説明

有機光電変換材料および有機薄膜光電変換素子

【課題】各種化学修飾、および塗布成膜が可能で、光電変換性能の高い光電変換材料を提供する。また、高性能な有機薄膜光電変換素子を提供する。
【解決手段】
下記一般式1で表される分子量250以上800以下の有機薄膜光電変換素子用有機光電変換材料及び該有機光電変換材料を有する光電変換素子。
【化1】


(式中、Aは電子求引性原子団、R〜Rは各々、水素原子または置換基、Lは2価のπ共役置換基、Dは電子供与性芳香族置換基、XはO、S、N−Rのいずれかを表す。Rは水素原子または置換基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の化学構造を有する有機光電変換材料、および該光電変換材料を用いてなる高性能な有機薄膜光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ユビキタスな情報社会を迎え、いつでもどこでも使用できる情報端末が求められている。そのため、フレキシブルかつ軽量で安価な電子デバイスが望まれているが、従来のシリコンのような無機半導体材料を用いた電子デバイスでは、これらの要望に十分に対応できていない。そこで、近年、これらの要望に対応可能な有機半導体材料を用いた電子デバイスの研究が活発になされている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
有機半導体材料を薄膜化し、光電変換材料として用ることにより、有機薄膜光電変換素子が得られる。有機薄膜光電変換素子は、光によって発生する電荷(キャリア)をエネルギーとして取り出すことにより太陽電池(有機薄膜太陽電池)として利用することができ(非特許文献3)、電気信号として取り出すことにより光センサ(固体撮像素子など)として利用することができる(特許文献1〜3)。
【0004】
光電変換材料として有機半導体材料を用いるメリットとして、塗布成膜により、大面積の素子を低コストで生産できること、光電変換材料を化学修飾することにより素子特性(例えば光電変換波長)のチューニングが可能であるということが挙げられる。しかしながら、これまでに有機光電変換材料として高い性能を示すものはフタロシアニン類、フラーレン誘導体、導電性ポリマー、ペリレンテトラカルボン酸誘導体など、ごく一部に限られており、これらはいずれも溶解性を付与するのが困難であったり、化学修飾の可能性が限られているなど、上記の有機半導体材料のメリットを生かしきれていなかった。したがって、塗布成膜が可能であり、化学修飾の可能性が幅広く、有機薄膜光電変換素子にしたときに高い性能を示す光電変換材料の開発が求められている。
【0005】
現在、最も良好な特性を示す有機薄膜光電変換素子としては、P3HT(ポリ(3−ヘキシルチオフェン))とPCBM([6,6]−フェニル−C61−酪酸メチルエステル)のブレンド膜を光電変換膜とした素子が挙げられる。この素子は高い光電変換性能を示すが、それでもなお従来のシリコン太陽電池に比べて性能が劣っており、より高い光電変換性能を示す素子の開発が望まれている(非特許文献3)。また、非特許文献4には、分子量800より大きな有機光電変換素子用光電変換材料が記載されているが、これらの光電変換材料では光電変換能が不十分であった。
【特許文献1】特開2003−234460号公報
【特許文献2】特開2003−332551号公報
【特許文献3】特開2005−268609号公報
【非特許文献1】Chemical Reviews,2007,107,1296−1323
【非特許文献2】「Organic Field−Effect Transistors」(2007年刊、CRC Press)159−228頁
【非特許文献3】Chemical Reviews,2007,107,1324−1338
【非特許文献4】J.Phys.Chem.C,2007,111,8661
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、その目的は塗布成膜が可能であり、各種化学修飾も可能で、高性能な有機光電変換材料を提供すること、および該有機光電変換材料を用いた高性能な有機薄膜光電変換素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、鋭意検討を行った結果、上記課題を解決する手段として、以下のような光電変換材料の選択、および該光電変換材料を用いた高性能な有機薄膜光電変換素子を見出した。
【0008】
(1) 下記一般式1で表される分子量250以上800以下の有機薄膜光電変換素子用有機光電変換材料。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Aは電子求引性原子団、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子または置換基、Lは2価のπ共役置換基、Dは電子供与性芳香族置換基、XはO、S、N−Rのいずれかを表す。Rは水素原子または置換基を表す。)
(2) 前記一般式1において、Dで表される電子供与性芳香族置換基がN,N−二置換アニリンの部分構造を有する(1)に記載の光電変換材料。
(3) 前記一般式1が下記一般式2で表される(2)に記載の光電変換材料。
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R〜R17は水素原子または置換基、Lは2価のπ共役置換基、XはO、S、N−Rのいずれかを表す。Rは水素原子または置換基を表す。)
上記(1)〜(3)に記載の前記光電変換材料が昇華精製されたものが好ましい。
(4) 2つの電極層と有機薄膜光電変換層を有してなる有機薄膜光電変換素子であって、(1)〜(3)のいずれかに記載の有機光電変換材料を光電変換層に用いた有機薄膜光電変換素子。
(5) 前記光電変換層が(1)〜(3)のいずれかに記載の有機光電変換材料と、n型有機半導体材料とを含んでなる請求項4に記載の光電変換素子。
(6) 前記光電変換層が、(1)〜(3)のいずれかに記載の有機光電変換材料と、n型有機半導体材料を含むブレンド膜を有してなる請求項5に記載の有機薄膜光電変換素子。
(7) 前記n型有機半導体材料がフラーレン誘導体、フタロシアニン類、ナフタレンテトラカルボン酸誘導体、ペリレンテトラカルボン酸誘導体よりなる群のいずれかから選ばれる(5)または(6)に記載の有機薄膜光電変換素子。
(8) 前記n型有機半導体材料がフラーレン誘導体である(5)〜(7)のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子。
(9) 前記光電変換層の成膜方法が溶液塗布法(湿式プロセス)である(4)〜(8)のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子。湿式プロセスがスピンコート法であることが好ましい。
(10) 前記溶液塗布における溶媒が沸点135℃以上300℃未満の溶媒を少なくとも一種含む(9)に記載の有機薄膜光電変換素子。
(11) 前記電極層のうちの1つと有機光電変換層との間に導電性ポリマーを含むバッファ層を有する(4)〜(10)のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子。
(12) 素子作製後に不活性雰囲気下で封止された(4)〜(11)のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、各種化学修飾、および塗布成膜が可能な有機光電変換材料が得られる。また、該有機光電変換材料を用いることで、高性能な、特に高い光電変換能を有する有機薄膜光電変換素子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で用いる有機光電変換材料(以下、「本発明の有機光電変換材料」ともいう)は分子量が250以上800以下、より好ましくは300以上800以下、更に好ましくは400以上800以下である。良質な薄膜を得るため、分子量は250以上であることが好ましい。また、有機半導体材料において、材料の純度が素子性能に大きく影響することが知られているが、一般に、分子量が大きくなると、溶解性の低下や昇華性の低下を招き、成膜や高純度化が困難になる。本発明者らの検討によると、後述の一般式1で表される材料では、分子量を800以下とすることで、再結晶や各種カラムクロマトグラフィーなどの湿式精製法、昇華精製などの乾式精製法を組み合わせることが可能となり、高純度化が可能である。特に、昇華精製は有機半導体材料の精製において効果的な精製法であり、昇華精製により精製前のものより素子性能が向上することが多い。また、本発明の光電変換材料は、昇華性が良好であるため、蒸着成膜にも適している。
【0015】
本発明で用いられる一般式1で表される有機光電変換材料について詳細に記載する。
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、Aは電子求引性原子団、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子または置換基、Lは2価のπ共役置換基、Dは電子供与性置換基、XはO、S、N−Rのいずれかを表す。Rは水素原子または置換基を表す。)
【0018】
分子量250以上800以下の一般式1で表される光電変換材料では、電子求引性部位と電子供与性部位がπ共役系で連結されていることにより、電荷分離が起こりやすく、電子輸送能とホール輸送能を併せ持った、優れた光電変換材料となる。これらの各部位の構造を選択することで、各種光電変換材料としての性能(分光感度特性、暗時の電流量等)を制御することができる。
【0019】
一般式1中、Aは電子求引性原子団を示す。電子求引性原子団とは、本発明では結合位置の原子に少なくとも一つ電子求引基が結合した原子団を表す。電子求引基としては特に制限はなく、例えば、Chem.Rev.,1991年,91卷,165頁に記載されている置換基のうちHammet値が正の値のものが挙げられ、例としてはハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、パーフルオロアルキル基、−CO−R’、−CO−CO−R’、−SO−R’、−SO−R’、−C(=N−R”)−R’、−S(=NR”)−R’、−S(=NR”)−R’、−P(=O)R’、−O−R’’’、−S−R’’’、−N(−R”)−CO−R’、−N(−R”)−SO−R’、−N(−R”)−SO−R’、−N(−R”)−C(=N−R”)−R’、−N(−R”)−S(=NR”)−R’、および−N(−R”)−P(=O)R’で表される基が挙げられる。ここでR’は水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アミノ基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、ヒドロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、またはメルカプト基を表す。具体的には、後述のWのうち、これらの置換基の例として示したものが挙げられる。R”は水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アシル基、スルホニル基、スルフィニル基、またはホスホリル基を表す。具体的には、後述のWのうち、これらの置換基の例として示したものが挙げられる。R’’’はパーフルオロアルキル基、シアノ基、アシル基、スルホニル基、またはスルフィニル基を表す。具体的には、後述のWのうち、これらの置換基の例として示したものが挙げられる。光電変換能と溶解性、昇華精製適性の観点から、Aとして、好ましくは炭素数1〜30のものであり、より好ましくは炭素数1〜20のものであり、さらに好ましくは炭素数1〜13のものである。Aの特に好ましい具体例を下記に示すが、本発明はこれらに限定されない。*は結合位置を示す。
【0020】
【化4】

【0021】
一般式1中、XはO、S、N−Rのいずれかを表す。これらの中で、O、Sの場合がより好ましく、Oの場合が最も好ましい。XがN−Rの場合、Rは水素原子または置換基を表し、置換基としては後述のWの中から選ぶことができる。光電変換能と溶解性、昇華精製適性の観点から、Rとして好ましくは、炭素数1〜20のものであり、より好ましくは炭素数1〜10のものであり、さらに好ましくは炭素数1〜6のものである。アルキル基、アリール基、ヘテロ環基のいずれかであることが特に好ましい。
【0022】
前記A−1〜A−12のうち、A−1、A−3が特に好ましく、A−1が最も好ましい。
【0023】
一般式1中、Dは電子供与性芳香族置換基を表す。電子供与性芳香族置換基とは、無置換のベンゼン環と比べて電子密度が高い芳香族置換基であり、ベンゼンと比べてより酸化が起こりやすく、還元が起こりにくい芳香族置換基と定義する。光電変換能と溶解性、昇華精製適性の観点から、Dで表される構造として、好ましくは炭素数3〜30のものであり、より好ましくは炭素数6〜20のものである。光電変換能の観点からDで表される構造として、好ましくはN,N−二置換アニリンの部分構造を含むものであり、より好ましくはトリフェニルアミン構造を部分構造として含むものである。特に好ましい具体例を下記に示す。ただし、本発明はこれらに限定されない。*は結合位置を示す。
【0024】
【化5】

【0025】
前記D−1〜D−15中、D−1、D−5、D−6、D−7、D−8、D−15が特に好ましく、D−5、D−6が最も好ましい。
【0026】
一般式1中、Lは2価のπ共役置換基を表す。2価のπ共役置換基とは、本発明では2箇所の結合部分の間でπ共役系がつながっている置換基を表す。具体的には、後述のWのうち、これに該当するものが挙げられる。光電変換能と溶解性、昇華精製適性の観点から、2価のπ共役置換基として、好ましくは炭素数2〜30のものであり、より好ましくは炭素数2〜20のものであり、さらに好ましくは炭素数2〜12のものである。Lの特に好ましい具体例を下記に示すが、本発明はこれらに限定されない。*は結合位置を示す。
【0027】
【化6】

【0028】
前記L−1〜L−12のうち、L−1、L−2、L−3、L−4が特に好ましく、L−1、L−2が最も好ましい。
【0029】
一般式1中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子または置換基を示す。置換基としては後述のWの中から選ぶことができる。これらの置換基により、塗布成膜性や分光感度特性、膜の抵抗値(暗時の電流量)等を制御することができる。R〜Rとして、好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基のいずれかであり、より好ましくは水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基のいずれかであり、最も好ましくは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基のいずれかである。なお、RとRで共同して環構造を形成する場合も好ましい。また、R〜RのいずれかがL−D(LおよびDは一般式1中のものと同義)の構造となっているもの、すなわちL−Dの構造を分子内に2つ以上有するものも、光電変換能が高く、好ましい。
【0030】
一般式1で表される有機光電変換材料は、一般式2で表される構造であることがさらに好ましい。
【0031】
【化7】

【0032】
式中、Xは一般式1におけるものと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0033】
式中、R〜Rは一般式1におけるものと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0034】
〜R17はそれぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。置換基は後述のWから選ぶことができる。R〜R17として好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基のいずれかであり、より好ましくは水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基のいずれかであり、最も好ましくは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基のいずれかである。なお、複数のR〜R17で共同して環構造を形成する場合も好ましく、例えば、RとR、RとR10、R13とR14、R14とR15、RとR13、RとR12、RとR17がそれぞれ環を形成する場合が挙げられる。
【0035】
本発明において、置換基の特定の部分を「基」と称した場合には、当該部分の基はそれ自体が置換されていなくてもよく、また、一種以上の(可能な最多数までの)別の置換基でさらに置換されていても良いことを意味する。例えば、「アルキル基」とは置換または無置換のアルキル基を意味する。つまり、本発明における化合物における置換基はさらに置換されていても良い。
【0036】
このような置換基をWとすると、Wで示される置換基としてはいかなるものでも良く、特に制限は無いが、例えば、ハロゲン原子、アルキル基(直鎖もしくは分岐アルキル基のほか、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、トリシクロアルキル基を含む)、アルケニル基(直鎖もしくは分岐アルケニル基のほか、シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基を含む)、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アニリノ基を含む)、アンモニオ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基、アルキルおよびアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリールおよびヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、ホスホノ基、シリル基、ヒドラジノ基、ウレイド基、ボロン酸基(−B(OH))、ホスファト基(−OPO(OH))、スルファト基(−OSOH)、その他の公知の置換基が例として挙げられる。
【0037】
さらに詳しくは、Wは下記の(1)〜(48)などを表す。
(1)ハロゲン原子
例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子
【0038】
(2)アルキル基
直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルキル基を表す。それらは、(2−a)〜(2−e)なども包含するものである。
【0039】
(2−a)アルキル基
好ましくは炭素数1から30のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、n−オクチル、エイコシル、2−クロロエチル、2−シアノエチル、2−エチルヘキシル)
【0040】
(2−b)シクロアルキル基
好ましくは、炭素数3から30の置換または無置換のシクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル、シクロペンチル、4−n−ドデシルシクロヘキシル)
【0041】
(2−c)ビシクロアルキル基
好ましくは、炭素数5から30の置換もしくは無置換のビシクロアルキル基(例えば、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン−2−イル、ビシクロ[2,2,2]オクタン−3−イル)
【0042】
(2−d)トリシクロアルキル基
好ましくは、炭素数7から30の置換もしくは無置換のトリシクロアルキル基(例えば、1−アダマンチル)
【0043】
(2−e)さらに環構造が多い多環シクロアルキル基
なお、以下に説明する置換基の中のアルキル基(例えばアルキルチオ基のアルキル基)はこのような概念のアルキル基を表すが、さらにアルケニル基、アルキニル基も含むこととする。
【0044】
(3)アルケニル基
直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルケニル基を表す。それらは、(3−a)〜(3−c)を包含するものである。
【0045】
(3−a)アルケニル基
好ましくは炭素数2から30の置換または無置換のアルケニル基(例えば、ビニル、アリル、プレニル、ゲラニル、オレイル)
【0046】
(3−b)シクロアルケニル基
好ましくは、炭素数3から30の置換もしくは無置換のシクロアルケニル基(例えば、2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル)
【0047】
(3−c)ビシクロアルケニル基
置換または無置換のビシクロアルケニル基、好ましくは、炭素数5から30の置換もしくは無置換のビシクロアルケニル基(例えば、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−1−イル、ビシクロ[2,2,2]オクト−2−エン−4−イル)
【0048】
(4)アルキニル基
好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換のアルキニル基(例えば、エチニル、プロパルギル、トリメチルシリルエチニル基)
【0049】
(5)アリール基
好ましくは、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリール基(例えばフェニル、p−トリル、ナフチル、m−クロロフェニル、o−ヘキサデカノイルアミノフェニル、フェロセニル)
【0050】
(6)ヘテロ環基
好ましくは、5または6員の置換もしくは無置換の、芳香族もしくは非芳香族のヘテロ環化合物から一個の水素原子を取り除いた一価の基であり、さらに好ましくは、炭素数2から50の5もしくは6員の芳香族のヘテロ環基である。
(例えば、2−フリル、2−チエニル、2−ピリミジニル、2−ベンゾチアゾリル。なお、1−メチル−2−ピリジニオ、1−メチル−2−キノリニオのようなカチオン性のヘテロ環基でも良い)
【0051】
(7)シアノ基
【0052】
(8)ヒドロキシ基
【0053】
(9)ニトロ基
【0054】
(10)カルボキシ基
【0055】
(11)アルコキシ基
【0056】
好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、t−ブトキシ、n−オクチルオキシ、2−メトキシエトキシ)
【0057】
(12)アリールオキシ基
好ましくは、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールオキシ基(例えば、フェノキシ、2−メチルフェノキシ、4−t−ブチルフェノキシ、3−ニトロフェノキシ、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ)
【0058】
(13)シリルオキシ基
好ましくは、炭素数3から30のシリルオキシ基(例えば、トリメチルシリルオキシ、t−ブチルジメチルシリルオキシ)
【0059】
(14)ヘテロ環オキシ基
好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換のヘテロ環オキシ基(例えば、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ、2−テトラヒドロピラニルオキシ)
【0060】
(15)アシルオキシ基
好ましくはホルミルオキシ基、炭素数2から30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルオキシ基(例えば、ホルミルオキシ、アセチルオキシ、ピバロイルオキシ、ステアロイルオキシ、ベンゾイルオキシ、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ)
【0061】
(16)カルバモイルオキシ基
好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のカルバモイルオキシ基(例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ、モルホリノカルボニルオキシ、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ、N−n−オクチルカルバモイルオキシ)
【0062】
(17)アルコキシカルボニルオキシ基
好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニルオキシ基(例えばメトキシカルボニルオキシ、エトキシカルボニルオキシ、t−ブトキシカルボニルオキシ、n−オクチルカルボニルオキシ)
【0063】
(18)アリールオキシカルボニルオキシ基
好ましくは、炭素数7から30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基(例えば、フェノキシカルボニルオキシ、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ)
【0064】
(19)アミノ基
好ましくは、アミノ基、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルキルアミノ基、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアニリノ基(例えば、アミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ、N−メチル−アニリノ、ジフェニルアミノ)
【0065】
(20)アンモニオ基
好ましくは、アンモニオ基、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルキル、アリール、ヘテロ環が置換したアンモニオ基(例えば、トリメチルアンモニオ、トリエチルアンモニオ、ジフェニルメチルアンモニオ)
【0066】
(21)アシルアミノ基
好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルアミノ基(例えば、ホルミルアミノ、アセチルアミノ、ピバロイルアミノ、ラウロイルアミノ、ベンゾイルアミノ、3,4,5−トリ−n−オクチルオキシフェニルカルボニルアミノ)
【0067】
(22)アミノカルボニルアミノ基
好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアミノカルボニルアミノ(例えば、カルバモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ、モルホリノカルボニルアミノ)
【0068】
(23)アルコキシカルボニルアミノ基
好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ、エトキシカルボニルアミノ、t−ブトキシカルボニルアミノ、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ、N−メチルーメトキシカルボニルアミノ)
【0069】
(24)アリールオキシカルボニルアミノ基
好ましくは、炭素数7から30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基(例えば、フェノキシカルボニルアミノ、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ、m−n−オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ)
【0070】
(25)スルファモイルアミノ基
好ましくは、炭素数0から30の置換もしくは無置換のスルファモイルアミノ基(例えば、スルファモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノ)
【0071】
(26)アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基
好ましくは,炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルキルスルホニルアミノ、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールスルホニルアミノ(例えば、メチルスルホニルアミノ、ブチルスルホニルアミノ、フェニルスルホニルアミノ、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ、p−メチルフェニルスルホニルアミノ)
【0072】
(27)メルカプト基
【0073】
(28)アルキルチオ基
好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルキルチオ基(例えばメチルチオ、エチルチオ、n−ヘキサデシルチオ)
【0074】
(29)アリールチオ基
好ましくは、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールチオ(例えば、フェニルチオ、p−クロロフェニルチオ、m−メトキシフェニルチオ)
【0075】
(30)ヘテロ環チオ基
好ましくは、炭素数2から30の置換または無置換のヘテロ環チオ基(例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ)
【0076】
(31)スルファモイル基
好ましくは、炭素数0から30の置換もしくは無置換のスルファモイル基(例えば、N−エチルスルファモイル、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル、N,N−ジメチルスルファモイル、N−アセチルスルファモイル、N−ベンゾイルスルファモイル、N−(N’−フェニルカルバモイル)スルファモイル)
【0077】
(32)スルホ基
【0078】
(33)アルキルもしくはアリールスルフィニル基
好ましくは、炭素数1から30の置換または無置換のアルキルスルフィニル基、炭素数6から30の置換または無置換のアリールスルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル、エチルスルフィニル、フェニルスルフィニル、p−メチルフェニルスルフィニル)
【0079】
(34)アルキルもしくはアリールスルホニル基
好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルキルスルホニル基、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、フェニルスルホニル、p−メチルフェニルスルホニル)
【0080】
(35)アシル基
好ましくは、ホルミル基、炭素数2から30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基、炭素数7から30の置換もしくは無置換のアリールカルボニル基、炭素数4から30の置換もしくは無置換の炭素原子でカルボニル基と結合しているヘテロ環カルボニル基(例えば、アセチル、ピバロイル、2−クロロアセチル、ステアロイル、ベンゾイル、p−n−オクチルオキシフェニルカルボニル、2−ピリジルカルボニル、2−フリルカルボニル)
【0081】
(36)アリールオキシカルボニル基
好ましくは、炭素数7から30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル、o−クロロフェノキシカルボニル、m−ニトロフェノキシカルボニル、p−t−ブチルフェノキシカルボニル)
【0082】
(37)アルコキシカルボニル基
好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、n−オクタデシルオキシカルボニル)
【0083】
(38)カルバモイル基
好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のカルバモイル(例えば、カルバモイル、N−メチルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル、N−(メチルスルホニル)カルバモイル)
【0084】
(39)アリールおよびヘテロ環アゾ基
好ましくは、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールアゾ基、炭素数2から30の置換もしくは無置換のヘテロ環アゾ基(例えば、フェニルアゾ、p−クロロフェニルアゾ、5−エチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−2−イルアゾ)
【0085】
(40)イミド基
好ましくは、N−スクシンイミド、N−フタルイミド
【0086】
(41)ホスフィノ基
好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換のホスフィノ基(例えば、ジメチルホスフィノ、ジフェニルホスフィノ、メチルフェノキシホスフィノ)
【0087】
(42)ホスフィニル基
好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換のホスフィニル基(例えば、ホスフィニル、ジオクチルオキシホスフィニル、ジエトキシホスフィニル)
【0088】
(43)ホスフィニルオキシ基
好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換のホスフィニルオキシ基(例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ)
【0089】
(44)ホスフィニルアミノ基
好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換のホスフィニルアミノ基(例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ、ジメチルアミノホスフィニルアミノ)
【0090】
(45)ホスホ基
【0091】
(46)シリル基
好ましくは、炭素数3から30の置換もしくは無置換のシリル基(例えば、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリイソプロピルシリル、t−ブチルジメチルシリル、フェニルジメチルシリル)
【0092】
(47)ヒドラジノ基
好ましくは炭素数0から30の置換もしくは無置換のヒドラジノ基(例えば、トリメチルヒドラジノ)
【0093】
(48)ウレイド基
好ましくは炭素数0から30の置換もしくは無置換のウレイド基(例えばN,N−ジメチルウレイド)
【0094】
また、2つのWが共同して環を形成することもできる。このような環としては芳香族、または非芳香族の炭化水素環、またはヘテロ環や、これらがさらに組み合わされて形成された多環縮合環が挙げられる。例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、トリフェニレン環、ナフタセン環、ビフェニル環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、インドリジン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、イソベンゾフラン環、キノリジン環、キノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、キノキサリン環、キノキサゾリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、フェナントリジン環、アクリジン環、フェナントロリン環、チアントレン環、クロメン環、キサンテン環、フェノキサチイン環、フェノチアジン環、およびフェナジン環が挙げられる。これらの中で好ましい環化合物はベンゼン環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピラジン環である。
【0095】
上記の置換基Wの中で、水素原子を有するものは、これを取り去りさらに上記の基で置換されていても良い。そのような置換基の例としては、−CONHSO−基(スルホニルカルバモイル基、カルボニルスルファモイル基)、−CONHCO−基(カルボニルカルバモイル基)、−SONHSO−基(スルフォニルスルファモイル基)が挙げられる。より具体的には、アルキルカルボニルアミノスルホニル基(例えば、アセチルアミノスルホニル)、アリールカルボニルアミノスルホニル基(例えば、ベンゾイルアミノスルホニル基)、アルキルスルホニルアミノカルボニル基(例えば、メチルスルホニルアミノカルボニル)、アリールスルホニルアミノカルボニル基(例えば、p−メチルフェニルスルホニルアミノカルボニル)が挙げられる。
【0096】
以下に一般式1または一般式2で表される本発明の光電変換材料の好ましい具体例を示す。ただし本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0097】
【化8】

【0098】
【化9】

【0099】
以下で本発明の有機光電変換材料について、さらに詳細に説明する。
【0100】
本発明における有機半導体材料とは、半導体の特性を示す有機材料のことであり、本発明においてはキャリア(正孔または電子)を輸送する能力を有する有機材料と言い換えてもよい。無機材料からなる半導体と同様に、正孔(ホール)をキャリアとして伝導するp型有機半導体材料(正孔輸送材料と言ってもよい)と、電子をキャリアとして伝導するn型有機半導体材料(電子輸送材料と言ってもよい)がある。有機光電変換材料とは、キャリア輸送能を有するとともに、光を照射することでキャリアを発生する能力を有する材料を表し、有機半導体材料の一種である。
【0101】
本発明の有機光電変換材料は、良質な薄膜を形成しやすく、薄膜としての利用に適している。薄膜の形成に際し、バインダー材料や他の有機半導体材料などと混合した膜として用いることも好ましいが、この場合、膜中に本発明の化合物を1質量%以上含有していることが好ましく、5質量%以上含有していることがより好ましく、10質量%以上含有していることがさらに好ましい。光電変換層の膜厚は、特に制限はないが、好ましくは1nm〜1μm、より好ましくは5nm〜500nmである。
【0102】
本発明の有機光電変換材料を含む薄膜を形成する方法は、いかなる方法でも良いが、乾式プロセスあるいは湿式プロセスにより成膜される。好ましくは湿式プロセスによる成膜である。乾式プロセス成膜の具体的な例としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、分子ビームエピタキシー(MBE)法などの物理気相成長法あるいはプラズマ重合などの化学気相蒸着(CVD)法が挙げられる。湿式プロセス成膜は、有機光電変換材料を溶解させることができる溶媒中に溶解させ、あるいは均一に分散した分散液とし、その溶液または分散液を用いて成膜する方法であり、具体的にはキャスト法、ブレードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、ディッピング(浸漬)コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法、インクジェット法、スピンコート法、Langmuir−Blodgett(LB)法などが挙げられ、キャスト法、スピンコート法およびインクジェット法を用いることが好ましく、スピンコート法を用いることがより好ましい。
【0103】
湿式プロセスを用いて有機光電変換層を形成する場合、有機光電変換材料、あるいはその材料とバインダー樹脂を適当な有機溶媒(例えば、ヘキサン、オクタン、デカン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1−メチルナフタレン、1,2−ジクロロベンゼンなどの炭化水素系溶媒、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミルなどのエステル系溶媒、例えば、メタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコールなどのアルコール系溶媒、例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソールなどのエーテル系溶媒、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、1−メチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシドなどの極性溶媒)および/または水に溶解、または分散させて塗布液とし、各種の塗布法により薄膜を形成することができる。溶媒はいかなるものでもよいが、高沸点のものを含む方が、揮発速度が遅くなり、形成される膜中での分子の配列秩序が高くなるため好ましい。溶媒として、沸点が135℃以上300℃未満のもの(さらに好ましくは135℃以上210℃未満のもの)を全溶媒中1質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。そのような溶媒としては、エチルセロソルブ(沸点135℃)、n−アミルアルコール(沸点137℃)、キシレン(沸点140℃)、酢酸アミル(沸点142℃)、β−ピコリン(沸点143℃)、1,1,2,2,テトラクロロエタン(沸点146℃)、N,N−ジメチルホルムアミド(沸点153℃)、1−ヘキサノール(沸点157℃)、o−クロロトルエン(沸点159℃)、ペンタクロロエタン(沸点162℃)、N,N−ジメチルアセトアミド(沸点165℃)、o−ジクロロベンゼン(沸点180℃)、ジメチルスルホキシド(沸点189℃)、エチレングリコール(沸点198℃)、1−メチル−2−ピロリドン(沸点202℃)、ニトロベンゼン(沸点211℃)、1,2,4−トリクロロベンゼン(沸点214℃)、キノリン(沸点238℃)、1−クロロナフタレン(沸点260℃)などが挙げられ、キシレン、β−ピコリン、o−クロロトルエン、o−ジクロロベンゼンが特に好ましい。塗布液中の本発明の光電変換材料の濃度は、好ましくは0.1〜80質量%、より好ましくは0.1〜30質量%、更に好ましくは0.1〜10質量%とすることにより、任意の厚さの膜を形成できる。
【0104】
樹脂バインダーを用いる場合、樹脂バインダーとしては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリスルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの絶縁性ポリマー、およびこれらの共重合体、ポリビニルカルバゾール、ポリシランなどの光伝導性ポリマー、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレンビニレンなどの導電性ポリマーを挙げることができる。樹脂バインダーは、単独で使用してもよく、あるいは複数併用しても良い。膜の機械的強度を考慮するとガラス転移温度の高い樹脂バインダーが好ましく、電荷移動度を考慮すると極性基を含まない構造の樹脂バインダーや光伝導性ポリマー、導電性ポリマーが好ましい。樹脂バインダーは使わない方が特性上好ましいが、目的によっては使用することもある。使う場合の樹脂バインダーの使用量は、特に制限はないが、有機光電変換層中、好ましくは0.1〜90質量%、より好ましくは0.1〜50質量%、さらに好ましくは0.1〜30質量%で用いられる。
【0105】
成膜の際、基板を加熱または冷却してもよく、基板の温度を変化させることで膜のモルフォロジーや分子配向状態を制御することが可能である。基板の温度としては特に制限はないが、0℃から200℃の間であることが好ましい。
【0106】
以下、本発明の有機薄膜光電変換素子の素子構成について詳細に説明する。
【0107】
図1は本発明の有機薄膜光電変換素子の構造を概略的に示す断面図である。図1の素子は積層構造を有するものであり、最下層に基板11を配置し、その上面に電極層12を設け、さらにその上層として本発明の光電変換材料を含む光電変換層13を設け、さらにその上面に電極層14を設けている。電極層12や14と光電変換層13との間には、図1中には表記されていないが、表面の平滑性を高めるバッファ層、ホールまたは電子の電極からの注入を促進するキャリア注入層、ホールまたは電子を輸送するキャリア輸送層、ホールまたは電子を阻止するキャリアブロック層など(1つの層が前記複数の役割を兼ねることもある)が含まれていてもよい。本発明においては、電極層と光電変換層との間に用いるこれらの層を、その役割によらず全てバッファ層という言葉で表すことにする。なお、電極層や各層は必ずしも平面でなくてもよく、大きな凹凸を有していたり、三次元的な形状(例えばくし型)であってもよい。
【0108】
基板11として用いる材料は、可視光または赤外光を透過するものであれば特に制限はない。可視光または赤外光の透過率は、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが最も好ましい。このような材料の例としては、ポリエチレンナフトエート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステルフイルム、ポリイミドフィルム、セラミック、シリコン、石英、ガラスなどが挙げられる。厚みは特に制限はない。
【0109】
電極層12として用いる材料は、可視光または赤外光を透過し、導電性を示すものであれば特に制限はない。可視光または赤外光の透過率は、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが最も好ましい。そのような材料としては、ITO、IZO、SnO、ATO(アンチモンドープ酸化スズ)、ZnO、AZO(Alドープ酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)、TiO、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)などの透明導電性酸化物が好ましく、プロセス適性や平滑性の観点からITOまたはIZOが特に好ましい。膜厚に制限はないが、1nm〜200nmであることが好ましく、5nm〜100nmであることがより好ましい。電極12が構造自立性を有するものである場合、基板11は必ずしも必要ではなく、電極12が基板11を兼ねる場合は、膜厚は前述の厚みより厚くてもよい。
【0110】
光電変換層13は、本発明の光電変換材料を含んでなる。本発明の光電変換材料からなる単一層でもよく、他の半導体材料を含む層との積層構造(この場合、積層の順番や積層数はいかなるものでもよい)でもよく、本発明の光電変換材料と他の半導体材料とをともに含む層(この場合、分子レベルで両者が完全に混ざり合っていても、何らかの相分離構造を形成していてもよい)であってもよい。ここで、用いる他の半導体材料としては、n型半導体材料であることが好ましく、本発明の光電変換材料とn型半導体材料とのブレンド膜を含む層を光電変換層として用いることが最も好ましい。
【0111】
本発明で用いるn型半導体材料としては、電子輸送性を有するものであれば有機半導体材料、無機半導体材料のうち、いかなるものでもよいが、好ましくはフラーレン誘導体、フタロシアニン類、ナフタレンテトラカルボン酸誘導体、ペリレンテトラカルボン酸誘導体、無機半導体であり、より好ましくはフラーレン誘導体、フタロシアニン類、ナフタレンテトラカルボン酸誘導体、ペリレンテトラカルボン酸誘導体であり、特に好ましくはフラーレン誘導体である。本発明において、フラーレン誘導体とは、置換または無置換のフラーレンを指し、フラーレンとしてはC60、C70、C76、C78、C80、C82、C84、C86、C88、C90、C96、C116、C180、C240、C540などのいずれでもよいが、好ましくは置換または無置換のC60、C70、C86であり、特に好ましくはPCBM([6,6]−フェニル−C61−酪酸メチルエステル)およびその類縁体(C60部分をC70、C86等に置換したもの、置換基のベンゼン環を他の芳香環、ヘテロ環に置換したもの、メチルエステルをn−ブチルエステル、i−ブチルエステル等に置換したもの)である。フタロシアニン類とは、置換または無置換のフタロシアニンおよびその類縁体を指し、フタロシアニン類縁体とは、各種金属のフタロシアニン以外に、テトラピラジノポルフィラジン、ナフタロシアニン、アントラシアニンなども含むものである。フタロシアニン類として、好ましくは電子求引基の結合したものであり、より好ましくはフッ素原子の置換したものである(F16CuPc、FPc−1など)。ナフタレンテトラカルボン酸誘導体としてはいかなるものでもよいが、好ましくはナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ナフタレンビスイミド誘導体(NTCDI)、ペリノン顔料(Pigment Orange 43、Pigment Red 194など)である。ペリレンテトラカルボン酸誘導体としてはいかなるものでもよいが、好ましくはペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、ペリレンビスイミド誘導体(PTCDI)、ベンゾイミダゾール縮環体(PV)である。n型有機半導体材料の特に好ましい例を下記に示す。
【0112】
【化10】

【0113】
バッファ層として用いられる材料はキャリアを輸送する能力のある材料であれば有機材料および無機材料のいかなるものを用いても良いが、好ましくはアモルファス性のものである。ホール輸送性のバッファ材料としてはいかなるものでもよいが、好ましくは導電性ポリマー(例えばPEDOT:PSS)、トリアリールアミン誘導体(例えばm−MTDATA)、無機半導体材料(例えばNiO)であり、特に好ましくは導電性ポリマーである。電子輸送性のバッファ材料としてはいかなるものでもよいが、好ましくは、n型有機半導体材料として前述のものの他に、金属錯体化合物(例えばAlq)、バソクプロイン、無機フッ化物(例えばLiF)、無機酸化物(例えばSiO、TiO、ZnO)、導電性ポリマー(例えばシアノ基を有するポリパラフェニレンビニレン(CN−PPV)、ペリノンポリマー(BBL))であり、より好ましくは、ナフタレン誘導体、バソクプロイン、無機フッ化物、無機酸化物である。
【0114】
電極層14として用いる材料は、前述のトランジスタのものと同様、導電性を示すものであれば特に制限はないが、光利用効率を高める観点からは、光反射性の高い材料が好ましく、Al、Pt、W、Au、Ag、Ta、Cu、Cr、Mo、Ti、Ni、Pd、Znが好ましく、Al、Pt、Au、Agがより好ましい。電極層14の膜厚は、特に制限はないが、1nm〜1μmであることが好ましく、5nm〜500nmであることがより好ましい。
【0115】
素子の保存性を高めるためには、素子が不活性雰囲気を保てるよう、封止することが好ましく、好ましい封止用材料としては金属、ガラス、窒化ケイ素、アルミナなどの無機材料、パリレンなどの高分子材料が挙げられる。封止の際に、乾燥剤等を封入してもよい。
【0116】
本発明の有機薄膜光電変換素子は、エネルギー変換用途(有機薄膜太陽電池)として用いてもよいし、光センサー(固体撮像素子等)として用いてもよい。光センサーとして用いる場合には、S/N比を向上させるため、電極12と電極14の間にバイアスを印加して信号を読み出すことが好ましく、この場合、光電変換層にかけるバイアスは1.0×10V/cm以上1.0×10V/cm以下であることが好ましい。有機薄膜光電変換素子を用いた固体撮像素子としては、特開2003−234460号公報、特開2003−332551号公報、特開2005−268609号公報などに詳細に記載されており、参考にできる。
【0117】
[実施例]
以下に本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した要旨内において様々な変形・変更が可能である。
【0118】
化合物1、化合物12、化合物26、化合物28はJ.Mater.Chem.,2002,12,1671.およびDyes Pigm.,2007,74,348−356.に記載の方法に準じて合成した。化合物8は、特開2000−351774に記載の方法に準じて合成した。PCBMはフロンティアカーボンより購入した。比較化合物のP3HT(regioregular、Mw〜87000)はAldrichより購入した。比較化合物のDCM−1(化8[化11])は、J.Phys.Chem.C,2007,111,8661に記載の方法により合成した。
【0119】
【化11】

【実施例1】
【0120】
化合物1(分子量469)、化合物8(分子量549)、化合物12(分子量496)、化合物26(分子量388)、化合物28(分子量694)の昇華精製を試みたところ、いずれも熱分解物が観測されることなく昇華精製可能だった。
[比較例1]
実施例1と同様の条件で比較化合物のDCM−1(分子量887)の昇華精製を試みたが、熱分解物を伴わずに昇華させることはできなかった。
【実施例2】
【0121】
ITO電極がパターニングされたガラス基板(2.5cm×2.5cm)を、イソプロピルアルコール中で超音波洗浄した後、乾燥した。さらに、ITO電極表面の有機汚染物質を除去するためにUVオゾン処理を30分間行った。次に、ITO基板上にPEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))/PSS(ポリスチレンスルホン酸)水溶液(BaytronP(標準品))をスピンコート(4000rpm、60秒間)し、120℃で10分間乾燥することにより、膜厚約50nmのバッファ層を形成させた。膜厚は、触針式膜厚計(DEKTAK6M)により測定した(以下同)。次いで、グローブボックス(窒素雰囲気)中で化合物1(昇華精製サンプル)、10mgおよびPCBM、10mgを1,2−ジクロロベンゼン(HPLCグレード)1mLに溶解させ、この溶液を5分間超音波照射した後、先のバッファ層の上に1000rpmでスピンコートし、厚さ200nm以下の厚みがほぼ均一な光電変換層を形成させた。この光電変換層の上に、アルミニウムを80nmの厚さになるように真空蒸着することにより金属電極を形成させた。最後に、グローブボックス(窒素雰囲気中)でガラス製の封止缶とUV硬化樹脂を用いて封止することにより、有効面積0.04cmの有機薄膜光電変換素子を得た。
【0122】
この素子にソーラーシミュレータ(Oriel社製、150W簡易型)を用いてAM1.5、100mW/cmの擬似太陽光を照射し、電気化学アナライザー(BAS社製、ALSモデル660B)を用いて電流−電圧特性を測定したところ、図2に示すように優れた太陽電池特性を示した。短絡電流(Jsc)=3.6mA/cm、開放電圧(VOC)=0.74V、エネルギー変換効率(η)=0.82%であった。
【0123】
化合物1の代わりに化合物8、化合物12、化合物26、化合物28、および化合物1の昇華精製前のサンプルを用いた以外は全く同様に作製した素子も実施例1の素子と同様に優れた光電変換特性を表1に示した。化合物1の昇華精製前のサンプルでも高い光電変換特性を示したが、昇華精製後のサンプルと比較して光電変換性能が低かった。なお、素子作製時の誤差により、短絡電流には10%程度の誤差が生じ得る。
【0124】
[比較例2]
化合物1の代わりにP3HTまたはDCM−1を用いる以外は全く同様にして作製し、全く同様の条件で評価した素子の太陽電池特性は、表1に示すように、いずれも本発明の素子と比べて光電変換性能が低かった。
表1
【0125】
【表1】

【0126】
以上の例から明らかなように、本発明の有機光電変換材料は昇華精製が可能であり、昇華精製により光電変換性能が向上し、本発明の有機薄膜光電変換材料を用いた素子は高い光電変換性能を示す。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本発明の有機薄膜光電変換素子の構造を概略的に示す断面図である。
【図2】化合物1を用いた本発明の有機薄膜光電変換素子の暗時および擬似太陽光(AM1.5G、100mW/cm)照射時の電流−電圧特性を示す図である。
【符号の説明】
【0128】
11 基板
12 電極層
13 光電変換層
14 電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式1で表される分子量250以上800以下の有機薄膜光電変換素子用有機光電変換材料。
【化1】

(式中、Aは電子求引性原子団、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子または置換基、Lは2価のπ共役置換基、Dは電子供与性芳香族置換基、XはO、S、N−Rのいずれかを表す。Rは水素原子または置換基を表す。)
【請求項2】
前記一般式1において、Dで表される電子供与性芳香族置換基がN,N−二置換アニリンの部分構造を有する請求項1に記載の光電変換材料。
【請求項3】
前記一般式1が下記一般式2で表される請求項2に記載の光電変換材料。
【化2】

(式中、R〜R17は水素原子または置換基、Lは2価のπ共役置換基、XはO、S、N−Rのいずれかを表す。Rは水素原子または置換基を表す。)
【請求項4】
2つの電極層と有機薄膜光電変換層を有してなる有機薄膜光電変換素子であって、請求項1〜3のいずれかに記載の有機光電変換材料を光電変換層に用いた有機薄膜光電変換素子。
【請求項5】
前記光電変換層が請求項1〜3のいずれかに記載の有機光電変換材料と、n型有機半導体材料とを含んでなる請求項4に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記光電変換層が、請求項1〜3のいずれかに記載の有機光電変換材料と、n型有機半導体材料を含むブレンド膜を有してなる請求項5に記載の有機薄膜光電変換素子。
【請求項7】
前記n型有機半導体材料がフラーレン誘導体、フタロシアニン類、ナフタレンテトラカルボン酸誘導体、ペリレンテトラカルボン酸誘導体よりなる群のいずれかから選ばれる請求項5または6に記載の有機薄膜光電変換素子。
【請求項8】
前記n型有機半導体材料がフラーレン誘導体である請求項5〜7のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子。
【請求項9】
前記光電変換層の成膜方法が溶液塗布法である請求項4〜8のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子。
【請求項10】
前記溶液塗布における溶媒が沸点135℃以上300℃未満の溶媒を少なくとも一種含む請求項9に記載の有機薄膜光電変換素子。
【請求項11】
前記電極層のうちの1つと有機光電変換層との間に導電性ポリマーを含むバッファ層を有する請求項4〜10のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子。
【請求項12】
素子作製後に不活性雰囲気下で封止された請求項4〜11のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−215260(P2009−215260A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62955(P2008−62955)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】