説明

有機溶剤含有ガス処理システム

【課題】有機溶剤含有ガス処理システムにおいて、被処理ガス中に含まれる高沸点物質を除去する前処理装置の交換が不要であるシステムを提供する。
【解決手段】被処理ガスである有機溶剤含有ガス17に含まれる高沸点物質を前処理装置16により吸着除去した後、被処理ガス中の有機溶剤を溶剤濃縮装置14にて吸着し、吸着処理が完了した後に加熱ガスを前記溶剤濃縮装置に導入して有機溶剤を脱着させ、この濃縮・脱着された有機溶剤を含有するガス20を燃焼装置15に導入して酸化分解する有機溶剤含有ガス処理システムにおいて、前記燃焼装置の排熱を利用して加熱したガスにより前記前処理装置に使用される吸着材を再生する、有機溶剤含有ガス処理システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低濃度の有機溶剤含有ガスを連続的に吸着と脱着を行い処理する濃縮装置を使用し、低濃度の有機溶剤含有ガスを小風量の高濃度の有機溶剤含有ガスに濃縮して、その濃縮された高濃度の有機溶剤含有ガスを燃焼装置により酸化分解処理を行うシステムにおいて、有機溶剤含有ガス中に高沸点物質が含まれている場合に、濃縮装置の吸着素子の劣化を防止するため、高沸点物質を除去する目的で濃縮装置の前段に前処理装置を設置し、その前処理装置を燃焼装置の排熱を利用して再生するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機溶剤含有ガスを濃縮し、その濃縮した有機溶剤含有ガスを酸化分解処理するシステムとして、低濃度の有機溶剤含有ガスをゼオライトを含有したハニカム状吸着素子にて吸着除去し、一方で吸着した有機溶剤含有ガスを小風量の加熱空気にて脱着することにより濃縮し、その濃縮した有機溶剤含有ガスを触媒燃焼装置等で酸化分解処理するシステムが開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
このシステムでは、吸着した有機溶剤含有ガスを脱着する際、通常80〜250℃の加熱空気を使用するが、有機溶剤含有ガス中に高沸点物質が含まれていると、吸着素子から十分に脱着させることができず、吸着素子を劣化させるという問題点があった。特に沸点が200℃を超える高沸点物質においては、著しく吸着素子が劣化してしまった。
【0004】
かかる吸着素子の劣化問題を解消すべく、前処理装置を濃縮装置の前段に設置するという発明がなされた。しかし、前処理装置に使用する吸着材を定期的に交換しなければならないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−100187号公報
【特許文献2】特開2003−10626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる事情に対して、有機溶剤含有ガスの中に含まれる高沸点物質を、前処理装置を溶剤濃縮装置の前段に設置することにより、高沸点物質を除去し、さらに、前処理装置を燃焼装置の排熱を利用し再生させることで、現地で再生が可能となり、前処理装置の交換が不要である有機溶剤含有ガス処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1.下記(1)と(2)と(3)を備え、(1)の前処理装置に使用する吸着材を加熱ガスにより再生することを特徴とする有機溶剤含有ガス処理システム。
(1)有機溶剤を含有するガスに含まれる高沸点物質を吸着材により除去する前処理装置。
(2)前処理装置にて処理された有機溶剤を含有するガスを、吸着材からなる吸着素子で吸着処理し、該吸着素子における吸着処理が完了した後に、吸着素子へ加熱ガスを導入し、吸着素子から有機溶剤を脱着することにより、吸着素子導入前より高濃度の有機溶剤を含有するガスを排出することを連続的に行なう溶剤濃縮装置。
(3)溶剤濃縮装置から排出された有機溶剤を含有するガスを酸化分解処理する燃焼装置。
【0008】
2.前処理装置に使用される吸着材を再生する加熱ガスに、燃焼装置からの排ガスを利用する上記1に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【0009】
3.前処理装置に使用される吸着材を再生する加熱ガスの加熱に、燃焼装置からの排熱を利用する上記1に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【0010】
4.前処理装置に使用される吸着材が無機吸着材である上記1記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【0011】
5.無機吸着材がゼオライト、シリカゲル、活性アルミナである上記4記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【0012】
6.前処理装置に使用される吸着材を、温度が250℃以上の加熱ガスで再生する上記1〜3のいずれかに記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【0013】
7.溶剤濃縮装置に使用される脱着用加熱ガスの温度が、80〜250℃である上記1〜6のいずれかに記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【発明の効果】
【0014】
本発明の有機溶剤含有ガス処理システムは、溶剤濃縮装置の前段に前処理装置を設置し、有機溶剤含有ガスの中に含まれる高沸点物質を除去することにより、溶剤濃縮装置の吸着素子の劣化防止が可能であり、さらに該前処理装置に使用される吸着材を燃焼装置からの排ガスを利用して再生させることにより、該前処理装置に使用される吸着材の交換を不要とすることができるため、ランニングコストを大幅に低減することが可能なシステムである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一般的な有機溶剤含有ガスの溶剤濃縮装置を示した説明図である。
【図2】一般的な有機溶剤含有ガス処理システムを示した説明図である。
【図3】本発明の有機溶剤含有ガス処理システムの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細する。
本発明者は、有機溶剤含有ガス中に高沸点物質が存在する場合において、溶剤濃縮装置を用いて該有機溶剤含有ガスを濃縮し、燃焼装置によって処理を行う際に、該溶剤濃縮装置の前段部に該高沸点物質の処理を行う前処理装置を設置し、該前処理装置に使用される吸着材の劣化を該燃焼装置からの排ガス、または排熱により加熱した加熱ガスを導入することで再生させることに着目し、システムの鋭意検討を行った。
【0017】
図1は一般的な有機溶剤含有ガスの溶剤濃縮装置を示しており、1は溶剤濃縮装置であり、2の有機溶剤含有ガスを1へ導入し、有機溶剤を吸着処理することで3の清浄空気を外部に排出する。そして、4の脱着用加熱ガスを1へ導入することで吸着された有機溶剤を脱着する。その際、4の脱着用加熱ガスは2の有機溶剤含有ガスより通常低風量にて脱着を行うことで、濃縮されて高濃度となった濃縮有機溶剤含有ガス5を得る。
【0018】
図2は一般的な有機溶剤含有ガスの処理システムを示しており、6は溶剤濃縮装置であり、8の有機溶剤含有ガスを6へ導入し、有機溶剤を吸着処理することで9の清浄空気を外部に排出する。そして、10の脱着用加熱ガスを6へ導入することで吸着された有機溶剤を脱着する。その際、10の脱着用加熱ガスは8の有機溶剤含有ガスより通常低風量にて脱着を行うことで、濃縮されて高濃度となった濃縮有機溶剤含有ガス11を得る。7は燃焼装置を示しており、11の濃縮有機溶剤含有ガスを導入し、12の燃料を用いて11中の有機溶剤を燃焼させることで清浄空気13を得る。
【0019】
図3は本発明の有機溶剤含有ガスの処理システムを示しており、14は溶剤濃縮装置であり、17の有機溶剤含有ガスを前処理装置16へ導入し、該有機溶剤含有ガス中の高沸点物質を吸着除去した後、該溶剤濃縮装置14へ導入し、有機溶剤を吸着処理することで18の清浄空気を外部に排出する。そして、19の脱着用加熱ガスを14へ導入することで吸着された有機溶剤を脱着する。その際、19の脱着用加熱ガスは17の有機溶剤含有ガスより通常低風量にて脱着を行うことで、濃縮されて高濃度となった濃縮有機溶剤含有ガス20を得る。15は燃焼装置を示しており、20の濃縮有機溶剤含有ガスを導入し、21の燃料を用いて21中の有機溶剤を燃焼させることで清浄空気22を得る。該清浄空気22は燃焼装置からの排熱により高温となっているため、該清浄空気22を該前処理装置16へ導入することで、前処理装置に使用されている吸着材に吸着された高沸点物質を脱着し、該前処理装置16に使用されている吸着材を再生することができ、脱着された高沸点物質を含んだ高沸点物質含有排ガス23を排出する。
【0020】
本発明の溶剤濃縮装置14としては、吸着素子を充填した複数の吸着槽と、各吸着槽に対して有機溶剤含有ガスを供給する手段と、脱着用加熱ガスを供給する脱着手段とを設け、吸脱着処理を交互に切り替えるように構成された連続式吸脱着装置や円柱状又は円筒状に形成されたハニカム状吸着素子が吸着領域、再生領域を巡回し連続的に有機溶剤の吸脱着処理を行うように構成された連続式吸脱着装置等などが例示できるが、連続的に有機溶剤の吸脱着処理ができる装置であれば、特に限定されるものではない。
【0021】
本発明の溶剤濃縮装置14の吸着材としては、ゼオライト、活性炭、活性アルミナなど特に限定されるものではないが、中でもゼオライトが好ましい。ゼオライトは耐熱性に優れ、吸着速度が速く、低濃度の有機溶剤含有ガスの吸着に優れているからである。
【0022】
本発明の溶剤濃縮装置14に使用される脱着用加熱ガス4の温度は、80〜250℃であることが好ましい。温度が80℃未満では、十分な脱着ができないためであり、250℃を超えると、溶剤濃縮装置14の吸着素子が熱による劣化を起こす場合があるからである。
なお。脱着用加熱ガスとしては、空気や窒素等の不活性ガスなどが使用可能である。
【0023】
本発明の燃焼装置15としては、直接燃焼装置、触媒燃焼装置など特に限定されるものではないが、ライニングコストの観点から触媒燃焼装置が好ましい。
【0024】
本発明の前処理装置16としては、装置内に並べたハニカム状の吸着材に有機溶剤含有ガスを流す構造のものや、装置内に敷きつめた粒状の吸着材に有機溶剤含有ガスを流す構造のもの等があるが、特に限定されるものではない。
【0025】
本発明の前処理装置16に使用する吸着材は、無機吸着材が好ましい。好ましい無機吸着材は、ゼオライト、シリカゲル、活性アルミナ等である。
【0026】
本発明の有機溶剤含有ガス処理システムは、有機溶剤含有ガスを溶剤濃縮装置の吸着素子に接触させる前に、有機溶剤含有ガスの中の高沸点物質を除去する前処理装置に接触させることが必要である。かような高沸点物質が、溶剤濃縮装置の吸着素子の著しい性能低下に繋がるからである。本発明でいう高沸点物質とは、沸点が170℃以上のものである。特に沸点が200℃以上の高沸点物質においては、その性能低下が著しい。なお、沸点の上限は特に限定されないが、通常は300℃以下である。
【0027】
本発明の前処理装置16は、燃焼装置15から排出される加熱されたガス(清浄空気)を導入する、あるいは燃焼装置15の排熱を使用し加熱したガスを導入することで、使用されている吸着材を定期的に再生させる手段を有する。
【0028】
かような前処理装置16に使用される吸着材の再生に用いる加熱ガスの温度は、250℃以上であることが好ましい。温度が250℃未満であると、前処理装置を用いて除去する高沸点物質を効率的に除去することができないためである。上限は特に限定されないが、現実的には500℃以下である。
【0029】
本発明の前処理装置16へ導入し、脱着された高沸点物質を含んだ高沸点物質含有排ガス23は、もう一度燃焼装置15へ戻して高沸点物質を燃焼しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の有機溶剤含有ガス処理システムは、溶剤濃縮装置の前段に前処理装置を設置し、有機溶剤含有ガスの中に含まれる高沸点物質を除去することにより、溶剤濃縮装置の吸着素子の劣化防止が可能であり、さらに該前処理装置に使用される吸着材を燃焼装置からの排ガスを利用して再生させることにより、該前処理装置に使用される吸着材の交換を不要とすることができるため、ランニングコストを大幅に低減することが可能であり、産業界に寄与すること大である。
【符号の説明】
【0031】
1:溶剤濃縮装置
2:有機溶剤含有ガス
3:清浄空気
4:脱着用加熱ガス
5:濃縮有機溶剤含有ガス
6:溶剤濃縮装置
7:燃焼装置
8:有機溶剤含有ガス
9:清浄空気
10:脱着用加熱ガス
11:濃縮有機溶剤含有ガス
12:燃料
13:清浄空気
14:溶剤濃縮装置
15:燃焼装置
16:前処理装置
17:有機溶剤含有ガス
18:清浄空気
19:脱着用加熱ガス
20:濃縮有機溶剤含有ガス
21:燃料
22:清浄空気
23:高沸点物質含有排ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)と(2)と(3)を備え、(1)の前処理装置に使用する吸着材を加熱ガスにより再生することを特徴とする有機溶剤含有ガス処理システム。
(1)有機溶剤を含有するガスに含まれる高沸点物質を吸着材により除去する前処理装置。
(2)前処理装置にて処理された有機溶剤を含有するガスを、吸着材からなる吸着素子で吸着処理し、該吸着素子における吸着処理が完了した後に、吸着素子へ加熱ガスを導入し、吸着素子から有機溶剤を脱着することにより、吸着素子導入前より高濃度の有機溶剤を含有するガスを排出することを連続的に行なう溶剤濃縮装置。
(3)溶剤濃縮装置から排出された有機溶剤を含有するガスを酸化分解処理する燃焼装置。
【請求項2】
前処理装置に使用される吸着材を再生する加熱ガスに、燃焼装置からの排ガスを利用する請求項1に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【請求項3】
前処理装置に使用される吸着材を再生する加熱ガスの加熱に、燃焼装置からの排熱を利用する請求項1に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【請求項4】
前処理装置に使用される吸着材が無機吸着材である請求項1記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【請求項5】
無機吸着材がゼオライト、シリカゲル、活性アルミナである請求項4記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【請求項6】
前処理装置に使用される吸着材を、温度が250℃以上の加熱ガスで再生する請求項1〜3のいずれかに記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【請求項7】
溶剤濃縮装置に使用される脱着用加熱ガスの温度が、80〜250℃である請求項1〜6のいずれかに記載の有機溶剤含有ガス処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−31160(P2011−31160A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179153(P2009−179153)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】