説明

有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス表示装置のリペア方法、および電子機器

【課題】簡易な方法で欠陥のある画素を修復し、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造時の歩留まりを上げる。
【解決手段】ITO陽極101上にHIL102とEML103を成膜する工程と、欠陥のある画素Aを検出する工程と、欠陥のある画素Aのゴミ200とその周囲を親液性化処理する工程と、ゴミ200とその周囲に絶縁性材料を含むインク302を塗布する工程と、塗布した絶縁性材料を含むインク302を硬化させる工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス表示装置のリペア方法、および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
テレビなどに用いられる有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機EL)パネルは、消費電力が小さく、薄型化・軽量化も可能であるが、製造時の歩留まりについては、すでに市場が確立されている液晶パネルと比較すると改良が必要である。
【0003】
有機ELパネルは、各画素が発光ダイオードであり、画素毎に電流を流して画像を表示する。一般的に、各画素は電極間に発光層を含む数十nmの膜厚の有機層が2層以上積層された構造である。
【0004】
有機ELテレビの製造工程において、不良品が発生する要因としては、基板電極上の突起やゴミが有機層の中に含まれてしまうことが挙げられる。突起やゴミが導電性を有すると、電極間でショートが誘発され致命的な欠陥となる。このため、従来はレーザー装置を用いて対象の画素を黒欠陥画素とする方法が用いられている。しかし、テレビ用途のパネルの場合黒欠陥画素が含まれるのは望ましくない。また、欠陥のある部分の有機層を修復するためには、再び焼成工程を行わなければならず、既に形成されている発光層が劣化してしまうという問題がある。また、同じ膜厚の構成で修復したとしても、突起やゴミが取り除かれていなければ電極間のショートの誘発は避けられない。
【0005】
特許文献1には、発光不良を生じさせる異物に、インクジェット方式により紫外線硬化樹脂を吐出し、これを硬化させて絶縁層を形成することにより、異物のある有機EL素子の陽極と陰極間を隔離し、ショートを防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−253214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載されているように、絶縁層で陽極と陰極間を隔離してしまうと、その画素は発光しなくなってしまうため、ディスプレイとしては望ましくない。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、簡易な方法で欠陥のある画素を修復し、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造時の歩留まりを上げることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法は、有機膜を含む画素を備えた有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法であって、前記有機膜を成膜する工程と、欠陥のある画素を検出する工程と、前記欠陥のある画素の欠陥部を親液性化処理する工程と、前記欠陥部に絶縁性材料を含むインクを塗布する工程と、前記塗布した絶縁性材料を含むインクを硬化させる工程と、を有するものである。
【0010】
上記構成により、簡易な方法で欠陥のある画素を修復し、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造時の歩留まりを上げることができる。
【0011】
また、前記親液性化処理する工程では、紫外線による親液性化を行うことが望ましい。
また、前記親液性化処理する工程では、熱による親液性化、または反応性ガスによる親液性化を行うようにしてもよい。
【0012】
また、前記絶縁性材料を含むインクは、前記有機膜に対する接触角が50度以上の溶液であることが望ましい。
これにより、絶縁性材料を含むインクを乾燥・硬化させた際、絶縁性材料を含むインクの液滴がシュリンクすることにより、より狭い範囲で確実に不良部位のみを絶縁することができる。
【0013】
また、前記絶縁性材料を含むインクは、極性溶媒を含むことが望ましい。
これにより、下地となる有機膜が溶解することを避けることができる。
【0014】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス表示装置のリペア方法は、有機膜を含む画素を備えた有機エレクトロルミネッセンス表示装置のリペア方法であって、前記有機膜を成膜する工程と、欠陥のある画素を検出する工程と、前記欠陥のある画素の欠陥部を親液性化処理する工程と、前記欠陥部に絶縁性材料を含むインクを塗布する工程と、前記塗布した絶縁性材料を含むインクを硬化させる工程と、を有するものである。
【0015】
上記構成により、簡易な方法で欠陥のある画素を修復し、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造時の歩留まりを上げることができる。
【0016】
また、前記親液性化処理する工程では、紫外線による親液性化を行うことが望ましい。
また、前記親液性化処理する工程では、熱による親液性化、または反応性ガスによる親液性化を行うようにしてもよい。
【0017】
また、前記絶縁性材料を含むインクは、前記有機膜に対する接触角が50度以上の溶液であることが望ましい。
これにより、絶縁性材料を含むインクを乾燥・硬化させた際、絶縁性材料を含むインクの液滴がシュリンクすることにより、より狭い範囲で確実に不良部位のみを絶縁することができる。
【0018】
また、前記絶縁性材料を含むインクは、極性溶媒を含むことが望ましい。
これにより、下地となる有機膜が溶解することを避けることができる。
【0019】
本発明の電子機器は、上述した有機エレクトロルミネッセンス表示装置を表示部として備える。ここで、「電子機器」は、有機EL表示装置を表示部として備えるあらゆる機器を含むもので、ディスプレイ装置、テレビジョン装置、電子ペーパ、時計、電卓、携帯電話、携帯情報端末等を含む。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態による有機EL表示装置の製造工程を示す図。
【図2】本発明による電子機器の例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施の形態
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態1による有機EL表示装置100の製造工程を示す図である。
【0022】
図1(A)は、ITO陽極101上に、正孔注入層(HIL)102および発光層(EML)103を積層した状態を示している。各画素は、バンク104によって区切られている。HIL102およびEML103は有機膜である。なお、HIL102とEML103の間に正孔輸送層(HTL)が設けられていてもよい。
【0023】
HIL102は、例えばポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルフォン酸の混合体(PEDOT/PSS)を含む液体材料(インク)を液滴吐出装置(インクジェットヘッド)によりITO陽極101の上に配置し、例えば220度で焼成を行うことにより形成する。
【0024】
なお、HIL102の形成に用いる具体的なインクと焼成の条件としては、例えば下記のものがあげられる。
(例1) 水分散の80%CLEVIOS(登録商標) P CH6000(Heraeus社製)に対し、IPA(イソプロピルアルコール)およびDMF(N,N-ジメチルフォルムアミド)を、それぞれ15%、5%となるように添加する。HIL102の焼成の条件は、大気中で200℃、5分間の加熱とする。また、膜厚は50nmとする。
【0025】
(例2) 95%CLEVIOS(登録商標) HIL 1.3(Heraeus社製)に対し、DMSO(ジメチルスルフォン酸)5%となるように添加する。HIL102の焼成の条件は、大気中で200℃、5分間の加熱とする。また、膜厚は50nmとする。
【0026】
EML103は、例えばポリフルオレン系高分子材料を溶解させた液体材料(インク)をインクジェットヘッドによりHIL102の上に配置し、例えば180度で焼成を行うことにより形成する。
【0027】
EML103の形成に用いる具体的なインクと焼成の条件としては、例えば下記のものがあげられる。
(例1)
溶質:ポリフルオレン系高分子材料(ガラス転移温度140℃)
溶媒:ヘキシルベンゼン(沸点226℃)
EML103の焼成の条件は、150℃で15分間の加熱とする。また、膜厚は90nmとする。
【0028】
(例2)
溶質:ポリフルオレン系高分子材料(ガラス転移温度150℃)
溶媒:ノニルベンゼン(沸点282℃)
EML103の焼成の条件は、160℃で15分間の加熱とする。また、膜厚は90nmとする。
【0029】
図1(A)に示す状態で、光学的な検査法等を用いて欠陥画素を検出する。図1(A)に示すように、画素Aにはゴミ200が含まれている。ゴミ200はITO陽極101からの突起や塵等であるが、ゴミ200が導電性を有する場合、画素内でショートが起こる原因となる。
【0030】
欠陥画素Aが見つかったら、図1(B)に示すように、画素Aのゴミ200とその周囲(欠陥部)を親液性化する処理を行う。具体的には、ゴミ200とその周囲に紫外線照射ヘッド300から集束紫外線光301を照射する。
【0031】
次に、図1(C)に示すように、画素Aのゴミ200を覆うように絶縁性材料を含むインク302を塗布する。絶縁性材料を含むインク302の塗布は、インクジェットヘッドまたはマイクロディスペンサーを用いて行うことができる。
【0032】
絶縁性材料を含むインク302は、絶縁性材料を液体に分散または溶解させたものである。絶縁性材料としては、例えば熱硬化性樹脂や紫外線硬化樹脂を用いることができる。
【0033】
また、絶縁性材料を含むインク302は、下地となる有機膜(ここではEML103)に対する接触角が50度以上であることが好ましい。50度以上の接触角であれば、絶縁性材料を含むインク302を乾燥・硬化させた際、絶縁性材料を含むインク302の液滴がシュリンクすることにより、ゴミ200を覆う層が厚くなり、より狭い範囲で確実に不良部位のみを絶縁することができる。したがって、ゴミ200による電極間のショートを防ぎ、かつ画素Aが発光しなくなることを避けることができる。
【0034】
また、絶縁性材料を分散または溶解させる溶媒は、下地の有機膜を溶解しないために極性溶媒であることが望ましい。これは正孔輸送層や発光層などの有機膜が非極性または弱い極性溶媒に可溶な材料で形成されることが多いためである。具体的には、水、プロピレングリコール、エチレングリコール、オクタノールなどの高級アルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、また、これらの混合液などを用いることができる。
【0035】
次に、図1(D)に示すように、塗布した絶縁性材料を含むインク302を硬化させる。絶縁性材料を含むインク302に熱硬化性樹脂が含まれる場合は加熱により硬化させる。絶縁性材料を含むインク302に紫外線硬化樹脂が含まれる場合は局所的に紫外線を照射して硬化させる。また、乾燥により溶媒を除去することにより硬化してもよい。上述のように、硬化の過程で絶縁性材料を含むインク302はシュリンクし、ゴミ200が厚い絶縁層で覆われる。
【0036】
さらに、図1(E)に示すように、LiF/Alの蒸着等により、EML103の上に陰極105を形成する。なお、必要に応じてEML103と陰極105の間に電子輸送層(ETL)を形成してもよい。また、陰極105を形成する前に、再度光学的な検査法等による欠陥検査を行ってもよい。
【0037】
以上のように、本実施形態によれば、欠陥画素Aのゴミ200とその周囲を親液化した後、ゴミ200を覆うように絶縁材料を含む絶縁性材料を含むインク302を塗布し、塗布したインク302を硬化させるようにしたので、ゴミ200のみを確実に絶縁層で覆うことが可能となる。これにより、画素Aの両極間を隔離して発光できなくしてしまうことなく、ゴミ200による電極間のショートを防ぐことができる。このように、簡易な方法で欠陥のある画素を修復するとともに、有機EL表示装置100の製造時の歩留まりを上げることができる。
【0038】
なお、本実施形態では、ゴミ200とその周囲を親液性にする方法として、紫外線照射による方法を用いたが、その他にも、Nd:YAGレーザー(波長532nmまたは1064nm)を用いた加熱による親液化、マイクロプラズマガンを用いた反応性ガスによる親液化、などの方法を用いることができる。
【0039】
(電子機器)
次に、本発明による有機EL表示装置100を備えた電子機器の具体例について説明する。
図2は、有機EL表示装置100を備えた電子機器の具体例を示す斜視図である。図2(A)は、電子機器の一例である携帯電話機を示す斜視図である。この携帯電話機1000は、本発明にかかる有機EL表示装置100を用いて構成された表示部1001を備えている。図2(B)は、電子機器の一例であるテレビジョン装置を示す斜視図である。このテレビジョン装置1100は、本発明にかかる有機EL表示装置100を用いて構成された表示部1101を備えている。図2(C)は、電子機器の一例である情報処理装置1200を示す斜視図である。この情報処理装置1200は、キーボード等の入力部1201、演算手段や記憶手段などが格納された本体部1202、および本発明にかかる有機EL表示装置100を用いて構成された表示部1203を備えている。
【符号の説明】
【0040】
100 有機EL表示装置、101 ITO陽極、102 HIL、103 EML、104 バンク、105 陰極、200 ゴミ、300 紫外線照射ヘッド、301 集束紫外線光、302 絶縁性材料を含むインク、1000 携帯電話機、1001 表示部、1100 テレビジョン装置、1101 表示部、1200 情報処理装置、1201 入力部、1202 本体部、1203 表示部、A 画素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機膜を含む画素を備えた有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法であって、
前記有機膜を成膜する工程と、
欠陥のある画素を検出する工程と、
前記欠陥のある画素の欠陥部を親液性化処理する工程と、
前記欠陥部に絶縁性材料を含むインクを塗布する工程と、
前記塗布した絶縁性材料を含むインクを硬化させる工程と、を有する有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【請求項2】
前記親液性化処理する工程では、
紫外線による親液性化を行う、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【請求項3】
前記親液性化処理する工程では、
熱による親液性化を行う、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【請求項4】
前記親液性化処理する工程では、
反応性ガスによる親液性化を行う、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【請求項5】
前記絶縁性材料を含むインクは、
前記有機膜に対する接触角が50度以上の溶液である、請求項1から4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【請求項6】
前記絶縁性材料を含むインクは、
極性溶媒を含む、請求項1から5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【請求項7】
有機膜を含む画素を備えた有機エレクトロルミネッセンス表示装置のリペア方法であって、
前記有機膜を成膜する工程と、
欠陥のある画素を検出する工程と、
前記欠陥のある画素の欠陥部を親液性化処理する工程と、
前記欠陥部に絶縁性材料を含むインクを塗布する工程と、
前記塗布した絶縁性材料を含むインクを硬化させる工程と、を有する有機エレクトロルミネッセンス表示装置のリペア方法。
【請求項8】
前記親液性化処理する工程では、
紫外線による親液性化を行う、請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置のリペア方法。
【請求項9】
前記親液性化処理する工程では、
熱による親液性化を行う、請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置のリペア方法。
【請求項10】
前記親液性化処理する工程では、
反応性ガスによる親液性化を行う、請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置のリペア方法。
【請求項11】
前記絶縁性材料を含むインクは、
前記有機膜に対する接触角が50度以上の溶液である、請求項7から10のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置のリペア方法。
【請求項12】
前記絶縁性材料を含むインクは、
極性溶媒を含む、請求項7から11のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置のリペア方法。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法で製造された有機エレクトロルミネッセンス表示装置を備えた電子機器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−16342(P2013−16342A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147997(P2011−147997)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】