説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

陰極をトップ電極とし、発光効率、駆動電圧及び寿命に優れた有機EL素子を提供することを目的とする。基板(11)上に、陽極(12)、有機層(13)及び陰極(14)がこの順で積層された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、有機層(13)と陰極(14)との間に積層されアルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方を主成分とする金属の電子注入層(15)と、電子注入層(15)と陰極(14)との間に積層されフラーレン類を含有するフラーレン層(26)とを備え、フラーレン層(26)は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機エレクトロルミネッセンス素子に関し、特にディスプレイデバイス又は照明に用いられる有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機物の薄膜を2つの電極で挟み、電圧印加により発光(エレクトロルミネッセンス)が得られる素子は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と記す)と呼ばれる。有機低分子材料を用いる有機EL素子は1960年代に見出され(非特許文献1)、1980年代にその素子構造及び実用的なプロセスが開発された(非特許文献2)。低分子材料を用いる有機EL素子は、その有機薄膜が真空プロセスでの不純物やダストの混入が少ない真空蒸着法などによって作製されるので、画素欠陥が少ないという特徴がある。その後1990年代前半には、高分子を用いた有機EL素子が報告されている(非特許文献3)。高分子材料が用いられた有機EL素子は、高分子を溶媒に溶解して得られる溶液又は分散液を湿式法により塗布することによりその有機薄膜が作製されるので、大気圧下の簡便プロセスが使用され材料ロスが少ないという特徴を有している。いずれの有機EL素子も、自発光で明るい、視野角依存性が小さい、大面積化や微細アレイ化が容易、などの特徴を有しており、ディスプレイの発光源や照明用光源として近年開発されている。
【0003】
図1は、非特許文献2に記載された従来の有機EL素子の構造断面図である。図1に記載された有機EL素子500は、透明基板501と、透明ボトム電極502と、有機層503と、不透明トップ電極504とを備える。透明基板501の上に透明ボトム電極502が積層され、有機層503からの発光が基板側から取り出される構造である。不透明トップ電極504としては金属電極などが用いられ、有機層503からの発光が反射される。以下、有機EL素子500と同様の構造を有する有機EL素子をボトムエミッション有機EL素子と記す。
【0004】
これに対して、図2は、有機層からの発光がトップ電極側から取り出される構造を有する従来の有機EL素子(特許文献1等)の構造断面図である。図2に記載された有機EL素子600は、不透明基板601と、不透明ボトム電極602と、有機層603と、透明トップ電極604とを備える。不透明基板601の上に不透明ボトム電極602が積層され、有機層603からの発光が透明トップ電極604から取り出される構造である。以下、有機EL素子600と同様の構造を有する有機EL素子をトップエミッション有機EL素子と記す。
【0005】
有機EL素子とそれを駆動する薄膜トランジスタ(以下TFTと記す)からなるアクティブマトリックス型有機ELディスプレイへの適用性を考えた場合、トップエミッション有機EL素子が、ボトムエミッション有機EL素子よりも適性に優れる。なぜならば、ボトムエミッション有機EL素子の場合、発光は基板側から取り出されるので、画素面積に占める有機EL発光部の面積は、基板上の不透明なTFTや電気配線以外の面積に制限されてしまうからである。同時に、画素内のTFTや電気配線の面積は、有機ELの面積確保が優先されるため、なるべく小さくする必要があり、設計の自由度が制約される。
【0006】
これに対して、トップエミッション有機EL素子の場合、発光は基板と逆側から取り出されるので、基板側のTFT層に重ねて有機EL素子を形成することができ、TFT層の面積を画素面積まで広げることが可能である。これによって、TFTのチャネル幅が拡大されるので有機EL素子に供給される電流量が増大し、あるいは、TFTの数を増加させ電流補償回路を形成することができるのでディスプレイの面内輝度分布が均一化される。加えて、画素面積に占める有機EL素子の面積の割合が増加するので、単位素子あたりの発光負荷が減少し、ディスプレイの寿命が向上する。
【0007】
特に、ディスプレイへの応用において利益が大きいトップエミッション有機EL素子では、透明トップ電極604用の電極として、インジウムスズ酸化物(以下ITOと記す)電極などの金属酸化物系の電極が用いられる。これらは抵抗加熱蒸着によって良好な透明性と導電性をもつ薄膜として形成されることが困難であるので、スパッタ法やプラズマを用いたその他の成膜法が用いられる。
【0008】
また、一般に、有機EL素子構造は、ボトム電極が陽極、トップ電極が陰極となる。特に有機高分子材料を用いる有機EL素子の場合には、高分子層はスピンコート法やインクジェット法といった湿式法により形成される。電子を供給する機能を有する陰極として使用されているアルカリ金属やアルカリ土類金属あるいはそれらの塩は、水や酸素と反応し、不安定な状態となりやすい。よって、陰極をボトム電極とした場合、ボトム電極を構成しているアルカリ金属やアルカリ土類金属あるいはそれらの塩が、成膜初期が液層である有機層と反応し、積層界面にて相互溶出や相互拡散が発生するため、積層界面の制御が困難となってしまう。この観点からも、陰極がトップ電極である構造がとられる。
【0009】
以上のように、ITOに代表される透明トップ電極が陰極である場合、有機発光層へ電子が注入されるためには、透明陰極と有機発光層との間に、
(1)透明陰極から有機発光層への電子注入を促進すること
(2)透明陰極製膜時のダメージから有機発光層を守ること
(3)光透過性が高いこと
という特性条件を備えた電子注入層が必要となる。
【0010】
(1)については、ITOに代表される金属酸化物系の透明トップ電極が、その仕事関数から正孔注入特性には優れるが電子注入特性には優れおらず、電子注入特性を補助する必要があるからである。(2)については、ITOなど金属酸化物の成膜方法がプラズマを用いた成膜法であるため、発光効率の低下、駆動電圧の上昇及び素子寿命の低下につながるプラズマダメージから有機発光層を保護するためである。(3)については、有機発光層での発光を損失なく透過させるためである。
【0011】
電子注入層としての上記要件を満足させるため、従来の有機EL素子としては、特許文献2、3、4などが開示されている。
【0012】
特許文献2では、金属ドープされた有機物が透明電極の下層に用いられており、当該金属ドープされた有機物の存在により、透明陰極が製膜される際の有機発光層のダメージが低減されるとともに、電子注入が促進されている。金属ドープされた有機物の層に用いられる有機物としては、一般に用いられてきたπ電子系低分子電子輸送材料が提案されている。
【0013】
また、特許文献3では、金属ドープされたフラーレン類の使用が開示されている。
【0014】
また、特許文献4では、フラーレン類を含有する層が電子輸送層として用いられ、その上層又は下層にアルカリフッ化物を含有する層及び導電性材料を含有する上部電極がこの順で形成されることにより、オーム挙動を示す電子輸送特性が実現されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平10−162959号公報
【特許文献2】特開2004−12774号公報
【特許文献3】特開2000−260572号公報
【特許文献4】特開2004−327436号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】M. Popeら、Journal of Chemical Physics 38号 2042〜2043ページ、1963年
【非特許文献2】C. W. TangとS. A. Vanslyke、Applied Physcs Letters 51号、913〜915ページ、1987年
【非特許文献3】J. H. Burroughesら、Nature 347号、539〜541ページ、1990年
【非特許文献4】C. Feryら、Applied Physics Letters、87号、213502、2005年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献2に記載されたπ電子系低分子電子輸送材料は、スパッタダメージに対するダメージが大きく、有機発光層のダメージは低減できるものの、この層自体がダメージを受け、素子の不安定性や駆動電圧の上昇などを招くという問題がある。
【0018】
また、特許文献3に記載されたフラーレン類は、スパッタやプラズマなどに対するダメージ耐性が高いが、フラーレン類が有機発光層に直接接触すると、有機EL駆動時に有機発光層内で生じた発光性励起子のエネルギーがフラーレン層にエネルギー移動してしまうので発光効率が低下する。つまり、フラーレン類は有機発光層の発光を消光させ、素子の発光効率を大幅に低減させてしまうという問題がある。
【0019】
また、特許文献4に記載されたアルカリフッ化物は、導電性材料を含有する上部電極としてITOなどの透明酸化物系の陰極によって酸化されてしまい、有機EL素子の安定性や寿命は著しく低下するという問題がある。
【0020】
また、アルカリフッ化物を含有する層の上層にフラーレン層が積層された場合、アルカリフッ化物が、電子注入を実現するために必要である金属状態へ十分還元されず、有機発光層への良好な電子注入が得られないという問題がある。
【0021】
上述したように、ITOなどの陰極をトップ電極として、さまざまな構成が提案されているが、ディスプレイデバイスとして必須要素である素子の安定性、低駆動電圧、高発光効率を全て満足するものは得られていない。
【0022】
上記課題に鑑み、本発明は、陰極をトップ電極とし、発光効率、駆動電圧及び寿命の全てついて優れた有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板上に、陽極、有機物からなる発光層及び陰極がこの順で積層された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記発光層と前記陰極との間に積層され、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方を主成分とする金属であり、前記発光層へ電子を注入する電子注入層と、前記電子注入層と前記陰極との間に積層され、フラーレン類を含有するフラーレン層とを備え、前記フラーレン層は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方を含有することを特徴とする。
【0024】
これにより、フラーレン類は導電性に優れているので、フラーレン類を含有する層はITOなどの透明陰極から発光層に向かって電子を効率よく輸送することが可能となる。また、フラーレン類はプラズマや熱に対する耐性が高いとともに、下地層である発光層をプラズマから保護することができる。また、フラーレン類は金属よりも光透過性に優れるために、フラーレン類を含有する層は発光層で生じたEL発光を効率よく透明陰極側から取り出すことができる。ただし、フラーレン類が発光層に直接接触すると発光層の発光を消光してしまうという欠点、および、フラーレン類が有機層に対する十分な電子注入能力を備えていないという欠点を有する。上記欠点を解消すべく、電子注入能力に優れ、有機層の消光を来さないアルカリ金属やアルカリ土類金属を含有する層を、フラーレン類を含有する層と発光層との間に挿入しているので、フラーレン類を含有する層の短所を防ぐことができる。加えて、フラーレン類はアルカリ金属やアルカリ土類金属と接触しても、これらの金属を酸化することがなく、さらに、導電性金属酸化物を含有する透明陰極と接触しても酸化されないという利点も有するので、フラーレン類を含有する層は、アルカリ金属やアルカリ土類金属を含有する層及び透明陰極であるトップ電極と安定に接触できる。
【0025】
すなわち、フラーレン類の有する導電性、透明性及び透明電極製膜時の発光層へのプロセスダメージを低減する効果、及び、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の優れた電子注入性が得られると共に、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方を主成分とする金属の層の介在によりフラーレン類の課題であった発光の消光を防ぐことができるので、透明陰極をトップ電極とした有機EL素子の発光効率の上昇、駆動電圧の低減及び寿命の向上を達成することができる。さらに、フラーレン類の透明電極製膜時の発光層へのプロセスダメージが低減されることにより、当該ダメージにより生成される発光層内のピンホールを介して素子が短絡され滅点となることが防止されるために、生産時の歩留まりが向上する。
【0026】
また、前記フラーレン層が、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方を含有していることにより、フラーレン類を含有する層がアルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方を含有することにより当該層の光吸収量が低下するので、素子の発光効率が向上する。さらに、フラーレン類を含有する層はアルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方を含有することにより導電率が向上するので、駆動電圧を低減することができる。よって、消費電力の低減に貢献すると共に、一定輝度の発光を出力するために素子に流れる電流量を減らすことができ素子寿命の向上に寄与する。
【0027】
また、前記電子注入層は、前記発光層の表面に接して積層されてもよい。
【0028】
これにより、発光層の直上に電子輸送機能を有する有機層を積層する必要がないので、材料コストの低減及び成膜工程の簡略化が図られる。
【0029】
また、前記有機物は、高分子有機化合物であってもよい。
【0030】
これにより、有機高分子を溶媒に溶解して得られる溶液又は分散液を湿式法により塗布することで有機層が得られるので、大気圧下での簡便プロセスを用いることができ、また、材料ロスを低減できる。よって、生産性の向上が図られる。
【0031】
また、前記陰極は、光を透過する透明電極であり、前記電子注入層の膜厚は、1nm以上20nm以下であり、前記フラーレン層の膜厚は、1nm以上100nm以下であってもよい。
【0032】
これにより、発光層の上層側から発光が取り出されるトップエミッション有機EL素子において、発光層からの発光が電子注入層での反射が抑制され、かつ、陰極での吸収が抑制されるので、高い発光効率を得ることが可能となる。
【0033】
また、本発明は、上記のような特徴を有する有機エレクトロルミネッセンス素子として実現することができるだけでなく、このような有機エレクトロルミネッセンス素子を備えるディスプレイパネルとしても、同様の構成と効果がある。
【0034】
また、本発明は、このような特徴的な手段を備える有機エレクトロルミネッセンス素子として実現することができるだけでなく、有機エレクトロルミネッセンス素子に含まれる特徴的な手段をステップとする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法として実現することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の有機EL素子によれば、透明陰極から発光層への電子注入が促進され、透明陰極製膜時のダメージから発光層が保護され、透明性が高い電子注入機能および電子輸送機能が確保されるので、透明陰極をトップ電極とし、発光効率、駆動電圧及び寿命の全てについて優れた有機EL素子を提供することができる。
【0036】
(本願の技術的背景に関する情報)
2008年6月2日に出願された出願番号0810044.8の英国出願の明細書、図面および特許請求の範囲における開示は、その全体を、参照用として、本願に取り込む。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】非特許文献2に記載された従来の有機EL素子の構造断面図である。
【図2】有機層からの発光がトップ電極側から取り出される構造を有する従来の有機EL素子の構造断面図である。
【図3】本発明の実施の形態における有機EL素子の構造断面図である。
【図4】本発明の実施の形態における変形例を示す有機EL素子の構造断面図である。
【図5】本発明に係る実施例1における有機EL素子の製造方法を説明する工程図である。
【図6】本発明の有機EL素子が用いられるTVの外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本実施の形態における有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と記す)は、基板上に、陽極、有機物からなる発光層及び陰極がこの順で積層され、前記有機物からなる発光層と前記陰極との間に、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方を主成分とする金属の層とフラーレン類を含有するフラーレン層とがこの順で積層され、当該フラーレン層は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方を含有している。これにより、フラーレン類の有する導電性、透明性及び透明電極製膜時の発光層へのプロセスダメージを低減する効果、及び、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の優れた電子注入性が得られると共に、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方を主成分とする金属の層の介在によりフラーレン類の課題であった発光の消光を防ぐことができるので、透明陰極をトップ電極とした有機EL素子の発光効率の上昇、駆動電圧の低減及び寿命の向上が図られる。
【0039】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0040】
図3は、本発明の実施の形態における有機EL素子の構造断面図である。同図における有機EL素子1は、基板11と、陽極12と、有機層13と、透明陰極14と、電子注入層15と、フラーレン層16とを備える。
【0041】
基板11としては、特に限定されるものではないが、例えば、ガラス基板、石英基板などが用いられる。また、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルホンなどのプラスチック基板を用いて、有機EL素子に曲げ性を付与することもできる。本発明の構造は、これまで述べたように、特に、トップエミッション有機EL素子に対して効果が大きいので、不透明プラスチック基板や金属基板を用いることが可能である。また、基板上に有機ELを駆動するための金属配線やトランジスタ回路が形成されていてもよい。
【0042】
陽極12としては、特に限定されるものではないが、反射性の金属を用いることが可能である。例えば、銀、アルミニウム、ニッケル、クロム、モリブデン、銅、鉄、白金、タングステン、鉛、錫、アンチモン、ストロンチウム、チタン、マンガン、インジウム、亜鉛、バナジウム、タンタル、ニオブ、ランタン、セリウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウム、パラジウム、銅、ニッケル、コバルト、モリブデン、白金、シリコンのうちのいずれかの金属、これらの金属の合金、及びそれらを積層したものを用いることが可能である。
【0043】
有機層13としては、特に限定されるものではないが、陽極12側から順に、正孔注入層、正孔輸送層、発光層が形成されている。正孔注入層は、陽極12から注入された正孔を安定的に、又は正孔の生成を補助して正孔輸送層へ注入する機能を有する。また、正孔輸送層は、正孔注入層から注入された正孔を発光層内へ輸送する機能を有する。発光層は、正孔と電子が注入され再結合されることにより励起状態が生成され発光する機能を有する。
【0044】
なお、有機層13は、発光層1層でもよく、また、発光層を少なくとも1層含む多層が積層されたものでもよい。また、有機層13は、発光層を少なくとも1層含めば、無機層を含んでいても良い。また、有機層13は、低分子有機化合物でも、高分子有機化合物でも良い。低分子有機材料は、特に限定されるものではないが、好ましくは抵抗加熱蒸着法で形成される。高分子有機材料は、特に限定されるものではないが、好ましくは、溶液からのスピンキャスト法などに代表されるキャスト法やディップコートなどに代表されるコート法、インクジェット法などに代表される湿式印刷法により形成される。
【0045】
有機層13として高分子有機化合物を用いることにより、有機高分子を溶媒に溶解して得られる溶液又は分散液を湿式法により塗布することで有機層が得られるので、大気圧下での簡便プロセスを用いることができ、また、材料ロスを低減できる。よって、生産性の向上が図られる。
【0046】
電子注入層15は、陰極側から注入された電子を安定的に、又は電子の生成を補助して有機層13の有する発光層へ注入する機能を有する。また、電子注入層15は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方を主成分とする金属の層であり、アルカリ金属及びアルカリ土類金属を2種類以上含有していてもよい。これには、アルカリ金属とアルカリ土類金属の双方を含有する場合を含む。また、電子注入層15は、特に限定されるものではないが、好ましくはリチウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、バリウムを用いることが可能である。
【0047】
この層の膜厚としては、好ましくは1〜20nm、より好ましくは3〜7nmである。電子注入層15が薄すぎると、上層の蒸着時、元来潜在している、あるいは外部から侵入する水や酸素によって容易に劣化してしまい、低電圧、高効率の特性を得ることが困難となる。この層が厚すぎると、これらは基本的に光を透過しない金属膜であるため、有機層で生成した発光を吸収あるいは素子内部に閉じ込めてしまうために、高い発光効率を得ることが困難となる。
【0048】
なお、電子注入層15には必要に応じて、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素以外に他の材料を混ぜても良い。たとえばアルミニウムなどを含有させて合金化することは電極の安定性を高めることに寄与する。これらは、特に限定されるものではないが、好ましくは、抵抗加熱蒸着法又は電子ビーム蒸着法により形成される。
【0049】
なお、発光層の直上に電子注入層15が積層されることにより、電子輸送機能を有する有機層の積層が省略されるので、材料コストの低減及び成膜工程の簡略化が図られる。
【0050】
フラーレン層16は、フラーレン類を含有する。フラーレン層16は、特に限定されるものではないが、好ましくは、C60やC70が用いられる。ここで、フラーレン類とは、C60やC70に代表される炭素を骨格とする球状分子、金属をその球状の中に含有する分子、又はそれらに窒素、水素及びメチル基などの有機置換基を導入したものである。
【0051】
フラーレン層16は、スパッタやプラズマなどに対するダメージ耐性が高い。
【0052】
また、フラーレン層16は、一般的には、導電性を有しつつ、金属よりは透明性に優れるものの、可視光に対しては吸収を示す。したがって、この層が厚すぎると光が吸収されるので好ましくない。また、薄すぎるとITOなどの透明陰極14が形成される際のプロセスダメージから有機層13を守る機能が低下する。したがって、フラーレン層16の膜厚は、好ましくは、1〜100nm、より好ましくは5〜50nmの範囲である。
【0053】
フラーレン層16の形成方法は、特に限定されるものではないが、好ましくは、抵抗加熱による真空蒸着法により形成される。
【0054】
透明陰極14としては、特に限定されるものではないが、インジウムスズ酸化物やインジウム亜鉛酸化物が用いられる。これらは、特に限定されるものではないが、好ましくは、DC、RF、マグネトロン、あるいはECR等の各種スパッタ法、あるいはプラズマアシストの蒸着法により形成される。
【0055】
図4は、本発明の実施の形態における変形例を示す有機EL素子の構造断面図である。同図における有機EL素子2は、基板11と、陽極12と、有機層13と、透明陰極14と、アルカリ金属又はアルカリ土類金属からなる電子注入層15と、フラーレン類を含有するフラーレン層26とを備える。
【0056】
図4に記載された有機EL素子2は、図3に記載された有機EL素子1と比較して、フラーレン層のみが構造的に異なる。同じ点は説明を省略し、以下異なる点のみを説明する。
【0057】
フラーレン層26は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方が混合されている。これは、フラーレンの伝導性を高め、駆動電圧を低下させるために効果的である。また、フラーレン層26の光吸収量が低下するので、素子の発光効率が向上する。よって、消費電力の低減に貢献すると共に、一定輝度の発光を出力するために素子に流すべき電流量を減らすことができ、素子寿命の向上に寄与する。アルカリ金属及びアルカリ土類金属の混合比率としては、1〜50wt%の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、5〜30wt%の範囲である。混合比率が低いと、この膜内の自由電荷の数が少なく電導度が低いため、素子の駆動電圧は高くなってしまう。ただし、発光効率の変化はほとんどなく、駆動電圧の向上がそれほど問題でない場合には好適に用いられる。含有比率が高すぎると、金属状態のアルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方が増え、これらに起因する光の吸収が大きくなり高い発光効率を得ることが困難となりやすい。
【0058】
フラーレンにアルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方をドープした層の形成方法は、特に限定されるものではないが、好ましくは、抵抗加熱による共蒸着法により形成される。
【0059】
またフラーレン層26は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属を2種類以上含有していてもよい。これには、アルカリ金属とアルカリ土類金属の双方を含有する場合を含む。
【0060】
なお、本発明の実施の形態の変形例におけるフラーレン類は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方を内包したフラーレン類も使用可能である。上記の金属を内包したフラーレン類は、すでにn−ドープされた状態であるので、フラーレン類と金属を共蒸着する必要がなく、製造ブロセスの簡素化に寄与できるものである。
【実施例】
【0061】
次に、実施例及び比較例を挙げながら本発明を説明する。
【0062】
(実施例1)
図5は、本発明に係る実施例1における有機EL素子の製造方法を説明する工程図である。まず、ガラス基板111(松浪ガラス製平坦ガラスを使用)表面上に、スパッタ法によりモリブデン97%、クロム3%からなる膜厚100nmの合金電極121を形成した。そして、合金電極121を所定の陽極形状にフォトリソグラフィ法によりパターニングした。次に、パターニングされた合金電極121表面上に、スパッタ法により膜厚60nmのインジウムスズ酸化物電極を補助陽極122として形成し、所定の陽極形状となるようフォトリソグラフィ法によりパターニングした(図5(a))。パターニングされた合金電極121及び補助陽極122は、陽極としての機能を有する。
【0063】
次に、有機層として、以下の3層を形成した。まず、パターニングされた補助陽極122表面上にスピンコート法によりポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT:ティーエーケミカル製Baytron P AI 4083)を形成した後、ホットプレート上で200℃で10分間加熱して膜厚60nmの正孔注入層131を形成した。次に、正孔注入層131の表面上に、スピンコート法によりHT12(サメイション製)のトルエン溶液を形成した後、窒素中ホットプレート上で200℃、30分間加熱して膜厚20nmの正孔輸送層132を形成した。次に、正孔輸送層132の表面上に、スピンコート法によりLumation Green(サメイション製)のキシレン溶液を形成した後、ホットプレート上で130℃、10分加熱して膜厚70nmの発光層133を形成した(図5(b))。
【0064】
次に、発光層133の表面上に、真空蒸着法によりバリウム(アルドリッチ製、純度99%以上)を蒸着し、膜厚5nmの電子注入層151を形成した(図5(c))。
【0065】
次に、電子注入層151の表面上に真空蒸着法によりC60(アルドリッチ製、純度99.9%以上)を蒸着し、膜厚10nmのフラーレン層161を形成した(図5(d))。
【0066】
最後に、フラーレン層161の表面上に、プラズマアシストの蒸着法(住友重工業製製膜装置を使用)によりインジウムスズ酸化物層を蒸着し、膜厚100nmの透明陰極141を形成した(図5(e))。
【0067】
(実施例2)
本発明に係る実施例2における有機EL素子の製造方法は、図5に記載されたフラーレン層161の膜厚を10nmから20nmへ変更してフラーレン層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして形成した。
【0068】
(実施例3)
本発明に係る実施例3における有機EL素子の製造方法は、図5に記載されたフラーレン層161の膜厚を10nmから50nmへ変更してフラーレン層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして形成した。
【0069】
(実施例4)
本発明に係る実施例4における有機EL素子の製造方法は、図5に記載されたフラーレン層161の代わりに、真空蒸着法によりC60(アルドリッチ製、純度99.9%以上)と20wt%のバリウム(アルドリッチ製純度99%以上)を共蒸着して膜厚10nmのフラーレン層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして形成した。この共蒸着によるフラーレン層の形成において、C60は抵抗加熱蒸着により、また、バリウムは電子ビーム蒸着により同時成膜されている。この同時成膜中、成膜速度制御が容易な電子ビーム蒸着を、成膜速度制御が容易でない抵抗加熱蒸着の成膜速度に合わせて制御することにより、目的のバリウム含有量を有するフラーレン層を得ることが可能となる。
【0070】
(実施例5)
本発明に係る実施例5における有機EL素子の製造方法は、図5に記載されたフラーレン層161の代わりに、真空蒸着法によりC60(アルドリッチ製、純度99.9%以上)と20wt%のバリウム(アルドリッチ製純度99%以上)を共蒸着して膜厚20nmのフラーレン層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして形成した。この共蒸着によるフラーレン層の形成において、C60は抵抗加熱蒸着により、また、バリウムは電子ビーム蒸着により同時成膜されている。
【0071】
(実施例6)
本発明に係る実施例6における有機EL素子の製造方法は、図5に記載されたフラーレン層161の代わりに、真空蒸着法によりC60(アルドリッチ製、純度99.9%以上)と20wt%のバリウム(アルドリッチ製純度99%以上)を共蒸着して膜厚50nmのフラーレン層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして形成した。この共蒸着によるフラーレン層の形成において、C60は抵抗加熱蒸着により、また、バリウムは電子ビーム蒸着により同時成膜されている。
【0072】
(比較例1)
本発明に係る比較例1における有機EL素子の製造方法は、図5に記載されたフラーレン層161を積層しないで(図5(d)を実行せずに)、電子注入層であるバリウム層表面上に透明陰極であるITOを直接形成したこと以外は、実施例1と同様にして形成した。
【0073】
(比較例2)
本発明に係る比較例2における有機EL素子の製造方法は、図5に記載されたフラーレン層161の代わりに、有機EL素子用の電子輸送層として広く用いられているトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(略してAlqと記す。)と20wt%のバリウム(アルドリッチ製純度99%以上)とを膜厚20nmの混合層として形成したこと以外は、実施例1と同様にして形成した。
【0074】
(比較例3)
本発明に係る比較例3における有機EL素子の製造方法は、図5に記載された電子注入層151を積層しない(図5(c)を実行しない)こと以外は、実施例5と同様にして形成した。
【0075】
(実施例及び比較例の評価)
以上の実施例1〜6及び比較例1〜4では、合金電極121及び補助陽極122を正、透明陰極141を負として10mA/cm2の電流を素子に流したときの駆動電圧と輝度を測定することにより、この時の駆動電圧及び発光効率を求めた。さらに、これらの素子を4000cd/m2で発光させ、一定電流で駆動し続けたときの輝度の減衰を測定し、輝度が半減(2000cd/m2)したときの時間を素子寿命とした。表1は、実施例1〜6及び比較例1〜3のそれぞれの評価結果である。
【0076】
【表1】

【0077】
表1において、合金電極MoCrの膜厚は全て100nm、補助電極ITOの膜厚は全て60nm、正孔注入層PEDOTの膜厚は全て80nm、正孔輸送層ILの膜厚は全て20nm、発光層EMLの膜厚は全て75nm、電子注入層Baの膜厚は全て5nm、透明電極ITOの膜厚は全て100nmである。
【0078】
実施例1〜3では、電子注入層151にバリウムが、及びフラーレン層にC60が用いられた有機EL素子は、いずれも低い駆動電圧と良好な発光効率を有する。このうち最も良好な駆動電圧、発光効率、素子寿命を示したのは、フラーレン層として膜厚20nmのC60が用いられた実施例2の場合である。フラーレン層161の膜厚が10nmである実施例1の場合は、フラーレン層の膜厚が20nmである実施例2の場合と比較して、発光効率及び素子寿命が低い。これはITOに代表される透明陰極141が成膜される際の発光層133におけるプロセスダメージが若干残っているためと考えられる。フラーレン層の膜厚が50nmである実施例3の場合は、駆動電圧が実施例2の場合よりも高く、発光効率と素子寿命が低い。これは、実施例3では、膜厚が厚くなったことに由来するフラーレン層の抵抗値の上昇と、フラーレンの発光吸収による発光効率の低下のためと考えられる。ただ、実施例1〜3の場合は、いずれも有機EL素子が安定かつ良好に動作することが可能である。
【0079】
実施例4〜6では、バリウムである電子注入層151と、C60と20wt%のバリウムとを混合したフラーレン層とを備えた有機EL素子は、いずれも低い駆動電圧と良好な発光効率を有する。実施例1〜3と比較すると、実施例4〜6の素子は、さらに低い駆動電圧を示すと共に、フラーレン層を厚くすることによる駆動電圧の上昇分は小さい。これは、フラーレン層において、アルカリ土類金属であるバリウムがC60に混合されることにより、C60膜内に自由電子が発生して膜の抵抗値が低下することに由来すると考えられる。さらに、実施例4〜6の素子は、実施例1〜3の素子と比較して、発光効率は高くなっている。これはアルカリ土類金属であるバリウムをドープすることによってC60の吸収が減少するためと考えられる。以上から、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属をフラーレンに混合することによって、デバイス特性を向上させることが可能となる。
【0080】
比較例1では、フラーレン層がないため、ITOによりバリウム及び発光層がダメージを受けてしまう結果、駆動電圧、発光効率及び寿命が著しく悪化してしまう。したがって、本発明の効果を得るためには、フラーレン層は欠かせない。
【0081】
比較例2では、フラーレン層の代わりに、従来例の低分子有機材料にアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属を混合した層が用いられている。この場合、発光効率は良好であるが、実施例よりも駆動電圧、発光効率及び寿命は劣る。これは、発光層133のダメージは低減されるものの、低分子有機材料にアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属を混合した層自体がスパッタダメージに対するダメージが大きいからである。したがって、本発明の電子注入層とフラーレン層との積層構造は、従来例よりもデバイス性能を向上させる効果を奏する。
【0082】
比較例3では、電子注入層がないため、有機EL素子の駆動電圧が上昇してしまうと共に、フラーレン類を含む層によって発光層からの発光が消光されてしまい、発光効率が大きく低下してしまう。したがって、本発明の効果を得るためには、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方を主成分とする金属である電子注入層が必要である。
【0083】
ディスプレイデバイスとしての有機EL素子にとっては、その性能評価項目である発光効率、駆動電圧及び寿命の全てについて良好であることが必要である。よって、比較例1〜3のように、フラーレン層と電子注入層とのうちいずれか一方のみが、発光層と透明陰極との間に形成されていても上記3評価項目の全てについて満足する値を得ることはできない。
【0084】
実施例1〜6のように、発光層と透明陰極との間に、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方を主成分とする金属である電子注入層とフラーレン層とがこの順で形成されている場合に限り、上記3評価項目の全てについて満足する値が得られるディスプレイデバイスが実現される。
【0085】
以上のように、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、陰極をトップ電極とする構造の場合に、下層である有機物からなる発光層と上層である陰極との間に、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方を主成分とする金属の層とフラーレン類を含有する層とがこの順で積層される構成をとる。この構成をとることにより、(1)フラーレン類の有する導電性、透明性及び透明陰極製膜時の有機層へのプロセスダメージを低減する効果、及び、(2)アルカリ金属又はアルカリ土類金属の優れた電子注入性が得られる。加えて、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属を含有する層の介在により(3)フラーレン類の課題であった発光の消光を防ぐことができる。よって、透明陰極をトップ電極とした有機EL素子の発光効率の上昇、駆動電圧の低減及び寿命の向上が図られる。さらに、フラーレン類を含有する層は、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属が混合されることにより、(4)フラーレンの伝導性を高め、駆動電圧を低下させることができる。また、(5)フラーレン類を含有する層の光吸収量が低下するので、素子の発光効率が向上する。
【0086】
なお、本発明の実施の形態において、正孔注入層、正孔輸送層および発光層に高分子有機材料が用いられた例を示したが、これらに低分子有機材料が用いられても、本検討と同様な効果が得られる。
【0087】
また、有機層の組み合わせとしては、本実施の形態で例示されたものに限定されるものではなく、たとえば、正孔注入層が省略されることや電子輸送層が挿入されてもよい。
【0088】
また、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属からなる電子注入層と発光層との間にさらに別の層が設けられても良い。例えば、電子輸送性の有機材料からなる層が挿入されることが挙げられる。
【0089】
また、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属からなる電子注入層とフラーレン類を含有するフラーレン層との間にさらに別の層が設けられても良い。
【0090】
なお、これまでの本発明の構成は、トップエミッション用有機EL素子の構成として述べてきたが、ボトムエミッション用有機EL素子のトップ電極が陰極である場合の構成の一部としても好適に用いることができる。例えば、発光層の上のBa/(C60+Ba)/Alなどの構成が挙げられる。この場合、発光層より上層の陰極側には透明性は要求されないが、電子注入機能、電子輸送機能、及びAl成膜時のダメージから発光層を防御する機能が要求される。よって、本発明の電子注入層及びフラーレン層は、トップエミッション用有機EL素子として使用される場合と同様、ボトムエミッション用有機EL素子として使用される場合にも十分な効果を奏する。
【0091】
なお、実施例4〜6において、電子注入層を構成するアルカリ金属又はアルカリ土類金属と、フラーレン層の含有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属との双方において、同一の元素であるバリウムが用いられているが、異なるアルカリ金属又はアルカリ土類金属が用いられてもよい。製造プロセスの観点からは両者は同じ金属元素が好ましい。実施例4では、電子注入層の構成金属としてバリウムが使用され、フラーレン層の含有金属としてもバリウムが使用されている。また、フラーレン層の成膜時にはフラーレンとバリウムとが共蒸着法で成膜されている。この場合、電子注入層の成膜時には、既にフラーレンを一定速度で蒸着するが、フラーレンのソース上のシャッタで基板へ成膜されることは防いでおく。そして、電子注入層であるバリウムの蒸着後、フラーレン層の成膜開始時にフラーレン類のシャッタを開けることにより、電子注入層成膜工程からフラーレン層成膜工程への移行時のタクトタイムや、電子注入層とフラーレン層との界面における不純物の取り込みを低減させることができる。
【0092】
一方、素子特性の観点からは、電子注入層の最適な構成金属及びフラーレン層の最適な含有金属は一般に異なると考えられる。発光層として有機高分子系材料が使用される場合、有機高分子系材料からなる発光層への拡散度は、アルカリ金属やアルカリ土類金属の中ではバリウムが最も小さい。一般に、発光層への金属の拡散は、素子寿命を短くしてしまう。従って、電子注入層としてのアルカリ金属又はアルカリ土類金属としてはバリウムが最も好ましい。
【0093】
また、フラーレン類へのドープ用としてのアルカリ金属又はアルカリ土類金属の役割は、電子をフラーレン類に与えて自由電子を生成することである。よって、仕事関数が小さい(<3.5eV)特徴を有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属であれば、フラーレンの最低非占有分子軌道のエネルギー準位(LUMO)レベル(3.5eV)よりも十分小さく、ほとんどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属がこの役割を果たすと考えられる。
【0094】
なお、上述した実施例1〜6では、電子注入層の構成金属及びフラーレン層の含有金属として、アルカリ土類金属であるバリウムが用いられているが、アルカリ金属もアルカリ土類金属と同等な効果を発揮する。特に、アルカリ金属は、アルカリ土類金属と同様に小さい仕事関数をもつ金属であり、アルカリ土類金属と同様に、混合によりフラーレンに容易に電子を与えて膜中に自由電子を生成することができる。
【0095】
なお、本発明の有機EL素子の有する電極は、基板上の全面あるいは大部分に一様に形成されていてもよい。この場合は、大面積発光が得られるので照明などの用途に用いることができる。あるいは、この電極は、特定の図形や文字を表示できるようにパターン化されていても良い。この場合は、特性のパターン状の発光が得られるので広告表示などに用いることができる。あるいは、この電極は、行列状に多数配置されていても良い。この場合は、パッシブ駆動のディスプレイパネルなどの用途に用いることができる。あるいは、この電極は、トランジスタアレイを並べた基板上で、このトランジスタアレイに対応する形で電気的な接続を得られるように形成されていてもよい。この場合は、図6に記載されたTVに代表されるように、アクティブ駆動のディスプレイパネルなどの用途に用いることができる。
【0096】
以上、本発明の有機EL素子及びその製造方法について、実施の形態及び実施例に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施の形態及び実施例に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものも、本発明の範囲内に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明にかかる有機EL素子は、低駆動電圧で高効率、長寿命であることから、ディスプレイデバイスの画素発光源、液晶ディスプレイのバックライト、各種照明用光源、光デバイスの光源等として有用であり、特に、TFTと組み合わせたアクティブマトリックス有機ELディスプレイパネルへの応用に適性がある。
【符号の説明】
【0098】
1、2、500、600 有機EL素子
11 基板
12 陽極
13、503、603 有機層
14、141 透明陰極
15、151 電子注入層
16、26、161 フラーレン層
111 ガラス基板
121 合金電極
122 補助陽極
131 正孔注入層
132 正孔輸送層
133 発光層
501 透明基板
502 透明ボトム電極
504 不透明トップ電極
601 不透明基板
602 不透明ボトム電極
604 透明トップ電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、陽極、有機物からなる発光層及び陰極がこの順で積層された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層と前記陰極との間に積層され、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方を主成分とする金属であり、前記発光層へ電子を注入する電子注入層と、
前記電子注入層と前記陰極との間に積層され、フラーレン類を含有するフラーレン層とを備え、
前記フラーレン層は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方を含有し、
前記フラーレン層のアルカリ金属またはアルカリ土類金属は、前記フラーレン類の最低非占有分子軌道のエネルギー準位(LUMO)レベルよりも小さい仕事関数を有する
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記フラーレン層のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の混合比率は、1〜50wt%の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、5〜30wt%の範囲である
ことを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記電子注入層は、前記発光層の表面に接して積層される
ことを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記有機物は、高分子有機化合物である
ことを特徴とする請求項1または3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記陰極は、光を透過する透明電極であり、
前記電子注入層の膜厚は、1nm以上20nm以下であり、
前記フラーレン層の膜厚は、1nm以上100nm以下である
ことを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた
ことを特徴とするディスプレイパネル。
【請求項7】
基板上に、陽極、有機物からなる発光層及び陰極が順次積層された有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記陽極の上に、前記発光層を積層する発光層積層ステップと、
前記発光層の上に、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方を主成分とする金属であり、前記発光層に電子を注入する電子注入層を積層する電子注入層積層ステップと、
前記電子注入層の上に、フラーレン類を含有するフラーレン層を積層するフラーレン層積層ステップと、
前記フラーレン層の上に、前記陰極を積層する陰極積層ステップとを含み、
前記フラーレン層積層ステップでは、
前記フラーレン類を抵抗加熱蒸着するとともに、前記フラーレン類が蒸着された真空槽内にて前記フラーレン類の成膜速度に対応した成膜速度を用いてアルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方を電子ビーム蒸着することにより、前記フラーレン類の電導度を高め、前記フラーレン類と前記アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方との混合比が目的の混合比である前記フラーレン層を積層する
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
前記フラーレン層のアルカリ金属またはアルカリ土類金属は、電子を前記フラーレン類に与えて、前記フラーレン層内に自由電子を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−522391(P2011−522391A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503309(P2010−503309)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【国際出願番号】PCT/JP2009/002347
【国際公開番号】WO2009/147801
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(599046298)ケンブリッジ ディスプレイ テクノロジー リミテッド (8)
【Fターム(参考)】