説明

有機エレクトロルミネッセンスディスプレイパネル及びその製造方法

【課題】隔壁形成に要する製造コストを抑え、また画素内の発光の均一性を向上させることの可能な有機ELディスプレイパネル、特にテレビや大型モニター用途の有機ELディスプレイパネルおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】TFT基板の各画素上に有機エレクトロルミネッセンス素子が形成される有機ELディスプレイパネルにおいて、前記有機EL素子を構成する有機層の内、少なくとも一層が凸版印刷法を用いて各画素列の位置に合わせてストライプ状に形成され、前記TFT基板は、各画素周辺に隔壁が形成されていないことを特徴とする有機ELディスプレイパネル及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)ディスプレイパネル及びその製造方法に関し、特に有機層の少なくとも一層を凸版印刷法によって形成する有機ELディスプレイパネル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、ふたつの対向する電極の間に有機発光材料からなる発光層が形成され、発光層に電流を流すことで発光させるものであるが、効率よく発光させるには発光層の膜厚が重要であり、100nm程度の薄膜にする必要がある。さらに、これをディスプレイ化するには高精細にパターニングする必要がある。
発光層を形成する有機発光材料には、低分子材料と高分子材料があり、一般に低分子材料は抵抗加熱蒸着法等により薄膜形成し、このときに微細パターンのマスクを用いてパターニングするが、この方法では基板が大型化すればするほどパターニング精度が出難いという問題がある。
そこで、最近では有機発光材料に高分子材料を用い、有機発光材料を溶剤に分散または溶解させて塗工液にし、これをウェットコーティング法で薄膜形成する方法が試みられるようになってきている。薄膜形成するためのウェットコーティング法としては、スピンコート法、バーコート法、突出コート法、ディップコート法等があるが、高精細にパターニングしたりRGB3色に塗り分けしたりするためには、これらのウェットコーティング法では難しく、塗り分け・パターニングを得意とする印刷法による薄膜形成もしくは画素毎に液滴を滴下するインクジェット法が有効であると考えられる。
【0003】
高分子材料で発光層を形成する方法として印刷法を選択する場合、ガラスから成るTFT基板上に発光層を形成するための印刷法としては、グラビア印刷法等のように金属製の印刷版等の硬い版を用いる方法は不向きであり、弾性を有するゴムブランケットを用いるオフセット印刷法や同じく弾性を有するゴム版や樹脂版を用いる凸版印刷法が適正である。実際ににこれらの印刷法による試みとして、オフセット印刷による方法(特許文献1)、凸版印刷による方法(特許文献2)などが提唱されている。
【0004】
一方、高分子の有機発光材料やインタレーヤ材料は、水、アルコール系の溶剤に対する溶解性が悪く、塗工液(以下インキと記す)化するには、有機溶剤を用いて溶解、分散させる必要があり、中でも、トルエンやキシレンその他の有機溶剤が好適である。したがって、有機発光材料やインターレイヤ材料のインキ(以下有機ELインキと記す)は有機溶剤のインキとなっている。
ところが、オフセット印刷に用いるゴムブランケットはトルエンやキシレン有機溶剤によって膨潤や変形を起こしやすいという問題がある。ブランケットに使用されるゴムの種類はオレフィン系のゴムからシリコーン系のゴムまで多様であるが、いづれのゴムもトルエン、キシレンその他の溶剤に対して耐性がなく、膨潤や変形が起こりやすく、よって有機ELインキの印刷には不適切である。
また、弾性を有する凸版を使用する凸版印刷方式にも、ゴム製の版を用いるフレキソ印刷方式と樹脂性の版を用いる樹脂凸版方式があるが、このうち水現像タイプの樹脂凸版を用いる方式であれば、トルエン、キシレン、その他の有機溶剤に対する耐性も高く、有機ELインキの印刷に使用可能である。
以上に述べた理由から、ガラス基板のような硬い基材の上に、トルエン、キシレン等の芳香族溶剤からなる有機ELインキを印刷する方式としては、水現像タイプの樹脂凸版を用いる凸版印刷方式が最適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−93668公報
【特許文献2】特開2001−155858公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
背景技術の項で述べたように、高分子材料から成る有機ELインキを用いて、TFT基板の画素上にRGBの各色を塗分ける方法としては、インクジェット法もしくは印刷法が有効な方法であり、特に印刷法では水現像タイプの樹脂凸版を用いる凸版印刷方式が最適である。
インクジェット法による有機ELインキの塗布方式と凸版印刷法による塗布方式の大きな違いは、インクジェット方式ではほとんど液体状態のインキを液滴として画素上に滴下させるのに対して、凸版印刷方式では、版上で半乾き状態となったインキすなわちある程度粘性をもったインキを画素上に転移させる点にある。
すなわち、インクジェット法で滴下したインキの液滴は、流動して広がり易いため、TFT基板の画素上に隔壁を形成して、インキが流れないように保持する必要がある。しかも、固形分濃度1〜3%程度のインキで最終膜厚100nm程度の有機発光層を形成するには、3〜10μm近い厚みの液状インキを供給する必要があり、そのため形成する隔壁の高さとしては少なくとも3〜8μm程度が要求される。
【0007】
それに対して、凸版印刷法では転移されるインキは半乾き状態である程度粘性を持っていることから、インクジェットの液滴ほどは流動して広がることはない。
したがって、インクジェット法では、TFT基板の画素周辺に図1に示すような隔壁が高さ数μm程度で形成されていることが必須であるが、それに対して凸版印刷法では隔壁が必ずしも必要ではない。
【0008】
一方、TFT基板における隔壁形成の必然性を考察すると、TFT基板側から光を取出すボトムエミッション方式の場合、TFTの回路を画素の開口部を避けて配置する必要があり、画素の周辺部に配置することになる。TFTの回路を配置した部分には、保護層、絶縁層として窒化シランや樹脂からなる層を形成する必要があり、画素周辺部には必然的に図2に示すような段差が形成され、それを発光層インキ塗布時の隔壁として利用することは可能である。ただし、本来はTFT回路に対する保護や絶縁が目的であるから、樹脂層を用いた数μmもの高さの隔壁を形成する必要はなく、窒化膜から成る1μm以下の薄膜層のみで用を成すものである。
また、TFT基板と反対の側から光を取出すトップエミッション方式では、TFT回路を画素周辺部にのみ集約して配置する必要はなく、またそれらを保護・絶縁するための層も基板全面に均一な層として形成すれば良く、ボトムエミッションの場合のように画素の開口部毎に窓を開けて形成する必要はない。
【0009】
以上のように、TFT基板としては、インクジェット方式で必須である高さ数μmの隔壁を形成することは必ずしも必要ではなく、特にトップエミッション方式ではTFT基板としては平坦に形成されていても問題ない。
従って、発光層を形成するのにインクジェット方式を用いるとすると、TFT基板上にバンクを形成するための工程を余分に必要とし、そのため製造コストも余分にかかってしまうという問題が生じる。ちなみに、樹脂を用いて隔壁を形成する場合、樹脂膜を塗布する工程、パターニングのための露光・現像といった工程が必要であり、製造コストとしてはこれらの工程にかかるコストの他に材料費としての樹脂代や露光のためのフォトマスクの費用などが加算されることになる。
さらに、隔壁を形成してその中にインキを供給して塗布する場合、インキが隔壁に塗れ上がってしまうことから、画素周辺部で発光層の膜厚が厚くなってしまい、発光層の厚い部分が光り難いことから、画素内での発光面積が低下するという問題もある。その点、隔壁なしで発光層を形成できれば、画素内の発光の均一性を向上させることもできる。
【0010】
これらの状況を勘案すると、隔壁なしで発光層を形成できれば、製造コストの面や画素内の発光の均一性といった点で有益である。前述したように、隔壁なしで発光層を形成するには、インクジェット方式に比べて、印刷方式の方がインキが広がり難いことから有利である。特にテレビや大型モニター用途等の精細度の低いディスプレイにおいては、モバイル用途等の精細度の高いディスプレイに比べて、画素ピッチが大きく、従って隣接画素間の距離も大きく、インキ広がりに対する許容範囲も広くなることから、印刷方式を採用してバンクなしで発光層を形成することが十分に可能である。
【0011】
そこで本発明では、隔壁形成に要する製造コストを抑え、また画素内の発光の均一性を向上させることの可能な有機ELディスプレイパネル、特にテレビや大型モニター用途の有機ELディスプレイパネルおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明者等は、TFT基板上に改めて隔壁を形成しなくても、隣接画素に発光層が広がって混色することなしに、RGB各色毎に発光層を塗分けして形成する方法として、凸版印刷方式による次のような手段が有効であることを見出した。
【0013】
請求項1に記載の発明は、TFT基板の各画素上に有機エレクトロルミネッセンス素子が形成される有機エレクトロルミネッセンスディスプレイパネルにおいて、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する有機層の内、少なくとも一層が凸版印刷法を用いて各画素列の位置に合わせてストライプ状に形成され、
前記TFT基板は、各画素周辺に隔壁が形成されていないことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスディスプレイパネルである。
請求項2に記載の発明は、前記TFT基板上のTFT回路を保護するための絶縁層が、各画素の発光領域を除いた周辺部に形成されていることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンスディスプレイパネルである。
請求項3に記載の発明は、前記絶縁層と前記発光領域側の第一電極との段差が0.2μm〜1μmの範囲にあることを特徴とする請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンスディスプレイパネルである。
請求項4に記載の発明は、サブピクセルの間が40μm以上あり、精細度が1インチ当たり100ピクセル以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンスディスプレイパネルである。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンスディスプレイパネルを製造する方法であって、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する有機層の内、少なくとも発光層を凸版印刷法によって各画素列の位置に合わせてストライプ状に形成する工程を有し、
前記発光層のストライプパターンの線幅を、サブピクセルの発光領域幅の2分の1以下にしたことを特徴とする、前記製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、上記のような手段を用いることで、例えばTFT基板上に改めて隔壁を形成することなく発光層を形成することで、隔壁形成に要する製造コストを抑え、また画素内の発光の均一性を向上させることの可能な有機ELディスプレイパネル、特にテレビや大型モニター用途の有機ELディスプレイパネルおよびその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】隔壁を有するアクティブマトリックスタイプの有機ELディスプレイパネルを説明するための断面図である。
【図2】隔壁を有さないアクティブマトリックスタイプの有機ELディスプレイパネルを説明するための断面図である。
【図3】本発明で使用可能な凸版印刷機構を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態を、TFT基板を用いたアクティブマトリックスタイプの有機ELディスプレイパネルを作成する場合を例に説明する。パネル作成に用いるTFT基板は、画素電極(第一電極。例えばITO)、TFT回路、絶縁層等がすでに形成された基板を用いて、その上に有機層、陰極、封止層を形成する例として説明する。しかし、本発明はこの例に限定されるものではない。
【0017】
図2に示すように、TFT基板は、TFT回路を保護するための絶縁層である窒化シリコン膜が各画素の周辺に形成されており、画素の発光領域は窒化シリコン膜が窓状に抜けて陽極電極であるITOが剥き出しになっている。本発明では、絶縁層である窒化シリコンと発光領域側の第一電極であるITOとの段差が0.2μm〜1μmの範囲にあることが好ましい。
【0018】
このTFT基板を用いて、まず正孔輸送層を形成する。正孔輸送層を形成する正孔輸送材料としては、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVK)誘導体、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等が挙げらる。これらの材料は溶媒に溶解または分散させて正孔輸送材料インキとし、スピンコート法で全面塗布して薄膜形成できる。
【0019】
正孔輸送層形成後に、有機発光層を形成する。有機発光層を形成する有機発光材料は、例えばクマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクドリン系、N,N’−ジアルキル置換キナクドリン系、ナフタルイミド系、N,N‘−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系等の発光性色素を、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に分散させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリオレフィン系の高分子材料が挙げられる。
これらの有機発光材料は溶媒に溶解または分散させて有機発光インキとすることができる。有機発光材料を溶解または分散させる溶媒としては、単独の有機溶媒またはこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0020】
有機発光層の形成方法は、水現像タイプの樹脂凸版を用いて凸版印刷法で行うことができる。本発明における樹脂版を構成する水現像タイプの感光性樹脂としては、例えば親水性のポリマーと不飽和結合を含むモノマーいわゆる架橋性モノマー及び光重合開始剤を構成要素とするタイプが挙げられる。このタイプでは、親水性ポリマーとしてポリアミド、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体等が用いられる。また、架橋性モノマーとしては、例えばビニル結合を有するメタクリレート類が挙げられ、光重合開始剤としては例えば芳香族カルボニル化合物が挙げられる。中でも、印刷適正の面からポリアミド系の水現像タイプの感光性樹脂が好適である。
【0021】
有機発光層の形成に用いる印刷機は、平板に印刷する方式の凸版印刷機であれば使用可能であるが、以下に示すような印刷機が望ましい。図3は、本発明で使用可能な凸版印刷機構を説明するための図である。本装置は、インクタンク16とインキチャンバー12とアニロックスロール11と樹脂凸版9を取り付けした版胴8を有している。インクタンク16には、溶剤タンク18および溶剤滴下装置17によって溶剤で希釈された有機発光インキが収容されており、インキチャンバー12には、インクタンク16より有機発光インキが送り込まれるようになっている。アニロックスロール11は、インキチャンバー12のインキ供給部及び版胴8に接して回転するようになっている。
アニロックスロール11の回転にともない、インキ循環ポンプ15によって供給されたインキは、ドクター10によりアニロクスロール11表面に均一に保持されたあと、版胴8に取り付けされた樹脂凸版9の凸部に均一な膜厚で転移する。さらに、被印刷基板13は摺動可能な基板固定台14上に固定され、版のパターンと基板のパターンの位置調整機構により、位置調整しながら印刷開始位置まで移動して、版胴8の回転に合わせて版の凸部が基板に接しながらさらに移動し、基板の所定位置にパターニングしてインキを転移する。本発明では、サブピクセルの間が40μm以上あり、精細度が1インチ当たり100ピクセル以下である形態が好ましい。
【0022】
有機発光層の形成後、陰極層を形成する。陰極層の材料としては、有機発光層の発光特性に応じたものを使用でき、例えば、リチウム、マグネシウム、カルシウム、イッテルビウム、アルミニウム等の金属単体やこれらと金、銀などの安定な金属との合金などが挙げられる。また、インジウム、亜鉛、錫などの導電性酸化物を用いることもできる。陰極層の形成方法としては、マスクを用いた真空蒸着法による形成方法が挙げられる。
最後にこれらの有機EL構成体を、外部の酸素や水分から保護するために、ガラスキャップと接着剤を用いて密封封止し、有機ELディスプレイパネルを得ることができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されない。
【0024】
実施例1
本実施例においては、既に画素電極、取り出し電極、TFT回路および回路を保護するための窒化シリコン膜からなる絶縁層を備え、当該窒化シリコン膜は各画素の周辺に形成されており、画素の発光領域は窒化シリコン膜が窓状に抜けて陽極のITOが剥き出しになっており、窒化シリコン膜の膜厚は0.4μmとした。
このTFT基板を用いて、その上に正孔輸送層、インターレイヤ層、発光層、陰極を順次形成して、アクティブマトリックス方式の有機ELディスプレイパネルを作成した。
用いたTFT基板の画素精細度は約100ppiで、従って画素ピッチは240μmであり、色画素(サブピクセル)のピッチは80μm、隣接する色画素同士の間は40μm、画素の発光領域であるITOが剥き出しとなった部分の幅も40μmであった。
正孔輸送層は、TFT基板上にPEDOT/PSSの水分散液をスピンコート法で塗布して膜厚50nmの薄膜を得ることで形成した。
発光層は有機発光材料であるポリフルオレン系のR材料、G材料、B材料をそれぞれ濃度1.5%になるようにキシレンに溶解させたRGB3色の有機発光インキを用い、凸版印刷法で印刷した。発光層印刷に用いた樹脂凸版は、凸部のラインがピッチが240μm、幅20μmでストライプに形成されたており、この版を用いて、RGBサブピクセル毎に、RGBストライプと平行な方向で、各色を3回に分けて印刷した。
その上に陰極層を抵抗過熱蒸着法により真空蒸着して形成した。最後にこれらの有機EL構成体を、外部の酸素や水分から保護するために、ガラスキャップと接着剤を用いて密閉封止し、有機ELディスプレイ用素子パネルを作成した。
得られたパネルの表示部の周縁部には、各画素電極に接続されている陽極側および陰極側それぞれの取り出し電極があり、これらをドライバーを介して駆動装置に接続することでパネルの点灯表示確認を行い、発光状態のチェックを行った。
このようにして作製したパネルについて、発光させた状態で、画素内の発光状態を評価した。また、発光層を印刷段階で画素内の発光層膜の膜形状を測定し、画素内の膜の平坦性も評価しておいた。
その結果、実施例1では混色なくRGB各色の色画素毎の塗膜形成が可能であり、また画素内の膜の平坦性も良好であった。画素内の発光状態も均一であった。
【0025】
実施例2
実施例2においては、用いたTFT基板の画素精細度が150ppi、画素ピッチ169μmで、色画素(サブピクセル)のピッチは56μm、隣接する色画素同士の間は28μm、画素の発光領域であるITOが剥き出しとなった部分の幅も28μmであった。
発光層の印刷には、凸部のラインがピッチが169μm、幅14μmでストライプに形成されるよう製版した樹脂凸版を用いて、RGBのサブピクセル毎に、RGBストライプと平行な方向で、各色を3回に分けて印刷した。
その他は実施例1と全く同様にして有機ELディスプレイパネルを作成した。
また実施例2でも、実施例1と同様の評価を行った。
その結果、実施例1では混色なくRGB各色の色画素毎の塗膜形成が可能であったが、画素内の膜の平坦性は実施例1に比較するとやや不良であった。画素内の発光状態も画素端部がやや暗く、均一性がやや悪かった。
【0026】
比較例1
比較例1においては、用いたTFT基板の画素精細度は実施例1と同じで100ppi、画素ピッチは240μmであり、色画素(サブピクセル)のピッチは80μm、隣接する色画素同士の間は40μm、画素の発光領域であるITOが剥き出しとなった部分の幅も40μmであった。
発光層の形成はインクジェット法でインキの塗布を試みた。発光材料インキは固形分濃度1%のものを、それぞれRGBインキ毎に、1画素当たりの滴下量を調整して最終膜厚100nmとなるように塗布した。
その結果、各色画素上にインキを保持することができず、各画素のインキが周辺の画素まで流れ、激しく混色した。したがって比較例1においてはパネル化は行わなかった。
【0027】
比較例2
比較例2においては、用いたTFT基板の画素精細度は実施例1と同じで100ppi、画素ピッチは240μmであり、色画素(サブピクセル)のピッチは80μm、隣接する色画素同士の間は40μm、画素の発光領域であるITOが剥き出しとなった部分の幅も40μmであった。
発光層の印刷には、凸部のラインがピッチが240μm、幅40μmでストライプに形成されるよう製版した樹脂凸版を用いて、RGBのサブピクセル毎に、RGBストライプと平行な方向で、各色を3回に分けて印刷した。
その他は実施例1と全く同様にして有機ELディスプレイパネルを作成した。
また比較例2でも、実施例1と同様の評価を行った。
その結果、比較例1ではRGB各色の色画素毎に印刷して形成したストライプ状の塗膜が隣接画素まで広がってしまい、一部混色を起した。
【0028】
比較例3
比較例3においては、用いたTFT基板の画素精細度は実施例1と同じで100ppi、画素ピッチは240μmであり、色画素(サブピクセル)のピッチは80μm、隣接する色画素同士の間は40μm、画素の発光領域であるITOが剥き出しとなった部分の幅も40μmで、各色画素(サブピクセル)はポリイミド樹脂からなる隔壁で仕切られ、隔壁の高さは2μmであった。
発光層の印刷には、凸部のラインがピッチが240μm、幅20μmでストライプに形成されるよう製版した樹脂凸版を用いて、RGBのサブピクセル毎に、RGBストライプと平行な方向で、各色を3回に分けて印刷した。
その他は実施例1と全く同様にして有機ELディスプレイパネルを作成した。
また比較例3でも、実施例1と同様の評価を行った。
その結果、比較例3では混色なくRGB各色の色画素毎の塗膜形成が可能であったが、画素内の膜の平坦性は実施例1に比較すると不良であった。画素内の発光状態も画素端部が暗く、均一性が悪かった。
【0029】
【表1】

【0030】
表1では、実施例1〜2及び比較例1〜3の混色状態の有無、画素内発光層膜厚の均一性、画素内発光の均一性について評価した結果を示す。
これからわかる通り、隔壁が形成されていないTFT基板を用いた実施例1〜2及び比較例1では、インクジェット法で塗布した比較例1が激しく混色して正常な塗布ができなかったのに対して、印刷法で塗布した実施例1〜2では、混色なく印刷可能であった。これは、印刷法によって塗布したインキの流動性がインクジェット法で塗布したインキに比べて低いことの効果であると思われる。
しかし、同じく隔壁が形成されていないTFT基板に印刷法で塗布した比較例2は、一部混色を起した。これは、実施例1〜2に比べて版の線幅が広かったための考えられる。
一方、画素内の膜厚平坦性や画素内での発光の均一性を比較すると、隔壁を形成していなTFT基板に印刷法で発光層を形成した実施例1〜2では、隔壁を有する比較例3に比べて平坦性、発光均一性ともに良好であった。これは、隔壁がないことにより、発光層の隔壁への塗れ上がりが起こらないことによると考えられる。
さらに、実施例1と実施例2を比較すると、実施例1の方が画素精細度100ppiであるのに対して実施例2は150ppiと高精細であるが、実施例2では混色こそ起していないが、印刷した発光層の線幅が隣接する画素の際まで広がっており、混色のリスクが高まっていた。
以上のことから、隔壁を形成しないTFT基板に、樹脂凸版印刷法で、例えば発光層を形成することで、混色を起すことなく、画素内の膜平坦性や発光均一性の良好な有機ELディスプレイパネルを作製することが可能となる。ただし、その場合の樹脂凸版の凸部の線幅はサブピクセルの開口部の幅の2分の1以下であることが望ましい。また、この方式で混色起す恐れの少ない画素精細度は100ppi以下と考えられる。
【符号の説明】
【0031】
8 版胴
9 樹脂凸版
10 ドクター
11 アニロックスロール
12 インキチャンバー
13 被印刷基板
14 基板工程台
15 インキ循環ポンプ
16 インキタンク
17 溶剤滴下装置
18 溶剤タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TFT基板の各画素上に有機エレクトロルミネッセンス素子が形成される有機エレクトロルミネッセンスディスプレイパネルにおいて、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する有機層の内、少なくとも一層が凸版印刷法を用いて各画素列の位置に合わせてストライプ状に形成され、
前記TFT基板は、各画素周辺に隔壁が形成されていないことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスディスプレイパネル。
【請求項2】
前記TFT基板上のTFT回路を保護するための絶縁層が、各画素の発光領域を除いた周辺部に形成されていることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンスディスプレイパネル。
【請求項3】
前記絶縁層と前記発光領域側の第一電極との段差が0.2μm〜1μmの範囲にあることを特徴とする請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンスディスプレイパネル。
【請求項4】
サブピクセルの間が40μm以上あり、精細度が1インチ当たり100ピクセル以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンスディスプレイパネル。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンスディスプレイパネルを製造する方法であって、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する有機層の内、少なくとも発光層を凸版印刷法によって各画素列の位置に合わせてストライプ状に形成する工程を有し、
前記発光層のストライプパターンの線幅を、サブピクセルの発光領域幅の2分の1以下にしたことを特徴とする、前記製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−257670(P2010−257670A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104714(P2009−104714)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】