説明

有機性廃棄物の処理方法

【課題】 有機性廃棄物を含む液状の被処理物を、嫌気性消化槽内において消化微生物の存在下で直接嫌気性処理する方法において、効率よく微生物を固定化し、ガス化効率を向上させる有機性廃棄物の処理方法及び有機性廃棄物の装置を提供する。
【解決手段】
有機性廃棄物を含む液状の被処理物を、嫌気性消化槽内において消化微生物の存在下で直接嫌気性処理する方法において、表面が炭素繊維で覆われた固定床担体と表面が炭素繊維で覆われた流動床担体を組み合わせた固定床・流動床ハイブリッドリアクタを嫌気性消化槽内において用いることを特徴とする有機性廃棄物の処理方法及び有機性廃棄物の処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭・レストラン・工場・下水処理場等から排出される有機性廃棄物や廃水を、直接、嫌気性消化槽を用い嫌気的に発酵させることにより、廃棄物中の有機物を迅速に分解・消化処理する有機性廃棄物の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生ごみ等有機性廃棄物の処理方法として、嫌気性消化が注目されるようになっている。しかし、従来の嫌気性消化法では、有機物分解速度、消化ガス生成速度は十分に高くないという問題点があり、そのため、ある程度大きな消化槽を用意する必要があった。分解速度が速くなれば、消化槽がよりコンパクトにでき、経済性・エネルギー収支等の改善が実現できる。
【0003】
これらの問題点を解消するために、活性汚泥方式で発生する汚泥の余剰部分を、高温嫌気性消化処理し、該処理液を固液分離膜に通して循環させ、該分離膜を通して水分を抜き取ることを特徴とする有機性汚泥の処理方法が提案されているが(特許文献1)、この方法は、従来の高温型嫌気性消化法であり、十分に消化効率が上がらないという問題があった。
【0004】
また、消化汚泥を主体とする混合液を嫌気性消化リアクタから引き抜き循環・返送する過程で熱処理する方法が提案されているが(特許文献2)、この方法は、消化汚泥を高温で処理して物理化学的に消化汚泥の構造を破壊しようとしたものであり、嫌気性消化槽そのものの性能を向上させる方法ではなく、消化効率が十分に上がらないという問題が残る。
【0005】
嫌気性消化槽内に微生物の住処となる担体を具備することにより、分解に関わる微生物を高濃度に槽内に維持し、分解・ガス化効率を図る固定化法が検討されている。
UASB法といわれる微生物が自己凝集したグラニュールを用い、消化槽内の微生物濃度を高める方法が検討・実用化されているが(特許文献3)、この方法は固形分をあまり分解できないので、もっぱら懸濁固形分の少ない有機性廃水の処理に利用されており、固形分を含有する有機性廃棄物や廃水の嫌気性処理には不向きである。
【0006】
多孔質セラミック顆粒担体を用いた固定化嫌気性消化法が報告されているが(特許文献4)、本法はセラミック顆粒に貫通孔を設け数珠状に固定化して使用するため、装置が複雑で施工が難しく、槽内の担体容積が少ないため分解効率がさほど上昇しないという問題は残る。
【0007】
また、流動性の0.5〜6 mmの粒状有機ゲル微粒子を微生物固定化担体として用いる方法が報告されているが(特許文献5)、流動性の微粒子を製造することや消化槽内に維持することが難しく、経済性や操作性に問題がある。
また、カーボンフェルトは高い孔隙率と表面積を持つ、耐久性の優れた材料である。カーボンフェルトを固定床担体材料としたセルロースの嫌気性分解に関する研究の結果、優れた固定効果と高い分解率が得られている(Yang ら2004 非特許文献1)。カーボンフェルトを用い、新規かつ高効率な種々のリアクタデザインが考えられる。

【0008】
【特許文献1】特開平07−148500号公報
【特許文献2】特開平10−085784号公報
【特許文献3】特開平11−319782号公報
【特許文献4】特開平09−038686号公報
【特許文献5】特開2003−062594号公報
【非特許文献1】YingnanYang, Kenichiro Tsukahara, Tatsuo Yagishita and Shigeki Sawayama: Performanceof a fixed-bed reactor packed with carbon felt during anaerobic digestion ofcellulose . Bioresource Technology, Volume 94, Issue 2, September 2004,Pages 197-201
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、有機性廃棄物からなる被処理物を消化微生物固定化担体の存在下で、嫌気性処理する方法において、消化槽内に効率よく嫌気性微生物を維持し、有機性廃棄物を嫌気性消化により効率よく分解・ガス化し、メタンの生成効率を高めて消化速度を向上させる方法を提供することにある。
本発明者は、カーボンフェルトを担体材料としたリアクタデザインを研究し、本発明に到達した。
固定床リアクタと流動床リアクタの嫌気性消化特性を研究し、固定床と流動床のハイブリッド構造とする。カーボンフェルトを用いた固定床・流動床ハイブリッドリアクタを連続運転し、嫌気性消化特性を検討して、固定化した微生物を電子顕微鏡により観察し、その効果を確かめた。

【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
本発明は、有機性廃棄物を含む液状の被処理物を、嫌気性消化槽内において消化微生物の存在下で直接嫌気性処理する方法において、表面が炭素繊維で覆われた固定床担体と表面が炭素繊維で覆われた流動床担体を組み合わせた固定床・流動床ハイブリッドリアクタを嫌気性消化槽内において用いることを特徴とする有機性廃棄物の処理方法である。
また、本発明は、表面が炭素繊維で覆われた流動床担体を、嫌気性消化槽内の気相と液相両方に接触させ使用する。
さらに、本発明の有機性廃棄物の処理方法は、有機性廃棄物からなる被処理物を消化微生物固定化担体の存在下で、直接、嫌気性処理消化する方法において、(I)酸発酵性微生物及び/又はメタン発酵性微生物を含有する嫌気性消化汚泥の存在下、該被処理物を固定床担体と流動床担体と接触させ嫌気的に消化する工程、(II)該消化工程で得られた消化生成物を液相部と固相部とに分離する工程、(III)該分離工程で得られた固相部を回収する工程を含むことができる。
また、ここで本発明は、(I)の工程で発生したメタンを含有する気相部を燃料とすることができる。
さらに、ここで本発明は、(III)の回収工程で回収された固相部を有機性肥料とすることができる。
また、さらに、本発明は、有機性廃棄物を含む液状の被処理物を、嫌気性消化槽内において消化微生物の存在下で直接嫌気性処理する嫌気性消化装置であって、表面が炭素繊維で覆われた固定床担体と表面が炭素繊維で覆われた流動床担体を組み合わせた固定床・流動床ハイブリッドリアクタが嫌気性消化槽内に収容されていることを特徴とする嫌気性消化装置に関する。
さらに、ここで本発明は、固定床担体が成型樹脂の表面をカーボンフェルトで覆った構造とし、流動床担体が発泡成型樹脂をカーボンフェルトで覆った構造とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、有機性廃棄物を含む液状の被処理物を、嫌気性消化槽内において消化微生物の存在下で直接嫌気性処理する方法において、表面が炭素繊維で覆われた固定床担体と表面が炭素繊維で覆われた流動床担体を組み合わせた固定床・流動床ハイブリッドリアクタを嫌気性消化槽内において用いることにより、効率よく有機性廃棄物を含む液状の被処理物を分解消化することが出来る。
分解消化に関わる微生物が効率よく固定床担体と流動床担体に固定化されているので、槽内の微生物濃度が高く、分解消化が効率よく進む。結果として、有機物の分解速度が速く、メタンガスがより迅速に発生する。例えば、有機物負荷率(OLR)6.34 g/l-reactor/d の場合、DOC除去率は88%、メタン生成速度は798 ml/l-reactor/d に達した。その後、固定床・流動床ハイブリッドリアクタの流動床を取り出し、固定床のみ発酵を続けたところ、前述と同じ有機物負荷率で、DOC除去率は62%、メタン生成速度は638ml/l-reactor/d まで減少した。担体表面積の減少以上にハイブリッドリアクタは固定床リアクタより優れた結果を示した。さらに、添加するプロピオン酸塩濃度10000 mg/lになっても阻害が見られなかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の最大の特徴は、有機性廃棄物を含む液状の被処理物を、嫌気性消化槽内において消化微生物の存在下で直接嫌気性処理する方法において、表面が炭素繊維で覆われた固定床担体と表面が炭素繊維で覆われた流動床担体を組み合わせた固定床・流動床ハイブリッドリアクタを嫌気性消化槽内において用いることである。
ここで、固定床・流動床ハイブリッドリアクタとは、流動床担体が固定床担体と併用されて用いられる形態を云い、代表的には図1に示すように、液相中に固定床担体があり、流動床担体が気相と液相両方に接して用いられる形態を云う。
また、流動床担体を気相と液相両方に接して用いると、嫌気性消化槽内の気相と液相と両方に同時に接することで、有機物の分解に係わる多様な醗酵微生物を固定化維持できることが判明した。
固定床担体と流動床担体の固定化微生物叢が異なるので、嫌気性消化槽内の生物多様性が増し、分解消化・ガス化に関わる微生物が多様になり、消化が効率よく安定してすすむ。
【0013】
本発明でいう、嫌気性消化には、酸素のない嫌気的な条件で嫌気性微生物の働きにより、有機物からメタンと二酸化炭素を生成させる方法と、嫌気性消化処理とは、20〜70℃、好ましくは30〜60℃で行う嫌気性消化処理の両消化法が包含される。この嫌気性消化処理は、35〜37℃で行われる中温消化法でも、55℃で行われる高温消化法であってもよい。
また、本発明においては、固定化微生物を利用し、原料の水分含量を80%以上に調整して消化を行う湿式消化方法を採用することが好ましい。
【0014】
また、本明細書で言う固定床担体とは、固定化担体が嫌気性消化槽内に固定化されている方法を意味し、従来から知られている方法である。流動床担体とは、担体が嫌気性消化槽内に固定化されてなく、槽内の撹拌により移動できる方法を意味し、従来から知られている方法である。
【0015】
また、本明細書で言う酸発酵性微生物とは、嫌気性消化において有機酸等を生成する微生物を意味し、Bacteroides sp.、Clostridium sp.、Bacillus sp.、Lactobacillus sp.等があげられる。メタン発酵性微生物とは、嫌気性消化においてメタンを生成する微生物を意味し、Methanobacterium sp., Methanothermobacter sp., Methanosarcina sp.、Methanosaeta sp.等があげられる。両者とも従来よく知られているものである。
【0016】
本発明の処理対象となる有機性廃棄物には、家庭・レストラン・食品工場等から排出される食品残滓や排水および発酵工場等で排出される発酵残滓や排水、下水処理場・食品工場・浄化槽等で廃水処理後排出される有機性汚泥一般、落ち葉や剪定枝なその植物性バイオマス、古紙類などを意味する。
【0017】
本発明の方法を実施するには、消化槽内で嫌気性消化汚泥と原料の有機性廃棄物を混合し、含水率75〜99.9%望ましくは85〜98%に調整し、必要に応じて破砕し、20℃以上望ましくは30〜60℃更に好ましくは35または55℃で湿式嫌気性消化処理させる。
【0018】
この場合、本発明においては、この消化槽内に、固定床担体と流動床担体を具備させる。流動床担体は、嫌気性消化槽内の気相と液相の両方に同時に接することが望ましい。
担体の材質としては、無機質材料、樹脂等の有機質材料等何でも良いがその表面が炭素繊維で覆われていることが必要である。本発明で言う炭素繊維の一例を挙げると、孔隙率92.2%、比表面積0.70g/cm3、比重0.11g/cm3 であるカーボンフェルトを用いることが出来る。
【0019】
担体の形状は、制約されず、補助資材等を用いて円筒状、平板状、球状、円盤状の形状にも成型することができる。
【0020】
固定化に用いる嫌気性消化汚泥としては、酸発酵性微生物やメタン発酵性微生物を含有する下水汚泥の嫌気性消化に使用される通常の嫌気性消化汚泥や、既存の嫌気性消化汚泥を別途培養したものを使用することができる。
【0021】
前記のようにして、有機性廃棄物を酸発酵性微生物やメタン発酵性微生物を固定化した固定床担体と流動床担体を用いて嫌気的に消化処理すると、有機物が分解されてガス化し、嫌気性消化残滓が得られる。その時発生する嫌気性消化残滓は、窒素やリンなどの肥料成分を多く含み、発酵が進んでいるので有機性肥料として利用することが可能である。
また、好気的なコンポスト法によって生産された有機性肥料中の塩分が問題となる場合があるが、本法では発酵残滓は固液分離後固相部が有機性肥料となり、塩分は液相部中に多く含まれるため、本法により得られる有機性肥料はコンポスト法による有機性肥料に比べ塩分濃度が低いという利点を有する。
【0022】
また、消化時に発生するメタンは、ボイラー燃料、消化ガス発電、マイクロガスタービンや水素への改質後燃料電池の燃料として利用することが出来る。
【0023】
次に、本発明について図面を参照しながら詳述する。
図1は本発明を実施する代表的な場合のフローシート図を示す。
図1において、1は廃棄物貯留タンク、2は原料廃棄物配管、3は嫌気性消化槽、4は固定床担体、5は流動床担体、6は撹拌装置、7は消化ガス配管、8は消化ガス貯留タンク、9は処理物配管、10は固液分離装置、11は処理固形物配管、12は処理固形物貯留タンク、13は処理液相配管、14は処理液相貯留タンクを各示す。
【0024】
図1に従って本発明を実施するには、有機性廃棄物貯留タンク1より有機性廃棄物配管2を通って、メタン発酵を生じさせる微生物を含有する嫌気性汚泥を投入してカーボンフェルト固定床と流動床担体に固定化した嫌気性消化槽3に、有機性廃棄物を供給する。
メタン発酵を生じさせる微生物を含有する嫌気性汚泥としては、前記したように、下水処理場の下水汚泥の嫌気性消化汚泥等を使用すればよい。この場合、この嫌気性消化槽3は、その内部に炭素繊維等から成る固定床担体と流動床担体を設置し、嫌気性微生物を固定化する。流動床担体5は、嫌気性消化槽3内の気相と液相の両方に同時に接することが望ましい。通常、微生物の固定化には、消化槽の立ち上げ時に槽内に嫌気性消化汚泥を投入後、原料を加えないで2〜3週間運転し、その後徐々に原料を加えていく方法を用いる。
【0025】
この嫌気性消化槽3において、廃棄物は固定化微生物の分解作用を受けながら消化処理を受ける。この消化処理により、廃棄物中の有機物は従来の嫌気性消化に比べ、より迅速に安定的に分解消化されメタンを発生する。本発明の場合、固定床と流動床を組み合わせた固定化方式なので、それぞれの担体に効率よく多様なメタン発酵性微生物が固定化され、槽内の分解微生物濃度と多様性が高くなっているので、従来の消化法に比べ有機物分解速度及び消化ガス化速度の向上が達成される。
【0026】
本発明に係る嫌気性消化槽は、槽内の汚泥を撹拌し発酵反応を促進させるために、撹拌装置を具備させることが望ましい。また、槽内の汚泥を抜き再度投入することにより撹拌を実現してもよい。
【0027】
また、嫌気性消化槽3内で発生したメタンを含む消化ガスは消化ガス配管7を通って消化ガス貯留タンク8に貯留される。この場合の消化ガスは、通常CH4:50〜100モル%、CO2:0〜50モル%、H2:0〜10モル%を含有する。
【0028】
一方、嫌気性消化槽3で得られた消化物は処理物配管9を通って固液分離装置10に導入される。固液分離装置10において、液相部(廃水)と固相部(処理物)とに分離され、固相部は処理固形物配管11を通って固相部貯留タンク12に貯留され、液相部は処理液相配管13を通って処理液相貯留タンク14に貯留される。
【0029】
前記固液分離装置10は、濾過器や遠心分離機、沈降槽等からなる。この固液分離装置により、消化物は液相部と固相部とに分離される。この固相部は窒素やリンなどの肥料成分を多く含み、発酵が進んでいるので有機性肥料として利用することができる。また、前記液相部(廃水)は、通常溶存有機物や溶存無機物の濃度の低いものであり、必要に応じ廃水処理後放流される。
【実施例1】
【0030】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
[実施例1の方法]
固定床・流動床ハイブリッドリアクタとして、内径10 cm、高さ15 cmのガラス容器を用いた。炭素繊維を固定床と流動床の担体材料として用いた。固定床部分は高さ6.4 cmの炭素繊維をガラス容器の内壁に沿って設置し、担体体積は200cm3である。流動床担体は、炭素繊維を巻いた5つの球状担体(一個の体積は4 cm3)を、リアクタ内に浮くように浮力を調節してリアクタ内に投入した。
リアクタを均一状態に保つためスターラで撹拌し、35℃の中温条件下、滞留時間5日で連続運転を行った。有機物負荷を0.11、 0.31と0.53 g/l-reactor/dと上げて、40日間発酵後、有機物負荷1.07 g/l-reactor/dを20日間、3.17 g/l-reactor/dを15日間、 それから6.34 g/l-reactor/dを13日間運転した。その後、リアクタから流動床部分を取り出し、嫌気性消化を続けた。有機物負荷は6.34 g/l-reactor/dを20日間、3.17 g/l-reactor/dを15日間、1.07 g/l-reactor/dを13日間固定床部分だけのリアクタを運転した。
リアクタから発生したガス生成量を測定し、メタン濃度はガスクロで測定した。流入液と流出液の溶存総有機炭素濃度を測定し、添加溶存有機物当たりメタン収率を検討した。固定化微生物について、電子顕微鏡を用いて観察した。
【0031】
[実施例1の実験結果およびその考察]
固定床・流動床ハイブリッドリアクタを連続運転実験より、スタートアップ後比較的短時間で安定した。有機物負荷(OLR)6.34 g/l-reactor/d の場合、DOC除去率は88%、メタン生成速度は798 ml/l-reactor/d に達した。その後、ハイブリッドリアクタの流動床を取り出し、固定床のみで醗酵を続けたところ、 前述と同じ有機物負荷で、DOC除去率は62%、メタン生成速度は638 ml/l-reactor/d まで減少した。流動床担体体積は全体の担体体積の9%である。担体体積あたりでは、ハイブリッドリアクタが固定床のみのリアクタより優れた結果であった。特に、高濃度のプロピオン酸(10000 mg/l)において、メタン生成が認められた。ハイブリッドリアクタは短いスタートアップと高い有機物除去率が得た。
電子顕微鏡による固定床・流動床ハイブリッドリアクタの観察において、流動床担体部分に固定された微生物はおもに球状や双球状のMethanosarcina様メタン菌、長桿のMethanobacterium様メタン菌、やや短め桿菌のMethanosaeta様メタン菌であった。一方、固定床担体部分は、主に球状、双球状のMethanosarcina様メタン生成菌が固定された。流動床カーボンフェルトに固定されたメタン生成菌の多様性が、メタン生成に重要な役割が果たしていることが考えられる。これらの実験結果から、嫌気性消化槽内に固定床と流動床ハイブリッドしたカーボンフェルトを具備すると、効率よく嫌気性微生物が固定化され、有機性廃棄物の分解速度やガス化速度が向上することがわかる。
【実施例2】
【0032】
[固定床材料]
担体材料として使われたカーボンフェルトは、孔隙率92.2%、比表面積0.70 g/cm3、比重0.11g/cm3である。カーボンフェルト材料の構造は、電子顕微鏡を用いて観察した。固定化材料の電子顕微鏡写真を図2に示した。
[半連続運転操作]
カーボンフェルトの充填率20% v/vの固定床リアクタ及び流動床リアクタ (300 ml) を用意した。もう一つのリアクタは担体なしで運転し、それをコントロールとした。すべてのリアクタを、120 rpmで攪拌しながら、35℃のインキュベターに置いた。発生したバイオガスはシリンジで集めた。接種する種菌は、茨城県下水処理場からのメタン生成汚泥を15%v/v加え、35℃で一ヶ月間、5.0g TOC/l を含んだ合成培地を供給して馴養したものを用いた。リアクタは、保持時間(HRT)12日間とした半連続式で運転を42日間行った。リアクタ内の液量は、150 mlである。リアクタには、CHCOONa (5 g/l)、NH4Cl (200 mg/l)、KH2PO4(16 mg/l) と微量金属塩(200 mg/l) の入った培地を供給した。
[連続運転操作]
固定床・流動床ハイブリッド(AFFH)リアクタの構造を図3に示す。内径10 cm、高さ15 cmのガラス容器を用いた。前述したカーボンフェルトを固定床と流動床の担体材料として用いた。固定床部分は高さ6.4 cmのカーボンフェルトをガラス容器の周りに設置し、表面積は200 cm2であった。流動床部分はカーボンフェルトを巻いた五つのボール(一個の表面積は4 cm2で、合わせて表面積は20 cm2である)をリアクタに入れた。
【0033】
リアクタ内を均一状態に保つためスターラで撹拌し、35℃の中温条件下、HRT 5日で連続運転を行った。16% w/w の中温嫌気性消化汚泥及び84% w/wのCH3COONa(5 g/l), CH3CH(OH)COONa (2.5 g/l), CH3CH2COONa(2.5 g/l),酵母エキス(300 mg/l), NH4Cl (200 mg/l), KH2PO4 (16mg/l)と微量金属溶液をリアクタに加えた。微量金属塩溶液は、FeSO4・7H2O (1.11 g/l),MgSO4・7H2O (24.65 g/l), CaCl2・2H2O(2.94 g/l), NaCl (23.4 g/l),MnSO4・4H2O (111 mg/l), ZnSO4・7H2O(28.8 mg/l), Co(NO3)・6H2O (29.2 mg/l), CuSO4・5H2O(25.2 mg/l), Na2MoO4・2H2O (24.2 mg/l), H3BO3(31.0 mg/l)を含む。5 NのNaOHを添加し、この合成培地のpHを7.2に調整した。200 ml/l微量金属溶液を混合した醗酵液900 ml をリアクタに入れ、運転をスタートした。有機物負荷を0.11、0.31 、0.53 g/l-reactor/d と順に上げて、40日間発酵後、有機物負荷1.07 g/l-reactor/d で 20 日間、3.17g/l-reactor/d で15 日間、 それから6.34 g/l-reactor/d で13日間運転した。その後、リアクタから流動床部分を取り出し、嫌気性消化を続けた。有機物負荷は 6.34 g/l-reactor/d で20日間、3.17 g/l-reactor/dで15 日間、それから1.07 g/l-reactor/d で13日間運転し、残りの固定床部分だけのリアクタを141日まで運転した。
【0034】
[化学分析」
週二回消化液をサンプリングした。このサンプルを10,000 rpm で10分間遠心して微生物を沈殿させ、この上澄みをDOCとして、TOC分析器で測定した。リアクタ内におけるバイオガス生産量とpHは毎日測定した。バイオガス濃度はガスクロマトグラフを用いて測定した。
[電子顕微鏡での観察]
担体材料に付着した細胞の形態を、走査型電子顕微鏡で観察した。実験終了後、担体を取り出し、まず固定化微生物をバッファー液 (pH 7.0) で洗浄した。サンプルを10%グルタルアルデヒド液に一晩浸け固定した。固定したサンプルは純水で脱塩し、-20℃で3時間凍結させた。更に凍結したサンプルを、凍結乾燥機で乾燥させた。これらのサンプルは、顕微鏡観察の前に金粉でコーティングした。
[結果及び考察]
半連続運転検討
図4は、固定床と流動床リアクタ及び担体なしリアクタに、それぞれ蓄積したメタンガス量の変化を示している。この結果、累積メタンガス量は、固定床、流動床、担体無しの順に減少した。図5は、それぞれ嫌気性消化槽における平均メタン収率の結果を示している。固定床リアクタは、約217 ml CH/g-DOCadded の最も高いメタン収率を示した。メタン収率も、固定床、流動床、担体無しの順に減少した。これらの結果より、固定式リアクタが流動式リアクタより優れた消化効率を持つことが明らかとなった。各リアクタのメタン濃度を図6に示した。担体ありのリアクタにおいて、同様なメタン濃度が見られたが、担体のないリアクタのメタン濃度は低かった。
DOC除去率の変化を、図7に示す。二つの担体ありのリアクタでは、98%の除去率が得られた。DOC除去が最も速いのは、固定床リアクタである。発酵開始から14日目で90%の除去率が得られた。それに比べ、同じ除去率を達成するには、流動床リアクタでは27 日間必要であった。担体のないリアクタでは、42日後の除去率は55% であった。これらの結果、固定床リアクタは流動床リアクタに比べ優れた嫌気性消化特性を示す事がわかる。
【0035】
AFFHリアクタ連続運転の結果
スタートアップからバイオガス中のメタン濃度は徐々に上がり7日目には91.6%に達し、運転終了までほぼその濃度で保たれた(図8)。消化液においては比較的高いpHのため、リアクタ内に生成されたバイオガス中の二酸化炭素が消化液に溶け、メタン濃度が高くなったと考えられる。高孔隙率のカーボンフェルトを用い、大量の微生物が固定化されることによって、良好なスタートアップを達成した。
図8に示したように、40日から60日まで有機物負荷は1.07g/l-reactor/d で 20 日間運転した場合、平均メタン収率は340 ml/l-reactor/d、 61日から76日まで有機物負荷3.17g/l-reactor/d で15日間運転した場合、平均メタン収率は673 ml/l-reactor/d、77日から90日まで有機物負荷6.34g/l-reactor/d で 13 日間運転した場合、平均メタン収率は798 ml/l-reactor/dである。
90日間固定床・流動床ハイブリッド(AFFH)リアクタで運転後、AFFHリアクタから流動床部分を取り出し、固定床のみで嫌気性消化を続けた。有機物負荷が 6.34 g/l-reactor/d を20 日間、 3.17 g/l-reactor/dを15 日間、さらに1.07 g/l-reactor/d を141日まで運転を行った。図8に示したように、91日から111日まで、有機物負荷6.34g/l-reactor/d で 20 日間運転した場合の平均メタン収率は638 ml/l-reactor/d、 112日から127日まで有機物負荷3.17g/l-reactor/d で15日間運転した場合の平均メタン収率は537 ml/l-reactor/d、128日から141日まで、有機物負荷1.07g/l-reactor/d で 13 日間運転した場合の平均メタン収率は272 ml/l -reactor/dである。、2倍以上のHRTの間メタン生産量が一定に保たれれば安定状態と言える。本システムのメタン収率により、固定床・流動床ハイブリッド(AFFH)リアクタは安定かつ優れた嫌気性消化リアクタシステムであることが示唆された。
プロピオン酸濃度が1500mg/l 〜2220 mg/lになると、メタン生成菌に影響することが報告されている。プロピオン酸のメタン生成菌に対する毒性について、プロピオン酸濃度5000mg/lになるとメタン生産に制限が見られたと報告がある。それに対し、本システムにおけるメタン生成菌は高いプロピオン酸濃度に順応できた。プロピオン酸濃度が10000 mg/lに達してもメタン生成に影響が見られなかった。
【0036】
[AFFHリアクタのDOC除去率]
AFFHリアクタ運転時における有機物負荷の変化とDOC除去率の関係を図9に示した。スタートアップから22日目は、95.7%のDOC除去率を示した。有機物負荷が比較的高い場合、88.0〜99.7%のDOC除去率を示した。91日から同じ有機物負荷で固定床のみの場合、DOC除去率は62.0〜80.0%であった。図10は異なる有機物負荷におけるDOC除去率の変化を示している。有機物負荷の増加と共にDOC除去率が減少した。流動床を取り出した後(カーボンフェルトの面積は1/11減少)、同じ有機物負荷でDOC除去率は24%減少した。担体面積の減少よりDOC除去率の減少が大きかった。
有機物負荷6.34g/l-reactor/dの場合、AFFHリアクタは88%以上のDOC除去率が得られたことで、AFFHシステムは効率の高いリアクタシステムと言える。有機物負荷増加と共に、DOC除去率が多少減少したが、このシステムは比較的高い負荷で運転することが可能である。ハイブリッドにカーボンフェルトを使用し、多様な微生物を固定化できたことが、AFFHシステムの高効率化に貢献したと考えられる。
[ 顕微鏡による固定化微生物の観察]
リアクタの連続運転90日後、流動床担体を取り出して、顕微鏡観察を行った(図11)。これらの顕微鏡写真によると、付着した微生物は主に球状や双球状のMethanosarcina様メタン菌、長桿のMethanobacteriumメタン菌、やや短め桿菌のMethanosaeta様メタン菌で構成されていることがわかった。
連続運転終了の141日目に、固定床担体を取り出し、顕微鏡観察を行った(図12)。球状、双球状のMethanosarcina様メタン生成菌が、担体に固定されていたことが観察された。AFFHリアクタの流動床担体に付着した微生物は、固定床担体部分より多様性が高い事が明らかになった。流動床のカーボンフェルトに付着したメタン生成菌の多様性が、メタン生成に重要な役割を果たしていることが考えられる。
【0037】
[まとめ]
半連続実験で検討の結果、流動床より固定床の方がメタン醗酵特性は優れていることが分かった。AFFHリアクタの連続運転実験より、このシステムは比較的高有機物負荷において満足できる結果が得られた。特に、高濃度のプロピオン酸(10000 mg/l)条件下でも、メタン生成が認められた。AFFHリアクタでは、短いスタートアップと高い有機物除去率が得られた。同じ運転条件において、固定床・流動床ハイブリッド(AFFH)リアクタは固定床のみのリアクタより担体面積減少以上に優れた結果が得られた。
電子顕微鏡による固定床・流動床ハイブリッドリアクタの観察において、流動床担体部分に固定された微生物は主に球状や双球状のMethanosarcina様メタン菌、長桿のMethanobacterium様メタン菌、やや短め桿菌のMethanosaeta様メタン菌であった。一方、固定床担体部分では、主に球状、双球状のMethanosarcina様メタン生成菌が固定された。流動床カーボンフェルトに固定化されたメタン生成菌の多様性が、メタン生成に重要な役割が果たしていることが考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の有機性廃棄物の処理方法は、固定床・流動床ハイブリッドリアクタを嫌気性消化槽内において用いることにより、効率よく有機性廃棄物を含む液状の被処理物を分解消化することが出来、分解消化に関わる微生物が効率よく固定床担体と流動床担体に固定化されているので、槽内の微生物濃度が高く、分解消化が効率よく進み、結果として、有機物の分解速度が速く、メタンガスがより迅速に発生させることができ、有機性廃棄物の処理のみならず、燃料供給装置としても広い用途が期待できる。

【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る有機性廃物の嫌気性消化装置の説明図。
【図2】固定化材料の電子顕微鏡写真
【図3】固定床・流動床ハイブリッド(AFFH)リアクタの概略図
【図4】メタンガス量の変化図
【図5】嫌気性消化槽における平均メタン収率の結果図
【図6】各リアクタのメタン濃度図
【図7】DOC除去率の変化図
【図8】AFFH リアクタ運転時におけるバイオガス中のメタン濃度及びメタン生成速度変化図
【図9】AFFHリアクタ運転時における有機物負荷の変化とDOC除去率の関係図
【図10】有機物負荷におけるDOC除去率の変化図
【図11】リアクタの連続運転90日後の流動床担体の表面の電子顕微鏡写真
【図12】連続運転終了の141日目後の固定床担体の表面の電子顕微鏡写真
【符号の説明】
【0040】
1.廃棄物貯留タンク
2.原料廃棄物配管
3.嫌気性消化槽
4.固定床担体
5.流動床担体
6.撹拌装置
7.消化ガス配管
8.消化ガス貯留タンク
9.処理物配管
10.固液分離装置
11.処理固形物配管、
12.処理固形物貯留タンク
13.処理液相配管
14.処理液相貯留タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物を含む液状の被処理物を、嫌気性消化槽内において消化微生物の存在下で直接嫌気性処理する方法において、表面が炭素繊維で覆われた固定床担体と表面が炭素繊維で覆われた流動床担体を組み合わせた固定床・流動床ハイブリッドリアクタを嫌気性消化槽内において用いることを特徴とする有機性廃棄物の処理方法。
【請求項2】
表面が炭素繊維で覆われた流動床担体が、嫌気性消化槽内の気相と液相両方に接していることを特徴とする請求項1に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項3】
有機性廃棄物からなる被処理物を消化微生物固定化担体の存在下で、直接、嫌気性処理消化する方法において、(I)酸発酵性微生物及び/又はメタン発酵性微生物を含有する嫌気性消化汚泥の存在下、該被処理物を固定床担体と流動床担体と接触させ嫌気的に消化する工程、(II)該消化工程で得られた消化生成物を液相部と固相部とに分離する工程、(III)該分離工程で得られた固相部を回収する工程、を含むことを特徴とする有機性廃棄物の処理方法。
【請求項4】
(I)の工程で発生したメタンを含有する気相部を燃料とすることを特徴とする請求項3に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項5】
(III)の回収工程で回収された固相部を有機性肥料とすることを特徴とする請求項3に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項6】
有機性廃棄物を含む液状の被処理物を、嫌気性消化槽内において消化微生物の存在下で直接嫌気性処理する嫌気性消化装置であって、表面が炭素繊維で覆われた固定床担体と表面が炭素繊維で覆われた流動床担体を組み合わせた固定床・流動床ハイブリッドリアクタが嫌気性消化槽内に収容されていることを特徴とする嫌気性消化装置。
【請求項7】
固定床担体が成型樹脂の表面をカーボンフェルトで覆った構造であり、流動床担体が発泡成型樹脂をカーボンフェルトで覆った構造である請求項6に記載した嫌気性消化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−167548(P2006−167548A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361619(P2004−361619)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年8月25日 社団法人日本生物工学会発行の「日本生物工学会大会講演要旨集」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「バイオマスエネルギー高効率転換技術開発 有機性廃棄物の高効率水素・メタン醗酵を中心とした二段醗酵技術研究開発 メタン醗酵の効率化及びバイオエンジニアリングの研究」産業活力特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】