
マトリックス材料の最低の三重項エネルギーは、好ましくは、2〜4eVである。ここで、最低の三重項エネルギーは、分子の一重項基底状態および最低の三重項状態の間のエネルギー差として定義される。三重項エネルギーを、分光法により、または量子化学計算により決定することができる。マトリックス材料から三重項エミッタへのエネルギー移行が、非常に効率的に進行し、従って、三重項エミッタからの発光の高い効率をもたらすために、この三重項の位置は、有利であることが判明した。その三重項エネルギーが、用いられる三重項エミッタの三重項エネルギーよりも大きいマトリックス材料が、好ましい。マトリックス材料の三重項エネルギーは、好ましくは、三重項エミッタのものよりも少なくとも0.1eV大きく、特に好ましくは、三重項エミッタのものよりも少なくとも0.5eV大きい。
【0030】
マトリックス材料とリン光エミッタは、好ましくは、荷電していない化合物である。これらは、一般的に、イオン結晶格子を形成する荷電した化合物と比べて、より簡単に、または低い温度で蒸発することができるために、これらは、塩よりも好ましい。加えて、塩は、ガラス様の相の形成に対抗する結晶化へのより大きな傾向を有する。さらに、マトリックス材料とリン光エミッタは、好ましくは、規定分子化合物である。
【0031】
驚くべきことに、とりわけ、別個の正孔輸送層を有さない、電子伝導性マトリックス材料の使用が、良好な結果を示すことが見出された。従って、マトリクス材は、好ましくは、電子伝導性化合物、すなわち、容易に還元され得る化合物である。
【0032】
還元時に非常に安定である、すなわち、主に可逆的な還元を示すか、または、非常に安定なフリーラジカルアニオンを形成するマトリックス材料が特に好ましい。ここで、「安定」および「可逆的」とは、還元時に、分解、または転位のような化学反応を殆ど示さないか、全く示さない材料を意味する。このことを、例えば、溶液の電気化学、とりわけサイクリックボルタンメトリーにより確認することができる。
【0033】
リン光エミッタは、好ましくは、マトリックス材料と比較してより高い(より負でない)HOMO(最高被占軌道)を有し、従って、OLEDにおける正孔電流の主な原因である。(正孔注入層が存在するかしないかによって)正孔注入層または陽極のHOMOと比較して、±0.5eVの範囲にあるリン光エミッタのHOMOが、ここでは好ましい。マトリックス材料は、好ましくは、リン光エミッタと比べてより低い(より負の)LUMO(最低空軌道)を有し、従って、OLEDにおける電子電流の主な原因である。正孔障壁層または電子輸送層、または陰極の仕事関数(これらの層のうち、どの層が、発光層に直接的に隣接するかに依存して)のLUMOと比較して、±0.5eVの範囲にあるマトリックス材料のLUMOが、ここでは好ましい。
【0034】
HOMOまたはLUMOの位置を、種々の方法、例えば、溶液の電気化学、サイクリックボルタンメトリー、またはUV光電子分光法により実験的に決定することができる。加えて、LUMOの位置を、電気化学的に測定したHOMO、および吸光光度法により任意に測定されるバンド分離(band separation)から計算することができる。HOMOの位置およびLUMOの位置の量子化学計算も、可能である。
【0035】
マトリックス材料の電子の移動度は、OLEDに与えられた、10〜10V/cmの場の強度下で、好ましくは、10−10〜1cm/V・s、特に好ましくは10−8〜10−1cm/V・s、非常に特に好ましくは、10−6〜10−2cm/V・sである。ここで、電子の移動度を、例えばTOF(飛行時間)測定(L.B.シャイン(Schein)、A.ローゼンバーグ(Rosenberg)、S.L.ライス(Lice)、J. Appl. Phys. 1986, 60, 4287 ;J.X.マック(Mack)、L.B.シャイン、A.ペレド(Peled)、Phys. Rev. B 1989, 39, 7500 ;A.R.メルニック(Melnyk)、D.M.パイ(Pai)、Physical Methods of Chemistry、第8巻(B.W.ロシター(Rossiter)、R.C.ベゾルド(Beatzold)編集)、Wiley、ニューヨーク、1993、第2版)により決定することができる。
【0036】
正孔輸送層を伴わずに、および適切には、正孔注入層を伴わずに用いることができ、且つ良好な結果を与える好ましい適切なマトリックス材料は、式(1)〜(4)のケトン、イミン、ホスフィンオキシド、ホスフィンスルフィド、ホスフィンセレニド、ホスファゼン、スルホンおよびスルホキシドである
【化1】

【0037】
(式中、用いられる記号は、以下の意味を有する。すなわち、
Yは、式(2)においてはCに相当し、式(1)および(3)においてはP、As、SbまたはBiであり、並びに式(1)、(2)および(4)においてS、SeまたはTeであり、
Xは、出現毎に同一であるか異なり、NR、O、S、SeまたはTeであり、
、R、Rは、出現毎に同一であるか異なり、H、F、CN、N(R、1〜40のC原子を有する直鎖の、分岐のまたは環状のアルキル基、アルコキシ基若しくはチオアルコキシ基(これは、Rにより置換されていてもよいし、または置換されない)(ここで、1以上の非隣接のCH基は、−RC=CR−、−C≡C−、Si(R、Ge(R、Sn(R、C=O、C=S、C=Se、C=NR、−O−、−S−、−NRまたは−CONR−により置き換えられてもよく、また、1以上のH原子は、F、Cl、Br、I、CNまたはNOにより置き換えられてよい)、または1〜40のC原子を有する芳香族環構造若しくは複素環式芳香族環構造またはアリールオキシ基若しくはヘテロアリールオキシ基(これは、1以上のR基により置換されていてもよい)であり、ここで、複数の置換基R、Rおよび/またはRは、互いに、単環または多環の脂肪族環構造または芳香族環構造を形成していてもよく、
は、出現毎に同一であるか異なり、1〜22のC原子を有する直鎖の、分岐の若しくは環状のアルキル鎖若しくはアルコキシ鎖(ここで、さらに、1以上の非隣接のC原子は、−RC=CR−、−C≡C−、Si(R、Ge(R、Sn(R、−NR−、−O−、−S−、−CO−O−または−O−CO−O−により置き換えられてもよく、また1以上のH原子は、フッ素により置き換えられてもよい)、1〜40のC原子を有するアリール基、ヘテロアリール基若しくはアリールオキシ基(これは、1以上のR基により置換されていてもよい)、またはOHまたはN(Rであり、
は、出現毎に同一であるか異なり、RまたはCN、B(RまたはSi(Rであり、
は、出現毎に同一であるか異なり、H、または1〜20のC原子を有する脂肪族炭化水素基若しくは芳香族炭化水素基であり、
但し、分子量は、少なくとも150g/モルである)。
【0038】
本発明の目的上、芳香族環構造または複素環式芳香族環構造は、芳香族基または複素環式芳香族基のみから必ずしも構成されるわけでなく、他に、芳香族基または複素環式芳香族基が、例えば、sp混成のC、O、N等のような短い非芳香族単位(H以外の<10%の原子、好ましくは、H以外の<5%の原子)により中断されていてもよいことを意味すると解釈されたい。つまり、例えば、9,9’−スピロビフルオレン、9,9−ジアリールフルオレン、トリアリールアミン、ジフェニルエーテル等のような系も、芳香族系と見なされる。
【0039】
マトリックス材料としてのケトンおよびイミンは、例えば、未公開特許出願 WO 04/093207 に記載されている。マトリックス材料としてのホスフィン、ホスフィンスルフィド、ホスフィンセレニド、ホスファゼン、スルホンおよびスルホキシドは、例えば、未公開特許出願 DE 10330761.3 に記載されている。好ましい置換基R〜Rは、芳香族環構造または複素環式芳香族環構造であり、好ましい置換基R〜Rおよび好ましい構造は、上記の出願により明らかにされている。ケトン、ホスフィンオキシドおよびスルホキシドが特に好ましく、ケトンが非常に特に好ましい。
【0040】
さらに、1以上の層が、昇華プロセスによりコーティングされることを特徴とする有機エレクトロルミネセンスデバイスが好ましい。ここで、低分子量材料を、真空昇華装置中で、10−5mbar未満の、好ましくは10−6mbar未満の、特に好ましくは10−7mbar未満の圧力で蒸着する。
【0041】
同様に、1以上の層が、OVPD(有機気相成長(organic vapor phase deposition))プロセスによりコーティングされる、またはキャリアガスの昇華を用いてコーティングされることを特徴とする有機エレクトロルミネセンスデバイスが好ましい。ここで、低分子量材料を、不活性キャリアガス中、10−5mbar〜1barの圧力で適用する。
【0042】
さらに、1以上の層が、LITI(光誘起熱画像化(light induced thermal imaging)、熱転写印刷)プロセスによりコーティングされることを特徴とする有機エレクトロルミネセンスデバイスが好ましい。
【0043】
上記した発光デバイスは、従来技術に対して、以下の驚くべき利点を有する。
【0044】
1.対応するデバイスの効率は、別個の正孔輸送層を含む系におけるものに匹敵するか、またはさらに高い。今日まで、1以上の正孔輸送層が、エレクトロルミネセンスデバイスの良好な機能には確実に必要であると常に考えられていたために、このことは、驚くべき結果である。
【0045】
2.駆動電圧は、別個の正孔輸送層を含むエレクトロルミネセンスデバイスに匹敵する。
【0046】
3.層構造は、従来技術によるエレクトロルミネセンスデバイスと比較して、少なくとも1つ差し引いた有機層が用いられるために、より簡素である。発光層が、正孔注入層または陽極に直接的に隣接するだけでなく、直接的に陰極にも隣接する場合に、全体のエレクトロルミネセンスデバイスは、1または2つの有機層(発光層および任意に正孔注入層)のみから成るために、特に明らかな利点が生じる。つまり、製造の複雑性は、有意に低下する。別個の蒸着装置が、一般的な製造手法においては、各有機層に一般的に用いられるために、このことは、製造プロセスにおける大きな利点であり、少なくとも1つのこのような装置を省く、または完全に省くことができる。このことは、資源を節約し、汚染の危険を減じ、収率を向上させる。
【0047】
4.発光スペクトルは、正孔輸送層を含む、匹敵するエレクトロルミネセンスデバイスを用いて得られる発光スペクトルと同一である。特に、発光性質、例えば発光色は、広い範囲に渡って、ドーピングの程度と無関係であることを特筆する。従って、プロセスウインドウは拡張され、および製造条件における小さなばらつきが、製品の性質におけるばらつきをもたらさないために、このことは、製造における明らかな利点である。つまり、製造の信頼性が向上する。
【0048】
5.同様に、発光色および電圧のようなデバイス性質は、発光層の層の厚さに比較的無関係である。従って、プロセスウインドウは拡張され、製造条件における比較的小さなばらつきが、製品の性質におけるばらつきをもたらさないために、このことも同様に、製造における大きな利点である。つまり、製造の信頼性が向上する。
【0049】
6.対応するデバイスの寿命は、別個の正孔輸送層を含む系と同程度である。
【0050】
情報の詳細を、以下に記載する例に与える。
【0051】
本特許出願明細書および以下のさらなる例は、有機発光ダイオードおよび対応するディスプレイにのみ関する。この記載の制限にも関わらず、当業者は、さらに発明を必要とすることなく、他の関連デバイス、例えば、ほんの数例の他のアプリケーションを挙げると、有機太陽電池(O−SC)、有機レーザーダイオード(O−laser)、または光屈折構成要素について、本発明に従う対応する設計を用いることができる。
【0052】

有機エレクトロルミネセンスデバイスの製造および特性決定
本発明によるエレクトロルミネセンスデバイスを、例えば、特許出願 DE 10330761.3 に記載されるように製造することができる。この方法は、個々の場合において、それぞれの状況(例えば、層の厚さのばらつき)に適合させた。本発明によるデバイスの製造については、別個の正孔輸送層を用いず、電子輸送層または正孔障壁層も用いなかった。
【0053】
以下の例において、種々のOLEDについての結果を示す。用いた材料および層の厚さ等の基本構造は、より良い比較可能性のために同一であった。以下の構造を有する発光OLEDを、上記の一般法と同じように製造した。すなわち、
PEDOT(HIL):60nm(水からスピンコーティング;PEDOTは、H.C.シュターク(Starck)社から購入;ポリ[3,4−エチレンジオキシ−2,5−チオフェン]とポリ(スチレンスルホン酸))
発光層:正確な構造;表1を参照されたい
Ba/Al(陰極):3nmのBaの上の150nmのAl
である。
【0054】
別個の正孔障壁層および別個の電子輸送層を、全ての例において用いなかった。
【0055】
発光層と正孔注入層の間に以下の構造を有する、従来技術に従う正孔輸送層を含むエレクトロルミネセンスデバイスを、比較のために製造した。すなわち、
NaphDATA(HTM):20nm(蒸着;NaphDATAは、SynTec社から購入;4,4’,4’’−トリス(N−1−ナフチル−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン)
S−TAD(HTM):20nm(蒸着;S−TADは、WO 99/12888 に従って調製した;2,2’,7,7’−テトラキス(ジフェニルアミノ)スピロビフルオレン)
である。
【0056】
これらの未だ最適化されないOLEDを、標準的な方法により特性決定した。エレクトロルミネセンススペクトル、最大効率(cd/Aで測定)、および輝度の関数として、電流/電圧/輝度特性線(IUL特性線)から計算される最大パワー効率(Im/Wで測定)を、この目的のために測定した。
【0057】
表1は、種々の例の結果を示す。層の厚さを含む発光層の構成を示す。ドープされたリン光発光層は、マトリックス材料M1として、化合物ビス(9,9’−スピロビフルオレン−9−イル)ケトン(WO 04/093207 に従って合成)を含む。種々のデバイス配列の寿命は同程度である。Ir(pid)を、US 2003/0068526 に従って合成した。Ir−1を、未公開特許出願 DE 10345572.8 に従って合成した。
【0058】
表1において用いた省略は、以下の化合物に相当する。
【化2】

【表1】

【0059】
まとめると、新規の設計原理に従って製造されたOLEDは、表1から容易に理解することができる通り、同程度の電圧および同程度の寿命で、同程度の、またはさらに高い効率を有し、OLEDの構造は、かなり簡素化されたことを述べることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極、陰極、および少なくとも1つのリン光エミッタでドープされた少なくとも1つのマトリックス材料を含む少なくとも1つの発光層を含む有機エレクトロルミネセンスデバイスであって、前記陽極側の前記発光層が、導電性層に直接的に隣接することを特徴とする有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項2】
前記マトリックス材料または前記リン光エミッタのいずれかが、10,000g/モル未満の分子量を有するという低分子量規定化合物であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項3】
前記マトリックス材料および前記リン光エミッタの双方が、10,000g/モル未満の分子量を有するという低分子量規定化合物であることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項4】
前記陽極側の前記発光層が隣接する前記導電性層が、有機正孔注入層または有機金属正孔注入層であることを特徴とする請求項1〜3の一項以上に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項5】
前記陽極側の前記発光層が隣接する前記導電性層が、陽極であることを特徴とする請求項1〜3の一項以上に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項6】
さらなる層を含むことを特徴とする請求項1〜5の一項以上に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項7】
前記さらなる層が、1以上の正孔障壁層および/または電子輸送層および/または電子注入層であることを特徴とする請求項6に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項8】
前記発光層が、正孔障壁層を用いることなく、前記電子輸送層に直接的に隣接することを特徴とする請求項1〜7の一項以上に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項9】
前記発光層が、正孔障壁層および電子輸送層を用いることなく、前記陰極または前記電子注入層に直接的に隣接することを特徴とする請求項1〜7の一項以上に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項10】
1を超える前記発光層が存在することを特徴とする請求項1〜9の一項以上に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項11】
前記発光層が、1〜300nmの層の厚さを有することを特徴とする請求項1〜10の一項以上に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項12】
存在する前記リン光エミッタが、36よりも大きく84未満の原子番号を有する少なくとも1つの原子を含む化合物であることを特徴とする請求項1〜10の一項以上に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項13】
前記リン光エミッタが、モリブデン、タングステン、レニウム、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、銀、金またはユーロピウムから選択される少なくとも1つの元素を含むことを特徴とする請求項12に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項14】
前記マトリックスにおける前記リン光エミッタのドーピングの程度が、0.5〜50%であることを特徴とする請求項1〜13の一項以上に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項15】
前記マトリックス材料のガラス転移温度Tが、100℃よりも大きいことを特徴とする請求項1〜14の一項以上に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項16】
前記マトリックス材料が、380nm〜750nmの可視スペクトル領域において、30nmのフィルム厚で、0.2未満の吸光度を有することを特徴とする請求項1〜15の一項以上に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項17】
前記マトリックス材料の最低の三重項エネルギーは、2〜4eVであることを特徴とする請求項1〜16の一項以上に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項18】
前記マトリックス材料が、電子伝導性化合物であることを特徴とする請求項1〜17の一項以上に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項19】
前記マトリックス材料が、主に可逆的な還元を示すか、または非常に安定なフリーラジカルアニオンを形成することを特徴とする請求項18に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項20】
前記マトリックス材料の電子の移動度が、10−10〜1cm/V・sであることを特徴とする請求項1〜19の一項以上に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項21】
前記マトリックス材料が、ケトン、イミン、ホスフィンオキシド、ホスフィンスルフィド、ホスフィンセレニド、ホスファゼン、スルホンおよびスルホキシドのクラスから選択され、好ましくは芳香族置換基を有することを特徴とする請求項1〜20の一項以上に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項22】
前記マトリックス材料が、ケトン、ホスフィンオキシドおよびスルホキシドのクラスから選択されることを特徴とする請求項21に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項23】
1以上の層が、昇華プロセスによりコーティングされることを特徴とする請求項1〜22の一項以上に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項24】
1以上の層が、有機気相成長(OVPD)プロセスによりコーティングされる、またはキャリアガスの昇華を用いてコーティングされることを特徴とする請求項1〜22の一項以上に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項25】
1以上の層が、LITI(light induced thermal imaging)(光誘起熱画像化)プロセスによりコーティングされることを特徴とする請求項1〜22の一項以上に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項26】
構造が、請求項1〜25の一項以上に対応することを特徴とする有機太陽電池。
【請求項27】
構造が、請求項1〜25の一項以上に対応することを特徴とする有機レーザーダイオード。

【公表番号】特表2007−512692(P2007−512692A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540366(P2006−540366)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【国際出願番号】PCT/EP2004/013315
【国際公開番号】WO2005/053051
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(597035528)メルク パテント ゲーエムベーハー (209)
【Fターム(参考)】