説明

有機リン化合物の製造方法

【課題】安全衛生や環境上の問題がほとんどなく、安定剤、難燃剤として有用な有機リン化合物を、煩雑な精製を行うことなく、効率よく高純度且つ高収率で得ることができる有機リン化合物の製造方法を提供すること。
【解決手段】一般式[1]で表される有機リン化合物と、一般式[2]で表されるハロゲン化ベンジル化合物とを金属リン酸塩の存在下において反応させることを特徴とする、一般式[3]で表される有機リン化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機リン化合物の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、安定剤、難燃剤として有用な有機リン化合物を、反応副生物の除去のために蒸留などの煩雑な精製を必要とせず、効率よく高純度且つ高収率で得ることができる有機リン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高分子化合物、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂およびメラミン樹脂等の熱硬化性樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、PET樹脂、PBT樹脂およびPMMA樹脂等の熱可塑性樹脂を難燃化する方法として、有機ハロゲン化合物などの難燃剤を使用する方法が用いられている。このような有機ハロゲン化合物を含有する高分子化合物は、それらの使用目的を終えた後では、一般に焼却処理されている。
【0003】
しかしながら、有機ハロゲン化合物を含有する高分子化合物は、そのペレット成型、使用目的物成型の加熱溶融および焼却の過程において、環境に悪影響を与える猛毒のダイオキシン類を発生することが問題となっている。
【0004】
これに対して、後述する一般式[3]で表される有機リン化合物を安定化および難燃化を目的に添加した高分子化合物は、焼却処理されたとしても、上述のようなダイオキシン類を全く発生しないし、また製造の際にホスゲン等の有毒ガスを全く発生しないことが判明している。
【0005】
従来、一般式[3]で表される有機リン化合物の製造法としては、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドと、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルアルコールとを無触媒または酸性触媒の下で反応させる方法(特許文献1など参照)や、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドと2,6−ジメチル−3−ヒドロキシ−4−t−ブチル−ベンジルクロリドとを、アンモニア、アミンおよび金属炭酸塩などの塩基性化合物の存在下で脱塩酸縮合せしめる方法(特許文献2など参照)、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドと3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルメチルエーテルとを無触媒または酸性触媒の下で反応させる方法(特許文献3など参照)が知られている。
【特許文献1】特開昭47−16479号公報
【特許文献2】特開昭56−115383号公報
【特許文献3】特開2001−302685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法において使用される3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルアルコールは、その製造に際して、収率が悪く、高価であり、不安定な化合物である。
そして、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドとの反応においても、ベンジルアルコール化合物の2量体などの副生成物が多く生成する。このベンジルアルコールの2量体などの副生成物や、未反応の3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルアルコールが系内に残存していると目的化合物の収率が低くなる。さらに、このようなベンジルアルコール化合物は水洗や再結晶などの操作では除去しにくく、減圧蒸留操作などの煩雑な精製が必要となる。以上のように、特許文献1に記載の方法では、煩雑な精製が必要であり、且つ、目的化合物の収率が低いという問題がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の方法においては、塩基性化合物としてアンモニアまたはアミンを用いた場合には反応促進効果が低いために、収率が低いという問題がある。また、金属炭酸塩を用いた場合には塩酸ガスとの中和反応により生成する水と、2,6−ジメチル−3−ヒドロキシ−4−t−ブチル−ベンジルクロリドとで加水分解反応が起き、大量のベンジルアルコール化合物が副生してしまうため、特許文献1と同様な理由で減圧蒸留などの煩雑な精製が必要であり、尚且つ収率が低いという問題がある。
【0008】
さらに、特許文献3に記載の方法においては、原料として使用される3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルメチルエーテルが、その製造に際して、収率が悪く、高価である。そして、反応副生成物であるアルコール類を蒸留などで回収除去しないと収率が低く、経済的に不利であるという問題がある。
【0009】
上記事情に鑑み本発明は、安全衛生や環境上の問題がほとんどなく、安定剤、難燃剤として有用な有機リン化合物を、煩雑な精製を行うことなく、効率よく高純度且つ高収率で得ることができる有機リン化合物の製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記一般式[1]で表される有機リン化合物と、下記一般式[2]で表されるハロゲン化ベンジル化合物とを金属リン酸塩の存在下において反応させることにより、目的とする下記一般式[3]で表される有機リン化合物を、煩雑な精製を行うことなく、効率よく高純度且つ高収率で得ることができることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

【0013】
【化3】


(ただし、式中、RおよびRは同一または相異なって低級アルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。R〜Rは同一または相異なって水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アラルキル基またはヒドロキシル基を示す。Xはハロゲン原子を示す。nおよびmは0〜4の整数である。)
【0014】
本発明においては、一般式[1]で表される有機リン化合物1モルに対し、金属リン酸塩を0.1〜5モル使用することが好ましい。
【0015】
本発明においては、一般式[1]で表される有機リン化合物1モルに対し、一般式[2]で表されるハロゲン化ベンジル化合物を1〜10モル反応させることが好ましい。
【0016】
本発明においては、一般式[1]で表される有機リン化合物が、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドであることが好ましく、一般式[2]で表されるハロゲン化ベンジル化合物が、塩化ベンジルであることが好ましい。
【0017】
さらに、本発明においては反応に使用する金属リン酸塩が、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、またはその混合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法によれば、安全衛生や環境上の問題がほとんどなく、安定剤、難燃剤として有用な有機リン化合物を、煩雑な精製を行うことなく、効率よく高純度且つ高収率で製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0020】
本発明の製造方法においては、下記一般式[1]で表される有機リン化合物と、下記一般式[2]で表されるハロゲン化ベンジル化合物とを金属リン酸塩の存在下において反応させ、下記一般式[3]で表される有機リン化合物を得る。
【0021】
【化4】

【0022】
一般式[1]において、RおよびRは同一または相異なって、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、nおよびmは0〜4の整数である。
【0023】
およびRの低級アルキル基としては、反応性の観点から炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリブチル基等が挙げられる。シクロアルキル基としては炭素数6のものが好ましく、シクロアルキル基が有していてもよい置換基としては低級アルキル基が好ましい。このような置換基を有していてもよいシクロアルキル基としては、シクロヘキシル基、3−メチル−シクロペンチル基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、トリル基およびナフチル基等が挙げられ、アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0024】
nおよびmは0〜2の整数であることが好ましく、0であることが特に好ましい。
【0025】
【化5】

【0026】
一般式[2]において、R〜Rは同一または相異なって水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アラルキル基またはヒドロキシル基であり、水素原子であると好ましい。Xはハロゲン原子である。
【0027】
〜Rで表される炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリブチル基、ヘキシル基等が挙げられる。置換基を有していてもよいシクロアルキル基としては、シクロヘキシル基、3−メチル−シクロペンチル基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、トリル基およびナフチル基等が挙げられ、アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
Xとしては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、塩素原子が好ましい。
【0028】
【化6】

【0029】
一般式[3]における、R〜R、m、nはそれぞれ一般式[1]および一般式[2]におけるものと同等である。
【0030】
本発明により製造される一般式[3]で表される有機リン化合物は、有機高分子化合物に配合して、基質の物理的、化学的性質の改質や改良、安定化および難燃化に優れた性能を発揮するものである。
【0031】
一般式[3]で表される有機リン化合物は、一般式[1]で表される有機リン化合物と一般式[2]で表されるハロゲン化ベンジル化合物とを、金属リン酸塩の存在下で、必要に応じて反応溶剤を用いて脱ハロゲン化水素反応させることにより製造することができる。
【0032】
金属リン酸塩としては、リン酸塩、リン酸水素塩等のオルトリン酸塩、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩等の縮合リン酸塩などを挙げることができ、塩としてはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられる。このような金属リン酸塩としては、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、リン水素二カリウム、リン酸三カリウム、トリポリリン酸カリウム等が挙げられる。これらの金属リン酸塩は、1種を単独で用いても良いし2種以上を混合して用いることもできる。
【0033】
これらの金属リン酸塩のなかでも、反応促進効果が高いことから、リン酸三ナトリウムおよびリン酸三カリウムが好ましく、特にリン酸三ナトリウムが好ましい。
【0034】
金属リン酸塩の使用量は、反応操作や後処理に好適な量になるよう適宜調整することができるが、通常、一般式[1]で表される有機リン化合物1モルに対して、0.1〜5モルの範囲で用いることが好ましく、0.5〜3モルの範囲で用いることがより好ましい。一般式[1]で表される有機リン化合物1モルに対して、金属リン酸塩が0.1モル未満であると、反応性の向上が十分に見られないおそれがある。一般式[1]で表される有機リン化合物1モルに対して5モルを越えても、反応性は向上せず、経済性、精製処理および廃液処理などの作業性の点から問題が生ずるおそれがある。
【0035】
このような金属リン酸塩以外の塩基性化合物を使用した場合については、本発明のような効果は得られない。
【0036】
例えば、アンモニアやアミンを使用した場合は反応促進効果が低く収率が低い。
【0037】
また、金属炭酸塩を用いた場合は、反応により生じる塩酸ガスと金属炭酸塩との中和反応により水が生成するが、この水により一般式[2]で表されるハロゲン化ベンジル化合物が加水分解され、その結果、大量のベンジルアルコール化合物が副生してしまい、減圧蒸留などの煩雑な精製が必要となるとともに、収率が低くなる。
【0038】
さらに、金属珪酸塩を用いた場合では反応促進効果が低く、不純物の副生も多いため収率が低くなる。
【0039】
これに対して、本発明において使用される金属リン酸塩を使用した場合は、反応促進効果が高く、不純物の副生も少ないため、高純度且つ高収率で一般式[3]で表される有機リン化合物を得ることができる。
【0040】
なお、一般式[1]で表される有機リン化合物と一般式[2]で表されるハロゲン化ベンジル化合物との脱ハロゲン化水素反応の条件は、例えば、50〜180℃の反応温度で、常圧で30分〜20時間程度反応させればよく、好ましくは80〜150℃の反応温度で1〜6時間反応させることがより好ましい。
【0041】
反応終了後は、適当な溶媒を添加して反応生成物を溶解させ、水洗して無機塩類を除去した後、反応生成物を析出させ単離することにより、高純度の一般式[3]で表される有機リン化合物を得ることができる。また、単離した結晶は必要に応じて、適当な溶媒で洗浄することもできるし、再結晶することもできる。
【0042】
脱ハロゲン化水素反応の際には、反応溶媒を用いてもよいし、用いなくてもよい。反応溶媒を用いる場合は、反応に不活性な有機溶媒が使用される。このような有機溶媒としては、ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族化合物、ヘキサン、石油エーテルおよびシクロヘキサン等の炭化水素化合物、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタンおよびテトラクロロエタン等のハロゲン化合物、ジエチルエーテル、ジメチルエーテルおよびジオキサン等のエーテル化合物を挙げることができる。これらの反応溶媒は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの中で、芳香族化合物および炭化水素化合物およびそれらの混合溶媒を好適に用いることができる。
【0043】
なお、本発明において使用される一般式[1]で表される有機リン化合物の具体例としては、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、2−メチル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、2,6,8−トリ−t−ブチル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドおよび6,8−ジシクロヘキシル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの化合物の中でも、反応で得られる有機リン化合物の、安定剤、難燃剤としての有用性から、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドが好ましい。
【0044】
本発明において使用される一般式[2]で表されるハロゲン化ベンジル化合物の具体例としては、塩化ベンジル、臭化ベンジル、ヨウ化ベンジル、2−メチル−ベンジルクロライド、3−メチル−ベンジルクロライド、4−メチル−ベンジルクロライド、2−エチル−ベンジルクロライド、3−エチル−ベンジルクロライド、4−エチル−ベンジルクロライド、2−シクロヘキシル−ベンジルクロライド、3−シクロヘキシル−ベンジルクロライド、4−シクロヘキシル−ベンジルクロライド、2−フェニル−ベンジルクロライド、3−フェニル−ベンジルクロライド、4−フェニル−ベンジルクロライド、2−ベンジル−1−(クロロメチル)ベンゼン、3−ベンジル−1−(クロロメチル)ベンゼン、4−ベンジル−1−(クロロメチル)ベンゼン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの化合物のなかでも、安価で入手しやすい塩化ベンジルおよび臭化ベンジルが好ましく、脱ハロゲン化水素反応時に副生する塩が除去しやすく、また廃棄しやすいという観点から塩化ベンジル化合物(一般式[2]におけるXが塩素原子である化合物)が好ましく、両方の観点から塩化ベンジルであることが好ましい。
【0045】
一般式[2]で表されるハロゲン化ベンジル化合物の使用量は、通常、一般式[1]で表される有機リン化合物1モルに対して、1〜10モルの範囲で用いることが好ましく、1.2〜5モルの範囲で用いることがより好ましい。一般式[1]で表される有機リン化合物1モルに対して、ハロゲン化ベンジル化合物の使用量が10モルを超えても、反応性は向上せず、経済性、精製処理および廃液処理などの作業性の点から問題が生ずるおそれがある。
【0046】
本発明の一般式[3]で表される有機リン化合物の製造方法は、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドと塩化ベンジルとの脱塩酸縮合反応による、10−ベンジル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの製造に特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
攪拌機、還流冷却管、温度計を備えた4ツ口フラスコに、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(商品名:HCA 三光株式会社製、純度99質量%、その他の成分が1質量%)21.6g、塩化ベンジル15.2gを仕込み、塩化ベンジル液中に窒素を空間速度(SV)3hr−1にて吹き込みながら昇温した。80〜100℃で内容物が溶解した後、攪拌をはじめ、リン酸三ナトリウム20.5gを、温度が120〜140℃の範囲で維持されるように1時間かけて少しずつ添加した。その後、冷却し、80℃でトルエン20gを滴下し、80℃で水洗を繰り返したのち、常温まで冷却したところ白色結晶が析出した。この結晶を濾別し、トルエンで洗浄、乾燥したところ反応生成物が28g得られた。反応生成物の組成を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、ピーク面積比から、目的物である10−ベンジル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドが99質量%、その他の成分が1質量%であった。
【0049】
(実施例2)
攪拌機、還流冷却管、温度計を備えた4ツ口フラスコに、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(商品名:HCA 三光株式会社製、純度99質量%、その他の成分が1質量%)21.6g、塩化ベンジル15.2gを仕込み、塩化ベンジル液中に窒素を空間速度(SV)3hr−1にて吹き込みながら昇温した。80〜100℃で内容物が溶解した後、攪拌をはじめ、リン酸三カリウム26.5gを、温度が120〜140℃の範囲で維持されるように1時間かけて少しずつ添加した。その後、冷却し、80℃でトルエン20gを滴下し、80℃で水洗を繰り返したのち、常温まで冷却したところ白色結晶が析出した。この結晶を濾別し、トルエンで洗浄、乾燥したところ反応生成物が27g得られた。反応生成物の組成を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、ピーク面積比から、目的物である10−ベンジル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドが99質量%、その他の成分が1質量%であった。
【0050】
(実施例3)
攪拌機、還流冷却管、温度計を備えた4ツ口フラスコに、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(商品名:HCA 三光株式会社製、純度99質量%、その他の成分が1質量%)21.6g、塩化ベンジル15.2gを仕込み、塩化ベンジル液中に窒素を空間速度(SV)3hr−1にて吹き込みながら昇温した。80〜100℃で内容物が溶解した後、攪拌をはじめ、リン酸三ナトリウム10.3gとリン酸三カリウム13.3gの混合物を、温度が120〜140℃の範囲で維持されるように1時間かけて少しずつ添加した。その後、冷却し、80℃でトルエン20gを滴下し、80℃で水洗を繰り返したのち、常温まで冷却したところ白色結晶が析出した。この結晶を濾別し、トルエンで洗浄、乾燥したところ反応生成物が27g得られた。反応生成物の組成を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、ピーク面積比から、目的物である10−ベンジル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドが99質量%、その他の成分が1質量%であった。
【0051】
(実施例4)
攪拌機、還流冷却管、温度計を備えた4ツ口フラスコに、2−メチル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド23.0g、4−メチル−ベンジルブロマイド22.2gを仕込み、4−メチル−ベンジルブロマイド液中に窒素を空間速度(SV)3hr−1にて吹き込みながら昇温した。80〜100℃で内容物が溶解した後、攪拌をはじめ、リン酸三ナトリウム20.5gを、温度が120〜140℃の範囲で維持されるように1時間かけて少しずつ添加した。その後、冷却し、80℃でキシレン22gを滴下し、80℃で水洗を繰り返したのち、常温まで冷却したところ白色結晶が析出した。この結晶を濾別し、キシレンで洗浄、乾燥したところ反応生成物が30g得られた。反応生成物の組成を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、ピーク面積比から、目的物である下記式[5]で表される有機リン化合物が99質量%、その他の成分が1質量%であった。
【0052】
【化7】

【0053】
(実施例5)
攪拌機、還流冷却管、温度計を備えた4ツ口フラスコに、2,4,6−トリエチル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド30.0g、4−シクロヘキシル−ベンジルクロライド25.0g、キシレン47.2gを仕込み、キシレン液中に窒素を空間速度(SV)3hr−1にて吹き込みながら昇温した。80〜100℃で内容物が溶解した後、攪拌をはじめ、リン酸三ナトリウム20.5gを、温度が120〜140℃の範囲で維持されるように1時間かけて少しずつ添加した後、さらに140℃で1時間熟成を行った。その後、冷却し、80℃で水洗を繰り返した後、常温まで冷却したところ白色結晶が析出した。この結晶を濾別し、キシレンで洗浄、乾燥したところ反応生成物が40g得られた。反応生成物の組成を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、ピーク面積比から、目的物である下記式[6]で表される有機リン化合物が98質量%、その他の成分が2質量%であった。
【0054】
【化8】

【0055】
(比較例1)
攪拌機、還流冷却管、温度計を備えた4ツ口フラスコに、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(商品名:HCA 三光株式会社製、純度99質量%、その他の成分が1質量%)21.6g、塩化ベンジル15.2g、トルエン64.8gを仕込み、トルエン溶液中に窒素を空間速度(SV)3hr−1にて吹き込みながら昇温した。内容物を溶解させたのち、攪拌をはじめ、さらに昇温し110℃にて、トリエチルアミン12.1gを注加または滴下し、110℃で4時間反応させた。その後、冷却し、80℃で水洗を繰り返したのち、常温まで冷却したところ白色結晶が析出した。この結晶を濾別し、トルエンで洗浄、乾燥したところ反応生成物が20g得られた。反応生成物の組成を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、ピーク面積比から、原料である9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドが75質量%、目的物である10−ベンジル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドが24質量%、その他の成分が1質量%であった。
【0056】
(比較例2)
攪拌機、還流冷却管、温度計を備えた4ツ口フラスコに、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(商品名:HCA 三光株式会社製、純度99質量%、その他の成分が1質量%)21.6g、塩化ベンジル15.2gを仕込み、塩化ベンジル液中に窒素を空間速度(SV)3hr−1にて吹き込みながら昇温した。80〜100℃で内容物が溶解した後、攪拌をはじめ、炭酸カリウム16.6gを、温度が120〜140℃の範囲を維持するように1時間かけて少しずつ添加した。その後、冷却し、80℃でトルエン20gを滴下し、80℃で水洗を繰り返したのち、常温まで冷却したところ白色結晶が析出した。この結晶を濾別し、トルエンで洗浄、乾燥したところ反応生成物が9g得られた。反応生成物の組成を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、ピーク面積比から、下記式[4]で表される有機リン化合物が39質量%、10−ベンジル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドが59質量%、その他の成分が2質量%であった。
【0057】
【化9】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の製造方法によれば、安定剤、難燃剤として有用な有機リン化合物を、安全衛生や環境上の問題がほとんどなく、反応副生物の除去のために蒸留などの煩雑な精製を必要とせず、効率よく高純度且つ高収率で製造することが可能となる。従来方法と比較して簡単でかつ容易に有機リン化合物を製造することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]で表される有機リン化合物と、一般式[2]で表されるハロゲン化ベンジル化合物とを金属リン酸塩の存在下において反応させることを特徴とする、一般式[3]で表される有機リン化合物の製造方法。
【化1】


【化2】


【化3】


(ただし、式中、RおよびRは同一または相異なって低級アルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。R〜Rは同一または相異なって水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アラルキル基またはヒドロキシル基を示す。Xはハロゲン原子を示す。nおよびmは0〜4の整数である。)
【請求項2】
一般式[1]で表される有機リン化合物1モルに対し、金属リン酸塩を0.1〜5モル使用することを特徴とする、請求項1に記載の有機リン化合物の製造方法。
【請求項3】
一般式[1]で表される有機リン化合物1モルに対し、一般式[2]で表されるハロゲン化ベンジル化合物を1〜10モル反応させることを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機リン化合物の製造方法。
【請求項4】
一般式[1]で表される有機リン化合物が、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機リン化合物の製造方法。
【請求項5】
一般式[2]で表されるハロゲン化ベンジル化合物が、塩化ベンジルである請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機リン化合物の製造方法。
【請求項6】
金属リン酸塩が、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウムまたはこれらの混合物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機リン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−126460(P2010−126460A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300897(P2008−300897)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】