説明

有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法

【課題】有機EL素子の層形成時に、ホスト材料中のドーパントの濃度を厳密に制御すること。
【解決手段】本発明に係る有機EL素子7の製造方法は、絶縁性基板1上に、陽極4、両電荷輸送性領域103、発光領域101、両電荷輸送性領域103、および陰極9を順に形成していく。この際、陽極4はアクセプターによって構成されており、陰極9はドナーによって構成されている。その後、基板を加熱してアニール処理を行うことによって、陽極4を構成するアクセプターが、陽極4に隣接する両電荷輸送性領域103に熱拡散し、陰極9を構成するドナーが、陰極9に隣接する両電荷輸送性領域103に熱拡散する。これによって、ドーパントの濃度が連続的に勾配をつけた正孔輸送領域100および電子輸送領域102が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単純な構造で高輝度、高効率および長寿命を実現する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来主流であったブラウン管を使用した表示装置から、薄型のフラットパネルディスプレイ(FPD)を使用した表示装置へのニーズが高まりつつある。FPDには各種のものがあり、例えば、非自発光型の液晶ディスプレイ(LCD)、自発光型のプラズマディスプレイパネル(PDP)、無機エレクトロルミネッセンス(無機EL)ディスプレイ、または有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)ディスプレイ等が知られている。
【0003】
中でも、有機ELディスプレイは、表示に使用する素子(有機EL素子)が薄型かつ軽量であり、なおかつ低電圧駆動、高輝度および自発光等の特性を有していることから、その研究開発が盛んに行われている。最近では、電子写真複写機、またはプリンター等の光源、または発光等への有機EL素子の応用が期待されている。有機EL素子を発光に用いた場合、有機EL素子は面発光であり、高い演色性を示し、なおかつ調光が容易であるという利点がある。さらには、蛍光灯は水銀を含んでいるが、有機EL素子は水銀を含んでおらず、有機EL素子の発光には紫外線を含まない等、優位な点が多い。
【0004】
有機EL素子は、基板上に一対の電極(陽極および陰極)を有しており、当該一対の電極の間に、ホスト材料に有機発光材料をドープして形成した発光層を少なくとも有している。一般的には、発光層と陽極との間に、正孔輸送層または正孔注入層等を設け、発光層と陰極との間に、電子注入層または電子輸送層等を設けている。また、電極から有機層へのキャリア注入効率、および発光層へのキャリア輸送効率を高めるために、アクセプター、またはドナー等のドーパントを各層へドープする手法もある。なお、有機EL素子を構成する各層(発光層、正孔注入層、および電子注入層等)をそれぞれ異なるホスト材料を用いて形成し、多層構造を成している有機EL素子はヘテロ接合型である。一方、有機発光材料、アクセプター、またはドナー等のドーパントを単一のホスト材料にドープすることによって、各層を全体で単層として形成している有機EL素子はホモ接合型である。
【0005】
ホスト材料中に有機発光材料、アクセプター、またはドナー等のドーパントをドープする方法として、一般的に共蒸着法が用いられている。有機発光材料、ドナー、またはアクセプター等のドーパントと、ホスト材料とを共蒸着させることによって所望の層を形成することができる。具体的には、ホスト材料とドーパントとを別々の蒸着源として、各々の蒸着速度をコントロールすることにより蒸着させる。このような共蒸着法では、蒸着時にホスト材料とドーパントとの蒸着速度を正確に制御する必要があるため、膜厚方向の濃度制御が難しい。これにより、ドーパントの濃度がまばらになり、キャリアの注入性・輸送性が阻害され、有機EL素子の特性が低下してしまうという問題がある。
【0006】
そこで、上記問題を解決するために、特許文献1〜3には層形成時にドーパントをホスト材料中に均一に拡散する方法が開示されている。特許文献1に開示されている有機EL素子の製造方法では、ホスト材料を蒸着させ、蒸着させたホスト材料上にドーパントを蒸着させている。その後、流体蒸気、または流体混合物蒸気に有機EL素子を曝露することによって、ホスト材料中にドーパントを拡散させている。これによって、ドーパントをホスト材料中に均一に分散させることができる。
【0007】
特許文献2には、真空蒸着法によってホスト材料とドーパントとを基板上に成膜積層する際に、基板の温度を40〜200℃に制御することによって、ドーパントをホスト材料中に分散させる方法が開示されている。これによれば、ドーパントが熱拡散され、膜厚方向のドーパントの濃度を制御でき、均一に拡散させることができる。
【0008】
一方、特許文献3には、ホスト材料上にドーパントを蒸着させ、当該ドーパントにレーザ光を複数回照射し、ドーパントをホスト材料内へ注入または拡散させる方法が開示されている。これによれば、レーザ光の照射により、照射部位を局部的に急激に加熱できることによってホスト材料の厚み方向(有機EL素子の厚み方向)へのドーパントの拡散性を高めることができる。また、レーザ光の非照射時にホスト材料の照射部位が冷却されることによって、ドーパントがホスト材料の面方向(有機EL素子の面方向)に拡散するのを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−150151号公報(2000年5月30日公開)
【特許文献2】特開平7−320872号公報(1995年12月8日公開)
【特許文献3】特開2005−158357号公報(2005年6月16日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記した特許文献1〜3に開示されている製造方法では、ドーパントの濃度の厳密な制御が困難である。
【0011】
特に、特許文献2に開示されている製造方法は、真空中において有機EL素子の基板を加熱しているが、真空中では基板の温度を厳密に制御することが難しい。特に、本文献に開示されている製造方法では、基板の裏側にヒーターを設置して加熱しているが、このような加熱方法では基板の厚さ方向の温度分布にむらが生じてしまう。そのため、ドーパントの濃度分布を厳密に制御することが困難である。これより、有機EL素子のキャリア注入性・輸送性が悪くなってしまい、有機EL素子の特性が低下してしまう。
【0012】
そこで、本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、有機EL素子の層形成時に、ホスト材料中のドーパントの濃度を厳密に制御することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法は、上記の課題を解決するために、第一電極および第二電極と、上記第一電極および第二電極の間に形成され、有機発光材料がドープされた発光領域を少なくとも有する有機層とを基板上に備えた有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、上記基板上に、上記第一電極から上記有機層に注入される第一キャリアの輸送を促進する第一ドーパントからなる上記第一電極を形成する第一電極形成工程と、上記第一電極上に、所定のホスト材料からなる第一ホスト領域を形成する第一ホスト領域形成工程と、上記第一ホスト領域上に、所定のホスト材料に上記有機発光材料がドープされた上記発光領域を形成する発光領域形成工程と、上記発光領域上に、所定のホスト材料からなる第二ホスト領域を形成する第二ホスト領域形成工程と、上記第二ホスト領域上に、上記第二電極を形成する第二電極形成工程と、上記第一ホスト領域形成工程の後において、上記基板を加熱することによって、上記第一キャリアを輸送する第一キャリア輸送領域を上記第一ホスト領域内に形成する第一キャリア輸送領域形成工程とを備えていることを特徴としている。
【0014】
上記の方法によれば、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)素子の製造方法では、基板上に、第一電極、第一ホスト領域、発光領域、第二ホスト領域、および第二電極を順に形成していく。この際、第一電極は、当該第一電極から注入される第一キャリアの輸送を促進する第一ドーパントによって形成されている。その後、基板を加熱して、アニール処理を行うことによって、第一電極を構成する第一ドーパントを、第一電極に隣接する第一ホスト領域に熱拡散させて第一キャリア輸送領域を形成する。
【0015】
このように、アニール処理を行うことによって、第一ホスト領域(第一キャリア輸送領域)中において第一ドーパントを十分に拡散することができ、第一ドーパントの濃度がまばらになることを防ぐことができる。したがって、本発明に係る有機EL素子の製造方法によれば、第一ドーパントの濃度制御を厳密に行うことができる。
【0016】
従来では、有機EL素子の製造には共蒸着法を用いるのが一般的である。具体的には、ホスト材料とドーパントとを別々の蒸着源として、各々の蒸着速度をコントロールすることにより蒸着させている。このような共蒸着法では、蒸着時にホスト材料とドーパントとの蒸着速度を正確に制御する必要があるため、膜厚方向の濃度制御が難しい。これにより、ドーパントの濃度がまばらになり、キャリアの注入性・輸送性が阻害され、有機EL素子の特性が低下してしまうという問題がある。
【0017】
しかし、本発明に係る有機EL素子の製造方法では、ホスト材料からなる第一ホスト領域を形成した後、アニール処理を行うことによって第一ドーパントを熱拡散して第一キャリア輸送領域を形成している。したがって、従来のように、ホスト材料と第一ドーパントとの蒸着速度を正確に制御する必要がない。なおかつ、本発明に係る有機EL素子の製造方法は、非常に簡便であり、複雑な蒸着装置等の製造装置を必要としないため、製造コストを低減することもできる。
【0018】
また、真空蒸着法を用いて有機EL素子を製造する場合には、アニール処理を施す際の温度を真空下で制御するのが難しい。しかしながら、本発明に係る有機EL素子の製造方法では、アニール処理を脱真空下で行うことができるため、厳密な温度制御が可能である。したがって、厳密な温度制御の下で第一ドーパントの濃度を所望の濃度に制御することができる。
【0019】
また、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法においては、さらに、上記第二電極形成工程において、上記第二電極から上記有機層に注入される第二キャリアの輸送を促進するドーパントからなる上記第二電極を形成し、上記第二電極形成工程の後において、上記基板を加熱することによって、上記第二キャリアを輸送する第二キャリア輸送領域を上記第二ホスト領域内に形成する第二キャリア輸送領域形成工程とを備えていることを特徴としている。
【0020】
上記の方法によれば、電極のキャリア注入性・輸送性を考慮して、アニール処理を施すホスト領域を随時選択することができる。したがって、ドーパントがドープされたキャリア輸送領域を所望の箇所に形成することができる。
【0021】
また、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法においては、さらに、第一電極および第二電極と、上記第一電極および第二電極の間に形成され、有機発光材料がドープされた発光領域を少なくともする有機層とを基板上に備えた有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、上記基板上に、上記第一電極を形成する第一電極形成工程と、上記第一電極上に、所定のホスト材料からなる第一ホスト領域を形成する第一ホスト領域形成工程と、上記第一ホスト領域上に、所定のホスト材料に上記有機発光材料がドープされた上記発光領域を形成する発光領域形成工程と、上記発光領域上に、所定のホスト材料からなる第二ホスト領域を形成する第二ホスト領域形成工程と、上記第二ホスト領域上に、上記第二電極から上記有機層に注入される第二キャリアの輸送を促進するドーパントによって上記第二電極を形成する第二電極形成工程と、上記第二電極形成工程の後において、上記基板を加熱することによって、上記第二キャリアを輸送する第二キャリア輸送領域を上記第二ホスト領域内に形成する第二キャリア輸送領域形成工程とを有していることを特徴としている。
【0022】
上記の方法によれば、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)素子の製造方法では、基板上に、第一電極、第一ホスト領域、発光領域、第二ホスト領域、および第二電極を順に形成していく。この際、第二電極は、当該第二電極から注入される第二キャリアの輸送を促進する第二ドーパントによって形成されている。その後、基板を加熱して、アニール処理を行うことによって、第二電極を構成する第二ドーパントを、第二電極に隣接する第二ホスト領域に熱拡散させて第二キャリア輸送領域を形成する。
【0023】
このように、アニール処理を行うことによって、第二ホスト領域(第二キャリア輸送領域)中において第二ドーパントを十分に拡散することができ、第二ドーパントの濃度がまばらになることを防ぐことができる。したがって、本発明に係る有機EL素子の製造方法によれば、第二ドーパントの濃度制御を厳密に行うことができる。
【0024】
従来では、有機EL素子の製造には共蒸着法を用いるのが一般的である。具体的には、ホスト材料とドーパントとを別々の蒸着源として、各々の蒸着速度をコントロールすることにより蒸着させている。このような共蒸着法では、蒸着時にホスト材料とドーパントとの蒸着速度を正確に制御する必要があるため、膜厚方向の濃度制御が難しい。これにより、ドーパントの濃度がまばらになり、キャリアの注入性・輸送性が阻害され、有機EL素子の特性が低下してしまうという問題がある。
【0025】
しかし、本発明に係る有機EL素子の製造方法では、第二電極を形成した後、アニール処理を行うことによって第二ドーパントを熱拡散して第二キャリア輸送領域を形成している。したがって、従来のように、ホスト材料と第二ドーパントとの蒸着速度を正確に制御する必要がない。なおかつ、本発明に係る有機EL素子の製造方法は、非常に簡便であり、複雑な蒸着装置等の製造装置を必要としないため、製造コストを低減することもできる。
【0026】
また、真空蒸着法を用いて有機EL素子を製造する場合には、アニール処理を施す際の温度を真空下で制御するのが難しい。しかしながら、本発明に係る有機EL素子の製造方法では、アニール処理を脱真空下で行うことができるため、厳密な温度制御が可能である。したがって、厳密な温度制御の下で第二ドーパントの濃度を所望の濃度に制御することができる。
【0027】
また、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法においては、上記第一キャリア輸送領域形成工程および上記第二キャリア輸送領域形成工程を同時に行うことを特徴としている。
【0028】
上記の方法によれば、第一キャリア輸送領域および第二キャリア輸送領域を一度に形成することができるため、製造工程をより単純化することができる。
【0029】
また、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法においては、上記第一キャリア輸送領域形成工程を上記第二電極形成工程の後に行い、上記第一キャリア輸送領域形成工程において上記第一電極および第二電極に電圧を印加することを特徴としている。
【0030】
また、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法においては、上記第二キャリア輸送領域形成工程において上記第一電極および第二電極に電圧を印加することを特徴としている。
【0031】
上記の方法によれば、電圧を印加した状態でアニール処理を行うことによって、ドーパントの拡散速度が向上し、基板を加熱するのに要する時間を短縮することができる。
【0032】
また、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法においては、上記第一キャリア輸送領域形成工程において、上記基板のガラス転位温度を超えない温度で上記基板を加熱することを特徴としている。
【0033】
また、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法においては、上記第二キャリア輸送領域形成工程において、上記基板のガラス転位温度を超えない温度で上記基板を加熱することを特徴としている。
【0034】
上記の方法によれば、ホスト領域内にドーパントを十分に熱拡散させることができる。また、有機EL素子を構成する基板が溶融してしまうのを防ぐことができる。
【0035】
また、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法においては、上記第一電極形成工程において、上記基板上に透明電極を形成し、当該透明電極上に上記第一電極を形成することを特徴としている。
【0036】
また、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法においては、上記第二電極形成工程において、上記基板上に透明電極を形成し、当該透明電極上に上記第二電極を形成することを特徴としている。
【0037】
上記の方法によれば、電極以外に透明電極を有することによって、当該電極側を通じた光の透過度がより向上する。したがって、有機EL素子が発した光をより効率良く取り出すことができる。
【0038】
また、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法においては、上記第一ホスト領域形成工程において、両電荷輸送性材料からなる上記第一ホスト領域を形成し、上記発光領域形成工程において、上記第一ホスト領域を構成する上記両電荷輸送性材料と同一の両電荷輸送性材料に、上記有機発光材料をドープして上記発光領域を形成し、上記第二ホスト領域形成工程において、上記第一ホスト領域を構成する上記両電荷輸送性材料と同一の両電荷輸送性材料によって上記第一ホスト領域を形成することを特徴としている。
【0039】
上記の方法によれば、第一ホスト領域、発光量域、および第二ホスト領域を、それぞれ別の層ではなく、同一の層として形成することができる。したがって、有機EL素子中の層構成が単純化されるので、有機EL素子の製造コストをより一層削減することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明に係る有機EL素子の製造方法では、有機EL素子の層中におけるドーパントの濃度を厳密に制御することができ、なおかつ簡便な方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の断面、および、当該素子を構成する各材料の濃度を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス表示装置の断面を示す図である。
【図3】(a)は、アニール処理を施す前の有機エレクトロルミネッセンス素子の断面を示す図であり、(b)は、アニール処理を施した後の有機エレクトロルミネッセンス素子の断面を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス表示装置の断面を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の断面、および、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する各材料の濃度を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス表示装置の断面を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の断面、および、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する各材料の濃度を示す図である。
【図8】(a)は、アニール処理を施す前の有機エレクトロルミネッセンス素子の断面を示す図であり、(b)は、アニール処理を施した後の有機エレクトロルミネッセンス素子の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
〔第一の実施形態〕
(有機エレクトロルミネッセンス表示装置10の概要)
本実施形態に係る有機EL表示装置10の概要について、図2を参照して説明する。図2は、有機エレクトロルミネッセンス表示装置10(以下、有機EL表示装置10と表記)の断面を示す図である。この図に示すように、有機EL表示装置10は、絶縁性基板(基板)1、薄膜トランジスタ(TFT)2、層間絶縁膜3、陽極(第一電極)4、エッジカバー5、有機EL層(有機層)8、および陰極(第二電極)9を備えている。
【0043】
絶縁性基板1上に、TFT2が所定の間隔で複数形成されている。TFT2上には、平坦化された層間絶縁膜3が配設されている。層間絶縁膜3にはコンタクトホールが形成されている。TFT2の端子は、当該コンタクトホールを介して陽極4と電気的に接続されている。陽極4上における、TFT2に対向する位置には、有機EL層8および陰極9が形成されている。絶縁性基板1、陽極4、有機EL層8、および陰極9は、有機EL素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)7を構成している。各有機EL素子7の間には、エッジカバー5が設けられている。
【0044】
詳しくは後述するが、本実施形態に係る陽極4、有機EL層8、および陰極9は、両電荷輸送性材料(ホスト材料)を含む単層を構成している。有機EL層8は、一対の電極(陽極4および陰極9)の間に形成されており、本実施形態では一対の電極のうち、一方の電極は陽極であり、また他方の電極は陰極である。
【0045】
陽極4は、両電荷輸送性材料に対する濃度が100wt%のアクセプター(第一ドーパント)によって形成されており、陰極9に向かうに従い当該アクセプターの濃度が低下していくように両電荷輸送性材料にドープされている。さらに、陰極9は、両電荷輸送性材料に対する濃度が100%のドナー(第二ドーパント)によって形成されており、陽極4に向かうに従い当該ドナーの濃度が低下していくように両電荷輸送性材料にドープされている。両電荷輸送性材料において、アクセプターの濃度が連続的に低下するように濃度勾配がつけられた領域と、ドナーの濃度が連続的に低下するように濃度勾配がつけられた領域との間には、有機発光材料がドープされた領域がある。
【0046】
上記の構成によれば、陽極4からの正孔(第一キャリア)の注入、および陰極9からの電子(第二キャリア)の注入を効率よく行うことができる。さらに、有機EL層8内における正孔および電子の伝搬も効率よく行うことができる。これについては、後ほど詳しく説明する。
【0047】
(絶縁性基板1の概要)
前述したように、絶縁性基板1、薄膜トランジスタ(TFT)2、層間絶縁膜3、陽極4、エッジカバー5、有機EL層8、および陰極9を有している。以下に各部材について、詳しく説明する。
【0048】
まず、絶縁性基板1について説明する。絶縁性基板1として、例えば、ガラス、または石英等からなる無機材料基板、あるいは、ポリエチレンテレフタレート、またはポリイミド樹脂等からなるプラスチック基板を利用できる。他には、アルミニウム(Al)または鉄等からなる金属基板に、酸化シリコンまたは有機絶縁材料等からなる絶縁物を表面にコーティングした基板を利用できる。あるいは、Al等からなる金属基板の表面を陽極酸化等の方法によって絶縁化処理した基板も利用できる。
【0049】
実際にどの絶縁性基板1を用いるかは、TFT2の種類を考慮する。例えば、多結晶シリコンからなるTFT2を用いる場合、当該TFT2を低温プロセスで形成するので、500℃以下の温度で融解せず、歪みも生じない基板を用いることが好ましい。一方、多結晶シリコンからなるTFT2を用いる場合、当該TFT2を高温プロセスで形成するので、1000℃以下の温度で融解せず、歪みも生じない基板を用いることが好ましい。
【0050】
なお、有機EL層8が発した光を絶縁性基板1側から取り出す場合には、透明または半透明の基板を用いる必要がある。
【0051】
(TFT2の概要)
TFT2について説明する。TFT2は、各有機EL素子7のスイッチング素子としての機能を有する。したがって、TFT2を構成する材料としては、例えば、非晶質シリコン、多結晶シリコン、微結晶シリコン、またはセレン化カドミウム等の無機半導体材料、ポリチオフェン誘導体、またはペンタセン等の有機半導体材料等が挙げられる。TFT2の代わりに、金属−絶縁体―金属(MIM)ダイオードを用いることもできる。
【0052】
(層間絶縁膜3の概要)
層間絶縁膜3について説明する。層間絶縁膜3には、例えば、酸化シリコン、または窒化シリコン等の無機材料、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、感光性ゾルゲル材料、またはノボラック樹脂等の有機樹脂材料等が利用できる。上記アクリル樹脂としては、例えば、JSR株式会社製のオプトマーシリーズ等が挙げられる。また、上記ポリイミド樹脂としては、例えば、東レ株式会社のフォトニースシリーズ等が挙げられる。ただし、有機EL表示装置10の構造がボトムエミッション型である場合には、層間絶縁膜3に光透過性が要求されるため、ポリイミド樹脂等の不透明な材料は適さない。
【0053】
(陽極4、有機EL層8および陰極9の構成)
前述したように、本実施形態に係る陽極4、有機EL層8および陰極9は、両電荷輸送性材料を含む単層から構成されていることを特徴としている。その詳しい構成について、図1を参照して説明する。図1は、有機EL素子7の断面、および有機EL素子7を構成する各材料の濃度を示す図である。
【0054】
図1に示すように、有機EL素子7は、陽極4、有機EL層8、および陰極9を有する単層を絶縁性基板1上に形成したものである。本図では、TFT2および層間絶縁膜3は省略している。有機EL層8は、正孔輸送領域(第一キャリア輸送領域)100と、発光領域101と、電子輸送領域(第二キャリア輸送領域)102とに分けられる。正孔輸送領域100は、陽極4側に位置し、一方、電子輸送領域102は、陰極9側に位置する。発光領域101は、正孔輸送領域100と電子輸送領域102との間に位置する。
【0055】
有機EL素子7では、陽極4は、両電荷輸送性材料に対する濃度が100wt%のアクセプターから形成されている。そして、上記アクセプターは発光領域101に向かうに従いアクセプターの濃度が低下していくようにドープされている。すなわち、陽極4の材料が、アクセプターとして有機EL層8にドープされている。具体的には、有機EL素子7形成時に、アニール処理を施すことによって陽極4を構成するアクセプターを熱拡散し、正孔輸送領域100においてアクセプターの濃度が連続的な勾配をつくようにしている。詳しい製造方法は、後ほど説明する。アクセプターの濃度21が連続的に低下するように濃度勾配がつけられた領域が、正孔輸送領域100である。
【0056】
図1に示すように、陽極4中のアクセプターの濃度21は、100wt%である。そして、正孔輸送領域100においては、アクセプターの濃度21は陽極4から陰極9に向かって100wt%から連続的に低下していき、発光領域101に達する際には0wt%になる。それに伴い、両電荷輸送性材料の濃度23は発光領域101に達するまでに0wt%から100wt%に向かって連続的に増加していく。
【0057】
正孔輸送領域100と電子輸送領域102との間にある、発光領域101には、有機発光材料がドープされている。この際、有機発光材料は、両電荷輸送性材料に対する濃度が好ましくは1wt%〜20wt%程度、より好ましくは6wt%程度になるようにドープされていることが好ましい。
【0058】
ただし、発光領域101における、正孔輸送領域100側の端面、および電子輸送領域102側の端面から、発光領域101の中央に向かって、有機発光材料の濃度が連続的に高くなるように勾配がつけられていることがより好ましい。また、正孔輸送領域100と発光領域101との間に、アクセプターおよび有機発光材料が含まれていない領域を含んでいても良い。これによって、有機発光材料において生成された励起子がアクセプターにエネルギー移動して失活することを防止することができる。同様に、電子輸送領域102と発光領域101との間に、ドナーおよび有機発光材料が含まれていない領域を含んでいてもよい。これによって、有機発光材料において生成された励起子がドナーにエネルギー移動して失活することを防止することができる。
【0059】
一方、有機EL素子7において、陰極9は、両電荷輸送性材料に対する濃度が100wt%のドナーから形成されている。そしてドナーは、陰極9から発光領域101に向かうに従いドナーの濃度22が100wt%から連続的に低下していくようにドープされている。すなわち、陰極9の材料が、ドナーとして有機EL層8にドープされている。具体的には、有機EL素子7形成時に、アニール処理を施すことによって陰極9を構成するドナーを熱拡散し、電子輸送領域102においてドナーの濃度が連続的な勾配をつくようにしている。詳しい製造方法は、後ほど説明する。ドナーの濃度22が連続的に低下するように濃度勾配がつけられた領域が、電子輸送領域102である。
【0060】
図1に示すように、陰極9中のドナーの濃度22は、濃度100wt%を示している。電子輸送領域102においては、ドナーの濃度22は陰極9から陽極4に向かって100wt%から連続的に低下していき、発光領域101に達する際には0wt%になる。それに伴い、両電荷輸送性材料の濃度23は発光領域101に達するまでに0wt%から100wt%に向かって連続的に増加していく。
【0061】
以上の構成によれば、陽極4自身がアクセプター材料によって構成されており、アクセプターは発光領域101に向かうに従い、その濃度が低下していくようにドープされている。これによって、陽極4と正孔輸送領域100との境界部分では、陽極4の仕事関数と正孔がアクセプターを伝搬する最高被占準位(HOMO)とがほぼ一致する。したがって、陽極4と正孔輸送領域100との境界部分において、エネルギー障壁が生じず、陽極4から正孔輸送領域100に効率良く正孔を伝搬することができる。また、発光領域101と正孔輸送領域100との境界部分においては、発光領域101中の有機発光材料の濃度は低く、対する正孔輸送領域100中の両電荷輸送性材料濃度は100wt%である。そのため、アクセプタードープ領域中の両電荷輸送性材料のHOMO準位と、正孔がアクセプターを伝搬するHOMO準位とがほぼ一致し、正孔輸送領域100から発光領域101に効率良く正孔を伝搬することができる。
【0062】
同様に、以上の構成によれば、陰極9自身がドナー材料によって構成されており、ドナーは発光領域101に向かうに従い、その濃度が低下していくようにドープされている。これによって、陰極9と電子輸送領域102との境界部分では、陰極9の仕事関数と電子がドナーを伝搬する最低空準位(LUMO)とがほぼ一致する。したがって、陰極9と電子輸送領域102との境界部分において、エネルギー障壁が生じず、陰極9から電子輸送領域102に効率良く電子を伝搬することができる。また、発光領域101と電子輸送領域102との境界部分においては、発光領域101中の有機発光材料の濃度は低く、対する電子輸送領域102中の両電荷輸送性材料の濃度は100wt%である。そのため、電子輸送領域中の両電荷輸送性材料のLUMO準位と、電子がドナーを伝搬するLUMO準位とがほぼ一致し、電子輸送領域101から発光領域102に効率良く電子を伝搬することができる。
【0063】
以上のように、本実施形態に係る有機EL素子7では、両電極と有機EL層8との間にエネルギー障壁が生じず、正孔および電子を効率良く注入し、輸送することができる。そのため、有機EL素子7の駆動電圧を低下させることができる。さらには、有機EL素子7では、陽極4、有機EL層8、および陰極9は単層から構成されている。これより、有機EL素子7中の層構成が単純化され、有機EL素子7の製造コストを大幅に削減することができる。
【0064】
なお、本実施形態では、アクセプター濃度およびドナー濃度が直線的な勾配をもつようにしたが、連続的な勾配であればこれに限定されない。例えば、指数関数的な勾配であってもよい。
【0065】
(陽極4の概要)
以下に、陽極4について詳しく説明する。絶縁性基板1上(層間絶縁膜3上)に陽極4は、島状にパターン形成されており、層間絶縁膜3に形成されているコンタクトホールを介してTFT2と電気的に接続されている。陽極4は、有機EL層8内に正孔を注入する機能を有する。また、前述したように、陽極4は、両電荷輸送性材料に対する濃度が100wt%のアクセプターから形成されたものである。したがって本発明において、アクセプターは導電性を有する物質であることが求められる。
【0066】
陽極4を構成する材料(アクセプター)としては、例えば、酸化モリブデン(MoO)、五酸化バナジウム(V)、金(Au)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、タングステン(W)、またはイリジウム(Ir)等の無機材料等が挙げられる。
【0067】
(陰極9の概要)
次に陰極9について説明する。陰極9は、有機EL層8およびエッジカバー5を覆うようにして設けられている。陰極9は、有機EL層8内に電子を注入する機能を有する。また、前述したように、陰極9は、両電荷輸送性材料に対する濃度が100wt%のドナーから形成されたものである。したがって本発明において、ドナーは導電性を有することが求められる。
【0068】
陰極9を構成する材料(ドナー)としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、銅(Cu)、インジウム(In)、またはセシウム(Cs)等の無機材料等が挙げられる。
【0069】
(有機EL層8の概要)
続いて、有機EL層8について説明する。有機EL層8を構成する各領域は、いずれも両電荷輸送性材料が含まれている。当該両電荷輸送性材料は、低分子材料、および高分子材料に分類される。その具体的な例として、低分子材料としては、ビス(カルバゾーイル)ベンゾジフラン(CZBDF)、ジフェニルアミノベンゾジフラン(DPABDF)等のベンゾフラン等の誘導体、シクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、バソフェナントロリン誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、スチリルベンゼン誘導体、スチリルアリーレン誘導体、アミノスチリル誘導体、シロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、アントラセン誘導体、ジフェニルアントラセン誘導体、ピレン誘導体、カルバゾール誘導体、オキサジアゾールダイマー、ビラゾリンダイマー、トリターピリジルベンゼン(TbpyB)、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロビウム錯体、イリジウム錯体、または白金錯体等、Al、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)、Pt、Ir、テルビウム(Tb)、ユウロピウム(Eu)、またはジスプロシウム(Dy)等を中心金属として有し、かつオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、またはキノリン構造等を配位子として有する金属錯体等が挙げられる。
【0070】
また、高分子材料としては、ポリ(オキサジアゾール)(Poly−OXZ)、ポリスチレン誘導体(PSS)、ポリアニリン−樟脳スルホン酸(PANI−CSA)、ポリ(トリフェニルアミン-オキサジアジゾール)誘導体(Poly−TPD−OXD)、またはポリ(カルバゾール−トリアゾール)誘導体(Poly−Cz−TAZ)等が挙げられる。
【0071】
なお、高い発光効率を得るためには、有機発光材料の三重項励起準位(T)のよりも高い一重項励起準位(S)をもつ両電荷輸送性材料を用いることが好ましい。すなわち、S>Tの関係が成り立つことがより好ましい。これより、励起エネルギーを燐光材料中に閉じ込めることができる。したがって、両電荷輸送性材料には、励起準位が高く、なおかつ高い正孔移動度を持つカルバゾール基、トリアゾール基、またはベンゾフラン基等を用いることが好ましい。
【0072】
有機EL層8中の発光領域101には、有機発光材料がドープされている。この材料として、有機EL素子用の公知の有機発光材料を用いることができる。その具体的な例として、スチリル誘導体、ペリレン、イリジウム錯体、クマリン誘導体、ルモーゲンFレッド、ジシアノメチレンピラン、フェノキザゾン、またはポリフィリン誘導体等の蛍光材料、ビス[(4,6−ジフルオロフェニル)−ピリジナト−N,C2’]ピコリネート イリジウム(III)(FIrpic)、トリス(2−フェニルピリジル)イリジウム(III)(Ir(ppy))、トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム(III)(Ir(piq))、またはトリス(ビフェニルキノキサリナト)イリジウム(III)(Q3Ir)等の燐光発光有機金属錯体等が挙げられる。これらのうち、消費電力の劇的な低減を図る目的から、燐光発光材料を用いることが好ましい。
【0073】
(エッジカバー5の概要)
エッジカバー5は、各有機EL素子7の間に設けられている。なお、エッジカバー5の一部は、パターン形成された陽極4の周縁部の一部を覆うようにして形成されている。したがって、陽極4上においてエッジカバー5が設けられていない領域が有機EL素子7となる。エッジカバー5は、陽極4の周縁部を覆うように設けられているため、該周縁部において有機EL層8が薄くなったり、電界集中が起こったりすることに起因して陽極4と陰極9とが短絡するのを防止することができる。
【0074】
エッジカバー5を構成する材料としては、例えば、酸化シリコン、または窒化シリコン等の無機材料、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、感光性ゾルゲル材料、またはノボラック樹脂等の有機樹脂材料等が挙げられる。アクリル樹脂としては、例えばJSR株式会社製のオプトマーシリーズ等が挙げられる。ポリイミド樹脂としては、例えば、東レ株式会社のフォトニースシリーズ等が挙げられる。
【0075】
(有機EL表示装置10の製造方法)
以下では、有機EL表示装置10の製造方法について図3を参照して説明する。図3(a)は、アニール処理を施す前の有機EL素子7の断面を示す図である。図3(b)は、アニール処理を施した後の有機EL素子7の断面を示す図である。以下では、具体例を用いて有機EL表示装置10の製造方法を説明するが、本実施形態に係る有機EL表示装置10の製造方法は、これに限定されるものではない。
【0076】
まず、絶縁性基板1上に有機EL素子を駆動するためのTFT2を複数形成する。当該TFT2の形成方法としては、プラズマ誘起化学気相成長(PECVD)法により成膜したアモルファスシリコンに不純物をイオンドーピングする方法、シラン(SiH)ガスを用いた減圧化学気相成長(LPCVD)法によりアモルファスシリコンを形成し、固相成長法によりアモルファスシリコンを結晶化してポリシリコンを得た後、イオン打ち込み法によりイオンドーピングする方法等、公知の形成方法を用いれば良い。
【0077】
次に、TFT2の凹凸を平坦化するために、層間絶縁膜3を形成する。層間絶縁膜3としてアクリル樹脂を用いた例を以下に示す。まず感光性ポジ型アクリル樹脂材料をスピンコート法によって、TFT2を形成した絶縁性基板1上に塗布する。塗布した後、絶縁性基板1を80℃で3分間プリベークし、アクリル膜(層間絶縁膜3)を得る。その後、TFT2の端子と陽極4とが電気的に接続される箇所のアクリル膜をフォトリソグラフィー法によって除去し、220℃で1時間ポストベークする。このようにして、コンタクトホールを有する層間絶縁膜3を形成する。なお、層間絶縁膜3の膜厚は1μm程度であることが好ましい。
【0078】
次に、陽極4を形成する(第一電極形成工程)。陽極4としてV電極を用いた例を以下に示す。Vを蒸着法によってV薄膜を、層間絶縁膜3を形成した絶縁性基板1上にパターン形成する。このようにして、V電極(陽極4)を形成する。なお、陽極4の膜厚は、150nm程度であることが好ましい。本実施形態では、蒸着法によって陽極4を形成しているが、高周波マグネトロンスパッタ法等のその他のドライプロセス、またはインクジェット法等のウェットプロセス等によって形成しても良い。
【0079】
続いて、エッジカバー5を形成する。エッジカバー5としてポリイミド樹脂を用いた例を以下に示す。まず感光性ポジ型ポリイミド樹脂材料をスピンコート法によって、陽極4を形成した絶縁性基板上1に塗布する。塗布した後、絶縁性基板1を100℃で3分間プリベークし、ポリイミド膜(エッジカバー5)を得る。その後、陽極4上のポリイミド膜をフォトリソグラフィーによって除去し、220℃で1時間ポストベークする。このようにして、エッジカバー5を形成する。なお、エッジカバー5の膜厚は1.5〜2.0μm程度であることが好ましい。
【0080】
次に、有機EL層8を形成する。以下では、両電荷輸送性材料としてビス(カルバゾリン)ベンゾジフラン(CZBDF)を用い、有機発光材料としてトリス(2−フェニルピリジル)イリジウム(III)(Ir(ppy))を用いた例を示す。
【0081】
始めに、陽極4から40nmまでの領域にCZBDFを蒸着させて両電荷輸送性領域(第一ホスト領域)103を形成する(第一ホスト領域形成工程)。その後、CZBDFを蒸着させた領域から20nmまでの領域に、CZBDFとIr(ppy)とを共蒸着させて発光領域101を形成する(発光領域形成工程)。この際、CZBDF中にIr(ppy)が6wt%程度ドープされるようにする。そして、CZBDFとIr(ppy)とを共蒸着させた領域から40nmまでの領域に、CZBDFを蒸着させて両電荷輸送性領域(第二ホスト領域)103を形成する(第二ホスト領域形成工程)。この構成によれば、図3(a)に示すように、有機EL層8中央の20nmの範囲には有機発光材料がドープされた発光領域101が形成されている。当該発光領域101の上下の両電荷輸送性領域103には、有機発光材料はドープされていない。
【0082】
続いて、有機EL層8上に陰極9を形成する(第二電極形成工程)。陰極9としてAlを用いた例を以下に示す。蒸着速度2nm/sec程度で有機EL層8上にAl電極(陰極9)を蒸着させる。このようにして、陰極9を形成する。なお、陰極9の膜厚は1000nm程度であることが好ましい。
【0083】
次に、正孔輸送領域100および電子輸送領域102を形成する。まず、得られた絶縁性基板1をホットプレート上に配置し、有機EL層8のガラス転位温度(Tg)を超えない温度範囲において、一定温度下でアニール処理をする。アニール処理をすることによって、陽極4を構成するVを、陽極4に隣接する両電荷輸送性領域103へ熱拡散させて正孔輸送領域100を形成する(第一キャリア輸送領域形成工程)。具体的には、陽極4の丁度上においてCZBDFに対するVの濃度が100wt%となり、陽極4から40nmの位置では、V濃度が0wt%になるまでアニール処理を行い、Vを熱拡散させる。より詳しくは、陽極4の丁度上を基点とし、陽極4から離れた40nmの位置を終点とする間において、V濃度が100wt%から0wt%に直線的に低下するように、Vを熱拡散させる。
【0084】
同様にして、アニール処理をすることによって、陰極9を構成するAlを、陰極9に隣接する両電荷輸送性領域103へ熱拡散させて電子輸送領域102を形成する(第二キャリア輸送領域形成工程)。具体的には、発光領域101の丁度上においてCZBDFに対するAlの濃度が0wt%となり、発光領域101から40nm離れた位置においては、Al濃度が100wt%になるまでアニール処理を行い、Alを熱拡散させる。より詳しくは、発光領域101の丁度上を基点にして、発光領域101から40nm離れた位置を終点とする間において、Al濃度が0wt%から100wt%に直線的に上昇するように、Alを熱拡散させる。このようにして、図3(b)に示すように、正孔輸送領域100および電子輸送領域102が形成されるまで、アニール処理を行う。
【0085】
最後に、絶縁性基板1を封止する。紫外線硬化樹脂を介して、封止基板を陰極9上から絶縁性基板1と貼り合せる。そして、UVランプによって6000mJのUV光を照射して紫外線硬化樹脂を硬化させ、絶縁性基板1を封止基板によって封止する。このようにして、有機EL表示装置10を形成する。
【0086】
以上のように、本実施形態によれば、有機EL素子7を薄膜トランジスタ基板上に形成した表示手段を備える有機EL表示装置10が実現される。
【0087】
また、本実施形態によれば、アニール処理をすることによって両電極を構成する、それぞれのドーパントを両電荷輸送性材料中に拡散することができ、厳密な濃度制御をすることができる。その結果、有機EL素子7のキャリア注入性・輸送性を向上させることができる。
【0088】
さらに、本実施形態では、アニール処理を脱真空下で行うことができるため、厳密な温度制御の下において、ドーパントの濃度を所望の濃度に制御することができる。なおかつ、本実施形態に係る有機EL素子7の製造方法は非常に簡便であり、複雑な蒸着装置等の製造装置を必要としないため、製造コストを低減することもできる。
【0089】
〔第二の実施形態〕
(有機EL表示装置10aの概要)
本実施形態に係る有機EL表示装置10aは、陽極4以外に透明電極4’を有している。この点以外は、第一の実施形態に係る有機EL表示装置10と同様の構成である。本実施形態に係る有機EL表示装置10aの概要について、図4および図5を参照して説明する。図4は、本実施形態に係る有機EL表示装置10aの断面を示す図である。図5は、有機EL素子7aの断面、および有機EL素子7aを構成する各材料の濃度を示す図である。
【0090】
図4に示すように、有機EL表示装置10aは、絶縁性基板1、TFT2、層間絶縁膜3、透明電極4’、陽極4、エッジカバー5、有機EL層8、および陰極9を有している。絶縁性基板1上にはTFT2が所定の間隔で複数形成されており、TFT2上には平坦化された層間絶縁膜3が配設されている。層間絶縁膜3にはコンタクトホールが形成されており、TFT2の端子は当該コンタクトホールを介して透明電極4’と電気的に接続されている。透明電極4’上には、TFT2に対向する位置に陽極4が形成されている。さらに、陽極4上には有機EL層8および陰極9が形成されている。絶縁性基板1、透明電極4’、陽極4、有機EL層8、および陰極9は、有機EL素子7aを構成している。各有機EL素子7aの間にはエッジカバー5が設けられている。
【0091】
なお、本実施形態に係る陽極4、有機EL層8、および陰極9は、第一の実施形態と同様に両電荷輸送性材料を含む単層を構成している。図5に示すように、有機EL素子7aは、陽極4、有機EL層8、および陰極9を有する単層を、透明電極4’を有する絶縁性基板1上に形成したものである。本図では、TFT2および層間絶縁膜3は省略している。当該有機EL層8において、アクセプター材料およびドナー材料が濃度勾配をつけてドープされている点も第一の実施形態と同様である。なお、透明電極4’としては、酸化インジウムスズ(ITO)、または酸化インジウム亜鉛(IZO)等の光透過性を有する導電性物質からなる電極が利用可能である。
【0092】
前述したように、本実施形態に係る有機EL表示装置10aは、陽極4以外に透明電極4’を有している。第一の実施形態において、陽極4としてVを用いた場合、その膜厚は150nm程度と厚い。そのため、陽極4における可視光域の透過率が20%程度と低く、絶縁性基板1側から有機EL素子7aが発した光を取り出すことが困難な場合がある。そこで、本実施形態では、電極として可視光域の透過率が高い透明電極4’を用いている。例えば、陽極4’としてITO電極を用いた場合、該陽極4’の可視光域の透過率は90%程度と高い。透明電極4’としてITO電極を膜厚120nm程度で成膜し、当該透明電極4’に陽極4としてVを膜厚30nm程度で積層した場合、可視光域の透過率は60%となる。Vのみで陽極4を構成する場合と比べて、可視光域の透過率は3倍になり、有機EL素子7aが発した光の取り出し効率を向上させることができる。それとともに、正孔および電子の効率の良い注入性および輸送性は保たれたままなので、有機EL表示装置10aの低電圧駆動も維持できる。
【0093】
(有機EL表示装置10aの製造方法)
以下では、有機EL表示装置10aの製造方法について説明する。有機EL表示装置10aは、陽極4以外に透明電極4’を形成している点以外は、第一の実施形態に係る有機EL表示装置10の製造方法と同様なので、ここでは透明電極4’および陽極4の形成方法についてのみ言及する。
【0094】
まず透明電極4’を形成する。透明電極4’としてITO電極を用いた例を以下に示す。5wt%の酸化錫が添加されたITOをターゲットとし、酸素(0)が1%導入されたArをスパッタガスとして、高周波マグネトロンスパッタ法によってITO薄膜を、層間絶縁膜3を形成した絶縁性基板1上にパターン形成する。このようにして、ITO電極(透明電極4’)を形成する。このようにして、透明電極4’を形成する。なお、透明電極4’の膜厚は、120nm程度であることが好ましい。本実施形態では、スパッタ法によって透明電極4’を形成しているが、真空蒸着法等のその他のドライプロセス、またはインクジェット法等のウェットプロセス等によって形成しても良い。
【0095】
次に、陽極4を形成する。陽極4としてV電極を用いた例を以下に示す。Vを蒸着法によってV薄膜を、透明電極4’を形成した絶縁性基板1上にパターン形成する。このようにして、V電極(陽極4)を形成する。なお、陽極4の膜厚は、30nm程度であることが好ましい。本実施形態では、蒸着法によって陽極4を形成しているが、高周波マグネトロンスパッタ法等のその他のドライプロセス、またはインクジェット法等のウェットプロセス等によって形成しても良い。これ以後の製造工程は第一の実施形態と同様であるのでここでは省略する。
【0096】
なお、本実施形態では、陽極における有機層8と接する面と反対側の面に接するように、透明電極4’が形成されている。しかし、これに限らず、陰極9における有機層8と接する面と反対側の面に、透明電極4’が形成されていてもよい。すなわち、透明電極4’は、陽極側および陰極側のうち少なくとも一方に形成されていればよい。好ましくは、光を取り出す側の電極として設けられていればよい。
【0097】
上述した2つの実施形態では、陽極4の形成に続いて、同じ蒸着プロセスによって、有機EL層8のうち正孔輸送領域100の形成を実現することができる。すなわち、陽極4と有機EL層8とは別々の層ではなく同一の層として形成されている。同様に、上述した2つの実施形態では、電子輸送領域102の形成に続いて、同じ蒸着プロセスによって陰極9を形成できる。すなわち、有機EL層8と陰極9とは別々の層ではなく同一の層として形成されている。したがって、有機EL素子7,7a中の層構成が単純化されるので、有機EL素子7の製造コストを大幅に削減することができる。
【0098】
〔第三の実施形態〕
(有機EL表示装置10bの概要)
上述した2つの実施形態では、有機EL層8には両電荷輸送性材料としてCZBDFが含まれている。すなわち、有機EL層8はホモ接合型の構造を有している。しかし、有機EL層8は複数の異なるホストがそれぞれ別々の層として含まれている、いわゆるヘテロ接合型の構造を取っても良い。
【0099】
本実施形態に係る有機EL表示装置10bでは、有機EL層(有機層)8aがヘテロ接合型の構造を有している。この点以外は、第一の実施形態に係る有機EL表示装置10と同様の構成である。本実施形態に係る有機EL表示装置10bの概要について、図6および図7を参照して説明する。図6は、本実施形態に係る有機EL表示装置10bの断面を示す図である。図7は、有機EL素子7bの断面、および有機EL素子7bを構成する各材料の濃度を示す図である。
【0100】
図6に示すように、有機EL表示装置10bは、絶縁性基板(基板)1、TFT2、層間絶縁膜3、陽極(第一電極)4、エッジカバー5、有機EL層8a、および陰極(第二電極)9を有している。絶縁性基板1上にはTFT2が所定の間隔で複数形成されており、TFT2上には平坦化された層間絶縁膜3が配設されている。層間絶縁膜3にはコンタクトホールが形成されており、TFT2の端子は当該コンタクトホールを介して陽極4と電気的に接続されている。さらに、陽極4上には有機EL層8aおよび陰極9が形成されている。絶縁性基板1、陽極4、有機EL層8a、および陰極9は、有機EL素子7bを構成している。各有機EL素子7bの間にはエッジカバー5が設けられている。
【0101】
なお、本実施形態に係る陽極4、有機EL層8a、および陰極9は、第一の実施形態と異なり、それぞれが単層を成している。図7に示すように、有機EL層8aは、第一有機EL層6aおよび第二有機EL層6bを有している。第一有機EL層6aは、正孔輸送領域(第一キャリア輸送領域)100と第一発光領域101aとを有しており、第二有機EL層6bは、電子輸送領域(第二キャリア輸送領域)102と第二発光領域101bとを有している。当該第一発光領域101aと第二発光領域101bとは、発光領域101を構成している。なお、本図では、TFT2および層間絶縁膜3は省略している。
【0102】
有機EL層8aにおいて、アクセプター材料およびドナー材料が濃度勾配をつけてドープされている点は第一の実施形態と同様である。
【0103】
(有機EL表示装置10bの製造方法)
以下では、有機EL表示装置10bの製造方法について図8を参照して説明する。図8(a)は、アニール処理を施す前の有機EL素子7bの断面を示す図である。図8(b)は、アニール処理を施した後の有機EL素子7bの断面を示す図である。以下では、具体例を用いて有機EL表示装置10の製造方法を説明するが、本実施形態に係る有機EL表示装置10の製造方法は、これに限定されるものではない。有機EL表示装置10bは、有機EL8層がヘテロ接合型の構造を有している点以外は、第一の実施形態に係る有機EL表示装置10の製造方法と同様なので、ここでは有機EL層8aの形成方法についてのみ言及する。
【0104】
まず有機EL層8aを形成する。以下では、両電荷輸送性材料(ホスト材料)としてジフェニルアミノベンゾジフラン(DPABDF)およびトリターピリジルベンゼン(TbpyB)を用い、有機発光材料としてIr(ppy)を用いた例を示す。
【0105】
始めに、第一有機EL層6aを形成する。具体的には、陽極40nmまでの領域にDPABDFを蒸着させて両電荷輸送性領域(第一ホスト領域)103を形成する(第一ホスト領域形成工程)。その後、DPABDFを蒸着させた領域から20nmまでの領域に、DPABDFとIr(ppy)とを共蒸着させて第一発光領域101aを形成する(発光領域形成工程)。この際、DPABDF中にIr(ppy)が8wt%程度ドープされるようにする。
【0106】
次に、第二有機EL層6bを形成する。具体的には、DPABDFとIr(ppy)とを共蒸着させた領域から20nmまでの領域に、TbpyBとIr(ppy)とを共蒸着させて第二発光領域101bを形成する(発光領域形成工程)。この際、TbpyB中にIr(ppy)が6wt%程度ドープされるようにする。その後、TbpyBとIr(ppy)とを共蒸着させた領域から40nmまでの領域に、TbpyBを蒸着させて両電荷輸送性領域(第二ホスト領域)103を形成する(第二ホスト領域形成工程)。この構成によれば、図8(a)に示すように、有機EL層8a中央の40nmの範囲、すなわち第一発光領域101aと第二発光領域101bとによって、膜厚40nmの発光領域101が形成されている。当該発光領域101から上下40nmまでの領域には、有機発光材料はドープされていない。なお、以上では、第一発光領域101aと、第二発光領域101bとにおいて、有機発光材料をドープする濃度が異なる例を示したが、必ずしもこれに限定されるわけではない。使用するホスト材料のキャリア移動度、またはエネルギー準位等の電気的特性に鑑みて、第一発光領域101aと、第二発光領域101bとにおける、有機発光材料のドープ濃度を同じにしても良い。
【0107】
続いて、有機EL層8a上に陰極9を形成する。陰極9としてAlを用いた例を以下に示す。蒸着速度2nm/sec程度で有機EL層8上にAl電極(陰極9)を蒸着させる。このようにして、陰極9を形成する(第二電極形成工程)。なお、陰極9の膜厚は1000nm程度であることが好ましい。
【0108】
次に、正孔輸送領域100および電子輸送領域102を形成する。まず、得られた絶縁性基板1をホットプレート上に配置し、有機EL層8のガラス転位温度(Tg)を超えない温度範囲において、一定温度下でアニール処理をする。アニール処理をすることによって、陽極4を構成するVを、陽極4に隣接する両電荷輸送性領域103へ熱拡散させて正孔輸送領域100を形成する(第一キャリア輸送領域形成工程)。具体的には、陽極4の丁度上においてDPABDFに対するVの濃度が100wt%となり、陽極4から40nmの位置では、V濃度が0wt%になるまでアニール処理を行い、Vを熱拡散させる。より詳しくは、陽極4の丁度上を基点とし、陽極4から離れた40nmの位置を終点とする間において、V濃度が100wt%から0wt%に直線的に低下するように、Vを熱拡散させる。
【0109】
同様にして、アニール処理をすることによって、陰極9を構成するAlを、陰極9に隣接する両電荷輸送性領域103へ熱拡散させて電子輸送領域102を形成する(第二キャリア輸送領域形成工程)。具体的には、発光領域101の丁度上においてDPABDFに対するAlの濃度が0wt%となり、発光領域101から40nm離れた位置においては、Al濃度が100wt%になるまでアニール処理を行い、Alを熱拡散させる。より詳しくは、発光領域101の丁度上を基点にして、発光領域101から40nm離れた位置を終点とする間において、Al濃度が0wt%から100wt%に直線的に上昇するように、Alを熱拡散させる。このようにして、図8(b)に示すように、正孔輸送領域100および電子輸送領域102が形成されるまで、アニール処理を行う。
【0110】
最後に、絶縁性基板1を封止する。紫外線硬化樹脂を介して、封止基板を陰極9上から絶縁性基板1と貼り合せる。そして、UVランプによって6000mJのUV光を照射して紫外線硬化樹脂を硬化させ、絶縁性基板1を封止基板によって封止する。このようにして、有機EL表示装置10bを形成する。
【0111】
以上のように、本実施形態によれば、有機EL素子7を薄膜トランジスタ基板上に形成した表示手段を備える有機EL表示装置10bが実現される。
【0112】
また、本実施形態に係る有機EL表示装置10bでは、第一有機EL層6aの陽極側(正孔輸送層100)にアクセプター(第一ドーパント)をドープし、第二有機EL層6bの陰極側(電子輸送層102)にドナー(第二ドーパント)をドープしている。これによって、有機EL層8aのバンド構造が変化し、キャリアの濃度が上昇するため、正孔(第一キャリア)および電子(第二キャリア)の注入効率、および伝導度が向上する。
その結果、正孔注入層および電子注入層は必要ではなくなり、かつ、キャリアの伝導度が向上し、発光領域101でも正孔および電子の輸送に十分な伝導度が得られる。このことから、正孔輸送領域100と発光領域101とを共通化することが可能となる。同様に、電子輸送領域102と発光領域101とを共通化することが可能となる。
【0113】
さらに、本実施形態に係る有機EL表示装置10bでは、第一有機EL層6aと第二有機EL層6bとを積層し、両有機EL層の界面近傍に有機発光材料をドープしている。これより、各層における正孔および電子の移動度の違いによって第一発光領域101aおよび第二発光領域101b(両有機EL層の界面近傍)にキャリアを閉じ込めることが可能となる。その結果、正孔と電子との再結合の確率を向上させることができ、高い発光効率を得ることができる。また、キャリアのバランスを維持することができるため、高輝度な発光を提供することができる。
【0114】
また、発光領域101にキャリアを閉じ込めることが可能となるため、エージングによる正孔移動度と電子移動度との低下の違いによっても、正孔と電子とのバランスが崩れることがない。したがって、発光効率の低下、および色ずれ等の寿命に関する問題を解決することができる。
【0115】
有機EL層8aは、第一有機EL層6aおよび第二有機EL層6bによる二層構造であるため、層構成が非常に単純である。そのため、例えば、各層を個別の蒸着チャンバーで成膜を行う、現在主流のクラスター型の製造方法では、2個の蒸着チャンバーだけで製造することが出来る。一方、6層から構成されている従来の有機EL素子では、6個の蒸着チャンバーが製造に必要である。そのため、本実施形態によれば、従来の有機EL素子を製造する際の初期投資額と比べて、1/3の初期投資額で有機EL素子7bを製造することができる。なお、以上では、有機EL層8aが二層構造を有している構成を説明したが、必ずしもこれに限定されるわけではない。例えば、正孔輸送領域100、発光領域101、および電子輸送領域102をそれぞれ単層として有している構成でも良い。
【0116】
なお、本実施形態では、第二の実施形態のように、陽極4以外に透明電極4’を設けても良い。これによって、有機EL素子7bが発した光の取り出し効率を向上させることができる。それとともに、正孔および電子の効率の良い注入性および輸送性は保たれたままなので、有機EL表示装置10bの低電圧駆動も維持できる。なお、透明電極4’は、陽極側および陰極側のうち少なくとも一方に形成されていればよい。好ましくは、光を取り出す側の電極として設けられていればよい。
【0117】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0118】
例えば、上述した3つの実施形態では、陽極4がアクセプターによって形成され、かつ、陰極9がドナーによって形成されている。しかし、本発明では、一対の電極(陽極4および陰極9)のうち少なくとも一方の電極が、当該電極によって有機EL層8に注入されるキャリアの輸送を促進するドーパントと同一の材料によって形成されてさえいれば良い。これにより、二種のキャリア(正孔または電子)の少なくともいずれかを、効率良く注入し、輸送することができるため、有機EL素子7の駆動電圧を低下させることができる。
【0119】
さらに、上述した3つの実施形態では、陰極9を形成した後にアニール処理を行ったが、例えば絶縁性基板1を封止した後にアニール処理を施しても問題ない。また、上述した3つの実施形態に係る製造方法ではアニール処理をして、アクセプターとドナーとを熱拡散しているが、必ずしもこれに限定されるわけではない。例えば、陽極4側のホスト領域103、または有機EL層8aを形成した後に、アニール処理を行い、アクセプターを熱拡散させても良い。そして、その後、陰極9を形成し、アニール処理を行い、ドナーを拡散させても良い。このように、アニール処理を行う順番を随時変更することが可能である。
【0120】
また、陰極9を形成後、もしくは絶縁性基板1を封止後に、有機EL素子7,7a,7bに電圧を印加した状態でアニール処理を行うことによって、ドーパントの拡散速度が向上し、アニール処理に要する時間が短縮されると考えられる。したがって、アニール処理中に有機EL素子7,7a,7bに電圧を印加させても良い。
【0121】
なお、上述した3つの実施形態では、絶縁性基板1をホットプレート上に乗せてアニール処理を行っているが、他にもオーブンによるアニール処理、真空オーブンによる減圧下でのアニール処理、または赤外線アニール処理等の他のアニール処理も適用可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は、有機EL素子を用いた各種デバイスに利用することが可能であり、例えばテレビ等の表示装置等に利用することができる。
【符号の説明】
【0123】
1 絶縁性基板
2 薄膜トランジスタ
3 層間絶縁膜
4 陽極
4’ 透明電極
5 エッジカバー
6a 第一有機エレクトロルミネッセンス層
6b 第二有機エレクトロルミネッセンス層
7,7a,7b,20,20a 有機エレクトロルミネッセンス素子
8,8a 有機エレクトロルミネッセンス層
9 陰極
10,10a,10b 有機エレクトロルミネッセンス表示装置
11 基板
12 陽極
13 正孔注入層
14 正孔輸送層
15 発光層
16 正孔ブロッキング層
17 電子輸送層
18 電子注入層
19 陰極
100 正孔輸送領域
101 発光領域
101a 第一発光領域
101b 第二発光領域
102 電子輸送領域
103 両電荷輸送性領域
200 アクセプター領域
201 発光領域
202 ドナー領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一電極および第二電極と、
上記第一電極および第二電極の間に形成され、有機発光材料がドープされた発光領域を少なくとも有する有機層とを基板上に備えた有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
上記基板上に、上記第一電極から上記有機層に注入される第一キャリアの輸送を促進する第一ドーパントからなる上記第一電極を形成する第一電極形成工程と、
上記第一電極上に、所定のホスト材料からなる第一ホスト領域を形成する第一ホスト領域形成工程と、
上記第一ホスト領域上に、所定のホスト材料に上記有機発光材料がドープされた上記発光領域を形成する発光領域形成工程と、
上記発光領域上に、所定のホスト材料からなる第二ホスト領域を形成する第二ホスト領域形成工程と、
上記第二ホスト領域上に、上記第二電極を形成する第二電極形成工程と、
上記第一ホスト領域形成工程の後において、上記基板を加熱することによって、上記第一キャリアを輸送する第一キャリア輸送領域を上記第一ホスト領域内に形成する第一キャリア輸送領域形成工程とを備えていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
上記第二電極形成工程において、上記第二電極から上記有機層に注入される第二キャリアの輸送を促進するドーパントからなる上記第二電極を形成し、
上記第二電極形成工程の後において、上記基板を加熱することによって、上記第二キャリアを輸送する第二キャリア輸送領域を上記第二ホスト領域内に形成する第二キャリア輸送領域形成工程とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
第一電極および第二電極と、
上記第一電極および第二電極の間に形成され、有機発光材料がドープされた発光領域を少なくともする有機層とを基板上に備えた有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
上記基板上に、上記第一電極を形成する第一電極形成工程と、
上記第一電極上に、所定のホスト材料からなる第一ホスト領域を形成する第一ホスト領域形成工程と、
上記第一ホスト領域上に、所定のホスト材料に上記有機発光材料がドープされた上記発光領域を形成する発光領域形成工程と、
上記発光領域上に、所定のホスト材料からなる第二ホスト領域を形成する第二ホスト領域形成工程と、
上記第二ホスト領域上に、上記第二電極から上記有機層に注入される第二キャリアの輸送を促進するドーパントによって上記第二電極を形成する第二電極形成工程と、
上記第二電極形成工程の後において、上記基板を加熱することによって、上記第二キャリアを輸送する第二キャリア輸送領域を上記第二ホスト領域内に形成する第二キャリア輸送領域形成工程とを有していることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
上記第一キャリア輸送領域形成工程および上記第二キャリア輸送領域形成工程を同時に行うことを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
上記第一キャリア輸送領域形成工程を上記第二電極形成工程の後に行い、
上記第一キャリア輸送領域形成工程において上記第一電極および第二電極に電圧を印加することを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項6】
上記第二キャリア輸送領域形成工程において上記第一電極および第二電極に電圧を印加することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項7】
上記第一キャリア輸送領域形成工程において、上記基板のガラス転位温度を超えない温度で上記基板を加熱することを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
上記第二キャリア輸送領域形成工程において、上記基板のガラス転位温度を超えない温度で上記基板を加熱することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項9】
上記第一電極形成工程において、上記基板上に透明電極を形成し、当該透明電極上に上記第一電極を形成することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項10】
上記第二電極形成工程において、上記基板上に透明電極を形成し、当該透明電極上に上記第二電極を形成することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項11】
上記第一ホスト領域形成工程において、両電荷輸送性材料からなる上記第一ホスト領域を形成し、
上記発光領域形成工程において、上記第一ホスト領域を構成する上記両電荷輸送性材料と同一の両電荷輸送性材料に、上記有機発光材料をドープして上記発光領域を形成し、
上記第二ホスト領域形成工程において、上記第一ホスト領域を構成する上記両電荷輸送性材料と同一の両電荷輸送性材料からなる上記第一ホスト領域を形成することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−96615(P2011−96615A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252434(P2009−252434)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】