説明

有機光電変換素子、及びその製造方法

【課題】高い光電変換効率で、フレキシブルタイプとした場合の優れた曲げ耐性を有する有機光電変換素子を提供するとともに、透明電極と有機層を塗布で製造することで製造コストを大幅に軽減できる有機光電変換素子の製造方法を提供する。
【解決手段】透明基板11上に少なくとも第1電極12、光電変換層14、第2電極13をそれぞれ有する有機光電変換素子10において、該第1電極12と該光電変換層14の間に湿式法により形成されたp型金属酸化物からなる電子ブロック層15が設けられていることを特徴とする有機光電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機光電変換素子に関するものであり、特に電子ブロック層を有することで優れた発電効率、及びフレキシブルタイプとした場合の優れた折り曲げ耐性を有する有機光電変換素子、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機光電変換素子からなる有機薄膜太陽電池は、塗布法で形成できることから大量生産に適した太陽電池として注目され、多くの研究機関で盛んに研究がなされている。有機薄膜太陽電池は電子ドナー材料と電子アクセプター材料を混合した、所謂バルクヘテロジャンクション構造によって、課題だった電荷分離効率を向上させている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
近年では光電変換効率は5〜6%台まで向上してきており、実用化に向けた研究がより活発化してきた分野と言える。しかしながら、今後の実用化に向けた有機光電変換素子においては、より高い効率で発電する有機光電変換素子の開発が望まれている。
【0004】
また、有機薄膜太陽電池は蒸着プロセスばかりではなく、塗布プロセスを用いることでも製造可能であり、フレキシブル基板を用いた場合には、所謂ロール・ツー・ロールプロセスによって、従来のシリコン系太陽電池では実現し得ない製造コストで安価な太陽電池を製造することが期待されている。しかしながら、現在使用されている有機半導体などの材料においては、真空下もしくは窒素雰囲気下で所望の機能層を形成する必要があるものが多く、大気圧下で機能層を形成する材料、方法が実用化に向けた大きな課題のひとつになっている。
【0005】
前述のように、バルクヘテロジャンクション構造を用いることで電荷分離効率は改良されるものの、有機系材料の電荷移動度は小さいために実際には膜厚を薄くせざるを得ないのが実情である。光電変換層の膜厚を薄くすると、電極間の距離が短くなることで短絡によるリークを生じやすくなり、逆電荷輸送が起こりやすくなる。
【0006】
これまでに有機光電変換素子の層設計においては、陰極である第2電極と光電変換層となる活性層との間にエレクトロンを選択的に通しやすく、ホールを通しにくくするホールブロック層を導入することで光電変換効率が向上することが知られている(例えば、特許文献2、3参照)が、ホールブロックには効果があるものの、光電変換効率の向上は未だ十分ではなかった。
【0007】
また、陽極となる第1電極と光電変換層となる活性層との間に、ホールを選択的に通しやすく、エレクトロンを通しにくくする電子ブロック層を導入することで光電変換効率を向上させて提案がなされている(例えば、非特許文献1参照)が、これは酸素と水分を排除した真空下で、第1電極上に電子ブロック層としてNiO層をPLD(pulsed−laser deposition)法で形成する方法であり、より生産性を上げるためには塗布型で形成できる電子ブロック層が望まれていた。
【0008】
一方、生産性に優れた透明電極として、π共役系高分子に代表される導電性高分子材料を適当な溶媒に溶解または分散した塗液を用いて、塗布や印刷によって透明電極を形成する方法も提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかし、真空成膜法によるITO等の金属酸化物透明電極に較べると、導電性が低く且つ透明性にも劣るという課題を有していた。
【0009】
更にカーボンナノチューブ(CNT)や金属ナノワイヤのような導電性繊維を用いる技術も開示されており、導電性繊維の一部を透明樹脂膜で基板に固定し、且つ導電性繊維の一部を透明樹脂膜表面に突起させて電極を形成することが提案されている(例えば、特許文献5参照)。しかし、このような構成の電極は表面に導電性繊維が突起した部分にしか導電性がないため、面電極としての機能を有しておらず、加えて表面に導電性繊維が突起しているため、電極表面の平滑性が求められる有機光電変換素子の用途には適用できないという課題を有していた。
【特許文献1】米国特許第5,331,183号明細書
【特許文献2】特開2004−319705号公報
【特許文献3】特開2007−273939号公報
【特許文献4】特開平6−273964号公報
【特許文献5】特表2006−519712号公報
【非特許文献1】PNAS,February26,2008,Vol.105,No.8,p2783〜2787
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、高い光電変換効率で、フレキシブルタイプとした場合の優れた曲げ耐性を有する有機光電変換素子を提供するとともに、透明電極と有機層を塗布で製造することで製造コストを大幅に軽減できる有機光電変換素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成することができる。
【0012】
1.透明基板上に少なくとも第1電極、光電変換層、第2電極をそれぞれ有する有機光電変換素子において、該第1電極と該光電変換層の間に湿式法により形成されたp型金属酸化物からなる電子ブロック層が設けられていることを特徴とする有機光電変換素子。
【0013】
2.前記電子ブロック層がアモルファスNiOからなることを特徴とする前記1に記載の有機光電変換素子。
【0014】
3.前記第1電極の表面が導電性繊維と透明導電性材料から構成されていることを特徴とする前記1または2に記載の有機光電変換素子。
【0015】
4.前記導電性繊維が金属ナノワイヤ及びカーボンナノチューブの群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記3に記載の有機光電変換素子。
【0016】
5.前記透明導電性材料が導電性高分子及び導電性金属酸化物微粒子の群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記3または4に記載の有機光電変換素子。
【0017】
6.大気圧下において、基板上に第1電極を形成した後、湿式法により電子ブロック層を設け、その上に光電変換層、第2電極を設けることを特徴とする有機光電変換素子の製造方法。
【0018】
7.前記湿式法による電子ブロック層がアモルファスNiOであることを特徴とする前記6に記載の有機光電変換素子の製造方法。
【0019】
8.前記アモルファスNiOからなる電子ブロック層がNiアルコキシド溶液を塗布し、常温乾燥することにより形成されることを特徴とする前記7に記載の有機光電変換素子の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、高い光電変換効率で、フレキシブルタイプとした場合の優れた曲げ耐性を有する有機光電変換素子を提供するばかりでなく、透明電極と有機層を塗布で製造することで製造コストを大幅に軽減することができる有機光電変換素子の製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0022】
本発明者は、塗布プロセスで形成し得る透明導電膜、及びそれを用いた有機光電変換素子の効率向上の課題に関して鋭意検討を行った結果、透明基板上に透明導電層を有する第1電極、光電変換層、第2電極を有する有機光電変換素子において、第1電極と光電変換層の間に、湿式法により形成されたp型金属酸化物からなる電子ブロック層を設けられていることを特徴とする有機光電変換素子により、湿式法による簡易的なプロセスによって高い光電変換効率を有する有機光電変換素子を作製できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0023】
以下、これらについて詳細に説明する。
【0024】
図3は、本発明のバルクヘテロ接合型の有機光電変換素子を示す断面図である。図3において、バルクヘテロ接合型の有機光電変換素子10は、透明基板11の一方面上に第1電極12、電子ブロック層15、バルクヘテロジャンクション層の光電変換層14及び第2電極13が順次積層されている。
【0025】
透明基板11は、順次積層された第1電極12、電子ブロック層15、光電変換層14及び第2電極13を保持する部材である。本実施形態では、透明基板11側から光電変換される光が入射するので、透明基板11はこの光電変換される光を透過させることが可能な、即ち、この光電変換すべき光の波長に対して透明な部材である。透明基板11は、例えば、ガラス基板や樹脂基板等が用いられる。この透明基板11は必須ではなく、例えば、電子ブロック層15側に第1電極12、光電変換層14側第2電極13を形成することで、バルクヘテロ接合型の有機光電変換素子10が構成されてもよい。
【0026】
第1電極12は、本発明に係る第1電極を用いることが必要である。
【0027】
第2電極13は、金属(例えば、金、銀、銅、白金、ロジウム、ルテニウム、アルミニウム、マグネシウム、インジウム等)、炭素、あるいは第1電極12の材料等を用いることができるが、これに限らない。
【0028】
なお、図3に示すバルクヘテロ接合型の有機光電変換素子10では、電子ブロック層15、光電変換層14が第1電極12と第2電極13とでサンドイッチされているが、一対の櫛歯状電極を光電変換層14の片面に配置するといった、バックコンタクト型の有機光電変換素子10が構成されてもよい。
【0029】
光電変換層14は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する層であって、p型半導体材料とn型半導体材料とを一様に混合したバルクヘテロジャンクション層を有して構成される。p型半導体材料は相対的に電子供与体(ドナー)として機能し、n型半導体材料は、相対的に電子受容体(アクセプター)として機能する。ここで、電子供与体及び電子受容体は、“光を吸収した際に、電子供与体から電子受容体に電子が移動し、正孔と電子のペア(電荷分離状態)を形成する電子供与体及び電子受容体”であり、電極のように単に電子を供与あるいは受容するものではなく、光反応によって、電子を供与あるいは受容するものである。
【0030】
(p型半導体材料)
本発明に用いられるp型半導体材料としては、種々の縮合多環芳香族化合物や共役系化合物が挙げられる。
【0031】
縮合多環芳香族化合物としては、例えば、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン、ヘプタセン、クリセン、ピセン、フルミネン、ピレン、ペロピレン、ペリレン、テリレン、クオテリレン、コロネン、オバレン、サーカムアントラセン、ビスアンテン、ゼスレン、ヘプタゼスレン、ピランスレン、ビオランテン、イソビオランテン、サーコビフェニル、アントラジチオフェン等の化合物、及びこれらの誘導体や前駆体が挙げられる。
【0032】
共役系化合物としては、例えば、ポリチオフェン及びそのオリゴマー、ポリピロール及びそのオリゴマー、ポリアニリン、ポリフェニレン及びそのオリゴマー、ポリフェニレンビニレン及びそのオリゴマー、ポリチエニレンビニレン及びそのオリゴマー、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、テトラチアフルバレン化合物、キノン化合物、テトラシアノキノジメタン等のシアノ化合物、フラーレン及びこれらの誘導体あるいは混合物を挙げることができる。
【0033】
また、特にポリチオフェン及びそのオリゴマーの内、チオフェン6量体であるα−セクシチオフェンα,ω−ジヘキシル−α−セクシチオフェン、α,ω−ジヘキシル−α−キンケチオフェン、α,ω−ビス(3−ブトキシプロピル)−α−セクシチオフェン、等のオリゴマーが好適に用いることができる。
【0034】
更に、ポルフィリンや銅フタロシアニン、テトラチアフルバレン(TTF)−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体、ビスエチレンテトラチアフルバレン(BEDTTTF)−過塩素酸錯体、BEDTTTF−ヨウ素錯体、TCNQ−ヨウ素錯体、等の有機分子錯体、C60、C70、C76、C78、C84等のフラーレン類、SWNT等のカーボンナノチューブ、メロシアニン色素類、ヘミシアニン色素類等の色素等、更にポリシラン、ポリゲルマン等のσ共役系ポリマーや特開2000−260999号公報に記載の有機、無機混成材料も用いることができる。
【0035】
これらのπ共役系材料の内でも、ペンタセン等の縮合多環芳香族化合物、フラーレン類、縮合環テトラカルボン酸ジイミド類、金属フタロシアニン、金属ポルフィリンよりなる群から選ばれた少なくとも1種が好ましい。
【0036】
ペンタセン類の例としては、国際公開第03/16599号パンフレット、国際公開第03/28125号パンフレット、米国特許第6,690,029号明細書、特開2004−107216号公報等に記載の置換基をもったペンタセン誘導体、米国特許出願公開第2003/136964号明細書等に記載のペンタセンプレカーサ、J.Amer.Chem.Soc.,Vol.127.No.14.4986等に記載の置換アセン類及びその誘導体等が挙げられる。
【0037】
これらの化合物の中でも、溶液プロセスが可能な程度に有機溶剤への溶解性が高く、且つ乾燥後は結晶性薄膜を形成し、高い移動度を達成することが可能な化合物が好ましい。そのような化合物としては、J.Amer.Chem.Soc.,Vol.123、p9482、J.Amer.Chem.Soc.,Vol.130(2008)、No.9、2706等に記載のトリアルキルシリルエチニル基で置換されたアセン系化合物、及び米国特許出願公開第2003/136964号明細書等に記載のペンタセンプレカーサ、特開2007−224019号公報等に記載のポルフィリンプレカーサー等のような、プレカーサータイプの化合物(前駆体)が挙げられる。
【0038】
これらの中でも、後者のプリカーサータイプの方が好ましく用いることができる。これは、プリカーサータイプの方が、変換後に不溶化するため、バルクヘテロジャンクション層の上に正孔輸送層、電子輸送層、正孔ブロック層、電子ブロック層等を溶液プロセスで形成する際に、バルクヘテロジャンクション層が溶解してしまうことがなくなるため、前記の層を構成する材料とバルクヘテロジャンクション層を形成する材料とが混合することがなくなり、一層の効率向上・寿命向上を達成することができるためである。
【0039】
(n型半導体材料)
本発明に用いられるn型半導体材料の例としては、フラーレンC60、フラーレンC70、フラーレンC76、フラーレンC78、フラーレンC84、フラーレンC240、フラーレンC540、ミックスドフラーレン、フラーレンナノチューブ、多層ナノチューブ、単層ナノチューブ、ナノホーン(円錐型)、オクタアザポルフィリン、p型半導体のパーフルオロ体(パーフルオロペンタセンやパーフルオロフタロシアニン等)、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の芳香族カルボン酸無水物やそのイミド化物、またはこれらの構造を骨格として含む、高分子化合物が挙げられる。
【0040】
電子受容体と電子供与体とが混合されたバルクヘテロジャンクション層の形成方法としては、蒸着法、塗布法(キャスト法、スピンコート法を含む)等を例示することができる。この中で、特に塗布法が好ましい。
【0041】
そして、光電変換層14のバルクヘテロジャンクション層は、光電変換率を向上すべく、製造工程中において所定の温度でアニール処理され、微視的に一部結晶化されている。
【0042】
図3において、透明基板11を介して第1電極12から入射された光は、光電変換層14のバルクヘテロジャンクション層における電子受容体あるいは電子供与体で吸収され、電子供与体から電子受容体に電子が移動し、正孔と電子のペア(電荷分離状態)が形成される。発生した電荷は、内部電界、例えば、第1電極12と第2電極13の仕事関数が異なる場合では、第1電極12と第2電極13との電位差によって、電子は電子受容体間を通り、また正孔は電子供与体間を通り、それぞれ異なる電極へ運ばれ、光電流が検出される。
【0043】
例えば、第1電極12の仕事関数が第2電極13の仕事関数よりも大きい場合では、電子は第1電極12へ、正孔は第2電極13へ輸送される。なお、仕事関数の大小が逆転すれば、電子と正孔はこれとは逆方向に輸送される。また、第1電極12と第2電極13との間に電位をかけることにより、電子と正孔の輸送方向を制御することもできる。
【0044】
なお、光電変換層14は、電子受容体と電子供与体とが均一に混在された単一層で構成してもよいが、電子受容体と電子供与体との混合比を変えた複数層で構成してもよい。
【0045】
電子受容体と電子供与体とが混合されたバルクヘテロジャンクション層の形成方法としては、蒸着法、塗布法(キャスト法、スピンコート法を含む)等を例示することができる。この内、前述の正孔と電子が電荷分離する界面の面積を増大させ、高い光電変換効率を有する素子を作製するためには、塗布法が好ましい。塗布後は残留溶媒及び水分、ガスの除去、及び前述のような半導体材料の化学反応を引き起こすために加熱を行うことが好ましい。
【0046】
(湿式法により形成された電子ブロック層)
本発明の有機光電変換素子は、第1電極と光電変換層の間に、湿式法により形成されたp型金属酸化物からなる電子ブロック層を設けられていることが特徴である。本発明に係る電子ブロック層は、電子ブロック能を有するとともにホール輸送能を有し、湿式法で形成されることが特徴である。
【0047】
本発明に係る湿式法により形成される電子ブロック層を設けることで、従来のLPD法によるNiO層と比較して形成プロセスが容易になり、生産性が向上するばかりではなく、フレキシブル基板を用いた場合の曲げ耐性が向上することが分かった。
【0048】
本発明に係る湿式法により形成される電子ブロック層としては、p型金属酸化物からなる、有機金属化合物を出発物質にゾル−ゲル反応により形成させることが好ましく、アモルファスNiOであることがより好ましい。
【0049】
有機金属化合物とは、金属と有機物が共有結合、配位結合またはイオン結合した化合物であり、例えば、金属アルコキシド、金属アシレート、金属キレート、有機金属塩、ハロゲン金属化合物などを挙げることができ、本発明においては、反応性、安定性の観点から金属アルコキシド類を用いることが好ましい。
【0050】
本発明に有用な有機金属化合物は、下記の一般式で表される化合物が好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0051】
〔一般式〕 MR
本発明においては、p型金属酸化物となる出発原料であることが必要であり、上記一般式において、Mは金属(例えば、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等)を表し、Rはアルキル基、Rはアルコキシ基、Rはβ−ジケトン配位基、β−ケトカルボン酸エステル配位基、β−ケトカルボン酸配位基及びケトオキシ基(ケトオキシ配位基)から選ばれる基であり、金属Mの価数をmとした場合、x+y+z=mであり、x=0〜m、またはx=0〜m−1であり、y=0〜m、z=0〜mで、いずれも0または正の整数である。
【0052】
で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等を挙げることができる。Rで表されるアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、3,3,3−トリフルオロプロポキシ基等を挙げることができる。また、アルキル基の水素原子をフッ素原子に置換したものでもよい。
【0053】
で表されるβ−ジケトン配位基、β−ケトカルボン酸エステル配位基、β−ケトカルボン酸配位基及びケトオキシ基(ケトオキシ配位基)から選ばれる基としては、β−ジケトン配位基として、例えば、2,4−ペンタンジオン(アセチルアセトンあるいはアセトアセトンとも言う)、1,1,1,5,5,5−ヘキサメチル−2,4−ペンタンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン等を挙げることができ、β−ケトカルボン酸エステル配位基として、例えば、アセト酢酸メチルエステル、アセト酢酸エチルエステル、アセト酢酸プロピルエステル、トリメチルアセト酢酸エチル、トリフルオロアセト酢酸メチル等を挙げることができ、β−ケトカルボン酸配位基として、例えば、アセト酢酸、トリメチルアセト酢酸等を挙げることができ、またケトオキシ配位基として、例えば、アセトオキシ基(またはアセトキシ基)、プロピオニルオキシ基、ブチリロキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等を挙げることができる。
【0054】
これらの基の炭素原子数は上記の有機金属示化合物を含んで、18以下が好ましい。また、例示にもあるように直鎖または分岐のもの、また水素原子をフッ素原子に置換したものでもよい。
【0055】
本発明においては、取り扱いの観点から爆発の危険性の少ない有機金属化合物が好ましく、分子内に少なくとも一つ以上の酸素を有する有機金属化合物が好ましい。このようなものとして、Rのアルコキシ基を少なくとも一つを含有する有機金属化合物、またはRのβ−ジケトン配位基、β−ケトカルボン酸エステル配位基、β−ケトカルボン酸配位基及びケトオキシ基(ケトオキシ配位基)から選ばれる基を少なくとも一つ有する金属化合物が好ましい。
【0056】
本発明においては、ニッケルの金属アルコキシド、例えば、ニッケルイソプロポキシドを出発原料として、加熱処理などにより形成されたアモルファスNiOがより好ましい。
【0057】
次に、ゾル−ゲル反応に用いられる溶媒について述べる。溶媒はゾル液中の各成分を均一に混合させ、本発明に係る組成物の固形分調製をすると同時に、種々の塗布方法に適用できるようにし、組成物の分散安定性及び保存安定性を向上させるものである。
【0058】
これらの溶媒は上記目的の果たせるものであれば特に限定されない。これらの溶媒の好ましい例として、例えば、水、及び水と混和性の高い有機溶媒が挙げられる。
【0059】
有機溶媒の例としては、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、蟻酸、酢酸、酢酸メチル、アルコール類(メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、t−ブチルアルコール)、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどを挙げることができる。
【0060】
有機金属化合物の使用においては、溶液の安定性のためにキレート配位子を用いることもできる。キレート配位子の例としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエタノールアミンなどを挙げることができる。
【0061】
また、金属酸化物の出発原料を塗布後に加熱する場合には、加熱温度は用いた出発原料の種類や加熱時間等によって異なるが、120〜600℃の範囲で行うことができる。加熱温度が高い場合には加熱時間を短くすることができ、5〜60分程度とすることができる。
【0062】
また、上述のバルクヘテロ接合型の有機光電変換素子10は、順次に透明基板11上に積層された第1電極12、電子ブロック層15、バルクヘテロジャンクション層の光電変換層14及び第2電極13で構成されたが、これに限られず、例えば、第1電極12や第2電極13と光電変換層14との間に正孔輸送層、電子輸送層あるいは平滑化層等の他の層を有して、バルクヘテロ接合型の有機光電変換素子10が構成されてもよい。これらの中でも、バルクヘテロジャンクション層と陽極(通常、第1電極12側)との中間には正孔輸送層を、陰極(通常、第2電極13側)との中間には電子輸送層を形成することで、バルクヘテロジャンクション層で発生した電荷をより効率的に取り出すことが可能となるため、これらの層を有していることが好ましい。
【0063】
本発明に係る電子ブロック層以外にも、正孔輸送層としては、スタルクヴイテック製、商品名BaytronP等のPEDOT、ポリアニリン及びそのドープ材料、特開平5−271166号公報等に記載のトリアリールアミン系化合物を用いることができる。また、バルクヘテロジャンクション層に用いたp型半導体材料単体からなる層を用いることもできる。これらの層を形成する手段としては、真空蒸着法、溶液塗布法のいずれであってもよいが、好ましくは溶液塗布法である。
【0064】
また、電子輸送層としては、オクタアザポルフィリン、p型半導体のパーフルオロ体(パーフルオロペンタセンやパーフルオロフタロシアニン等)、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等のn型半導体材料、及び酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ガリウム等のn型無機酸化物及びフッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属化合物等を用いることができる。
【0065】
また、バルクヘテロジャンクション層に用いたn型半導体材料単体からなる層を用いることもできる。これらの層を形成する手段としては、真空蒸着法、溶液塗布法のいずれであってもよいが、好ましくは溶液塗布法である。
【0066】
また、作製した有機光電変換素子10が環境中の酸素、水分等で劣化しないために、公知の手法によって封止することが好ましい。例えば、アルミまたはガラスでできたキャップを接着剤によって接着することによって封止する手法、アルミニウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等のガスバリア層が形成されたプラスチックフィルムと有機光電変換素子上10を接着剤で貼合する手法、ガスバリア性の高い有機高分子材料(ポリビニルアルコール等)をスピンコートする方法、ガスバリア性の高い無機薄膜(酸化ケイ素、酸化アルミニウム等)を直接堆積する方法、及びこれらを複合的に積層する方法等を挙げることができる。
【0067】
(透明基材)
本発明に係る第1電極に用いられる透明基材としては、高い光透過性を有していればそれ以外に特に制限はない。例えば、基材としての硬度に優れ、またその表面への導電層の形成のし易さ等の点で、ガラス基板、樹脂基板、樹脂フィルムなどが好適に挙げられるが、軽量性と柔軟性の観点から透明樹脂フィルムを用いることが好ましい。
【0068】
本発明で透明基材として好ましく用いることができる透明樹脂フィルムには特に制限はなく、その材料、形状、構造、厚み等については公知のものの中から適宜選択することができる。
【0069】
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂フィルム、ポリエチレン(PE)樹脂フィルム、ポリプロピレン(PP)樹脂フィルム、ポリスチレン樹脂フィルム、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム、ポリサルホン(PSF)樹脂フィルム、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂フィルム、ポリカーボネート(PC)樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂フィルム等を挙げることができるが、可視域の波長(380〜780nm)における透過率が80%以上である樹脂フィルムであれば、本発明に係る透明樹脂フィルムに好ましく適用することができる。
【0070】
中でも、透明性、耐熱性、取り扱いやすさ、強度及びコストの点から、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリカーボネートフィルムであることが好ましく、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムであることがより好ましい。
【0071】
本発明に用いられる透明基材には、塗布液の濡れ性や接着性を確保するために、表面処理を施すことや易接着層を設けることができる。表面処理や易接着層については従来公知の技術を使用できる。例えば、表面処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等の表面活性化処理を挙げることができる。
【0072】
また、易接着層としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ビニル系共重合体、ブタジエン系共重合体、アクリル系共重合体、ビニリデン系共重合体、エポキシ系共重合体等を挙げることができる。易接着層は単層でもよいが、接着性を向上させるためには2層以上の構成にしてもよい。また、透明基材にはバリアコート層が予め形成されていてもよいし、透光性の第1電極を設けるのとは反対側にはハードコート層が予め形成されていてもよい。
【0073】
(第1電極)
本発明に係る透明導電層を有する第1電極は有機光電変換素子においては陽極となる。
【0074】
本発明に係る透明導電層を有する第1電極の構造模式図を図1に示す。本発明に係る第1電極4は、透明基材5上に少なくとも金属ナノワイヤ1を含んでおり、好ましい構成として透明基材に近い側に全体を保持結着させている第1透明樹脂3を有し、透明基材から遠い側に第2透明樹脂成分含有部あるいは透明無機成分含有部2を有している。
【0075】
図1の例では、金属ナノワイヤ1によって形成された3次元的なメッシュ構造(導電ネットワーク構造)の電極表面側の隙間に透明樹脂成分含有部2が存在する。金属ナノワイヤ1は透明樹脂成分含有部2と共に電極の表面を構成すると同時に、透明無機成分含有部2の補助電極として機能することができる。また、金属ナノワイヤ1の3次元的なメッシュ構造の透明基材5側の隙間から透明基材5までの間には第1透明樹脂3が存在し、金属ナノワイヤ1含有部を透明基材5に固定化している。
【0076】
図2の例では、金属ナノワイヤ1によって形成された3次元的なメッシュ構造を包含するように透明無機成分含有部2が存在する。金属ナノワイヤ1は透明無機成分含有部2と共に電極の表面を構成すると同時に、透明無機成分含有部2の補助電極として機能することができる。また、透明無機成分含有部2と透明基材5までの間には第1透明樹脂3が存在し、金属ナノワイヤ1含有部を透明基材5に固定化している。
【0077】
本発明に係る第1電極4においては、全光線透過率が60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが特に好ましい。全光透過率は、分光光度計等を用いた公知の方法に従って測定することができる。
【0078】
また、本発明に係る第1電極の電気抵抗値としては、表面抵抗率として50Ω/□以下であることが好ましく、10Ω/□以下であることがより好ましく、3Ω/□以下であることが特に好ましい。50Ω/□を越えると受光面積の広い有機光電変換素子では光電変換効率が劣る場合がある。前記表面抵抗率は、例えば、JIS K 7194:1994(導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法)などに準拠して測定することができ、また市販の表面抵抗率計を用いて簡便に測定することができる。
【0079】
本発明に係る第1電極の厚みには特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、一般的に10μm以下であることが好ましく、厚みが薄くなるほど透明性や柔軟性が向上するためより好ましい。
【0080】
(金属ナノワイヤ)
本発明に係る導電性繊維としては、金属でコーティングした有機繊維や無機繊維、導電性金属酸化物繊維、金属ナノワイヤ、炭素繊維、カーボンナノチューブ等を用いることができるが、金属ナノワイヤが好ましい。
【0081】
一般に、金属ナノワイヤとは金属元素を主要な構成要素とする線状構造体のことを言う。特に、本発明における金属ナノワイヤとはnmサイズの直径を有する線状構造体を意味する。
【0082】
本発明に係る金属ナノワイヤとしては、1つの金属ナノワイヤで長い導電パスを形成するために、また、適度な光散乱性を発現するために、平均長さが3μm以上であることが好ましく、更には3〜500μmが好ましく、特に3〜300μmであることが好ましい。併せて、長さの相対標準偏差は40%以下であることが好ましい。また、平均直径は、透明性の観点からは小さいことが好ましく、一方で導電性の観点からは大きい方が好ましい。本発明においては、金属ナノワイヤの平均直径として10〜300nmが好ましく、30〜200nmであることがより好ましい。併せて、直径の相対標準偏差は20%以下であることが好ましい。
【0083】
本発明に係る金属ナノワイヤの金属組成としては特に制限はなく、貴金属元素や卑金属元素の1種または複数の金属から構成することができるが、貴金属(例えば、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム等)及び鉄、コバルト、銅、錫からなる群に属する少なくとも1種の金属を含むことが好ましく、導電性の観点から少なくとも銀を含むことがより好ましい。また、導電性と安定性(金属ナノワイヤの硫化や酸化耐性、及びマイグレーション耐性)を両立するために、銀と、銀を除く貴金属に属する少なくとも1種の金属を含むことも好ましい。
【0084】
本発明に係る金属ナノワイヤが2種類以上の金属元素を含む場合には、例えば、金属ナノワイヤの表面と内部で金属組成が異なっていてもよいし、金属ナノワイヤ全体が同一の金属組成を有していてもよい。
【0085】
本発明において金属ナノワイヤの製造手段には特に制限はなく、例えば、液相法や気相法等の公知の手段を用いることができる。また、具体的な製造方法にも特に制限はなく、公知の製造方法を用いることができる。
【0086】
例えば、Agナノワイヤの製造方法としては、Adv.Mater.,2002,14,833〜837;Chem.Mater.,2002,14,4736〜4745等、Auナノワイヤの製造方法としては特開2006−233252号公報等、Cuナノワイヤの製造方法としては特開2002−266007号公報等、Coナノワイヤの製造方法としては特開2004−149871号公報等を参考にすることができる。特に、上述した、Adv.Mater.及びChem.Mater.で報告されたAgナノワイヤの製造方法は、水系で簡便にAgナノワイヤを製造することができ、また銀の導電率は金属中で最大であることから、本発明に係る金属ナノワイヤの製造方法として好ましく適用することができる。
【0087】
本発明においては、金属ナノワイヤが互いに接触し合うことにより3次元的な導電ネットワークを形成し、高い導電性を発現するとともに、金属ナノワイヤが存在しない導電ネットワークの窓部を光が透過することが可能となり、更に金属ナノワイヤの散乱効果によって、有機発電層部からの発電を効率的に行うことが可能となる。第1電極において、金属ナノワイヤを有機発電層部に近い側に設置すれば、この散乱効果がより有効に利用できるのでより好ましい実施形態である。
【0088】
(第1電極の金属ナノワイヤ以外の構成について)
本発明においては、第1電極に金属ナノワイヤを含有させることで、金属ナノワイヤの光を散乱させる効果に加えて、金属ナノワイヤが高い導電性を有しているので導電性を劣化させることなく他の比較的低屈折率の樹脂等を併用することが可能となり、これによって第1電極の屈折率を発電層部よりも低く抑えることが可能となって、基材、第1電極、発電層部の各界面の反射を抑制し、発電層部に有効に光を到達させることができる。この効果を有効に発現させるためには、第1電極の平均の屈折率が有機発電層部の平均の屈折率よりも低いことが好ましい。
【0089】
本発明に係る第1電極は金属ナノワイヤを含有するが、金属ナノワイヤを保持するために何らかの透明樹脂や透明無機材料などと併用することが好ましく、前述の屈折率の関係を満足するように材料を適宜選択すればよい。こうした材は特に限定はないが、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、セルロース系樹脂、ブチラール系樹脂等を単独あるいは複数併用して用いることができる。また、UV硬化樹脂であってもよい。
【0090】
更に好ましい実施形態としては、第1電極を半分の膜厚で分割したとき、有機発電層部に違い側の部分の平均ヘイズ値をEH1、透明基材に近い側の部分の平均ヘイズ値をEH2とした時、EH1<EH2となっていることが好ましい。こうすることで、より効果的に入射光の散乱により光路長を伸ばすことでき、本発明に係る金属ナノワイヤの散乱効果が最大限に発揮できるようになる。
【0091】
第1電極のヘイズ値は、金属ナノワイヤの含有量や直径、後術の導電性金属酸化物の含有量や粒子径などによって変化させることができる。
【0092】
第1電極が金属ナノワイヤに加えて少なくとも第1透明樹脂成分(例えば、前述の樹脂)と該透明樹脂成分よりも屈折率の高い第2透明樹脂成分とを含有し、該第2透明樹脂成分と金属ナノワイヤとが有機発電層部に近い側に、該第1透明樹脂成分が透明基材に近い側にそれぞれ多く含まれるように構成させたり、また、第1電極が金属ナノワイヤに加えて少なくとも第1透明樹脂成分と該透明樹脂成分よりも屈折率の高い透明無機成分とを含有し、該透明無機成分と金属ナノワイヤが有機発電層部に近い側に、該第1樹脂成分が透明基材に近い側にそれぞれ多く含まれるように構成させたりすることも本発明の好ましい実施形態である。
【0093】
更に、前述の第2透明樹脂成分としては導電性ポリマー、また前述の透明無機成分として透明導電性金属酸化物であることが、本発明のより好ましい実施形態である。導電性ポリマーあるいは透明導電性金属酸化物を用いることで金属ナノワイヤの存在しない窓部の微小領域にも通電することが可能となり完全な面電極として機能させることが可能となる。このように完全な面電極として働かせるためは、導電材料単独での面抵抗が1010Ω/□よりも小さいことが必要で、10Ω/□以下であることがより好ましい。
【0094】
こうした、導電性ポリマーとしては、例えば、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリチエニレンビニレン、ポリアズレン、ポリイソチアナフテン、ポリカルバゾール、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリフェニルアセチレン、ポリジアセチレン及びポリナフタレンの各誘導体からなる群より選ばれる化合物等を挙げることができる。
【0095】
また、透明導電性金属酸化物としては、ZrO、CeO、ZnO、TiO、SnO、Al、In、SiO、MgO、BaO、MoO、V等の金属酸化物微粒子やこれらの複合酸化物微粒子や異種原子をドーピングした複合金属酸化物微粒子、あるいはこれらの金属酸化物ゾルを挙げることができ、中でも、更に導電性や透明性の点から、錫や亜鉛をドープした酸化インジウム(ITO、IZO)、アルミニウムやガリウムをドープした酸化亜鉛(AZO、GZO)、フッ素やアンチモンをドープした酸化錫(FTO、ATO)等の微粒子やゾルを好ましく用いることができる。これらは単独で用いてもよいが、他の樹脂成分と併用してもよい。
【0096】
また、本発明に係る第1透明樹脂成分中に、微粒子を含有させると第1電極と透明基材の界面での光取り込みを向上させることが可能となり、本発明のより好ましい実施形態である。粒子径は0.05μmから5μmであることが好ましく、0.05μmから2μmであることがより好ましい。0.05μm未満では光を散乱、屈折させる効果が小さく、5μmよりも大きいと平滑性が問題となる。
【0097】
粒子の屈折率は1.1から2.0であることが好ましく、1.3から1.7であることがより好ましい。この範囲であれば光の後方散乱する成分が少なく、透過率の低下を押さえながら光取り込み効率を向上できる。こうした微粒子としては、架橋アクリル系粒子、架橋スチレン系微粒子、シリカ系微粒子、メラミン/ホルムアルデヒド縮合物系微粒子、あるいはこうした材料の複合微粒子などを挙げることができる。こうした微粒子は単独で用いてもよいし、複数併用してもよい。
【0098】
(第1電極の形成方法)
第1電極の形成方法は特に制限はないが、すべての剤を塗布系で形成すれば、所謂ロールtoロールプロセスが使用できるようになり、真空プロセスを用いる場合よりも簡単な設備で高速で連続的な生産が可能となりより好ましい。
【0099】
また、平滑な離型性基材の離型面上に、金属ナノワイヤと導電性ポリマーあるいは透明導電性金属酸化物を含む層を形成した後、これらの層を透明基材上に転写することにより第1電極を形成する方法を用いることが好ましい。有機光電変換素子においては第1電極の平坦性が求められるが、この方法を用いることにより、簡便に且つ安定に高平滑化することができる。更に、この方法により金属ナノワイヤや比較的高屈折率な導電性ポリマーあるいは透明導電性金属酸化物を含む層を含む層を第1電極の有機発電層部に近い側に設置することが可能となる。
【0100】
この転写プロセスを用いた第1電極の製造方法で用いられる離型性基板としては、樹脂基板や樹脂フィルムなどが好適に挙げられる。該樹脂には特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などの合成樹脂の単層あるいは複数層からなる基板やフィルムが好適に用いられる。更にガラス基板や金属基板を用いることもできる。また、離型性基板の表面(離型面)には、必要に応じてシリコーン樹脂やフッ素樹脂、ワックスなどの離型剤を塗布して表面処理を施してもよい。
【0101】
離型性基板表面は、透明導電層を転写した後の表面の平滑性に影響を与えるため、高平滑であることが望ましく、具体的にはRy≦50nmであることが好ましく、Ry≦40nmであることがより好ましく、Ry≦30nmであることが更に好ましい。また、Ra≦5nmであることが好ましく、Ra≦3nmであることがより好ましく、Ra≦1nmであることが更に好ましい。
【0102】
本発明において、透明導電層の表面の平滑性を表すRyとRaは、Ry=最大高さ(表面の山頂部と谷底部との高低差)とRa=算術平均粗さを意味し、JIS B601(1994)に規定される表面粗さに準ずる値である。本発明に係る第1電極は、透明導電層の表面の平滑性がRy≦50nmであることを特徴とする。また、併せて透明導電層の表面の平滑性はRa≦5nmであることが好ましい。本発明においてRyやRaの測定には、市販の原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy:AFM)を用いることができ、例えば、以下の方法で測定できる。
【0103】
AFMとして、セイコーインスツルメンツ製SPI3800Nプローブステーション及びSPA400多機能型ユニットを使用し、約1cm角の大きさに切り取った試料をピエゾスキャナー上の水平な試料台上にセットし、カンチレバーを試料表面にアプローチし、原子間力が働く領域に達したところで、XY方向にスキャンし、その際の試料の凹凸をZ方向のピエゾの変位で捉える。ピエゾスキャナーは、XY150μm、Z5μmが走査可能なものを使用する。カンチレバーは、セイコーインスツルメンツ製シリコンカンチレバーSI−DF20で、共振周波数120〜150kHz、バネ定数12〜20N/mのものを用い、DFMモード(Dynamic Force Mode)で測定する。測定領域80×80μmを、走査周波数0.1Hzで測定する。
【0104】
離型性基材の離型面上に、金属ナノワイヤや導電性ポリマーあるいは透明導電性金属酸化物を含む層を形成する方法に特に制限はないが、生産性の改善、平滑性や均一性などの電極品質の向上、環境負荷軽減の観点から、塗布法や印刷法などの液相成膜法を用いることが好ましい。
【0105】
塗布法としては、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、バーコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法などを用いることができる。
【0106】
印刷法としては、凸版(活版)印刷法、孔版(スクリーン)印刷法、平版(オフセット)印刷法、凹版(グラビア)印刷法、スプレー印刷法、インクジェット印刷法などを用いることができる。なお、必要に応じて、密着性・塗工性を向上させるための予備処理として、離型性基材表面にコロナ放電処理、プラズマ放電処理などの物理的表面処理を施すことができる。
【0107】
透明基材上に転写する際の接着剤としては、本発明に係る第1透明樹脂成分がこの機能を有すればよく、例えば、前述の透明樹脂を利用すればよく、接着剤は離型性基板側に設けてもよいし、透明基材側に設けてもよい。接着剤としては、可視領域で透明で転写能を有する材料であれば特に限定されない。透明であれば硬化型樹脂でもよいし、熱可塑性樹脂でもよい。硬化型樹脂として、熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂などが挙げられるが、これらの硬化型樹脂の内では、樹脂硬化のための設備が簡易で作業性に優れることから、紫外線硬化型樹脂を用いることが好ましい。
【0108】
紫外線硬化型樹脂とは紫外線照射により架橋反応等を経て硬化する樹脂で、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーを含む成分が好ましく用いられる。例えば、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ポリオールアクリレート系樹脂等が挙げられる。本発明では、バインダーとしてアクリル系、アクリルウレタン系の紫外線硬化型樹脂を主成分とすることが好ましい。
【0109】
アクリルウレタン系樹脂は、一般にポリエステルポリオールにイソシアネートモノマー、またはプレポリマーを反応させて得られた生成物に更に2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、アクリレートにはメタクリレートを包含するものとしてアクリレートのみを表示する)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等の水酸基を有するアクリレート系のモノマーを反応させることによって容易に得ることができる。例えば、特開昭59−151110号公報に記載のものを用いることができる。例えば、ユニディック17−806(大日本インキ(株)製)100部とコロネートL(日本ポリウレタン(株)製)1部との混合物等が好ましく用いられる。
【0110】
紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂としては、一般にポリエステルポリオールに2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシアクリレート系のモノマーを反応させると容易に形成されるものを挙げることができ、特開昭59−151112号公報に記載のものを用いることができる。
【0111】
紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂の具体例としては、エポキシアクリレートをオリゴマーとし、これに反応性希釈剤、光反応開始剤を添加し、反応させて生成するものを挙げることができ、特開平1−105738号公報に記載のものを用いることができる。
【0112】
紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂の具体例としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等を挙げることができる。
【0113】
樹脂モノマーとしては、例えば、不飽和二重結合が一つのモノマーとして、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、酢酸ビニル、スチレン等の一般的なモノマーを挙げることができる。また、不飽和二重結合を二つ以上持つモノマーとして、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ジビニルベンゼン、1,4−シクロヘキサンジアクリレート、1,4−シクロヘキシルジメチルアジアクリレート、前出のトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリルエステル等を挙げることができる。
【0114】
これらの中で、バインダーの主成分として、1,4−シクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、トリメチロールエタン(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−シクロヘキサンテトラメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレートから選択されるアクリル系の活性線硬化樹脂が好ましい。
【0115】
これら紫外線硬化型樹脂の光反応開始剤としては、具体的には、ベンゾイン及びその誘導体、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、α−アミロキシムエステル、チオキサントン等及びこれらの誘導体を挙げることができる。光増感剤と共に使用してもよい。上記光反応開始剤も光増感剤として使用できる。
【0116】
また、エポキシアクリレート系の光反応開始剤の使用の際、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等の増感剤を用いることができる。紫外線硬化型樹脂組成物に用いられる光反応開始剤また光増感剤は、該組成物100質量部に対して0.1〜15質量部であり、好ましくは1〜10質量部である。
【0117】
透明導電層を形成した離型性基板と透明基材とを接着(貼合)し、紫外線等を照射して接着剤を硬化した後に離型性基板を剥離することにより、透明導電層を透明基材側に転写することができる。ここで、接着方法は特に限定されることなく、シートプレス、ロールプレス等により行うことができるが、ロールプレス機を用いて行うことが好ましい。ロールプレスは、ロールとロールの間に接着すべきフィルムを挟んで圧着し、ロールを回転させる方法である。ロールプレスは均一に圧力がかけられ、シートプレスよりも生産性が良く好適に用いることができる。
【0118】
(パターニング)
本発明に係る第1電極はパターニングされていてもよい。パターニングの方法やプロセスには特に制限はなく、公知の手法を適宜適用することができる。例えば、離型面上にパターニングされた金属ナノワイヤや導電性ポリマー、あるいは透明導電性金属酸化物を含む層を形成した後、透明基材上に転写することによってパターニングされた第1電極を形成することができ、具体的には、以下のような方法を好ましく用いることができる。
【0119】
i)離型性基板上に印刷法を用いて、金属ナノワイヤや導電性ポリマーあるいは透明導電性金属酸化物を含む層をパターン様に直接形成する方法
ii)離型性基板上に金属ナノワイヤや導電性ポリマーあるいは透明導電性金属酸化物を含む層を一様に形成した後、一般的なフォトリソプロセスを用いてパターニングする方法
iii)紫外線硬化型樹脂を含む金属ナノワイヤや導電性ポリマーあるいは透明導電性金属酸化物を含む層を一様に形成した後、フォトリソプロセス様にパターニングする方法
iv)離型性基板上に予めフォトレジストで形成したネガパターン上に、本発明に係る金属ナノワイヤや導電性ポリマーあるいは透明導電性金属酸化物を含む層を一様に形成し、リフトオフ法を用いてパターニングする方法。
【0120】
上記のいずれの方法においても、離型性基板上でパターニングした金属ナノワイヤや導電性ポリマーあるいは透明導電性金属酸化物を含む層を透明基材上に転写することにより、パターニングされた第1電極を形成することができる。
【0121】
(第2電極)
本発明に係る第2電極は有機光電変換素子においては陰極となる。本発明に係る第2電極部は導電材単独層で合ってもよいが、導電性を有する材料に加えて、これらを保持する樹脂を併用してもよい。第2電極部の導電材としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。
【0122】
このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。
【0123】
これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。
【0124】
陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
【0125】
第2電極の導電材として金属材料を用いれば、第2電極側に来た光は反射されて第1電極側にもどる。第1電極の金属ナノワイヤは光の一部を後方に散乱あるいは反射するが、第2電極の導電材として金属材料を用いることでこの光が再利用可能となり、より光電変換効率が向上する。
【実施例】
【0126】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0127】
実施例1
《有機光電変換素子STC−1の作製》
(第1電極TC−1の作製)
バリア層を有するPENフィルム(全光透過率90%)上にITOを平均膜厚150nmで蒸着し、第1電極TC−1を作製した。
【0128】
第1電極TC−1上に、導電性高分子であるPEDOT/PSS(poly(3,4−ethylenedioxythiophene)−poly(styrenesulfonate))(Baytron P4083、H.C.Starck製)を30nmの膜厚でスピンコートした後、140℃で大気中10分間加熱乾燥した。
【0129】
これ以降は、基板をグローブボックス中に持ち込み、窒素雰囲気下で作業した。まず、窒素雰囲気下で上記基板を180℃で3分間加熱処理した。
【0130】
次に、クロロベンゼンにP3HT(ポリ−3−ヘキシルチオフェン)(リーケメタル製;Mn=45000、レジオレギュラータイプ、高分子p型半導体材料)1.0質量%、PCBM(6,6−フェニル−C61−ブチリックアシッドメチルエステル)(Mw=911、低分子n型半導体材料)を1.0質量%溶解した液を調製し、0.45μmのフィルターで濾過しながら500rpmで60秒、次いで2200rpmで1秒間のスピンコートを行い、室温で30分放置後、160℃で30分加熱した。
【0131】
次に、上記一連の有機発電層部を成膜した第1電極を真空蒸着装置内に設置した。2mm幅のシャドウマスクが第1電極と直交するように素子をセットし、10−3Pa以下にまでに真空蒸着機内を減圧した後、Alを80nm蒸着し、2mm角のサイズの有機光電変換素子STC−1を得た。
【0132】
得られた有機光電変換素子STC−1は、アノード電極及びカソード電極の外部取り出し端子が形成できるように、端部を除きカソード電極の周囲に接着剤を塗り、ポリエチレンテレフタレートを基材とした可撓性封止部材を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させた。
【0133】
《有機光電変換素子STC−2の作製》
第1電極TC−1上に、Niイソプロポキシドを乾燥後の膜厚が10nmにスピンコートした後、180℃で30分間加熱乾燥した。
【0134】
それ以降は、有機光電変換素子STC−1と同様にして有機光電変換素子STC−2を作製した。
【0135】
得られた有機光電変換素子STC−2は、アノード電極及びカソード電極の外部取り出し端子が形成できるように、端部を除きカソード電極の周囲に接着剤を塗り、ポリエチレンテレフタレートを基材とした可撓性封止部材を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させた。
【0136】
《有機光電変換素子STC−3の作製》
(金属ナノワイヤの調製)
金属ナノワイヤとして銀ナノワイヤを用いた。銀ナノワイヤは、Adv.Mater.,2002,14,833〜837に記載の方法を参考に、平均直径75nm、平均長さ35μmの銀ナノワイヤを作製し、限外濾過膜を用いて銀ナノワイヤを濾別、且つ水洗処理した後、エタノール中に再分散して、銀ナノワイヤ分散液(銀ナノワイヤ含有量5質量%)を調製した。
【0137】
(第1電極TC−3の作製)
離型性基材として、二軸延伸PETフィルムを用いた。該PETフィルム表面にコロナ放電処理を施した後、銀ナノワイヤ分散液を銀ナノワイヤの目付け量が80mg/mとなるように、アプリケータを用いて塗布し乾燥して、銀ナノワイヤネットワーク構造を形成した。
【0138】
更に、第二の透明樹脂成分として導電性ポリマーであるPEDOT/PSS(Baytron P4083、H.C.Starck製)を、乾燥膜厚が100nmとなるよう上記銀ナノワイヤネットワーク構造にオーバーコートし、乾燥した後、80℃で3時間熱処理した。これを転写用AgNW含有フィルムとする。
【0139】
次いで、バリア層と易接着層を有するPENフィルム(全光透過率90%)上に第一の透明樹脂成分として、下記UV硬化透明樹脂液1を5μmとなるように塗布した後、上記の転写用AgNW含有フィルムと貼合した。続いて、紫外線を照射して第一の透明樹脂成分を十分に硬化させた後、離型性基板であるPETフィルムを剥離することによって、転写用AgNW含有フィルム上に形成した層をPENフィルムに転写し、本発明に係る第1電極TC−3を作製した。
【0140】
〈UV硬化透明樹脂液1〉
SP−1(旭電化製) 3質量部
EP−1 20質量部
OXT221(東亞合成製) 40.4質量部
OXT212(東亞合成製) 25質量部
OXT101(東亞合成製) 3質量部
プロピレンカーボネート 3質量部
トリイソプロパノールアミン 0.1質量部
X−22−4272(信越シリコーン製) 0.5質量部
【0141】
【化1】

【0142】
第1電極TC−3上に、有機光電変換素子STC−2と同様にして有機光電変換素子STC−3を得た。
【0143】
得られた有機光電変換素子STC−3は、アノード電極及びカソード電極の外部取り出し端子が形成できるように、端部を除きカソード電極の周囲に接着剤を塗り、ポリエチレンテレフタレートを基材とした可撓性封止部材を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させた。
【0144】
《有機光電変換素子STC−4の作製》
第1電極TC−3上に、有機光電変換素子STC−3と同様にPEDOT/PSS層、光電変換層を形成した。
【0145】
次に、エタノールにTi−イソプロポキシドを0.05mol/Lになるように溶解した液を調製し、マスキングした後、膜厚20nmになるように塗布を行い、水蒸気量を調節した窒素中放置して電子輸送層を成膜した。
【0146】
上記一連の有機発電層部を成膜した第1電極を真空蒸着装置内に設置した。2mm幅のシャドウマスクが第1電極と直交するように素子をセットし、10−3Pa以下にまでに真空蒸着機内を減圧した後、2mm角のサイズの有機光電変換素子STC−4を得た。
【0147】
得られた有機光電変換素子STC−4は、アノード電極及びカソード電極の外部取り出し端子が形成できるように、端部を除きカソード電極の周囲に接着剤を塗り、ポリエチレンテレフタレートを基材とした可撓性封止部材を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させた。
【0148】
《有機光電変換素子STC−5の作製》
有機光電変換素子STC−4の作製において、Niイソプロポキシドを乾燥後の膜厚が6nmにスピンコートした以外は同様にして、有機光電変換素子STC−5を作製した。
【0149】
《有機光電変換素子STC−6の作製》
(第1電極TC−6の作製)
第1電極TC−3おいて、PEDOT/PSSの代わりに下記透明性無機成分含有液B−1を用いて、その乾燥膜厚を200nmとした以外は同様にして、第1電極TC−6を作製した。
【0150】
〈透明性無機成分含有液B−1〉
SbドープSnO微粒子((株)石原産業製SN100D、固形分30%)
160g
化合物(UL−1) 0.2g
変性ポリエステルA(固形分18%) 30g
水で1000mlに仕上げる。
【0151】
【化2】

【0152】
(変性水性ポリエステルAの合成)
重縮合用反応容器に、テレフタル酸ジメチル35.4質量部、イソフタル酸ジメチル33.63質量部、5−スルホ−イソフタル酸ジメチルナトリウム塩17.92質量部、エチレングリコール62質量部、酢酸カルシウム一水塩0.065質量部、酢酸マンガン四水塩0.022質量部を投入し、窒素気流下において、170〜220℃でメタノールを留去しながらエステル交換反応を行った後、リン酸トリメチル0.04質量部、重縮合触媒とし三酸化アンチモン0.04質量部及び1,4−シクロヘキサンジカルボン酸6.8質量部を加え、220〜235℃の反応温度で、ほぼ理論量の水を留去しエステル化を行った。
【0153】
その後、更に反応系内を約1時間かけて減圧、昇温し、最終的に280℃、133Pa以下で約1時間重縮合を行い、変性水性ポリエステルAの前駆体を得た。前駆体の固有粘度は0.33であった。
【0154】
攪拌翼、環流冷却管、温度計を付した2Lの三つ口フラスコに、純水850mlを入れ、攪拌翼を回転させながら、150gの上記前駆体を徐々に添加した。室温でこのまま30分間攪拌した後、1.5時間かけて内温が98℃になるように加熱し、この温度で3時間加熱溶解した。加熱終了後、1時間かけて室温まで冷却し、一夜放置して、固形分濃度が15質量%の溶液を調製した。
【0155】
攪拌翼、環流冷却管、温度計、滴下ロートを付した3Lの四つ口フラスコに、上記前駆体溶液1900mlを入れ、攪拌翼を回転させながら、内温度を80℃まで加熱した。この中に、過硫酸アンモニウムの24%水溶液を6.52ml加え、単量体混合液(メタクリル酸グリシジル28.5g、アクリル酸エチル21.4g、メタクリル酸メチル21.4g)を30分間かけて滴下し、更に3時間反応を続けた。その後、30℃以下まで冷却し、濾過して、固形分濃度が18質量%の変性水性ポリエステルAの溶液を調製した(ポリエステル成分/アクリル成分=80/20)。
【0156】
有機光電変換素子STC−4の作製において、第1電極をTC−3からTC−6に変更した以外は同様にして、有機光電変換素子STC−6を作製した。
【0157】
得られた有機光電変換素子STC−6は、アノード電極及びカソード電極の外部取り出し端子が形成できるように、端部を除きカソード電極の周囲に接着剤を塗り、ポリエチレンテレフタレートを基材とした可撓性封止部材を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させた。
【0158】
《有機光電変換素子STC−7の作製》
有機光電変換素子STC−3の作製において、第1電極TC−1上にNiイソプロポキシドを乾燥後の膜厚が10nmにスピンコートした後、180℃で30分間加熱乾燥により作製した本発明の電子ブロック層の代わりに、LPD法により乾燥後の膜厚が10nmになるようにNiO層を形成した以外は同様にして、有機光電変換素子STC−7を作製した。
【0159】
得られた有機光電変換素子STC−7は上記と同様にして、アノード電極及びカソード電極の外部取り出し端子が形成できるように、端部を除きカソード電極の周囲に接着剤を塗り、ポリエチレンテレフタレートを基材とした可撓性封止部材を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させた。
【0160】
〔有機光電変換素子の評価〕
《光電変換効率》
ガラス製の封止キャップとUV硬化樹脂を用いて封止を行った有機光電変換素子に、ソーラシュミレーター(AM1.5G)の光を100mW/cmの強度で照射して、電圧−電流特性を測定し、光電変換効率を求めた。即ち、各有機光電変換素子について、I−Vテスターを用いて室温にて電流−電圧特性を測定し、短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、及び形状因子(F.F.)を求め、これらから光電変換効率(η(%))を求めた。なお、太陽電池の光電変換効率(η(%))は、下記式(A)に基づいて算出した。η=100×(Voc×Jsc×F.F.)/P・・・(A)
ここで、Pは入射光強度[mW/cm−2]、Vocは開放電圧[V]、Jscは短絡電流密度[mA・cm−2]、F.F.は形状因子を示す。
【0161】
《曲げ耐性(曲げ後のエネルギー変換効率保持度)》
得られた有機光電変換素子を2inchφ(1inchは2.54cmである)の棒に表裏30回ずつ巻きつけた前後のエネルギー変換効率の変化を、巻きつける前のエネルギー変換効率に対し、巻きつけた後のエネルギー変換効率を保持率として計算し、表1に示した。
【0162】
保持率=巻き付け後のエネルギー変換効率/巻き付け後のエネルギー変換効率×100(%)
【0163】
【表1】

【0164】
表1から、本発明の有機光電変換素子が、高い光電変換効率を有していることが分かる。特に、本発明の導電性繊維からなる第1電極やカソードと光電変換層の間にブロック機能を有す電子輸送層を設けた構成が、より好ましいことが分かる。また、巻きつけ前後のエネルギー変換効率の保持度から、LPD法で作製した電子ブロック層を有する有機光電変換素子は保持度の低下が見られるのに対して、本発明の構成を有す有機光電変換素子では、曲げ耐性が向上していることが分かった。
【0165】
実施例2
《p型半導体材料の前駆体A》
Chemical Communications,Vol.22(1999),p2275に従って、p型半導体材料のBP−1前駆体を得た。
【0166】
【化3】

【0167】
《有機光電変換素子STC−21〜26の作製》
有機光電変換素子STC−1〜6の作製において、P3HT1.0質量%の代わりに、上記BP−1前駆体1.2質量%を用いた以外は同様にして、有機光電変換素子STC−21〜26を得た。
【0168】
実施例1と同様に評価したところ、本発明の効果が得られることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】本発明に係る透明導電層を有する第1電極の構造模式図である。
【図2】本発明に係る透光性を有する第1電極の別の構造模式図である。
【図3】本発明のバルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子を示す断面図である。
【符号の説明】
【0170】
1 金属ナノワイヤ
2 第2透明樹脂成分含有部あるいは透明無機成分含有部
3 第1透明樹脂
4 第1電極
10 バルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子
11 透明基板
12 第1電極
13 第2電極
14 光電変換層
15 電子ブロック層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に少なくとも第1電極、光電変換層、第2電極をそれぞれ有する有機光電変換素子において、該第1電極と該光電変換層の間に湿式法により形成されたp型金属酸化物からなる電子ブロック層が設けられていることを特徴とする有機光電変換素子。
【請求項2】
前記電子ブロック層がアモルファスNiOからなることを特徴とする請求項1に記載の有機光電変換素子。
【請求項3】
前記第1電極の表面が導電性繊維と透明導電性材料から構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機光電変換素子。
【請求項4】
前記導電性繊維が金属ナノワイヤ及びカーボンナノチューブの群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の有機光電変換素子。
【請求項5】
前記透明導電性材料が導電性高分子及び導電性金属酸化物微粒子の群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3または4に記載の有機光電変換素子。
【請求項6】
大気圧下において、基板上に第1電極を形成した後、湿式法により電子ブロック層を設け、その上に光電変換層、第2電極を設けることを特徴とする有機光電変換素子の製造方法。
【請求項7】
前記湿式法による電子ブロック層がアモルファスNiOであることを特徴とする請求項6に記載の有機光電変換素子の製造方法。
【請求項8】
前記アモルファスNiOからなる電子ブロック層がNiアルコキシド溶液を塗布し、常温乾燥することにより形成されることを特徴とする請求項7に記載の有機光電変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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