説明

有機材料の変質を診断する方法および有機エレクトロルミネッセンス素子の製造工程管理方法

【課題】特別な技術を要することなく、有機材料の変質を簡単に診断する方法を提供すること。
【解決手段】有機材料の変質を診断する方法であって、基準となる有機材料を熱重量測定により一定割合質量が減少する温度を調べる第1の材料測定工程と、変質の有無を知りたい有機材料を熱重量測定により一定割合質量が減少する温度を調べる第2の材料測定工程と、第1の材料測定工程で得られた結果と第2の材料測定工程で得られた結果とを比較する比較工程とを有することを特徴とする。このような有機材料の変質を診断する方法を有機EL素子の製造工程に適用することで、欠陥発生工程を容易に特定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機材料の変質を診断する方法および有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と表記する。)の製造工程管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、有機材料は、保管時や使用時に、熱、水分、酸素、紫外線などの作用で変質することが知られている。このような変質の生じた有機材料を用いて素子を製造した場合、それが原因で素子に欠陥が発生することがあり、素子の品質や性能を著しく低下させてしまうという問題がある。
【0003】
従来、有機材料の分析は、例えば、特許文献1に記載されるように、液体クロマトグラフィーにより行われていた。しかしながら、この分析方法では、有機材料を溶媒に溶解させる必要があるため材料ごとに適切な溶媒を選定しなければならず、さらにはカラム、溶離液などの選択や測定条件の設定が煩雑であるという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2005−149924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、特別な技術を要することなく、有機材料の変質を簡単に診断する方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、有機EL素子の製造における欠陥発生工程を容易に特定することのできる有機EL素子の製造工程管理方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは鋭意研究、開発を遂行した結果、上記のような課題を解決するためには、基準となる有機材料を熱重量測定により一定割合質量が減少する温度を調べる第1の材料測定工程と、変質の有無を知りたい有機材料を熱重量測定により一定割合質量が減少する温度を調べる第2の材料測定工程と、第1の材料測定工程で得られた結果と第2の材料測定工程で得られた結果とを比較する比較工程とを備えることが有効であることに想到し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明に係る有機材料の変質を分析する方法は、基準となる有機材料を熱重量測定により一定割合質量が減少する温度を調べる第1の材料測定工程と、変質の有無を知りたい有機材料を熱重量測定により一定割合質量が減少する温度を調べる第2の材料測定工程と、第1の材料測定工程で得られた結果と第2の材料測定工程で得られた結果とを比較する比較工程と備えることを特徴とする。ここで、「有機材料の変質」とは、保管時や使用時に、熱、水分、酸素、紫外線などの作用により本来有するべき有機材料の性質(特性)が変わってしまうことを意味する。
本発明では、有機材料が有機EL素子を構成する有機材料であることが好ましい。
また、本発明に係る有機材料からなる有機層を有する有機EL素子の製造工程管理方法は、有機材料の変質を診断する方法を用い、有機EL素子の製造工程で使用される有機材料の変質度合いを判断することにより欠陥発生工程を特定するようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、特別な技術を要することなく、有機材料の変質を簡単に診断することができる。また、有機EL素子の製造における欠陥発生工程を容易に特定することのできる有機EL素子の製造工程管理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の有機材料の変質を診断する方法について図面を参照しつつ説明する。
本発明に係る有機材料の変質を診断する方法は、図1のフローチャートの手順で行われる。まず、ステップS1の第1の材料測定工程で、基準となる有機材料について、熱重量測定により一定割合質量が減少する温度を調べる。ここで用いる基準となる有機材料は、熱や紫外線等の作用を極力受けていないものが好ましいが、デシケーター等の保管容器中に保存され、ある程度の品質が維持されているものであればよい。測定に必要となる試料重量は、0.1〜100mg程度である。
本発明における熱重量測定は、不活性ガス雰囲気下で、試料の温度を所定の昇温速度にて室温から加熱しながら、その試料の重量を温度の関数として測定する。熱重量測定装置としては、公知の熱重量測定装置を制限なく使用することができる。熱重量測定条件は、昇温速度は1〜30℃/分程度が適当である。不活性ガスとしては、ヘリウム、アルゴン、窒素など有機材料と化学反応を生じないガスを用いることが望ましい。
【0009】
次に、ステップS2の第2の材料測定工程において、上述した基準となる有機材料の熱重量測定と同様の測定条件(昇温速度、試料重量等)を用い、変質の有無を知りたい有機材料について、熱重量測定により一定割合質量が減少する温度を調べる。変質の有無を知りたい有機材料としては、例えば、デシケーター等の保管容器に保存されずに長時間経過し、酸素、水分、紫外線等の影響を受けている可能性が高いものや蒸着装置等を用いて加熱されたもの等が挙げられる。当然、使用者が変質の有無を知りたい材料であればどのような有機材料でも使用可能である。
【0010】
最後にステップS3の比較工程において、第1の材料測定工程で得られた結果と第2の材料測定工程で得られた結果とを比較する。図2は、熱重量測定の比較結果の一例であり、図中の実線は基準となる有機材料の測定結果である熱重量(TG)曲線であり、また、点線は変質の有無を知りたい有機材料の測定結果である熱重量(TG)曲線である。ここで、基準となる有機材料の熱重量曲線において一定割合重量が減少したときの温度を基準温度(A)、および変質の有無を知りたい有機材料の熱重量曲線において一定割合重量が減少したときの温度を診断対象温度(B)と定める。そして、診断対象温度(B)と基準温度(A)との差を基準温度(A)に対する百分率で表し(|A−B|×100/A)、この値を変質の有無を知りたい有機材料の変質度とする。この変質度が、予め定めた基準領域、例えば、3%未満の安全領域、3〜5%の警戒領域、5%を超える変質領域のいずれの領域にあるかによって有機材料の変質の度合いを判断することができる。即ち、変質の有無を知りたい有機材料の変質度が安全領域内であれば、当該有機材料は変質していないと判断でき、警戒領域であれば、当該有機材料は使用できるレベルにはあるが変質しかかっているため注意が必要であると判断でき、変質領域であれば、当該有機材料は変質しているため材料の交換が必要であると判断できるようになる。
【0011】
本発明の有機材料の変質を診断する方法では、試料を溶媒に溶解させる必要がないので、溶媒を選定する手間を省くことができる。また、液体クロマトグラフィーによる測定は非常に難しく熟練者でなければ測定することが困難であるが、本発明の有機材料の変質を診断する方法では、熱重量測定装置を使用しているため誰にでも簡単に測定することができる。
【0012】
なお、有機材料として有機EL素子を構成する有機材料を用いることもでき、このような材料としては、例えば、公知のホール注入層材料、ホール輸送層材料、発光層材料、電子輸送層材料および電子注入層材料を挙げることができる。
有機材料として有機EL素子を構成する有機材料を用いる場合、材料によっては、溶媒に溶け難い材料も存在する。液体クロマトグラフィーは、溶媒に溶解させなければ有機材料の変質を調べることができないが本発明では、溶媒に溶解させる必要がないために溶媒に溶け難い有機材料にも適応できる。
【0013】
また、本発明に係る有機EL素子の製造工程管理方法は、有機材料からなる有機層を有する有機EL素子の製造工程で使用される有機材料の熱重量測定を行い、その熱重量測定結果を、基準となる有機材料の熱重量測定結果と比較して、有機EL素子の製造工程で使用される有機材料の変質度合いを判断することにより欠陥発生工程を特定するようにしたことを特徴とするものである。
例えば、複数のカーボンるつぼを備えた有機EL素子製造装置に第1の電極が形成された基板を投入し、真空蒸着法により各種有機材料からなる複数の有機層をガラス基板上に順次形成する。その後、有機層上に真空蒸着法などを用いて透明材料からなる第2の電極を形成し、さらに透明絶縁層などで封止する。そして、最終工程で通電テストが行われる。通電テストでは、第1の電極と第2の電極との間に電界を発生させることにより、有機EL素子を発光させ、正常に発光するかどうかのテストを行う。
【0014】
このような有機EL素子の生産ラインにおいて、正常に発光しない不良品が発生した場合、原因を究明するために本発明に係る有機EL素子の製造工程管理方法を用いる。まず、有機EL素子の生産ラインを一旦停止させ、基準となる有機材料として複数のカーボンるつぼに充填されている各種有機材料と同種の未使用の有機材料を熱重量測定により一定割合質量が減少する温度を調べる第1の材料測定工程を行う。
【0015】
次に、変質の有無を知りたい有機材料として複数のカーボンるつぼに充填されている各種有機材料を熱重量測定により一定割合質量が減少する温度を調べる第2の材料測定工程を行う。
【0016】
第1の材料測定工程で得られた結果と、第2の材料測定工程で得られた結果とをそれぞれ比較することによって複数のカーボンるつぼに充填されている各種有機材料のうち変質度が一定の値を越えている有機材料があれば、その有機材料が不良の原因であると推定することができる。
すなわち、上述した有機材料の変質を診断する方法を有機EL素子の製造工程に適用することで、有機EL素子の製造工程で使用される有機材料、例えば、真空蒸着装置のるつぼに充填された有機材料の変質度合いを知ることができる。そのため、有機EL素子の品質や性能を高いレベルで管理することができるうえに、製造された有機EL素子に色度不良や寿命が短い等の欠陥が発生した場合には、欠陥を発生させる原因となった工程を簡単に突き止めることができる。
なお、第1の材料測定工程は、有機材料の変質の診断を行う際に常に行う必要はなく、例えば、予め基準となる有機材料を一定の測定条件(昇温速度、試料重量等)で測定し、その熱重量(TG)特性を記録しておけばよい。変質の有無を知りたい有機材料を当該測定条件と同じ条件で測定し、記録してある基準となる有機材料の熱重量(TG)特性と、変質の有無を知りたい有機材料の熱重量(TG)特性とを比較するようにすれば第1の材料測定工程を常に行う必要がなくなる。しかし、一度は基準となる有機材料を一定の測定条件(昇温速度、試料重量等)で測定する必要がある。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、それらは例示であって、本発明を限定するものではない。
【0018】
一方の面上に、陽極(膜厚150nmのITOの層)が形成された透明なガラス製の基板を用意し、洗浄工程において基板洗浄を行った。洗浄工程では、アルカリ洗浄、純水洗浄を順次行い、乾燥させた後に、紫外線オゾン洗浄を行った。
紫外線オゾン洗浄を行った基板の陽極上に真空蒸着装置(カーボンるつぼ、蒸着速度0.1nm/s、真空度約5.0×10−5Pa)により、TPTEを蒸着して膜厚20nmの層を形成し、正孔輸送層とした。
【0019】
この正孔輸送層上に、赤色発光層としての第1発光層と、青色発光層としての第2発光層と、緑色発光層としての第3発光層とを順次積層し、有機発光層を形成した。
赤色発光層としての第1発光層は、真空蒸着装置(カーボンるつぼ、蒸着速度0.1nm/s、真空度約5.0×10−5Pa)により、TPTEをホストとし、DCJTをドーパントとし膜厚5nmに形成した。DCJTはTPTEに対して0.5wt%になるように含有されている。
第1発光層上に、真空蒸着装置(カーボンるつぼ、蒸着速度0.1nm/s、真空度約5.0×10−5Pa)により、DPVBiをホストとし、BCzVBiをドーパントとした青色発光層としての第2の発光層を膜厚30nmに形成した。BCzVBiはDPVBiに対して5.0wt%になるように含有されている。
第2発光層上に、真空蒸着装置(カーボンるつぼ、蒸着速度0.1nm/s、真空度約5.0×10−5Pa)によりAlqをホストとし、C545T(イーストマン−コダック社の商品名)をドーパントとした緑色発光層としての第3発光層を膜厚20nmに形成した。C545TはAlqに対して1.0wt%になるように含有されている。
【0020】
第3発光層上に、真空蒸着装置(カーボンるつぼ、蒸着速度0.1nm/s、真空度約5.0×10−5Pa)により、膜厚0.5nmのフッ化リチウム(LiF)層からなる電子注入層を形成した。
電子注入層上に、真空蒸着装置(タングステンボート、蒸着速度0.1nm/s、真空度約5.0×10−5Pa)により、膜厚150nmのアルミニウム(Al)層からなる陰極を形成した。
陰極より外側には、缶封止による保護部を形成した。
【0021】
このように形成した有機EL素子の陽極と陰極とに直流電圧を印加することによって、有機EL素子を発光させ、正常に発光するかどうかのテストを行った。
その結果、有機EL素子の発光色が目的とする白色ではなく、こげ茶色に発光していた。そこで、原因を究明するため生産ラインを一旦停止し、有機EL素子を構成する有機材料であるTPTE、DCJT、DPVBi、BCzVBi、Alq、C545Tのそれぞれの基準となる有機材料を熱重量測定により一定割合質量が減少する温度を調べる第1の材料測定工程を行った。
その後、カーボンるつぼに充填されている有機材料であるTPTE、DCJT、DPVBi、BCzVBi、Alq、C545Tのそれぞれを熱重量測定により一定割合質量が減少する温度を調べる第2の材料測定工程を行った。
第1の材料測定工程で得られた結果と、第2の材料測定工程で得られた結果とを比較する比較工程を行った結果、DCJT、DPVBi、BCzVBi、Alq、C545Tの変質度が3%未満であったのに対して、TPTEの変質度が5%を越えており、変質していることが明らかであった。TPTEを未使用のものと交換して、再度同様に有機EL素子を製造した。陽極と陰極に直流電圧を印加すると、設計通りの白色発光が得られた。従って、発光色の不具合の原因はTPTEの変質であるということが特定できた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る有機材料の変質を診断する方法のフローチャートである。
【図2】本発明に係る有機材料の変質を診断する方法における有機材料の熱重量測定結果の一例である。
【符号の説明】
【0023】
S1 第1の材料測定工程、S2 第2の材料測定工程、S3 比較工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機材料の変質を診断する方法であって、
基準となる前記有機材料を熱重量測定により一定割合質量が減少する温度を調べる第1の材料測定工程と、
変質の有無を知りたい前記有機材料を熱重量測定により一定割合質量が減少する温度を調べる第2の材料測定工程と、
前記第1の材料測定工程で得られた結果と前記第2の材料測定工程で得られた結果とを比較する比較工程と、
を有することを特徴とする有機材料の変質を診断する方法。
【請求項2】
前記有機材料が、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する有機材料であることを特徴とする請求項1に記載の有機材料の変質を診断する方法。
【請求項3】
有機材料からなる有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造工程を管理するための方法であって、
請求項2に記載の有機材料の変質を診断する方法を用い、前記有機エレクトロルミネッセンス素子の製造工程で使用される有機材料の変質度合いを判断することにより欠陥発生工程を特定するようにしたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造工程管理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−78452(P2007−78452A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−265244(P2005−265244)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】