説明

有機エレクトロルミネッセンス素子、それを備えた画像表示装置及び照明装置、電荷輸送材料、及びそれを含む電荷輸送層形成用インク

【課題】低駆動電圧、高発光効率、及び、長い寿命を有する有機EL素子を提供する
【解決手段】有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板と、基板上に設けられた第1電極と、第1電極の上に設けられた発光層と、発光層の上に設けられた第2電極と、発光層と第1電極との間、又は、発光層と第2電極との間に電荷輸送層が設けられ、ピロール環を含む複数の環からなる縮合環構造を高分子主鎖中に有し、高分子主鎖が共役系である高分子化合物を含む電荷輸送材料で形成された電荷輸送層と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子、それを備えた画像表示装置及び照明装置、電荷輸送材料、及びそれを含む電荷輸送層形成用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロルミネッセンス素子(以下、「EL素子」と略すことがある。)は自発光性の全固体素子である。EL素子は視認性が高く、衝撃耐久性に優れている。このため、広く応用が期待されている。
【0003】
EL素子は無機発光材料を用いる無機EL素子と有機発光材料を用いる有機EL素子とに大別される。
【0004】
現在、無機EL素子の方が広く用いられている。しかし、無機EL素子は駆動に200V以上もの高い交流電圧を要する。また、無機EL素子は製造コストが高く、輝度が低い。一方、有機EL素子は無機EL素子と比較して駆動電圧が低く、製造が容易である。このため、近年特に盛んに研究がなされている。
【0005】
有機EL素子の研究は、アントラセンの単結晶薄膜を発光層として用いた素子から始められた。しかし、アントラセンの単結晶の薄膜を形成することは困難であった。研究初期段階では、発光層の層厚は1mm程度と厚いものであった。このため、駆動電圧が100V以上と高かった。
【0006】
そこで、蒸着法を用いてアントラセンの単結晶薄膜を得る試みがなされている。しかしながら、蒸着法により形成されたアントラセン薄膜を発光層として用いた有機EL素子であっても、駆動電圧が30V以上と高い。また、アントラセン薄膜を用いた有機EL素子では、発光層中の電子やホール等のキャリア密度が低い。このため、キャリアの再結合による励起確率が低く、十分な輝度が得られないという問題がある。
【0007】
近年、駆動電圧が低く、高い輝度を有する有機EL素子として、正孔輸送機能を有する有機化合物からなるホール輸送層と、電子輸送機能を有する有機発光材料からなる発光層とを有する機能分離型の有機EL素子が提案されている。一般的に、ホール輸送層と発光層とは真空蒸着法を用いて形成される。機能分離型有機EL素子は10V程度といった低い駆動電圧を有する。また、1000cd/m以上といった高い輝度を有する。このため、近年活発に研究が行われている。
【0008】
機能分離型有機EL素子において十分な発光性能を得るためには、それぞれの有機層を例えば0.1μm以下と非常に薄く形成する必要がある。しかし、有機層の層厚を薄くするほど有機層にピンホールが生じやすくなる。従って、機能分離型有機EL素子では、高い発光性能、高い生産性、及び大面積化を同時に達成することが困難であるという問題がある。
【0009】
また、機能分離型有機EL素子は数mA/cm以上という高い電流密度状態で駆動する必要がある。このため、駆動により大量の熱が発生する。よって、テトラフェニルジアミン誘導体等のホール輸送材料が次第に結晶化する。従って、ホール輸送層のホール輸送性能が低下するため、経時的に有機EL素子の輝度が低下する。その結果、機能分離型有機EL素子は、安定性が低く、製品としての寿命が短いという問題がある。
【0010】
このような問題に鑑み、安定したアモルファス状態が得られるスターバーストアミンをホール輸送材料として用いた機能分離型有機EL素子が提案されている。また、側鎖にトリフェニルアミンを有するポリフォスファゼンのポリマーをホール輸送材料に用いた機能分離型有機EL素子が提案されている。
【0011】
一方、有機層として発光層のみを有するポリマー単層構造の有機EL素子の研究開発も近年盛んに行われている。ポリマー単層構造の有機EL素子では、発光層形成用ポリマーとして、ポリフェニレンビニレン等の導電性ポリマーや、電子輸送材料と発光色素とが混入された正孔輸送性ポリビニルカルバゾール(以下、「PVCz」と略すことがある。)等が用いられている。ポリマー単層構造の有機EL素子は、上述した機能分離型有機EL素子と比較して、高い生産性を有する。しかしながら、ポリマー単層構造の有機EL素子は、駆動電圧が高く、発光効率及び安定性が低いという問題がある。
【0012】
このような問題に鑑みて、二層積層型の有機EL素子が提案されている。二層積層型の有機EL素子は、発光層と、発光層に積層され、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンサルフォネート(以下、「PEDOT/PSS」と略すことがある。)を含む有機層とを有する。2層積層型の有機EL素子は、ポリマー単層構造を有する有機EL素子と比較して、低い駆動電圧、高発光効率、及び高い安定性を有する。しかし、機能分離型の有機EL素子と比較すると、駆動電圧が高く、発光効率が低い。さらに素子としての寿命が短いという問題がある。尚、2層積層型EL素子が短寿命である原因は発光層内で電荷を効果的に閉じ込めることができないことである。
【0013】
このような2層積層型EL素子が有する問題に鑑みて、2層積層型EL素子の発光層とホール注入電極との間にPVCz層をさらに積層した3層積層型EL素子が提案されている。この3層積層型EL素子によれば、2層積層型EL素子よりもさらに低い駆動電圧、及び高い発光効率を得ることができる。
【0014】
また、発光層からの電子の流出を抑制する電子ブロック層として、PVCz層が設けられた有機EL素子も提案されている(例えば、非特許文献1)。PVCzは広いバンドギャップを有するため、PVCz層は高い電子ブロック機能を有する。従って、この有機EL素子は高い量子効率を有すると記載されている。
【非特許文献1】J. Appl. Phys., Vol. 89 ,4, 2343-2350 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、スターバーストアミンや、ポリフォスファゼンの側鎖にトリフェニルアミンを導入したポリマーをホール輸送材料として用いた機能分離型有機EL素子では、陽極からの正孔注入性、及び発光層へのホール輸送性が低く、十分に高い発光効率が得られないという問題がある。
【0016】
側鎖にトリフェニルアミンを有するポリフォスファゼンのポリマーをホール輸送材料として用いた機能分離型有機EL素子では、高い電流密度が得られず、十分な輝度が得られないという問題がある。
【0017】
また、3層積層型EL素子やPVCz層を電子ブロック層として設けた有機EL素子は、導電性が低いPVCz層を有するため、駆動電圧が高く、発光効率が低いという問題がある。
【0018】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、低駆動電圧、高発光効率、及び、長い寿命を有する有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係る有機EL素子は、基板と、第1電極と、発光層と、第2電極と、電荷輸送層とを有する。第1電極は基板上に設けられている。発光層は第1電極の上に設けられている。第2電極は発光層の上に設けられている。すなわち、発光層は第1電極と第2電極との間に設けられている。電荷輸送層は発光層と第1電極との間、又は、発光層と第2電極との間に設けられている。電荷輸送層は電荷輸送材料で形成されている。電荷輸送材料は高分子化合物を含む。高分子化合物はピロール環を含む複数の環からなる縮合環構造を高分子主鎖中に有する。高分子化合物の高分子主鎖は共役系である。
【0020】
本発明に係る有機EL素子では、高分子化合物が、下記化学式(1)で表されるカルバゾール又はカルバゾール誘導体を高分子主鎖中に有し、主鎖が共役系であってもよい。
【0021】
【化1】

(式中、R〜Rは、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、エーテル基、エステル基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリールアミノ基、アリールシリル基、アリールアルコキシル基、アリールアルキルチオ基、アリールアルキルアミノ基、アリールアルキルシリル基、アシルオキシ基、イミノ基、及び、アミド基のいずれかである。)
【0022】
化学式(1)で表されるカルバゾール又はカルバゾール誘導体のそれぞれは3,6位又は、2,7位で重合結合していることが好ましい。
【0023】
本発明に係る有機EL素子では、電荷輸送層が発光層と第1電極との間に設けられたホール輸送層であることが好ましい。
【0024】
ホール輸送層は発光層からホール輸送層への電子の移動を規制するものであることが好ましい。
【0025】
また、ホール輸送層の電子親和力の絶対値が発光層の電子親和力の絶対値よりも小さいことが好ましい。
【0026】
本発明に係る有機EL素子は発光層と第1電極との間にホール注入層をさらに有していてもよい。
【0027】
本発明に係る電荷輸送材料はピロール環を含む複数の環からなる縮合環構造を高分子主鎖中に有し、主鎖が共役系である高分子化合物を含む。
【0028】
本発明に係る電荷輸送材料では、高分子化合物が、上記化学式(1)で表されるカルバゾール又はカルバゾール誘導体を高分子主鎖中に有し、主鎖が共役系であってもよい。
【0029】
本発明に係る電荷輸送層形成用インクは沸点が110℃以上の有機溶媒と、有機溶媒に溶解された高分子化合物を含む電荷輸送材料とを含む。高分子化合物は下記化学式(2)で表されるカルバゾール又はカルバゾール誘導体を高分子主鎖中に有する。高分子化合物の主鎖は共役系である。
【0030】
【化2】

(式中、Rは炭素数が2以上のアルキル基、又は炭素数が6以上のアリールアルキル基である。R〜Rのそれぞれは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、エーテル基、エステル基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリールアミノ基、アリールシリル基、アリールアルコキシル基、アリールアルキルチオ基、アリールアルキルアミノ基、アリールアルキルシリル基、アシルオキシ基、イミノ基、及び、アミド基のいずれかである。)
【0031】
本発明に係る電荷輸送層形成用インクでは、有機溶媒が、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン類、テトラリン類、テトラメチルベンゼン類、又はテトラエチルベンゼン類といった芳香族有機溶媒であってもよい。
【0032】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置(以下、「有機EL画像表示装置」とすることがある。)は、本発明に係る有機EL素子を備えている。
【0033】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス照明装置(以下、「有機EL照明装置」とすることがある。)は、本発明に係る有機EL素子を備えている。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、低駆動電圧、高発光効率、及び、長い寿命を有する有機EL素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0036】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る有機EL素子100の断面図である。
【0037】
この有機EL素子100は、基板110と、第1電極120と、発光層133を含む有機層130と、第2電極140とを有する。第1電極120は基板110上に設けられている。有機層130は第1電極120の上に設けられている。第2電極140は有機層130の上に設けられている。有機エレクトロルミネッセンス素子100には、第1電極120、有機層130、及び第2電極140を覆う封止キャップ150が設けられている。
【0038】
有機層130は、ホール注入層131と、ホール輸送層132と、発光層133と、電子輸送層134と、電子注入層135とを有する。ホール注入層131は第1電極120の上に設けられている。ホール輸送層132はホール注入層131の上に設けられている。発光層133はホール輸送層132の上に設けられている。電子輸送層134は発光層133の上に設けられている。電子注入層135は電子輸送層134の上に設けられている。
【0039】
この有機EL素子100は、電荷輸送層として、ホール注入層131、ホール輸送層132、電子輸送層134、及び、電子注入層135を有する。換言すれば、有機層130は、発光層133、ホール注入層131、ホール輸送層132、電子輸送層134、及び、電子注入層135により構成されている。しかし、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、有機層130をホール注入層131、ホール輸送層132、電子輸送層134、及び、電子注入層135のうち1層以上と、発光層とにより構成してもよい。
【0040】
第1電極120は有機層130にホールを注入する。第2電極140は有機層130に電子を注入する。ホール注入層131は発光層133へのホール注入効率を向上する。ホール輸送層132は第1電極120により注入されたホールの発光層133への輸送効率を向上する。電子注入層135は第2電極140から発光層133への電子注入効率を向上する。電子輸送層134は第2電極140から注入された電子の発光層133への輸送効率を向上する。
【0041】
有機EL素子100では、ホール注入層131及びホール輸送層132を経由して第1電極120から注入されたホールと、電子注入層135及び電子輸送層134を経由して第2電極140により注入された電子とが、発光層133において再結合される。再結合により得られたエネルギーにより発光層133中の有機発光分子が励起される。励起された有機発光性分子が失活する際に発光を生じる。
【0042】
基板110は、無機材料、プラスティック材料、絶縁性材料等により形成することができる。無機材料としては、ガラス、石英等が挙げられる。プラスティック材料としてはポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。絶縁性材料としては、例えば、アルミナ等のセラミックスが挙げられる。
【0043】
また、基板110を金属基板に絶縁材料をコートした基板としてもよい。金属基板としてはアルミニウム基板、ステンレス(SUS)基板等が挙げられる。絶縁材料としてはSiO、有機絶縁性材料等が挙げられる。基板110を表面が絶縁化処理された金属基板としてもよい。絶縁化処理の方法としては陽極酸化法等が挙げられる。
【0044】
基板110は薄膜トランジスタ(TFT)素子等のスイッチング素子を有していてもよい。この場合、基板110は例えば500℃以上の温度において歪を生じないような耐熱性を有することが好ましい。特に、高温プロセスによってTFT素子を形成する場合は、基板110は1000℃以上の耐熱性を有することが好ましい。
【0045】
第1電極120は、有機層130への高いホール注入効率を実現する観点から、仕事関数の絶対値が大きい材料により形成されることが好ましい。そうすることによって、高い発光効率を実現することができる。このため、高輝度な有機EL素子100を実現することができる。仕事関数の絶対値が大きい材料としては、例えば、金(Au)、プラチナ(Pt)、ニッケル(Ni)等が挙げられる。
【0046】
有機EL素子100が第1電極120側から発光層133の発光を取り出すボトムエミッション方式である場合は、第1電極120が光透過率の高い材料により形成されていることが好ましい。そうすることによって、発光層133の発光の取り出し効率を向上することができる。光透過率の高い材料としては、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、フッ素 ドープ酸化スズ(FTO)、酸化錫(SnO)等が挙げられる。
【0047】
一方、有機EL素子100が第2電極140側から発光層133の発光を取り出すトップエミッション方式である場合には、第1電極120が光反射性の材料により形成されていることが好ましい。この場合、発光層133から第1電極120側に出射された光は光反射性に構成された第1電極120により第2電極140側に反射される。このため、発光層133の発光の取り出し効率を向上することができる。光反射性の材料としては、例えば、アルミニウム(Al)やプラチナ(Pt)等が挙げられる。
【0048】
有機EL素子100がトップエミッション方式である場合は、第1電極120は仕事関数が大きい材料からなる層と光反射率が高い材料からなる層との複層構造であってもよい。複層構造とすることによって、有機層130への高いホール注入効率と、発光層133の発光の高い取り出し効率との双方を実現することができる。
【0049】
有機層130への高い電子注入効率を実現する観点から、第2電極140は仕事関数の絶対値の小さな材料により形成されることが好ましい。尚、仕事関数の絶対値の小さい材料としては、例えば、カルシウム(Ca)、セリウム(Ce)、セシウム(Cs)、バリウム(Ba)、マグネシウム(Mg)等が挙げられる。
【0050】
有機EL素子100がトップエミッション方式である場合には、第2電極140が光透過率の高い材料により形成されることが好ましい。そうすることによって、発光層133の発光の取り出し効率を向上することができる。光透過率の高い材料としては、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、フッ素 ドープ酸化スズ(FTO)、酸化錫(SnO)等が挙げられる。
【0051】
一方、有機EL素子100がボトムエミッション方式である場合には、第2電極140が光反射性の材料により形成されることが好ましい。この場合、発光層133から第2電極140側へ出射された光は、光反射性に構成された第2電極140により第1電極120側に反射される。このため、発光層133の発光の取り出し効率を向上することができる。尚、光反射性を有する材料としては、例えば、アルミニウム(Al)やプラチナ(Pt)等が挙げられる。
【0052】
第2電極140を、例えばカルシウム(Ca)等の仕事関数の小さな材料からなる層と、例えばアルミニウム(Al)等の酸素に対して安定であり導電率の高い層との積層構造(例えば、Ca層/Al層、Ce層/Al層、Cs層/Al層、Ba層/Al層等)としてもよい。また、第2電極140を仕事関数の小さな材料と酸素に対して安定であり導電率の高い材料との合金からなる層(Ca:Al合金、Mg:Ag合金、Li:Al合金等)としてもよい。例えばカルシウム(Ca)等の仕事関数の小さい材料は比較的酸化されやすい。しかし、この構成によれば、比較的参加されやすい仕事関数の小さい材料が酸素に対して安定な材料により覆われる。このため、仕事関数の小さい材料の酸化を効果的に抑制することができる。よって、長い寿命を有する有機EL素子100を実現することができる。
【0053】
第2電極140を薄膜の絶縁層と低い仕事関数を有する層との積層構造(LiF層/Al層、LiF層/Ca層/Al層、BaF層/Ba層/Al層等)としてもよい。また、透明導電性材料に仕事関数の低い材料をドープした層(ITO:Cs層、IDIXO:Cs層、SnO:Cs層等)としてもよい。また、透明導電性材料からなる層と、仕事関数の低い材料からなる層との積層構造(Ba層/ITO層、Ca層/IDIXO層、Ba層/SnO層等)としてもよい。
【0054】
発光層133は1種又は2種以上の発光材料を含む。発光材料は低分子発光材料、高分子発光材料、及び高分子発光材料の前駆体に大別することができる。
【0055】
低分子発光材料としては、例えば、芳香族ジメチリデェン化合物、オキサジアゾール化合物、トリアゾール誘導体、スチリルベンゼン化合物、チオピラジンジオキシド誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、フルオレノン誘導体等が挙げられる。具体的に、芳香族ジメチリデェン化合物としては、4,4'−ビス(2,2'−ジフェニルビニル)−ビフェニル(DPVBi)等が挙げられる。オキサジアゾール化合物としては、5−メチル−2−[2−[4−(5−メチル−2−ベンゾオキサゾリル)フェニル]ビニル]ベンゾオキサゾール等が挙げられる。トリアゾール誘導体としては、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−t−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等が挙げられる。スチリルベンゼン化合物としては1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン等が挙げられる。また金属を含む低分子発光材料として、アゾメチン亜鉛錯体、(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム錯体(Alq)等が挙げられる。
【0056】
高分子発光材料としては、例えば、ポリ(2−デシルオキシ−1,4−フェニレン)(DO−PPP)、ポリ[2,5−ビス−[2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)エトキシ]−1,4−フェニル−アルト−1,4−フェニレン]ジブロマイド(PPP−NEt3+)、ポリ[2−(2'−エチルヘキシルオキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)、ポリ[5−メトキシ−(2−プロパノキシサルフォニド)−1,4−フェニレンビニレン](MPS−PPV)、ポリ[2,5−ビス−(ヘキシルオキシ)−1,4−フェニレン−(1−シアノビニレン)](CN−PPV)、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)(PDAF),ポリスピロ(PS)等が挙げられる。
【0057】
高分子発光材料の前駆体としてはPPV前駆体、PNV前駆体。PPP前駆体等が挙げられる。
【0058】
発光層133は、発光アシスト剤、電荷輸送材料、ドナーやアクセプター等の添加剤、発光性のドーパント、レベリング剤、電荷注入材料、結着用の樹脂等をさらに含有していてもよい。結着用の樹脂としては、ポリカーボネート、ポリエステル等が挙げられる。
【0059】
ホール注入層131は第1電極120からの発光層133へのホール注入効率を向上する。ホール注入層131を設けることにより、発光層133への高いホール注入効率及び高い発光効率を実現することができる。
【0060】
ホール注入層131は1種又は2種以上のホール注入材料を含む。ホール注入材料は低分子材料とp型導電性高分子材料とに大別することができる。
【0061】
低分子のホール注入材料としては、例えば、銅フタロシアニン(CuPc)などの金属フタロシアニン類、フタロシアニン類、4,4´4´−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、N,N´−(3−メチルフェニル)−1,1´−ビフェニル−4,4´−ジアミン(TPD)等が挙げられる。
【0062】
p型導電性高分子材料としては、ポリアニリン(PANI)、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンサルフォネイト(PEDOT/PSS)、ポリピロール、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリシラン、ポリシロキサン、及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0063】
ホール注入層131は、例えば、ドナーやアクセプター等の添加剤、レベリング剤、結着用の樹脂等をさらに含有していてもよい。
【0064】
ホール注入層131の最高被占分子軌道(Highest Occupied Molecular Orbital;以下、「HOMO」と略すことがある。)のエネルギー準位が第1電極120のエネルギー準位とホール輸送層132のHOMOのエネルギー準位との間であることが好ましい。そうすることによって、より高いホール注入効率を実現することができる。
【0065】
電子注入層135は第2電極140から発光層133への電子注入効率を向上する。電子注入層135は、1種又は2種以上の電子注入材料を含む。電子注入材料としては、低分子材料とn型導電性高分子とが挙げられる。
【0066】
低分子の電子注入材料としては、アゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。具体的に、アゾール誘導体としては、3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)1,2,4−トリアゾール等が挙げられる。オキサジアゾール誘導体としては、1,3−ビス{[4−(4−ジフェニルアミノ)]フェニル−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル}ベンゼン等が挙げられる。n型導電性高分子としては、電子親和性の高いポリチオフェン等が挙げられる。
【0067】
電子注入層135はドナーやアクセプター等の添加剤、レベリング剤、結着用の樹脂等をさらに含有していてもよい。
【0068】
電子注入層135の最低空分子軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital;以下、「LUMO」と略すことがある。)のエネルギー準位は第2電極140のエネルギー準位よりも低く、発光層133のLUMOレベルより高いことが好ましい。そうすることによって、より高い電子の注入効率を実現することができる。
【0069】
本実施形態1に係る有機EL素子100では、ホール輸送層132が、ピロール環を含む複数の環からなる縮合環構造を高分子主鎖中に有し、その主鎖が共役系である高分子化合物(以下、「高分子化合物A」と略す。)を含む電荷輸送材料により形成されている。
【0070】
高分子化合物Aは少なくともピロール環を含む複数の環からなる縮合環構造を高分子主鎖中に有していればよい。高分子化合物Aは高分子主鎖中にさらにその他の構造を有していてもよい。
【0071】
高分子化合物Aは、分子量が1,000以上10,000,000以下であることが好ましい。分子量が1,000未満である場合は、成膜性が悪くなり、平坦性のある膜を得ることが困難になる傾向にある。分子量を1,000以上とすることによって、成膜性を向上することができる。このため、ホール輸送層132の平坦性を向上することができる。
【0072】
分子量が10,000,000より大きい場合は、溶剤に対する溶解性が乏しくなり、均一なホール輸送層132を成膜することが困難になる傾向にある。分子量を10,000,000以下とすることによって、溶剤に対する溶解性を向上することができる。このため、ホール輸送層132の成膜が容易となる。
【0073】
高分子化合物Aは一般に発光層133に用いられる発光材料(ポリフルオレン誘導体等)よりもHOMOのエネルギー準位が高い。このため、高分子化合物Aを用いることによって、発光層133へのホール注入効率を向上することができる。従って、高発光効率、高輝度、長寿命、低駆動電圧を実現することができる。
【0074】
高分子化合物Aは、LUMOレベルとHOMOレベルとの間のエネルギーギャップが大きい。また、上述のように、一般的に発光層133に用いられる発光材料よりもLUMOレベルが高い。つまり、高分子化合物Aを含有するホール輸送材料で形成されたホール輸送層132の電子親和力の絶対値は発光層133の電子親和力の絶対値よりも小さい。このため、発光層133からホール輸送層132への電子の移動を効果的に抑制することができる(電子ブロック機能)。従って、高発光効率、高輝度、長寿命、低駆動電圧を実現することができる。
【0075】
高分子化合物Aは、具体的に、下記化学式(1)で表されるカルバゾール又はカルバゾール誘導体を高分子主鎖中に有し、その主鎖が共役系である高分子化合物(以下、「高分子化合物B」と略すことがある。)であってもよい。
【0076】
【化1】

(式中、R〜Rは、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、エーテル基、エステル基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリールアミノ基、アリールシリル基、アリールアルコキシル基、アリールアルキルチオ基、アリールアルキルアミノ基、アリールアルキルシリル基、アシルオキシ基、イミノ基、及び、アミド基のいずれかである。)
【0077】
高分子化合物Bを用いて形成したホール輸送層132は、好適なエネルギーバンドを有する。具体的には、HOMOレベルが発光層133よりも高い。LUMOレベルが発光層133のLUMOレベルより高い。このため、発光層133へのホールの移動が容易となると共に、発光層からの電子の移動が抑制される。従って、高発光効率、高輝度、低駆動電圧を実現することができる。
【0078】
高分子化合物Bは高い熱的安定性を有する。このため。高分子化合物Bを用いることによって、ホール輸送層132の高い熱的安定性を実現することができる。
【0079】
高分子化合物Bの主鎖中に含まれる化学式(1)で表されるカルバゾール又はカルバゾール誘導体は3,6位又は2,7位で重合結合していることが好ましい。カルバゾール又はカルバゾール誘導体の3,6位又は2,7位で重合結合した高分子化合物Bは容易に合成することができる。このため、安価に入手可能であるため、安価にホール輸送層を形成することができる。
【0080】
化学式高分子化合物BのHOMOレベルが発光層133のHOMOレベルより高く、かつ高分子化合物BのLUMOレベルが発光層133のLUMOレベルよりも高くなるような組み合わせであれば、置換基R〜Rは限定されない。例えば、R〜Rのそれぞれは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、エーテル基、エステル基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリールアミノ基、アリールシリル基、アリールアルコキシル基、アリールアルキルチオ基、アリールアルキルアミノ基、アリールアルキルシリル基、アシルオキシ基、イミノ基、又は、アミド基であってもよい。
【0081】
ホール輸送層132の成膜性の観点から、化学式Rは炭素数が2以上のアルキル基又は炭素数が6以上のアリールアルキル基であることが好ましい。ホール輸送層132をインクジェット法により形成する場合、高分子化合物Bを比較的高い沸点(例えば、150℃以上)の溶媒に溶解させる必要がある。高分子化合物Bを沸点の低い溶媒に溶解させた場合、ホール輸送層132形成工程において溶媒が揮発し、均一なホール輸送層132を形成することが困難となるからである。化学式Rを炭素数が2以上のアルキル基又は炭素数が6以上のアリールアルキル基とすることによって比較的高い沸点の芳香環を有する溶媒に対する溶解度を向上することができる。従って、この構成によれば、インクジェット法を用いてホール輸送層132を高い均一性で形成することができる。尚、比較的高い沸点の芳香環を有する溶媒としては、例えば、トルエン、テトラメチルベンゼン、又は、テトラエチルベンゼン等が挙げられる。
【0082】
化学式(1)で表されるカルバゾール又はカルバゾール誘導体の具体例としては、例えば、化学式(3)〜(9)で表されるカルバゾール又はカルバゾール誘導体が挙げられる。
【0083】
【化3】

【0084】
【化4】

【0085】
【化5】

【0086】
【化6】

【0087】
【化7】

【0088】
【化8】

【0089】
【化9】

【0090】
高分子化合物Bは、例えば、下記化学式(10)〜化学式(16)で表される単独重合体であってもよい。高分子化合物Bが単独重合体である場合は合成が容易であるという利点がある。尚、化学式下記化学式(10)で表されるN−n−デシルポリカルバゾールは化学式(3)で表される単量体を重合したものである。化学式下記化学式(11)で表されるN−n−9−デセン−ポリカルバゾールは化学式(4)で表される単量体を重合したものである。化学式下記化学式(12)で表されるN−4−アルキルフェニルポリカルバゾールは化学式(5)で表される単量体を重合したものである。化学式下記化学式(13)で表されるN−4−フェニルアルキルポリカルバゾールは化学式(6)で表される単量体を重合したものである。化学式下記化学式(14)で表されるN−4−メトキシフェニルポリカルバゾールは化学式(7)で表される単量体を重合したものである。化学式下記化学式(15)で表されるN−3−エトキシカルボニルフェニルポリカルバゾールは化学式(8)で表される単量体を重合したものである。化学式下記化学式(16)で表されるN−2−プロピニルポリカルバゾールは化学式(9)で表される単量体を重合したものである。
【0091】
【化10】

(式中、nは5以上の自然数である。)
【0092】
【化11】

(式中、nは5以上の自然数である。)
【0093】
【化12】

(式中、nは5以上の自然数、mは0〜12の整数である。)
【0094】
【化13】

(式中、nは5以上の自然数、mは0〜4の整数である。)
【0095】
【化14】

(式中、nは5以上の自然数である。)
【0096】
【化15】

(式中、nは5以上の自然数である。)
【0097】
【化16】

(式中、nは5以上の自然数である。)
【0098】
高分子化合物Bは、化学式(1)で表される単量体のうち、R〜Rの異なる複数種類の単量体を共重合させたものであってもよい。例えば、高分子化合物Bは下記化学式(17)〜化学式(20)で表される二元共重合体であってもよい。二元共重合体であれば、共重合体比率を変化させることによって、イオン化ポテンシャルやホール輸送能力等の材料特性を調節することができる。尚、下記化学式(17)で表される二元共重合体は化学式(3)で表される単量体と化学式(4)で表される単量体とを重合したものである。下記化学式(18)で表される二元共重合体は化学式(3)で表される単量体と化学式(9)で表される単量体とを重合したものである。下記化学式(19)で表される二元共重合体は化学式(5)で表される単量体と化学式(3)で表される単量体とを重合したものである。下記化学式(20)で表される二元共重合体は化学式(7)で表される単量体と化学式(3)で表される単量体とを重合したものである。
【0099】
【化17】

(式中、nは5以上の自然数である。Xは0.0001〜0.9999である。)
【0100】
【化18】

(式中、nは5以上の自然数である。Xは0.0001〜0.9999である。)
【0101】
【化19】

(式中、nは5以上の自然数である。Xは0.0001〜0.9999である。)
【0102】
【化20】

(式中、nは5以上の自然数である。Xは0.0001〜0.9999である。)
【0103】
高分子化合物Bは化学式(1)で表される単量体と他の構造を有する単量体とを共重合させたものであってもよい。この構成によれば、高分子化合物B中に他の機能を有する単量体を含有させることができる。このため、ホール輸送性以外の別の機能を高分子化合物Bに付与することができる。
【0104】
高分子化合物Bはポリフルオレンとカルバゾール化合物との共重合体であってもよい。この場合、共重合体比率を変化させることによって、イオン化ポテンシャルやホール輸送能力等の材料特性を調節することができる。具体的には、下記化学式(21)〜化学式(24)で表される共重合体であってもよい。下記化学式(21)で表される二元共重合体は化学式(3)で表されるカルバゾール化合物とジノルマルヘキシルポリフルオレンとを共重合させたものである。下記化学式(22)で表される二元共重合体は化学式(7)で表されるカルバゾール化合物とジノルマルヘキシルポリフルオレンとを共重合させたものである。下記化学式(23)で表される二元共重合体は化学式(8)で表されるカルバゾール化合物とジノルマルヘキシルポリフルオレンとを共重合させたものである。下記化学式(24)で表される三元共重合体は、化学式(3)で表されるカルバゾール化合物と、化学式(4)で表されるカルバゾール化合物と、ジノルマルヘキシルポリフルオレンとを共重合させたものである。
【0105】
【化21】

(式中、nは5以上の自然数、Xは0.0001〜0.9999である。)
【0106】
【化22】

(式中、nは5以上の自然数、Xは0.0001〜0.9999である。)
【0107】
【化23】

(式中、nは5以上の自然数、Xは0.0001〜0.9999である。)
【0108】
【化24】

(式中、nは5以上の自然数、Xは0.0001〜0.9998、Y0.0001〜0.9998である。)
【0109】
また、高分子化合物Bは、例えば、シラン化合物とカルバゾール化合物との共重合体であってもよい。具体的には、下記化学式(25)、化学式(26)で表される共重合体であってもよい。この場合、共重合体比率を変化させることによってイオン化ポテンシャルやホール輸送能力等の材料特性を調節することができる。尚、下記化学式(25)で表される二元共重合体は化学式(3)で表されるカルバゾール化合物とメチルフェニルシランとを共重合させたものである。下記化学式(26)で表される二元共重合体は化学式(3)で表されるカルバゾール化合物とフェネチルフェニルシランとを共重合させたものである。
【0110】
【化25】

(式中、nは5以上の自然数、Xは0.0001〜0.9999である。)
【0111】
【化26】

(式中、nは5以上の自然数、Xは0.0001〜0.9999である。)
【0112】
また、高分子化合物Bは、例えば、トリフェニルアミン化合物とカルバゾール化合物との共重合体であってもよい。具体的には、下記化学式(27)〜下記化学式(28)で表される重合体であってもよい。この場合、共重合体比率を変化させることによってイオン化ポテンシャルやホール輸送能力等の材料特性を調節することができる。尚、下記化学式(27)で表される二元共重合体は化学式(3)で表されるカルバゾール化合物と(3−エトキシカルボニルフェニル)ジフェニルアミンとを共重合させたものである。下記化学式(28)で表される二元共重合体は化学式(3)で表されるカルバゾール化合物と(4−メトキシフェニル)ジフェニルアミンとを共重合させたものである。下記化学式(29)で表される二元共重合体は化学式(3)で表されるカルバゾール化合物とN,N´−ジ(エトキシカルボニルフェニル)−N,N´−ジフェニルベンジジンとを共重合させたものである。下記化学式(30)で表される二元共重合体は化学式(3)で表されるカルバゾール化合物と(3−エトキシカルボフェニル)ジフェニルアミンとを共重合させたものである。
【0113】
【化27】

(式中、nは5以上の自然数、Xは0.0001〜0.9999である。)
【0114】
【化28】

(式中、nは5以上の自然数、Xは0.0001〜0.9999である。)
【0115】
【化29】

(式中、nは5以上の自然数、Xは0.0001〜0.9999である。)
【0116】
【化30】

(式中、nは5以上の自然数、Xは0.0001〜0.9999である。)
【0117】
また、ホール輸送層132は上述のホール輸送材料(高分子化合物Aや高分子化合物B等)のうちの1種又は2種以上により形成されていてもよい。
【0118】
また、ホール輸送層132は、ドナーやアクセプター等の添加剤、レベリング剤、結着用の樹脂、その他の高分子、他のホール輸送材料等をさらに含有していてもよい。
【0119】
具体的には、例えば、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリ(2,5−フェニレンビニレン)、これらの誘導体、ポリカーボネート、ポリシロキサン、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエーテルスルホンなどの高分子化合物をさらに含有していてもよい。また、4, 4'−ビス(N−3−メチルフェニル−N−フェニルアミノ)ビフェニル、1, 3, 5−トリス(N,N−ジフェニルアミノ)ベンゼン及びそれらの誘導体等をさらに含有していてもよい。電子輸送材料として、アゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体等を含有していてもよい。アゾール誘導体としては、3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)1,2,4−トリアゾール等が挙げられる。オキサジアゾール誘導体としては、1,3−ビス{[4−(4−ジフェニルアミノ)]フェニル−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル}ベンゼン等が挙げられる。
【0120】
電子輸送層134は第2電極140から注入された電子の発光層133への輸送効率を向上させる。電子輸送層134は例えば高分子化合物Bを含んでいてもよい。高分子化合物Bを含ませることによって、電子注入効率、及び電子輸送効率を向上することができる。
【0121】
高い電子輸送性能、高輝度を実現する観点から、電子輸送層134は、上記化学式(1)で表されるカルバゾールまたはカルバゾール誘導体からなる単量体と、電子輸送性能の高い単量体との共重合体を含むことが好ましい。具体的には、電子輸送層134が上記化学式(21)〜(24)等で表される共重合体のうち1種又は2種以上を含むことが好ましい。
【0122】
電子輸送層134は、ドナーやアクセプター等の添加剤、レベリング剤、結着用の樹脂等をさらに含有していてもよい。
【0123】
尚、ホール注入層131、ホール輸送層132、発光層133、電子輸送層134、及び電子注入層135のそれぞれの層厚は0.5nm以上1μm以下であることが好ましく、10nm以上200nm以下であることがより好ましい。
【0124】
各層の層厚が0.5nm未満であれば、ピンホールが発生する可能性が高くなる傾向にある。各層の層厚を0.5nm以上とすることでピンホールの発生を効果的に抑制することができる。また、さらに効果的にピンホールの発生を抑制する観点から、各層の層厚は10nm以上であることが好ましい。
【0125】
各層の層厚が1μmより大きい場合は、電気抵抗が増加し、有機EL素子100の駆動電圧が高くなる傾向にある。各層の層厚を1μm以下にすることで、駆動電圧を効果的に低下させることができる。より低い駆動電圧を実現する観点から、各層の層厚は200nm以下であることが好ましい。
【0126】
封止キャップ150は、第1電極120、有機層130、及び、第2電極140を外気から遮断する。封止キャップ150を設けることによって、素子内への酸素や水分等の進入により有機EL素子100が劣化することを効果的に抑制することができる。
【0127】
封止キャップ150は酸素透過率の低いものであることが好ましい。例えば、封止キャップ150はガラスや金属等により形成することができる。
【0128】
素子内への酸素や水分等の進入をより効果的に防止する観点から、封止キャップ150の内部に窒素やアルゴン等の不活性ガスを充填しておくことが好ましい。酸素や水分の素子内への侵入をさらに効果的に防止する観点から、封止キャップ150中に酸化バリウム等の吸湿剤を設けることが好ましい。
【0129】
次に、有機EL素子100の製造方法について説明する。
【0130】
まず、ガラス等からなる基板110上にインジウムスズ酸化物(ITO)等からなる導電膜を成膜する。成膜方法は、ドライプロセスであってもウエットプロセスであってもよい。具体的に、ドライプロセスとしては、スパッタ法、蒸着法、EB法、MBE法等が挙げられる。ウエットプロセスとしては、スピンコート法、印刷法、インクジェット法等が挙げられる。
【0131】
成膜した導電膜をフォトリゾグラフィー技術等のパターニング方法を用いて所望の形状にパターニングすることにより第1電極120を形成する。
【0132】
基板110上に、マスク蒸着法、転写法、スピンコーティング法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ロールコート法、及びインクジェット法等を用いて、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)等のホール注入材料を成膜することによりホール注入層131を形成する。
【0133】
それらの中でも特にインクジェット法により形成することが好ましい。インクジェット法を用いることによって、安価かつ容易にホール注入層131を形成することができる。また、高精細なパターニングが容易に行える。インクジェット法に用いるインクは、PPV等のホール注入材料を、純水、メタノール、エタノール、THF、クロロホルム、キシレン、又は、トリメチルベンゼン等の溶媒に溶解させることにより調整することができる。尚、均一塗布性の観点からインクジェット法に用いる溶媒は、沸点が110℃以上である溶媒を使用することが好ましい。
【0134】
ホール注入層131の上に、化学式(10)で表されるN−n−デシルポリカルバゾール等のホール輸送材料を成膜することによりホール輸送層132を形成する。形成方法としては、マスク蒸着法、転写法、スピンコーティング法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ロールコート法、及びインクジェット法等が挙げられる。
【0135】
それらの中でも特にインクジェット法により形成することが好ましい。インクジェット法を用いることによって、安価かつ容易にホール輸送層132を形成することができる。また、高精細なパターニングが容易に行える。インクジェット法によりホール輸送層132を形成する場合は、ホール輸送材料を沸点が110℃以上の溶媒に溶解させてなるホール輸送層形成用インクを用いて行うことが好ましい。ホール輸送材料を溶解させる溶媒の沸点が低い場合は、塗布工程におけるインクからの溶媒の揮発が激しい。このため、均質なホール輸送層132を形成することが困難となる。ホール輸送材料を沸点が110℃以上の溶媒に溶解させることによって、インクジェット法によりインクを塗布する際の溶媒の揮発を抑制することができる。従って、均質なホール輸送層132を形成することができる。
【0136】
ホール輸送層形成インクに用いる溶媒は芳香環を有することが好ましい。芳香環を有する溶媒に対するホール輸送材料の溶解性が高いためである。芳香環を有する溶媒を用いることによって、塗布性が良好なホール輸送層形成用インクを実現することができる。芳香環を有し、沸点が110℃以上である溶媒としては、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン類、テトラリン類、テトラメチルベンゼン類、テトラエチルベンゼン類等が挙げられる。これらの溶媒のうち2種以上の溶媒を混合して用いてもよい。
【0137】
ホール輸送層形成インクの調整に用いるホール輸送材料は化学式(2)で表されるカルバゾール又はカルバゾール誘導体を高分子主鎖中に有し、高分子主鎖が共役系である高分子化合物であることが好ましい。この高分子化合物は溶媒への溶解性が高いため、良好な塗布性を有するホール輸送層形成用インクを実現することができる。
【0138】
ホール輸送層132の上に、ポリフルオレン等の発光材料を成膜することにより発光層133を形成する。成膜方法としては、マスク蒸着法、転写法、スピンコーティング法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ロールコート法、及びインクジェット法等が挙げられる。
【0139】
発光層133の上に、電子輸送層134、及び電子注入層135を順次成膜する。成膜方法としては、マスク蒸着法、転写法、スピンコーティング法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ロールコート法、及びインクジェット法等が挙げられる。
【0140】
尚、発光層133、電子輸送層134及び電子注入層135を形成する場合においても同様に、インクジェット法による形成が好適である。形成インクの調整に用いる溶媒としては、純水、メタノール、エタノール、THF、クロロホルム、キシレン、トリメチルベンゼン等が好ましい。特にそれらの中でも沸点が110℃以上の溶媒がより好ましい。
【0141】
電子注入層135の上に、例えばインジウム錫酸化物(ITO)等の電極材料を成膜することにより第2電極140を形成する。成膜方法はドライプロセスでもウエットプロセスでもよい。ドライプロセスとしては、スパッタ法、蒸着法、EB法、MBE法等が挙げられる。ウエットプロセスとしては、スピンコート法、印刷法、インクジェット法等が挙げられる。
【0142】
最後に、ガラス等からなる封止キャップ150をUV硬化樹脂等を用いて接着することにより有機EL素子100を封止する。尚、封止キャップ150を接着させる工程は、窒素やアルゴン等の不活性ガス中で行うことが好ましい。そうすることによって、封止キャップ150と有機EL素子100との間に酸素や水分が進入することを抑止することができる。
【0143】
次に、ホール輸送材料として好適である高分子化合物Bの製造方法について説明する。
【0144】
高分子化合物Bは山本カップリング反応等を用いることにより合成することができる。
【0145】
N-アルキル−3,6−ポリカルバゾールを例に挙げて、その合成方法を詳細に説明する。
【0146】
まず、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気中で、3,6−ジブロモカルバゾールと1〜1.1等量のブロモアルカンとをN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させる。攪拌しながら24時間、50℃で保持する。その後、冷却した反応液に水を加える。さらに、ジクロロメタンを加えて生成物を抽出する。抽出物をカラムクロマトグラフィーなどの精製法で精製することによりN-アルキル−3,6−ジブロモカルバゾールを得る。
【0147】
得られたN-アルキル−3,6−ジブロモカルバゾールをモノマーとして山本カップリング反応を行う。具体的には、0価のニッケルであるビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(Ni(COD))を触媒として、1,5−シクロオクタジエン(COD)存在下において、N-アルキル−3,6−ジブロモカルバゾールと、等量の2,2´−ビピリジル(bpy)とを不活性ガス雰囲気下、60℃で重合反応させる。その後、反応液をアルコール中に注ぐ。得られた固形物を減圧乾燥(室温、24時間)する。さらに、THFなどの有機溶剤に再び溶解させ、0.1−0.01μmのポアサイズのフィルターで不溶物を除去する。そして、溶液をアルコール中にて再沈殿させることによりN−アルキル−3,6−ポリカルバゾールが得られる。
【0148】
次に、N-アルキル−2,7−ポリカルバゾールの合成方法について詳細に説明する。
【0149】
まず、N-アルキル−2,7−ポリカルバゾールのモノマーとなるN-アルキル−2,7−ジブロモカルバゾールを合成する。次に、得られたN-アルキル−2,7−ジブロモカルバゾールをモノマーとして用い、例えば山本カップリング反応を行うことによりN-アルキル−2,7−ポリカルバゾールを重合することができる。
【0150】
具体的には、トルフェニルフォスフィン、亜鉛、2,2'−ビピリジン、塩化ニッケル(NiCl)の存在下、不活性ガス雰囲気下でN−N−ジメチルアセトアミド中、80℃でN-アルキル−2,7−ジブロモカルバゾールの重合反応を行う。次に、反応液をアルコール中に注ぎ、得られた固形物を減圧乾燥(室温、24時間)する。再びTHFなどの有機溶剤に溶解させ、0.1−0.01μmポアサイズのフィルターで不溶物を除去する。そして、溶液をアルコール中にて再沈殿させることにより、N−アルキル−2,7−ポリカルバゾールが得られる。
【0151】
このようにして得られた高分子化合物を電荷輸送層として用いる場合、合成後、再沈精製やソックスレー抽出などの高分子の精製を行うことがより好ましい。純度が低い場合は発光特性が低下し、寿命も短くなるからである
(実施形態2)
図2は、実施形態2に係る有機EL画像表示装置200の概略断面図である。
【0152】
この画像表示装置200は、基板210と、複数の第1電極220と、第2絶縁層230と、隔壁240と、複数の有機層250と、第2電極260とを有する。
【0153】
複数の第1電極220は基板210上にマトリクス状に配列されている。第2絶縁層230は隣接する複数の第1電極220の間を絶縁する。隔壁240は第2絶縁層230の上に設けられている。複数の有機層250のそれぞれは第1電極220の上に設けられている。複数の有機層250は隔壁240によってそれぞれに離隔されている。第2電極260は複数の有機層250及び隔壁240を覆うように設けられている。
【0154】
基板210は、絶縁基板211と、複数のTFT212と、第1絶縁層213とを有する。複数のTFT212は絶縁基板211上にマトリクス状に配設されている。
【0155】
有機層250は、発光層253と、ホール注入層251及びホール輸送層252からなる電荷輸送層とを有する。
【0156】
本実施形態2に係る画像表示装置200では、有機層250は、発光層253と、ホール注入層251と、ホール輸送層252とにより構成されている。しかし、本発明はこの構成に限定されない。例えば、有機層250を、発光層253と、ホール注入層251、ホール輸送層252、電子輸送層、及び、電子注入層のうち1層以上とにより構成してもよい。
【0157】
第1電極220は有機層250にホールを注入する。第2電極260は有機層250に電子を注入する。ホール注入層251は発光層253へのホール注入効率を向上する。ホール輸送層252は第1電極220により注入されたホールの発光層253への輸送効率を向上する。
【0158】
複数のTFT212は各画素ごとに設けられている。複数のTFT212のそれぞれは第1絶縁層213に設けられたコンタクトホールを経由して接続された第1電極220への電圧印加を制御する。このため、画像表示装置200では、TFT212から点灯信号が入力された画素にのみ選択的に電圧を印加することができる。
【0159】
絶縁基板211、第1電極220、発光層253、ホール注入層251、及び、第2電極260は、例えば、実施形態1に例示した材料と同様の材料により構成することができる。
【0160】
TFT212は、アモルファスシリコンTFT、ポリシリコンTFT等であってもよい。
【0161】
第1絶縁層213はTFT212が設けられた絶縁基板211上を平坦にする。また、隣接するTFT212の間を絶縁する。第1絶縁層213は、アクリル系樹脂等により形成することができる。
【0162】
第2絶縁層230は隣接する第1電極220の間を絶縁する。第2絶縁層230は、SiO等の絶縁材料により形成することができる。
【0163】
隔壁240は有機層250を各画素ごとに区画する。隔壁240は、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂等の感光性樹脂材料により形成することができる。
【0164】
ホール輸送層252は、実施形態1と同様に、高分子化合物Aを含む電荷輸送材料により形成することができる。
【0165】
この高分子化合物Aは、例えば、ポリフルオレン誘導体等の一般に発光層253に用いられる発光材料よりもHOMOのレベルが高い。よって、高分子化合物Aをホール輸送材料として用いることによって、発光層253へのホール注入効率を向上することができる。従って、高い発光効率、高輝度、長寿命且つ、低い駆動電圧を実現することができる。
【0166】
高分子化合物Aは、LUMOとHOMOとのエネルギーギャップが大きい。例えば、ポリフルオレン誘導体等の一般に発光層253に用いられる発光材料よりもLUMOレベルが高い。このため、高分子化合物Aをホール輸送材料として用いることによって、電子親和力が発光層253の電子親和力よりも小さいホール輸送層252を形成することができる。よって、発光層253からホール輸送層252への電子の移動を効果的に抑制することができる(電子ブロック機能)。従って、高い発光効率、高輝度、長寿命且つ、低い駆動電圧を実現することができる。
【0167】
具体的に、高分子化合物Aは高分子化合物Bであってもよい。
【0168】
高分子化合物Bをホール輸送材料として用いることによって好適なエネルギーバンドを有するホール輸送層252を形成することができる。詳細には、HOMOレベルが発光層253よりも高く、LUMOレベルが発光層253のLUMOレベルより低いホール輸送層252を形成することができる。従って、高い発光効率、高輝度、長寿命且つ、低い駆動電圧を実現することができる。
【0169】
また、高分子化合物Bは高い熱的安定性を有する。よって、この高分子化合物Bをホール輸送材料として用いることで、より熱的に安定な有機EL画像表示装置200を実現することができる。
【0170】
高分子化合物Bの高分子主鎖中に含まれる化学式(1)で表されるカルバゾール又はカルバゾール誘導体のそれぞれは、3,6位又は2,7位で重合結合していることが好ましい。カルバゾール又はカルバゾール誘導体の3,6位又は2,7位で重合結合した高分子化合物Bは、合成方法が確立されている。このため、比較的容易且つ安価に入手することができる。よって、有機EL画像表示装置200を容易且つ安価に製造することができる。
【0171】
HOMOレベルが発光層253のHOMOレベルより高く、かつ高分子化合物BのLUMOレベルが発光層253のLUMOレベルよりも高くなるような組み合わせであれば、R〜Rは何ら限定されるものではない。例えば、R〜Rのそれぞれは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、エーテル基、エステル基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリールアミノ基、アリールシリル基、アリールアルコキシル基、アリールアルキルチオ基、アリールアルキルアミノ基、アリールアルキルシリル基、アシルオキシ基、イミノ基、または、アミド基であってもよい。
【0172】
ホール輸送層252の成膜性を向上する観点から、化学式(1)のRは、炭素数が2以上のアルキル基、又は炭素数が6以上のアリールアルキル基であることがより好ましい。ホール輸送層252をインクジェット法により形成する場合、高分子化合物Bを比較的沸点が高い(例えば、沸点が110℃以上の)溶媒に溶解する必要がある。高分子化合物Bを沸点の低い溶媒に溶解させた場合、均一なホール輸送層252を形成することができず、濃度ムラが発生するからである。
【0173】
また、ホール輸送層を形成するためのインクには芳香環を有する溶媒を用いることが好ましい。芳香環を有する溶媒に対する高分子化合物Aの溶解度が高いからである。
【0174】
芳香環を有し、沸点が110℃以上の溶媒としては、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン類、テトラリン類、テトラメチルベンゼン類、又は、テトラエチルベンゼン類等が挙げられる。
【0175】
化学式(1)で表されるカルバゾール又はカルバゾール誘導体の具体例としては、例えば、化学式(3)〜(8)で表されるカルバゾール又はカルバゾール誘導体等を挙げることができる。
【0176】
高分子化合物Bは、例えば、化学式(9)〜(13)等で表される単独重合体、化学式(14)〜(15)等で表される二元重合体、化学式(16)等で表される三元重合体であってもよい。
【0177】
高分子化合物Bは、化学式(1)で表される単量体と他の構造を有する単量体とを共重合させたものであってもよい。具体的には、高分子化合物Bは、例えば、化学式(17)〜(19)、(21)〜(26)等で表される二元共重合体、化学式(20)等で表される三元共重合体であってもよい。
【0178】
ホール輸送層252は、上記のホール輸送材料のうち1種又は2種以上のホール輸送材料により形成することができる。
【0179】
ホール輸送層252はドナーやアクセプター等の添加剤、レベリング剤、結着用の樹脂、その他の高分子、他のホール輸送材料等をさらに含有していてもよい。
【0180】
ホール輸送層252の層厚は0.5nm以上1μm以下であることが好ましく、より好ましくは、10nm以上200nm以下である。
【0181】
ホール輸送層252の層厚が0.5nm未満であれば、ホール輸送層252にピンホールが発生する可能性が高くなる傾向にある。ホール輸送層252の層厚を0.5nm以上とすることでピンホールの発生を効果的に抑制することができる。さらに効果的にピンホールの発生を抑制する観点から、ホール輸送層252の層厚は10nm以上であることが好ましい。
【0182】
ホール輸送層252の層厚が1μmより大きい場合は、ホール輸送層252における電気抵抗が増加し、有機EL素子200の駆動電圧が高くなる傾向にある。ホール輸送層252の層厚を1μm以下にすることで、駆動電圧を効果的に低下させることができる。より低い駆動電圧を実現する観点から、ホール輸送層252の層厚は200nm以下であることが好ましい。
【0183】
(実施例)
以下、実施例に係る有機EL素子300について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0184】
図3は、実施例に係る有機EL素子300の断面図である。
【0185】
まず、ホール輸送材料として用いるN−n−デシル−3,6−ポリカルバゾールを合成した。具体的には、窒素雰囲気中で、3,6−ジブロモカルバゾールと1〜1.1等量のn−ブロモデカンとをN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させた。窒素雰囲気中で、溶解液を攪拌しながら24時間、50℃で保持した。その後、反応液を冷却した。冷却した反応液に水を加え、ジクロロメタンを用いて生成物を抽出した。抽出物をカラムクロマトグラフィーにより精製することによりモノマーであるN−n−デシル−3,6−ジブロモカルバゾールを得た。
【0186】
次に、得られたN−n−デシル−3,6−ジブロモカルバゾールをモノマーとして、山本カップリング反応を行った。まず、0価のニッケルであるビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(Ni(COD))を触媒として、1,5−シクロオクタジエン(COD)存在下において、N−n−デシル−3,6−ジブロモカルバゾールと、等量の2,2´―ビピリジル(bpy)とを不活性ガス雰囲気下、60℃で重合反応させた。反応液をアルコール中に注ぎ、得られた固形物を減圧乾燥(室温、24時間)した。固形物をTHFなどの有機溶剤に再び溶解させ、0.1−1μmのポアサイズのフィルターで不溶物を除去した。そして、得られた溶液をアルコールを用いて再沈殿させることによりN−n−デシル−3,6−ポリカルバゾールを得た。
【0187】
得られたN−n−デシル−3,6−ポリカルバゾールのHOMOレベル、LUMOレベル、及び、バンドギャップを以下の方法により測定、算出した。
【0188】
ガラス基板(コーニング製、1737ガラス基板)上に、層厚100nmのN−n−デシル−3,6−ポリカルバゾール)薄膜をスピンコート法により形成することにより測定用サンプルを作成した。測定用サンプルの250nmから450nmの範囲における吸収スペクトルを分光光度計(ニコレー社製、MAGNA−IR760SPECTROMETER)を用いて測定した。得られた吸収スペクトルの吸収端の波長からN−n−デシル−3,6−ポリカルバゾールのエネルギーギャップを算出した。AC−1(理研計器)を測定機器として、大気中光電子分光法を用いてHOMOレベル(イオン化ポテンシャル)を測定した。得られたエネルギーギャップとHOMOレベルとからN−n−デシル−3,6−ポリカルバゾールのLUMOレベルを算出した。
【0189】
得られたN−n−デシル−3,6−ポリカルバゾールをホール輸送材料として用いて実施例に係る有機EL素子300を製造した。
【0190】
インジウム錫酸化物(ITO)からなる層厚15nm、幅2mmのストライプ形状の第1電極320が形成されたガラス基板310(旭硝子社製)を用意した。正孔注入材料としてPEDOT/PSSを水に溶解させてなるホール注入層形成用インク調製した。ガラス基板310上に調製したホール注入層形成用インクを3000rpmで50秒間スピンコートし、膜厚50nmのホール注入層331を形成した。
【0191】
ホール注入層331の上に、N−n−デシル−3,6−ポリカルバゾールの1.0wt%テトラヒドロフラン溶液を窒素雰囲気下、グローブボックス内にて2000rpmで50秒間スピンコートを行った。得られた膜を150℃で1時間焼成することにより、層厚50nmのホール輸送層332を形成した。
【0192】
ホール輸送層332の上に発光材料として青色発光材料ポリフルオレン誘導体の1.2wt%キシレン溶液を1500rpmで50秒間スピンコートした。得られた膜を150℃で1時間焼成することにより膜厚80nmの発光層333を形成した。
【0193】
発光層333の上に10−5Paの圧力条件下、0.1nm/secの蒸着速度でCaを蒸着させることにより層厚20nmのCa層341を形成した。Ca層341の上に、10−5Paの圧力条件下、20nm/secの蒸着速度でAlを蒸着させることにより層厚1000nmのAl層342を積層することにより、第2電極340を形成し、有機EL素子300を形成した。
【0194】
最後に、20mm四方の封止キャップ350(市販品,旭硝子社製)と有機EL素子300の周縁部分とをUV硬化樹脂により封止した。尚、封止工程において、樹脂を硬化させるために用いるUV光により有機層が劣化しないように、画素部分をアルミ箔等で覆った。
【0195】
有機EL素子300の発光層333を構成する青色発光材料ポリフルオレン誘導体について、上記方法と同様の方法によりHOMO、LUMO、及びエネルギーギャップを測定、算出した。
【0196】
(比較例)
公知のホール輸送材料であるポリ(N−ビニルカルバゾール)(PVCz)をホール輸送材料としてホール輸送層を形成した他は、実施例に係る有機EL素子300と同様の構成の有機EL素子を比較例とした。
【0197】
また、PVCzのHOMO、LUMO、及び、エネルギーギャップを実施例と同様の方法により測定、算出した。
【0198】
【表1】

【0199】
上記表1は、実施例に係るN−n−デシル−3,6−ポリカルバゾール)及び比較例に係るPVCzのHOMOレベル、LUMOレベル、及びエネルギーギャップを示した表である。
【0200】
図4は実施例に係る有機EL素子のエネルギー準位を模式的に表した説明図である。
【0201】
図5は比較例に係る有機EL素子のエネルギー準位を模式的に表した説明図である。
【0202】
表1及び図4、5に示すように、実施例に係る有機EL素子のホール輸送層のHOMOレベルは、発光層のHOMOレベルよりも高い準位にある。一方、比較例に係る有機EL素子のホール輸送層のHOMOレベルは、発光層のHOMOレベルよりも低い準位にある。この結果から、比較例に係る有機EL素子では、ホール輸送層から発光層へのホール輸送効率が低いことがわかった。一方、実施例にかかる有機EL素子では、ホール輸送層から発光層へのホール輸送効率が高いことがわかった。
【0203】
実施例に係る有機EL素子のホール輸送層のLUMOレベルは、発光層のLUMOレベルよりも高い準位にある。換言すれば、実施例に係る有機EL素子では、ホール輸送層の電子親和力の絶対値が発光層の電子親和力の絶対値よりも小さい。一方、比較例に係る有機EL素子のホール輸送層のLUMOレベルは、発光層のLUMOレベルよりも低い準位にある。換言すれば、比較例に係る有機EL素子では、ホール輸送層の電子親和力の絶対値が発光層の電子親和力の絶対値よりも大きい。従って、比較例に係る有機EL素子では、発光層からホール輸送層への電子の移動が発生しやすいことがわかった。一方、実施例にかかる有機EL素子では、発光層からホール輸送層への電子の移動が効果的に抑制され、発光層内に効果的に電子を閉じ込めることができることがわかった。
【0204】
このように、実施例に係る有機EL素子は、比較例に係る有機EL素子よりもホール輸送層から発光層へのホール輸送効率が高く、また、発光層からホール輸送層への電子の移動が効果的に抑制され、発光層内に効果的に電子を閉じ込めることができることがわかった。
【0205】
実施形態1及び2では、本発明に係る電荷輸送材料が有機EL素子及び有機EL画像表示装置に用いることができるものであることを説明した。しかし、本発明にかかる電荷輸送材料はこれに限定されるものではなく、例えば、有機太陽電池、有機半導体、フォトコンダクター等にも用いることができる。
【0206】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲に限定されない。上記実施形態が例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せに、さらにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【産業上の利用可能性】
【0207】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子、それを備えた画像表示装置及び照明装置、電荷輸送材料、及びそれを含む電荷輸送層形成用インクに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0208】
【図1】実施形態1に係る有機EL素子の断面図である。
【図2】実施形態2に係る有機EL画像表示装置の断面図である。
【図3】実施例に係る有機EL素子の断面図である。
【図4】実施例に係る有機EL素子のエネルギー準位を模式的に表した説明図である。
【図5】比較例に係る有機EL素子のエネルギー準位を模式的に表した説明図である。
【符号の説明】
【0209】
100、300 有機EL素子
110、210、310 基板
120、220、320 第1電極
130、250、330 有機層
131、251、331 ホール注入層
132、252、332 ホール輸送層
133、253、333 発光層
134 電子輸送層
135 電子注入層
140、260、340 第2電極
150、350 封止キャップ
200 有機EL画像表示装置
211 絶縁基板
212 TFT
213 第1絶縁層
230 第2絶縁層
240 隔壁
341 Ca層
342 Al層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
上記基板上に設けられた第1電極と、
上記第1電極の上に設けられた発光層と、
上記発光層の上に設けられた第2電極と、
上記発光層と上記第1電極との間、又は、上記発光層と上記第2電極との間に電荷輸送層が設けられ、ピロール環を含む複数の環からなる縮合環構造を高分子主鎖中に有し、該高分子主鎖が共役系である高分子化合物を含む電荷輸送材料で形成された電荷輸送層と、を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
請求項1に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子において、
上記高分子化合物は、下記化学式(1)で表されるカルバゾール又はカルバゾール誘導体を高分子主鎖中に有し、該高分子主鎖が共役系である有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】

(式中、R〜Rは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、エーテル基、エステル基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリールアミノ基、アリールシリル基、アリールアルコキシル基、アリールアルキルチオ基、アリールアルキルアミノ基、アリールアルキルシリル基、アシルオキシ基、イミノ基、及び、アミド基のいずれかである。)
【請求項3】
請求項2に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子において、
上記化学式(1)で表されるカルバゾール又はカルバゾール誘導体のそれぞれは、3,6位あるいは、2,7位で重合結合している有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
請求項1に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子において、
上記電荷輸送層は上記発光層と上記第1電極との間に設けられたホール輸送層である有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
請求項4に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子において、
上記ホール輸送層は上記発光層から該ホール輸送層への電子の移動を規制する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
請求項4に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子において、
上記ホール輸送層の電子親和力の絶対値が上記発光層の電子親和力の絶対値よりも小さい有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
請求項1に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子において、
上記発光層と上記第1電極との間にホール注入層をさらに有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
ピロール環を含む複数の環からなる縮合環構造を高分子主鎖中に有し、該高分子主鎖が共役系である高分子化合物を含む電荷輸送材料。
【請求項9】
請求項8に記載された電荷輸送材料において、
上記高分子化合物は、下記化学式(1)で表されるカルバゾール又はカルバゾール誘導体を高分子主鎖中に有し、該高分子主鎖が共役系である電荷輸送材料。
【化1】

(式中、R〜Rは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、エーテル基、エステル基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリールアミノ基、アリールシリル基、アリールアルコキシル基、アリールアルキルチオ基、アリールアルキルアミノ基、アリールアルキルシリル基、アシルオキシ基、イミノ基、及び、アミド基のいずれかである。)
【請求項10】
沸点が110℃以上の有機溶媒と、
上記有機溶媒に溶解され、下記化学式(2)で表されるカルバゾール又はカルバゾール誘導体を高分子主鎖中に有し、該高分子主鎖が共役系である高分子化合物を含む電荷輸送材料と、
を含む電荷輸送層形成用インク。
【化2】

(式中、Rは、炭素数が2以上のアルキル基、又は炭素数が6以上のアリールアルキル基である。R〜Rのそれぞれは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、エーテル基、エステル基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリールアミノ基、アリールシリル基、アリールアルコキシル基、アリールアルキルチオ基、アリールアルキルアミノ基、アリールアルキルシリル基、アシルオキシ基、イミノ基、及び、アミド基のいずれかである。)
【請求項11】
請求項10に記載された電荷輸送層形成用インクにおいて、
上記溶媒が、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン類、テトラリン類、テトラメチルベンゼン類、テトラエチルベンゼン類である電荷輸送層形成用インク。
【請求項12】
基板と、
上記基板上に設けられた第1電極と、
上記第1電極の上に設けられた発光層と、
上記発光層の上に設けられた第2電極と、
上記発光層と上記第1電極との間、又は、上記発光層と上記第2電極との間に設けられ、ピロール環を含む複数の環からなる縮合環構造を高分子主鎖中に有し、該高分子主鎖が共役系である高分子化合物を含む電荷輸送材料で形成された電荷輸送層と、
を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置。
【請求項13】
基板と、
上記基板上に設けられた第1電極と、
上記第1電極の上に設けられた発光層と、
上記発光層の上に設けられた第2電極と、
上記発光層と上記第1電極との間、又は、上記発光層と上記第2電極との間に設けられ、ピロール環を含む複数の環からなる縮合環構造を高分子主鎖中に有し、該高分子主鎖が共役系である高分子化合物を含む電荷輸送材料で形成された電荷輸送層と、
を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた有機エレクトロルミネッセンス照明装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−502124(P2008−502124A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549758(P2006−549758)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【国際出願番号】PCT/JP2005/011892
【国際公開番号】WO2006/001469
【国際公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【Fターム(参考)】