説明

有機・無機ハイブリッド材料

【課題】従来の層状ケイ酸塩にイオン交換により結合される四級アンモニウム塩は、有機・無機ハイブリッド材料とした場合に、樹脂への分散性を向上させるために、アンモニウム塩の窒素と結合する少なくとも1つの置換基は長い側鎖を有している。このため、従来の四級アンモニウム塩を用いたインターカレートケイ酸塩化合物による有機・無機ハイブリッド材料は、熱寸法安定性に問題があった。
【解決手段】合成原料の入手が容易かつ合成時間が短時間である重合性置換基を有し、イオン交換により層状ケイ酸塩の平面に結合することができ、4つの置換基全ての主鎖が短いことを特徴とする四級アンモニウム塩を、水分散媒中でインターカレートケイ酸塩化合物とした後に、重合性単量体と共重合させた有機・無機複合重合体を開発することにより、上記の課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性置換基を有する四級アンモニウム塩をインターカレートしたケイ酸塩化合物を重合性単量体と共重合させた有機・無機ハイブリッド材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の技術革新に伴い、有機材料・無機材料を問わず、材料に対する要求性能は高まり続けている。
層状ケイ酸塩化合物は、入手が容易であること、安価であること、そのアスペクト比(注:アスペクト比とは厚さに対する長さの比をいう)が大きいためにガスバリア性に優れていること、難燃性などの点から、高分子材料との複合化による新素材の開発が進められてきた。しかし、層状ケイ酸塩化合物そのものの有機高分子材料との親和性は一般に低く、このため分散性に乏しい。この理由は、もともと両者の親和性が低いことの他に、層状ケイ酸塩化合物自体が二酸化ケイ素四面体が二次元網目状に連続した四面体シートと、酸化アルミニウム八面体シートなどとがナトリウムイオンなどを介して交互に積層した組織になっているため、それ自身が大きなドメインを形成しやすいことによる。このため、水分散媒中で有機四級アンモニウム塩に代表される有機オニウム塩を用いることにより、層間をジョイントしているナトリウムイオンを置換して層間を開いて(インターカレーション)分散させ、同時にケイ酸塩表面を有機基で修飾することにより、有機高分子材料との親和性を発現させる手法が用いられてきた(例えば特許文献1)。
【0003】
このような背景を踏まえ、近年、層状ケイ酸塩化合物と有機ポリマーとを直接結合を介して連結して一つの化合物とすることにより分散性の課題を解決する手法が報告されてきた(非特許文献1〜3)このうち、非特許文献1は、層状ケイ酸塩の端面にシランカップリング剤を結合させ、ここから重合性単量体を重合させることによりポリマーを成長させる手法であるが、層状ケイ酸塩の平面上に結合させるのではなく端面に結合させるため、結合点が少ないという欠点がある。
非特許文献2は、層状ケイ酸塩の平面に、末端にATRP開始基を含む四級アンモニウム塩をイオン交換により導入し、ここからメタクリル酸エステルおよびスチレン単量体を重合させたという報告であるが、この四級アンモニウム塩は非水溶性であり、インターカレーションの際にアセトンなどの有機溶剤を用いる必要があるために次の課題を残す。すなわち、アセトンに対する層状ケイ酸塩化合物の分散性が水に比べて劣るため、層状ケイ酸塩化合物に対する、末端にATRP開始基を含む四級アンモニウム塩のインターカレーションが不十分となり、最終生成物中にクレイの凝集物が混在するという課題を残している。また、アセトンは引火性の高い有機溶剤であり、安全性の点からの課題も残る。また、非特許文献2では、四級アンモニウム塩合成の際に、長時間の反応時間(50時間)が必要な段階があり、合成時間の短縮が求められてきた。
非特許文献3は、末端に、重合性単量体と共重合可能な基を有するエーテル基と、3つのアルキル基からなる四級アンモニウム塩を層状ケイ酸塩化合物に共重合させた有機・無機ハイブリッド材料を合成したという報告であるが、この四級アンモニウム塩の4つの置換基のうちの1つの置換基は、アルキル基の主鎖の炭素数が14と長い(E)あるいは炭素数が13と長い重合基を含む基(F)を有する。そのため、熱寸法安定性に問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−56932
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chem.Mater.2006,18,3937−3945
【非特許文献2】J.Polymer Sci.,:PartA:Polym.Chem.,VOL.42,916−924(2004)
【非特許文献3】Macromolecules 2009,42,180−187
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の層状ケイ酸塩にイオン交換により結合される四級アンモニウム塩は、有機・無機ハイブリッド材料とした場合に、樹脂への分散性を向上させるために、アンモニウム塩の窒素と結合する少なくとも1つの置換基は長い側鎖を有している。このため、従来の四級アンモニウム塩をインターカレートしたケイ酸塩化合物(以下適宜「インターカレートケイ酸塩化合物」という)による有機・無機ハイブリッド材料は、熱寸法安定性に問題があった。
したがって、本発明は、重合性置換基を有し、4つの置換基全ての主鎖が短い四級アンモニウム塩を層状ケイ酸塩化合物にインターカレートし、そのインターカレートケイ酸塩化合物を重合性単量体と共重合させた重合体を開発することにより、上記の課題を解決することを目的とする。
すなわち、合成原料の入手が容易かつ合成時間が短時間である重合性置換基を有し、イオン交換により層状ケイ酸塩の平面に結合することができ、4つの置換基全ての主鎖が短いことを特徴とする四級アンモニウム塩で、水分散媒中でインターカレートケイ酸塩化合物とした後に、重合性単量体と共重合させた有機・無機ハイブリッド材料を開発することが課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、広い範囲の重合性単量体に対して共重合性を有することと同時に層状ケイ酸塩にインターカレーションが可能な、下式(1)で示される化合物を見出した。そして、この化合物が、上記の問題点を解決するために有効であることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
即ち、本発明は下記の構成を有する。
[1]下記一般式(1)で示される重合性置換基を有する四級アンモニウム塩をインターカレートしたケイ酸塩化合物と重合性単量体を共重合させた有機・無機ハイブリッド材料。
【化1】

ここに、R1、R2はメチル基である。R3は、炭素原子数1〜3の直鎖状、分岐状のアルキル鎖もしくはフェニル基から独立して選択される。Aは、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、エポキシ基もしくはビニルエーテル基を末端に有するメチレン鎖、またはアクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、エポキシ基もしくはビニルエーテル基を末端に有するエチレン鎖であり、Xはハロゲン原子である。
[2]前記[1]記載の請求項1記載の式(1)中のAの前記エポキシ基が、グリシドキシ基または式(2)で表される基であることを特徴とする前記[1]に記載の有機・無機ハイブリッド材料。
【化2】

[3]前記四級アンモニウム塩をインターカレートしたケイ酸塩化合物と共重合する前記重合性単量体は、ラジカル重合可能な重合性単量体であることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の有機無機ハイブリッド材料。
【発明の効果】
【0008】
重合性置換基を有し、4つの置換基全ての主鎖が短い四級アンモニウム塩を層状ケイ酸塩化合物にインターカレートし、そのインターカレートケイ酸塩化合物を重合性単量体と共重合させた有機・無機ハイブリッド材料の合成が可能となる。
また、本発明の化合物は、合成原料の入手が容易で、短時間で合成が可能であるため容易に生成できる。
生成した有機・無機ハイブリッド材料においては、インターカレートケイ酸塩化合物と重合性単量体の共重合体であるから、他の有機化合物に比べて耐熱性を向上さることが可能である。
さらに、従来の有機・無機ハイブリッド材料では、樹脂への分散性を向上させるために、アンモニウム塩の窒素と結合する置換基が長い側鎖を有しているため、樹脂の熱寸法安定性に問題があるが、本発明の化合物は、アンモニウム塩の窒素と結合する4つの置換基全ての主鎖が短いため、インターカレートケイ酸塩化合物と重合性単量体の共重合体であっても、分散性および熱寸法安定性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】合成した有機・無機複合重合体(実施例1)のTEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の重合性置換基を有する四級アンモニウム塩化合物は、下記一般式(1)に示される構造を有する。
【化1】

ここに、R1、R2はメチル基である。R3は、炭素原子数1〜3の直鎖状、分岐状のアルキル鎖もしくはフェニル基から独立して選択される。Aは、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、エポキシ基もしくはビニルエーテル基を末端に有するメチレン鎖、またはアクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、エポキシ基もしくはビニルエーテル基を末端に有するエチレン鎖であり、Xはハロゲン原子である。
【0011】
式(1)におけるR3が炭素原子数1〜3の直鎖状アルキル鎖の場合、その例としてメチル、エチル、プロピルが挙げられ、このうちメチル、エチルが好ましく、特にメチルが好ましい。
【0012】
式(1)におけるR3が分岐状のアルキル鎖の場合、その例として1−メチルエチレン、イソプロピルが挙げられる。
【0013】
式(1)中のAは、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、エポキシ基もしくはビニルエーテル基を末端に有するメチレン鎖、またはアクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、エポキシ基もしくはビニルエーテル基を末端に有するエチレン鎖であり、式(1)中のAがエポキシ基の場合、その例としてグリシドキシまたは式(2)が挙げられる。
【0014】
そして、前記した式(1)中のAの中でも、Aがアクリロイル基若しくはメタクリロイル基を末端に有するメチレン鎖、またはアクリロイル基若しくはメタクリロリル基を末端に有するエチレン鎖であることが好ましい。
【0015】
式(1)におけるX1は、ハロゲン原子である。具体的には、塩素、臭素、ヨウ素であり、このうち好ましいものは、塩素、臭素である。
【0016】
次に、式(1)で示される重合性置換基を有する四級アンモニウム塩化合物の合成方法について説明する。
本発明の式(1)で示される重合性置換基を有する四級アンモニウム塩化合物の合成に用いる好ましい原料は式(3)で示されるヒドロキシアルキルアンモニウム塩である。
【化3】

ここに、R1、R2、R3は、式(1)に示したR1、R2、R3と同一であり、Bはメチレン鎖若しくはエチレン鎖である。
【0017】
式(3)から式(1)の化合物の合成は、次のように行う。式(3)の化合物と、ハロゲン化α−ハロアルカノイル化合物とを、アンモニア、尿素、有機アミンなどの塩基性化合物共存下で反応させ、塩基性化合物による脱ハロゲン化水素反応により式(1)の化合物を含む反応混合物を得る。
反応混合物からの精製法としては、蒸留もしくは再沈殿を用いることができる。この反応は、溶剤を用いても良いし無溶剤でもよいが、反応時に副生する塩が固体である場合には、溶剤を用いるほうが好ましい。溶剤としては、水やアルコールなどの水酸基を持つ溶剤以外なら特に制限はないが、テトラヒドロフランやジエチルエーテルなどのエーテル系溶剤を脱水して用いることが好ましい。また、有機アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、アニリンを用いることができる。また、式(3)の化合物に対するハロゲン化α−ハロアルカノイル化合物とのモル比率は1.0〜3.0であり、好ましい比率は1.0〜1.2であり、塩基性化合物とハロゲン化α−ハロアルカノイルとのモル比率は1.0〜6.0であり、好ましい比率は、1.0〜3.6である。また、反応濃度は全ての原料の重量換算で1重量%から100重量%で行うことができるが、好適なのは5〜40重量%である。反応温度は、はじめ副反応を防ぐために0℃以下で行うことが好ましいが、全ての原料を混合した後は室温で行っても良い。反応時間は、合計で1〜18時間であり、好ましいのは3〜12時間である。
【0018】
式(1)で示される化合物は、層状ケイ酸塩の陽イオン部に陽イオン交換され、インターカレーションすることにより、有機・無機複合体を生成することができる。
この有機・無機複合体は、それ自身を樹脂等と混合することにより、難燃化を付与する材料として使用することもできる。
そして、この有機・無機複合体は、重合性単量体と共重合させ、有機・無機ハイブリッド材料を生成することができる。
【0019】
層状ケイ酸塩としては、例えばモンモリロナイト、サポナイト、ハイデライト、ノントライト、ヘクトライト、スティブンサイト等のスメクタイト系やバーミキュライト、ハロサイト等の天然又は合成の粘土鉱物をあげることができる。これら層状ケイ酸塩の陽イオン交換量は、10〜300ミリ当量/100gのものが好ましい。アスペクト比は70 以上が好ましく、80〜1200が更に好ましい。
【0020】
次いで、式(1)の化合物と層状ケイ酸塩との反応について述べる。まず、層状ケイ酸塩を溶剤に分散させる。ここで用いる溶剤は、層状ケイ酸塩を分散させ、かつ式(1)が溶解するものなら特に限定されず、それぞれの溶剤が異なっていても良いが、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトニトリルなどが挙げられ、このうち水、アセトン、アセトニトリル、1,4−ジオキサンが好ましく、特に水と1,4−ジオキサンの併用が好ましい。
【0021】
溶剤に対する層状ケイ酸塩の濃度は、0.01〜30重量%の範囲で行うことができるが、好ましくは0.05〜10重量%で、特に好ましくは0.1〜5重量%である。これとは別に、式(1)を溶剤に溶解させる。溶剤に対する式(1)の濃度は、0.01〜30重量%の範囲で行うことができるが、好ましくは0.05〜10重量%で、特に好ましくは0.1〜5重量%である。これら層状ケイ酸塩の分散液と、式(1)の溶液とを、層状ケイ酸塩中の陽イオンの1moL%〜100moL%を式(1)の陽イオン部で置換しうる当量比で混合し、層状ケイ酸塩の層間に式(1)をインターカレーションさせることにより層間を開裂させると同時に重合性有機官能基を導入する。通常、この反応が進行すると生成物が沈降してくるので、これを減圧濾過し、溶剤で洗浄後、減圧して揮発成分を除き、精製する。このときに用いる溶剤は、水との親和性が良好でカチオン交換の結果流出する塩化ナトリウムのようなアルカリ金属塩および塩化マグネシウムのようなアルカリ土類金属塩を溶解除去できる溶剤ならば特に種類は問わないが、例として、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトニトリルなどが挙げられ、このうち凍結乾燥法の適用が可能である、水、2−メチル−2−プロパノール、1,4−ジオキサンが好ましい。
【0022】
次いで、この重合性置換基を有する四級アンモニウム塩をインターカレーとしたインターカレートケイ酸塩化合物と重合性単量体との重合反応について述べる。この手法は、無溶剤でも溶剤中でも行うことができる。好ましい溶剤としては、トルエンやキシレンなどの炭化水素溶剤、テトラヒドロフランやジエチルエーテルなどのエーテル系溶剤、クロロホルムやジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素溶剤、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチルなどのエステル系溶剤、エタノールや2−プロパノールなどのアルコール系溶剤、水、および無溶剤である。このうち、特に好ましいものはトルエン、テトラヒドロフラン、無溶剤である。
本重合反応において、溶液中の原料全てを合計した濃度は、重量換算で1重量%〜100重量%で行うことができる。
【0023】
重合性単量体は、ラジカル重合法を適用できるものならば特に制限はなく、メタクリル酸およびそのエステル類(メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等)、アクリル酸およびそのエステル類(アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等)、アクリル酸アミド類(アクリル酸アミド、N−イソプロピルアクリル酸アミド等)、スチレンおよびその誘導体などが挙げられる。式(1)と重合性単量体との比率は、特に制限はなく、目的物の用途に応じた比率で用いてよい。
【0024】
本重合反応は、用いる重合開始剤により、光重合もしくは熱重合により行うことが可能である。また重合雰囲気は、反応の過程で生成するラジカルを失活させる酸素などの成分を可能な限り除去し、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気で行うことが望ましいが、大気中で行うことも可能である。また溶剤中での重合のほかに、無溶剤による重合も可能である。重合温度は、用いる重合開始剤、重合性単量体および溶剤の種類により異なる。
【0025】
以上のように、本発明では、重合性置換基を有し、層状ケイ酸塩にイオン交換により結合可能な置換基を併せ持ち、4つの置換基全ての主鎖が短い四級アンモニウム塩を層状ケイ酸塩化合物にインターカレートし、そのインターカレートケイ酸塩化合物を重合性単量体と共重合させた重合体を合成することが可能である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0027】
測定機器類
透過型電子顕微鏡(TEM);(株)日立製作所社製 H−7100
質量分析(GC−MS);日本電子(株)社製 JMS−AMII150
熱分析(TG−DTA);(株)リガク社製 TG8120
熱分析(TMA);(株)リガク社製 TMA8310
透過率およびヘーズ;スガ試験機(株) ダブルビーム方式ヘーズコンピューターHZ−2
【0028】
実施例1
<四級アンモニウム塩の合成>
三方コック、温度計、30mL容滴下ロートを備えた100mL容摺りつき三ツ口フラスコを脱気・乾燥し、アルゴン気流下とする。これに、塩化コリン(2.79g,0.02moL)、トリエチルアミン(2.02g,0.02moL)、乾燥ジエチルエーテル40mLを加えた後、撹拌しつつ氷冷する。ここに、2−メタクリロイルクロリド(2.51g,0.024moL)を10mLの乾燥ジエチルエーテルで希釈した溶液を約30分かけて滴下した。滴下後室温に戻し、さらに3時間撹拌した。白色沈殿物が生成した。これに、0.1規定希塩酸を加えて塩を溶かし、分液して有機相を分取し、炭酸水素ナトリウム飽和水溶液で中和した後に水洗し、塩化ナトリウム飽和溶液で洗浄後、無水硫酸ナトリウムを加えて室温放置し、脱水した。ロータリーエバポレーターで低沸点部を留去し、目的物である塩化(メタクリロイルエチル)トリメチルアンモニウムVA−1を得た。収量3.3g(160mmoL); 収率 80.0%; GC−MS M/Z 207
【0029】
<層状ケイ酸塩へのインターカレーション1>
20mL容ビーカーに、1,4−ジオキサン4.15mLと蒸留水0.83mLを入れ、塩化(メタクリロイルエチル)トリメチルアンモニウム0.415g(2.00mmoL)を加え、5分間室温攪拌し溶液とした(A)。別の200mL容ビーカーに蒸留水100mLを入れ、これに層状ケイ酸塩(クニミネ工業株式会社製「クニピアF」)2.00g(Na当量0.1moL/100g)を少しずつ加え、室温で10分間攪拌し、分散液とした(B)。(B)に(A)を加えて混合し、室温で15時間攪拌した。反応の進行に従い、白色沈殿が生成し粘度が上昇した。反応液を8000rpmで30分間遠心分離後に液層を除き、そこへ蒸留水100mLを加え、室温で10分間撹拌した。この操作を3回繰り返した後、蒸留水200mLを加えて分散させ、凍結乾燥により精製することにより、目的物のインターカレートケイ酸塩化合物VC−1を調製した。収量1.99g。
【0030】
前記インターカレートケイ酸塩化合物VC−1の熱重量減少を室温から1000℃の昇温過程で測定したところ、780度付近に4.7重量%の減少が観測された。このことから、前記インターカレートケイ酸塩化合物VC−1は、有機部が約5重量%、無機部が95重量%からなる有機・無機複合体であることがわかった。
【0031】
<層状ケイ酸塩へのインターカレーション2>
また、層状ケイ酸塩をコープケミカル社製「ルーセンタイトSWN」にして同様に処理し、インターカレートケイ酸塩化合物VC−2を調製した。収量2.05g。
【0032】
前記インターカレートケイ酸塩化合物VC−2の熱重量減少を室温から1000℃の昇温過程で測定したところ、780℃付近に4.3重量%の減少が観測された。このことから、前記インターカレートケイ酸塩化合物VC−2は、有機部が約4重量%、無機部が96重量%からなる有機・無機複合体であることがわかった。
【0033】
<有機・無機ハイブリッド材料の合成>
20mL容バイアルびんに、メタクリル酸メチル1.00g(10mmoL)を入れ、前記インターカレートケイ酸塩化合物VC−2 0.01g(1.0重量%)を少量ずつ攪拌しながら添加した。光重合開始剤ダロキュア5.00mg(0.5重量%)を添加し、室温で5分攪拌した後、反応液を型に流し入れ、メタルハロゲンランプにて1分間光照射し、目的物である有機・無機ハイブリッド材料VCM−1を得た。
【0034】
前記の有機・無機ハイブリッド材料VCM−1の熱重量減少を、室温から1000℃の昇温過程で測定したところ、300から400℃付近の重量減少の他に、780℃付近に0.83%の重量減少が観測された。
【0035】
前記の有機・無機ハイブリッド材料VCM−1の熱重量変化(線膨張係数)を室温から200℃の昇温過程で測定したところ、0.344%(45.3ppm)であった。
【0036】
前記の有機・無機ハイブリッド材料VCM−1の透過率およびヘーズを測定したところ、92.49%および2.91%(膜厚65μm)であった。
【0037】
前記の有機・無機ハイブリッド材料VCM−1を透過型電子顕微鏡で観察したところ、ケイ酸塩が均一に分散しており、その周囲を有機ポリマーと推定される部分で完全に覆われていることが観察された(図1)。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の有機・無機ハイブリッド材料は、特に、インターカレートケイ酸塩化合物の4つの置換基全ての主鎖が短いことを特徴としており、そのことにより樹脂との相溶性を維持した、透明かつ熱寸法安定性に優れた自立膜としての応用が期待できる。具体的な応用分野としては、光学材料、電子材料が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される重合性置換基を有する四級アンモニウム塩をインターカレートしたケイ酸塩化合物を重合性単量体と共重合した、有機・無機ハイブリッド材料
【化1】

ここに、R1、R2はメチル基である。R3は、炭素原子数1〜3の直鎖状、分岐状のアルキル鎖もしくはフェニル基から独立して選択される。Aは、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、エポキシ基もしくはビニルエーテル基を末端に有するメチレン鎖、またはアクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、エポキシ基もしくはビニルエーテル基を末端に有するエチレン鎖であり、Xはハロゲン原子である。
【請求項2】
請求項1記載の式(1)中のAの前記エポキシ基が、グリシドキシ基または式(2)で表される基であることを特徴とする請求項1に記載の有機・無機ハイブリッド材料。
【化2】

【請求項3】
前記四級アンモニウム塩をインターカレートしたケイ酸塩化合物と共重合する前記重合性単量体は、ラジカル重合可能な重合性単量体であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機無機ハイブリッド材料。

【図1】
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【公開番号】特開2011−178872(P2011−178872A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43684(P2010−43684)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年9月1日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集58巻2号」に発表
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】