説明

有機半導体分子の配向制御方法及び有機薄膜太陽電池

【課題】光エネルギーから電気エネルギーへの変換効率を上げた有機半導体層を有する有機薄膜太陽電池を提供すること。
【解決手段】有機半導体層を有する有機薄膜太陽電池において、該有機半導体層を構成する有機半導体分子の配向を制御して変換効率を上げたことを特徴とする有機薄膜太陽電池により課題を解決した。有機半導体層を構成する有機半導体分子の配向制御が、配向制御剤を含有する配向制御層を、該有機半導体層に隣接して又は仲介層を介して設けることによってなされている有機薄膜太陽電池により課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜太陽電池に関し、更に詳細には、有機半導体層を構成する有機半導体分子の配向を制御することによって変換効率を上げた有機薄膜太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機受光デバイスとりわけ有機薄膜太陽電池については、複数種類の有機半導体からなる有機半導体層(i層)を、n型、p型の有機又は無機の半導体層でサンドイッチ状に挟み込んだ多層構造が知られている(非特許文献1)。
【0003】
このp型の有機半導体には、主に、フタロシアニン誘導体、ペンタセン誘導体等が用いられている。一方、n型の半導体には、主に、ペリレン誘導体、フッ素化フタロシアニン誘導体、C60誘導体、C70誘導体等が用いられている。
【0004】
また、受光層として作用するi層には、電子正孔対を高い確率で分離する効率(電荷分離効率)と低い直列抵抗が求められる。このため、一般的にi層には、界面で高い電荷分離効率を示すn型とp型の有機半導体が用いられている。
【0005】
そしてi層における電荷分離効率を上げるため、一方の有機半導体を微結晶とし、他方の有機半導体をアモルファス状態にして、前記一方の有機半導体の微結晶の表面を均一に覆った構造が知られている(特許文献1)。また、そのような構造を温度を制御して形成させる方法も知られている(特許文献2)。
【0006】
しかしながら、従来知られているi層の場合、受光層における電荷分離効率はある程度向上するが、一方で複数種類の有機分子の混在に伴い、i層内部の結晶状態が乱れ、その結果、直列抵抗が高くなり、変換効率が十分に上がらないという問題が生じていた。
【0007】
従って、有機薄膜太陽電池においては、受光層における電荷分離効率を更に向上させ、また、直列抵抗を低く抑える技術が望まれていた。
【非特許文献1】Appl. Phys. Lett. 58巻, 1062頁 (1991)
【特許文献1】特開2002−076391号公報
【特許文献2】特開2002−076027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、光エネルギーから電気エネルギーへのエネルギー変換効率を上げた有機半導体層を有する有機薄膜太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、有機薄膜太陽電池において、有機半導体分子の配向を制御して変換効率を上げることを見出した。また、配向制御層を設けることによって、その上に形成される有機半導体層中の有機半導体の分子面が特定の方向に配向し、それによって、吸光度が上がり、直列抵抗が下がり、結果として変換効率を上げることができることを見出し本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明は、有機半導体分子で構成された有機半導体層を有する有機薄膜太陽電池において、配向制御剤を含有する配向制御層を設けることを特徴とする該有機半導体分子の配向制御方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、有機半導体層を有する有機薄膜太陽電池において、該有機半導体層を構成する有機半導体分子の配向を制御して変換効率を上げたことを特徴とする有機薄膜太陽電池を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、有機半導体層を有する有機薄膜太陽電池において、有機半導体層を構成する有機半導体分子の配向制御を、配向制御剤を含有する配向制御層を設けることによって行うことを特徴とする有機薄膜太陽電池の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、配向制御剤を含有する配向制御層を、有機半導体層に隣接して又は仲介層を介して設けることによって、i層等の有機半導体層の吸光度を上げることができ、また、その直列抵抗を下げることができ、結果として光エネルギーから電気エネルギーへのエネルギー変換効率が高い有機薄膜太陽電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、有機薄膜太陽電池において、有機半導体層を構成する有機半導体分子の配向を制御して光エネルギーから電気エネルギーへのエネルギー変換効率(以下、「変換効率」と略記する)を上げたことを特徴とする有機薄膜太陽電池である。変換効率を上げるためには、層構成や分子の結晶化状態等に限っても、背景技術に記載したように種々の方法があり、更に有機半導体の分子構造自体を検討することも可能である。このように無数にある変換効率を向上させる方法のうち、有機半導体分子の層中での配向を制御して変換効率を向上させようとしたこと自体も本発明の特徴である。
【0015】
そして具体的には、有機半導体層を構成する有機半導体分子の配向制御は、配向制御剤を含有する配向制御層を、該有機半導体層に隣接して設けることによってなされる(以下、これを使用したものを「態様1」とする)。また、有機半導体層を構成する有機半導体分子の配向制御が、配向制御剤を含有する配向制御層を該有機半導体層に、1又は2以上の仲介層を介して設けることによってもなされる(以下、これを使用したものを「態様2」とする)。
【0016】
[態様1について]
態様1は、有機半導体分子の配向制御をそれに隣接する配向制御層によって行うものである。配向制御される有機半導体は、p型でもn型でもよい。p型有機半導体としては、配向制御されれば特に限定はないが、具体的には例えば、中心に金属を有さないメタルフリーフタロシアニン(以下、「HPc」と略記する)、中心に種々の金属を有する金属フタロシアニン、種々の置換基が結合した(金属)フタロシアニン誘導体等のフタロシアニン誘導体;ペンタセン誘導体等が挙げられる。
【0017】
n型の有機半導体としては、配向制御されれば特に限定はないが、具体的には例えば、ペリレン顔料、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸無水物[3,4,9,10-perylene tetracarboxilic dianhydride、以下「PTCDA」と略記する]等のペリレンカルボン酸無水物類;N,N’−ジメチル−ペリレン−3,4,9,10−ビス(ジカルボキシイミド)[N,N'-dimethyl-perylene-3,4,9,10-bis(dicarboximide)、以下「Me−PTC」と略記する)、N,N’−ジ−n−ブチル−ペリレン−3,4,9,10−ビス(ジカルボキシイミド)[N,N'-di-n-butyl-perylene-3,4,9,10-bis(dicarboximide)、以下「n−Bu−PTC」と略記する)、N,N’−ジ−tert−ブチル−ペリレン−3,4,9,10−ビス(ジカルボキシイミド)[N,N'-di-tert-butyl-perylene-3,4,9,10-bis(dicarboximide)、以下「t−Bu−PTC」と略記する)等のイミドの窒素原子にアルキル基が置換したアルキル置換ペリレンカルボキシイミド類;N,N’−ビス(2',5'−tert−ブチルフェニル)−ペリレン−3,4,9,10−ビス(ジカルボキシイミド)[N,N'-bis(2',5'-tert-butylphenyl)-perylene-3,4,9,10-bis(dicarboximide)、以下「t−BuPh−PTC」と略記する)等のイミドの窒素原子に、(アルキル基等の置換基を有していてもよい)フェニル基等が置換したアリール置換ペリレンカルボキシイミド類;N,N’−ビス(フェニルエチル)−ペリレン−3,4,9,10−ビス(ジカルボキシイミド)[(N,N'-bis(phenylethyl)-perylene-3,4,9,10-bis(dicarboximide)、以下「PhEt−PTC」と略記する)等のイミドの窒素原子にフェニルアルキル基等が置換したアリールアルキル置換ペリレンカルボキシイミド類;Im−PTC等のペリレン誘導体;フッ素化フタロシアニン誘導体;C60誘導体、C70誘導体等のフラーレン誘導体等が挙げられる。
【0018】
本発明においては、ペンタセン誘導体、フタロシアニン誘導体、ペリレン誘導体等の表現は、かかる基本的な環構造を有している化合物全てを含み、置換基等を有するもののほか、それぞれペンタセン自体、フタロシアニン自体、ペリレン自体等をも含めて意味するものとする。また、フタロシアニン誘導体には、金属フタロシアニン誘導体もメタルフリーフタロシアニン誘導体も含まれ、ペリレン誘導体等には、ペリレンカルボン酸無水物誘導体も、ペリレンカルボキシイミド誘導体等も含まれるものとする。
【0019】
配向制御される有機半導体は、分子構造が比較的平面状のものが配向制御されやすいので好ましく、フタロシアニン誘導体、ペリレン誘導体が特に好ましい。中でも、配向制御のされやすさから、メタルフリーフタロシアニン、金属フタロシアニン等のフタロシアニン誘導体が更に好ましい。
【0020】
また、態様1において、配向制御される層は、p型有機半導体を含有するp層でも、n型有機半導体を含有するn層でも、2種以上の有機半導体を含有するi層でもよい。本発明は、有機半導体分子を配向制御して、有機太陽電池の吸光度を上げるものであるから、一般に受光層と言われ光を吸収して電子とホールを形成するi層の吸光度を上げるため、i層を配向制御することが好ましい。また、本発明は、有機半導体分子を配向制御して、有機太陽電池の電導度を上げるものであるから、一般に電導度が低く律速になっているi層を配向制御することが好ましい。特に好ましくは、i層中のメタルフリーフタロシアニン等のフタロシアニン誘導体を配向制御することである。
【0021】
配向の方向については、入射光に対して配向制御される有機半導体分子の分子面が垂直、すなわち、基板や配向制御層に対して分子面が水平に配向しやすいし、その方向に配向させることが好ましい。このように配向させることで、入射光の電場ベクトル(入射光に対して垂直)が有機半導体分子の可視光の遷移モーメント(分子面に対して平行)と一致するので吸光度を上げることができる。また、一般に分子面に垂直な方向に分子が重なりあって結晶化し、重なり方向(分子面に垂直方向)の電導度が高いので、このように有機半導体分子を配向させることで、配向制御される層の垂直方向の電導度を上げることができる。
【0022】
例えば、i層を構成するp型有機半導体とn型有機半導体の比率は、特に限定はないが、どちらか又は両方が微結晶となるような比率にすることが好ましく、両方が微結晶となるような比率にすることが、本発明の配向の効果と相俟って吸光度や電導度を上げられる点で特に好ましい。共蒸着で形成させる場合には、このような比率で同一基板に同時に蒸着させて形成させることが好ましい。
【0023】
配向制御される有機半導体は、層中で微結晶の状態で存在することが好ましい。例えば、p型半導体としてHPcと、n型半導体としてPTCDAとからなるi層の場合は、2:1〜1:2(質量比)の範囲のとき、HPcとPTCDAの何れもが微結晶状態となるので、その範囲の量でi層中に存在させることが好ましい。すなわち、その範囲の比で共蒸着等してi層を形成することが好ましい。
【0024】
微結晶の状態で層中に存在させることによって、結晶自体が分子面に垂直方向に成長しやすいので(分子面に垂直方向の格子定数が一般に最も小さく、格子定数の小さい方向に結晶が成長しやすいので)、結晶全体の配列によっても、分子面を基板に平行に配向させることに寄与できる。HPcの場合、b軸が分子面に垂直方向、すなわち分子の重なり方向なので、b軸が基板に垂直であるように結晶成長しやすいし、そのように結晶成長させることが好ましい。このように成長した微結晶の集まりで層が形成されているとき、分子面のほとんどが基板に水平、入射光に対して垂直、入射光の電場ベクトルに対して水平になるので、吸光度や電導度を大きくできる点から特に好ましい。
【0025】
配向制御剤を含有する配向制御層は基板の上に形成され、その上に形成される層中の分子配向を上述のように制御する。配向制御剤としては、その上に形成される層中の分子配向を制御するものであれば特に限定はないが、基板に対して平行に配向する性質を有するものが好ましい。基板に対して平行に配向すれば、その状態が配向制御層の上部まで維持され、更にその上に形成される層中の有機半導体分子も基板に対して、上述のように平行に配向させることができる。
【0026】
配向制御剤としては、平面状の有機分子であることが、基板に対して平行に配向しやすいので好ましい。また、酸無水物及び/又は縮合環を有していることが、透明導電膜である酸化物基板上に水平に配向しやすいので特に好ましい。更にまた、p型又はn型有機半導体であることも、配向制御層がp層又はn層を兼ねることができるので好ましい。具体的には、ペリレン顔料、ペリレン誘導体等が特に好ましい。ここでペリレン誘導体の定義は上記した通りであり、ペリレンカルボン酸無水物誘導体も、ペリレンカルボキシイミド誘導体等も含まれる。具体的には、PTCDA等のペリレンカルボン酸無水物類;Me−PTC、n−Bu−PTC、t−Bu−PTC等のイミドの窒素原子にアルキル基が置換したアルキル置換ペリレンカルボキシイミド類;t−BuPh−PTC等のイミドの窒素原子に、(アルキル基等の置換基を有していてもよい)フェニル基等が置換したアリール置換ペリレンカルボキシイミド類;PhEt−PTC等のイミドの窒素原子にフェニルアルキル基等が置換したアリールアルキル置換ペリレンカルボキシイミド類;Im−PTC等のペリレン誘導体等が好ましい。このうち、隣接する層中の有機半導体分子の配向を制御しやすい点で、PTCDAが特に好ましい。
【0027】
配向制御層は、それ自体がp層又はn層であってもよく、また、別途設けてもよい。別途設ける場合には、その厚さは、0.3nm以上が好ましく、1.5nm以上が特に好ましく、10nm以上が更に好ましい。また、1μm以下が好ましく、0.3μm以下が特に好ましく、0.1μm以下が更に好ましい。厚さが小さすぎる場合には、配向の度合いが低下する場合があり、厚さが大きすぎる場合には、配向制御層自体の電気抵抗が増大し、配向によるp層又はn層の電気抵抗低下を打ち消してしまう場合がある。
【0028】
配向制御層自体がp層又はn層であるときは、p層又はn層として通常知られている厚さでよい。すなわち、その厚さは、p層であってもn層であっても、0.3nm以上が好ましく、1.5nm以上が特に好ましく、10nm以上が更に好ましい。また、1μm以下が好ましく、0.3μm以下が特に好ましく、0.1μm以下が更に好ましい。厚さが小さすぎる場合には、配向の度合いが低下する場合があり、厚さが大きすぎる場合には、電気抵抗が増大する場合ある。なお、PTCDAを配向制御剤として用いた配向制御層の場合、それ自体がn層であることも好ましい。
【0029】
[態様2について]
次に態様2について述べる。態様2は、有機半導体層を構成する有機半導体分子の配向制御を、配向制御剤を含有する配向制御層を該有機半導体層に1又は2以上の仲介層を介して行う態様である。態様2の場合、配向制御される有機半導体や配向制御される層については上記態様1と同様である。また、配向制御剤や配向制御層についても上記態様1と同様である。すなわち、配向制御される層は、p型有機半導体を含有するp層でも、n型有機半導体を含有するn層でも、2種以上の有機半導体を含有するi層でもよい。配向制御層も、それ自体がp層又はn層であってもよく、また、別途設けてもよい。また、好ましい配向制御剤や配向制御層の厚さ等も態様1と同様である。
【0030】
仲介層は、配向制御層を構成する有機分子がその分子面を基板に平行に配向している性質を、仲介層の上に形成された層にまで伝達する層である。p層、n層又はi層の何れでも仲介層になり得るが、有機薄膜太陽電池の構成上、好ましくは、配向を制御される有機半導体分子を含有する有機半導体層がp層又はn層であり、仲介層の1つがi層であるものである。仲介層を構成する有機分子の少なくとも1種は、配向制御層の上記性質を更に上の層まで伝達するために、平面状の分子であることが好ましい。
【0031】
更に、仲介層を構成する有機分子の少なくとも1種は、p型有機半導体又はn型有機半導体であることが、仲介層自体がp層、n層又はi層になるので好ましい。また、仲介層が、そこに含有されている少なくとも1種の有機半導体が微結晶状態であるものであることが、仲介層の下の層の配向状態を仲介層の上の層にまで良好に伝達するために好ましい。
【0032】
態様2で使用されるp型有機半導体、n型有機半導体としては、態様1で記載したものと同様のものが挙げられる。
[態様1と態様2に共通事項について]
【0033】
本発明における、それぞれ重複していてもよい配向制御層、仲介層、配向が制御される層、p層、n層及びi層の形成方法は特に限定はないが、真空蒸着法(有機分子線蒸着法)、有機気相成長法、有機気相ジェットプリンティング法等が好ましいものとして挙げられる。2種以上の有機半導体からなる有機半導体層は、2種以上の異なった有機半導体を同一基板に同時に蒸着して作製することが好ましい。
【0034】
層形成中の基板の温度は特に限定はないが、用いる有機半導体分子が配向しやすい最適温度に設定することにより、分子配向を達成する。一般には各層共通の温度として、通常−200℃以上、300℃以下であるが、100℃以下が好ましく、80℃以下が特に好ましい。更に特に、配向制御層、仲介層及び配向が制御される層については、層形成中の基板の温度を下げることにより、配向膜が凝集せず均一になり配向を促進させるために好ましい。具体的には、40℃以下が好ましく、27℃以下が特に好ましく、0℃以下が更に好ましい。
【0035】
材料源に対する基板の角度(蒸着の場合は、蒸着源に対する基板の角度)は、上記種々の半導体分子が最も配向しやすい角度に設定すれば特に限定はなく、それぞれの半導体分子によって調節される。一般には垂直が用いられるが、本発明においては、有機半導体分子の配向を実現させるために、有機半導体分子の種類や上記層形成方法ごとに、それぞれ最適の角度が設定され、90°未満が好ましい。蒸着速度は、有機分子が配向するよう選択されるが、分子配向が良好になる点で1Å/s程度以下が好ましい。蒸着速度を上げすぎた場合、蒸着源からの輻射熱により基板温度が上昇し配向膜の均一性が悪化したり、蒸着物が配向膜の内部に拡散するようになり、結果として有機分子の配向が悪化する可能性がある。
【0036】
有機気相成長法又は有機気相ジェットプリンティング法を用いる場合には、有機半導体を輸送するキャリアガスの種類、純度、濃度、成長速度等を調節する。キャリアガスの種類については、好ましくは窒素又はアルゴンであり、キャリアガスの純度は、99.9%以上が好ましく、99.99%以上であることが本発明の配向を実現させるために特に好ましい。
【0037】
本発明の各層がその上に設けられる基板は、透明導電膜又は金属であることが有機薄膜太陽電池の構成上好ましく、本発明の場合、透明導電膜としては金属酸化物膜であることが好ましい。具体的には、酸化亜鉛、酸化マグネシウム亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム、酸化チタン、酸化ニッケル、酸化ガリウム等の酸化物;インジウム、マグネシウム等の金属等が挙げられる。一般に酸化物上では、有機分子は垂直に配向しやすいが、上記した配向制御剤は、酸化物膜上でも水平に配向しやすいので好ましい。また、基板が金属であることも金属上の有機分子が水平に配向しやすいので好ましい。
【0038】
本発明においては、有機半導体の種類ごとに、基板の種類・物性、要すれば基板の前処理(基板上に更にもう1層設けることも含む)、層形成方法、層形成時の基板温度、材料源に対する基板の角度等を工夫・調節して、配向を促進させることによって、以下の物性を有する層を形成させることができ、そのときに優れた有機薄膜太陽電池が提供できる。
【0039】
すなわち、有機半導体分子の配向が制御された層(以下「層(a)と略記する)を有する有機薄膜太陽電池であって、層(a)を最表面に露出させて測定した面外方向のX線回折パターンにおいて、銅Kα線を用いた時の回折角2θが27°±3°に現れる回折ピークの強度が、2θが5°〜30°の範囲で最大となるように有機半導体分子の配向が制御された層(a)を有する有機薄膜太陽電池が好ましい。
【0040】
層(a)は、配向が制御される層であるが、層(a)に接して(層(a)のすぐ下に)配向制御層があっても、仲介層を介して配向制御層があってもよい。層(a)を最表面に露出させて測定したとき上記要件を満たすとは、層(a)の上に更に層を設けて有機薄膜太陽電池を構成する場合には、その上の層を形成させる前、層(a)を形成させた段階で、すなわち層(a)が表面にある段階で得たX線回折パターンが上記要件を満たしていることを意味する。
【0041】
2θ=27°±3°は、結晶において平面有機半導体分子の面間隔に該当している。面外方向(out-of-plane回折、Seemann Bohlin法)のX線回折パターンであるから、層に水平に平面有機半導体分子が強く配向しているほど、2θ=27°±3°の回折ピークが大きくなる。そして、その回折ピークが、2θが5°〜30°の範囲で最大となるように、上記層形成条件を工夫して有機半導体分子を配向させれば、吸光係数や電導度が高く変換効率のよい有機薄膜太陽電池が得られる。この場合、平面有機半導体分子としては特に限定はないが、HPc、PTCDA等が好ましい。
【0042】
層(a)を最表面に露出させて測定した面外方向のX線回折において、銅Kα線を用いた時の回折角2θが6.7°±1°に、実質的にピークが現れないように有機半導体分子の配向が制御された層(a)を有する有機薄膜太陽電池も好ましい。この場合、有機半導体分子としては、フタロシアニン誘導体が好ましく、HPcが特に好ましい。
【0043】
用語や表現の意味は上記と同じである。2θ=6.7°±1°は、アルファ型HPc結晶の(200)面(回折面間隔26Å)からの回折に対応する。この回折ピークの強度が大きいことは、HPcの分子面が基板表面に対しほぼ垂直になっている割合が大きいことを示している。そして、その回折ピークが実質的に現れないように、上記層形成条件を工夫して有機半導体分子を配向させれば、吸光係数や電導度が高く変換効率のよい有機薄膜太陽電池が得られる。
【0044】
層(a)を最表面に露出させて測定した面内方向のX線回折において、銅Kα線を用いた時の回折角2θχが27°±3°に、実質的にピークが現れないように有機半導体分子の配向が制御された層(a)を有する有機薄膜太陽電池も好ましい。この場合、有機半導体分子としては特に限定はないが、HPc、PTCDA等が好ましい。
【0045】
用語や表現の意味は上記と同じである。2θ=27°±3°は、結晶においてHPc、PTCDA等の平面有機半導体分子の面間隔に該当している。面内方向(in-plane回折、GIXD法)のX線回折パターンであるから、層に垂直に平面有機半導体分子が強く配向しているほど2θ=27°±3°の回折ピークが大きくなる。そして、その回折ピークが実質的に現れないように、上記層形成条件を工夫して有機半導体分子を配向させれば、吸光係数や電導度が高く変換効率のよい有機薄膜太陽電池が得られる。
【0046】
平滑表面上に、順次、金反射膜、二酸化ケイ素薄膜を形成した基板上に、配向制御層を作成し、更にその上に、有機半導体分子を含有する厚さ0.3μmの層(b)を作成した試料について、基板法線を基準とした入射角70°以上のp偏向赤外光を用いて測定した赤外反射吸収スペクトルにおいて、740cm−1近傍のC−H面外変角振動に帰属されるピーク強度が、1120cm−1近傍のC−H面内変角振動に帰属されるピーク強度に対して5倍以上となるように配向制御された層(b)と、厚さ以外は同一の方法で作成された層(a)を有する有機薄膜太陽電池も好ましい。
【0047】
かかる有機薄膜太陽電池は態様1に対応している。平滑表面上に、順次、金反射膜、二酸化ケイ素薄膜を形成した基板は、実際の有機薄膜太陽電池には用いられないが、この基板は配向制御方法、層形成方法を特定するために用いられている。すなわち、この基板上に形成した層(b)(すなわち、有機半導体分子の配向が制御された層)の、p偏向赤外光による赤外反射吸収スペクトルによって、層(b)の形成方法を特定し、そのような層(b)と同様の方法で、実際の有機薄膜太陽電池用の層(a)を形成すると優れた有機薄膜太陽電池が得られる。かかる基板で配向制御方法を特定せざるを得ないのは、金反射膜がないと赤外反射吸収スペクトルが得られないからである。また、層(b)の厚さ0.3μmは、実際の有機薄膜太陽電池用の層の厚さとしては大きいが、これは配向制御方法を特定するだけのものであり、これだけの厚さがないと赤外反射吸収スペクトルが得られないからである。本発明においては、実際には、厚さ0.3μmの層(b)の作成方法と同様の方法で、膜厚の薄い層(a)を形成させて有機薄膜太陽電池を製造する。
【0048】
基板法線を基準とした入射角70°以上のp偏向赤外光を用いた赤外反射吸収スペクトルであるから、740cm−1近傍のC−H面外変角振動に帰属されるピーク強度が、1120cm−1近傍のC−H面内変角振動に帰属されるピーク強度と比較して大きいほど、有機半導体分子面が基板に水平に配向制御されていることになる。そして、その比が5倍以上となるように、上記層形成条件を工夫して有機半導体分子を配向させれば、吸光係数や電導度が高く変換効率のよい有機薄膜太陽電池が得られる。特に好ましくは、7倍以上であり、更に好ましくは10倍以上である。
【0049】
平滑表面上に、順次、金反射膜、二酸化ケイ素薄膜を形成した基板上に、順次、配向制御層、仲介層を作成し、更にその上に、有機半導体分子を含有する厚さ0.3μmの層(b)を作成した試料について、基板法線を基準とした入射角70°以上のp偏向赤外光を用いて測定した赤外反射吸収スペクトルにおいて、740cm−1近傍のC−H面外変角振動に帰属されるピーク強度が、1120cm−1近傍のC−H面内変角振動に帰属されるピーク強度に対して5倍以上となるように配向制御された層(b)と厚さ以外は同一の方法で作成された層(a)を有する有機薄膜太陽電池も好ましい。
【0050】
かかる有機薄膜太陽電池は態様2に対応している。すなわち、層(a)の配向制御が仲介層を介してなされているものも好ましい。特に好ましいピーク強度比、更に好ましいピーク強度比等は上記と同じである。
【0051】
フタロシアニン誘導体からなる層を有する有機薄膜太陽電池であって、該層の630nmにおけるフタロシアニン誘導体に起因する吸光係数が、6×10cm−1以上である有機薄膜太陽電池も好ましい。特に好ましくは、8×10cm−1以上である有機薄膜太陽電池である。
【0052】
フタロシアニン誘導体からなる層の、630nmにおけるフタロシアニン誘導体に起因する吸光係数が、6×10cm−1以上、好ましくは8×10cm−1以上になるように、上記層形成条件を工夫して有機半導体分子を配向させれば、吸光係数や電導度が高く変換効率のよい有機薄膜太陽電池が得られる。
【0053】
フタロシアニン誘導体に起因する吸光係数の測定方法は、厚くフタロシアニンからなる層を形成し、その吸光度(Absorbance)を測定すれば、厚い層の吸光度が支配的になるので、厚さで割って吸光係数を算出することができる。そして、そのような形成方法と同様の層形成方法で実際の有機薄膜太陽電池を製造すれば、有機半導体分子の配向が制御されて変換効率のよい有機薄膜太陽電池が得られる。
【0054】
フタロシアニン誘導体とは、中心に金属を有さないフタロシアニン、中心に種々の金属を有する金属フタロシアニン、種々の置換基が結合した(金属)フタロシアニン誘導体等を指すが、好ましくは、HPcである。
【0055】
有機半導体層を挟み込む金属電極は、互いに仕事関数の異なる金属からなることが好ましい。有機半導体層を複数層で構成することもできる。その場合、有機半導体層をn型、p型の有機又は無機の半導体層でサンドイッチ状に挟み込み、金属電極はそれらの半導体層の外側に配置するとともに、その金属電極の材質は接している半導体層とオーミック接合をとれる金属からなるような構造にすることが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下に、図1を用いて本発明の層構成を、特に好ましい具体例を挙げて具体的に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の構成に限定されるものではない。
【0057】
[具体的層構成]
図1(a)は、態様1の層構成の具体例であり、金属酸化膜である透明導電膜\配向制御層\i層\金属電極からなる有機薄膜太陽電池である。本発明において、一般に「層r\層s」という表現は、先ず層rを形成し、その後その上に層sを形成させたことによって、層rの上に層sが存在している状態を示す。3層以上の場合も同様である。また、以下、同様である。
【0058】
透明導電膜は、酸化錫インジウムの膜である。配向制御層は、PTCDAを配向制御剤として真空蒸着法で、0.3nm〜50nmの範囲の膜厚で形成される。その後その上に、i層を、HPcとPTCDAを1:1(質量比)で、5nm〜100nmの範囲の膜厚になるよう共蒸着することで設け、その上に金属電極を設けてある。各層を形成させるときには、基板温度、基板の角度、蒸着速度等を有機分子が配向しやすいように調整する。配向制御層中のPTCDA、i層中のHPcとPTCDAは、何れもその分子面を基板に水平にして配向している。
【0059】
図1(b)は、態様2の具体例であり、透明導電膜\配向制御層\(p層又はn層)\i層\(n層又はp層)\金属電極からなる有機薄膜太陽電池である(「又は」の前後は同順である)。透明導電膜、配向制御層、i層、金属電極の種類、膜厚、配向方法については、(a)と同様である。すべて真空蒸着法で形成される。各層を形成させるときには、基板温度、基板の角度、蒸着速度等を有機分子が配向しやすいように調整する。
【0060】
p層はHPcで、0.5nm〜300nmの範囲の膜厚で形成され、n層はPTCDAであり、0.5nm〜300nmの範囲の膜厚で形成される。
【0061】
配向制御層に隣接した(p層又はn層)を構成する有機半導体分子は、分子面を基板に水平に配向しているのは前述と同様であるが、更にi層を構成する有機半導体分子も、更にその上に蒸着された(n層又はp層)を構成する有機半導体分子も、分子面を基板に水平に配向している。この場合、(p層又はn層)とi層は、何れも仲介層として作用している。
【0062】
図1(c)は、態様2の具体例であり、透明導電膜\配向制御層兼(p層又はn層)\i層\(n層又はp層)\金属電極からなる有機薄膜太陽電池である(「又は」の前後は同順)。各層を構成する有機半導体分子、配向方法、膜厚等は上記(a)、(b)と同様である。図1(c)の構成では、(p層又はn層)が配向制御層としても機能している。配向制御層兼(p層又はn層)は、(p層又はn層)としての厚さに蒸着される。各層を形成させるときには、基板温度、基板の角度、蒸着速度等を有機分子が配向しやすいように調整する。
【0063】
i層を構成する有機半導体分子も、更にその上に蒸着された(n層又はp層)を構成する有機半導体分子も、分子面を基板に水平に配向している。この場合、i層は仲介層として作用している。
【0064】
[配向していることを示す実験例]
実際に各層の有機半導体分子を配向させることができたことを確認したので、以下に示す。以下の実施例では、実験の便宜上、基板として、ガラス基板、二酸化ケイ素薄膜等を用いたが、酸化亜鉛、酸化マグネシウム亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム等の酸化物;金属等でも、ガラス基板上と同様の配向結果が得られることを確認してある。すなわち、実際に有機薄膜太陽電池の電極基板として用いられる透明導電膜等を基板として用いても、全ての層の配向に関して結果は同じである。
【0065】
<態様1について>
まず、図2のように、ガラス基板上に配向制御層とi層を作製した。すなわち、ガラス基板上に、基板温度を25℃、蒸着速度を0.2Å/sに保ちながら、PTCDAよりなる配向制御層を10nm、真空蒸着法により形成した。続いて、PTCDAとHPcを蒸着比率(質量比)1:1、蒸着速度0.2Å/sで、300nmのi層を形成した。
【0066】
図3に上記の形態でPTCDA配向膜上にi層を形成した試料の面外方向のX線回折パターンを示す(図3中、下のパターン)。なお比較として膜厚10nmのHPc薄膜上に同様のi層を形成した試料のX線回折パターンについても示す(図3中、上のパターン)。
【0067】
図3中、両方の試料に対し出現した2θ=27°近傍のピークは、回折面間隔3.3Åに対応し、これは、HPcの分子面間隔とPTCDAの分子面間隔に対応する(両者はほぼ等しいので)。従って、2θ=27°のピークは、構成分子の積層軸が基板表面に対し垂直(分子面が基板に対し平行)になっていることを示す。よって、PTCDA上に形成されたi層も、HPc上に形成されたi層も、分子面が基板に対し平行に配向制御されているが、PTCDA上に形成されたi層の方が、2θ=27°のピークが強いことから、より配向が制御されていることが分かった。
【0068】
一方、2θ=6.7°のピークは、アルファ型HPc結晶の(200)面(回折面間隔26Å)からの回折に対応する。これは、HPcの分子面が基板表面に対しほぼ垂直になっていることを示している。PTCDA上に形成されたi層では、このピークが全く見られなかったことから、PTCDA上に形成されたi層中のHPcの分子面は、ほとんど基板表面に対し垂直になっていない、すなわち、HPcの分子面が基板に対し平行に配向制御されていることが分かった。
【0069】
図4に図3と同じ試料の面内方向のX線回折を示す。図4中、両方の試料に対し出現した2θχ=7.3°と2θχ=14.6のピークは、アルファ型HPc結晶の(002)面、(004)面にそれぞれ対応する(回折面間隔24Å)。これは、HPc結晶がi層内で、c軸が基板表面に平行な方向に向いていることを示している。
【0070】
一方、2θχ=27°のピークは、上述の通り、回折面間隔3.3Åに対応し、HPcの分子面間隔とPTCDAの分子面間隔に対応する(両者はほぼ等しいので)。従って、PTCDA上に形成されたi層では、このピークが全く見られなかったことから、PTCDA上に形成されたi層中のHPcの分子面及びPTCDAの分子面は、ほとんど基板表面に対し垂直になっていない、すなわち、HPcの分子面及びPTCDAの分子面が基板に対し平行に配向制御されていることが分かった。
【0071】
図3と図4の結果をまとめると、HPc薄膜上のi層では、i層内の分子がランダムな方向を向いている。これに対し、PTCDA配向膜上のi層では、i層内の分子が分子面を基板に平行にしながら、一方向に揃っていることが分かった。
【0072】
図5に、金反射膜を形成したシリコンウェーハ上に二酸化ケイ素薄膜を形成した酸化物薄膜基板上に、厚さ8.5nmのPTCDA配向膜を形成させ、次いで、PTCDAとHPcを蒸着比率(質量比)1:1からなる厚さ300nmのi層を形成した試料の、p偏光赤外光を用いた赤外反射吸収スペクトルを示す(図5中、上のスペクトル)。比較のために、PTCDA配向膜に代えて、同じ膜厚のHPc膜とした以外は同様にして作成した試料の赤外反射吸収スペクトルを示す(図5中、下のスペクトル)。
【0073】
740cm−1近傍のピークはHPcのC−H面外変角振動、1120cm−1近傍のピークはHPcのC−H面内変角振動を示す。このうち、HPcの分子面が基板表面に対し平行である場合、p偏光赤外光の電場ベクトルとC−H面外変角振動の遷移モーメントの向きが一致し、C−H面外変角振動のピーク強度が大きくなる。従って、PTCDA配向膜上のi層は、PTCDAとHPcの分子面が基板表面に対し平行になっていることが分かった。従って、PTCDA配向膜上のi層は、i層内の分子が分子面を基板に平行にしながら、一方向に揃っていることが分かり、図3、図4のX線回折の結果と対応した。
【0074】
<態様2について>
[X線回折パターン測定]
本発明の態様2について、概略断面図である図6のようなp−i−n接合構造について、銅Kα線を用いたX線回折パターンを測定した。すなわち、態様1と同様、ガラス基板上に基板温度を25℃、蒸着速度を0.2Å/sに保ちながら、PTCDA配向膜を10nm、真空蒸着法により形成した。なお、このPTCDAはn型の有機半導体とみなすことができる。続いて、PTCDAとHPcを蒸着比率(質量比)1:1、蒸着速度0.2Å/sで、膜厚50nmで形成した。この膜はi層であるが、仲介層でもある。次いで、これらの層構造上に、基板温度を25℃、蒸着速度を0.2Å/sに保ちながら、p型の有機半導体であるHPcを膜厚300nmで形成した。
【0075】
図7に上記の形態でPTCDA配向膜上にi層、続いてHPc薄膜を形成したp−i−n接合構造の面外方向のX線回折を示す(図7中、(1)の回折パターン)。なお比較として、膜厚10nmのHPc薄膜上に膜厚50nmの上記と同じi層、続いて膜厚300nmのHPc薄膜を形成した試料のX線回折パターンを示す(図7中、(3)の回折パターン)。さらに、上記の2試料について、最上層のHPc薄膜を形成しない構造のX線回折パターンを同様に示す(図7中、それぞれ(2)及び(4)の回折パターン)。
【0076】
図7中、両方の試料に対し出現した2θ=27°近傍のピークは回折面間隔3.3Åに対応し、これは、HPcの分子面間隔とPTCDAの分子面間隔に対応する(両者はほぼ等しい)。従って、2θ=27°のピークは構成分子の積層軸が基板表面に対し垂直(分子面が基盤に対し平行)になっていることを示す。一方、2θ=6.7°のピークはアルファ型HPc結晶の(200)面(回折面間隔26Å)からの回折に対応する。これは、HPcの分子面が基板表面に対しほぼ垂直になっていることを示している。
【0077】
図7より、最上層のHPcが形成されている試料と形成されていない試料で、同じ回折パターンが出現していることが分かる。また、上層のHPcが形成されることにより、ピーク強度が増大する。従って、上層のHPc薄膜は下地のi層の結晶配向に影響を受けることが明らかになった。また、HPc薄膜上のi層では、i層内の分子がランダムな方向を向いており、この上に形成したHPc薄膜もランダムな配向を示す。これに対し、PTCDA配向膜上のi層では、i層内の分子が分子面を基板に平行にしながら、一方向に揃っており、この上に形成したHPc薄膜も分子面が基板表面に対し平行になっていることが分かった。
【0078】
これより、i層が仲介層として機能しており、その上に設けられたp層のHPc分子を基板に水平に制御できていることが分かった。そして、(配向制御層又はn層)(PTCDA)\i層(HPc:PTCDA=1:1)\p層(HPc)の順に層を形成したもので、2θ=27°近傍のピークが最も大きかったことから、PTCDAが配向制御剤として好ましく、i層を介して、p層のHPc分子を基板に水平に制御できていることが分かった。
【0079】
[走査型電子顕微鏡(SEM)観察]
図8及び図9に、ガラス基板上に膜厚10nmのPTCDA配向制御層(図8の場合)又はHPc配向制御層(図9の場合)上に、膜厚15nmのi層(HPc:PTCDA=1:1(質量比))を形成し、さらにその上に膜厚70nmのHPc薄膜を形成した構造の断面SEM写真(それぞれ(a))及び平面SEM写真(それぞれ(b))を示す。
【0080】
Pc結晶によるファイバー状の構造が、図8の方が揃って上に向かって成長していた。このファイバー状の構造は、分子の積層軸方向に成長することが知られている。従って、PTCDA配向制御層上にi層、続いてHPc薄膜を形成した試料では、最上層のHPcの積層軸が基板に垂直な方向に揃っていることが分かった。
【0081】
一方、HPc薄膜上にi層、続いてHPc薄膜を形成した試料では、ファイバー状の構造が斜めに成長しているものが多く(図9)、最上層のHPcの積層軸がランダムな方向を向いていることが分かった。
【0082】
[可視光領域の吸光度の測定]
PTCDAよりなる膜厚8.5nmの配向制御層上に、HPc:PTCDA=1:1(質量比)よりなる膜厚65nmのi層を蒸着し、続いて、膜厚200nmでH2Pc薄膜(p層に該当)を形成した試料(以下、「試料1」と略記する)について、可視光領域の吸収スペクトルを測定した。全ての層の形成は、25℃で、蒸着速度を0.2Å/sに保ちながら行った。
【0083】
結果を図10の太線で示す。一方、膜厚8.5nmの配向制御層を、PTCDAからHPcに代えた以外は同様にして試料を形成し(以下、「試料2」と略記する)、可視光領域の吸収スペクトルを測定した。結果を図10の細線で示す。
【0084】
図10において吸収は、膜厚200nmと他の層より極端に厚い最上層であるH2Pc薄膜(p層に該当)で支配的に起こっているので、吸収スペクトルの結果は、H2Pc薄膜(p層に該当)の構造、物性を反映している。
【0085】
PTCDA配向制御層上に形成されたi層上のH2Pc薄膜(試料1)では、H2Pc配向制御層上に形成されたi層上のH2Pc薄膜(試料2)に比べ、630nmのピーク位置で、約1.8倍吸収係数が大きくなっていることが分かった。また、PTCDA配向層上に形成された積層構造(試料1)では、630nmのピーク位置で、約8×10cm−1の高い吸光係数を示すことが明らかになった。
【0086】
このことは、試料1では、H2Pcの分子面が基板表面に平行に配向しており、そのようなものでは、垂直入射光の電場ベクトルとH2Pcの遷移モーメントの方向が一致し、吸収強度が増大することを示している。なお、p層にもなり得るH2Pc薄膜の膜厚は、その層だけの吸光係数を求める関係上200nmと厚くしたが、実際の有機薄膜太陽電池における層の通常の膜厚(これより薄い)でも、吸光係数は厚さに依存しないので原理的に同様の吸光係数を示すはずである。
【0087】
このことから、配向制御層、仲介層によって、その上の層を形成するH2Pc分子の配向を制御でき、その結果として吸光係数を高くでき、入射光エネルギーに対する電荷生成効率(変換効率)を大きくできることが示された。
【0088】
従って、ガラス基板とi層の間に配向制御層を挿入することで、i層が仲介層となり、p−i−n接合構造全体の配向制御が可能となることが、X線回折、SEM観察及び吸光係数の測定から示された。そして、実際の有機薄膜太陽電池において、吸光係数を大きくでき、変換効率を上げられることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、i層等の有機半導体層の吸光度や電気伝導度を上げることができ、結果として光エネルギーから電気エネルギーへの変換効率が高い有機薄膜太陽電池を提供することができるので、発電システム、携帯型電気機器等の分野に広く利用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の層構成の特に好ましい例を示す断面模式図である。
【図2】X線回折に使用した態様1の層構成を示す断面模式図である。
【図3】態様1の層構成(図2)の試料の面外方向(out-of-plane回折、Seemann Bohlin法)のX線(銅Kα線)回折パターンである。 上の回折パターンの測定試料:HPc\(HPc:PTCDA=1:1) 下の回折パターンの測定試料:PTCDA\(HPc:PTCDA=1:1)
【図4】態様1の層構成(図2)の試料の面内方向(in-plane回折、GIXD法)のX線(銅Kα線)回折パターンである。 上の回折パターンの測定試料:HPc\(HPc:PTCDA=1:1) 下の回折パターンの測定試料:PTCDA\(HPc:PTCDA=1:1)
【図5】態様1の層構成の試料の赤外反射吸収スペクトルである。 上のスペクトルの測定試料:PTCDA\(HPc:PTCDA=1:1) 下のスペクトルの測定試料:HPc\(HPc:PTCDA=1:1)
【図6】X線回折に使用した態様2の層構成を示す断面模式図である。
【図7】態様2の層構成(図6)の試料の面外方向(Seemann Bohlin法)のX線(銅Kα線)回折パターンである。 (1)PTCDA\(HPc:PTCDA=1:1)\HPc (2)PTCDA\(HPc:PTCDA=1:1) (3)HPc\(HPc:PTCDA=1:1)\HPc (4)HPc\(HPc:PTCDA=1:1)
【図8】PTCDA\(HPc:PTCDA=1:1)\HPcの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 (a)断面写真 (b)平面写真
【図9】HPc\(HPc:PTCDA=1:1)\HPcの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 (a)断面写真 (b)平面写真
【図10】可視領域の吸収スペクトルである。 太線:PTCDA\(HPc:PTCDA=1:1)\HPc 細線:HPc\(HPc:PTCDA=1:1)\HPc

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機半導体分子で構成された有機半導体層を有する有機薄膜太陽電池において、配向制御剤を含有する配向制御層を設けることを特徴とする該有機半導体分子の配向制御方法。
【請求項2】
配向制御層を、配向が制御される有機半導体分子を含有する有機半導体層に、隣接して、又は、1若しくは2以上の仲介層を介して、設けることによって行う請求項1記載の有機半導体分子の配向制御方法。
【請求項3】
配向が制御される有機半導体分子を含有する有機半導体層がi層である請求項1又は請求項2記載の有機半導体分子の配向制御方法。
【請求項4】
配向が制御される有機半導体分子を含有する有機半導体層がp層又はn層であり、仲介層の少なくとも1つがi層である請求項2記載の有機半導体分子の配向制御方法。
【請求項5】
仲介層が、そこに含有されている少なくとも1種の有機半導体が微結晶状態であるものである請求項2ないし請求項4の何れかの請求項記載の有機半導体分子の配向制御方法。
【請求項6】
配向制御層が、それ自体p層又はn層である請求項1ないし請求項5の何れかの請求項記載の有機半導体分子の配向制御方法。
【請求項7】
配向制御剤がペリレン誘導体である請求項1ないし請求項6の何れかの請求項記載の有機半導体分子の配向制御方法。
【請求項8】
配向が制御される有機半導体分子がフタロシアニン誘導体である請求項1ないし請求項7の何れかの請求項記載の有機半導体分子の配向制御方法。
【請求項9】
有機半導体層を有する有機薄膜太陽電池において、該有機半導体層を構成する有機半導体分子の配向を制御して変換効率を上げたことを特徴とする有機薄膜太陽電池。
【請求項10】
有機半導体層を構成する有機半導体分子の配向制御が、配向制御剤を含有する配向制御層を、該有機半導体層に隣接して設けることによってなされている請求項9記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項11】
配向制御された有機半導体分子を含有する有機半導体層がi層である請求項9又は請求項10記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項12】
有機半導体層を構成する有機半導体分子の配向制御が、配向制御剤を含有する配向制御層を該有機半導体層に1又は2以上の仲介層を介して設けることによってなされている請求項9記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項13】
仲介層が、そこに含有されている少なくとも1種の有機半導体が微結晶状態であるものである請求項12記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項14】
配向制御された有機半導体分子を含有する有機半導体層がp層又はn層であり、仲介層の1つがi層である請求項12又は請求項13記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項15】
配向制御層が、それ自体p層又はn層である請求項10ないし請求項14の何れかの請求項記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項16】
配向制御層が酸化物基板に隣接して設けられている請求項10ないし請求項15の何れかの請求項記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項17】
配向制御剤がペリレン誘導体である請求項10ないし請求項16の何れかの請求項記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項18】
有機半導体層を構成する配向制御された有機半導体分子がフタロシアニン誘導体である請求項9ないし請求項17の何れかの請求項記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項19】
有機半導体分子の配向が制御された層(a)を有する有機薄膜太陽電池であって、層(a)を最表面に露出させて測定した面外方向のX線回折パターンにおいて、銅Kα線を用いた時の回折角2θが27°±3°に現れる回折ピークの強度が、2θが5°〜30°の範囲で最大となるように有機半導体分子の配向が制御された層(a)を有する請求項9ないし請求項18の何れかの請求項記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項20】
有機半導体分子の配向が制御された層(a)を有する有機薄膜太陽電池であって、層(a)を最表面に露出させて測定した面外方向のX線回折において、銅Kα線を用いた時の回折角2θが6.7°±1°に、実質的にピークが現れないように有機半導体分子の配向が制御された層(a)を有する請求項9ないし請求項19の何れかの請求項記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項21】
有機半導体分子の配向が制御された層(a)を有する有機薄膜太陽電池であって、層(a)を最表面に露出させて測定した面内方向のX線回折において、銅Kα線を用いた時の回折角2θχが27°±3°に、実質的にピークが現れないように有機半導体分子の配向が制御された層(a)を有する請求項9ないし請求項20の何れかの請求項記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項22】
平滑表面上に、順次、金反射膜、二酸化ケイ素薄膜を形成した基板上に、配向制御層を作成し、更にその上に、有機半導体分子を含有する厚さ0.3μmの層(b)を作成した試料について、基板法線を基準とした入射角70°以上のp偏向赤外光を用いて測定した赤外反射吸収スペクトルにおいて、740cm−1近傍のC−H面外変角振動に帰属されるピーク強度が、1120cm−1近傍のC−H面内変角振動に帰属されるピーク強度に対して5倍以上となるように配向制御された層(b)と、厚さ以外は同一の方法で作成された層(a)を有する請求項9ないし請求項11、又は、請求項15ないし請求項21の何れかの請求項記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項23】
平滑表面上に、順次、金反射膜、二酸化ケイ素薄膜を形成した基板上に、順次、配向制御層、仲介層を作成し、更にその上に、有機半導体分子を含有する厚さ0.3μmの層(b)を作成した試料について、基板法線を基準とした入射角70°以上のp偏向赤外光を用いて測定した赤外反射吸収スペクトルにおいて、740cm−1近傍のC−H面外変角振動に帰属されるピーク強度が、1120cm−1近傍のC−H面内変角振動に帰属されるピーク強度に対して5倍以上となるように配向制御された層(b)と厚さ以外は同一の方法で作成された層(a)を有する請求項9、又は、請求項11ないし請求項21の何れかの請求項記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項24】
フタロシアニン誘導体からなる層を有する有機薄膜太陽電池であって、該層の630nmにおけるフタロシアニン誘導体に起因する吸光係数が、6×10cm−1以上である請求項9ないし請求項23の何れかの請求項記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項25】
請求項1ないし請求項8の何れかの請求項記載の有機半導体分子の配向制御方法を用いた有機薄膜太陽電池の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−59457(P2007−59457A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239858(P2005−239858)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年 春季 第52回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集、No.3、第1367頁、2005年3月29日発行
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】