説明

有機廃液からのゴムの回収方法

【課題】ゴムを含む有機廃液からゴムを効果的に分離回収し、有機溶媒の回収率を向上する。
【解決手段】ゴムとそのゴムを溶解させた有機溶媒を含む有機廃液からゴムを回収する方法であり、加圧状態の有機廃液に液体二酸化炭素を添加して有機廃液と液体二酸化炭素からなる混合液体中にゴムを析出させる工程と、その混合液体を加圧状態で固液分離してその混合液体中に析出したゴムを回収する工程とを含む。析出したゴムを回収した同圧状態の混合液体を加熱又は減圧して液体二酸化炭素を気化させて有機溶媒と二酸化炭素を回収する工程を更に含むことが好ましく、加圧状態の混合液体の固液分離が液体サイクロンにより行われることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にゴムの製造、ゴム製品の加工工程で排出されるゴムを含む有機廃液からそのゴムを分離して回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴムの製造工場やゴム製品の加工工場では不可避的にゴムとそのゴムを溶解させた有機溶媒を含む有機廃液が多く発生する。近年の工場から排出される廃液の処理や環境問題は重要な社会的問題であり、工場から排出されるこれらのゴム含有有機廃液は単に焼却するだけでなく、その原料であるゴム、ゴムを溶解するベンゼン、トルエンなどの有機溶媒を回収し、再利用することが重要視されている。そして 従来、ゴムを含む有機廃液からゴムを回収する方法として、容器に貯留されたゴムを含む有機廃液を容器に貯留した状態で真空乾燥し又は加熱蒸留して、その有機廃液から溶媒を揮発させてゴムを回収する方法(例えば、特許文献1参照。)が提案されている。
【特許文献1】特開2001−226410号公報(明細書[0021])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、ゴムを含む有機廃液を真空乾燥し又は加熱蒸留して溶媒を揮発させるとその廃液中のゴム濃度が増加し、有機廃液における粘度が急激に増加する。そして、溶媒が実際の揮発する有機廃液における気液接触面でのゴム濃度が著しく増加し、溶媒の揮発が進行すると容器に貯留された有機廃液における表面に粘度の高いゴム膜が形成される。有機廃液の表面にゴム膜が形成されると、ゴム膜の下方に存在する有機廃液中の溶媒を効果的に揮発させることができずに、結果的にゴムを固体の状態で有効に回収することができない不具合があった。また、揮発して除去された有機溶媒の気相濃度が低いため、揮発した気体から有機溶媒を回収する効果が低いという別の不具合もあった。
本発明の目的は、ゴムを含む有機廃液からゴムを効果的に分離回収し得る有機廃液からのゴムの回収方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、ゴムを含む有機廃液からの有機溶媒の回収率を向上し得る有機廃液からのゴムの回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に係る発明は、図1に示すように、ゴムとそのゴムを溶解させた有機溶媒を含む有機廃液からゴムと有機溶媒を回収する方法の改良である。
その特徴ある点は、加圧状態の有機廃液に液体二酸化炭素を添加して有機廃液と液体二酸化炭素からなる混合液体中にゴムを析出させる工程と、混合液体を加圧状態で固液分離してその混合液体中に析出したゴムを回収する工程とを含むことを特徴とする。
この請求項1に記載された有機廃液からのゴムの回収方法では、ゴムを一旦析出させた後に固液分離してゴムを回収するので、有機溶媒の揮発を妨げるようなゴム膜が形成されることはなく、ゴムを含む有機廃液からゴムを有効に分離回収することができる。
【0005】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、析出したゴムが回収された後の混合液体を加熱又は減圧して液体二酸化炭素を気化させて有機溶媒と二酸化炭素を回収する工程を更に含むことを特徴とする。
ゴムが除去された後の混合液体には、ゴムを溶解させた有機溶媒と、その後添加された液体二酸化炭素が含まれる。この請求項2に記載された有機廃液からのゴムの回収方法では、ゴムが除去された後の混合液体を有機溶媒と液体二酸化炭素を分離して回収することができ、有機溶媒を揮発させる従来の方法と比較して、ゴムを含む有機廃液からの有機溶媒の回収率を向上させることができる。
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、加圧状態の混合液体の固液分離が液体サイクロン16により行われることを特徴とする。
この請求項3に記載された有機廃液からのゴムの回収方法では、ゴムが析出した混合液体からそのゴムを効果的に分離回収することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の有機廃液からゴムを回収する方法では、有機廃液に液体二酸化炭素を添加して有機廃液と液体二酸化炭素からなる混合液体中にゴムを析出させる工程と、混合液体を加圧状態で固液分離してその混合液体中に析出したゴムを回収する工程とを含むので、有機溶媒の揮発を妨げるようなゴム膜が形成されることはなく、ゴムを含む有機廃液からゴムを有効に分離回収することができる。そして、ゴムが除去された後の混合液体には、ゴムを溶解させた有機溶媒と、その後添加された液体二酸化炭素が含まれる。従って、析出したゴムが回収された後の混合液体を加熱又は減圧して液体二酸化炭素を気化させて有機溶媒と二酸化炭素を回収する工程を更に含むことにより、ゴムが除去された後の混合液体から有機溶媒と二酸化炭素を分離して回収することができ、ゴムを含む有機廃液からの有機溶媒の回収率を向上させることができる。この場合 加圧状態の混合液体の固液分離を液体サイクロンにより行うようにすれば、ゴムが析出した混合液体からそのゴムを効果的に分離回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本発明は有機廃液からそのゴムを回収する方法であって、その対象とする有機廃液はゴムとそのゴムを溶解させた有機溶媒を含むものである。ここで、ゴムとしては、天然ゴム(NR)及び合成ゴムが挙げられる。合成ゴムとしては、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、ブタジエンゴム(BR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ハイパロン(CSM)、ウレタンゴム(U)、多硫化ゴム(T)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、エピクロルヒドリンゴム(ECO)などが挙げられる。また、有機溶媒としては、これらのゴムを溶解可能なベンゼン、トルエン、キシレン、トリクレン、エーテル等が挙げられる。
【0008】
本発明における有機廃液からゴムを回収する方法にあっては、加圧状態の有機廃液に液体二酸化炭素を添加して有機廃液と液体二酸化炭素からなる混合液体中にゴムを析出させる工程と、混合液体を加圧状態で固液分離してその混合液体中に析出して固体となったゴムをその混合液体から分離させて回収する工程と、ゴムを回収した後の残余の混合液体を加熱又は減圧して液体二酸化炭素を気化させて有機溶媒と二酸化炭素を回収する工程とを含む。以下にこれらを分説する。
【0009】
<ゴムの析出工程>
先ず、図1(a)に示すように有機廃液に液体二酸化炭素を添加してゴムの溶解度を低下させ、図1(b)に示すように有機廃液と液体二酸化炭素からなる混合液体中にゴムを析出させる。ここで、二酸化炭素は図示しないポンプを用いて加圧することにより液体となるものである。本発明では有機廃液に液体二酸化炭素を添加するため、ゴムを含む有機廃液と液体二酸化炭素からなる混合液体が10〜30℃であれば4.0〜8.0MPaにまで加圧することが好ましい。
【0010】
有機廃液に添加される液体二酸化炭素の量は、ゴムを含む有機廃液を100重量%とした場合に100〜10000重量%であることが好ましい。この液体二酸化炭素の添加量が100重量%未満であるとゴムを十分に析出させることが困難になり、この液体二酸化炭素の添加量が10000重量%を越えるとこの液体二酸化炭素を後工程で回収する負担が増加する不具合がある。この液体二酸化炭素の添加量の更に好ましい範囲は、ゴムを含む有機廃液を100重量%とした場合に500〜5000重量%である。
【0011】
図2に示すように、有機廃液を連続的に処理するためには、ラインミキサ11を用いて有機廃液に液体二酸化炭素を添加して攪拌することが好ましい。図2に示す装置では、有機廃液は高圧ポンプ12により圧力が加えられ、加圧された状態でラインミキサ11に供給される。一方、液体二酸化炭素は流体貯留ボンベ13に貯留され、循環ポンプ14により液体状態を維持した状態でラインミキサ11に供給される。ラインミキサ11は内部に複数枚の邪魔板が設けられ、一端に供給された有機廃液と液体二酸化炭素が内部を通過した他端に向かう際にそれら複数枚の邪魔板を通過するように構成され、それら複数枚の邪魔板を通過することにより両者が十分に混合されて有機廃液と液体二酸化炭素からなる混合液体が得られるように構成される。そして、このように構成されたラインミキサ11により、有機廃液と液体二酸化炭素を十分に攪拌して混合することにより、ゴムの溶解度を低下させてそのゴムを得られた混合液体中に連続的に析出させることができる。
【0012】
<固液分離工程>
この工程では、図1(b)に示すようにゴムが析出した混合液体を加圧状態を維持した状態で図1(c)に示すように固液分離する。そして、析出して固体となり、液体から分離されたゴムを回収する。この固液分離は、図1(c)に示すようにゴムが析出した混合液体を加圧状態で静置させて、その析出したゴムを沈降させることにより分離しても良く、図2に示すような液体サイクロン16を用いても良い。図2に示す液体サイクロン12は、緩やかな傾斜を有するロート状の容器本体16aと、その容器本体16aの上部を封鎖する蓋体16bと、その容器本体16aの下部を封鎖するボールバルブ16cを有し、蓋体16bには、ゴムが析出した加圧状態の混合液体を容器本体16aの内部に供給する入口16dと、ゴムが除去された混合液体を外部に排出する出口16eが設けられる。そして、ゴムが析出した加圧状態の混合液体は入口16dを介して容器本体16aの上部から容器本体16aの内部で渦を巻くようにその縁に沿って投入される。混合液体がその容器本体16aの内部で渦を巻くように回転すると、析出して固体となったゴムは遠心力により液体から分離してボールバルブ16cに至る。
【0013】
一方、この液体サイクロン16では、液体である混合液体はその容器本体16aの中央から上昇し、ゴムが除去された状態で蓋体16bに形成された出口16eから排出される。こようにして混合液体は加圧状態で固液分離され、ボールバルブ16cを開放することによりその混合液体中に析出したゴムを容器本体16aから排出して回収可能に構成される。このような液体サイクロン16を用いた場合には、この液体サイクロン16を前段のラインミキサ11に連続して設けることにより有機廃液を連続的に処理することが可能になる。なお、図2に示す装置では、ボールバルブ16cの下方にゴム貯槽17が設けられる場合を示し、ボールバルブ16cを開放することにより排出されたゴムを常温及び常圧で貯留可能に構成される。
このように本発明のゴムの回収方法では、ゴムを一旦析出させた後に固液分離するので、ゴムを含む有機廃液からゴムを効果的に分離回収することができる。
【0014】
<加熱・減圧工程>
図1(d)に示すようにゴムが除去された後の混合液体には、ゴムを溶解させた有機溶媒と、その後添加された液体二酸化炭素が含まれる。この工程は、これらを再利用するために行われるものであり、ゴムが除去された後の混合液体から有機溶媒と液体二酸化炭素を分離して回収する。この有機溶媒と液体二酸化炭素の分離は液体二酸化炭素を気化させることにより行われることが好ましく、液体二酸化炭素の気化は、析出したゴムを回収した後の同圧状態の混合液体を加熱又は減圧することにより行うことが好ましい。
【0015】
図2に示す液体サイクロン16の出口16eには加熱器18を介して気液貯槽19が接続され、液体サイクロン16により固体であるゴムが分離されて出口16eから排出された混合液体は加熱器18により加熱され、その後気液貯槽19に貯留されるように構成される。そして、液体サイクロン16から排出された時点で例えば20℃の混合液体を加熱器21により例えば40℃に加熱すると、液体二酸化炭素の約六割が気化することになる。また、その気液貯槽19の下部には圧力バルブ21を介して溶媒回収槽22が接続され、その気液貯槽19の上部は冷却器23を介して流体貯留ボンベ13に接続される。液体から気体に態変した気液貯槽19における二酸化炭素は、その気液貯槽19の上部から冷却器23に至り、その冷却器23で冷却されて再び液化され、流体貯留ボンベ13に貯留されて再利用される。
【0016】
一方、気液貯槽19に貯留された混合液体には当初有機廃液に添加された液体二酸化炭素の約4割が未だに液体として残存する。そして、圧力バルブ21を開放するとこの気液貯槽19に貯留された混合液体は減圧されて溶液回収槽22に至る。気液貯槽19に貯留された液体が減圧されると、その液体中に存在する二酸化炭素の大部分は気化し、大気圧まで減圧されて溶液回収槽22に貯留された液体は、有機廃液におけるゴムを溶解させた有機溶媒となる。このようにすることにより本発明のゴムの回収方法では、有機溶媒を揮発させる従来の方法と比較して、ゴムを含む有機廃液からの有機溶媒の回収率を向上させることができる。
【0017】
そして、図2の破線で示すように溶液回収槽22の上部を圧縮機24を介して流体貯留ボンベ13に接続すれば、液体から気体に態変した二酸化炭素を溶液回収槽22の上部から抜き出して圧縮機24のより再び液化させ、その後流体貯留ボンベ13に貯留することにより、その液体二酸化炭素を再利用することができる。このように二酸化炭素を回収して流体貯留ボンベ13に貯留するようにすれば、有機廃液に添加された液体二酸化炭素を外部に放散させることなく回収して再利用することができる。
【実施例】
【0018】
次に本発明の効果を確認するために行った実施例を図2を用いて説明する。
<実施例1>
有機廃液として、ゴム(NBR)を40kg、有機溶媒としてのトルエンを60kg準備し、図1に示す混合攪拌機16にその両者を入れて混合攪拌し、ゴム(NBR)が40重量%で、有機溶媒(トルエン)が60重量%となる有機廃液を得た。
次にこの有機廃液を20℃の状態で高圧ポンプ12により圧力を加え、6MPaに加圧された状態でラインミキサ11に供給した。また、これと並行して流体貯留ボンベ13に貯留された液体二酸化炭素を循環ポンプ14により6MPaに加圧された状態でラインミキサ11に供給した。この液体二酸化炭素の供給量は、有機廃液の供給量の10倍となるようにし、両者を十分に混合して有機廃液と液体二酸化炭素からなる混合液体を得た。そして、ゴムの溶解度を低下させてそのゴムをその混合液体中に析出させた。この液体二酸化炭素の供給量は、有機廃液を100重量%とした場合に1000重量%に相当するものである。
【0019】
次にこの有機廃液と液体二酸化炭素からなる混合液体を20℃であって6MPaの状態を維持しつつ液体サイクロン16に入れ、析出して固体となったゴムを液体から分離し、ボールバルブ16cを開放することにより分離されたゴムを容器本体16aから排出して回収した。
析出したゴムをが分離した混合液体であって液体サイクロン16の出口16eから排出された液体を6MPaの圧力を維持しつつ加熱器21により40℃に加熱し、気液貯槽19に貯留した。次に圧力バルブ21を開放して、気液貯槽19に貯留された液体を減圧しつつ溶液回収槽22に移動させて貯留させ、有機廃液におけるゴムを溶解させた有機溶媒であるトルエンを溶液回収槽22に貯留させた。
そして、液体サイクロン16により液体から分離された固体であるゴムの重量を測定したところ39.9kgであった。このため、このように回収して得られたゴムの重量は有機廃液を得るために当初トルエンに混合されたゴムの99%以上であるため、ゴムは、定量的に回収されたことが判った。また、溶液回収槽22に貯留されたトルエンの重量を測定したところ58.5kgであった。これは有機廃液を得るために当初用いられた量の97.5%であることから、本発明にあっては、ゴムを含む有機廃液からの有機溶媒の回収率を従来に比較して向上させ得ることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明実施形態のゴムの回収方法の各工程を示す図である。
【図2】そのゴムの回収方法に用いられる装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0021】
16 液体サイクロン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムと前記ゴムを溶解させた有機溶媒を含む有機廃液から前記ゴムと前記有機溶媒を回収する方法において、
加圧状態の前記有機廃液に液体二酸化炭素を添加して前記有機廃液と前記液体二酸化炭素からなる混合液体中に前記ゴムを析出させる工程と、
前記混合液体を加圧状態で固液分離して前記混合液体中に析出した前記ゴムを回収する工程と
を含む有機廃液からのゴムの回収方法。
【請求項2】
析出したゴムが回収された後の混合液体を加熱又は減圧して液体二酸化炭素を気化させて有機溶媒と二酸化炭素を回収する工程を更に含む請求項1記載の有機廃液からのゴムの回収方法。
【請求項3】
加圧状態の混合液体の固液分離が液体サイクロン(16)により行われる請求項1又は2記載の有機廃液からのゴムの回収方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−169305(P2007−169305A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−364224(P2005−364224)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】