説明

有機性廃水の処理方法及び処理設備

【課題】活性汚泥を用いた有機性廃水処理の本来的な機能である有機物分解処理能を妨げることなく、嫌気環境において生じる脱窒反応を好気環境である曝気槽において進行させることのできる有機性廃水の処理設備を提供する。
【解決手段】有機性廃水9が活性汚泥と共に曝気処理される曝気槽2を有する生物処理法を利用した有機性廃水の処理設備において、非多孔性膜22を少なくとも一部に備えると共に電子供与体物質23を充填した密封構造の容器21と、微生物を担持し得る担体31とをさらに有し、担体31は容器21の少なくとも非多孔性膜22の周りに配置されて容器21の非多孔性膜22部分から徐放される電子供与体物質23が担体31に供給され、少なくとも担体31は曝気槽2内の有機性廃水9と接触する位置に収容されているものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃水の処理方法及び処理設備に関する。さらに詳述すると、本発明は、
有機性廃水に含まれる窒素成分濃度を低減させるのに好適な有機性廃水の処理方法及び処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性廃水の代表的な浄化処理方法として、活性汚泥法が知られている。この方法は、以下のように実施される。即ち、一次処理(スクリーン、沈砂池、最初沈殿池)を終えた有機性廃水が、曝気槽102に連続的に流入し、曝気槽102内の活性汚泥と混合される。曝気槽102にはブロワー(送風機)等から強制的に空気が吹き込まれて、曝気槽102内の有機性廃水の溶存酸素濃度が高濃度に維持され、有機性廃水中の有機物(BOD成分)が活性汚泥中に存在する好気性微生物の作用により酸化分解される。有機性廃水を曝気槽2内で一定時間滞留させた後、曝気槽102内の混合液をそのまま沈殿槽103に流入させて静置し、微生物群(活性汚泥)にフロックを形成させて沈降させる。上澄液は処理水としてそのまま放流するか、あるいは必要に応じて次工程に回される。沈殿槽103で沈降した活性汚泥は返送汚泥として曝気槽102に返され、再び有機物分解作業に供される。一方で、増殖した微生物に見合う量の活性汚泥が、余剰汚泥として回収される(図16、非特許文献1のp53−54、非特許文献2参照)。
【0003】
ところで、近年、湖沼や内海等の閉鎖系水域において富栄養化の問題が顕在化している。富栄養化の問題を解決するためには、閉鎖系水域への窒素成分さらにはリン成分といった栄養塩の流入を防ぐことが重要である。そこで、活性汚泥法の変法として、窒素除去のための硝化脱窒法、リン除去のための嫌気好気法、窒素・リン同時除去のための嫌気無酸素好気法などが用いられている。
【0004】
硝化脱窒法は、例えば図18に示すように、曝気槽102の前段に脱窒槽105が設けられた設備において実施される。具体的には、有機性廃水に含まれるアンモニア性窒素が脱窒槽105では何の変化も受けることなく、曝気槽102へと流入する。そして、曝気槽102内で、アンモニア性窒素が亜硝酸性窒素、硝酸性窒素に酸化された後、硝化循環液として大量に(通常、流入する廃水の1〜3倍量)脱窒槽105へと戻される。脱窒槽105では、流入する有機性廃水に含まれる有機物を利用して亜硝酸性窒素、硝酸性窒素が脱窒反応を受け、有機性廃水の窒素の濃度が低減される。また、有機性廃水にはじめから亜硝酸性窒素、硝酸性窒素が含まれていた場合には、有機性廃水が脱窒槽105に流入した段階で脱窒反応を受けてそれらの濃度が低減される。また、有機性廃水中の有機物は、曝気槽105での脱窒菌による消費に加えて、曝気槽102での酸化分解処理によってその濃度が低減する(非特許文献1のp60−61、非特許文献2参照)。
【0005】
嫌気好気法(AO法)は、図17に示すように、曝気槽102の前段に嫌気槽104を設けたものである。活性汚泥中には、嫌気環境下で有機物を摂取しながらリンを放出して、続く好気条件で放出したよりも多くのリンを吸収する機能を有する細菌(ポリリン酸蓄積細菌)が存在している。この細菌の機能によって、有機性廃水のリン濃度を低減すると共に、余剰汚泥中にリンを蓄積させて系外に排出することができる(非特許文献2参照)。
【0006】
嫌気無酸素好気活性汚泥法(AO法)は循環式嫌気好気法ともよばれ、例えば図19に示すように、曝気槽102の前段に脱窒槽105が設けられ、さらに脱窒槽105の前段に嫌気槽104が設けられた設備において実施される。具体的には、硝化脱窒法のさらに前段に嫌気槽104をリン溶出槽として設けることにより、嫌気槽104に返送された活性汚泥に含まれるポリリン酸蓄積細菌からリンを放出させ、曝気槽102においてポリリン酸蓄積細菌にリンを過剰摂取させることにより、有機性廃水に含まれるリン濃度を低減し、さらには脱窒槽105と曝気槽102によって、硝化脱窒法と同様に、アンモニア性窒素、さらには亜硝酸性窒素や硝酸性窒素濃度の低減を図ることができる。また、有機性廃水中の有機物は、脱窒槽105における脱窒菌による消費、嫌気槽104や脱窒槽105におけるポリリン酸蓄積細菌による消費、そして曝気槽102における酸化分解によって、濃度が低減する(非特許文献1のp61−62、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】環境微生物学(昭晃堂、大森俊雄著ら著、初版5刷)
【非特許文献2】さまざまな活性汚泥法、[online]、2007年3月30日、畜産環境技術研究所、[平成21年11月17日検索]、インターネット<URL:http://www.chikusan-kankyo.jp/osuiss/kiso/0046.htm>
【非特許文献3】嫌気−無酸素−好気法、[online]、2008年8月28日、京都市下水道局、[平成21年11月17日検索]、インターネット<URL:http://www.city.kyoto.lg.jp/suido/page/0000008844.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの既存の処理方式には、それぞれ重大な欠点がある。
【0009】
まず、標準活性汚泥法や嫌気好気法については、活性汚泥に含まれている硝化菌によって有機性廃水に含まれるアンモニア性窒素を酸化することはできるものの、アンモニア性窒素の酸化により生成される亜硝酸性窒素や硝酸性窒素、さらには有機性廃水にはじめから含まれている亜硝酸性窒素や硝酸性窒素を分子状窒素に変換(脱窒処理)することができない。したがって、閉鎖系水域での富栄養化の問題を引き起こす硝酸性窒素由来の窒素成分の濃度を低減することができない。しかも、嫌気好気法の場合、残存する硝酸性窒素は返送汚泥とともに嫌気槽に流入するため、嫌気槽においてポリリン酸蓄積細菌と脱窒菌による有機物摂取の競合が生じて、リン除去能力が十分に発揮されなくなる。
【0010】
また、硝化脱窒法及び嫌気無酸素好気法は、有機性廃水に含まれるアンモニア性窒素のみならず、亜硝酸性窒素や硝酸性窒素を分子状窒素に変換(脱窒処理)してその濃度を低減することができるものの、脱窒処理のための脱窒槽105を別途設けることから、敷地面積に制限のある場合に導入が難しく、また建設費用が増大してしまう。さらに、曝気槽から脱窒槽に大量の返送を必要とすることから、ポンプの運転費用もかさむこととなる。
【0011】
これらの問題点は、活性汚泥を用いた有機性廃水処理の本来的な機能である有機物分解処理能を妨げることなく、嫌気環境において生じる脱窒反応を好気環境である曝気槽102において進行させることができれば全て解決することができる。即ち、活性汚泥法及び嫌気好気法については、曝気槽102での脱窒処理を実現できれば、新たに処理槽を設けることなく、有機性廃水中の亜硝酸性窒素や硝酸性窒素濃度の低減を図ることができる。また、硝化脱窒法及び嫌気無酸素好気法については、曝気槽102での脱窒処理を実現できれば、脱窒槽105への硝酸性窒素の返送量を減少させることができる。あるいは、脱窒槽105での脱窒処理工程を完全に曝気槽102にシフトさせて、脱窒槽105への硝化循環液の返送工程を削除し、ポンプの運転費用の削減と施設規模の縮小が可能となる。
【0012】
そこで、本発明は、活性汚泥を用いた有機性廃水処理の本来的な機能である有機物分解処理能を妨げることなく、嫌気環境において生じる脱窒反応を好気環境である曝気槽において進行させることのできる有機性廃水の処理方法及び処理設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するため、本願発明者等が鋭意研究を行った。その結果、極めて強い好気環境下に晒される活性汚泥法における曝気槽においても脱窒反応を進行させることができ、しかも、活性汚泥を用いた有機性廃水処理の本来的な機能である有機物分解処理能を妨げることのない構成を知見し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明の有機性廃水の処理方法は、有機性廃水を活性汚泥と共に曝気槽内で曝気処理する工程を含む生物処理法を利用した有機性廃水の処理方法において、非多孔性膜を少なくとも一部に備えると共に電子供与体物質を充填した密封構造の容器の少なくとも非多孔性膜の周りに微生物を担持し得る担体を配置して、容器の非多孔性膜部分から電子供与体物質を徐放させて担体に供給し、少なくとも担体を曝気槽内の有機性廃水と接触させながら曝気処理を行うようにしている。
【0015】
また、本発明の有機性廃水の処理設備は、有機性廃水が活性汚泥と共に曝気処理される曝気槽を有する生物処理法を利用した有機性廃水の処理設備において、非多孔性膜を少なくとも一部に備えると共に電子供与体物質を充填した密封構造の容器と、微生物を担持し得る担体とをさらに有し、担体は容器の少なくとも非多孔性膜の周りに配置されて容器の非多孔性膜部分から徐放される電子供与体物質が担体に供給され、少なくとも担体は曝気槽内の有機性廃水と接触する位置に収容されているものとしている。
【0016】
したがって、本発明の有機性廃水の処理方法及び処理設備によると、活性汚泥に含まれている脱窒菌が担体に付着する。そして、担体に電子供与体物質が供給されることによって担体内に嫌気環境が形成され、嫌気環境下におかれた脱窒菌が脱窒処理能を発揮する。しかも、有機性廃水の有機物濃度を上昇させるエタノール等のアルコールを電子供与体物質として供給した場合にも、担体に付着した脱窒菌さらには活性汚泥によって迅速に消費されるため、活性汚泥を用いた有機性廃水処理の本来的な機能である有機物分解処理能は妨げられない。
【0017】
ここで、本発明において、生物処理法は、標準活性汚泥法、嫌気好気法、嫌気無酸素好気法または硝化脱窒法であることが好ましい。
【0018】
また、本発明において、担体には予め脱窒菌を担持させておいてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、活性汚泥を用いた有機性廃水処理の本来的な機能である有機物分解処理能を妨げることなく、有機性廃水を活性汚泥と共に曝気処理する曝気槽内での脱窒処理が可能となる。
【0020】
したがって、新たな処理槽(脱窒槽)を追加することなく、従来の標準活性汚泥法や嫌気好気法の曝気槽に脱窒処理能を付与することができるので、新たな処理槽を設けるための設備コストや敷地面積を確保することなく、コンパクトな設備で有機性廃水の処理を実施することが可能となる。
【0021】
また、従来の硝化脱窒法や嫌気無酸素好気法の曝気槽に脱窒処理能を付与することにより、脱窒槽での脱窒処理工程の一部または全てを曝気槽にシフトさせることができる。したがって、曝気槽から脱窒槽への硝化循環液の返送量を減少させたり、または硝化循環液の返送工程を削除することができるので、廃水処理効率を従来よりも大幅に向上させることができる。
【0022】
また、生物学的リン除去のための嫌気好気法や嫌気無酸素好気法では、曝気槽の硝酸性窒素濃度を低減することで、返送汚泥とともに嫌気槽に流入する硝酸性窒素が減少する。そのため、嫌気槽において、有機性廃水に含まれる有機物の脱窒菌による消費量が大幅に減少し、返送汚泥に含まれるポリリン酸蓄積細菌に優先的に消費されやすくなる。したがって、ポリリン酸蓄積細菌が増殖しやすくなると共に、リン蓄積能を発揮するポリリン酸蓄積細菌の割合が増加する。これにより、有機性廃水のリン濃度を従来よりも低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】生物処理法を活性汚泥法とした場合の本発明の有機性廃水の処理設備の一例を示す図である。
【図2】生物処理法を嫌気・好気活性汚泥法とした場合の本発明の有機性廃水の処理設備の一例を示す図である。
【図3】生物処理法を生物学的脱窒素法とした場合の本発明の有機性廃水の処理設備の一例を示す図である。
【図4】生物処理法を生物学的脱リン法とした場合の本発明の有機性廃水の処理設備の一例を示す図である。
【図5】本発明に使用する容器の構成の一例を示す図である。
【図6】本発明に使用する容器の構成の他の例を示す図である。
【図7】袋状の担体に容器を内包した形態を示す図である。
【図8】本発明における曝気槽への脱窒モジュールの収容形態の一例を示す図である。
【図9】本発明における曝気槽への脱窒モジュールの収容形態の他の例を示す図である。
【図10】本発明における曝気槽への脱窒モジュールの収容形態のさらに他の例を示す図である。
【図11】実施例で使用した有機性廃水の処理設備を示す図である。
【図12】脱窒菌を予め担持させた担体を用いたときの、有機性廃水中の有機物濃度の経時変化を示す図である。
【図13】脱窒菌を予め担持させた担体を用いたときの、有機性廃水中の硝酸性窒素濃度の経時変化を示す図である。
【図14】脱窒菌を予め担持させていない担体を用いたときの、有機性廃水中の有機物濃度の経時変化を示す図である。
【図15】脱窒菌を予め担持させていない担体を用いたときの、有機性廃水中の硝酸性窒素濃度の経時変化を示す図である。
【図16】活性汚泥法を実施するための従来の有機性廃水の処理設備の一例を示す図である。
【図17】嫌気・好気活性汚泥法を実施するための従来の有機性廃水の処理設備の一例を示す図である。
【図18】生物学的脱窒素法を実施するための従来の有機性廃水の処理設備の一例を示す図である。
【図19】生物学的脱リン法を実施するための従来の有機性廃水の処理設備の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0025】
本発明の有機性廃水の処理方法は、有機性廃水を活性汚泥と共に曝気槽内で曝気処理する工程を含む生物処理法を利用した有機性廃水の処理方法において、非多孔性膜を少なくとも一部に備えると共に電子供与体物質を充填した密封構造の容器の少なくとも非多孔性膜の周りに微生物を担持し得る担体を配置して、容器の非多孔性膜部分から電子供与体物質を徐放させて担体に供給し、少なくとも担体を曝気槽内の有機性廃水と接触させながら曝気処理を行うようにしている。この方法により、曝気槽内での脱窒処理が可能となる。
【0026】
本発明の有機性廃水の処理方法は、例えば、図1〜4に示す有機性廃水の処理設備において実施される。即ち、有機性廃水9が活性汚泥と共に曝気処理される曝気槽2を有する生物処理法を利用した有機性廃水の処理設備1において、非多孔性膜22を少なくとも一部に備えると共に電子供与体物質23を充填した密封構造の容器21と、微生物を担持し得る担体31とをさらに有し、担体31は容器21の少なくとも非多孔性膜22の周りに配置されて容器21の非多孔性膜22部分から徐放される電子供与体物質23が担体31に供給され、少なくとも担体31は曝気槽2内の有機性廃水9と接触する位置に収容されている処理設備1において実施される。因みに、図1〜4の符号11は、容器21の非多孔性膜22部分の周りに担体31を配置した脱窒モジュールを意味している。
【0027】
以下、容器21の構成、担体31の構成、並びに曝気槽2への脱窒モジュール11の収容形態について説明した後、図1〜4に示す有機性廃水の処理設備について詳細に説明する。尚、脱窒モジュール11を構成する容器21及び担体31については、本件出願人が先に出願した国際公開2006/135028に記載されたものとほぼ同じものを用いることができる。
【0028】
<容器の構成>
本発明に使用する容器21については、本件出願人が先に出願した国際公開2006/135028に詳細に記載されたものとほぼ同様のものを用いることができる。以下、容器21の構成の概要を説明する。
【0029】
図5に容器21の形態の一例を示す。容器21は、非多孔性膜22を少なくとも一部に備えると共に、電子供与体物質23を充填して密封構造としたものである。このように構成することで、電子供与体物質23を容器21の非多孔性膜22の部分から非多孔性膜22の分子透過性能に支配される速度で容器21の周辺に供給することができる。図5に示す形態では、容器21は全体が非多孔性膜22で構成される袋状を成し、周縁をヒートシールで溶着したり、接着剤により接着したりするようにして電子供与体物質23を密封するようにしているが、形体や構造はこれに限定されるものではない。例えば容器21をチューブ状やシート状としてもよい。また、容器21は、全体を非多孔性膜22で構成するものに限定されず、片面のみを非多孔性膜22で構成したり、1つの面のさらに一部分を非多孔性膜22のみで構成するようにしてもよい。部分的に非多孔性膜22を用いる場合には、その他の部分は金属製やプラスチック製の剛体フレームを用いたり、電子供与体物質23を透過しない膜や部材を用いてもよい。
【0030】
また、容器21は、完全密封された独立したものとせずに、電子供与体物質23をその内部に導入する手段を有する密封構造とし、電子供与体物質23を外部から補充可能としてもよい。例えば、図6に示すように、容器21の縁の一部に電子供与体物質23を注入する供給部25を設けてノズルないしパイプ27を装着する構造でも良いし、予め容器21と一体となったノズルないしパイプ27のようなものでも良い。そして、ノズルないしパイプ27と液体の電子供与体物質23を貯留するタンク26とをチューブ28などで連結し、必要に応じて電子供与体物質23を補充可能としてもよい。この場合、タンク26と容器21とはチューブ28を介して連通されているので、タンク26内に電子供与体物質23を貯留しておけば、容器21内の電子供与体物質23が減少したときに、サイフォンの原理を利用してチューブ両端での圧力差を利用して電子供与体物質23を容器21に補充することができる。あるいは電子供与体物質23を重力により流下させて容器21に補充することもできる。尚、この場合には、容器21は供給部25あるいはノズル27を設けているので厳密な意味での密封構造ではないが、供給ノズル27内がタンクから供給される電子供与体物質3で満たされている状態では、液面がシールとなって容器21内は事実上密封状態にある。このため、液状あるいはガス化した電子供与体物質23が供給部25やノズル27を通って容器21外に漏れ出ることはない。ここで、電子供与体物質23は、容器21内に供給部から供給するのみならず、さらに排出部を設けて排出部から排出させて、容器21内の電子供与体物質23を入れ替え可能にしてもよい。この場合にも、供給部25と排出部には電子供与体物質23が満たされて、容器21内は事実上密封状態となり、液状あるいはガス化した電子供与体物質23が供給部25や排出部を通って容器21外に漏れ出ることはない。
【0031】
非多孔性膜22は、電子供与体物質23の分子を少しずつ透過させることによって徐放するものである。この非多孔性膜22は、膜材料、膜厚、封入する電子供与体物質23の分子量や性質、温度、濃度、膜密度や膜構成分子の構造により、単位面積当たりを透過する電子供与体物質3の分子の量を制御することが可能である。例えば、膜厚を薄くすれば単位面積当たりを透過する電子供与体物質23の分子の量は多くなり、逆に厚くすれば多くなる。電子供与体物質23の温度を高くすれば単位面積当たりを透過する電子供与体物質23の分子の量は多くなり、逆に低くすれば少なくなる。電子供与体物質23の濃度を高めれば単位面積当たりを透過する電子供与体物質23の分子の量は多くなり、逆に低くすれば少なくなる。膜密度を低くすれば単位面積当たりを透過する電子供与体物質23の分子の量は多くなり、逆に高くすれば少なくなる。
【0032】
非多孔性膜22としては、疎水性の膜、親水性の膜、または親水性と疎水性の両方の性質を有する膜を、容器内に充填される電子供与体物質の性質に合わせて用いることができる。
【0033】
疎水性の非多孔性膜としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンその他のオレフィン系の膜、エチレン・酢酸ビニル共重合体膜が挙げられる。これらの膜は、微生物の活動の場である水領域や土壌中、大気中とそれ以外の領域を良好に区画することが可能である。また、適度な物質の透過性、熱可逆性を有しており、柔軟で成形が容易であるという利点を有している。尚、エチレン・酢酸ビニル共重合体膜は、同じ膜厚のポリエチレンやポリプロピレンの膜と比較して電子供与体物質23の透過性能が高いことから、非多孔性膜22の厚みを、十分な強度を確保できる厚みとしながらも、非多孔性膜22の分子透過性能の初期スペックを高めることができる点で好適である。エチレン・酢酸ビニル共重合体を構成する分子であるエチレンと酢酸ビニルのモル比については、特に限定されるものではないが、例えば、エチレンと酢酸ビニルのモル比が88:12とすることが好適である。但し、疎水性の非多孔性膜はこれらに限定されるものではない。
【0034】
親水性の非多孔性膜としては、分子構造中に親水基を有する膜、例えば、ポリエステル、ナイロン(ポリアミド)、ポリビニルアルコール、ビニロン、セロハン、ポリグルタミン酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
親水性と疎水性の両方の性質を有する膜としては、例えば、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、つまり、疎水性のポリエチレン構造と親水性のポリビニルアルコール構造の両方を有する共重合体膜が挙げられるが、これに限定されるものではない。尚、親水性と疎水性の両方の性質を有する膜は、疎水性のポリエチレンと親水基のポリビニルアルコールの含有比率を変えることにより、疎水性を強めたり、親水性を強めたりすることができる。
【0036】
電子供与体物質23としては、脱窒菌が必要とする電子供与体物質であると共に、脱窒菌に対して毒性を呈さない分子からなる物質であり、非多孔性膜22を腐食しない性質を持ち、且つ非多孔性膜22を透過できる分子量及び性質を有するものが適宜選択され、その状態はガス状であっても液状であってもよい。
【0037】
疎水性の非多孔性膜を用いる場合には、電子供与体物質23として、ガス状物質である水素や硫化水素、メタン及びエタン等の有機化合物が挙げられる。液状物質としては、メタノール、エタノール及びプロパノール等のアルコール、酢酸及び酢酸よりも分子量の大きい及びプロピオン酸等の揮発性有機酸、ベンゼン、トルエン、フェノール等の揮発性有機物が挙げられ、特に、メタノール及びエタノールの使用が好適である。但し、電子供与体物質23はこれらに限定されるものではない。尚、これらの電子供与体物質23は、1種類のみを用いても良いし、2種以上を混在させて用いてもよい。また、電子供与体物質23としてアルコールを用いる場合でも、原液のまま使用可能である。容器21にアルコールを密封するとアルコールは非多孔性膜22から脱窒菌へ緩やかに供給されるため、アルコールの原液を用いても、アルコールの濃度が薄められて脱窒菌に供給され、脱窒菌が死に至ることはない。尚、必ずしもアルコールの原液を用いることはなく、アルコールの原液を水で希釈して用いた場合や、不純物が混在しているような場合であっても、アルコール分子のみが非多孔性膜を透過して微生物に緩やかに供給される。
【0038】
親水性の非多孔性膜を用いる場合には、電子供与体物質23として、メタノール、エタノール及びプロパノール等のアルコール、乳酸、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、グルコース及びスクロース等の糖類が挙げられるが、電子供与体物質23はこれらに限定されるものではない。尚、親水性の非多孔性膜を用いる場合、炭素数の大きな物質を用いると、物質の疎水性が強くなりすぎて、非多孔性膜を透過しなくなる。したがって、炭素数が1〜5のものを使用することが好適であり、炭素数が1〜3のものを使用することがより好適である。
【0039】
親水性と疎水性の両方の性質を有する非多孔性膜を用いる場合には、上記のいずれの電子供与体物質を用いてもよい。また、容器21を疎水性の非多孔性膜と親水性の非多孔性膜とで構成して、疎水性の非多孔性膜のみを透過する電子供与体物質と親水性の非多孔性膜のみを透過する電子供与体物質とを組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0040】
電子供与体物質23の非多孔性膜22の透過は、当該物質分子が膜に溶け込み、その溶け込んだ分子が膜内部を拡散して反対側に達することにより起こる。したがって、膜への溶け込みが起こらない程分子量の大きなカテキンなどは非多孔性膜22を透過しにくい。また、ポリエチレンやポリプロピレン等は水となじむ官能基が存在しない疎水性の強い膜であると共に低極性であるため、極性分子である水が膜に溶け込みにくい。したがって、水に溶けやすい極性の高い物質であるシアン化合物などもほとんど透過できない。また、水は水分子同士の水素結合が強いため、常温では水が当該膜を透過することはほとんど無い。したがって、疎水性の非多孔性膜を用いた場合には、アルコールに不純物例えばカテキンやシアン化合物のように微生物に対して毒性を呈する抗菌性の分子が混入している廃アルコールを用いることができる。換言すれば、非多孔性膜22は、所望の電子供与体物質を主成分として透過させる「分子ふるい」として機能する。また、電子供与体物質23は、容器21内に充填されている状態が気体、液体、蒸気(揮発性物質が揮発して生成されたもの)のどの状態であっても、容器21外には分子状態で放出される。つまり、電子供与体物質23は、非多孔性膜22を透過して、液体のように分子間の引力により凝集することのないガス(気体)の状態で徐放される。したがって、非多孔性膜22はガス透過性膜とも表現できる。また、電子供与体物質23は、容器21の外部環境が気相であっても液相であっても非多孔性膜22から徐放される。
【0041】
尚、非多孔性膜22は、電子供与体物質23を膜に溶け込ませることにより透過させており、多孔質膜のように孔の大きさや数で電子供与体物質の通液量等を制御するものではない。したがって、長期間の使用による孔の閉塞の問題も生じることが無く、定期的な逆洗浄の必要もない。したがって長期間メンテナンスを行うことなく使用でき、ランニングコストを低減できる。
【0042】
<担体の構成>
本発明に使用する担体31については、本件出願人が先に出願した国際公開2006/135028に詳細に記載されたものとほぼ同様のものを用いることができる。以下、担体31の構成の概要を説明する。
【0043】
微生物を担持し得る担体31としては、活性汚泥中の脱窒菌を付着させる場合には、各種の有機物あるいは無機物を素材とする繊維や不織布、あるいは活性炭や焼結セラミックスのような多孔質など、微生物を担持することのできる既知または新規の担体を適宜使用できる。また、脱窒菌をあらかじめ固定する場合には、例えば、コラーゲン、フィブリン、アルブミン、カゼイン、セルロースファイバー、セルローストリアセタート、寒天、アルギン酸カルシウム、カラギーナン、アガロース等の天然高分子、ポリアクリルアミド、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリル酸、ポリビニルクロリド、γ−メチルポリグルタミン酸、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリジメチルアクリルアミド、ポリウレタン、光硬化性樹脂(ポリビニルアルコール誘導体、ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール誘導体、ポリブタジエン誘導体等)等の合成高分子、またはこれらの複合体、さらには吸水性ポリマーを用いることが可能である。吸水性ポリマーとしては、公知のものを使用することができるが、具体的には、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸やそれらの改変物、ポリエチレングリコール改変物等が挙げられる。尚、ここで言う改変物とは、イオン性基をもつ高分子を前記高分子の一部に架橋させた物である。また、活性汚泥中の脱窒菌を付着させる場合と同様の担体を用いてもよい。但し、担体31はこれらに限定されるものではない。
【0044】
<曝気槽への脱窒モジュールの収容形態>
本発明の有機性廃水の処理設備では、担体31は容器21の少なくとも非多孔性膜22の周りに配置されて容器21の非多孔性膜22部分から徐放される電子供与体物質23が担体31に供給され、少なくとも担体31は曝気槽2内の有機性廃水9と接触する位置に収容される。
【0045】
まず、脱窒モジュール11について説明する。脱窒モジュール11は、容器21の少なくとも非多孔性膜22の周りに担体31が配置されて、容器21の非多孔性膜22部分から徐放される電子供与体物質23が担体31に供給されるものである。容器21の非多孔性膜22と担体31の位置関係については、容器21の非多孔性膜22部分から徐放される電子供与体物質23が担体31に十分に供給される位置関係にあれば特に限定されるものではないが、容器21の非多孔性膜22と担体31とを例えば数センチ程度まで近接させることが好適であり、容器21の非多孔性膜22に担体31を接触させることがより好適である。
【0046】
担体31は、非多孔性膜22の表面に例えば接着等により備えてもよいし、非多孔性膜22の袋の周縁をヒートシールする際に担体ごとヒートシールして一体化してもよい。また、担体31を袋状にしてその中に容器21を内包したり、図7に示すように、袋状の担体31の一部を開口しておいて、袋の内部空間33に容器21を収容するようにしてもよい。袋状の担体31を形成する場合には、例えば、構造的補強を図るために不織布32等により袋を形成し、袋の内側もしくは袋の外側または袋の両側(図7では袋の内側)に担体31を塗布して形成したり、予め形成された膜状の担体31を不織布32に接着あるいは溶着するようにしてもよい。但し、この形態に限定するものではなく、不織布32そのものも微生物を担持し得る担体として機能するので、不織布32のみで袋を形成してこれを担体としても良い。また、不織布32を使用せずに高分子等の担体31のみを用いて袋を形成してもよい。尚、容器21の非多孔性膜部分22は担体31で完全に覆われるものとすることが好適である。この場合、電子供与体物質23を担体31に無駄なく供給することができる。
【0047】
担体31の厚みについては、微生物を担持し得る領域を確保できれば、特に限定されるものではないが、少なくとも0.3mmとすることが好適であり、少なくとも1mmとすることがより好適である。
【0048】
曝気装置2aが収容された曝気槽2内では、図8に示すように、袋状の担体31に容器21を内包した脱窒モジュール11を有機性廃水9に沈めてもよいし、図9に示すように、容器21の一方の面にのみに担体31を接着等により備えた脱窒モジュール11を有機性廃水9に浮かせて、担体31を有機性廃水9に接触させるようにしてもよい。この場合、容器21の他方の面から電子供与体物質が徐放しないように、バリア膜等を設けることが好適である。尚、脱窒モジュール11は少なくとも担体31のみを有機性廃水9に接触させれば、その全体を有機性廃水9に接触させずとも脱窒処理能を発揮させることができる。
【0049】
ここで、脱窒モジュール11は、曝気槽2と独立したものには限定されない。例えば、図10に示すように、曝気槽2の一部に貫通孔40を設けてこれを非多孔性膜22で塞ぎ、非多孔性膜22の曝気槽2の内側の表面に担体31を例えば接着等により備え、容器21にはその一部に孔を設けて貫通孔40と連通させ、この孔から曝気槽2の貫通孔40に向けて電子供与体物質23を供給して、非多孔性膜22から電子供与体物質23を透過させるようにしてもよい。この場合、容器21は曝気槽2と独立に設けてもよいし、曝気槽2と一体化させてもよい。
【0050】
また、図8及び図9では脱窒モジュール11を一つしか収容していないが、これを複数収容してもよい。脱窒モジュール11を複数収容することで、脱窒菌を担持可能な面積を増大させて、脱窒反応を促進することができる。また、脱窒モジュール11の形状は、図8及び図9のものには限定されず、例えばチューブ状としてもよいし、また、チューブ状の脱窒モジュール11を螺旋状やコイル状として脱窒菌を担持可能な面積をさらに増大させてもよい。
【0051】
担体31を曝気槽2内で有機性廃水9と接触させると、活性汚泥中に存在している脱窒菌が徐々に担体31に担持される。そして、電子供与体物質23が担体31に供給されることによって、担体31に嫌気性環境が形成されると共に、担体31に担持された脱窒菌に電子供与体物質23が与えられる。嫌気性環境で電子供与体物質23が与えられた脱窒菌は、脱窒処理能を発揮する。したがって、曝気槽2内での硝酸性窒素、亜硝酸性窒素の脱窒処理が可能となる。
【0052】
ここで、担体31には、予め脱窒菌を担持させておいてもよい。予め担持させる脱窒菌としては、微生物学の分野における公知ないしは新規のものを適宜採用することができる。例えば、Paracoccus denitrificans、Alcaligenes eutrophus、Alcaligenes faecalis、Pseudomonas denitrificans、Paracoccus pantotrophus、Thiobacillus denitrificansを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。尚、予め脱窒菌を担持させる場合に用いる担体としては、上記の天然高分子、合成高分子、これらの複合体及び吸水性ポリマーといったゲル状のものを用いることが好適である。また、活性汚泥に含まれる脱窒菌を曝気槽2において担持させる場合に用いる担体としては、不織布等の空隙率の高い素材を用いることが好適である。
【0053】
以上、本発明の構成によって、強い好気性である曝気槽2において、硝酸性窒素、亜硝酸性窒素を分子状窒素に変換する脱窒反応を進行させることができる。しかも、有機性廃水のBODを上昇させる虞のある電子供与体物質23を供給しても、有機性廃水のBODの上昇は見られず、活性汚泥を利用した有機性廃水処理の本来的な機能である有機物分解処理能は阻害されることがない。つまり、従来の活性汚泥法の有機物分解処理能を妨げることなく、脱窒処理能のみを付与することができる。また、有機性廃水に含まれるアンモニア性窒素は、活性汚泥に含まれるアンモニア酸化菌が好気性雰囲気で機能して亜硝酸性窒素あるいは硝酸性窒素に酸化される。そして、この亜硝酸性窒素と硝酸性窒素が曝気槽2に付与された脱窒処理能によって、分子状窒素に変換される。したがって、本発明によれば、有機性廃水に含まれる有機物のみならず、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素、さらにはアンモニア性窒素を分子状窒素に変換して無害な窒素ガスとして有機性廃水から除去することが可能となる。
【0054】
<有機性廃水の処理設備>
以下、標準活性汚泥法、嫌気好気法、嫌気無酸素好気法、硝化脱窒法を利用した本発明の有機性廃水の処理設備について説明する。
【0055】
(1)標準活性汚泥法
標準活性汚泥法を利用した本発明の有機性廃水の処理設備の一例を図1に示す。この処理設備1aは、有機性廃水9が曝気槽2に導入されて活性汚泥と共に曝気処理され、有機性廃水と活性汚泥の混合液がそのまま沈殿槽3に流入する。そして、沈殿槽3では、曝気槽2から流入した混合液に含まれる活性汚泥がフロックを形成して沈降し、沈殿槽3の上澄液が処理水として得られる。沈殿槽3で沈降した活性汚泥は返送汚泥として曝気槽2に返され、再び有機物分解作業に供される。一方で、増殖した微生物に見合う量の活性汚泥が、余剰汚泥として回収される。そして、曝気槽2には、上記した種々の形態で脱窒モジュール11が収容される。
【0056】
この処理設備1aにより有機性廃水を処理することで、活性汚泥法の本来的な機能である有機物の分解処理能を維持しながらも、有機性廃水に含まれるアンモニア性窒素、硝酸性窒素、亜硝酸性窒素を分子状窒素に変換してその濃度を低減することができる。すなわち、新たに脱窒槽を設けることなく、窒素除去機能を付与することができる。
【0057】
尚、図1の処理設備は、連続式の活性汚泥法を利用したものであるが、回分式の活性汚泥法の曝気槽2に脱窒モジュール11を収容しても同様の効果が得られる。
【0058】
(2)嫌気好気法
嫌気好気法を利用した本発明の有機性廃水の処理設備の一例を図2に示す。この処理設備1bは、嫌気槽4、曝気槽2、沈殿槽3の順で処理槽が設置され、有機性廃水9が嫌気槽4→曝気槽2→沈殿槽3の順で導入される。沈殿槽3で沈降した活性汚泥は返送汚泥として嫌気槽4を経由して曝気槽2に戻り、再び有機物分解作業に供される。一方で、増殖した微生物に見合う量の活性汚泥が、余剰汚泥として回収される。そして、曝気槽2には、上記した種々の形態で脱窒モジュール11が収容される。
【0059】
この処理設備1bにより有機性廃水を処理することで、嫌気好気法の本来的な機能である有機物分解処理能、バルキング抑制能及びリン濃度の低減能を維持しながらも、有機性廃水に含まれるアンモニア性窒素、硝酸性窒素、亜硝酸性窒素を分子状窒素に変換してその濃度を低減することができる。また、曝気槽2の硝酸性窒素濃度を低減することで、返送汚泥とともに嫌気槽4に流入する硝酸性窒素が減少する。そのため、嫌気槽4において、有機性廃水に含まれる有機物の脱窒菌による消費量が大幅に減少し、返送汚泥に含まれるポリリン酸蓄積細菌に優先的に消費されやすくなる。したがって、ポリリン酸蓄積細菌が増殖しやすくなると共に、リン蓄積能を発揮するポリリン酸蓄積細菌の割合が増加する。これにより、有機性廃水のリン濃度を従来よりも低減することができる。
【0060】
(3)硝化脱窒法
硝化脱窒法を利用した本発明の有機性廃水の処理設備の一例を図3に示す。この処理設備1cは、脱窒槽5、曝気槽2、沈殿槽3の順で処理槽が設置され、有機性廃水9が脱窒槽5→曝気槽2→沈殿槽3の順で導入される。沈殿槽3で沈降した活性汚泥は返送汚泥として脱窒槽5を経由して曝気槽2に戻り、再び有機物分解作業に供される。一方で、増殖した微生物に見合う量の活性汚泥が、余剰汚泥として回収される。また、曝気槽2内で、アンモニア性窒素が亜硝酸性窒素、硝酸性窒素に酸化された後、曝気槽2内の有機性廃水9(活性汚泥との混合液)が硝化循環液として脱窒槽5へと戻され、脱窒反応に供されて分子状窒素に変換されて除去される。有機性廃水にはじめから亜硝酸性窒素、硝酸性窒素が含まれている場合には、有機性廃水が脱窒槽5に流入した段階で脱窒反応を受けてそれらの濃度が低減される。
【0061】
この処理設備1cでは、脱窒処理工程の一部を脱窒槽5から曝気槽2にシフトさせることができ、曝気槽2から脱窒槽5への硝化循環液の返送量を減少させることができる。したがって、返送のためのポンプの運転費用を削減することができる。つまり、硝化脱窒法を利用した従来の有機性廃水の処理設備において、脱窒能力を上げるために脱窒槽への返送量を増やす結果として発生していた問題、即ち、ポンプ費用が嵩むという問題を本発明の処理設備により大幅に削減することができる。尚、処理設備1cでは、曝気槽2から脱窒槽5への硝化循環液の返送を行うようにしているが、脱窒処理工程を脱窒槽5から曝気槽2に完全にシフトさせて、返送工程を完全に削除してもよい。この場合、有機物分解能力及び窒素成分除去能力を維持しながらも、脱窒槽5を削除して設備のコンパクト化を図ることができる。
【0062】
(4)嫌気無酸素好気法
嫌気無酸素好気法を利用した本発明の有機性廃水の処理設備の一例を図4に示す。この処理設備1dは、嫌気槽4、脱窒槽5、曝気槽2、沈殿槽3の順で処理槽が設置され、有機性廃水9が嫌気槽4→脱窒槽5→曝気槽2→沈殿槽3の順で導入される。沈殿槽3で沈降した活性汚泥は返送汚泥として嫌気槽4及び脱窒槽5を経由して曝気槽2に戻り、再び有機物分解作業に供される。一方で、増殖した微生物に見合う量の活性汚泥が、余剰汚泥として回収される。また、曝気槽2内で、アンモニア性窒素が亜硝酸性窒素、硝酸性窒素に酸化された後、曝気槽2内の有機性廃水9(活性汚泥との混合液)が硝化循環液として脱窒槽5へと戻され、脱窒反応に供されて分子状窒素に変換されて除去される。また、嫌気槽4をリン溶出槽として設けることにより、嫌気槽4に返送された活性汚泥に含まれるポリリン酸蓄積細菌からリンを排出させ、曝気槽2においてポリリン酸蓄積細菌にリンを過剰摂取させることにより、有機性廃水に含まれるリン濃度を低減することができる。さらには脱窒槽5と曝気槽2によって、アンモニア性窒素、さらには亜硝酸性窒素や硝酸性窒素濃度の低減を図ることができる。また、有機性廃水中の有機物は、曝気槽2での酸化分解処理に加えて、脱窒槽5において脱窒菌に消費されてその濃度が低減する。さらには、嫌気槽4や脱窒槽5でポリリン酸蓄積細菌に消費されてその濃度が低減する。
【0063】
この処理設備1dでは、脱窒処理工程の一部を脱窒槽5から曝気槽2にシフトさせることができ、曝気槽2から脱窒槽5への硝化循環液の返送量を減少させることができる。したがって、返送のためのポンプの運転費用を削減することができる。また、曝気槽2の硝酸性窒素濃度を低減することで、返送汚泥とともに嫌気槽4に流入する硝酸性窒素が減少する。そのため、嫌気槽4において、有機性廃水に含まれる有機物の脱窒菌による消費量が大幅に減少し、返送汚泥に含まれるポリリン酸蓄積細菌に優先的に消費されるようになる。その結果、ポリリン酸蓄積細菌が増殖しやすくなると共に、リン蓄積能を発揮するポリリン酸蓄積細菌の割合が増加して、有機性廃水のリン濃度を従来よりも低減することができる。尚、処理設備1dでは、曝気槽2から脱窒槽5への硝化循環液の返送を行うようにしているが、脱窒処理工程を脱窒槽5から曝気槽2に完全にシフトさせて、返送工程ならびに処理設備1dの脱窒槽5を削除してもよい。この場合、有機物分解能力、リン除去能力及び窒素成分除去能力を維持しながらも、設備のコンパクト化を図ることができる。
【0064】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、標準活性汚泥法、嫌気好気法、嫌気無酸素好気法及び硝化脱窒法を例に挙げて説明したが、これらの方法以外にも、有機性廃水を活性汚泥と共に曝気槽内で曝気処理する工程を含むあらゆる生物処理法に本発明を適用することができる。
【実施例】
【0065】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0066】
活性汚泥リアクターを用いて本発明の有効性を検討した。
【0067】
<活性汚泥リアクターの構成>
図11に示す連続式の活性汚泥リアクターを構築した。2.9L容の曝気槽2に貯水タンク51から送液ポンプ52により水道水53を供給した。この水道水53には、無機塩類を添加した。また、曝気槽2には、水道水と同時に基質ポンプ54により滅菌した約40倍の濃厚有機物基質55(以下、濃厚基質55と呼ぶ)を供給した。無機塩類と有機物の組成は表1の通りとした。即ち、曝気槽2に水道水53と濃厚基質55を同時に供給して曝気槽2に有機性廃水9を供給するようにした。尚、有機性廃水9の供給量は8.2L/日であり、これは、基質濃度として、TOCが120mg/L、TNが36mgN/Lに相当する。
【0068】
【表1】

【0069】
曝気槽2の曝気装置(エアストーン2a、エアポンプ2b)で曝気処理された有機性廃水9は沈殿池3に送液され、有機性廃水9に懸濁している活性汚泥を沈殿処理した後、活性汚泥を送液ポンプ52で曝気槽2に戻した。
【0070】
活性汚泥リアクターは2つ用意し、沈殿池は共有させた。したがって、2つのリアクターにおける活性汚泥単独での処理能力は共通である。種汚泥は、嫌気好気法(AO法)を採用している都市下水処理場から採取した。
【0071】
運転条件は、HRT(水理学的滞留時間)を8.5時間とし、汚泥返送率を100%とし、SRT(汚泥保持時間)を11日とした。曝気槽2内の有機性廃水9の水温とpHについては特に制御を行わなかったが、実験期間中において、それぞれ21℃〜25℃、7.5〜8.0であり、大きな変動は見られず、水質への影響も見られなかった。また、曝気槽2内の有機性廃水9の溶存酸素濃度は常に4mg/L以上に維持した。
【0072】
<脱窒モジュールの構成>
脱窒モジュール11は、不織布32で外袋を作製し、その外側表面に担体31を塗布して作製した以外は図7と同様のものを本実施例に使用した。即ち、電子供与体供給容器21は、容器21の全面を非多孔性膜22とした袋状とした。具体的には、0.1mm厚の低密度ポリエチレンフィルム(ミポロンフィルム、ミツワ株式会社製)を用いた。これを約16cm×16cmに裁断して熱融着して袋状とし、この袋内に99.5%エタノールを70mL封入した。このフィルムのエタノール透過速度は、25℃において0.8mgCOD/cm/日であった。
【0073】
次に、0.6mm厚のPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂不織布(G2260−1S、東レ製)を用いて、電子供与体供給容器より僅かに大きな外袋を作製した。外袋の表面には、光硬化性樹脂(PVA−SBQ、SPP−H−13、東洋合成工業)をアンモニア酸化細菌(Nitrosomonas europaea NBRC14298)、亜硝酸酸化細菌(Nitrobacter winogradskyi NBRC14297)及び脱窒細菌(Paracoccus pantotrophus JCM6892)を含むリン酸緩衝液と混合して1mm厚で塗布した。その後、メタルハライドランプを片面あたり20分ほど照射して硬化させた。この外袋を担体31とし、この袋の中に電子供与体供給容器21を入れて実験に供した(アンモニア酸化菌、亜硝酸酸化菌及び脱窒菌を担体31に予め固定した脱窒モジュール11(実施例1))。
【0074】
尚、アンモニア酸化菌、亜硝酸酸化菌及び脱窒菌を予め担体に担持しない場合には、活性汚泥中の脱窒菌を付着させるための不織布として、2mm厚の空隙の多いポリエチレン製エアレイド不織布(金星製紙製、40g/m)を用いて、電子供与体供給容器より僅かに大きな外袋を作製した。この外袋を担体31とし、この袋の中に電子供与体供給容器21を入れて実験に供した(アンモニア酸化菌、亜硝酸酸化菌及び脱窒菌を担体31に固定していない脱窒モジュール11(実施例2))。
【0075】
<分析方法>
有機物指標として、沈殿槽3の上澄液(処理水)を遠心分離並びに濾過(孔系0.2μm)した後、TOCを測定した。また、インドフェノール法によりアンモニア性窒素を測定し、イオンクロマトグラフ法により亜硝酸性窒素と硝酸性窒素を測定した。汚泥濃度は遠心分離法により測定した。
【0076】
(実施例1)
上記の活性汚泥リアクターの曝気槽2に、アンモニア酸化菌、亜硝酸酸化菌及び脱窒菌を担体31に予め固定した脱窒モジュール11を2つ収容し、有機性廃水の処理試験を実施した。尚、ポリエチレンフィルムの面積(即ち、担体31の有効面積)の合計は約1000cmであった。
【0077】
(比較例1)
上記の活性汚泥リアクターの曝気槽2に脱窒モジュール11を収容することなく、有機性廃水の処理試験を実施した。
【0078】
<実験結果1>
アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素の濃度は、実施例1と比較例1のいずれの場合にも0.3mgN/L以下であり、極めて低濃度であることが確認された。
【0079】
また、図12に示されるように、TOC濃度については、実施例1と比較例1において殆ど差が見られなかった。このことから、脱窒モジュール11を構成する電子供与体供給容器21内に封入されたエタノール23がポリエチレン膜22から透過することによるTOC濃度の上昇は生じないことが明らかとなった。
【0080】
さらに、図13に示されるように、硝酸性窒素濃度については、比較例1よりも実施例1の方が濃度が低下することが明らかとなった。このことから、脱窒モジュール11を活性汚泥リアクターの曝気槽2に収容することによって、曝気槽2を曝気処理して溶存酸素濃度が高められた条件下においても、脱窒モジュール11の微生物担体31の一部を嫌気条件として、脱窒菌の脱窒処理能を発揮させることが可能であることが示された。
【0081】
(実施例2)
担体31にアンモニア酸化菌、亜硝酸酸化菌及び脱窒菌を固定しないタイプの脱窒モジュール11を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で実験を実施した。
【0082】
<実験結果2>
アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素の濃度は、実施例2と比較例1のいずれの場合にも0.3mgN/L以下であり、極めて低濃度であることが確認された。
【0083】
また、図14に示されるように、TOC濃度については、実施例2と比較例1において殆ど差が見られなかった。このことから、脱窒モジュール11を構成する電子供与体供給容器21内に封入されたエタノール23がポリエチレン膜22から透過することによるTOC濃度の上昇は生じないことが明らかとなった。
【0084】
さらに、図15に示されるように、硝酸性窒素濃度については、比較例1よりも実施例2の方が濃度が低下することが明らかとなった。このことから、担体31に脱窒菌が担持されていない脱窒モジュール11を活性汚泥リアクターの曝気槽2に収容した場合にも、担体31に予め脱窒菌を担持させた担体31を脱窒モジュール11を収容した場合と同様、脱窒処理が可能であることが明らかとなった。このことから、担体31に予め脱窒菌を担持させなくても、曝気処理を行う中で、活性汚泥に含まれる脱窒菌を担体31に担持させて、脱窒菌の脱窒処理能を発揮させることが可能であることが明らかとなった。
【0085】
以上の結果から、電子供与体物質23全般を担体31に供給することによって、担体31内に嫌気環境を形成することができると共に、担体31に担持されている脱窒菌に電子供与体物質23を与えて、活性汚泥を用いた有機性廃水処理の本来的な機能である有機物分解処理能を妨げることなく、脱窒菌に脱窒処理能を発揮させ、曝気槽2に脱窒処理能を付与できる可能性が導かれた。
【符号の説明】
【0086】
1(1a、1b、1c、1d) 有機性廃水の処理設備
2 曝気槽
9 有機性廃水
21 容器
22 非多孔性膜
23 電子供与体物質
31 担体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃水を活性汚泥と共に曝気槽内で曝気処理する工程を含む生物処理法を利用した有機性廃水の処理方法において、
非多孔性膜を少なくとも一部に備えると共に電子供与体物質を充填した密封構造の容器の少なくとも前記非多孔性膜の周りに微生物を担持し得る担体を配置して、前記容器の前記非多孔性膜部分から前記電子供与体物質を徐放させて前記担体に供給し、少なくとも前記担体を前記曝気槽内の前記有機性廃水と接触させながら前記曝気処理を行うことを特徴とする曝気槽内での脱窒処理を可能とした有機性廃水の処理方法。
【請求項2】
前記生物処理法が、標準活性汚泥法、嫌気好気法、嫌気無酸素好気法または硝化脱窒法である請求項1に記載の有機性廃水の処理方法。
【請求項3】
前記担体に予め脱窒菌を担持させてから前記有機性廃水と接触させる請求項1に記載の有機性廃水の処理方法。
【請求項4】
有機性廃水が活性汚泥と共に曝気処理される曝気槽を有する生物処理法を利用した有機性廃水の処理設備において、
非多孔性膜を少なくとも一部に備えると共に電子供与体物質を充填した密封構造の容器と、微生物を担持し得る担体とをさらに有し、
前記担体は前記容器の少なくとも前記非多孔性膜の周りに配置されて前記容器の前記非多孔性膜部分から徐放される前記電子供与体物質が前記担体に供給され、少なくとも前記担体は前記曝気槽内の前記有機性廃水と接触する位置に収容されていることを特徴とする曝気槽内での脱窒処理が可能な有機性廃水の処理設備。
【請求項5】
前記生物処理法が、標準活性汚泥法、嫌気好気法、嫌気無酸素好気法または硝化脱窒法である請求項4に記載の有機性廃水の処理設備。
【請求項6】
前記担体には予め脱窒菌が担持されている請求項4に記載の有機性廃水の処理設備。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−104564(P2011−104564A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265202(P2009−265202)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】