説明

有機エレクトロルミネッセンス素子とその製造方法

【課題】
基板と、この基板上にパターン化された第一電極と、該第一電極上に有機発光層を含む有機発光媒体層と、該有機発光媒体層を挟んで第一電極と対向するように設けられた第二電極とを具備する有機エレクトロルミネッセンス素子において、有機発光媒体層のいずれか1つを形成材料をインキ化し湿式法で形成する場合において、パターン化された第一電極間にある隔壁に供給されたインキの仕切られた第一電極への流れ込みによる画素内での発光ムラ、画素間での発光ムラの無い有機EL素子を提供することを課題とする。
【解決手段】
第一電極間に隔壁が2列以上設けられていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報表示端末などのディスプレイへの用途が期待される有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子とする)とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、ふたつの対向する電極の間に有機発光材料からなる有機発光層が形成され、有機発光層に電流を流すことで発光させるものであるが、効率よく発光させるには有機発光層の膜厚が重要であり、100nm程度の薄膜にする必要がある。さらに、これをディスプレイ化するには各画素が赤色(R)、緑色(G)、青色(B)となるように、有機発光層を高精細にパターニングする必要がある。
【0003】
有機発光層を形成する有機発光材料には、低分子材料と高分子材料があり、一般に低分子材料は抵抗加熱蒸着法等の乾式成膜法により薄膜形成し、このときに微細パターンのマスクを用いてパターニングするが、この方法では基板が大型化すればするほどパターニング精度が出難いという問題がある。
【0004】
そこで、最近では有機発光材料に高分子材料を用い、有機発光材料を溶剤に分散または溶解させて塗工液にし、これを湿式成膜法で薄膜形成する方法が試みられるようになってきている。薄膜形成するための湿式成膜法としては、スピンコート法、バーコート法、突出コート法、ディップコート法等があるが、高精細にパターニングしたりRGB3色に塗り分けしたりするためには、これらのウェットコーティング法では難しく、塗り分け・パターニングを得意とする印刷法による薄膜形成が最も有効であると考えられる。
【0005】
さらに、各種印刷法のなかでも、ガラスを基板とする有機EL素子やディスプレイでは、グラビア印刷法等のように金属製の印刷版等の硬い版を用いる方法は不向きであり、弾性を有するゴムブランケットを用いるオフセット印刷法や同じく弾性を有するゴム版や樹脂版を用いる凸版印刷法が適当である。実際にこれらの印刷法による試みとして、オフセット印刷による方法(特許文献1)、凸版印刷による方法(特許文献2)などが提唱されている。
【0006】
有機発光層の形成材料である有機発光材料は、水、アルコール系の溶剤に対する溶解性が悪く、塗工液(以下インキと記す)化するには、有機溶剤を用いて溶解、分散させる必要があり、中でも、トルエンやキシレンといった有機溶剤が好適である。したがって、有機発光材料のインキ(以下有機発光インキと記す)は有機溶剤のインキとなっている。
【0007】
ところが、オフセット印刷に用いるゴムブランケットはトルエンやキシレン有機溶剤によって膨潤や変形を起こしやすいという問題がある。ブランケットに使用されるゴムの種類はオレフィン系のゴムからシリコーン系のゴムまで多様であるが、いずれのゴムもトルエン、キシレンその他の溶剤に対して耐性がなく、膨潤や変形が起こりやすく、よって有機発光インキの印刷には不適当である。
【0008】
また、弾性を有する凸版を使用する凸版印刷法には、ゴム製の版を用いるフレキソ印刷方式と樹脂性の版を用いる樹脂凸版方式があるが、このうち水現像タイプの樹脂凸版を用いる方式であれば、トルエン、キシレンといった有機溶剤に対する耐性も高く、有機発光インキの印刷に使用可能である。
【特許文献1】特開2001−93668号公報
【特許文献2】特開2001−155858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
有機EL素子において、基板上に形成された第一電極パターンにはそのパターン間に隔壁が形成される。隔壁を形成する目的としては次の2点が挙げられる。1つは、第一電極を電極を素子全面に形成したあとにフォトリソ法にて感光性材料をパターニングし、続いて、第一電極をエッチングして第一電極を形成した場合、第一電極パターンの縁部にはバリが発生することがある。第一電極の縁部がバリを有する場合、有機発光層を含む有機発光媒体層、第二電極を形成し、素子化した場合に第一電極と第二電極が短絡してしまい、ショートしてしまう。そのために隔壁によって第一電極の縁部を覆いショートを防ぐ目的である。2つめは、赤色、緑色、青色といった発光色の異なる有機発光材料を溶媒に溶解した有機発光インキを用い印刷法等により有機発光層を形成する場合、有機発光インキの濃度は多くても数%、通常1%前後であるため、隔壁が無いと異なる発光色を有する有機発光インキが画素上で混色してしまう。したがって、異なる発光色を有する画素間においては、インキの混色を防ぐためにある程度の高さを有する隔壁を設ける。すなわち、混色を防ぐ目的である。
【0010】
第一電極間の縁部を覆うようにして隔壁を第一電極の間に形成した有機EL素子に対し、例えば、有機発光媒体層の1つである正孔輸送層を溶媒に溶解または分散させインキ化し、該インキを用いてスピンコート法やダイコート法といった塗布法により正孔輸送インキを有機EL素子の有効面全面に形成した場合、パターン化された第一電極の間にある隔壁上にもインキは供給される。隔壁は第一電極を覆うこと及び混色を防ぐことを目的としているため、第一電極よりも高く設けられている。したがって、第一電極間にある隔壁上に供給されたインキは隔壁で仕切られた第一電極の方に流れ込むことになる。この第一電極間に供給されたインキの第一電極上への流れ込みにより、隔壁近傍の正孔輸送層の膜厚が電極中央の正孔輸送層の膜厚と比較して厚くなってしまい、素子化した際に画素内での発光ムラが発生してしまうという問題があった。また、第一電極間に供給されたインキの流れ込む方向によって隣接する隔壁で仕切られた第一電極上に供給するインキの量にバラツキが発生してしまうために、画素毎のインキの供給量にバラツキが発生してしまい、画素間で発光ムラが生じるという問題があった。
【0011】
一方、有機EL素子の駆動方法としては、パッシブマトリックス方式とアクティブマトリックス方式がある。パッシブマトリックス方式とはストライプ状の電極を直交させるように対向させ、その交点を発光させる方式であるのに対し、アクティブマトリックス方式は画素毎にトランジスタを形成した、いわゆる薄膜トランジスタ(TFT)基板を用いることにより、画素毎に独立して発光する方式である。
【0012】
アクティブマトリックス方式の有機EL素子の場合、第一電極は画素毎に形成されており、隔壁は第一電極の縁部を覆うように第一電極の4辺に格子状に形成される。TFT基板上に少なくとも画素電極である第一電極と第一電極の縁部を覆うようにして格子上に隔壁が形成されている被印刷基板に対し、凸版印刷法により有機発光層を形成する場合、樹脂凸版のインキの溶媒に対する寸法安定性の問題から、凸版は画素電極ごとに凸部を形成したドット状パターンの樹脂凸版ではなく、ラインに凸部が形成されたストライプ状パターンを有する用いて印刷をおこなう必要がある。
【0013】
すなわち、アクティブマトリックス方式の基板に対して凸版印刷法を用いて有機発光層を形成する場合、ラインパターンを有する樹脂凸版の凸部は、第一電極間にある隔壁をまたぐようにしてインキを連続的に供給し、印刷される。したがって、有機発光インキは、パターン化された第一電極と第一電極間の隔壁の両方に供給される。このような場合においても、第一電極間にある隔壁上に供給されたインキの流れ込みによって、隔壁近傍の有機発光層の膜厚が電極中央の有機発光層の膜厚と比較して厚くなってしまうことと、隔壁で囲まれた第一電極毎のインキの供給量にバラツキが発生してしまうことから、画素内での発光ムラ、画素間での発光ムラが発生してしまうという問題があった。
【0014】
本発明では、有機発光媒体層のいずれか1つを形成材料をインキ化し湿式法で形成する場合において、パターン化された第一電極間にある隔壁に供給されたインキの仕切られた第一電極への流れ込みによる画素内での発光ムラ、画素間での発光ムラの無い有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、隔壁上に供給されたインキを第一電極上に流れ込ませないように隔壁の配置を工夫することにより、画素内での発光ムラ、画素間での発光ムラの無い有機EL素子を得ることができた。
【0016】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、基板と、この基板上にパターン化された第一電極と、該第一電極上に有機発光層を含む有機発光媒体層と、該有機発光媒体層を挟んで第一電極と対向するように設けられた第二電極とを具備する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記第一電極間に隔壁が2列以上設けられていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子とした。
【0017】
請求項2に係る発明は、有機発光媒体層形成材料を溶媒に溶解または分散させてインキ化し、該インキを用いて湿式成膜法により前記有機発光媒体層のうち少なくとも1層を形成したことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法とした。
【0018】
請求項3に係る発明は、有機発光材料を溶媒に溶解または分散させてインキ化し、該インキを用いて凸版印刷法により前記有機発光層を形成したことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法とした。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、第一電極間に複数の隔壁を有することにより、隔壁上に供給されたインキ量を減らすことができることと、また、第一電極間に形成された2つの隔壁の間に供給されたインキは該第一電極の間にとどまらせることができることにより、隔壁で仕切られた第一電極間上に従来の隔壁から流れ込むインキ量を少なくすることができ、画素内での発光ムラ、画素間での発光ムラの無い有機EL素子を得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明における有機EL素子について説明する。
【0021】
図1に本発明の有機EL素子の説明断面図を示した。なお、(b)は(a)の隔壁部分を拡大したものである。
【0022】
以下、図面を参照して、本発明を説明する。なお、本発明はパッシブマトリックス方式の有機EL素子、アクティブマトリックス方式の有機EL素子のどちらにも適用可能である。
【0023】
図1に示すように、本発明の有機EL素子は、基板1の上に、第一電極2を有している。パッシブマトリックス方式の場合、この第一電極2はストライプ状のパターンを有している。アクティブマトリックス方式の場合、第一電極2は画素ごとのパターンを有している。
【0024】
そして、本発明の有機EL素子は、第一電極2上であって、隔壁7で区画された領域(画素部)に有機発光媒体層を有している。有機発光媒体層は、有機発光層単独から構成されたものであってもよいし、有機発光層と発光補助層との積層構造から構成されたものでもよい。図1では発光補助層である正孔輸送層3と有機発光層(41、42、43)との積層構造から構成された有機発光媒体層を示している。第一電極2上に正孔輸送層3が設けられ、正孔輸送層3上に赤色(R)有機発光層41、緑色(G)有機発光層42、青色(B)有機発光層43がそれぞれ設けられている。
【0025】
更に、有機発光層上に第二電極が配置される。パッシブマトリックス方式の場合、ストライプ状を有する第一電極と直交する形で第二電極はストライプ状に設けられる。アクティブマトリックス方式の場合、第二電極は、有機EL素子全面に形成される。
【0026】
本発明において隔壁は2列以上設けられている。図2に従来の有機EL素子の説明断面図を示した。なお、(b)は(a)の隔壁部分を拡大したものである。
【0027】
本発明では隔壁の幅方向の長さLを図2に示した従来の隔壁よりも小さくすることができる。したがって、隔壁上へのインキの供給量を減少させることができるため、隔壁で仕切られた第一電極上へのインキの流れ込み量を少なくすることができる。また、本発明において第一電極の間に供給されたインキは余分なインキ8として隔壁間にとどまらせることができる。したがって、パターン間にインキが供給された場合であっても、画素内及び画素間での発光ムラの無い有機EL素子となる。
【0028】
図2に示したような従来の場合、第一電極間にある隔壁に供給されたインキは、隣接する隔壁で仕切られたどちらかの第一電極上に流れ込むことにより、画素内、画素間での発光ムラを引き起こしていたが、本発明ではパターン化された第一電極間に供給されたインキの、隣接する隔壁で仕切られた第一電極への流れ込み量を少なくすることができる。
【0029】
図3に本発明の別の形態の有機EL素子の説明断面図を示した。本発明では第一電極間に第一電極縁部を覆うようにして第一隔壁71を形成し、その隔壁上に第二隔壁72を2列設けてある。
【0030】
なお、隔壁は3列以上設けられていてもよい。3列設けた場合、例えば中心にある隔壁の高さを高くすることにより、異なる発光色を有する有機発光インキの隣接する画素への侵入による混色を効果的に防止できる。
【0031】
また、図4に本発明の隔壁の配置例を示した。アクティブマトリックス方式の有機EL素子では第一電極は画素毎に形成される。赤色(R)、緑色(G)、青色(B)と発光色の異なる有機発光インキを用いて凸版印刷法により有機発光層を形成しようとした場合、凸版印刷法に用いられる樹脂版はストライプ状であり、第一電極間にもインキは供給される。凸版印刷法における印刷方向を矢印Yで示した。このとき、印刷方向Yに対して図3のように第一電極間に隔壁を2列設けることにより、同じ発光色を有する各画素間に供給されるインキ量の差を小さくすることができ、画素間のムラを効果的に防止することができる。また、図3において、異なる発光色を有する第一電極間にある隔壁を2列以上としても良く、2列以上とすることにより、異なる発光色を有する有機発光インキの隣接する画素への侵入による混色を効果的に防止できる。
【0032】
次に、本発明に係る有機EL素子の製造方法を説明する。
【0033】
本発明にかかる基板としては、絶縁性を有する基板であればいかなる基板も使用することができる。この基板側から光を出射するボトムエミッション方式の有機EL素子とする場合には、基板として透明なものを使用する必要がある。
【0034】
例えば、ガラス基板や石英基板が使用できる。また、ポリプロピレン、ポリエーテルサルフォン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリアリレート、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のプラスチックフィルムやシートであっても良い。これら、プラスチックフィルムやシートに、有機発光媒体層への水分の侵入を防ぐことを目的として、金属酸化物薄膜、金属弗化物薄膜、金属窒化物薄膜、金属酸窒化膜薄膜、あるいは高分子樹脂膜を積層したものを基板として利用してもよい。
【0035】
また、これらの基板は、あらかじめ加熱処理を行うことにより、基板内部や表面に吸着した水分を極力低減することがより好ましい。また、基板上に積層される材料に応じて、密着性を向上させるために、超音波洗浄処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、UVオゾン処理などの表面処理を施してから使用することが好ましい。
【0036】
また、これらに薄膜トランジスタ(TFT)を形成して、アクティブマトリックス方式の有機EL素子用の基板とすることが可能である。薄膜トランジスタとしては、公知の薄膜トランジスタを用いることができる。具体的には、主として、ソース/ドレイン領域及びチャネル領域が形成される活性層、ゲート絶縁膜及びゲート電極から構成される薄膜トランジスタが挙げられる。薄膜トランジスタの構造としては、特に限定されるものではなく、例えば、スタガ型、逆スタガ型、トップゲート型、コプレーナ型等が挙げられる。
【0037】
活性層は、特に限定されるものではなく、例えば、非晶質シリコン、多結晶シリコン、微結晶シリコン、セレン化カドミウム等の無機半導体材料又はチオフエンオリゴマー、ポリ(p−フェリレンビニレン)等の有機半導体材料により形成することができる。
【0038】
これらの活性層は、例えば、アモルファスシリコンをプラズマCVD法により積層し、イオンドーピングする方法、SiHガスを用いてLPCVD法によりアモルファスシリコンを形成し、固相成長法によりアモルファスシリコンを結晶化してポリシリコンを得た後、イオン打ち込み法によりイオンドーピングする方法、Siガスを用いてLPCVD法により、また、SiHガスを用いてPECVD法によりアモルファスシリコンを形成し、エキシマレーザー等のレーザーによりアニールし、アモルファスシリコンを結晶化してポリシリコンを得た後、イオンドーピング法によりイオンドーピングする方法(低温プロセス)、減圧CVD法又はLPCVD法によりポリシリコンを積層し、1000℃以上で熱酸化してゲート絶縁膜を形成し、その上にn+ポリシリコンのゲート電極を形成し、その後、イオン打ち込み法によりイオンドーピングする方法(高温プロセス)等が挙げられる。
【0039】
ゲート絶縁膜としては、通常、ゲート絶縁膜として使用されているものを用いることができ、例えば、PECVD法、LPCVD法等により形成されたSiO2;ポリシリコン膜を熱酸化して得られるSiO2等を用いることができる。
【0040】
ゲート電極としては、通常、ゲート電極として使用されているものを用いることができ、例えば、アルミ、銅等の金属、チタン、タンタル、タングステン等の高融点金属、ポリシリコン、高融点金属のシリサイド、ポリサイド等が挙げられる。
【0041】
また、薄膜トランジスタは、シングルゲート構造、ダブルゲート構造、ゲート電極が3つ以上のマルチゲート構造であってもよい。また、LDD構造、オフセット構造を有していてもよい。さらに、1つの画素中に2つ以上の薄膜トランジスタが配置されていてもよい。本発明の有機EL素子は薄膜トランジスタが有機EL素子のスイッチング素子として機能するように接続されている必要があり、トランジスタのドレイン電極と有機EL素子の第一電極が電気的に接続されている。薄膜トランジスタとドレイン電極と有機EL素子の第一電極との接続は、平坦化膜を貫通するコンタクトホール内に形成された接続配線を介して行われる。
【0042】
基板上には第一電極が設けられる。第一電極を陽極とした場合、その材料としては、ITO(インジウムスズ複合酸化物)、IZO(インジウム亜鉛複合酸化物)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、亜鉛アルミニウム複合酸化物等の金属複合酸化物や金、白金、クロムなどの金属材料を単層または積層したものをいずれも使用できる。第一電極の形成方法は、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の乾式成膜法を用いることができる。
【0043】
なお、低抵抗であること、溶剤耐性があること、また、ボトムミッション方式としたときには透明性が高いことなどからITOが好ましく使用できる。ITOはスパッタ法によりガラス基板上に形成され、フォトリソ法によりパターニングされて第一電極となる。
【0044】
第一電極を形成後、第一電極縁部を覆うようにして隔壁が形成される。隔壁は絶縁性を有する必要があり、感光性材料等を用いることができる。感光性材料としては、ポジ型であってもネガ型であってもよく、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、あるいはアクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂、ポリイミド樹脂、およびシアノエチルプルラン等を用いることができる。また、隔壁形成材料として、SiO、TiO等を用いることもできる。
【0045】
隔壁形成材料が感光性材料の場合、形成材料溶液をスリットコート法やスピンコート法により全面コーティングしたあと、露光、現像といったフォトリソ法によりパターニングがおこなわれる。スピンコート法の場合、隔壁の高さは、スピンコートするときの回転数等の条件でコントロールできるが、1回のコーティングでは限界の高さがあり、それ以上高くするときは複数回スピンコートを繰り返す手法を用いる。また、隔壁形成材料がSiO、TiOの場合、スパッタリング法、CVD法といった乾式成膜法で形成可能である。隔壁のパターニングはマスクやフォトリソ法により行うことができる。
【0046】
次に、有機発光媒体層を形成する。有機発光媒体層は、有機発光層単独から構成されたものでもよいし、有機発光層と正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層といった発光を補助するための発光補助層との積層構造としてもよい。なお、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層は必要に応じて適宜選択される。
【0047】
有機発光層は電流を流すことにより発光する層である。有機発光層の形成する有機発光材料としては、9,10−ジアリールアントラセン誘導体、ピレン、コロネン、ペリレン、ルブレン、1,1,4,4−テトラフェニルブタジエン、トリス(8−キノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノラート)アルミニウム錯体、ビス(8−キノラート)亜鉛錯体、トリス(4−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−5−シアノ−8−キノラート)アルミニウム錯体、ビス(2−メチルー5−トリフルオロメチルー8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、ビス(2−メチルー5−シアノー8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、トリス(8−キノリノラート)スカンジウム錯体、ビス[8−(パラートシル)アミノキノリン]亜鉛錯体及びカドミウム錯体、1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエン、ポリー2,5−ジヘプチルオキシーパラーフェニレンビニレンなどの低分子系発光材料が使用できる。
【0048】
また、クマリン系蛍光体、ペリレン系蛍光体、ピラン系蛍光体、アンスロン系蛍光体、ポリフィリン系蛍光体、キナクリドン系蛍光体、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系蛍光体、ナフタルイミド系蛍光体、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系蛍光対等、Ir錯体等の燐光性発光体などの低分子系発光材料を、高分子中に分散させたものが使用できる。高分子としてはポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等が使用できる。
【0049】
また、ポリ(2−デシルオキシ−1,4−フェニレン)(DO−PPP)、ポリ[2,5−ビス−[2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)エトキシ]−1,4−フェニル−アルト−1,4−フェニルレン]ジブロマイド(PPP−NEt3+)、ポリ[2−(2’−エチルヘキシルオキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)、ポリ[5−メトキシ−(2−プロパノキシサルフォニド)−1,4−フェニレンビニレン](MPS−PPV)、ポリ[2,5−ビス−(ヘキシルオキシ)−1,4−フェニレン−(1−シアノビニレン)](CN−PPV)、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)(PDAF)などの高分子発光材料であってもよい。PPV前駆体、PNV前駆体、PPP前駆体などの高分子前駆体が挙げられる。また、これら高分子材料に前記低分子発光材料の分散又は共重合した材料や、その他既存の発光材料を用いることもできる。
【0050】
正孔輸送層の材料としては、銅フタロシアニン、テトラ(t−ブチル)銅フタロシアニン等の金属フタロシアニン類及び無金属フタロシアニン類、キナクリドン化合物、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン等の芳香族アミン系低分子正孔注入輸送材料や、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリビニルカルバゾール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物などの高分子正孔輸送材料、ポリチオフェンオリゴマー材料、その他既存の正孔輸送材料の中から選ぶことができる。
【0051】
また、電子輸送層の材料としては、2−(4−ビフィニルイル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、オキサジアゾール誘導体やビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリノラート)ベリリウム錯体、トリアゾール化合物等を用いることができる。
【0052】
有機発光材料を溶解または分散する溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、2−メチル−(t−ブチル)ベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、ペンチルベンゼン、1,3,5−トリエチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、1,3,5−トリ−イソプロピルベンゼン等を単独又は混合して用いることができる。また、有機発光インキには、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されてもよい。
【0053】
正孔輸送材料、電子輸送材料を溶解または分散させる溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等の単独またはこれらの混合溶剤などが挙げられる。特に、正孔輸送材料をインキ化する場合には水またはアルコール類が好適である。
【0054】
有機発光媒体層は湿式成膜法により形成される。なお、有機発光媒体層が積層構造から構成される場合には、その各層の全てを湿式成膜法により形成する必要はない。湿式成膜法としては、スピンコート法、ダイコート法、ディップコート法、吐出コート法、プレコート法、ロールコート法、バーコート法等の塗布法と、凸版印刷法、インクジェット印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法等のの印刷法が挙げられる。特に、有機発光層を形成する場合、印刷法によって画素部に選択的に適用することができる。このため、各画素に、互いに異なる色彩に発光する発光層を印刷して、カラー表示のできる有機EL素子を製造することが可能となる。
【0055】
特に、有機発光層の形成方法は凸版印刷法によって好適に形成される。凸版印刷法はインクジェット法と異なり、版と印刷基板が接するようにしてインキが転移されるため、隔壁を低くすることが可能となる。本発明において凸版印刷法に用いる凸版は水現像タイプの樹脂凸版を用いることが好ましい。本発明における樹脂版を構成する水現像タイプの感光性樹脂としては、例えば親水性のポリマーと不飽和結合を含むモノマーいわゆる架橋性モノマー及び光重合開始剤を構成要素とするタイプが挙げられる。このタイプでは、親水性ポリマーとしてポリアミド、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体等が用いられる。また、架橋性モノマーとしては、例えばビニル結合を有するメタクリレート類が挙げられ、光重合開始剤としては例えば芳香族カルボニル化合物が挙げられる。中でも、印刷適性の面からポリアミド系の水現像タイプの感光性樹脂が好適である。
【0056】
有機発光層の形成に用いる印刷装置は、平板に印刷する方式の凸版印刷装置であれば使用可能であるが、以下に示すような印刷装置が望ましい。図5に本発明の凸版印刷装置の概略図を示した。本製造装置は、インクタンク10とインキチャンバー12とアニロックスロール14と樹脂凸版16を取り付けした版胴18を有している。インクタンク10には、溶剤で希釈された有機発光インキが収容されており、インキチャンバー12にはインクタンク10より有機発光インキが送り込まれるようになっている。アニロックスロール14は、インキチャンバー12のインキ供給部及び版胴18に接して回転するようになっている。
【0057】
アニロックスロール14の回転にともない、インキチャンバー12から供給された有機発光インキ14aはアニロクスロール14表面に均一に保持されたあと、版胴に取り付けされた樹脂凸版16の凸部に均一な膜厚で転移する。さらに、被印刷基板は摺動可能な基板固定台上に固定され、版のパターンと基板のパターンの位置調整機構により、位置調整しながら印刷開始位置まで移動して、版胴の回転に合わせて樹脂凸版16の凸部が基板に接しながらさらに移動し、ステージ20上にある被印刷基板24の所定位置にパターニングしてインキを転移する。
【0058】
次に、第二電極を形成する。第二電極を陰極とした場合その材料としては電子注入効率の高い物質を用いる。具体的にはMg、AL、Yb等の金属単体を用いたり、発光媒体と接する界面にLiや酸化Li、LiF等の化合物を1nm程度挟んで、安定性・導電性の高いAlやCuを積層して用いる。または電子注入効率と安定性を両立させるため、低仕事関数なLi、Mg、Ca、Sr、La、Ce、Er、Eu、Sc、Y、Yb等の金属1種以上と、安定なAg、Al、Cu等の金属元素との合金系が用いられる。具体的にはMgAg、AlLi,CuLi等の合金が使用できる。また、トップエミッション方式の有機EL素子とする場合は、陰極は透明性を有する必要があり、例えば、これら金属とITO等の透明導電層の組み合わせによる透明化が可能となる。
【0059】
第二電極の形成方法は、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の乾式成膜法を用いることができる。厚さは10nm〜1μm程度が望ましい。なお、本発明では第一の電極を陰極、第二の電極を陽極とすることも可能である。
【0060】
そして、ガラス板やガラスキャップ等により接着剤を介して封止をおこない、水分や酸素による発光媒体層等の劣化を防止し、有機EL素子となる。
【実施例1】
【0061】
薄膜トランジスタがスイッチング素子として機能するために平坦化膜に作製されたコンタクトホールを介して第一電極と接続されるように形成されたトップエミッション用バックプレーンを用い、画素数240×320ドットでサブピクセル数720×320ドットとした。そして、120μm×360μmピッチでサブピクセル間スペースは縦40um、横100umとなるようにクロム(Cr)をスパッタリング法によりパターン形成し、第一電極とした。
【0062】
次に、ポジ型の感光性材料であるTELRシリーズ(東京応化社製)をスピンコート法で有効面全面に塗布した。そして、露光、現像処理をおこない図3に示したような配置を有する隔壁を形成した。得られた隔壁の高さは1.5μmであり、縦の隔壁幅は50umである。また、横の隔壁幅は30umであり、横の隔壁は50umのギャップをあけて第一電極間に2本形成した。各隔壁において第一電極との重なり部分は5μmであり、第一電極のエッジを被覆し、第一電極の4辺を囲むようにしてある。
【0063】
次に、第一電極上に正孔輸送層として、厚さ0.1μmのポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸の混合物(以下PEDOT/PSSという)を水に分散させ、スピンコート法により成膜した。その後、メタノールを用いてふき取ることによって有効画素周辺にある不必要箇所にある正孔輸送インキを取り除いた。
【0064】
次に、赤色、緑色、青色の発光色を有する有機発光材料であるポリフェニレンビニレン誘導体を、水現像タイプの感光性樹脂凸版を用いた凸版印刷法で各色についておこない、有機発光層を形成した。このとき、150線/インチのアニロックスロールを使用して、得られた有機発光層の膜厚は80nmであった。
【0065】
次に、第二電極として真空蒸着法でCaを20nm成膜した。その後スパッタリング法をもちいてITO膜を成膜し、大気暴露することなく露点−80度、酸素濃度1ppmの窒素下で熱硬化型接着剤を用いてガラス板をはりつけることによって封止をおこない、有機EL素子を得た。
【0066】
得られた有機EL素子に対し、パネルの点灯表示確認をおこない、発光状態のチェックをしたところ、画素内および画素間での発光ムラは確認されなかった。
【0067】
(比較例1)
隔壁パターンを、高さ1.5μm、縦の隔壁幅を50um、横の隔壁幅を110umとし、第一電極との重なり部分は5μmとし、第一電極間に1列ずつの格子状パターンを有する隔壁を形成した。その他の工程は実施例1と同様にし、有機EL素子を製造した。得られた有機EL素子に対し、パネルの表示確認をおこない、発光状態のチェックをしたところ、画素内において、隔壁近傍のの正孔輸送層の膜厚が第一電極の中心の正孔輸送層の膜厚と比較して大きくなっていることによる発光ムラが確認された。また、同一発光色を有する画素間において、有機発光層の膜厚のバラツキによる発光ムラが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の有機EL素子の説明断面図。
【図2】従来の有機EL素子の説明断面図。
【図3】本発明の有機EL素子の説明断面図。
【図4】本発明の隔壁の配置例。
【図5】本発明の凸版印刷装置の概略図。
【符号の説明】
【0069】
1 基板
2 第一電極
3 正孔輸送層
41 赤色有機発光層
42 緑色有機発光層
43 青色有機発光層
7 隔壁
71 第一隔壁
72 第二隔壁
8 余分なインキ
10 インクタンク
12 インキチャンバー
14 アニロックスロール
14a インキ
16 樹脂凸版
18 版胴
20 ステージ
24 被印刷基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、この基板上にパターン化された第一電極と、該第一電極上に有機発光層を含む有機発光媒体層と、該有機発光媒体層を挟んで第一電極と対向するように設けられた第二電極とを具備する有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記第一電極間に隔壁が2列以上設けられていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
有機発光媒体層形成材料を溶媒に溶解または分散させてインキ化し、該インキを用いて湿式成膜法により前記有機発光媒体層のうち少なくとも1層を形成したことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
有機発光材料を溶媒に溶解または分散させてインキ化し、該インキを用いて凸版印刷法により前記有機発光層を形成したことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−95519(P2007−95519A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283998(P2005−283998)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】