説明

有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法

【課題】容易に製造することができ、また発光特性及び寿命特性が良好な有機EL素子及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】有機EL素子1は、基板6上に、陽極2、正孔注入層7、発光層4、電子注入層5および陰極3がこの順に積層されて構成される。電子注入層5が、モリブデン、タングステン、バナジウム、タンタル、チタン、およびIIb族から成る群から選ばれる1種以上の金属の酸と、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから成る群から選ばれる1種以上のアルカリ金属との塩を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機EL素子に比べると、有機EL素子は、低電圧での駆動が可能であり、輝度が高く、多数の色の発光が容易に得られるといった様々な利点を有するため、より高い性能の素子を得るべく、これまで様々な検討がなされている。有機EL素子は、一般に、有機物を含む発光層と、この発光層を挟む一対の電極(陽極および陰極)とを備え、当該一対の電極に電圧を印加することによって、陽極から正孔が注入されるとともに陰極から電子が注入され、これら正孔と電子とが発光層において結合することで発光する。
【0003】
このような有機EL素子では、駆動電圧の低電圧化や素子の長寿命化などを目的として、電極と発光層との間に発光層とは異なる中間層を設けている。このような中間層としては、例えば電子注入層、正孔注入層、正孔輸送層および電子輸送層などがある。
【0004】
例えば非特許文献1には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属などの低仕事関数の金属から成る電子注入層を、陰極と発光層との間に挿入することが提案されている。しかしながら、低仕事関数の金属は単体で非常に活性であり、大気中で不安定なので、素子の対環境耐久性が低くなるという問題がある。そこで非特許文献2では、低仕事関数の金属の弗化物あるいは酸化物を電子注入層に用いることが提案されている。また、特許文献1では、アルカリ金属化合物を電子注入層に用いることが提案されている。また例えば特許文献2には、発光層と電子注入電極との間に酸化モリブデン等の無機酸化物から成る電子注入層を設けることが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平9−17574号公報
【特許文献2】特開2002−367784号公報
【非特許文献1】Journal Of Applied Physics,88(2000)p.3618
【非特許文献2】Applied Physics Letters,70(1997)p.152
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
低仕事関数の金属の弗化物若しくは酸化物、酸化モリブデン等の無機酸化物、またはアルカリ金属化合物から成る電子注入層を設けたとしても、輝度と電力効率との両方が必ずしも十分とはいえない。また酸化モリブデン等の無機酸化物から成る電子注入層は、共蒸着法などを用いて形成するので、組成制御が複雑となり、簡易に素子を製造することができないという問題がある。
【0007】
したがって本発明の目的は、輝度と電力効率とが良好な有機EL素子及び該有機EL素子を簡易に製造することのできる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはこのような事情に鑑み鋭意検討した結果、特定の組合せの塩を含む中間層を陰極と発光層との間に設けることで、素子の発光特性及び寿命特性を向上させうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明は、少なくとも陽極、発光層、中間層および陰極がこの順に積層されて構成される有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記中間層が、モリブデン、タングステン、バナジウム、タンタル、チタン、およびIIb族から成る群から選ばれる1種以上の金属の酸と、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから成る群から選ばれる1種以上のアルカリ金属との塩を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子である。
また本発明は、前記塩が、タングステン酸カリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸セシウム、およびバナジウム酸セシウムからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子である。
また本発明は、前記中間層における前記塩の含有量が、5質量%〜100質量%であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子である。
また本発明は、前記中間層が、前記発光層に接して配置されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子である。
また本発明は、前記中間層が、前記陰極に接して配置されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子である。
また本発明は、陰極側から光が外に取り出されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子である。
また本発明は、前記発光層が高分子化合物を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子である。
また本発明は、前記有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記陽極を形成する工程と、
塗布法で発光層を形成する工程と、
モリブデン、タングステン、バナジウム、タンタル、チタン、およびIIb族から成る群から選ばれる1種以上の金属の酸と、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから成る群から選ばれる1種以上のアルカリ金属との塩を原料に用いる真空蒸着法、スパッタリング法またはイオンプレーティング法で前記中間層を形成する工程と、
前記陰極を形成する工程とを含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、モリブデン、タングステン、バナジウム、タンタル、チタン、およびIIb族から成る群から選ばれる1種以上の金属の酸と、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから成る群から選ばれる1種以上のアルカリ金属との塩を含む中間層を、陰極と発光層との間に設けることによって輝度と電力効率の良好な有機EL素子を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明の実施の一形態の有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という場合がある。)1を示す正面図である。本実施の形態の有機EL素子1は、例えばフルカラー表示装置、エリアカラー表示装置および液晶表示装置などの表示装置における光源、並びに照明装置などに用いられる。
【0011】
本実施の形態の有機EL素子1は、少なくとも陽極2、発光層4、中間層(本実施の形態では電子注入層5)および陰極3がこの順に積層されて構成され、前記中間層(本実施の形態では電子注入層5)が、モリブデン、タングステン、バナジウム、タンタル、チタン、およびIIb族から成る群から選ばれる1種以上の金属の酸と、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから成る群から選ばれる1種以上のアルカリ金属との塩を含む。有機EL素子は、前記陽極を形成する工程と、塗布法で発光層を形成する工程と、前記塩を用いる真空蒸着法、スパッタリング法またはイオンプレーティング法で前記中間層を形成する工程と、前記陰極を形成する工程とを含む本実施の形態の有機EL素子の製造方法によって製造される。本実施の形態の有機EL素子1は、陰極と陽極との間に、少なくとも発光層と前記塩を含む中間層とを備えていればよく、該2つの層に加えて1または複数の層を備えていてもよい。本実施の形態の有機EL素子1は、陽極2と発光層4との間に設けられる正孔注入層7をさらに備え、基板6上に、陽極2、正孔注入層7、発光層4、電子注入層5および陰極3がこの順に積層されて構成される。
【0012】
本実施の形態の有機EL素子1は、発光層4からの光を基板6側から取り出すいわゆるボトムエミッション型の素子であり、可視光領域の光に対する透過率の高い基板6が好適に用いられる。また基板6としては有機EL素子1を形成する工程において変化しないものが好適に用いられ、リジッド基板でも、フレキシブル基板でもよく、例えばガラス、プラスチック、高分子フィルム、シリコン基板、金属板、これらを積層したものなどが好適に用いられる。さらに、プラスチック、高分子フィルムなどに低透水化処理を施したものを用いることも出来る。前記基板6としては、市販のものを使用可能であり、また公知の方法により製造することができる。なお発光層を基準にして基板とは反対側から光を取り出すいわゆるトップエミッション型の有機EL素子を構成してもよく、このような素子では、基板は不透光性のものであってもよい。さらに、前記基板6は、前記基板上に有機EL駆動用のトランジスタ回路や配線が形成されていてもよく、また前記トランジスタ上に絶縁層が積層されていてもよく、また発光層4の成膜領域を区切るような構造物(いわゆる隔壁)が形成されていても良い。
【0013】
陽極2には、電気抵抗の低い薄膜が好適に用いられる。陽極2および陰極3のうちの少なくともいずれか一方は、透明であり、例えばボトムエミッション型の有機EL素子では、基板6側に配置される陽極2は、透明であって、可視光領域の光に対する透過率が高いものが好適に用いられる。陽極2の材料としては、導電性を有する金属酸化物膜、および金属薄膜などが用いられる。具体的には、陽極2としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)およびインジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)などからなる薄膜や、金、白金、銀、銅、アルミニウムあるいはこれら金属を少なくとも1種類以上含む合金等が用いられる。これらの中でも、陽極2としては、透過率、パターニングの容易さから、ITO、IZO、および酸化スズから成る薄膜が好適に用いられる。なお陰極3側から光を取出す場合には、陽極2としては、発光層4からの光を陰極3側に反射する材料によって形成されることが好ましく、該材料としては、仕事関数3.0eV以上の金属、金属酸化物、金属硫化物が好ましい。例えば光を反射する程度の膜厚の金属薄膜が用いられる。
【0014】
陽極2の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等を挙げることができる。また、陽極2として、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよく、また、前記有機の透明導電膜に用いられる材料、金属酸化物、金属硫化物、金属およびカーボンナノチューブなどの炭素材料のうちの2種類以上が含まれる混合物を用いてもよい。陽極の膜厚は、光の透過性と電気伝導度とを考慮して適宜選択することができるが、例えば1nm〜10μmであり、好ましくは2nm〜1μmであり、さらに好ましくは3nm〜500nmである。
【0015】
正孔注入層7は、陽極2からの正孔注入効率を改善する機能を有する層である。正孔注入層7を構成する正孔注入材料としては、特に制限されず、公知の材料を適宜用いることができ、例えばフェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、および酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウムなどの酸化物、並びにアモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体などを挙げることができる。
【0016】
正孔注入層7は、例えば前述の正孔注入材料を含む塗布液を用いた塗布法によって形成される。塗布液の溶媒としては、正孔注入材料を溶解するものであればよく、例えばクロロホルム、水、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒を挙げることができる。
【0017】
塗布法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、およびインクジェットプリント法などを挙げることができる。これら塗布法のうちの1つを用いて、陽極2が形成された基板6上に前述した塗布液を塗布することによって、正孔注入層7を形成することができる。
【0018】
また正孔注入層7を真空蒸着法などを用いて成膜することも可能である。さらに、金属酸化物から成る正孔注入層7であればスパッタリング法、イオンプレーティング法などを用いることも可能である。
【0019】
正孔注入層7の層厚は、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択され、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、厚すぎると素子の駆動電圧が高くなるので好ましくない。従って、正孔注入層7の膜厚としては、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0020】
発光層4は、蛍光、及び/又はりん光を発する有機物を含んで構成される。また発光層4は、ドーパントをさらに含んでもよく、該ドーパントは、たとえば発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で付加される。発光層4に用いられる発光材料としては、低分子化合物または高分子化合物のいずれでもよく、発光層4は、高分子化合物を含むことが好ましい。発光材料としては、例えば以下のものを挙げることができる。
【0021】
色素系の発光材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー、キナクリドン誘導体およびクマリン誘導体などを挙げることができる。
【0022】
金属錯体系の発光材料としては、Tb、Eu、Dyなどの希土類金属、Al、Zn、およびBeなどを中心金属に有し、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを配位子に有する金属錯体を挙げることができ、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体などを挙げることができる。
【0023】
高分子系の発光材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、およびポリビニルカルバゾール誘導体など、並びに上記色素系の発光材料や金属錯体系の発光材料を高分子化したものなどを挙げることができる。
【0024】
上記発光材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0025】
また、緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0026】
また、赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることが出来る。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0027】
ドーパント材料としては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような発光層4の厚さは、通常約2nm〜2000nmである。
【0028】
発光層4の成膜方法としては、発光材料を含む溶液を基体の表面に塗布する塗布法、真空蒸着法、転写法などを挙げることができる。これらの中でも製造工程の容易さから塗布法で発光層を形成することが好ましい。発光材料を含む溶液の溶媒としては、例えば前述した正孔注入層7を形成するための塗布液の溶媒として挙げた溶媒を用いることができる。
【0029】
発光材料を含む溶液を塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法などの塗布法を用いることができる。パターン形成や多色の塗分けが容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法が好ましい。また、昇華性を示す低分子化合物の場合には、真空蒸着法を用いることができる。さらには、レーザーや摩擦による転写や熱転写などの方法によって、所望するところのみに発光層4を形成することもできる。
【0030】
電子注入層5は、主に陰極3からの電子の注入効率を改善するために、陰極3と発光層4との間に設けられる。電子注入層5は、モリブデン、タングステン、バナジウム、タンタル、チタン、およびIIb族から成る群から選ばれる1種以上の金属の酸と、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから成る群から選ばれる1種以上のアルカリ金属との塩を含む。このような塩を含む電子注入層5を構成することで、素子の発光特性及び寿命特性を向上させることができる。
【0031】
前記IIb族の金属の酸のなかでは、亜鉛酸が好ましい。またモリブデン、タングステン、バナジウム、タンタル、チタン、およびIIb族から成る群から選ばれる1種以上の金属の酸の中でも、モリブテン酸、タングステン酸、チタン酸、亜鉛酸が材料入手の容易性の観点から好ましい。モリブデン、タングステン、バナジウム、タンタル、チタン、およびIIb族から成る群から選ばれる1種以上の金属の酸と、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから成る群から選ばれる1種以上のアルカリ金属との塩としては、具体的にはモリブデン酸カリウム、タングステン酸カリウム、バナジウム酸カリウム、タンタル酸カリウム、チタン酸カリウム、亜鉛酸カリウム、モリブデン酸ルビジウム、タングステン酸ルビジウム、バナジウム酸ルビジウム、タンタル酸ルビジウム、チタン酸ルビジウム、亜鉛酸ルビジウム、モリブデン酸セシウム、タングステン酸セシウム、バナジウム酸セシウム、タンタル酸セシウム、チタン酸セシウム、および亜鉛酸セシウムからなる群から選ばれる1種以上を挙げることができ、タングステン酸カリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸セシウム、およびバナジウム酸セシウムから成る群から選ばれる1種以上であることが好ましく、特に、有機EL素子の発光効率を向上させる観点からはモリブデン酸カリウム、タングステン酸カリウムが好ましく、有機EL素子駆動電圧の低電圧化の観点からはモリブデン酸セシウムが好ましい。なお電子注入層は、ニオブ酸セシウム、ニオブ酸ルビジウムを含んで構成されてもよい。
【0032】
前記塩の電子注入層における含有量は、発光特性及び寿命特性を向上させる効果を発現する程度の量であればよく、5質量%〜100質量%が好ましく、20質量%〜100質量%がさらに好ましく、40質量%〜100質量%がさらに好ましい。なお前記塩を含む中間層が、陰極と発光層との間に少なくとも一層配置されていれば、電子注入層は、前記塩を含まない層で構成されてもよい。例えば電子注入層は、発光層に与えるダメージが少なく、電子注入性を極度に阻害しない材料よって構成されてもよく、後述する電子輸送層の材料として挙げる材料で構成されてもよい。前記塩には前掲したように複数の種類があるが、電子注入層は2種類以上の塩を含んでいてもよい。さらに前記塩に、該塩を構成する元素とは異なる元素をドープした部材で電子注入層を構成してもよい。前記塩にドープする元素としては例えば、アルミニウム、インジウム、ガリウム、金、銀、錫、銅、ニッケル、クロム、ケイ素、アルカリ土類金属、炭素などを挙げることができる。なおモリブデン、タングステン、バナジウム、タンタル、チタン、およびIIb族から成る群から選ばれる1種以上の金属の酸と、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから成る群から選ばれる1種以上のアルカリ金属との塩が、化学量論的な比率からずれる場合もありうる。
【0033】
一般にアルカリ金属は発光層内に拡散しやすく、発光を阻害する消光因子となり、発光効率を著しく低下させることが知られている。しかしながら、電子注入層におけるカリウム、ルビジウムおよびセシウムは、塩の形態で安定して存在するので、素子の長寿命化を図ることができる。
【0034】
中間層(本実施の形態では電子注入層)は、前記発光層に接して配置されることが好ましい。前述したように、電子注入層におけるカリウム、ルビジウムおよびセシウムは、塩の形態で安定して存在するので、発光層に電子注入層を直接積層したとしても、カリウム、ルビジウムおよびセシウムが著しく遊離することはなく、発光層内に拡散して消光因子が形成されるおそれが少ないと考えられる。したがって、前記電子注入層から前記発光層に電子を直接注入できるため、後述する電子輸送層を省略することが可能となり、簡易な構成の有機EL素子を実現することができ、ひいては有機EL素子の作製工程を簡易にすることができる。
【0035】
また、前記中間層(本実施の形態では電子注入層)は、前記陰極に接して配置されることが好ましい。例えば、電子の注入を阻害する不純物を含む層や電気伝導度の低い層を電子注入層と陰極との間に設けると、発光層への電子の注入効率が低下するおそれがあり、ひいては駆動電圧が上昇するおそれがあるが、電子注入層を陰極に接して配置することで発光層への電子の注入効率を向上し、駆動電圧の低下を図ることができる。
【0036】
中間層(本実施の形態では電子注入層)は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、分子線蒸着法、およびイオンビーム蒸着法等により形成することができ、前記塩を原料に用いる真空蒸着法、スパッタリング法又はイオンプレーティング法によって形成されることが好ましい。真空蒸着法としては、成膜チャンバー内にプラズマを導入することによって、反応性や成膜性を向上させたプラズマアシスト真空蒸着法なども用いることができる。真空蒸着法における蒸発源としては、抵抗加熱、電子ビーム加熱、高周波誘導加熱、レーザビーム加熱などが挙げられる。これらのなかでも、抵抗加熱、電子ビーム加熱、高周波誘導加熱が簡便であり好ましい。スパッタ法としては、DCスパッタ法、RFスパッタ法、ECRスパッタ法、コンベンショナル・スパッタリング法、マグネトロンスパッタ法、イオンビーム・スパッタ法、対向ターゲットスパッタ法などを挙げることができる。これらのなかでも、電子注入層よりも先に形成された層にダメージを与えないためにも、マグネトロンスパッタ法、イオンビーム・スパッタ法、対向ターゲットスパッタ法を用いることが好ましい。なお、成膜時において、雰囲気中に酸素や酸素元素を含むガスを導入して蒸着を行ってもよい。
【0037】
電子注入層5の層厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択され、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、厚すぎると素子の駆動電圧が高くなるので好ましくない。従って、電子注入層5の膜厚は、通常0.5nm〜1μmであり、好ましくは1nm〜200nmであり、さらに好ましくは2nm〜150nmである。
【0038】
大気中において非常に不安定なアルカリ金属と、酸化物との組成比を精密に制御しながら共蒸着で電子注入層を成膜する方法に比べると、大気中において比較的安定な塩を材料に用いることで、組成比を制御する必要がなく、比較的低温、低エネルギーで電子注入層を形成することができる。これによって製造工程が簡易になり、安価に有機EL素子を作製することができる。
【0039】
陰極3の材料としては、仕事関数が小さく、発光層4への電子注入が容易なものが好ましく、また電気伝導度の高いものが好ましい。また陽極2側から光を取り出す場合には、発光層4からの光を陽極2側に反射するために、可視光反射率の高いものが好ましい。陰極3の材料としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属およびIIIb族金属などの金属を用いることができる。具体的には、陰極3の材料として、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫あるいはこれら金属を少なくとも1種類以上含む合金、またはグラファイト若しくはグラファイト層間化合物などが用いられる。合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金などを挙げることができる。
【0040】
なお陰極3側から光を取出す素子を構成する場合には、該陰極3として透明導電性電極を用いることができ、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITOおよびIZOなどの導電性金属酸化物からなる薄膜や、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの導電性有機物から成る薄膜を用いることができる。なお、陰極を2層以上の積層構造としてもよい。
【0041】
本実施の形態の有機EL素子1は、基板6から順に、陽極2、正孔注入層7、発光層4、電子注入層5、陰極3がこの順序で成膜されるが、変形例としては、基板上に、陰極、電子注入層、発光層、正孔注入層、陽極をこの順序で積層するようにしてもよい。
【0042】
前述したように本発明の有機EL素子は、モリブデン、タングステン、バナジウム、タンタル、チタン、およびIIb族から成る群から選ばれる1種以上の金属の酸と、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから成る群から選ばれる1種以上のアルカリ金属との塩を含む中間層が、発光層と陰極との間に設けられていればよく、該中間層は電子注入層に限られず、また陽極2と陰極3との間の層構成は、前述の実施の形態の有機EL素子1の層構成に限られない。発光層は通常1層設けられるが、これに限らず2層以上の発光層を設けることもできる。その場合、2層以上の発光層は、直接接して積層することもでき、かかる層の間に発光層以外の層を設けることができる。
【0043】
以下に、陽極2と陰極3との間に設けられる層構成の一例について説明する。なお、以下の説明において、陽極、陰極、発光層、正孔注入層および電子注入層については、重複する説明を省略する場合がある。
【0044】
陰極と発光層との間に設けられる層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層などを挙げることができる。陰極と発光層との間に、電子注入層と電子輸送層との両方の層が設けられる場合、陰極に近い側に位置する層を電子注入層といい、発光層に近い側に位置する層を電子輸送層という。
【0045】
電子注入層は、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する層である。電子輸送層は、陰極、または電子注入層、若しくは陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお、電子注入層または電子輸送層が、正孔ブロック層を兼ねる場合がある。
【0046】
陽極と発光層との間に設ける層としては、前述した正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層等を挙げることができる。陽極と発光層との間に、正孔注入層と正孔輸送層との両方が設けられる場合、陽極に近い側に位置する層を正孔注入層といい、発光層に近い側に位置する層を正孔輸送層という。
【0047】
正孔注入層は、陽極からの正孔注入効率を改善する機能を有する層である。正孔輸送層は、陽極または正孔注入層、若しくは陽極により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層である。電子ブロック層は、電子の輸送を堰き止める機能を有する層である。正孔注入層または正孔輸送層が、電子ブロック層を兼ねることがある。
【0048】
なお、電子注入層および正孔注入層を総称して電荷注入層ということがあり、電子輸送層および正孔輸送層を総称して電荷輸送層ということがある。また、電子ブロック層及び正孔ブロック層を総称して電荷ブロック層ということがある。
【0049】
有機EL素子のとりうる層構成の具体的な一例を以下に示す。
a) 陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
b) 陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
c) 陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
d) 陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
e) 陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極
f) 陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
g) 陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
h) 陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
i) 陽極/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
j) 陽極/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
k) 陽極/発光層/電子輸送層/陰極
l) 陽極/発光層/電子注入層/陰極
(ここで、記号「/」は、この記号「/」を挟む2つの層が隣接して積層されることを示す。以下同じ。)
上記層構成の各例において、発光層と陽極との間に電子ブロック層を挿入することができる。また、発光層と陰極との間に正孔ブロック層を挿入することもできる。
【0050】
また有機EL素子は、2層以上の発光層を有していてもよい。2層の発光層を有する有機EL素子の素子構成としては、以下の例を挙げることができる。
m) 陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/電極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
また3層以上の発光層を有する有機EL素子の素子構成としては、(電極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層)を一つの繰り返し単位とすると、2つ以上の繰り返し単位を含む以下の例を挙げることができる。
n)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/繰り返し単位/繰り返し単位/・・・/陰極
上記層構成mおよびnにおいて、陽極、陰極、発光層以外の各層は必要に応じて省略することができる。
【0051】
基板6から光を取り出すボトムエミッション型の有機EL素子では、発光層に対して、基板6側に配置される層を全て透明な層で構成する。また基板6とは反対側の陰極3側から光を取り出すいわゆるトップエミッション型の有機EL素子では、発光層に対して、陰極3側に配置される層を全て透明な層で構成する。
【0052】
有機EL素子は、さらに電極との密着性の向上や、電極からの電荷注入効率の改善のために、膜厚が2nm以下の絶縁層を電極に隣接して設けてもよく、また界面の密着性の向上や各層の混合防止などのために、隣接する前記各層の界面に薄いバッファー層を挿入してもよい。
【0053】
以下、各層の具体的な構成について説明する。
【0054】
<正孔輸送層>
正孔輸送層を構成する正孔輸送材料としては、特に制限されないが、例えばN,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)4,4’−ジアミノビフェニル(TPD)、NPB(4,4'−bis[N−(1−naphthyl)−N−phenylamino]biphenyl)等の芳香族アミン誘導体、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などを挙げることができる。
【0055】
これらの正孔輸送材料の中で、正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体等の高分子の正孔輸送材料が好ましく、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体などがさらに好ましい。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0056】
正孔輸送層の成膜の方法としては、低分子の正孔輸送材料では、高分子バインダーとの混合溶液からの成膜による方法を挙げることができ、高分子の正孔輸送材料では、溶液からの成膜による方法を挙げることができる。
【0057】
溶液からの成膜に用いる溶媒としては、正孔輸送材料を溶解させるものであればよく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒を挙げることができる。
【0058】
溶液からの成膜方法としては、正孔注入層を成膜する方法として挙げた方法と同様の塗布法を挙げることができる。
【0059】
混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収が弱いものが好適に用いられる。該高分子バインダーとしては、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサンなどを挙げることができる。
【0060】
正孔輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択され、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、厚すぎると、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、正孔輸送層の膜厚は、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0061】
<電子輸送層>
電子輸送層を構成する電子輸送材料としては、モリブデン、タングステン、バナジウム、タンタル、チタン、およびIIb族から成る群から選ばれる1種以上の金属の酸と、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから成る群から選ばれる1種以上のアルカリ金属との塩、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等を挙げることができる。モリブデン、タングステン、バナジウム、タンタル、チタン、およびIIb族から成る群から選ばれる1種以上の金属の酸と、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから成る群から選ばれる1種以上のアルカリ金属との塩としては、前述の電子注入層で例示した塩を挙げることができる。
【0062】
これらのうち、電子輸送材料としては、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0063】
電子輸送層の成膜法としては、低分子の電子輸送材料では、粉末からの真空蒸着法、若しくは溶液または溶融状態からの成膜による方法を挙げることができ、高分子の電子輸送材料では、溶液または溶融状態からの成膜による方法を挙げることができる。溶液または溶融状態からの成膜では、高分子バインダーをさらに併用してもよい。溶液から電子輸送層を成膜する方法としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する方法と同様の成膜法を挙げることができる。またモリブデン、タングステン、バナジウム、タンタル、チタン、およびIIb族から成る群から選ばれる1種以上の金属の酸と、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから成る群から選ばれる1種以上のアルカリ金属との塩を原料に用いる真空蒸着法、スパッタリング法またはイオンプレーティング法で電子輸送層を形成してもよい。
【0064】
電子輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよく、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、厚すぎると素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、該電子輸送層の膜厚は、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【実施例1】
【0065】
素子構成が、ガラス基板/ITO薄膜から成る陽極/正孔注入層/電子ブロック層/発光層/電子注入層/陰極/封止ガラスの有機EL素子を作製した。以下詳細を示す。
【0066】
<合成例>
上記電子ブロック層の材料となる高分子化合物1を合成した。まず攪拌翼、バッフル、長さ調整可能な窒素導入管、冷却管、および温度計を備えるセパラブルフラスコに2,7−ビス(1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレン158.29重量部と、ビス−(4−ブロモフェニル)−4−(1−メチルプロピル)−ベンゼンアミン136.11重量部と、トリカプリルメチルアンモニウムクロリド(ヘンケル社製 Aliquat 336)27重量部と、トルエン1800重量部とを仕込み、窒素導入管から窒素を導入しながら、攪拌下90℃まで昇温した。酢酸パラジウム(II)0.066重量部と、トリ(o−トルイル)ホスフィン0.45重量部とを加えた後、17.5%炭酸ナトリウム水溶液573重量部を1時間かけて滴下した。滴下終了後、窒素導入管を液面より引き上げ、還流下7時間保温した後、フェニルホウ酸3.6重量部を加え、14時間還流下保温し、室温まで冷却した。反応液水層を除いた後、反応液油層をトルエンで希釈し、3%酢酸水溶液、イオン交換水で洗浄した。分液油層にN,N−ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物13重量部を加え4時間攪拌した後、活性アルミナとシリカゲルとの混合カラムに通液し、トルエンを通液してカラムを洗浄した。濾液および洗液を混合した後、メタノールに滴下して、ポリマーを沈殿させた。得られたポリマー沈殿を濾別し、メタノールで沈殿を洗浄した後、真空乾燥機でポリマーを乾燥させ、ポリマー192重量部を得た。得られたポリマーを高分子化合物1とよぶ。高分子化合物1のポリスチレン換算重量平均分子量は、3.7×105であり、数平均分子量は8.9×104であった。
【0067】
(GPC分析法)
ポリスチレン換算重量平均分子量および数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めた。GPCの検量線の作成にはポリマーラボラトリーズ社製標準ポリスチレンを使用した。測定する重合体は、約0.02重量%の濃度になるようテトラヒドロフランに溶解させ、GPCに10μL注入した。GPC装置は島津製作所製LC−10ADvpを用いた。カラムは、ポリマーラボラトリーズ社製PLgel 10μm MIXED−Bカラム(300×7.5mm)を2本直列に接続して用い、移動相としてテトラヒドロフランを25℃、1.0mL/minの流速で流した。検出器にUV検出器を用い、228nmの吸光度を測定した。
【0068】
<有機EL素子作製>
基板にはガラス基板を用いた。このガラス基板の表面上にスパッタリング法によって成膜され、さらに所定の形状にパターニングされたITO薄膜を陽極として用いた。ITO薄膜の膜厚は、約150nmであった。
【0069】
ポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(HCスタルクビーテック社製、商品名:Bytron P/TP AI 4083)の懸濁液を0.5μm径のフィルターでろ過し、ITO薄膜が形成されたガラス基板上にろ過した液をスピンコート法により塗布し、膜厚60nmで成膜した。次に取り出し電極部分や封止エリアに形成された膜を拭き取って除去し、さらに大気下にてホットプレートを用いて約200℃で10分間乾燥させ、正孔注入層を形成した。
【0070】
次に正孔注入層が形成された基板に前記高分子化合物1を含む塗布液をスピンコート法により塗布し、膜厚約20nmで成膜した。次に取り出し電極部分や封止エリアに形成された膜を拭き取って除去し、さらに窒素雰囲気にてホットプレートを用いて200℃で20分間ベイク処理を行い、電子ブロック層を形成した。
【0071】
次に電子ブロック層が形成された基板に、高分子発光有機材料(BP361:サメイション社製)をスピンコート法により塗布し、膜厚約70nmで成膜した。次に取り出し電極部分や封止エリアに形成された膜を拭き取って除去した。
次に、この基板をトッキ株式会社製 真空蒸着機(Small−ELVESS)の加熱チャンバーに移した(以後、真空中或いは窒素中でプロセスを行い、プロセス中に素子が大気に曝されることはない。)。次に、真空度1×10-4Pa以下の真空中で基板を基板温度約80〜120℃で40分間加熱した。
【0072】
その後、蒸着チャンバーに基板を移し、発光部及び取り出し電極部に陰極が成膜されるように陰極用のメタルマスクを位置合わせし、さらにメタルマスクと基板との相対位置を変えずに両者を回転させながら電子注入層を蒸着した。
【0073】
また、電子注入層の蒸着には、抵抗加熱法を用いた。モリブデンボートを用いボート内に電子注入層材料を充填し、材料が突沸し飛散することを防ぐ穴の開いたカバーを取り付けた。次にボートに電流を流し発熱させ材料を加熱することで電子注入層材料を蒸発あるいは昇華させ、前記基板上に電子注入層材料を堆積させて電子注入層を形成した。蒸着開始前のチャンバー内の真空度は3×10-5Pa以下であった。
【0074】
電子注入層材料は、モリブデン酸セシウム(Cs2MoO4)粉末(純度99.9%、フルウチ化学株式会社製)を用いた。また、このときの蒸着速度は約0.5nm/sec、電子注入層の膜厚は約1.5nmであった。
次に、蒸着法としては電子ビーム蒸着法を用い、Alを蒸着速度約10Å/secで成膜し、膜厚が100nmの陰極を形成した。蒸着開始前のチャンバー内の真空度は3×10-5Pa以下であった。その後、表面の周縁部にUV(紫外線)硬化樹脂が塗布された封止ガラスを、不活性ガス中において減圧下で基板に貼り合わせた。その後大気圧に戻し、UVを照射することでUV(紫外線)硬化樹脂を光硬化させることで封止ガラスを基板に固定し、高分子有機EL素子を作製した。なお1画素の発光領域は2mm×2mmである。
【0075】
<有機EL素子の評価>
東京システム開発社製の有機EL測定装置を用いて電流‐電圧‐輝度、発光スペクトルの測定を行った。本実施例で作製した有機EL素子に約6.0Vの電圧を印加したところ、正面輝度が1000cd/m2となった。このときの電流密度は0.017A/cm2であり、EL発光スペクトルは460nmにピークを示した。また、発光の電力効率の最大値は約3.4 lm(ルーメン)/Wであった。
【実施例2】
【0076】
<有機EL素子作製>
電子注入層材料にモリブデン酸セシウム(Cs2MoO4)粉末(純度99.9%、フルウチ化学株式会社製)を用い、電子注入層の膜厚が、約15nmであること以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0077】
<有機EL素子の評価>
実施例1と同様に、電流‐電圧‐輝度、発光スペクトルの測定を行った。本実施例で作製した有機EL素子に約4.5Vの電圧を印加したところ、正面輝度が1000cd/m2となった。このときの電流密度は0.016A/cm2であり、EL発光スペクトルは460nmにピークを示した。また、発光の電力効率の最大値は約4.6 lm/Wであった。
【実施例3】
【0078】
<有機EL素子作製>
素子構成が、ガラス基板/ITO薄膜から成る陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極/封止ガラスの有機EL素子を作製した。すなわち本実施例3の素子構成は、実施例1の素子構造から電子ブロック層を除いた構成である。
電子ブロック層の形成工程を省略したこと、電子注入層を形成する前の加熱チャンバー内での基板の加熱処理を窒素中(純度:99.9999%以上)、基板温度約100〜130℃で10分間加熱したこと、電子注入層材料としてモリブデン酸セシウム(Cs2MoO4)粉末(純度99.9%、フルウチ化学株式会社製)を用い、膜厚が約1.5nmの電子注入層を形成したこと以外は、実施例1と同様に有機EL素子を作製した。
【0079】
<有機EL素子の評価>
実施例1と同様に、電流‐電圧‐輝度、発光スペクトルの測定を行った。本実施例で作製した有機EL素子に約4.7Vの電圧を印加したところ、正面輝度が1000cd/m2となった。このときの電流密度は0.060A/cm2であり、EL発光スペクトルは460nmにピークを示した。また、発光の電力効率の最大値は約1.6 lm/Wであった。
【実施例4】
【0080】
<有機EL素子作製>
電子注入層材料にモリブデン酸カリウム(K2MoO4)粉末(純度98%、Aldrich社製)を用い、電子注入層の膜厚が、約1.5nmであること以外は、実施例3と同様に有機EL素子を作製した。
【0081】
<有機EL素子の評価>
実施例1と同様に、電流‐電圧‐輝度、発光スペクトルの測定を行った。本実施例で作製した有機EL素子に約8.9Vの電圧を印加したところ、正面輝度が1000cd/m2となった。このときの電流密度は0.063A/cm2であり、EL発光スペクトルは460nmにピークを示した。また、発光の電力効率の最大値は約3.0 lm/Wであった。
【実施例5】
【0082】
<有機EL素子作製>
電子注入層材料にバナジウム酸セシウム(Cs3V04)粉末(純度99.9%、Aldrich社製)を用い、膜厚が約1.5nmの電子注入層を形成したこと以外は、実施例3と同様に有機EL素子を作製した。
【0083】
<有機EL素子の評価>
実施例1と同様に、電流‐電圧‐輝度、発光スペクトルの測定を行った。本実施例で作製した有機EL素子に約5.6Vの電圧を印加したところ、正面輝度が1000cd/m2となった。このときの電流密度は0.002A/cm2であり、EL発光スペクトルは460nmにピークを示した。また、発光の電力効率の最大値は約2.4 lm/Wであった。
【実施例6】
【0084】
<有機EL素子作製>
電子注入層材料にバナジウム酸セシウム(CsVO3)粉末(純度99.9%、Aldrich社製)を用い、膜厚が約1.5nmの電子注入層を形成したこと以外は、実施例3と同様に有機EL素子を作製した。
【0085】
<有機EL素子の評価>
実施例1と同様に、電流‐電圧‐輝度、発光スペクトルの測定を行った。本実施例で作製した有機EL素子に約11.0Vの電圧を印加したところ、正面輝度が1000cd/m2となった。このときの電流密度は0.4A/cm2であり、EL発光スペクトルは460nmにピークを示した。また、発光の電力効率の最大値は約0.1 lm/Wであった。
【実施例7】
【0086】
<有機EL素子作製>
電子注入層材料にタングステン酸カリウム(K2WO4)粉末(純度99.99%、Aldrich社製)を用い、膜厚が約1.5nmの電子注入層を形成したこと以外は、実施例3と同様に有機EL素子を作製した。
【0087】
<有機EL素子の評価>
実施例1と同様に、電流‐電圧‐輝度、発光スペクトルの測定を行った。本実施例で作製した有機EL素子に約7.5Vの電圧を印加したところ、正面輝度が1000cd/m2となった。このときの電流密度は0.04A/cm2であり、EL発光スペクトルは460nmにピークを示した。また、発光の電力効率の最大値は約2.5 lm/Wであった。
【0088】
<有機EL素子の評価>
実施例1と同様に、電流‐電圧‐輝度、発光スペクトルの測定を行った。本実施例で作製した有機EL素子に約4.61Vの電圧を印加したところ、正面輝度が1000cd/m2となった。このときの電流密度は0.071A/cm2であり、EL発光スペクトルは460nmにピークを示した。また、発光の電力効率の最大値は約1.1 lm/Wであった。
(比較例1)
【0089】
<有機EL素子作製>
電子注入層材料にタングステン酸ナトリウム2水和物(Na2WO4・2H2O)粉末(純度99.995%、Aldrich社製)を用い、電子注入層の膜厚が、約1.5nmであること以外は、実施例3と同様に有機EL素子を作製した。
【0090】
<有機EL素子の評価>
実施例1と同様に、電流‐電圧‐輝度、発光スペクトルの測定を行った。本実施例で作製した有機EL素子に約15.7Vの電圧を印加したところ、正面輝度が100cd/m2となった。このときの電流密度は0.096A/cm2であり、EL発光スペクトルは460nmにピークを示した。また、発光の電力効率の最大値は約0.03 lm/Wであった。
(比較例2)
【0091】
<有機EL素子作製>
電子注入層材料にモリブデン酸バリウム(BaMoO4)粉末(純度99.9%、Aldrich社製)を用い、膜厚が約1.5nmの電子注入層を形成したこと以外は、実施例3と同様に有機EL素子を作製した。
【0092】
<有機EL素子の評価>
実施例1と同様に、電流‐電圧‐輝度、発光スペクトルの測定を行った。本実施例で作製した有機EL素子に約16Vの電圧を印加したところ、正面輝度が0.3cd/m2となった。このときの電流密度は0.042A/cm2であり、EL発光スペクトルは460nmにピークを示した。また、発光の電力効率の最大値は約0.0 lm/Wであった。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施の一形態の有機EL素子1を示す正面図である。
【符号の説明】
【0094】
1 有機EL素子
2 陽極
3 陰極
4 発光層
5 電子注入層
6 基板
7 正孔注入層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも陽極、発光層、中間層および陰極がこの順に積層されて構成される有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記中間層が、モリブデン、タングステン、バナジウム、タンタル、チタン、およびIIb族から成る群から選ばれる1種以上の金属の酸と、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから成る群から選ばれる1種以上のアルカリ金属との塩を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記塩が、タングステン酸カリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸セシウム、およびバナジウム酸セシウムから成る群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記中間層における前記塩の含有量が、5質量%〜100質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記中間層が、前記発光層に接して配置されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記中間層が、前記陰極に接して配置されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
陰極側から光が外に取り出されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記発光層が高分子化合物を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記陽極を形成する工程と、
塗布法で発光層を形成する工程と、
モリブデン、タングステン、バナジウム、タンタル、チタン、およびIIb族から成る群から選ばれる1種以上の金属の酸と、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから成る群から選ばれる1種以上のアルカリ金属との塩を原料に用いる真空蒸着法、スパッタリング法またはイオンプレーティング法で前記中間層を形成する工程と、
前記陰極を形成する工程とを含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−246126(P2009−246126A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90687(P2008−90687)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】