説明

有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法

【課題】簡便に、歩留まり良く有機EL装置を製造する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】長辺または長軸を有する平面形状を有する複数の画素を有し、画素が少なくとも一対の電極と当該電極間に挟まれた有機化合物を含む発光層を含む積層体で形成される有機エレクトロルミネッセンス素子で構成される有機エレクトロルミネッセンス装置を製造するにあたり、積層体を構成する層のうちの少なくとも一層を形成する工程に、塗布工程と乾燥工程とを設け、塗布工程において、層を形成する成分を含むインクを非断続的に連続して吐出し、画素領域および画素領域の長手方向にある隔壁上に非断続的に連続してインクを塗布しながら、画素領域の長手方向に並ぶ複数の画素領域上に線状にインクを塗布し、乾燥工程において、塗布されたインクを乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス装置(以下、本明細書において「有機EL装置」ということがある)の製造方法に関し、詳しくは、陽極と陰極と有機化合物を含む発光層を備える有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、本明細書において「有機EL素子」ということがある)を複数備える有機EL装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子およびこれを搭載した有機EL装置は、より高い性能の装置を開発するべく、様々な検討がなされている。有機EL素子は、一般に、陽極、陰極およびこれらに挟まれた発光層を有する。発光層は電圧が印加されて発光する有機化合物で形成される。有機EL素子は様々な特性を有するが、薄膜を積層して形成できるため、これを実装する表示装置などの装置を極めて薄型にし得る点が一つの大きな特徴となっている。
【0003】
有機EL素子は、通常、支持基板上に、電極を構成する層および発光層を所定の順序で積層させて作製される。有機EL素子を構成する各層は、各層を構成する成分や要求される厚さ等の条件に応じて、様々な方法が採用され得る。層形成方法の一つの態様としては、溶液中に層を構成する成分を混合してその溶液を塗布し、これを乾燥等により硬化させて層を形成させることができる。溶液を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法などのコート法(薄膜形成法)、およびフレキソ印刷法、インクジェットプリント法などの印刷法などが挙げられる。
【0004】
中でもインクジェット法は、数ミクロン単位での制御が可能であること、色素材料の塗布量を最低限に抑制できること、色の三原色ごとの塗布が容易であり、フルカラーの表示装置を作製しやすいことなどの利点があり、有機EL素子およびこれを搭載する有機EL装置の製造方法として様々な方法が研究、開発されている(例えば、特許文献1など)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−291584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インクジェット法は、インクの粒子または小滴を噴射ノズルから吐出させて、被印刷体上にインクを付着させる方法である。インクジェット法では、インクを噴射することから、そのインクは、フレキソ印刷などで用いられるインクに比べて相当に粘度が低い溶液が用いられる。被印刷体上に付着したインクは、自然乾燥等によりインク中の溶媒が留去されて、インク中に溶媒として含まれていた発色成分が被印刷体上に固定される。したがって、インクジェット法などのように粘度の低い溶液を塗布するタイプの層形成方法(または成膜方法)においては、インクが被体に付着した後、乾燥するという工程が含まれる。
【0007】
有機EL素子を作製する過程でも、インクジェット法などの方法を採用する場合は、上記と同様にインクの塗布工程と、塗布後のインクを乾燥する工程が含まれる。しかしながら、インクジェットなどの塗布手法を用いて有機EL素子を作製する場合に、インクの塗布、乾燥後にインクが画素領域内全体に十分広がりきらないという問題が生じる場合があった。インクが画素領域十分に広がりきらない場合、本来直接接触すべきではない層同士が接触し、電流リークを生じる可能性がある。また、層の厚みにむらが生じた場合、そのインクで構成される層は本来予定される機能を十分に発揮しきれず、有機EL素子の発光不良、耐久性不足などをまねく可能性もある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決し、簡便に、歩留まり良く有機EL装置を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究を進めたところ、上記のような課題は、画素の平面形状が矩形または楕円形のごとく、長辺または長軸を有する図形形状において、それらの長手方向の両端に生じやすい傾向があるという知見を得た。さらに研究を進め、表面張力の高いインクを用いる場合に生じやすい傾向があるという知見も得た。これらの知見に基づき、上記のような課題は、インクジェット法などの方法により画素領域内に点状に塗布されたインクが、塗布後に画素領域内で表面張力により中心方向に収縮し、その結果長手方向の両端部にインクが被膜されなくなってしまうということが一つの原因として推定された。そこで、上記課題を解決すべく、本発明は下記の構成を採用するものである。
【0010】
〔1〕複数の画素を有し、前記画素が少なくとも一対の電極と当該電極間に挟まれた有機化合物を含む発光層を含む積層体で形成される有機エレクトロルミネッセンス素子で構成される有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、
前記画素が形成される画素領域は、当該領域を囲む隔壁により区画され、長辺または長軸を有する平面形状を有し、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子が、前記積層体を構成する層を前記画素領域内に順次積層して形成され、前記積層体を構成する層のうちの少なくとも一層を形成する工程は、塗布工程と乾燥工程とを含み、
前記塗布工程において、前記層を形成する成分とインク溶媒とを含むインクを非断続的に連続して吐出し、前記画素領域および当該画素領域の長手方向にある隔壁上に非断続的に連続して前記インクを塗布しながら、前記画素領域の長手方向に並ぶ複数の画素領域上に線状に前記インクを塗布し、
前記乾燥工程において、塗布された前記インクを乾燥する、
有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
〔2〕前記画素領域の平面形状が、矩形状または楕円形状である、上記〔1〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
〔3〕前記隔壁の表面の全部、または、前記画素領域の長手方向に面する隔壁表面が、撥水性を有する、上記〔1〕または〔2〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
〔4〕前記層を形成する成分が、導電性高分子材料を含む、上記〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
〔5〕前記層を形成する成分が、発光材料を含む、上記〔1〕から〔4〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
〔6〕前記インク溶媒が、水、アルコール溶媒、グリコール溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒、含塩素溶媒および芳香族炭化水素溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、上記〔1〕から〔5〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
〔7〕前記塗布工程において、吐出されるインクの粘度が3cP以上、13cP以下である、上記〔1〕から〔6〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
〔8〕前記塗布する工程において、ノズルプリンティング装置を用いて、非断続的に連続してインクを吐出する、上記〔1〕から〔7〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
〔9〕前記乾燥する工程において、20℃以上、90℃以下の温度条件下の空気中で、インクを乾燥させる、上記〔1〕から〔8〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
〔10〕前記有機エレクトロルミネッセンス装置は、複数の画素が画素領域の長手方向に一列に配置され、当該列が画素領域の短手方向に複数連接されてなる表示エリア部を備えており、
前記塗布工程においては、前記画素領域の長手方向の一列に第1の層成分と第1のインク溶媒とを含む第1のインクが塗布され、隣接する列の画素領域には第1の層成分と異なる第2の層成分と第2のインク溶媒とを含む第2のインクが塗布される、上記〔1〕から〔9〕のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
〔11〕前記第1および第2の層を形成する成分が、それぞれ色の異なる発光材料である、上記〔10〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
〔12〕前記画素領域の長手方向の第1の列に、赤色、緑色および青色からなる群より選ばれる1色を発光する第1の有機エレクトロルミネッセンス素子が形成され、前記第1の列に隣接する一方の列に、第1の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光色とは異なる1色を発光する第2の有機エレクトロルミネッセンス素子が形成され、前記第1の列と隣接する他方の列に、前記第1および第2の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光色とは異なる1色を発光する有機エレクトロルミネッセンス素子が形成される、上記〔10〕に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インクを用いて有機EL素子の積層体を作製する際のインク広がり不良を簡便な手法で抑制することができる。したがって、本発明によれば、有機EL素子を構成する層形成不良の発生を簡便に抑制し、リーク電流を抑制し得る。そのため、有機EL装置の製造歩留まりを高くし得る。また、本発明の製造方法により製造される有機EL装置は、有機EL素子の層形成不良が生じる確率が抑制され、発光効率に優れた装置とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、理解の容易のため、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。また、本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。さらに、有機EL装置においては電極のリード線等の部材も存在するが、電気的配線、電気回路等については、発光素子、表示装置などの技術分野における通常の知識に基づいて様々な態様を実施可能であり、本発明の説明として直接的には関係はないため詳細な説明は省略している。
【0013】
1.第1の実施形態
本発明の第1の実施形態について、図1から図3を参照しつつ、説明する。
(1−1)有機EL素子の作製
第1の実施形態によって作製される有機EL装置には複数の画素が設けられる。画素が形成される領域、すなわち画素領域は、当該領域を囲む隔壁により区画され、その平面形状は、長辺若しくは長軸のいずれか一方またはこれら双方を有する形状となっている。各画素は、少なくとも一対の電極と当該電極間に挟まれた、有機化合物を含む発光層を含む積層体である有機EL素子によって構成される。有機EL素子を構成する積層体は、支持基板上に各種の層を順次積層させて作製される。そして、前記積層体を構成する層のうちの少なくとも一層を形成する工程は、塗布工程と乾燥工程とを含む。
【0014】
図1および図2に、塗布工程の様子を示す。支持基板30上に4つのマトリクス部(表示エリア部)40が設けられたパネル1が、Dd方向へと搬送される。ノズルプリンティング装置(本体不図示)のノズル20から、積層体の層を形成するためのインク吐出される。ノズル20は、パネル1の搬送方向Ddに対し、直交する方向Nmに反復移動する。
【0015】
図2に示すように、マトリクス部40には、隔壁42に囲まれて区画された複数の画素領域41が設けれている。したがって、ノズル20の下にパネル1が搬送され、ノズルがNm方向に反復移動することにより、相対的にノズル20は軌道Ipを描くように、パネル上を移動することになる。ノズル20の軌道Ipは、画素領域41の長手方向に一列移動した後、次の列へと移動し、新たに画素領域41の長手方向に相対的に移動する。パネル1が、ノズル20の下方を通過する際にノズル20からインクが吐出され、図2に示すような軌跡を描きつつ、次々に画素領域41にインクが塗布されていく。
【0016】
インクは、インクジェット法の吐出のようにノズルから断続的に液滴が吐出されるのではなく、ノズル20から非断続的に連続して吐出されていくため、軌道Ipが示すように、インクは画素領域41および画素領域41の長手方向にある隔壁上にも非断続的に連続して塗布される。したがって、インクは、画素領域41の長手方向に並ぶ複数の複数の画素領域41および隔壁42の上に非断続的な線状に塗布されていく。画素領域41は周囲を囲う隔壁42によって、底の浅いウエル状になっており、画素領域内に塗布されたインクは、領域内に広がる。
【0017】
図3−1は、インクが塗布後から乾燥する過程における2つの画素領域とその周辺の様子を模式的に示した平面図であり、図3−2はその長手方向断面図である。インクはノズルから吐出された後から徐々に乾燥し始める。そして、インクの塗布が完了後、乾燥工程において所定の雰囲気下に置かれ、インクから溶媒が蒸発し硬化して層が形成される。
【0018】
ノズルから塗布されるインクは液状であり、表面張力を有し、また、乾燥する過程において収縮する。また、選択的にインクを画素領域41内へと塗布するため、隔壁42は撥水処理が施されている。これらが主な要因となって、隔壁42上に塗布されたインク51は、乾燥する間に、画素領域41内方向Mへと引っ張られて、隔壁42上から画素領域41内へ流れ落ち、最終的には画素領域41内で層の一部を構成する。
【0019】
マトリクス部40のように、長辺を有する矩形上の形状の画素領域41が設けられている場合、インクジェット装置などを用いてインクが画素領域内に点状に塗布されると、被印刷体に着弾したインクは、ある程度画素領域内に広がるものの、インクの表面張力などの影響で、長手方向の端部まで十分に広がらない場合があり得る。十分に長手方向の端部まで広がらない場合、乾燥後にその部分に層が形成されない、あるいは層が設計された厚さに対して不十分になるおそれがある。
【0020】
しかし、本発明の第1の実施形態では、インクを非断続的に連続して吐出し、画素領域41および画素領域41の長手方向にある隔壁42上に非断続的に連続してインクを塗布しながら、画素領域41の長手方向に並ぶ複数の画素領域41および隔壁42の上に線状にインクを塗布していく。インクは長手方向に非断続的な線状に塗布されているため、隔壁42上に塗布されたインク51は長手方向の左右いずれかの画素領域41内へは引き込まれやすい。そのため、画素領域41内に点状に塗布した場合に不足しがちな長手方向端部へとインクが隔壁上から補助的に供給され得ることになる。このようにして、長手方向端部での層形成不良を抑制することができる。
【0021】
また、インクは長手方向に非断続的な線状に塗布されているため、画素領域41内へ繋がるインクに引っ張られ、短手方向の画素領域(図3では不図示)方向へは流れにくい。他方、隔壁頭部にインクを点状または非連続的状に塗布したのでは、所望の方向へとインクが流れ落ちる確率は下がるものと推測される。したがって、短手方向に並ぶ各列ごとに、画素領域に異なる成分を塗布する場合には、本発明の第1の実施形態のようにインクを塗布することにより、短手方向の画素領域間での汚染や混色などを防止し得る。
【0022】
単に吐出するインク量を増やし、例えば、画素が形成されるマトリクス全面にインクを塗布するのでは、画素領域41の短手方向へのインクの溢れが起き易く、混色等の原因となる。他方、本発明の第1の実施形態に示すように、インクを画素領域41の長手方向に非断続的な線状に塗布することにより、乾燥する過程で層厚が不足しがちな部分へ、インクを短手方向のインク溢れや混色なく、補足し得る。
【0023】
隔壁42の表面は、インクが残存しにくいように撥水性を有することが好ましい。隔壁を構成する成分に撥水性の成分を混合させておいても良いし、あるいは、隔壁表面に撥水性の被膜を設けてもよい。少なくとも画素領域41の長手方向に面する隔壁表面が撥水性を備えることが好ましく、より好ましくは、隔壁42の表面全体が撥水性を備える。少なくとも、画素領域41の長手方向に面する隔壁表面が撥水性を有することにより、長手方向端部へとインクがより流れ込みやすくし得る。
【0024】
インクとしては、層を形成する成分(以下、本明細書中で「層形成成分」という場合がある)およびインク溶媒を含む溶液または懸濁液が用いられる。層形成成分として、好ましくは、導電性高分子材料、発光材料などが挙げられる。これらの成分は有機EL素子を構成する層の材料として使用する機会が多く、またインク溶媒に溶解または分散させて、インクとして塗布するのに好適である。
【0025】
インク溶媒は、層形成成分等の条件によって適宜選択してよい。本明細書においては、インク溶媒の用語は、特に断らない限り、層形成成分を溶解させる液体および層形成成分を分散させる液体の双方を含む概念として用いる。インク溶媒として、好ましくは、揮発性、層形成成分の溶解性または分散性などに関し、インク溶媒としての好ましい諸要件を満たすことが好適である。インク溶媒として好ましくは、例えば、水、アルコール溶媒、グリコール溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒、含塩素溶媒および芳香族炭化水素溶媒からなる群より選ばれる1種またはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。アルコール溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどが挙げられる。グリコール溶媒としては、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。エーテル溶媒としては、例えば、テオトラヒドロンフラン、メトキシベンゼン等が挙げられる。エステル溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。含塩素溶媒としては、クロロホルム、クロロベンゼン、塩化メチレン等が挙げられる。芳香族炭化水素溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等が挙げられる。
【0026】
前記塗布工程において、吐出されるインクの粘度は、好ましくは、3cP以上、13cP以下、より好ましくは5cP以上、10cP以下である。このような粘度に調整することにより、インクを塗りむら少なく塗布し、良好な層を形成しやすい。
【0027】
層形成成分を含むインクは、非断続的に連続して吐出される。インクを吐出する装置としては、例えば、ノズルプリンティング装置などが挙げられる。ノズルプリンティング装置は、微小なノズルからインクを連続的に吐出することができる装置である。ノズルプリンティング装置は、微細な線幅に安定して非断続的な連続線状に塗布するのに好適である。
【0028】
塗布工程が完了した後、インクの乾燥が行われる。インクの乾燥工程では、インクから溶媒を留去させ、層形成成分を固定させる。作業速度効率の観点からは、インクの乾燥は短時間で完了できるほど好ましい一方、他方では、インクが画素領域内に全体に十分に広がり、均等な膜厚を形成するに至るように促すことが好ましい。インクの粘度、インク溶媒の種類などにもよるが、乾燥工程における好ましい一形態としては、20℃以上、90℃以下の温度条件下の空気中で、インクを乾燥させる形態が挙げられる。温度条件として、より好ましくは、20℃以上、40℃以下が挙げられる。このような条件下でインクを乾燥させることにより、画素領域内にインクが十分に展開し、画素領域内に均一な膜厚の層を形成を促進し、成膜不良などの弊害を抑制し得る。また、上記のような乾燥後、インクを焼成する工程を設けてもよい。
【0029】
(1−2)有機EL素子の構造
次に、本発明の製造方法により製造し得る有機EL装置に実装される有機EL素子の実施形態について、より具体的に説明する。有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも一対の電極と当該電極間に挟まれた、有機化合物を含む発光層を含む積層体で形成される。積層体を構成する層は、下記に説明するとおり、電極および発光層以外にも、様々な種類の層を設けてよい。また、層の積層順序等も様々な変形例をとり得る。
【0030】
本発明の製造方法おいて製造される有機EL素子は、下記の有機EL素子に限定されるわけではない。また、本発明の製造方法においては、有機EL素子を構成する積層体のうちの少なくとも一層を形成する工程において、上記に説明した実施形態などに示されるような、所定の塗布工程と乾燥工程とを含む。したがって、他の層の形成においては、他の方法により層を形成させてもよい。下記においては、他の方法による層形成法も例示する。また、一般に、有機EL素子を構成する各層は極めて薄いものであり、その層形成には各種の成膜方法を採用し得る。そのため以下の説明においては、層形成のことを成膜という場合がある。
【0031】
有機EL素子は、陽極、発光層及び陰極を必須に有するのに加えて、前記陽極と前記発光層との間、及び/又は前記発光層と前記陰極との間にさらに他の層を有することができる。
【0032】
陰極と発光層の間に設け得る層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等が挙げられる。電子注入層及び電子輸送層の両方が設けられる場合、陰極に近い層が電子注入層となり、発光層に近い層が電子輸送層となる。
【0033】
電子注入層は、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する層であり、電子輸送層は、陰極、電子注入層又は陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。また、電子注入層、若しくは電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。
【0034】
陽極と発光層の間に設けるものとしては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層等があげられる。正孔注入層及び正孔輸送層の両方が設けられる場合、陽極に近い層が正孔注入層となり、発光層に近い層が正孔輸送層となる。
【0035】
正孔注入層は、陽極からの正孔注入効率を改善する機能を有する層であり、正孔輸送層とは、陽極、正孔注入層又は陽極により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層である。また、正孔注入層、又は正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が電子ブロック層を兼ねることがある。
【0036】
有機EL素子において、発光層は通常1層設けられるが、これに限らず2層以上の発光層を設けることもできる。その場合、2層以上の発光層は、直接接して積層することもでき、かかる層の間に発光層以外の層を設けることができる。
【0037】
さらに具体的には、有機EL素子は、下記の層構成のいずれかを有することができる:
a) 陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
b) 陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
c) 陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
d) 陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
e) 陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
f) 陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極
g) 陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
h) 陽極/正孔注入層/発光層/陰極
i) 陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
j) 陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
k) 陽極/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
l) 陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
m) 陽極/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
n) 陽極/発光層/電子輸送層/陰極
o) 陽極/発光層/電子注入層/陰極
p) 陽極/発光層/陰極
(ここで、/は各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)
【0038】
(1−3)有機EL素子を構成する各層の材料および層形成方法
次に、有機EL素子を構成する各層の材料及び形成方法について、より具体的に説明する。なお、上記の塗布工程および乾燥工程を採用して形成する少なくとも一層以外については、下記に例示される他の成膜方法を採用しても良い。
【0039】
<基板>
本発明の有機EL素子を構成する基板は、電極を形成し、有機物の層を形成する際に変化しないものであればよく、例えばガラス、プラスチック、高分子フィルム、シリコン基板、金属板、これらを積層したものなどが用いられる。
【0040】
<陽極>
有機EL素子の陽極としては、光を透過可能な透明電極を用いることが、陽極を通して発光する素子を構成しうるため好ましい。かかる透明電極としては、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物や金属の薄膜を用いることができ、透過率の高いものが好適に利用でき、用いる有機層により適宜、選択して用いる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)から成る薄膜や、金、白金、銀、銅、アルミニウム、またはこれらの金属を少なくとも1種類以上含む合金等が用いられる。
【0041】
<正孔注入層>
正孔注入層は、陽極と正孔輸送層との間、または陽極と発光層との間に設けることができる。正孔注入層を構成する正孔注入層材料としては、特に制限はないが、公知の材料を適宜用いることができ、例えばフェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、酸化バナジウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
【0042】
<正孔輸送層>
正孔輸送層を構成する正孔輸送層材料としては特に制限はないが、例えばN,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)4,4’−ジアミノビフェニル(TPD)、NPB(4,4’−bis[N−(1−naphthyl)−N−phenylamino]biphenyl)等の芳香族アミン誘導体、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などが例示される。
【0043】
<発光層>
発光層は、有機化合物を含む。通常、主として蛍光またはりん光を発光する有機物(低分子化合物および高分子化合物)が含まれる。なお、さらにドーパント材料を含んでいてもよい。本発明において用いることができる発光層を形成する材料としては、例えば、以下の色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料、およびドーパント材料などが挙げられる。
【0044】
[色素系材料]
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどが挙げられる。
【0045】
[金属錯体系材料]
金属錯体系材料としては、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体など、中心金属に、Al、Zn、BeなどまたはTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体などを挙げることができる。
【0046】
[高分子系材料]
高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素体や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
【0047】
[ドーパント材料]
発光層中に発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で、ドーパントを添加することができる。このようなドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約2nm〜2000nmである。
【0048】
<電子輸送層>
電子輸送層を構成する電子輸送材料としては、公知のものが使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等が例示される。
【0049】
<電子注入層>
電子注入層は、電子輸送層と陰極との間、または発光層と陰極との間に設けられる。電子注入層としては、発光層の種類に応じて、アルカリ金属やアルカリ土類金属、或いは前記金属を1種類以上含む合金、或いは前記金属の酸化物、ハロゲン化物及び炭酸化物、或いは前記物質の混合物などが挙げられる。
【0050】
<陰極材料>
陰極の材料としては、仕事関数の小さく発光層への電子注入が容易な材料及び/又は電気伝導度が高い材料及び/又は可視光反射率の高い材料が好ましい。金属では、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属やIII−B族金属を用いることができる。
【0051】
(1−4)有機EL装置の製造
本発明の製造方法により製造し得る有機EL装置は、上記のようにして有機EL素子で構成された画素が複数実装された装置である。電気的配線、駆動手段等の設置については、通常の有機EL装置の製造における様々な態様を採用し得る。
【0052】
本発明の製造方法により製造し得る有機EL装置は、面状光源、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置、液晶表示装置のバックライトとして用いることができる。
【0053】
本発明の有機EL装置を用いて面状の発光を得るためには、面状の陽極と陰極が重なり合うように配置すればよい。また、パターン状の発光を得るためには、前記面状の発光素子の表面にパターン状の窓を設けたマスクを設置する方法、非発光部の有機物層を極端に厚く形成し実質的に非発光とする方法、陽極または陰極のいずれか一方、または両方の電極をパターン状に形成する方法がある。これらのいずれかの方法でパターンを形成し、いくつかの電極を独立にON/OFFできるように配置することにより、数字や文字、簡単な記号などを表示できるセグメントタイプの表示装置が得られる。更に、ドットマトリックス素子とするためには、陽極と陰極をともにストライプ状に形成して直交するように配置するパッシブマトリックス用基板、あるいは薄膜トランジスタを配置した画素単位で制御を行うアクティブマトリックス用基板を用いればよい。さらに、発光色の異なる発光材料を塗り分ける方法や、カラーフィルターまたは蛍光変換フィルターを用いる方法により、部分カラー表示、マルチカラー表示が可能となる。これらの表示素子は、コンピュータ、テレビ、携帯端末、携帯電話、カーナビゲーション、ビデオカメラのビューファインダーなどの表示装置として用いることができる。
【0054】
さらに、前記面状の発光装置は、自発光薄型であり、液晶表示装置のバックライト用の面状光源、あるいは面状の照明用光源として好適に用いることができる。また、フレキシブルな基板を用いれば、曲面状の光源や表示装置としても使用できる。
【0055】
2.本発明の第1の実施形態の変形例1
第1の実施形態の変形例1について、図4を参照しつつ説明する。変形例1は、上記第1の実施形態と異なる点のみ説明し、他の点にいては第1の実施形態と同様の構成が採用される。図4に示すように、変形例1においては、画素領域41が千鳥模様状に配置されている。図4に示す変形例1では、画素領域41の長手方向Laに連なる一列L1および列L1と平行に並ぶ列L2〜L6の各列において、各画素領域41が一列に直線上に並んでいる。他方、列L1〜L6の各列の横手方向に並ぶ画素領域41同士は、直線上に一列並ぶようには配置されておらず、相互に位置がずれていてもよい。このようなマトリクス基板でも本発明の製造方法は適用可能である。
【0056】
3.本発明の第1の実施形態の変形例2乃至5
第1の実施形態の変形例2〜5について、図5−1から図5−5を参照しつつ説明する。変形例2〜5は、上記第1の実施形態と異なる点のみ説明し、他の点については第1の実施形態と同様の構成が採用される。
【0057】
ここで説明する変形例2〜5は、画素領域の平面形状に係る変形例である。有機EL装置に実装される有機EL素子は、開口率を高める目的などにより様々な形状的な工夫が凝らされる場合がある。本発明では、画素領域の平面形状は、長辺または長軸を有する平面形状を有していればよい。長辺を有する平面形状としては、長辺を有する四角形およびこの部分的変形形状が含まれる。長辺を有する四角形としては、長方形、平行四辺形、および台形が挙げられる。長軸を有する平面形状には、例えば、楕円形、長対角線を有する菱形、2以上の円形または楕円形が融合した形状、およびこれらの部分的変形形状などが挙げられる。長辺または長軸を有する平面形状には、円そのもの、および正方形そのものは含まれない。
【0058】
上記のように第1の実施形態では、画素領域41の平面形状は略長方形であり、長辺Lsを有し、また、その角部が丸められている(図5−1)。
図5−2に示す変形例2では、画素領域41aの平面形状が、長辺Lsを有する長方形である。上記第1の実施形態の場合と異なり、角部は丸められていない。長方形状の画素領域41aの長手方向はLaにて示される通りである。
図5−3に示す変形例3では、画素領域41bの平面形状が、長軸Lxを有する楕円形である。楕円形状の画素領域41bの長手方向はLaにて示される通りである。
図5−4に示す変形例4では、画素領域41aの平面形状は、第1の実施形態に示す切り欠き部のある形状である。変形例4のように、長手方向を定めることができる長辺Lsを特定し得る形状であれば、切り欠き部等により異形の長方形であってもよい。不図示であるが、楕円形に切り欠き部が設けられていてもよい。
変形例5として、図5−5に示すように、中央部にくびれがある形状であってもよい。変形例5の形状における画素領域41の長軸はLxで示され、その長手方向はLaにて示される通りである。
【0059】
4.本発明の第2の実施形態
上記第1の実施形態においても説明したとおり、本発明の製造方法では、画素領域の短手方向間でのインクの汚染、混色を簡便に防止し得る。そのため本発明の製造方法は、複数の画素が設けられる表示エリア部上において、一列に1種の画素を設け、隣接する他の列に他種の画素を設ける場合などに好適に採用し得るものである。
【0060】
本発明の第2の実施形態では、複数の画素が画素領域の長手方向に一列に配置され、当該列が画素領域の短手方向に複数連接されてなる表示エリア部を備える有機エレクトロルミネッセンス装置を製造する場合に、塗布工程において、画素領域の長手方向の一列に第1の層成分および第1のインク溶媒を含む第1のインクを塗布し、隣接する列の画素領域には第1の層成分と異なる第2の層成分および第1のインク溶媒を含む第2のインクを塗布する。第1の層成分と第2の層成分とは異なる成分であるが、第1のインク溶媒と第2のインク溶媒とは、同じであっても、異なっていてもよい。
【0061】
好ましい一形態として、第1および第2の層成分が、それぞれ色の異なる発光材料である形態が挙げられる。本発明の第2の実施形態のより具体的な適用例として、画素領域の長手方向の第1の列に、赤色、緑色および青色からなる群より選ばれる1色を発光する第1の有機エレクトロルミネッセンス素子を形成し、第1の列に隣接する一方の列に、第1の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光色とは異なる1色を発光する第2の有機エレクトロルミネッセンス素子が形成し、第1の列と隣接する他方の列に、第1および第2の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光色とは異なる1色を発光する有機エレクトロルミネッセンス素子が形成する形態が提供される。
【0062】
第2の実施形態の変形例を図6を参照しつつ説明する。図6中、第1の実施形態にて既に説明した事項については、同じ符号を付け、その説明を省略する。
図6に示すように、インクの供給には、3つのノズル(3連ノズル)21が備えられた装置が用いられる。3連ノズルの各ノズルはそれぞれ、赤色発光材料を含むインクを吐出するノズルNR、緑色発光材料を含むインクを吐出するノズルNG、青色発光材料を含むインクを吐出するノズルNBである。3連ノズル21は、当初位置(P1)に待機する。所定の位置あわせ完了後、3つのノズルからそれぞれのインクを非断続的に連続して吐出しながら、移動方向Nm1に移動する。3連ノズル21が位置(P2)に到達すると、パネル1を搬送方向Ddに移動し、3連ノズル21が位置(P3)に達した時点でパネルの移動を停止する。3連ノズル21は、移動方向Nm3に移動し、位置(P4)に達した時点で停止する。以下、このような稼働を繰り返し、順次パネル上の画素領域にインクを塗布していく。
【0063】
第1の実施形態と同様、インクは、画素領域41の長手方向(すなわち、ノズルの移動方向Nm1またはNm3)に非断続的な線状に塗布されているため、長手方向の左右いずれかの画素領域41内へは引き込まれやすい。そのため、インクが不足しがちな長手方向端部へとインクが隔壁42上から補助的に供給され得ることになる。また、画素領域41内へ繋がるインクに引っ張られ、短手方向の画素領域41方向へは流れにくい。したがって、短手方向の画素領域41間での汚染や混色などを防止し得る。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の実施例を示し、本発明についてより具体的に説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
(1)素子の製造
図7に示すように、隔壁(バンク)42が形成され、多数の画素領域41が形成されているアクティブマトリクス基板を用意した。図7は、画素領域41が形成されたアクティブマトリクスの一部を示す図である。画素領域41には、ITO電極により、陽極が形成されている。本アクティブマトリクス基板を、RIE装置(SAMCO社製、RIE−200L)を用いて酸素プラズマ処理(3aPa、30W、30SCCM、3分)およびCFプラズマ処理(20aPa、20W、20SCCM、2分)を行ったところ、隔壁42上に選択的に撥水処理が施された。画素領域41の陽極上に、ノズルプリンティング装置(大日本スクリーン社製、NP−300G)を用い、PEDOTインクを塗布した。ノズルプリンティング装置のノズルから、途絶えることなく連続してインクを吐出させつつ、相対的にノズルが画素領域41の長手方向に移動するようにアクティブマトリクス基板を移動させ、、アクティブマトリクス基板上の一列をなす複数の画素領域41にインクを塗布した。図8に、図7のI−I’線におけるインク塗布後の断面図(上面からの推定図)を示す。上記のようにして、図8に示すようにインク53が画素領域41内および隔壁42上に非断続的に連続して塗布されるようにした。なお、ノズルプリンティング装置に充填されたインクとして、PEDOT/PSS水溶液(H.C.Starck製、CH8000)を充填した。
(PEDOT:ポリエチレンジオキシチオフェン、PSS:ポリスチレンスルホン酸)
【0065】
室温にてインクを20分自然乾燥した後、200℃に過熱したホットプレート(アズワン株式会社製、CHP−400D)上でインクを20分乾燥した。上面からアクティブマトリクスを拡大視認したところ、各画素領域において塗り残し部位は見られなかった。また、触針式段差計(KLA−Tencor Corporation社製P−16+)にて、形成された層の膜形状を測定したところ、良好な平坦性をもつPEDOT膜が形成されていることが確認できた。視認および触診式段差計の測定結果に基づく、乾燥後の断面形状を図9に示す。図9に示すように乾燥後のインク54(形成された層)は画素領域41内に十分広がっており、平坦性も良好であった。
【0066】
このように、ノズルプリンティング装置にてPEDOTインクを塗布し、乾燥、焼成することにより、塗り残しがなく、良好な平坦性をもつ正孔注入層を形成することができた。この正孔注入層上に、同様にして発光層を形成し、発光層上に、真空蒸着法などを用いて陰極を形成することで、有機EL装置を製造できる。
【0067】
<比較例1>
ノズルプリンティング装置の代わりに、インクジェット装置(Litrex社製120L)を用い、隔壁42条にインクが乗らない様に、陽極の形成された画素領域41上に選択的にPEDOTインクを塗布した。その他の条件は、上記実施例1と同様とした。インクジェット装置を用い、各画素領域41の陽極上に選択的にインク53を滴下させたため、インク塗布後のアクティブマトリクス断面は、上面からの視認により、図10のようになっているものと推定された。
【0068】
さらに、実施例1と同様に塗布後のインク53を乾燥させた。乾燥後の断面図を、図11に示す。上面からアクティブマトリクスを拡大視認したところ、各画素領域において塗り残し部位が見られた。また、また、触針式段差計(KLA−Tencor Corporation社製P−16+)にて、形成された層を測定した結果からも、画素領域内に膜形成不良があることが確認できた。視認および触診式段差計の測定結果に基づく、乾燥後の断面形状を図11に示す。図11に示すように、乾燥後のインク54(形成された層)は画素領域41内において膜厚にむらがあり、一部には基板30の表面がむき出しになっている部位もあった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上のように、本発明は有機EL装置に関連する産業分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明第1の実施形態の塗布工程におけるノズルとパネルの移動を示す図である。
【図2】塗布工程におけるノズルの軌道を示す図である。
【図3−1】隔壁上のインクが画素領域内に引き込まれる様子を示した平面図である。
【図3−2】隔壁上のインクが画素領域内に引き込まれる様子を示した断面図である。
【図4】第1の実施形態の変形例を示す図である。
【図5−1】画素領域の一変形例を示す図である。
【図5−2】画素領域の一変形例を示す図である。
【図5−3】画素領域の一変形例を示す図である。
【図5−4】画素領域の一変形例を示す図である。
【図5−5】画素領域の一変形例を示す図である。
【図6】第2の実施形態を示す図である。
【図7】パネルの断面位置I−I’を示す図である。
【図8】インク塗布後のパネルの断面図である(実施例1)。
【図9】インク乾燥後のパネルの断面図である(実施例1)。
【図10】インク塗布後のパネルの断面図である(比較例1)。
【図11】インク塗布後のパネルの断面図である(比較例1)。
【符号の説明】
【0071】
1 パネル
20 ノズル
21 3連ノズル
30 支持基板
40 マトリクス部
41、41a〜41d 画素領域
42 隔壁
51 インク(隔壁上)
52 インク(画素領域内)
53 インク(乾燥前)
54 インク(乾燥後)
Dd パネルの搬送方向
Ip ノズルの軌道
1〜L6 画素領域の長手方向の各一列
La 長手方向(ノズルの進行方向)
Ls 長辺
Lx 長軸
M インクの移動
R ノズル(赤色インク吐出用)
G ノズル(緑色インク吐出用)
B ノズル(青色インク吐出用)
Nm ノズルの移動方向
Nm1〜Nm3 ノズルの移動方向
1〜P4 位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の画素を有し、前記画素が少なくとも一対の電極と当該電極間に挟まれた有機化合物を含む発光層を含む積層体で形成される有機エレクトロルミネッセンス素子で構成される有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、
前記画素が形成される画素領域は、当該領域を囲む隔壁により区画され、長辺または長軸を有する平面形状を有し、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子は、前記積層体を構成する層を前記画素領域内に順次積層して形成され、前記積層体を構成する層のうちの少なくとも一層を形成する工程は、塗布工程と乾燥工程とを含み、
前記塗布工程において、前記層を形成する成分とインク溶媒とを含むインクを非断続的に連続して吐出し、前記画素領域および当該画素領域の長手方向にある隔壁上に非断続的に連続して前記インクを塗布しながら、前記画素領域の長手方向に並ぶ複数の画素領域上に線状に前記インクを塗布し、
前記乾燥工程において、塗布された前記インクを乾燥する、
有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項2】
前記画素領域の平面形状が、矩形状または楕円形状である、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項3】
前記隔壁の表面の全部、または、前記画素領域の長手方向に面する隔壁表面が、撥水性を有する、請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項4】
前記層を形成する成分が、導電性高分子材料を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項5】
前記層を形成する成分が、発光材料を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項6】
前記インク溶媒が、水、アルコール溶媒、グリコール溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒、含塩素溶媒および芳香族炭化水素溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項7】
前記塗布工程において、吐出されるインクの粘度が3cP以上、13cP以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項8】
前記塗布工程において、ノズルプリンティング装置を用いて、非断続的に連続してインクを吐出する、請求項1から7のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項9】
前記乾燥工程において、20℃以上、90℃以下の温度条件下の空気中で、インクを乾燥させる、請求項1から8のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項10】
前記有機エレクトロルミネッセンス装置は、複数の画素が画素領域の長手方向に一列に配置され、当該列が画素領域の短手方向に複数連接されてなる表示エリア部を備えており、
前記塗布工程においては、前記画素領域の長手方向の一列に第1の層成分と第1のインク溶媒とを含む第1のインクが塗布され、隣接する列の画素領域には第1の層成分と異なる第2の層成分と第2のインク溶媒とを含む第2のインクが塗布される、請求項1から9のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項11】
前記第1および第2の層を形成する成分が、それぞれ色の異なる発光材料である、請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項12】
前記画素領域の長手方向の第1の列に、赤色、緑色および青色からなる群より選ばれる1色を発光する第1の有機エレクトロルミネッセンス素子が形成され、前記第1の列に隣接する一方の列に、第1の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光色とは異なる1色を発光する第2の有機エレクトロルミネッセンス素子が形成され、前記第1の列と隣接する他方の列に、前記第1および第2の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光色とは異なる1色を発光する有機エレクトロルミネッセンス素子が形成される、請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3−1】
image rotate

【図3−2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5−1】
image rotate

【図5−2】
image rotate

【図5−3】
image rotate

【図5−4】
image rotate

【図5−5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2009−238708(P2009−238708A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86877(P2008−86877)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】