説明

有機エレクトロルミネッセント素子及び有機エレクトロルミネッセント表示装置

【課題】低電圧で駆動可能で、かつ発光効率が高い有機エレクトロルミネッセント素子を得る。
【解決手段】陰極51及び陽極52の間に配置される中間ユニット30と、陰極51と中間ユニット30の間に配置される第1の発光ユニット41と、陽極52及び中間ユニット30の間に配置される第2の発光ユニット42とを備え、中間ユニット30に、陰極側に隣接する隣接層から電子を引き抜くための電子引き抜き層が設けられており、電子引き抜き層の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(A)│と、隣接層の最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーレベルの絶対値│HOMO(B)│が、│HOMO(B)│−│LUMO(A)│≦1.5eVの関係にあり、中間ユニット30は、電子の引き抜きにより発生したホールを第1の発光ユニット41に供給するとともに、引き抜いた電子を第2の発光ユニット42に供給することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセント素子及び有機エレクトロルミネッセント表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセント素子(有機EL素子)は、ディスプレイや照明への応用の観点から活発に開発が行われている。有機EL素子の駆動原理は、以下のようなものである。すなわち、陽極及び陰極からそれぞれホールと電子が注入され、これらが有機薄膜中を輸送され、発光層において再結合し励起状態が生じ、この励起状態から発光が得られる。発光効率を高めるためには、効率良くホール及び電子を注入させ、有機薄膜中を輸送させることが必要である。しかしながら、有機EL素子内のキャリアの移動は、電極と有機薄膜間のエネルギー障壁や、有機薄膜内のキャリア移動度の低さにより制限を受けるため、発光効率の向上にも限界がある。
【0003】
一方、発光効率を向上させる他の方法として、複数の発光層を積層する方法が挙げられる。例えば、補色関係にあるオレンジ色発光層と青色発光層とを直接接するように積層することにより、1層の場合より高い発光効率を得ることができる場合がある。例えば、青色発光層の発光効率が10cd/Aであり、オレンジ色発光層の発光効率が8cd/Aである場合に、これらを積層して白色発光素子とした場合に、15cd/Aの発光効率が得られている。
【0004】
しかしながら、発光層を3層以上それぞれ直接接するように積層した場合には、発光効率の向上が得られない。これは、電子とホールの再結合領域の拡がりに限度があり、再結合領域が3層以上にまたがらないからである。
【0005】
非特許文献1においては、V25、ITOなどの無機半導体層を介して2つの発光ユニットを積層し、無機半導体層の内部でキャリアを発生させて、2つの発光層にキャリアを供給する方法が報告されている。この方法は、無機半導体層中に含まれるキャリアを利用する方法であり、キャリアを発生させるためには高い電圧を印加しなければならない。このため、駆動電圧が高くなり、携帯機器などの低電圧駆動には適用することができないものであった。
【0006】
特許文献1〜4においても、電荷発生層などを介して複数の発光ユニットを積層した有機EL素子が提案されているが、高い電圧で駆動することが必要であり、高い発光効率が得られるものではなかった。
【特許文献1】特開2003−272860号公報
【特許文献2】特開2003−264085号公報
【特許文献3】特開平11−329748号公報
【特許文献4】特開2004−39617号公報
【非特許文献1】2004年春季第51回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集No.3 1464頁 講演番号28p−ZQ−14「二重絶縁層をもつキャリア再結合型有機EL素子」
【非特許文献2】SYNTHESIS,April,1994,378〜380頁“Improved Synthesis of 1,4,5,8,9,12-Hexaazatriphenylenehexacarboxylic Acid”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、少なくとも2つの発光ユニットを備えた有機EL素子において、低電圧で駆動可能で、かつ発光効率が高い有機EL素子及び有機EL表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の有機EL素子は、陰極と、陽極と、陰極及び陽極の間に配置される中間ユニットと、陰極及び中間ユニットの間に配置される第1の発光ユニットと、陽極及び中間ユニットの間に配置される第2の発光ユニットとを備え、中間ユニットに、陰極側に隣接する隣接層から電子を引き抜くための電子引き抜き層が設けられており、電子引き抜き層の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(A)│と、隣接層の最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーレベルの絶対値│HOMO(B)│が、│HOMO(B)│−│LUMO(A)│≦1.5eVの関係にあり、中間ユニットは、電子引き抜き層による隣接層からの電子の引き抜きにより発生したホールを第1の発光ユニットに供給するとともに、引き抜いた電子を第2の発光ユニットに供給することを特徴としている。
【0009】
本発明によれば、第1の発光ユニットと第2の発光ユニットの間に、中間ユニットが設けられ、中間ユニットに、電子引き抜き層が設けられている。電子引き抜き層の陰極側には、隣接層が設けられている。隣接層のHOMOのエネルギーレベルの絶対値│HOMO(B)│と、電子引き抜き層のLUMOのエネルギーレベルの絶対値│LUMO(A)│とは、│HOMO(B)│−│LUMO(A)│≦1.5eVの関係にある。すなわち、電子引き抜き層のLUMOのエネルギーレベルは、隣接層のHOMOのエネルギーレベルに近い値となっている。このため、電子引き抜き層は隣接層から電子を引き抜くことができる。この隣接層からの電子の引き抜きにより、隣接層にはホールが発生する。隣接層が第1の発光ユニット内に設けられている場合には、第1の発光ユニットにホールが発生する。また、隣接層が電子引き抜き層と第1の発光ユニットの間に設けられている場合、すなわち中間ユニット内に設けられている場合には、隣接層に発生したホールが、第1の発光ユニットに供給される。第1の発光ユニットに供給されたホールは、陰極からの電子と再結合し、これによって第1の発光ユニットが発光する。
【0010】
一方、電子引き抜き層に引き抜かれた電子は、第2の発光ユニットに供給され、陽極から供給されたホールと再結合し、これによって第2の発光ユニットが発光する。
【0011】
従って、本発明によれば、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットのそれぞれにおいて再結合領域を形成することができ、これによって第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットをそれぞれ別個に発光させることができる。
【0012】
本発明において、電子引き抜き層が隣接層から電子を引き抜くためには、電子引き抜き層のLUMOのエネルギーレベルが、隣接層のLUMOのエネルギーレベルよりも、隣接層のHOMOのエネルギーレベルに近いことが好ましい。すなわち、隣接層のLUMOのエネルギーレベルの絶対値│LUMO(B)│は、以下の関係を満足することが好ましい。
【0013】
│HOMO(B)│−│LUMO(A)│<│LUMO(A)│−│LUMO(B)│
また、電子引き抜き層として用いる材料のLUMOのエネルギーレベルの絶対値は、一般に隣接層のHOMOをエネルギーレベルの絶対値よりも小さいので、このような場合、それぞれのエネルギーレベルの絶対値は、以下の関係式で示される。
【0014】
0eV<│HOMO(B)│−│LUMO(A)│≦1.5eV
本発明における第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットは、それぞれ単一の発光層から形成されていてもよいし、複数の発光層を直接接するように積層して構成されていてもよい。しかしながら、本発明は、第1の発光層及び第2の発光層が、それぞれ2つの発光層を直接接するように積層した構造を有する場合に、特に有用である。すなわち、このような場合において、第1の発光ユニットと第2の発光ユニットを直接積層させると、4つの発光層を直接積層した構造となり、上述のように、電子とホールの再結合領域の拡がりに限度があるため、再結合領域は4つの発光層をまたがることがない。このため、4つの発光層の厚み方向の1箇所で再結合が生じ、高い発光効率を得ることができない。また、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットのそれぞれが別個に発光した場合の再結合領域と異なる領域で再結合するため、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットの発光色と異なる色が発光する。
【0015】
本発明に従い、第1の発光ユニットと第2の発光ユニットの間に中間ユニットを設けることにより、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットのそれぞれにおいて再結合させることができる。すなわち、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットのそれぞれに再結合領域を形成することができ、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットをそれぞれ独自に発光させることができる。このため、高い発光効率を得ることができるとともに、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットの発光色と同一の色を発光することができる。
【0016】
本発明において、隣接層は、ホール輸送性材料から形成されていることが好ましく、特にアリールアミン系ホール輸送性材料から形成されていることが好ましい。
【0017】
本発明において、隣接層は第1の発光ユニット内に設けられていてもよい。特に、第1の発光ユニット内において中間ユニット側に位置する発光層のホスト材料が隣接層として適するホール輸送性材料である場合には、第1の発光ユニット内の中間ユニット側の発光層を隣接層とすることができる。
【0018】
また、本発明において、隣接層は中間ユニット内に設けられていてもよい。第1の発光ユニット内の中間ユニット側の発光層のホスト材料が隣接層として適するホール輸送性材料でない場合には、隣接層として機能させることができない場合があるので、このような場合には、中間ユニット内に隣接層を設けることができる。このような場合、隣接層は、電子引き抜き層と第1の発光ユニットの間に配置される。
【0019】
本発明において、電子引き抜き層は、LUMOのエネルギーレベルの絶対値が、隣接層のHOMOのエネルギーレベルの絶対値より1.5eV小さいものであれば特に制限なく用いることができる。具体例としては、例えば、以下に示す構造式で表わされるピラジン誘導体から形成することができる。
【0020】
【化1】

【0021】
(ここで、Arはアリール基を示し、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、アルキルオキシ基、ジアルキルアミン基、またはF、Cl、Br、IもしくはCNを示す。)
本発明において、さらに好ましくは、以下に示す構造式で表わされるヘキサアザトリフェニレン誘導体から電子引き抜き層を形成することができる。
【0022】
【化2】

【0023】
(ここで、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、アルキルオキシ基、ジアルキルアミン基、またはF、Cl、Br、IもしくはCNを示す。)
本発明に従う好ましい実施態様において、第1の発光ユニットと第2の発光ユニットは、実質的に同一の色を発光するユニットである。この場合、実質的に同一の材料を用いて同一の構造となるように形成されていることが好ましい。
【0024】
本発明における第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットを構成する発光層は、ホスト材料とドーパント材料から形成されていることが好ましい。必要に応じてキャリア輸送性の第2のドーパント材料が含有されていてもよい。ドーパント材料としては、1重項発光材料であってもよいし、3重項発光材料(燐光発光材料)であってもよい。
【0025】
本発明においては、電子引き抜き層と第2の発光ユニットの間に、電子注入層が設けられていることが好ましい。電子注入層が金属リチウムから形成されている場合、その厚みは、0.3〜0.9nmの範囲内であることが好ましい。金属リチウムからなる電子注入層の厚みをこのような範囲内とすることにより、素子寿命を長くすることができ、かつ駆動電圧を低くすることができる。電子注入層のさらに好ましい厚みは、0.6〜0.9nmの範囲内である。
【0026】
また、電子注入層と第2の発光ユニットの間には、電子輸送層を設けることが好ましい。電子輸送層は、有機EL素子において電子輸送性材料として一般に用いられている材料から形成することができる。
【0027】
本発明の有機エレクトロルミネッセント表示装置は、陽極と陰極に挟まれた素子構造を有する有機エレクトロルミネッセント素子と、表示画素毎に対応した表示信号を有機エレクトロルミネッセント素子に供給するための能動素子が設けられたアクティブマトリックス駆動基板と、該アクティブマトリックス駆動基板と対向して設けられる透明な封止基板とを備え、有機エレクトロルミネッセント素子をアクティブマトリックス駆動基板と封止基板の間に配置し、陰極及び陽極のうち封止基板側に設けられる電極を透明電極としたトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント表示装置であって、有機エレクトロルミネッセント素子が、陰極と、陽極と、陰極及び陽極の間に配置される中間ユニットと、陰極及び中間ユニットの間に配置される第1の発光ユニットと、陽極及び中間ユニットの間に配置される第2の発光ユニットとを備え、中間ユニットに、陰極側に隣接する隣接層から電子を引き抜くための電子引き抜き層が設けられており、電子引き抜き層の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(A)│と、隣接層の最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーレベルの絶対値│HOMO(B)│が、│HOMO(B)│−│LUMO(A)│≦1.5eVの関係にあり、中間ユニットは、電子引き抜き層による隣接層からの電子の引き抜きにより発生したホールを第1の発光ユニットに供給するとともに、引き抜いた電子を第2の発光ユニットに供給することを特徴としている。
【0028】
有機エレクトロルミネッセント素子が白色発光の素子である場合、封止基板と有機エレクトロルミネッセント素子の間にカラーフィルターを配置することが好ましい。
【0029】
本発明の有機エレクトロルミネッセント表示装置は、トップエミッション型の表示装置であるので、有機エレクトロルミネッセント素子で発光した光は、アクティブマトリックスが設けられている側と反対側の封止基板から出射される。一般にアクティブマトリックス回路は多数の層を積層して形成するものであり、ボトムエミッション型の場合はこのようなアクティブマトリックス回路の存在により出射光が減衰するが、本発明の有機エレクトロルミネッセント表示装置はトップエミッション型であるため、このようなアクティブマトリックス回路による影響を受けることなく光を出射することができる。特に、本発明の有機エレクトロルミネッセント素子は複数の発光ユニットを有するものであるため、トップエミッション型の場合ボトムエミッション型に比べ発光した光が通過する膜数が少なくて済むので、光の干渉による出射光の減衰あるいは出射光の視野角の減衰を制御するための設計の自由度を高めることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の有機EL素子及び有機EL表示装置は、少なくとも2つの発光ユニットを備えた有機EL素子であり、低電圧で駆動可能で、かつ発光効率が高い有機EL素子及び有機EL表示装置である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1は、本発明に従う有機EL素子を示す模式的断面図である。図1に示すように、陰極51と陽極52の間には、第1の発光ユニット41及び第2の発光ユニット42が設けられている。第1の発光ユニット41と第2の発光ユニット42の間には、中間ユニット30が設けられている。第1の発光ユニット41は、中間ユニット30に対し陰極51側に設けられており、第2の発光ユニット42は、中間ユニット30に対し陽極52側に設けられている。中間ユニット30内には、電子引き抜き層が設けられている。この電子引き抜き層の陰極51側に隣接層が設けられている。隣接層は、上述のように、第1の発光ユニット41内に設けられていてもよいし、中間ユニット30内に設けられていてもよい。
【0032】
図2は、中間ユニット周辺のエネルギーダイヤグラムを示す図である。中間ユニット30は、電子引き抜き層31、電子注入層32及び電子輸送層33から構成されている。電子引き抜き層31の陰極側には、隣接層40が設けられている。また、中間ユニット30の陽極側には、第2の発光ユニット42が設けられている。図2においては、第2の発光ユニット42の中間ユニット30側の層のみが図示されている。
【0033】
図2に示すように、電子引き抜き層31と第2の発光ユニット42の間には、電子注入層32を設けることが好ましい。さらに、電子注入層32と第2の発光ユニット42の間には、電子輸送層33を設けることが好ましい。
【0034】
図2に示す実施例において、電子引き抜き層31は、以下に示す構造式で表わされるヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(以下、「HAT−CN6」という)から形成されている。HAT−CN6は、例えば非特許文献2に記載された方法により製造することができる。
【0035】
【化3】

【0036】
また、電子注入層32は、Li(金属リチウム)から形成されている。電子注入層32としては、Li及びCsなどのアルカリ金属、Li2Oなどのアルカリ金属酸化物、アル
カリ土類金属、アルカリ土類金属酸化物などを用いることができる。
【0037】
また、電子輸送層33は、以下に示す構造を有するBCP(2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン)から形成されている。電子輸送層33は、有機EL素子において一般に電子輸送性材料として用いられる材料から形成することができる。
【0038】
【化4】

【0039】
本発明において、電子引き抜き層31の厚みは、1〜150nmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは5〜100nmの範囲内である。電子注入層32の厚みは、0.1〜10nmの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜1nmの範囲内である。電子輸送層33の厚みは、1〜100nmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは5〜50nmの範囲内である。
【0040】
図2に示す実施例において、隣接層40は、以下の構造を有するNPB(N,N′−ジ(ナフタセン−1−イル)−N,N′−ジフェニルベンジジン)から形成されている。
【0041】
【化5】

【0042】
図2に示す実施例において、第2の発光ユニット42として示している層は、以下の構造を有するTBADN(2−ターシャリー−ブチル−9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン)から形成されている。
【0043】
【化6】

【0044】
図2に示すように、電子引き抜き層31のLUMOエネルギーレベルの絶対値(4.4eV)と、隣接層40のHOMOエネルギーレベルの絶対値(5.4eV)との差は、1.5eV以内である。また、電子注入層32のLUMOエネルギーレベル(仕事関数)の絶対値は、電子引き抜き層31のLUMOエネルギーレベルの絶対値よりも小さく、電子輸送層33のLUMOエネルギーレベルの絶対値は、電子注入層32のLUMOエネルギーレベルの絶対値よりも小さい。
【0045】
従って、電子引き抜き層31は、陽極及び陰極に電圧が印加された際、隣接層40から電子を引き抜くことができる。引き抜かれた電子は、電子注入層32及び電子輸送層33を通り、第2の発光ユニット42に供給される。
【0046】
また、隣接層40においては、電子が引き抜かれるのでホールが発生する。このホールは、第1の発光ユニットに供給され、陰極から供給された電子と再結合する。この結果、第1の発光ユニット内で発光する。
【0047】
第2の発光ユニットに供給された電子は、陽極から供給されたホールと第2の発光ユニット42内で再結合する。この結果、第2の発光ユニット42内で発光する。
【0048】
以上のように、本発明によれば、第1の発光ユニット内及び第2の発光ユニット内で、それぞれ再結合領域を形成することができ、発光させることができる。この結果、発光効率を高めることができるとともに、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットの発光色で発光させることができる。
【0049】
<実験1>
(実施例1〜5及び比較例1〜2)
表1に示す陽極、ホール注入層、第2の発光ユニット、中間ユニット、第1の発光ユニット、電子輸送層、及び陰極を有する実施例1〜5及び比較例1〜2の有機EL素子を作製した。以下の表において、( )内の数字は、各層の厚み(nm)を示している。
【0050】
陽極は、ITO(インジウム錫酸化物)膜が形成されたガラス基板の上に、フロオロカーボン(CFX)層を形成することにより作製した。フロオロカーボン層は、CHF3ガスのプラズマ重合により形成した。フロオロカーボン層の厚みは、1nmとした。
【0051】
以上のようにして作製した陽極の上に、ホール注入層、第2の発光ユニット、中間ユニット、第1の発光ユニット、電子輸送層、及び陰極を蒸着法により順次堆積して形成した。
【0052】
ホール注入層は、HAT−CN6から形成した。
【0053】
第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットは、オレンジ色発光層(NPB+3.0%DBzR)及び青色発光層(TBADN+2.5%TBP)を積層して形成している。いずれの発光ユニットにおいても、オレンジ色発光層が陽極側に位置し、青色発光層が陰極側に位置している。なお、%は特に断らない限り重量%である。
【0054】
オレンジ色発光層においては、NPBをホスト材料として用い、DBzRをドーパント材料として用いている。DBzRは、5,12−ビス{4−(6−メチルベンゾチアゾール−2−イル)フェニル}−6,11−ジフェニルナフタセンであり、以下の構造を有している。
【0055】
【化7】

【0056】
青色発光層は、TBADNをホスト材料として用いており、TBPをドーパント材料として用いている。
【0057】
TBPは、2,5,8,11−テトラ−ターシャリー−ブチルペリレンであり、以下の構造を有している。
【0058】
【化8】

【0059】
【表1】

【0060】
作製した各有機EL素子について、色度(CIE(x,y))、及び発光効率を測定し、測定結果を駆動電圧とともに表2に示した。なお、発光効率は、10mA/cm2にお
ける値である。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示す結果から明らかなように、各有機EL素子は、オレンジ色発光層と青色発光層を有する発光ユニットを備えており、色度の測定結果から白色を発光していることがわかる。
【0063】
実施例1〜5と比較例2との比較から明らかなように、電子引き抜き層である「HAT−CN6」を備えている実施例1〜5は、電子引き抜き層を備えていない比較例2に比べ高い発光効率が得られている。また、実施例1〜5の有機EL素子は、比較例2に比べ、発光ユニット本来が有する発光色を示していることがわかる。
【0064】
実施例1〜5の有機EL素子が高い発光効率を示す理由については以下の通りであると考えられる。すなわち、実施例1〜5の有機EL素子においては、第2の発光ユニットは陽極側に位置しているため、相対的にホールが多い状態となっている。従って、中間ユニットが存在しない場合、電子が不足した状態になっている。一方、第1の発光ユニットは、陰極側に位置しているので、相対的に電子が多い状態となっており、中間ユニットが存在しなければ、ホールが不足した状態となっている。
【0065】
上述のように、中間ユニットが存在しない場合、4つの発光層が連続して直接に接触した状態となっているので、4つの発光層の中の1つの領域でキャリアが再結合する。本発明に従い、4つの発光層の真ん中に中間ユニットを設けることにより、陽極側の第2の発光ユニットにおける電子の不足を補い、陰極側の第1の発光ユニットにおけるホールの不足を補うことができる。そのメカニズムは、図2を参照して説明したように、陽極及び陰極に電圧が印加されると、第1の発光ユニットにおける隣接層から電子引き抜き層へ電子の引き抜きが起こり、電子引き抜き層のLUMOに引き抜かれた電子が入る。また、電子が引き抜かれた結果、隣接層のHOMOにホールが発生する。電子引き抜き層のLUMOの電子は、中間ユニット内の電子注入層を経て電子輸送層のLUMOに入り、その後第2の発光ユニットに入り、陽極から注入されたホールと再結合する。このとき、中間ユニットからの電子以外に、陰極から注入された電子であって、第1の発光ユニットで消費されなかった電子も同時に再結合に寄与していると考えられる。これにより、第2の発光ユニット中のオレンジ色発光層と青色発光層が同時に発光し、補色型の白色発光が生じる。
【0066】
一方、第1の発光ユニットの隣接層のHOMOに生じたホール、及び第2の発光ユニットで消費されなかった陽極からのホールは、高電界中、第1の発光ユニットに移動し、第1の発光ユニット中において、陰極から注入された電子と再結合する。これにより、第1の発光ユニットのオレンジ色発光層及び青色発光層が同時に発光し、補色型の白色発光が生じる。
【0067】
以上のように、第1の発光ユニットと第2の発光ユニットの2箇所で白色発光が生じるため、発光効率は2倍に向上する。V25等の無機半導体層を介在させて複数の発光ユニットを組み合わせた従来の有機EL素子の場合、無機半導体層中に元々存在していたキャリアを利用している。これに対し、本発明においては、キャリアが存在しない中性の有機層すなわち隣接層から、キャリアを分離させて、このキャリアを用いて発光させている。従って、本発明の有機EL素子は、従来の素子に比べて、低い駆動電圧にすることが可能である。すなわち、電子を引き抜くエネルギー(電子引き抜き層のLUMOと隣接層のHOMOの差)及び生じた電子を陽極側の発光層に注入するためのエネルギー差で発光させることができる。
【0068】
また、本発明においては、発光効率を2倍にすることができるので、素子の信頼性も高めることができる。例えば、初期輝度5000cd/m2の輝度で、連続発光させる場合
、通常の有機EL素子では、5000cd/m2の輝度でそのまま発光させなければなら
ない。これに対し、本発明の有機EL素子では、発光効率が2倍になっているので、素子中の1つの発光ユニットは5000cd/m2の半分である2500cd/m2の輝度で発光させればよい。従って、素子を流れる電流量は半分でよく、素子にかかる負荷が小さくなる。連続発光における素子の寿命は、流れる電流値に影響されるため、本発明によれば素子の寿命を向上させることができる。
【0069】
以上のように、本発明に従い、電子引き抜き層を中間ユニット内に設けることにより、低電圧で駆動可能で、かつ発光効率が高く、所望の発光色を示す有機EL素子とすることができることがわかる。
【0070】
<実験2>
(実施例6及び比較例3)
表3に示す陽極、ホール注入層、第2の発光ユニット、中間ユニット、第1の発光ユニット、電子輸送層、及び陰極を備えた実施例6の有機EL素子を、上記実験1と同様にして作製した。また、中間ユニット及び第1の発光ユニットを有しない以外は、実施例4の有機EL素子と同様である、表3に示す構造の比較例3の有機EL素子を作製した。
【0071】
本実施例においては、中間ユニットの「HAT−CN6」層と、第1の発光ユニットの間に、NPBからなる隣接層を形成している。また、本実施例において、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットは、青色の単一発光層から構成されている。このように、第1の発光ユニットの陽極側の層において、NPB等のアリールアミン系ホール輸送性材料がホスト材料として用いられていない場合には、中間ユニット内に隣接層を設けることが好ましい。
【0072】
【表3】

【0073】
実施例6及び比較例3の有機EL素子について、実験1と同様にして色度及び発光効率を測定し、測定結果を駆動電圧とともに表4に示した。
【0074】
【表4】

【0075】
表4に示す結果から明らかなように、本発明に従う実施例6の有機EL素子は、単一の発光ユニットを備える比較例3と同様の色度を示しており、各発光ユニットを単独で用いた場合と同様の発光色が得られていることがわかる。また、実施例6の発光効率は、比較例3の発光効率の約1.6倍であり、高い発光効率が得られていることがわかる。
【0076】
<実験3>
表5に示す陽極、ホール注入層、第2の発光ユニット、中間ユニット、第1の発光ユニット、電子輸送層、及び陰極を有する実施例7の有機EL素子を、上記実験1と同様にして作製した。
【0077】
本実施例では、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットとして、実施例4と同様の青色の単一発光層を用いている。また、本実施例では、中間ユニット内にTPDからなる隣接層を設けている。このTPDからなる隣接層と、第1の発光ユニットの間には、NPBからなるホール輸送層を設けている。
【0078】
また、本実施例においては、陽極と第2の発光ユニットとの間に設けられるホール注入層にも、TPDを用いている。表5に示すように、「HAT−CN6」層と、NPB層の間に、TPDからなる層を設けている。
【0079】
TPDは、N,N′−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N′−ビス−(フェニル)−ベンジジンであり、以下の構造を有している。
【0080】
【化9】

【0081】
TPDのHOMOエネルギーレベルは−5.3eVであり、LUMOエネルギーレベルは−2.5eVであり、NPB(HOMOエネルギーレベル=−5.4eV、LUMOエネルギーレベル=−2.6eV)とほぼ同程度である。
【0082】
【表5】

【0083】
実施例7の有機EL素子について、実験1と同様にして色度及び発光効率を測定し、測定結果を駆動電圧とともに表6に示した。
【0084】
【表6】

【0085】
表6に示すように、TPDからなる隣接層を形成した場合にも、NPBからなる隣接層の場合と同様に、高い発光効率を得ることができる。これは、上述のように、そのHOMOエネルギーレベル及びLUMOエネルギーレベルが、NPBと同程度であるため、隣接層からの電子引き抜きが生じ易く、隣接層に生じたホールが第1の発光ユニットへ移動し易いためであると考えられる。
【0086】
<実験4>
表7に示す陽極、ホール注入層、第2の発光ユニット、中間ユニット、第1の発光ユニット、電子輸送層、及び陰極を備える実施例8〜11の有機EL素子を作製した。
【0087】
実施例8は、実施例7と同様に、TPDからなる隣接層を形成し、ホール注入層にもTPDからなる層を設けている。
【0088】
実施例9においては、CuPcからなる隣接層を形成し、ホール注入層にもCuPc層を設けている。CuPcは銅フタロシアニンであり、以下に示す構造を有している。
【0089】
【化10】

【0090】
実施例10においては、CBPからなる隣接層を形成し、ホール注入層にもCBP層を設けている。CBPは、4,4′−N,N′−ジカルバゾール−ビフェニルであり、以下の構造を有している。
【0091】
【化11】

【0092】
実施例11においては、NPBを隣接層として用いている。
【0093】
実施例8〜11の有機EL素子においては、実施例7と同様に、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットとして、青色の単一発光層を用いている。
【0094】
【表7】

【0095】
実施例8〜11の各有機EL素子について、上記実験1と同様にして、色度及び発光効率を測定し、測定結果を駆動電圧とともに表8に示した。
【0096】
【表8】

【0097】
表8に示すように、実施例8〜11のいずれの有機EL素子においても、高い発光効率が得られており、また発光ユニットに用いた青色発光層と実質的に同一の発光色が得られている。
【0098】
〔隣接層の材料及び電子引き抜き層の材料のHOMO及びLUMOエネルギーレベルの測定〕
隣接層に用いた材料及び電子引き抜き層に用いた材料について、サイクリックボルタンメトリー(CV)により、HOMO及びLUMOの各エネルギーレベルの値を以下のようにして算出した。
【0099】
1、CV測定
(1)酸化側の測定
ジクロロメタンを溶媒にして、支持電解質tert−ブチルアンモニウムパークロレートを濃度10-1mol/lになるように入れ、測定材料を10-3mol/lになるように入れて、サンプルを調製した。測定雰囲気は大気中とし、室温で測定した。
【0100】
(2)還元側の測定
テトラヒドロフランを溶媒にして、支持電解質tert−ブチルアンモニウムパークロレートを濃度10-1mol/lになるように入れ、測定材料を10-3mol/lになるように入れて、サンプルを調製した。測定雰囲気は窒素ガス雰囲気下とし、室温で測定した。
【0101】
2、HOMOとLUMOの算出
(1)予めイオン化ポテンシャル測定装置(理研計器社製「AC−2」)を用いて標準的試料のNPBの薄膜におけるイオン化ポテンシャルを測定しておく。AC−2の測定原理は以下の通りである。光源部から発せられた分光された紫外線を、サンプルに照射し、紫外線エネルギー(波長)を大きく(短く)していく。サンプルが半導体の場合、紫外線のエネルギーがイオン化ポテンシャルを超えると、サンプルの表面から光電子が放出し始める。この光電子は、検知器(オープンカウンター)を用いて計数される。
【0102】
紫外線のエネルギーと光電子の計数値(Yield)の平方根の関係をグラフ化し、このグラフに最小二乗法で近似直線を引き、光電子放出の閾値エネルギーを求める。この閾値エネルギーは、サンプルが半導体の場合、イオン化ポテンシャルと解釈される。サンプルが金属の場合は、仕事関数である。AC−2で測定したNPBのイオン化ポテンシャルは−5.4eVである。
【0103】
(2)次に、NPBをCV測定し、酸化還元電位を測定する。NPBの酸化電位は、−0.5V、還元電位は−2.3Vである。従って、NPBのHOMOは−5.4eVであり、LUMOは−2.6eV(5.4−(0.5+2.3)=2.6)である。また、他の材料の測定では、例えばAlqの場合、酸化電位は+0.8V、還元電位は−2.0Vである。従って、NPBを基準にした場合、AlqのHOMOは−5.7eV(5.4−(0.8−0.5)=5.7)であり、LUMOは−2.9eV(5.7−(0.8+2.0)=2.9)となる。
【0104】
以上の測定方法により、TPD、CuPc、CBP、NPB、及びHAT−CN6のHOMO及びLUMOのエネルギーレベルを算出し、その結果を表9に示した。なお、表9には、各材料を隣接層の材料に用いたときの発光効率(実施例6〜9の発光効率)を併せて示している。
【0105】
【表9】

【0106】
表9に示す結果から明らかなように、隣接層の材料のHOMOのエネルギーレベルの絶対値と、電子引き抜き層の材料のLUMOのエネルギーレベルの絶対値の差が、0〜1.5eVの範囲において、高い発光効率の有機EL素子が得られることがわかる。
【0107】
<実験5>
表10に示す、陽極、ホール注入層、第2の発光ユニット、中間ユニット、第1の発光ユニット、電子輸送層、及び陰極を有し、中間ユニット内のLi2O層の厚みxを0.1
nm、0.2nm、0.3nm、0.5nm、1nm、及び3nmと変化させた有機EL素子をそれぞれ作製した。
【0108】
【表10】

【0109】
第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットにおけるオレンジ色発光層は、実験1におけるオレンジ色発光層と同様である。また、青色発光層は、80重量%のTBADNをホスト材料として用い、2.5重量%のTBPを第1のドーパント材料として用い、20重量%のNPBを第2のドーパント材料として用いている。
【0110】
Li2O層の膜厚を変化させた各有機EL素子について、10mA/cm2における発光効率を測定し、その結果を図3に示した。
【0111】
図3に示す結果から明らかなようにLi2Oの膜厚が0.1nm〜10nmの範囲内に
おいて、発光が可能であることがわかる。また、Li2Oの膜厚が0.1nm〜3nmの
範囲において、特に発光効率が高くなることがわかる。
【0112】
<実験6>
図6に示す有機EL素子を作製した。図6に示す有機EL素子は、ガラス基板50の上に陽極52が形成されており、陽極52の上には、HAT−CN6からなるホール注入層44が形成されている。ホール注入層44の上には、青色発光層42a及びオレンジ色発光層42bからなる第2の発光ユニット42が形成されている。第1の発光ユニットユニット42の上には、中間ユニット30が形成されている。中間ユニット30は、電子引き抜き層31、電子注入層32、及び電子輸送層33から構成されている。中間ユニット30の上には、青色発光層41a及びオレンジ色発光層41bからなる第1の発光ユニット41が形成されている。第1の発光ユニット41の上には、BCPからなる電子輸送層43が形成されている。電子輸送層43の上には、陰極51が形成されている。表11に示すように、金属リチウムからなる電子注入層32の厚みを0.2nm〜1.0nmの範囲で変化させた実施例12〜19の有機EL素子を作製した。
【0113】
【表11】

【0114】
実施例12〜19の各有機EL素子について、その特性を評価した。評価結果を表12に示す。なお、電圧及び色度は10mA/cm2の電流で駆動させたときの値である。また、輝度半減期は、40mA/cm2の電流で駆動させたときの値である。
【0115】
【表12】

【0116】
表12に示す結果から明らかなように、Liからなる電子注入層の厚みが0.3〜0.9nmの範囲内において、輝度半減期が500時間以上になっており、優れた寿命特性が得られることがわかる。特に、0.6〜0.9nmの範囲内においては、駆動電圧が低くなっており、かつ輝度半減期も1000時間以上の値が得られている。
【0117】
電子注入層の厚みが0.2nmである実施例12においては、寿命が極端に短くなり、また駆動電圧も高くなっている。また、電子注入層の厚みが1.0nmである実施例19は、寿命が短く、かつ駆動電圧が高くなっている。
【0118】
以上のことから、Liからなる電子注入層を設ける場合は、電子注入層の厚みを0.3〜0.9nmの範囲内とすることにより、駆動電圧が低く、かつ寿命特性に優れた有機EL素子とすることができることがわかる。
【0119】
Liからなる電子注入層を設けることにより、BCPからなる電子輸送層との界面において、Li−BCPの錯体が形成されることが考えられる。このような錯体の形成により、BCPのLUMO値が下がり、LiからBCPへの電子の注入がスムーズになるものと考えられる。
【0120】
〔金属リチウム薄膜の厚みの測定〕
実験6において、電子注入層である金属リチウム薄膜の厚みの測定は、以下のようにして行った。
【0121】
すなわち、標準試料を作製し、標準試料の金属リチウム薄膜の厚みを測定した後、標準試料についてSIMSにより検量線を作製し、この検量線を用いて、有機EL素子についてSIMSを測定し、金属リチウム薄膜の厚みを算出した。以下にこの測定法の詳細を説明する。
【0122】
(1)標準試料の金属リチウム薄膜の厚みの測定
実施例12、13、15及び19の有機EL素子を作製した際に、ICP(誘導結合プラズマ法)により金属リチウム薄膜の厚みを測定した。すなわち、各素子を作製する直前に、同じ条件で金属リチウム薄膜のみを100mm×100mmの大きさのガラス基板上に形成し、これらの薄膜を、塩酸と水が体積比1:9の液50mlを用いてリチウム金属を抽出した。抽出液をICP法にて金属リチウム膜の重量を測定した。リチウムの固体密度0.534mg/mm3から、金属リチウム薄膜の体積(mm3)を求めた。
【0123】
次に、この体積を膜面積10000mm2(100mm×100mm)で割ることにより、実際の厚み(nm)が算出される。
【0124】
以上のようにして金属リチウム薄膜の厚みを算出した。実際に作製した有機EL素子(実施例12、13、15及び19)中の電子注入層(金属リチウム薄膜)の厚みは、上記のようにして作製した金属リチウム薄膜の厚みと同じと考えることができる。
【0125】
ICP法により上記のようにして求めた金属リチウム薄膜の厚みを表13に示す。
【0126】
【表13】

【0127】
(2)標準試料についてのSIMSによる検量線の作製
上記の実施例12、13、15及び19の各試料について、SIMSでリチウムの深さ方向の濃度分布を測定した。
【0128】
図7は、LiについてのSIMSプロファイルを示しており、図8では炭素についてのSIMSプロファイルを示している。図7及び図8から、LiとCの強度比(Li/Cカウント比)を算出し、表14に示した。なお、カウント比とは、炭素プロファイルにおける炭素の平均強度を1としたときのLiの強度(ピーク高さ)である。例えば、炭素の平均的強度が1×10であり、Liのピーク強度が4×100の場合、カウント比は40となる。
【0129】
【表14】

【0130】
表14から明らかなように、金属リチウム薄膜の厚みが0.3nm以上の範囲において金属リチウムの膜厚とLi/Cカウント比は比例関係にあることがわかる。従って、Li/Cカウント比を求めることにより、金属リチウム薄膜の厚みを算出することができる。表14の結果を基にして金属リチウム薄膜の厚みとLi/Cカウント比の検量線を作製し、実施例14、16、17及び18についてSIMSを測定し、Li/Cカウント比からそれぞれにおける金属リチウム薄膜(電子注入層)の厚みを測定した。
【0131】
図4は、本発明に従う実施例の有機EL素子を備えた有機EL表示装置を示す断面図である。この有機EL表示装置においては、能動素子としてTFTを用いて各画素における発光を駆動している。なお、能動素子としてダイオードなども用いることができる。また、この有機EL表示装置においては、カラーフィルターが設けられている。この有機EL表示装置は、矢印で示しているように基板1の下方に光を出射して表示するボトムエミッション型の表示装置である。
【0132】
図4を参照して、ガラスなどの透明基板からなる基板1の上には、第1の絶縁層2が設けられている。第1の絶縁層2は、例えばSiO2及びSiNXなどから形成されている。第1の絶縁層2の上には、ポリシリコン層からなるチャネル領域20が形成されている。チャネル領域20の上には、ドレイン電極21及びソース電極23が形成されており、またドレイン電極21とソース電極23の間には、第2の絶縁層3を介してゲート電極22が設けられている。ゲート電極22の上には、第4の絶縁層4が設けられている。第2の絶縁層3は、例えばSiNX及びSiO2から形成されており、第3の絶縁層4は、SiO2及びSiNXから形成されている。
【0133】
第3の絶縁層4の上には、第4の絶縁層5が形成されている。第4の絶縁層5は、例えば、SiNXから形成されている。第4の絶縁層5の上の画素領域の部分には、カラーフ
ィルター層7が設けられている。カラーフィルター層7としては、R(赤)、G(緑)、またB(青)などのカラーフィルターが設けられる。カラーフィルター層7の上には、第1の平坦化膜6が設けられている。ドレイン電極21の上方の第1の平坦化膜6にはスルーホール部が形成され、第1の平坦化膜6の上に形成されているITO(インジウムースズ酸化物)からなるホール注入電極8がスルーホール部内に導入されている。画素領域におけるホール注入電極(陽極)8の上には、ホール注入層10が形成されている。画素領域以外の部分においては、第2の平坦化膜9が形成されている。
【0134】
ホール注入層10の上には、本発明に従い積層した発光素子層11が設けられている。発光素子層11は、第2の発光ユニットの上に中間ユニットを介して第1の発光ユニットを積層した本発明に従う構造を有している。発光素子層11の上には、電子輸送層12が設けられ、電子輸送層12の上には、電子注入電極(陰極)13が設けられている。
【0135】
以上のように、本実施例の有機EL素子においては、画素領域の上に、ホール注入電極(陽極)8と、ホール注入層10と、本発明に従う構造を有する発光素子層11と、電子輸送層12と、電子注入電極(陰極)13とが積層されて有機EL素子が構成されている。
【0136】
本実施例の発光素子層11においては、オレンジ色発光層と青色発光層とを積層した発光ユニットを用いているので、発光素子層11からは白色の発光がなされる。この白色の発光は、基板1を通り外部に出射するが、発光側にカラーフィルター層7が設けられているので、カラーフィルター層7の色に応じて、R、GまたはBの色が出射される。
【0137】
図5は本発明に従う実施例の有機EL表示装置を示す断面図である。本実施例の有機EL表示装置は、矢印で図示しているように基板1の上方に光を出射して表示するトップエミッション型の有機EL表示装置である。
【0138】
基板1から陽極8までの部分は、図4に示す実施例とほぼ同様にして作製されている。但し、カラーフィルター層7は、第4の絶縁層5の上に設けられておらず、有機EL素子の上方に配置されている。具体的には、ガラスなどからなる透明な封止基板10の上にカラーフィルター層7を取り付け、この上にオーバーコート層15をコーティングし、これを透明接着剤層14を介して陽極8の上に貼り付けることにより取り付けられている。また、本実施例では、陽極と陰極の位置を図4に示す実施例とは逆にしている。
【0139】
陽極8として、透明な電極が形成されており、例えば、膜厚100nm程度のITOと膜厚20nm程度の銀とを積層することにより形成されている。陰極13としては、反射電極が形成されており、例えば、膜厚100nm程度のアルミニウム、クロム、または銀の薄膜が形成されている。オーバーコート層15は、アクリル樹脂などにより厚み1μm程度に形成されている。カラーフィルター層7は、顔料タイプのものであってもよいし染料タイプのものであってもよい。その厚みは1μm程度である。
【0140】
発光素子層11から発光された白色光は、封止基板16を通り外部に出射されるが、発光側にカラーフィルター層7が設けられているので、カラーフィルター層7の色に応じてR、GまたはBの色が出射される。本実施例の有機EL表示装置はトップエミッション型であるので、薄膜トランジスタが設けられている領域も画素領域として用いることができ、図4に示す実施例よりも広い範囲にカラーフィルター層7が設けられている。発光素子層11は本発明に従う有機EL素子から形成されており、発光効率の高い発光素子層であるが、本実施例によればより広い領域を画素領域として用いることができるので、発光効率の高い発光素子層の利点を十分に活用することができる。また、複数の発光ユニットを有する発光素子層の形成も、アクティブマトリックスによる影響を考慮せずに行うことができるので、設計の自由度を高めることができる。
【0141】
上記実施例では、封止基板としてガラス板を用いているが、本発明において封止基板はガラス板に限定されるものではなく、例えば、SiO2などの酸化膜やSiNxなどの窒化膜などの膜状のものも封止基板として用いることができる。この場合、素子上に膜状の封止基板を直接形成できるので、透明接着剤層を設ける必要がなくなる。
【0142】
上記各実施例においては、陽極及び陰極の間に2つ発光ユニット(第1の発光ユニット及び第2の発光ユニット)を配置した有機EL素子を例示しているが、本発明における発光ユニットの数は2つに限定されるものではなく、3つ以上発光ユニットを設け、各発光ユニットの間に中間ユニットを設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】本発明に従う一実施例の有機EL素子を示す模式的断面図。
【図2】中間ユニット周辺のエネルギーダイヤグラムを示す図。
【図3】Li2O層の膜厚と発光効率との関係を示す図。
【図4】本発明に従う実施例の有機EL素子を用いたボトムエミッション型の有機EL表示装置を示す断面図。
【図5】本発明に従う実施例の有機EL表示装置を示す断面図。
【図6】本発明に従う他の実施例の有機EL素子を示す模式的断面図。
【図7】厚みの異なる金属リチウム薄膜のLiについてのSIMSプロファイル。
【図8】厚みの異なる金属リチウム薄膜の炭素についてのSIMSプロファイル。
【符号の説明】
【0144】
1…基板
2…第1の絶縁層
3…第2の絶縁層
4…第3の絶縁層
5…第4の絶縁層
6…第1の平坦化膜
7…カラーフィルター層
8…ホール注入電極
9…第2の平坦化膜
10…ホール注入層
11…発光素子層
12…電子輸送層
13…電子注入電極
14…透明接着剤層
15…オーバーコート層
16…封止基板
20…チャネル領域
21…ドレイン電極
22…ゲート電極
23…ソース電極
30…中間ユニット
31…電子引き抜き層
32…電子注入層
33…電子輸送層
40…隣接層
41…第1の発光ユニット
42…第2の発光ユニット
51…陰極
52…陽極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と、陽極と、前記陰極及び前記陽極の間に配置される中間ユニットと、前記陰極及び前記中間ユニットの間に配置される第1の発光ユニットと、前記陽極及び前記中間ユニットの間に配置される第2の発光ユニットとを備え、
前記中間ユニットに、陰極側に隣接する隣接層から電子を引き抜くための電子引き抜き層が設けられており、前記電子引き抜き層の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(A)│と、前記隣接層の最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーレベルの絶対値│HOMO(B)│が、│HOMO(B)│−│LUMO(A)│≦1.5eVの関係にあり、
前記中間ユニットは、前記電子引き抜き層による前記隣接層からの電子の引き抜きにより発生したホールを前記第1の発光ユニットに供給するとともに、引き抜いた電子を前記第2の発光ユニットに供給することを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項2】
前記第2の発光ユニットが、前記第1の発光ユニットと実質的に同一の色を発光する発光ユニットであることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項3】
前記第1の発光ユニット及び前記第2の発光ユニットが、2つの発光層を直接接するように積層した構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項4】
前記隣接層が、前記第1の発光ユニット内に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項5】
前記隣接層が、前記中間ユニット内に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項6】
前記隣接層が、ホール輸送性材料から形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項7】
前記隣接層が、アリールアミン系ホール輸送性材料から形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項8】
前記電子引き抜き層が、以下に示す構造式で表わされるピラジン誘導体から形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【化1】

(ここで、Arはアリール基を示し、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、アルキルオキシ基、ジアルキルアミン基、またはF、Cl、Br、IもしくはCNを示す。)
【請求項9】
前記電子引き抜き層が、以下に示す構造式で表わされるヘキサアザトリフェニレン誘導体から形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【化2】

(ここで、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、アルキルオキシ基、ジアルキルアミン基、またはF、Cl、Br、IもしくはCNを示す。)
【請求項10】
前記電子引き抜き層と前記第2の発光ユニットの間に、電子注入層が設けられていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項11】
前記電子注入層が金属リチウムから形成されており、その厚みが0.3〜0.9nmの範囲内であることを特徴とする請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項12】
前記電子注入層と前記第2の発光ユニットの間に、電子輸送層が設けられていることを特徴とする請求項10または11に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項13】
陽極と陰極に挟まれた素子構造を有する有機エレクトロルミネッセント素子と、表示画素毎に対応した表示信号を前記有機エレクトロルミネッセント素子に供給するための能動素子が設けられたアクティブマトリックス駆動基板と、該アクティブマトリックス駆動基板と対向して設けられる透明な封止基板とを備え、前記有機エレクトロルミネッセント素子を前記アクティブマトリックス駆動基板と前記封止基板の間に配置し、前記陰極及び前記陽極のうち前記封止基板側に設けられる電極を透明電極としたトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント表示装置であって、
前記有機エレクトロルミネッセント素子が、前記陰極と、前記陽極と、前記陰極及び前記陽極の間に配置される中間ユニットと、前記陰極及び前記中間ユニットの間に配置される第1の発光ユニットと、前記陽極及び前記中間ユニットの間に配置される第2の発光ユニットとを備え、
前記中間ユニットに、陰極側に隣接する隣接層から電子を引き抜くための電子引き抜き層が設けられており、前記電子引き抜き層の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(A)│と、前記隣接層の最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーレベルの絶対値│HOMO(B)│が、│HOMO(B)│−│LUMO(A)│≦1.5eVの関係にあり、
前記中間ユニットは、前記電子引き抜き層による前記隣接層からの電子の引き抜きにより発生したホールを前記第1の発光ユニットに供給するとともに、引き抜いた電子を前記第2の発光ユニットに供給することを特徴とする有機エレクトロルミネッセント表示装置。
【請求項14】
前記有機エレクトロルミネッセント素子が白色発光素子であり、前記有機エレクトロルミネッセント素子と前記封止基板との間に、カラーフィルターが配置されていることを特徴とする請求項13に記載の有機エレクトロルミネッセント表示装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−66379(P2006−66379A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−50034(P2005−50034)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】