説明

有機性廃水の嫌気性処理方法及び装置

【課題】 有機性廃水を対象として、長期安定して処理できる高性能な嫌気性処理方法及び装置を提供をする。
【解決手段】 有機性廃水を生物学的に嫌気性処理する方法において、前記有機性廃水を、グラニュール汚泥を保持した上向流嫌気性汚泥床法により該有機性廃水中の易分解性の成分を除去する第一の嫌気性処理工程23と、該23からの流出液を、粒状又は粉状の活性炭を使用した嫌気性固定ろ床法又は流動床法により、該流出液中の難分解性成分を除去する第二の嫌気性処理工程24とで処理することとしたものであり、前記23及び/又は24は、該それぞれの処理工程の流出液を循環して処理することができ、また、23と24に用いる装置は、該装置の本体側壁との角度が下向きに35度以下、かつ各占有面積が装置横断面積の2分の1以上となる邪魔板を多段に有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃水の嫌気性処理方法及び装置に係り、更に詳しくは、難分解性成分を含む有機性廃水を生物学的に無害化する嫌気性処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性の廃水は、嫌気性処理によって分解、処理されることがある。こうした分解処理方法として、反応槽内に充填材を保持した嫌気性固定ろ床法や上向流嫌気性汚泥床法(以後、UASB法とも記す)やグラニュール汚泥膨張床(以後、EGSB法とも記す)がある。UASB法及びEGSB法は近年普及してきた方法で、メタン菌等の嫌気性菌をグラニュール状に造粒化することにより、リアクター内のメタン菌の濃度を高濃度に維持できるという特徴があり、その結果、廃水中の有機物の濃度が相当高い場合でも効率よく処理できる。例えば、この方法を具体化した装置では、重クロム酸カリウムを酸化剤として測定したCODcr(以後CODと記す)の容積負荷が20〜30kg/m/dでも、効率よく運転できるという特徴がある。
【0003】
嫌気性処理工程での分解速度が遅い難分解性物質としては、クロロホルム、トリクロロエチレン、フェノール、p−トルイル酸、テレフタル酸等が、また、嫌気性処理工程での分解速度が速い易分解性物質としては、酢酸、糖類、エチレングリコール、安息香酸等が知られている。難分解性成分は、化学系の工場の廃水に含まれていることが多い。
従来、嫌気性処理法では、難分解性成分を対象として処理する例は極めて少なかったが、近年では、トリクロロエチレン、クロロホルム、フェノール、テレフタル酸のような難分解性成分も嫌気的に分解処理できることが明らかになってきている。難分解性成分を嫌気的に分解処理するためには、嫌気性条件下で長期間の処理を行うことが有効である。
難分解性成分と易分解性成分を含む廃水としては、精製テレフタル酸製造廃水が知られており、主成分は、難分解性成分のp−トルイル酸とテレフタル酸及び易分解性の酢酸、安息香酸である〔Sheng−Shung Chengら、Wat.Sci.Tech.,Vol.36,73〜82(1997)〕。
【0004】
しかしながら、難分解性成分を含む有機性廃水を嫌気性処理する方法には、以下に示すような問題がある。
(1)難分解性成分を分解除去するためには、嫌気性条件下で長期間の処理を行うことが有効であるため、易分解性成分を含んでいる場合でも、低負荷で処理を行う必要があり、設備が過大となる。
(2)グラニュール汚泥を保持したUASB法で難分解性成分を処理する場合、廃水中の難分解性成分は、微生物(メタン菌)の自己造粒による固定化能力を比較的低下させる傾向にあり、グラニュール汚泥の形成を困難とし、また、グラニュール汚泥の緻密さを低下させるため、グラニュール汚泥の長期間の安定保持が困難となり、その結果、処理の継続が困難になる。
(3)難分解性成分そのものが嫌気微生物にとって阻害である場合、難分解性成分が嫌気微生物にとっての阻害濃度以下となるように希釈を行う必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Wat.Sci.Tech.,Vol.36,73〜82(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術に鑑み、有機性廃水を対象として、長期安定した処理ができる高性能な嫌気性処理方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、有機性廃水を生物学的に嫌気性処理する方法において、前記有機性廃水を、グラニュール汚泥を保持した上向流嫌気性汚泥床法により該有機性廃水中の易分解性の成分を除去する第一の嫌気性処理工程と、該第一の工程からの流出液を、粒状又は粉状の活性炭を使用した嫌気性固定ろ床法又は流動床法により、該流出液中の難分解性成分を除去する第二の嫌気性処理工程とで処理することを特徴とする有機性廃水の嫌気性処理方法としたものである。
前記処理方法において、第一及び第二の処理工程は、それぞれの処理工程の流出液の一部を、該それぞれの処理工程に循環して処理することができ、また、前記第二の処理工程の流出液の一部を第一の処理工程に循環することもできる。
さらに、前記処理方法において、嫌気微生物にとって阻害となる難分解性成分が分解除去された第二の処理工程の流出水の一部を、難分解性成分の濃度が嫌気性処理を阻害する濃度以下になるように第一の処理工程よりも上流側に循環させることで、難分解性成分による嫌気微生物への阻害を回避できる。
【0008】
また、本発明では、有機性廃水を生物学的に嫌気性処理する装置において、前記有機性廃水中の易分解性成分を除去するグラニュール汚泥を保持した上向流嫌気性汚泥床の第一の処理装置と、該処理装置からの流出液中の難分解性成分を除去する粒状又は粉状の活性炭を使用した嫌気性固定ろ床又は流動床の第二の処理装置とを有することを特徴とする有機性廃水の嫌気性処理装置としたものである。
前記処理装置において、第一及び第二の処理装置は、該装置の本体側壁に、該側壁との角度が下向きに35度以下で、かつ各占有面積が該装置の横断面積の2分の1以上となる邪魔板を複数有し、該邪魔板により形成されるガス・液・固分離部を多段に有することができ、また、該処理装置には、それぞれの処理装置の流出液を、該それぞれの処理装置に循環する循環路を有することができ、また、第二の処理装置の流出液の一部を第一の処理装置に循環する循環路を有することができ、該循環路には、第一の処理装置に流入する有機性廃水中の難分解性成分が、嫌気性処理を阻害する濃度以下になるように循環液量を調整する調整手段を有することができる。
【0009】
本発明の骨子は、第一の嫌気性処理工程で有機性廃水中の易分解性成分の除去を目的にグラニュール汚泥を保持した上向流嫌気性汚泥床により高負荷処理を行い、粒状又は粉状の活性炭を使用した嫌気性固定ろ床又は嫌気性流動床である第二の嫌気性処理工程により第一の嫌気性処理工程からの流出液中の難分解性成分を除去することであり、易分解性成分と難分解性成分とを含む有機性廃水を対象とした高性能な嫌気性処理が達成できることにある。さらに、その際の嫌気性処理装置として、装置の本体側壁に、該側壁との角度が35度以下かつ各占有面積が装置の横断面積の2分の1以上となる邪魔板を複数有し、該邪魔板により形成されるガス・液・固分離部を多段に有する上向流嫌気性処理装置を用いることでリアクター内のガス・液・固分離性能が高まるため、リアクター内にグラニュール汚泥を高濃度に保持し、また、粒状又は粉状の活性炭の安定保持が可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、第一の嫌気性処理工程で、有機性廃水中の易分解性成分の除去を目的に、グラニュール汚泥を保持した上向流嫌気性汚泥床により高負荷処理を行い、次いで、粒状又は粉状の活性炭を使用した嫌気性固定ろ床又は嫌気性流動床である第二の嫌気性処理工程により第一の嫌気性処理工程からの流出液中の難分解性成分を除去しており、さらにその際の嫌気性処理装置として、装置本体側壁との角度が35度以下、かつ各占有面積が装置断面積の2分の1以上となる邪魔板により形成されるガス・液・固分離部を、多段に有する上向流嫌気性処理装置を用いることで、リアクター内のガス・液・固分離性能が高まるため、リアクター内にグラニュール汚泥を高濃度に保持し、また、及び粒状又は粉状の活性炭の安定保持が可能となる有機性廃水の処理方法とこれを実施する装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の処理フローの一形態を例示した概略構成図。
【図2】本発明の上向流嫌気性処理装置の一形態を例示したフロー構成図。
【図3】実験に用いた上向流式嫌気性処理装置の断面構成図。
【図4】実施例1の実験に用いた処理フローの概略構成図。
【図5】実施例2の実験に用いた処理フローの概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態を図面を用いて説明する。
図1は、難分解性成分を含む有機性廃水の処理を実施するのに好ましい、本発明の処理フローの一形態を示した概略構成図である。
図1において、21は原水、22は酸発酵槽、23はグラニュール汚泥を保持した上向流嫌気性汚泥床処理装置(UASB)、24は粒状又は粉状の活性炭を充填した上向流嫌気性流動床処理装置(以下、GACとも記す)、25は処理水、26はUASB処理水循環配管、27はGAC処理水循環配管である。なお、24は上向流又は下向流の嫌気性固定ろ床として用いてもよい。
難分解性成分を含む有機性廃水である原水21は、原水の性状に応じて酸発酵槽22で酸発酵処理を行う。酸発酵槽での滞留時間は、4時間〜4日間程度である。酸発酵処理では、原水中の難分解性成分の分解促進や低分子化の効果は小さいが、UASBでの処理効率の向上を図るためには有効である。メタン発酵処理に適したpHは6〜8であるため、酸発酵槽22では、NaOHなどの中和剤を用いてpHの調整を行う。酸発酵処理を行わない場合には、原水21とUASB23の間にpH調整のためのpH調整槽を設けてもよい。
【0013】
本発明の嫌気性処理は、30℃〜35℃を至適温度とした中温メタン発酵処理、50℃〜55℃を至適温度とした高温メタン発酵処理など全ての温度範囲の嫌気性処理を対象としている。
主として、原水中の易分解性成分の処理を行う第一の嫌気処理工程としては、グラニュール汚泥を保持したUASB法あるいはEGSB法が有効である。UASB23では、嫌気性ろ床法や嫌気性流動床法等の他の処理方法に比べ、嫌気性菌の保持量が多いため、COD負荷20kg/m/d以上の高い負荷での処理が可能となる。
【0014】
主として、UASB23流出水の難分解性成分を嫌気的に処理する第二の嫌気性処理工程としては、粒状活性炭を担体としたGAC24が有効である。粒状活性炭では、活性炭の吸着作用により難分解性成分を吸着し、活性炭上で付着増殖した嫌気性菌により嫌気条件下で長期間の処理を行う吸着分解が可能となり、活性炭の生物学的再生も可能となる。そのため、粒状活性炭は、プラスチック製担体等の他の担体に比べ難分解性成分の除去の効果が大きい。粒状活性炭の有効径は0.05mm〜3mm、好ましくは0.1mm〜1mm、さらに好ましくは0.2mm〜0.7mmであり、均等係数は1.2〜2.0である。また、第二の嫌気性処理工程にグラニュール汚泥を保持したUASB法を適用する場合、廃水中の難分解性成分は、微生物(メタン菌)の自己造粒による固定化能力を比較的低下させる傾向にあり、グラニュール汚泥の形成を困難とするし、また、グラニュール汚泥の緻密さを低下させるため、グラニュール汚泥の長期間の安定保持が困難となり、その結果、処理の継続が困難になる。
【0015】
図2は、嫌気性処理方法を実施するのに好ましい本発明の上向流嫌気性処理装置の一形態を例示したフロー構成図であり、上向流嫌気性処理装置のリアクター2は、グラニュール汚泥を保持したUASB及び粒状活性炭を充填したGACである。
被処理液送液管1が連通し、上下を閉塞した筒状のリアクター2内部の左右両側壁には、それぞれに一方の端部を固定し、他方の端部を反対側の側壁方向に向かって下降しながら延ばしている邪魔板3が設置されている。邪魔板3は、上下方向に2箇所左右交互に設けてあって、リアクター側壁との間にそれぞれ鋭角の区分スラッジゾーン4a〜4bを形成している。リアクター2側壁と邪魔板3のなす角度θは35度以下の鋭角であり、占有面積は、リアクター2の横断面積の1/2以上である。35度を越える角度の場合には、スラッジゾーン4a,4bの邪魔板3の上部にグラニュール汚泥あるいは粒状活性炭が堆積し、流動性が不十分となり、デッドスペースが形成される。また、邪魔板3の占有面積が1/2以下だと、発生ガスの捕捉が不十分となり、気液固の分離に不具合を生じる。つまり、リアクター2の中心よりガスが上方へ抜けてしまい、後記のGSS部5にガスを十分に集積することができなくなる。
【0016】
区分スラッジゾーン4a、4b上部は、GSS部5を形成している。反応が開始すると発生ガスが集まる気相部5aには、外部と通じる発生ガス回収配管6の排出口を設けてある。
なお、気相部5aから接続されている発生ガス回収配管6の吐出口は、水を充填した水封槽7の水中内で開口している。開口位置は、水圧が異なる適宜な水深位にあり、水封槽7には、発生ガス回収配管6から吐き出されたガス流量を測定するガスメータ8を設けてある。ガスメータ8の先には、ガスホルダー11が設けられている。また、リアクター2上端には、上澄み液を排出する処理水配管9が開口している。なお、16は、グラニュール汚泥又は活性炭が保持される上端部を示す。
【0017】
リアクター2内では、嫌気性菌からなるグラニュール汚泥及び嫌気性菌を保持した粒状活性炭の介在によって有機性廃水が分解し、バイオガスが発生する。発生したガスは、各区分スラッジゾーン4a〜4b上端のGSS部5に別れて集まり、それぞれに気相部5aを形成し、発生ガス回収配管6を通じて水封槽7に至る。こうした発生ガスは、ガスメータ8でその排出量が記録され、ガスホルダー11に送られる。発生ガスの一部は、区分スラッジゾーン4a〜4b内でグラニュール汚泥あるいは粒状活性炭に付着し、その見かけ比重を軽減させると共に、グラニュール汚泥あるいは粒状活性炭を同伴してGSS部5の水面に達する。こうした発生ガスは、気泡を形成して水面気泡部5bに一時的に滞留する。水面気泡部5bに集合した気泡は、やがて破裂して、発生ガスとグラニュール汚泥あるいは粒状活性炭とが分離され、グラニュール汚泥あるいは粒状活性炭は元の比重を回復して水中に潜り、発生ガスは発生ガス回収配管6から水封槽7を経由して、系外に排出される。有機物が分解して清澄になって水は、リアクター上端から処理水配管9を経由して系外に排出される。
【0018】
各GSS部5の気相部5aのガス圧は異なるので、その差圧は水封槽7で調整するとよい。被処理液送液側に近い順に水封圧は高く保つ必要がある。ガス回収の圧調整は、水封槽7を使う方法以外にも多くの方法がある。例えば、圧力弁等を使用してもよい。本発明の嫌気性処理方法では、各区分スラッジゾーン毎にそこで発生する発生ガスを回収できるため、リアクター単位断面積当たりの発生ガス量が少なくなる。特に、処理水を流出させる処理水配管9に最も近い所では、リアクターの単位断面積当たりのガス量が小さくなる。そのため、グラニュール汚泥及び粒状活性炭の系外流出量は、非常に少なくすることができる。
被処理水を、UASBの処理水あるいはGACの処理水による循環液や系外から供給する希釈水等により、必要に応じて適宜希釈を行い、流入水のリアクター2内部での通水速度を調節する。GSS部を多段に設置したUASBリアクターでは、通水速度を1〜5m/hとすることにより、グラニュール汚泥層の流動状態が良好となり、また、GSS部を多段に設置したGACリアクターでは、通水速度を2〜10m/hとすることにより、粒状活性炭充填層の流動状態が良好となる。
【0019】
原水中の有機物の成分や原水中の易分解性成分と難分解性成分の比率などにより、UASB及びGACのCOD容積負荷が決まり、UASB及びGACの容量が決定されるため、UASBとGACを同一水量で通水し、UASB及びGACを適正通水速度で通水することは困難であることが多い。つまり、原水を一過性でUASB及びGACに通水する場合や、原水とGAC処理水の循環液をUASB及びGACに通水する場合、UASB及びGACともに適正通水速度で通水することが難しい場合が多い。そのため、UASB及びGACのそれぞれを適正通水速度で通水する手段として、UASB処理水循環液をUASB流入部に、GAC処理水をGAC流入部に各々循環することは有効である。
原水中の難分解性成分が嫌気微生物にとって阻害となる場合は、難分解性成分が分解除去されたGAC処理水をUASB流入部に循環させることで、UASB及びGACに流入する阻害性有機物濃度(阻害性難分解性成分濃度)を嫌気微生物への阻害濃度以下とすることでUASB及びGAC内部での嫌気微生物への阻害を回避できる。GAC処理水をUASB流入部に循環させる場合においても、UASB処理水循環液をUASB流入部に、GAC処理水をGAC流入部に各々循環する手法は、UASB及びGACのそれぞれを適正通水速度で通水する上で有効な手段となる。
【0020】
阻害性有機物濃度を嫌気微生物への阻害濃度以下にするためのGAC処理水のUASB流入部への循環水量は、次の方法で調整される。
・ 対象とする有機物の阻害性濃度(C)を予め、回分試験等で求める。
・ UASBに流入する阻害性有機物濃度を原水(Cin)及びGAC処理水(Cout)について測定し、下記式に基づき、UASB流入部での阻害性有機物濃度(C)がC以下の範囲となるように、GAC処理水のUASB流入部への循環水量(Q)を設定する。阻害性有機物濃度(C)は、Cと同等未満が必要であり、実際上はC<1/2Cにすることが好ましい。
C<C=(Cin×Q+Cout×Q)/(Q+Q
Q:原水水量(m/d)
:GAC処理水のUASB流入部への循環水量(m/d)
C,C,Cin,Cout:阻害性有機物濃度あるいは統括的有機物濃度(mg/L)
【0021】
発泡性の原水の場合には、GSS5内の気相部5a及び発生ガス回収配管6が閉塞し、発生ガスの回収が困難となる。このような場合、リアクター2流入水に予め消泡剤10を加えることで、GSS5内での発泡を抑えることができる。GSS5内に消泡剤を滴下、噴霧する方法に比べ、本手法は密閉空間での消泡に効果的である。消泡剤10は、原水性状に応じた消泡効果を有し、発酵液の消泡に適した、中温(30〜35℃)あるいは高温(50〜55℃)において消泡効果を失すことのない消泡剤を使用する。消泡剤の種類としては、シリコーン系消泡剤、アルコール系消泡剤の何れも適用が可能である。
【0022】
原水性状等の影響により、スカムを形成しやすい場合には、GSS5内の気泡部5b表面及び内部にスカムを形成し、発生ガスの回収が困難となる。このような場合には、発生ガス吹き込み配管13を発生ガス回収配管6あるいは散気管12に接続し、ガスホルダー11内の発生ガスをGSS5内に供給することで、スカムの破壊あるいはスカムの形成防止が可能となる。
発生ガス吹き込み配管13を発生ガス回収配管6に接続し、下部のGSS5内のスカムを破壊・除去する場合は、バルブ14aを閉じ、下部のGSS5内全体を気相部5aとし、下部のGSS5からスカムを排出する。この排出されたスカムは下部のGSS5内に止まるため、バルブ14bを閉じ、上部のGSS5内全体を気相部5aとし、上部のGSS5からスカムを排出し、これを処理水と共に流出させる。
【0023】
また、発生ガス吹き込み配管13を散気管12に接続する場合は、散気管12から吹き込まれる気泡によりスカムが破壊され、破壊されたスカムは、リアクター2内の液の流れと共に処理水として排出される。本手法の場合には、バルブ14の開閉は問わない。バルブ14を開けて操作する場合は、散気管12から吹き込まれた気体は、発生ガス回収配管6より回収される。バルブ14を閉じて操作する場合は、散気管12から吹き込まれる気泡によるスカムの破壊効果に加え、前記発生ガス吹き込み配管13を発生ガス回収配管6に接続した場合のスカム排出効果も期待できる。なお、GSS5内部のスカムを破壊・除去するために、GSS5内に吹き込む気体は、窒素ガス等の酸素を含まないメタン発酵等の生物処理に影響を与えない気体を適用できるが、嫌気性処理によって発生したガスを使用することが望ましい。GSS5内にガスを吹き込む頻度は、廃水の性状にもよるが1日に1回から1週間に1回とすることで、GSS5内部のスカムを破壊・除去の効果がある。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
実施例1
図3に、実験に用いた上向流式嫌気性処理装置の断面構成図を示す。
実験に用いた装置2は同一構造であり、傾斜する邪魔板3を3個取り付け、装置側壁と邪魔板との角度θを30度とし、原水1に消泡剤10を添加した。装置の液相部の容量は1mである。リアクター内の水温は、35度になるように制御している。
原水には、テレフタル酸製造廃水(COD:9000mg/L)に無機栄養塩類(窒素、リンなど)を添加し、pHを7に中和したものを用いた。原水の主成分は、難分解性成分のp−トルイル酸とテレフタル酸及び易分解性の酢酸、安息香酸である。
【0025】
図4に、実験に用いた処理フローの概略構成図を示す。
A系列は、GAC単独処理であり、GAC処理水を循環し、通水速度を5m/hに設定した。
B系列は、UASB単独処理であり、UASB処理水を循環し、通水速度を2m/hに設定した。
C系列は、第一の嫌気性処理工程及び第二の嫌気性処理工程にUASB処理を適用した。UASB(1)の処理水を循環することでUASB(1)の通水速度を2m/hに、UASB(2)の処理水を循環することでUASB(2)の通水速度を2m/hに設定した。
D系列は、第一の嫌気性処理工程にUASB処理を、第二の嫌気性処理工程にGAC処理を適用した。UASBの処理水を循環することでUASBの通水速度を2m/hに、GACの処理水を循環することでGACの通水速度を5m/hに設定した。D系列は本発明に基づく系列である。
なお、C系列UASB(2)では、所定のCOD負荷となるようにUASB(2)へのUASB(1)処理水流入量を調整した。同様に、D系列のGACでは所定のCOD負荷となるように、GACへのUASB処理水流入量を調整した。
【0026】
表1、表2に処理成績結果を示す。なお、C系列のUASB(2)及びD系列のGACのCOD除去率は、原水CODに対する除去率である。
(1)A系列(GAC単独)
300日後では、COD負荷5kg/m/dでCOD除去率78%の処理であったが、400日後に、COD負荷10kg/m/dで処理を行ったところ、COD除去率は61%に低下した。
(2)B系列(UASB単独)
300日後では、COD負荷5kg/m/dでCOD除去率68%の処理であったが、グラニュール汚泥は、処理開始時の約3分の2に低下した。400日後では、グラニュール汚泥は処理開始時の約3分の1に低下したため、COD負荷5kg/m/dで処理を継続したが、COD除去率は38%に低下した。
【0027】
(3)C系列〔UASB(1)+UASB(2)〕
UASB(1)は、300日〜400日後では、COD負荷60kg/m/dでCOD除去率50%の処理が安定して行えたが、UASB(2)では、B系列と同様にグラニュール汚泥量の減少が認められ、COD負荷5kg/m/dで処理を継続したが、COD除去率は300日後の72%から400日後の61%に低下した。
(4)D系列
UASBは、300日〜400日後では、COD負荷60kg/m/dでCOD除去率50%の処理が安定して行えた。GACでは、300日後は、COD負荷10kg/m/dでCOD除去率80%、400日後では、COD負荷15kg/m/dでCOD除去率81%の処理であった。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
B系列のUASB及びC系列のUASB(2)では、傾斜する邪魔板を3個取り付け、グラニュール汚泥保持効果を高めたにもかかわらず、グラニュール汚泥は減少したため、B系列及びC系列での安定した処理の継続は困難であった。
A系列では、安定した処理の継続は可能であったが、COD負荷5kg/m/dの低負荷で運転を行う必要がある。
本発明法であるD系列は、A〜C系列に比べ、安定した処理性能の維持が可能であり、高いCOD除去性能を示し、かつ、省スペースな処理方式であった。
【0031】
実施例2
図3に、実験に用いた上向流式嫌気性処理装置の断面構成図を示す。
実験に用いた装置2は同一構造であり、傾斜する邪魔板3を3個取り付け、装置側壁と邪魔板との角度θを30度とし、原水1に消泡剤10を添加した。装置の液相部の容量は100Lである。リアクター内の水温は、35度になるように制御している。
原水には、フェノール含有廃水に酢酸を添加した廃水(COD:9000mg/L、フェノール濃度:1200〜2000mg−COD/L)に無機栄養塩類(窒素、リンなど)を添加し、pHを7に中和したものを用いた。原水の主成分は、難分解性成分のフェノール及び易分解性の酢酸である。難分解性成分であるフェノールは濃度が高い場合には嫌気微生物にとって阻害となる。本廃水の場合、フェノールの濃度阻害の範囲は、COD換算で1000mg/L以上であることを回分試験で確認した。
【0032】
図5に、実験に用いた処理フローの概略構成図を示す。
E系列は、第一の嫌気性処理工程にUASB処理を、第二の嫌気性処理工程にGAC処理を適用した。UASBの処理水を循環することでUASBの通水速度を2m/hに、GACの処理水を循環することでGACの通水速度を5m/hに設定した。
F系列は、E系列と同様に、第一の嫌気性処理工程にUASB処理を、第二の嫌気性処理工程にGAC処理を適用した。F系列では、GAC処理水を第一の嫌気処理工程に循環し、第一処理工程流入フェノール濃度が、500mg−COD/L以下になるようにGAC処理水循環量を調整した。UASBの処理水を循環することでUASBの通水速度を2m/hに、GACの処理水を循環することでGACの通水速度を5m/hに設定した。
なお、E系列、F系列ともに、GACでは所定のCOD負荷となるように、GACへのUASB処理水流入量を調整した。
また、E系列、F系列とも、GACについては、事前にフェノール分解除去処理が十分に行えるように馴致を施した。
【0033】
表3に処理成績結果を示す。なお、E系列及びF系列のCOD除去率は、原水CODとGAC処理水CODから求めた除去率である。
(1)E系列
UASBでは、COD負荷を3kg/m/d以上とすると、フェノール濃度の阻害の影響で処理が悪化する傾向にあった。そのため、COD負荷を3kg/m/dで処理を行った。GACでは、UASBで未分解であった有機物の流入が多くなるため、COD負荷1kg/m/dの低負荷で処理を行う必要があった。このとき、GAC処理水COD800mg/L、GAC処理水フェノール濃度5mg/Lであった。
(2)F系列
GAC処理水の一部を循環液としてUASB流入部に循環した。GAC処理水循環量は、原水量の2倍量(2Q)とした。GAC処理水をUASB流入部に循環することで、UASB流入部のフェノール濃度は403mg−COD/Lとなり、フェノールの濃度阻害の影響を受けなかった。そのため、UASBでは、COD負荷30kg/m/d、GACではCOD負荷を6kg/m/dで処理の処理が可能であり、GAC処理水COD800mg/L、GAC処理水フェノール濃度5mg/Lの処理であった。
【0034】
E系列では、GAC処理水COD800mg/L、GAC処理水フェノール濃度5mg/Lの処理が継続可能であったが、UASBでのCOD負荷を3kg/m/d、GACでのCOD負荷を1kg/m/dとし、低負荷で処理を行う必要があった。
一方、GAC処理水をUASB流入部に循環することで、フェノールの濃度阻害を回避できたF系列では、UASBでのCOD負荷を30kg/m/d、GACでのCOD負荷を6kg/m/dの高負荷処理が達成できる処理方式であった。
難分解性成分が嫌気微生物にとって濃度阻害を引き起こす場合には、難分解性成分が分解除去されたGAC処理水をUASB流入部に循環させ、UASB及びGACに流入する阻害性有機物濃度(阻害性難分解性成分濃度)を嫌気微生物への阻害濃度以下とすることで、UASB及びGAC内部での嫌気微生物への阻害を回避できるF系列の処理方式が有効である。
【0035】
【表3】

【符号の説明】
【0036】
1:原液送液管、2:上向流嫌気性処理装置リアクター、3:邪魔板、4a〜4b:スラッジゾーン、5:GSS部、5a:気相部、5b:気泡部、6:発生ガス回収配管、7:水封槽、8:ガスメータ、9:処理水配管、10:消泡剤、11:ガスホルダー、12:散気管、13:配管、14a、14b:バルブ、21:原水、22:酸発酵槽、23:上向流嫌気性汚泥床処理装置(UASB)、24:上向流嫌気性流動床処理装置(GAC)、25:処理水、26:UASB処理水循環配管、27:GAC処理水循環配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃水を生物学的に嫌気性処理する方法において、前記有機性廃水を、グラニュール汚泥を保持した上向流嫌気性汚泥床法により該有機性廃水中の易分解性の成分を除去する第一の嫌気性処理工程と、該第一の工程からの流出液を、粒状又は粉状の活性炭を使用した嫌気性固定ろ床法又は流動床法により、該流出液中の難分解性成分を除去する第二の嫌気性処理工程とで処理することを特徴とする有機性廃水の嫌気性処理方法。
【請求項2】
前記第一及び/又は第二の嫌気性処理工程は、該それぞれの処理工程の流出液の一部を、該それぞれの処理工程に循環して処理することを特徴とする請求項1に記載の有機性廃水の嫌気性処理方法。
【請求項3】
前記第二の嫌気性処理工程の流出水の一部は、前記第一の嫌気性処理工程に循環することを特徴とする請求項1又は2に記載の有機性廃水の嫌気性処理方法。
【請求項4】
前記第二の嫌気性処理工程流出水の一部の第一の嫌気性処理工程への循環は、前記第一の嫌気性処理工程に流入する有機性廃水中の難分解性成分の濃度が嫌気性処理を阻害する濃度以下になるように、循環液量を調整して行うことを特徴とする請求項3に記載の有機性廃水の嫌気性処理方法。
【請求項5】
有機性廃水を生物学的に嫌気性処理する装置において、前記有機性廃水中の易分解性成分を除去するグラニュール汚泥を保持した上向流嫌気性汚泥床の第一の処理装置と、該処理装置からの流出液中の難分解性成分を除去する粒状又は粉状の活性炭を使用した嫌気性固定ろ床又は流動床の第二の処理装置とを有することを特徴とする有機性廃水の嫌気性処理装置。
【請求項6】
前記第一及び第二の処理装置は、該装置の本体側壁に、該側壁との角度が下向きに35度以下で、かつ各占有面積が該装置の横断面積の2分の1以上となる邪魔板を複数有し、該邪魔板により形成されるガス・液・固分離部を多段に有することを特徴とする請求項5に記載の有機性廃水の嫌気性処理装置。
【請求項7】
前記第一及び第二の処理装置には、該それぞれの処理装置からの流出液の一部を、該それぞれの処理装置に循環する循環路を有することを特徴とする請求項5又は6記載の有機性廃水の嫌気性処理装置。
【請求項8】
前記第二の処理装置には、該第二の処理装置からの流出液の一部を、前記第一の処理装置に循環する循環路を有することを特徴とする請求項5、6又は7記載の有機性廃水の嫌気性処理装置。
【請求項9】
前記第二の処理装置からの流出液の一部を前記第一の処理装置に循環する循環路には、前記第一の処理装置に流入する有機性廃水中の難分解性成分の濃度が、嫌気性処理を阻害する濃度以下になるように循環液量を調整する調整手段を有することを特徴とする請求項8に記載の有機性廃水の嫌気性処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−239929(P2012−239929A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109043(P2011−109043)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(591030651)水ing株式会社 (94)
【Fターム(参考)】